電離層観測衛星による研究成果


電離層観測衛星研究運用本部

  はじめに
 電離層観測衛星(ISS-b「うめ2号」)は,昭和53年2月 16日に宇宙開発事業団(NASDA)によって種子島宇宙セ ンタから打ち上げられた。衛星軌道は近地点高度約970q, 遠地点高度約1,220qのほぼ円軌道であり,軌道面の地 球赤道面に対する傾斜角は約70°,周期は約107分である。
 ISS-bは,昭和53年4月24日,周回番号900から定常 段階に移行し,当所による実利用のため,1日平均4パ スのデータが取得されており,1月31日現在,鹿島支所 による管制運用総数は850パスとなった。
 各ミッションの概要,これまでに得られた観測結果, データの利用,成果等について以下に述べる。
  電離層観測(TOP)
 短波通信の最高使用周波数を知る上で重要 な電離層データを得ることを目的とした電離 層観測(TOPミッション)は順調に続けられ ている。ただし,電離層臨界周波数値を衛星 上で論理判定させるためのTOP-Aが動作不 安定のため,TOP-Bにより得られるトップ サイド・イオノグラムから電離層臨界周波数 (f0F2)を地上の解析システムを用いて連日 読み取っている。定常段階の観測開始から昭 和54年1月末日までに,約600衛星周回の記 録観測が行われ,約55,000枚のイオノグラム 及びそれらから読み取った臨界周波数値が得 られている。
 3ないし4周回の観測データが毎日(衛星 機能維持のためのNASDAによる運用が行わ れる毎週火曜日を除く)得られており,図1に示すよう な臨界周波数の地球周回分布図が3ないし4枚作成され, 電離層の分布状態を示す即時情報が得られている。この 分布図は直ちに平磯支所にファクシミリ伝送され,他の 地球じょう乱情報と共に電波警報資科として利用されて いる。


図1 電離層臨界周波数回分布図
   (LST:地方時,LON:経度,DIP:地磁気伏角)

 TOP-Bデータから読み取られた臨界周波数(f0F2) は,主計算機システムのファイルに蓄積され,f0F2の 世界分布解析により世界分布図が作成されて,長期及 び短期の電波予報資料として利用される。図2は昭和53 年8月11日〜12月12日の4か月間に観測されたf0F2デ ータの中で,世界時の0時±1時の間に得られた約2,500 個の観測データを用いて世界分布解析を行い,得られた 電離層世界分布図を示したものである。 上記期間の観測データを用いて,世界時 0時から23時までの1時間毎の電離層世 界分布図が既に得られており,分布図集 の出版が進められている。人工衛星観測 では,従来地上観測の行われなかった海 洋等の地域についてのデータも得られる ので意義は大きく,衛星データを用いた 電離層世界分布図としては世界で最初の ものが得られたわけで,ISS-bの主要な 成果の一つである。電離層の分布状態は 季節や太陽活動度によって変化するので, 衛星観測が長期間続けられることが望ま れる。


図2 電離層臨界周波数世界分布図(UT=00±1H)
   (1978年8月〜9月の平均)

 地上対地上の電離層伝搬にとってだけ でなく,地上対宇宙の伝搬における振幅 及び位相変動(フエーディングまたはシ ンチレーション)を起こす原因となる電 子密度のゆらぎ(不規則分布)の存在を示 すスプレッド・エコーがイオノグラムに現われることがあ る。TOP-Bのイオノグラム・データからスプレッド・エ コーを計算機処理で判定し,その世界分布図も作成して いる。スプレッド・エコーの発生率の高い地域が高緯度地 方と磁気赤道付近に見られる。
 TOP-Bデータには電波雑音スペクトルのデータが含 まれ,その中には太陽から放射される電波バーストも観 測されており,地上からの混信電波に関する情報も得ら れている。
  短波回線予報(TOPデータの利用)
 前述のようにTOPデータから作成されたf0F2の世界 分布図は,或る太陽活動度の或る季節における平均的な 分布を表わす。従っでこのような分布図は,通信回線の 長期的予報には有効であっても,電波伝搬の現況をとら え,また近い将来を予報するための基礎資料としては適 していない。一方,周回分布図は,電波警報のようなじ ょう乱予報には有効であっても,特定の短波通信回線の 伝搬状況を予報しようとする時は,必ずしも適切な資料 となるとは限らない。
 そこで実用衛星としてのISS-bの利用をより高めるた めに1週間程度のスケールで短波通信の概況を予測する, いわゆる週間予報をかねてから計画してきた。目下, TOPデータからのf0F2をもとにして作成したこの週間 予報と通信回線の伝搬データとを比較してその有効性を 検討している段階ではあるが,ここに週間予報のあらま しを紹介する。
 ISS-bの週間運用は,6日間で計24パスの観測を行い, 1日は衛星状態のチェックにあてている。従って週間予 報はこの24パスの観測データをもとにして行う。 ISS-bの軌道面が赤道を横切る地方時は,6日間で約1時間 しか変らないので,このデータをもとに作ったf0F2の 分布図は一定地方時における6日間の平均的状態をあら わすと見なすことができる。この分布図が太陽活動及び 季節に依存するような長周期の平均状態からどの位はず れているかをCCIRによる分布地図を基準として比較す る。すなわち観測値とCCIR値との比をとりその比が1.2 をこえる地域をH,0.8より小さい地域をLとして世界地 図上に示したのが図3である。この図の見方を端的に説 明すると,図上に通信回線の大円を描いた時,反射点が Hに含まれればMUFは高めに,Lに含まれれば低めに推 移することを意味する。


図3 電離層特性値週間分布図

 今後改良を重ねてゆく予定ではあるが,今までこの週 間予報と平磯支所で測定している7回線のデータとを比 較したところ良好な結果が得られている。
 長期間にわたってこの週間予報を行うことはまた ISS-bの目的の一つであるCCIR地図の改善に役立つもので ある。
  電波雑音観測(RAN)
 RANのミッションは,短波帯の主雑音源である雷活動 度の世界分布図を作成すること及び電離層上側の衛星軌 道高度における電磁環境を汎世界的に調べることである。
 観測装置は,地上からの混信を避けるため,受信周波 数を2.5,5,10,25MHzの標準電波のガードバンド 内に設定した4台の狭帯域,広動作範囲の受信機で構成 され,出力形式は雑音信号の平均強度(アナログ出力)と, それを15又は20dB上まわる衝撃性出力の頻度(デジタル 出力)の2つがある。図4はRANで取得されたデータの 1観測分(24秒)をチャンネル(周波数)順に表示した例で, 横軸目盛101近くに見られるアナログ値(点線)およびデ ジタル値(×印)の共に増加しているところが雷放電によ るものである。CH1は電離層の遮蔽効果のために受信 されていない。


図4 電波雑音観測記録例
(CH1:2.497MHz, CH2:4.997MHz, CH3:9.997MHz, CH4:24.994MHz)

 このようなRANデータを電子計算機にかけ,予め定 めた判定基準により,雷放電,太陽電波,宇宙雑音及び 混信に分類し,統計処理を行う。


図5 雷放電発生率世界分布図
   (1978年4〜6月,LT=12〜24時)

 図5は昭和53年の4月中旬から約2か月間に得られた データを基に作成した雷放電発生率の世界分布図(地方 時の12〜24時の範囲)で,衛星観測によるものとしては 世界で初めてのものである。図から雷の発生が東南アジ アなどの低緯度付近に多いことがわかる。このような分 布図を四季にわたり,時間帯をかえて作成し,通信回線 設計の基礎資料を作るべく研究を進めている。
 通信系に影響を及ぼす空電は,雷放電から直接到達す るものと,遠方から電離層を伝搬して到達する電波の合 成波である。雷放電の持つ平均的なスペクトルは知られ ているので,ISSによる汎世界的な雷放電発生率がわか れば,伝搬状態を考慮して任意の地点における空電強度 が求まるはずである。
 CCIRの空電強度の世界分布図(Report 322,1963)は, 地球上のわずか16地点で約4年間測定して得られたデー タをもとに作られたものであるので,ISS-bのような衛 星利用の観測に比べると粗い分布図と言わざるを得ない。 RANのデータ解析が進めば,より精度の高い空電分布図 が得られるであろう。
 RANの特徴の一つは,地球外の電磁放射の観測ができ ることであり,電離層の遮蔽効果のため地上では観測さ れないHF帯の太陽電波及び宇宙雑音がわかるので,地上 観測の太陽電波データとの比較研究を行い,これらの電 磁放射機構の研究からさらに電波警報への利用を検討し ている。
 またRANでは電離層の臨界周波数よりも高い周波数の 地上無線局からの電波も受信される。そのため特定の周 波数ではあるが,無線局の運用状況の世界分布がわかる ことになる。これまでのRANデータの解析の過程におい て,春季を代表する5月の,4周波 数の混信状況を示す世界分布図を作 成したところ,空電雑音分布を求め るというRAN本来の使命にとっては 好ましくない地上からの混信も,活 用の仕方によっては非常に有効な情 報を提供してくれることがわかった。 このようにRANデータの利用によっ て,地上無線局の設計,運用に重要 な空電のみならず,衛星高度におけ る電磁環境も把握できるので,この 成果を更に発展させ,新しい衛星利 用の道を開くことも考えている。
  プラズマ直接測定(RPT-PIC)
 RPT及びPICの2つのミッション はともに衛星近傍のプラズマを測定 対象としている。RPTは球形プロー ブを用いて電子の温度・密度及びイ オンの温度・密度などを求めるもの であり,PICはベネット型質量分析 計をセンサとして正イオンの組成を 分析するものである。ISS-bによる 典型的な観測例を図6及び図7に示 す。


図6 RPT観測記録例(上段低感度,下段高感度)


図7 PIC観測例(上段センサ1,下段センサ2:左4枚低質量範囲,右4 枚高質量範囲)

RPTの観測は1シーケンス毎に 測定電流感度を低・高交互に切り換 えて行われており,128秒毎に図6 (上段は低感度,下段は高感度)のよ うな観測データが得られる。各グラ フの横軸はプローブに印加する直流 電圧で,縦軸は左から順に電子直流 電流,イオン直流電流,イオン高周 波電流及びイオン第2高調波電流を 示している。これらのグラフをラン グミュア法に従って解析することに より,上に述べたプラズマのパラメータを決定すること ができる。解析はかなり熟練を要する面もあり,主計算 機に直結したライトペン付グラフィックディスプレイ装 置を用いて会話形式で進められる。図7のPICのデータ は64秒の1観測シーケンス中の8秒間に得られたもので, 衛星が地球を一周する間にこのようなデータが約100枚 得られる。各グラフの横軸はイオンの質量数に比例し, 左半分の低質量範囲図では0〜4.5AMU(原子質量単位) 右半分の高質量範囲図では0〜24AMUに対応する。従っ て前者ではH+,He+などが,後者ではN+,O+などが測 定対象となる。縦軸はイオンの計数値を示し,各イオン のピーク値がそのイオンの密度に比例する。図7の上段 は衛星の上側面の中心にとりつけられているセンサ(S1) から,下段はその反対側にとり付けられているセンサ (S2)からそれぞれ得られたものである。センサが衛星の 進行方向に対してかげ(ウェーグ)の中に入ると精度の高 い観測を行うことができなくなる。2個のセンサを備え ている理由もこの影響を除くためである。図7の場合, 衛星の速度ベクトルとスピン軸との角度が約120度でS1 がウェークに入っている。この図からも示唆されるよう にO+のような質量数の大きいイオンがウェークの影響 を強く受ける。
 ISS-bのデータの質はRPTについては1号機の場合と ほぼ同様であるが,PICについては簡単な回路上の改良 を行った結果,大幅な改善が見られる。このことは図7 からも推察して頂けるものと思う。


図8 プロトン世界分布図(地磁気緯度−経度座標)

 以上示した観測データをもとに解析を進めてゆくわけ であるが,その1例としてここでは先づISSの全ミッシ ョンに共通のテーマである世界分布図の作成について述 べてみたい。図8は地方時を一定(6〜18時)に保った時 の地磁気緯度−経度平面でプロトン(H+)がどのように 分布するかを,密度の対数の等高線で示したものである。 用いたデータは定常運用が始まった直後,昭和53年4月 15日〜6月15日の2か月間に及ぶ約150周回分のもので あり,これらを緯度:5°,経度:15°,地方時:3時間 のセルに分類して積算平均したものである。積算に当た っては地磁気活動度が高い日のデータは除外してある。 この分布図の作成時点ではまだデータの蓄積が少なく, 地方時については12時間にわたるデータを用いているの で平均化され過ぎており,特徴がうすれているが,イオ ンの分布がかなりの経度変化,すなわち 地磁気による制御を受けていることが示 されている。この図8はいわゆるLTマ ップと称するもので,地球をある角度 (この場合太陽側)から眺めた時に地球の 回転と共に変化するイオン分布の様子を 示すものである。


図9 プロトン分布図(地磁気緯度−地方時座標)

 図9は全く同じデータを用いて地方時 −地磁気緯度平面内でのH+の密度の等 高線を描いたものである。この場合の経 度については全て積算平均化されており, 1つのセルには平均85個の観測点が含ま れている。この図では正午の赤道付近に 密度の山があり,北半球の夏にあたる季 節であるため,全体として北半球の密度 が高く,南半球で極に向って急激に密度 が落ち込んでいるという極く自然な結果 が現われている。また密度の低い南の高 緯度において,12時付近では赤道方向か ら割合密度の高い台地がのびてきている。 このことはまた推測の域を出ないが,太 陽風の直接の流入と関連づけて考えると 非常に興味深い。
 以上H+について2例の分布図を示し たが,He+やO+についても全く同様な ものを作ることができるし,またパラメ ータを変えると様々な観点から地球大気 の構造,変化を探ることができる。これ までイオン測定器を搭載した多くの衛星 が打ち上げられ,各種のデータが公表さ れているがISS-bによるこの種の世界分 布を求めた例は意外に少なく,今後季節 毎のイオンの分布図を作成して研究を進 めることは,極めて有意義であると考え ている。
  おわりに
 ISS-bは姿勢制御系を持たない周回型の衛星であるた め,交互に繰り返されろ低温・低電力期と全日照期にお ける観測中断が当初計画したミッション達成にとってか なりの制約となっている。しかしながらNASDAの協力 と関係職員の努力によって比較的順調に運用されてきて おり,搭載装置も正常に動作しているので,今後も従来 のペースでできるだけ多くのデータを取得すべく努力し ている。
 この計画の推進によって得られた成果は逐次公表し, 電波科学,行政に役立てると共に,これらの成果をふま えて将来の衛星計画にまで発展させたいと念願している。

(本部長 若井 登)




日米合同調査計画第1回専門家会議報告


村主 行康

  経 緯
 昭和53年7月17日米国航空宇宙局(NASA)の副長官ラ ブレース博士等が来日し,宇宙開発委員と会談を行った 際,NASA側から日米合同の調査計画の設定が提案され た。これは日米専門家会議を設立して宇宙分野における 日米共同研究の可能な分野の調査検討を行おうとするも のであり,その後フロッシュNASA長官と熊谷前科学技 術庁長官との会談に従って設立された。なおこの専門家 会議の結論は昭和54年7月頃までにとりまとめ,NASA 及び宇宙開発委員会に対し第1次報告書を提出し,その 後も必要に応じて調査検討を続けて行くこととされてい る。またその結論はその後各項目毎に両国間で協定を結 び実行に移されることになっている。この宇宙分野にお ける日米合同調査計画専門家会議に対処するための国内 対策会議がもたれたがその構成員は表1の11名である。 また各専門家の活動を支援するため作業グループを設け ることとし,当所よりは高橋耕三衛星管制研究室長及び 恩藤忠典宇宙空間研究室長の2名が出席した。
 なお対策会議の審議の進め方として,宇宙開発政策大 綱を乱さないようにする必要はあるが,しかし厳密にこ れにしばられては何も出来なくなることもあるので,そ の際は適宜融通性をもって対処してよいとの方針で調査 検討を進めた。
  第1国専門家会議
 第1回専門家会議は昭和53年12月12日より15日までの 4日間東京で開催された。日本側メンバーは表1の中で 海外出張中の平尾教授を除く10名と,それに通産省地質 調査所の松野久也環境地質部長を加えた11名,NASA側 は表2の10名であるが,その他日本側からは多数のオブ ザーバーが参加し,その中には当所の高橋耕三衛星管制 研究室長及び恩藤忠典宇宙空間研究室長のほか古浜洋治 電波気象研究室長及び鹿島支所の川尻矗大第三宇宙通信 研究室長の4名が含まれていた。
 12日は先づ下邨代表より歓迎の辞及びメンバーの紹介 があり,ついでカリオ代表よりも挨拶の後メンバーの紹 介があった。会議は下邨代表が議長となりカリオ代表が 副議長となって進めることとし議事日程の確認の後, NASA及び日本の宇宙開発計画の説明及び予算体系の説明 が行われた。午後はNASAの国際協力のガイドラインに ついて説明があり,これに対し日本側より特許権に関し て質問がなされ,結局特許権については問題が生じた時 に考慮することになった。そのあと科学及び応用の分野 に分かれて討議した。13日は応用分野が更に3つのス プリンター・グループに分かれて両国提案項目を個別に 討議した。14日は筑波宇宙センターの見学及び討議が行 われ,また最終日の15日には,それまでに準備したコミ ュニケ及び討議概要の報告書案について審議したが時間 が足りなくなり,予定時間をかなり超過して終了した。


  当所提案項目の討議結果
   1 衛星による時刻同期に関する実験。 この計 画は米国NRL(Naval Research Laboratories)で行われ ており,NASAはNRLに連絡するから今後は当所とNRL との間で直接相談してやってほしいとのことになった。
   2 ジオダイナミクス。 当所ではVLBI (Very Long Base-line Interferometer,超長基線電波干渉計) 技術の開発をめざしており,54年度予算が内示されてい るものである。一方,日本の地球力学関係者は米側より 提案の可搬局による日本本土の観測に強い興味を示して おり,その参加の具体的計画については次回討議するこ ととなった。
   3 スペースラブ搭載マイクロ波リモート・センシ ング。 これは国内審議の段階でスペースラブ利用に関 する統一見解が未熟であることから,米側からの提案待 ちの形としたが,米側からは何の提案もなく,従って見 送られた。
   4 スペースラブのACPL(Atmospheric Cloud Physics Laboratories, 雲物理実験室)を用いたマイク ロ波散乱特性測定実験。 米側からACPLの利用の誘い はあったが当所の実験目的には小さくまた利用目的も適 していないので話題提供だけで終った。
   5 静止衛星によるプラズマポーズ観測。この 計画はOPEN(Origin of Plasmas in the Earth's Neighborhood, 地球周辺プラズマ起源)計画の一環として考え られることになりNASAはこれに必要な長さ400mの衛星 搭載アンテナについて検討することとなった。
   6 ISEE衛星計画への参加。 ISIS (International Satellite for Ionospheric Studies)に次ぐ計画とし てISEE(International Sun-Earth Explorers)計画に参 加したいとの日本提案については,日本より2月1日ま でにその参加の目的,必要なデータ等の詳細をNASAに 送ることとなった。
   7 太陽発電衛星計画。 これについては米国エ ネルギー省が担当しており,NASAにおいては現在のと ころ承認された計画がないとのことで将来問題とされた。
   8 国内通信衛星に関する情報交換。 日本は米 国のTDRSS(Tracking and Data Relay Satellite System) の情報と国内通信衛星の情報との交換を考えていた が,NASAはTDRSSについては従来発表している以外 の情報は何も提供できるものはないとのことで結局,双 方の国内衛星の情報交換をすることとなった。これにつ いては両国とも2月1日までに交換可能なデータのタイ プリストを提供し合い,次回討議することとなった。
   9 SAR(衛星利用捜索救助計画)。  これにつ いてはラブレース副長官が来日の際,非公式に例示した 関心事であったので日本側としても積極的に対応するこ ととし,NASDAはMOS(Marine Observational Satellite)-1 につき,電子航法研究所は米加仏三国の共同計 画方式,当所は周波数拡散型新方式について検討してい た。しかし討議の過程で最近ソ連がこの三国共同計画に 参加することになり,その際121.5MHzを用いる実験へ の参加を条件にしていることから,日本も少くともソ連 と同等以上の条件でなければ参加は認められないだろう との意見が示され,結局1月15日までに日本側の代替案 等をNASAに届くよう準備することになった。しかしそ の後関係機関で協議した結果,121.5MHzを用いる実験 は困難であること,406MHzでの周波数拡散型新方式に ついては検討していることを申し送った。
  むすび
 以上簡単に第1回専門家会議に関連する概要について 述べたが,今回の会議に対する科学技術庁宇宙国際課の 意欲は立派であり,次回の成果が期待される。第1回会 議は終ってもすぐ懸案事項の審議・資料提出があり,更 に次回は3月中旬〜下旬にワシントンで開催される予 定でその準備もあり,過去・現在・未来を含めこの会議 に対する作業は片手間では追いつかぬ状況である。さい わい所内には宇宙開発計画検討委員会の中に日米合同調 査計画対策小委員会ができ,国内対策会議の作業グルー プもあり,また関係各機関・部内各機関の御協力をいた だくことが出来,立派な成果をあげ得る体制作りが進ん でいるので,その趣旨に沿い日本のため国際協力の実を あげたい。
 最後ではありますが,今回の第1回会議に対し色々と 御協力をいただいた科学技術庁,文部省,東京大学宇宙 航空研究所,宇宙開発事業団,電子航法研究所,宇宙通 信開発課をはじめ所内の関係の皆様方に厚く御礼申し上 げます。

(電波研究所総合研究官)




第29回lAF会議に出席して


生島 広三郎,岡本 謙一

  はじめに
 第29回IAF(国際宇宙航空連盟)会議 (SSRth Congress of the International Astronautical Federation) は,昭和53年10月1日(日)から8日(日)の8日間,“アド リア海の真珠”と呼ばれている美しい市,ユーゴスラビ アのドブロブニク市(Dubrovnik)のHotel Libertasで開か れた。当所からは,生島及び岡本の2名が出席し,生島 がCS(実験用中容量静止通信衛星)とBS(実験用中型放 送衛星)の現状と将来計画(衛星研究部の塚本主任研究官 及び今井主任研究官の論文の代読)及びECS(実験用静止 通信衛星)計画についての論文の発表を,また岡本が衛 星搭載用電波リモート・センサによる降雨のリモート・ センシングについての論文の発表を行った。以下この会 議の模様を報告する。また生島は論文発表後,カナダの CRC(カナダ通信省通信センタ)を訪問したので,その 模様についても併せて報告する。


IAF会議会場(ドブロブニク市)

  第29画IAF会議の概要
 IAF会議は1950年に発足し,現在37か国の59非政府機 関で運営されており,我が国からは日本ロケット協会, 日本宇宙飛行協会,経団連宇宙開発推進会議がメンバー となっている。その活動範囲は広く,宇宙開発に関連し た工学,医学,法学等の国際的な情報交換,広報活動, 国際協力の場となっている。IAFは非政府機関により構 成されているが,国連宇宙平和利用委員会には正式なオ ブザーバーとして参加し,数多くの資料作成団体として の役割を果たしている。当所では第26回から毎年この会 議に出席しており,主に通信衛星分野の活動を紹介する と共に諸外国の宇宙開発の動向の調査を行って来た。今 回の大会には36か国から816名の参加があり,提出論文 数は342編であった。主な国別参加者数は,アメリカ189 名,ユーゴスラビア115名,フランス89名,西独79名, ソ連71名であり,その他の国は20名以下であった。共産 圏の中では最も自由化の進んだユーゴスラビアらしく自 由主義国からの参加者の多い会議であった。日本からは IAFの副会長である斎藤成文東大教授,第29回IAFのプ ログラム委員会の委員である野村民也東大教授,NASDA (宇宙開発事業団)の松浦理事長を始め,大学関係 6, NASDA 5,日本電気kk 1,日産自動車kk 1,当所 2 の計15名が参加した。今度の会議のテーマは 「Astronautics for Peace and Human Progress」であった。会議 の1日目は登録及び歓迎レセプションであり,実質的な 会議は2日目以降であった。セッションは46に分かれ, 2日目午前の開会式及びフォーラム以外は五つのセッシ ョンが並行して行われた。主なセッションは,通信衛星 (3セッション),宇宙航行力学(3セッション)及び二つ の大きなシンポジウム「Earth Exploration from Space」 (6セッション)及び「Systems for Space Exploration」 (6セッション)等であった。またこれらとは別に2日 目, 3日目及び5日目の夕刻にcurrent eventのセッシ ョンがあり,それぞれソ連によるサリュート6号,ESA (欧州宇宙機構)によるARIANEロケット及びSpacelab, そしてNASA(米国航空宇宙局)によるSpace Shuttle の報告があった。4日目の午後はセッションを休み半日 の観光旅行が行われたが,今回の会議ではtechnical tour に相当するものはなかった。今会議開催中に開かれた役 員会で,第30回大会をミュンヘンで1979年9月17日〜23 日に,また第31回大会を東京で1980年9月21日〜27日に 開催することが正式に決定された。セッションが並行し て開かれていたため,筆者達は通信衛星及び宇宙からの リモート・センシング関係の講演に焦点をしぼった。通 信衛星関係では,上記CS,BSについての発表と同じセ ッションで,他にINTELSATシステムとその将来計画, インドネシアのPalapaシステムとその拡張計画,ECS (European Communication Satellite)計画,ESAの海事 衛星計画,ウェスタンユニオンのWESTARシステム等 の発表が行われたが,いずれも実用システムとは言うも のの将来計画を述べたものであった。各発表に対する質 問は少なく,1〜2件程度であった。当所の発表に対し ては,CSのテレビ画像伝送実験の詳細,実用放送衛星 のチャンネルプランに関する質問があった。また「ユリ」 とはどんな意味かどの質問もあった。当所及びNASDA 共著のECSについての発表が行われたセッションでは, 他にカナダのCTS/Hermesの実験状況,イタリアのSIRIO を用いた12GHz帯での伝搬実験速報,ESAのOTS速 報及びARIANEロケットによるH-SAT打上げ計画, CNESによるSYMPHONIEシステムの応用,またアメリ カからは商用衛星によるデータ収集システム,COMSAR の19及び29GHzビーコン測定結果及び衛星を利用した 陸上移動無線実験の応用と問題点等の多くの発表が行わ れた。これらを総合すると各国の衛星計画には複数の国 または機関が共同して行っているものが多いことや,12 GHz帯にはかなりの実験計画があること,及びそれ以上 の周波数帯には幾分関心が高まりつつあることが印象と して残った。各国のNational Projectを総括した国連の 宇宙平和利用委員会議長のJankowitch氏の講演の中で宇 宙を平和的に利用する二つの柱があり,その一つが既に 実用段階に達した通信衛星システムであり,他の一つが リモート・センシング技術である。リモート・センシング技術に ついてはこれから実用に達するまでに多くの研究開発が 活発に行われるべきであるとの指摘があったように,今 大会ではリモート・センシングは重要な問題として取り 上げられた。上記の「Earth Exploration from Space」 のシンポジウムは,六つのセッションに分れて興味深い 論文が多く発表された。 岡本が発表したのはこの内の 「Weather and Climate」のセッションであり,議長は CNES副総裁のMorel博士であった。同セッションでは, CNESによるMeteosatの成果が自信を持って報告され ていたことが印象的であった。しかし同セッションの最 大の興味はNOAAから提出されたSEASAT-Aの初期的 な成果発表であった。特に合成開口レーダによる海面画 像,散乱計による海面風速の測定の例に関しては降雨の 影響がデータに現われており興味深かった。岡本の発表 に対して特に質問はなかったが,議長より衛星搭載用セ ンサを開発するために航空機実験を行うことは良い考え であること,良い成果を期待する等の激励の言葉をもら った。講演が終って大きな拍手をもらった時,これで義 務を果たすことができたと思い本当にうれしかった。他 に「Active and Passive Microwave Sensor」のセッシ ョンがあり,アメリカ,ESA,CNES,カナダのいずれ も合成開口レーダの開発と同レーダによる地表面及び海 面の観測を将来の最大の課題としているようであった。 今回のIAF会議中,国連より,IAF東京大会の前の週に 一週間程度でUN Workshop on Remote SensingをIAF 共催の形で主に東南アジア開発途上国を対象にして東京 で開催できるかどうかを日本側で検討するようにとの依 頼があった。このように宇宙からのリモート・センシン グの分野は,これからも増々その重要性が認識される分 野であることを思い,当所で関連するプロジェクトをど のように進めるべきかを考えることが会議中多くあっ た。
  CRC訪問の概要
 筆者の一人生島は,IAFでの発表が終わった翌日の10 月4日早朝にドブロブニグ市を発ち,CRC訪問のためカ ナダヘ向った。
 CRC(Communication Research Center)はカナダ通 信省に所属し,オタワ市の西部郊外に位置している。今 回訪問したのは,CRCの中の Space Technology & Applications Branchであり, ここのDirector GeneralはDr.B.C.Blevisである。 このBranchの中は,また幾つか に分かれており,今回はSCOPO(Space Communications Programme Office) を中心に訪問した。ここのOffice DifectorはDr.N.G.Daviesである。折から小嶋 弘研究官がCRC滞在中であったので,前もって連絡をと り,CRC側でもスケジュールを作って待っていてくれた。
 CRCでは,まずDr.Daviesに挨拶したあと, CTS Conference Roomで,当方で持参したカラースライドを 用いて約45分ばかり,鹿島支所やCS,BS,ISS等の関 連施設の説明を行った。日本の施設には感心したようで, 行って見たい等と言った人もいたが,またCS,BSはも う上がっているのかと問いた人もいた。このあとはCRC 側からCTS実験,CTS実験端局及びANIK‐B関係, CTS管制システム等の説明が行われた。
 昼食後はDr.Blevisと歓談した。彼はBSの伝搬と日 本での使い方に関心が高いようであった。そのあと Dr.NusplのCENSAR(Centralized Synchronization and Ranging) と呼ばれるTDMA方式の実験施設や,ISIS/CTS の管制室その他の地上局施設を見学させてもらった( ISISの管制室へ行ったとき,丁度パスがあり,コマンド ・トーンが聞こえたが,鹿島にいるような気がして大変 親近感を覚えた。見学後,再びDr.Daviesの部屋に行 き,しばらく話したが,彼は「今まで放送衛星関係の会 議をやっていた。近い内に放送衛星のことで日本へ行く ことになるかも知れない」と語っていた。
  あとがき
 筆者の一人の岡本にとっては最初の,しかも予期して いなかった海外出張であり,見聞きすることすべてが興 味深く,また会議の発表を通して啓発されることが多か った。この機会を与えて下さった関係各位に深く感謝す る次第です。なおリモート・センシング関係,通信衛星 関係の論文の別刷を20篇ほど,またIAF会期中に発刊さ れIAFの模様を伝える新聞(No.1〜No.6)を手に入れ て来たので興味を持たれる方はぜひ御利用下さい。

(鹿島支所長.衛星研究部電離層衛星研究室主任研究官)


短   信


「あやめ」ミッション達成ならず

 当初2月5日に予定されていた実験用静止通信衛星 (ECS)の打上げは,悪天候のため一日延期されたあと, 6日17時46分,宇宙開発事業団の種子島宇宙センタからN ロケット5号機によって行われた。国際標識番号は 「1979-009A」,愛称は郵政大臣により「あやめ」と命名され た。
 各段ロケットの燃焼及び飛行は正常で,姿勢制御及び 地上局からの電波誘導も順調に行われ,第3段固体ロケ ットの燃焼にひきつづき発射後約25分03秒に「あやめ」 と第3段の切り離しが行われたことが確認された。
 その後,2月9日11時32分にトランスファ軌道上の衛 星のアポジモータ点火が行われたところ,点火約10秒後 に衛星からの送信電波が受信不能となった。ECSの打 上げを担当する宇宙開発事業団は全力をあげて通信回線 の回復に努めているが効を奏せず,「あやめ」のミッショ ン達成は事実上不可能と思われる状況になった。



宇宙開発委員会懇談会へのISS-b成果報告

 電離層観測衛星(ISS-b「うめ2号」)は昭和53年2月16 日に打ち上げられて以来,順調に飛行を続けており,当 所による1日平均4周回の運用を通して電離圏に関する 数々の貴重なデータが得られている。また観測データの 解析も進み,電離層F層臨界周波数の世界分布,雷発生 率の世界分布,電離圏を構成するイオン及び電子の密度 及び温度の諸特性が次々と明らかになってきている。
 これらISS-bの成果は,一日も早く公表され,利用に 供されるべきであるが,その皮切りとして,1月24日に 宇宙開発委員会の懇談会に若井電離層観測衛星研究運用 本部長が成果報告を行った。報告は30分の限られた時 間であったが,各ミッションの成果を重点的に記載した 資料並びに1時間毎に世界中の電離層がどのように変化 してゆくかを色刷りで表わした図表を交えて説明が行わ れた。説明後約15分にわたり,宇宙開発委員から,地 上観測値及びCCIR地図とどの程度合うのか,HF(短波 帯)通信にはどう役立つか,衛星の機能特に1号機の不 具合の原因となった電源系の改造の結果はどうか,など の非常に専門的な質問が出された。これに対する若井本 部長の回答並びにそれに先立つ全般的な成果説明を通じ て,宇宙開発委員はじめ居合わせた関係の方々には,十 分にISS-bの成果が御理解頂けたものと思われる。
 更に翌1月25日には報道関係者にも上記資料の配布が 行われた。
 ISS-bの成果は,今後観測とデータの解析を進めなが ら,逐次発表してゆく予定であるが,電離層臨界周波数 の世界分布図は間もなく印刷され,関係機関等に配布さ れる予定である。



気象衛星センタと平磯支所間のデータ回線開通

 当所で行っている電波警報業務の改善を図るため,昨 年12月以来気象庁気象衛星センタと静止気象衛星「ひま わり」によって取得された宇宙環境モニタ(SEM)の観測 データ(太陽プロトン,アルファ粒子及び電子の各フラ ックス密度等)の利用等について覚書を交換し準備を進 めていたが,本年1月末伝送用ファックス設備も完成し, 去る2月1日より運用を開始することになった。
 これによって平磯支所には気象衛星センタから毎日上 記衛星観測データが伝送されることになり,今までの地 上観測データと併せて警報業務は一段と充実されること になる。

気象衛星センタでの画質確認