電離層観測衛星研究運用本部
はじめに
図1 電離層臨界周波数回分布図
(LST:地方時,LON:経度,DIP:地磁気伏角)
TOP-Bデータから読み取られた臨界周波数(f0F2)
は,主計算機システムのファイルに蓄積され,f0F2の
世界分布解析により世界分布図が作成されて,長期及
び短期の電波予報資料として利用される。図2は昭和53
年8月11日〜12月12日の4か月間に観測されたf0F2デ
ータの中で,世界時の0時±1時の間に得られた約2,500
個の観測データを用いて世界分布解析を行い,得られた
電離層世界分布図を示したものである。
上記期間の観測データを用いて,世界時
0時から23時までの1時間毎の電離層世
界分布図が既に得られており,分布図集
の出版が進められている。人工衛星観測
では,従来地上観測の行われなかった海
洋等の地域についてのデータも得られる
ので意義は大きく,衛星データを用いた
電離層世界分布図としては世界で最初の
ものが得られたわけで,ISS-bの主要な
成果の一つである。電離層の分布状態は
季節や太陽活動度によって変化するので,
衛星観測が長期間続けられることが望ま
れる。
図2 電離層臨界周波数世界分布図(UT=00±1H)
(1978年8月〜9月の平均)
地上対地上の電離層伝搬にとってだけ
でなく,地上対宇宙の伝搬における振幅
及び位相変動(フエーディングまたはシ
ンチレーション)を起こす原因となる電
子密度のゆらぎ(不規則分布)の存在を示
すスプレッド・エコーがイオノグラムに現われることがあ
る。TOP-Bのイオノグラム・データからスプレッド・エ
コーを計算機処理で判定し,その世界分布図も作成して
いる。スプレッド・エコーの発生率の高い地域が高緯度地
方と磁気赤道付近に見られる。
TOP-Bデータには電波雑音スペクトルのデータが含
まれ,その中には太陽から放射される電波バーストも観
測されており,地上からの混信電波に関する情報も得ら
れている。
短波回線予報(TOPデータの利用)
前述のようにTOPデータから作成されたf0F2の世界
分布図は,或る太陽活動度の或る季節における平均的な
分布を表わす。従っでこのような分布図は,通信回線の
長期的予報には有効であっても,電波伝搬の現況をとら
え,また近い将来を予報するための基礎資料としては適
していない。一方,周回分布図は,電波警報のようなじ
ょう乱予報には有効であっても,特定の短波通信回線の
伝搬状況を予報しようとする時は,必ずしも適切な資料
となるとは限らない。
そこで実用衛星としてのISS-bの利用をより高めるた
めに1週間程度のスケールで短波通信の概況を予測する,
いわゆる週間予報をかねてから計画してきた。目下,
TOPデータからのf0F2をもとにして作成したこの週間
予報と通信回線の伝搬データとを比較してその有効性を
検討している段階ではあるが,ここに週間予報のあらま
しを紹介する。
ISS-bの週間運用は,6日間で計24パスの観測を行い,
1日は衛星状態のチェックにあてている。従って週間予
報はこの24パスの観測データをもとにして行う。
ISS-bの軌道面が赤道を横切る地方時は,6日間で約1時間
しか変らないので,このデータをもとに作ったf0F2の
分布図は一定地方時における6日間の平均的状態をあら
わすと見なすことができる。この分布図が太陽活動及び
季節に依存するような長周期の平均状態からどの位はず
れているかをCCIRによる分布地図を基準として比較す
る。すなわち観測値とCCIR値との比をとりその比が1.2
をこえる地域をH,0.8より小さい地域をLとして世界地
図上に示したのが図3である。この図の見方を端的に説
明すると,図上に通信回線の大円を描いた時,反射点が
Hに含まれればMUFは高めに,Lに含まれれば低めに推
移することを意味する。
図3 電離層特性値週間分布図
今後改良を重ねてゆく予定ではあるが,今までこの週
間予報と平磯支所で測定している7回線のデータとを比
較したところ良好な結果が得られている。
長期間にわたってこの週間予報を行うことはまた
ISS-bの目的の一つであるCCIR地図の改善に役立つもので
ある。
電波雑音観測(RAN)
RANのミッションは,短波帯の主雑音源である雷活動
度の世界分布図を作成すること及び電離層上側の衛星軌
道高度における電磁環境を汎世界的に調べることである。
観測装置は,地上からの混信を避けるため,受信周波
数を2.5,5,10,25MHzの標準電波のガードバンド
内に設定した4台の狭帯域,広動作範囲の受信機で構成
され,出力形式は雑音信号の平均強度(アナログ出力)と,
それを15又は20dB上まわる衝撃性出力の頻度(デジタル
出力)の2つがある。図4はRANで取得されたデータの
1観測分(24秒)をチャンネル(周波数)順に表示した例で,
横軸目盛101近くに見られるアナログ値(点線)およびデ
ジタル値(×印)の共に増加しているところが雷放電によ
るものである。CH1は電離層の遮蔽効果のために受信
されていない。
図4 電波雑音観測記録例
(CH1:2.497MHz, CH2:4.997MHz, CH3:9.997MHz, CH4:24.994MHz)
このようなRANデータを電子計算機にかけ,予め定
めた判定基準により,雷放電,太陽電波,宇宙雑音及び
混信に分類し,統計処理を行う。
図5 雷放電発生率世界分布図
(1978年4〜6月,LT=12〜24時)
図5は昭和53年の4月中旬から約2か月間に得られた
データを基に作成した雷放電発生率の世界分布図(地方
時の12〜24時の範囲)で,衛星観測によるものとしては
世界で初めてのものである。図から雷の発生が東南アジ
アなどの低緯度付近に多いことがわかる。このような分
布図を四季にわたり,時間帯をかえて作成し,通信回線
設計の基礎資料を作るべく研究を進めている。
通信系に影響を及ぼす空電は,雷放電から直接到達す
るものと,遠方から電離層を伝搬して到達する電波の合
成波である。雷放電の持つ平均的なスペクトルは知られ
ているので,ISSによる汎世界的な雷放電発生率がわか
れば,伝搬状態を考慮して任意の地点における空電強度
が求まるはずである。
CCIRの空電強度の世界分布図(Report 322,1963)は,
地球上のわずか16地点で約4年間測定して得られたデー
タをもとに作られたものであるので,ISS-bのような衛
星利用の観測に比べると粗い分布図と言わざるを得ない。
RANのデータ解析が進めば,より精度の高い空電分布図
が得られるであろう。
RANの特徴の一つは,地球外の電磁放射の観測ができ
ることであり,電離層の遮蔽効果のため地上では観測さ
れないHF帯の太陽電波及び宇宙雑音がわかるので,地上
観測の太陽電波データとの比較研究を行い,これらの電
磁放射機構の研究からさらに電波警報への利用を検討し
ている。
またRANでは電離層の臨界周波数よりも高い周波数の
地上無線局からの電波も受信される。そのため特定の周
波数ではあるが,無線局の運用状況の世界分布がわかる
ことになる。これまでのRANデータの解析の過程におい
て,春季を代表する5月の,4周波
数の混信状況を示す世界分布図を作
成したところ,空電雑音分布を求め
るというRAN本来の使命にとっては
好ましくない地上からの混信も,活
用の仕方によっては非常に有効な情
報を提供してくれることがわかった。
このようにRANデータの利用によっ
て,地上無線局の設計,運用に重要
な空電のみならず,衛星高度におけ
る電磁環境も把握できるので,この
成果を更に発展させ,新しい衛星利
用の道を開くことも考えている。
プラズマ直接測定(RPT-PIC)
RPT及びPICの2つのミッション
はともに衛星近傍のプラズマを測定
対象としている。RPTは球形プロー
ブを用いて電子の温度・密度及びイ
オンの温度・密度などを求めるもの
であり,PICはベネット型質量分析
計をセンサとして正イオンの組成を
分析するものである。ISS-bによる
典型的な観測例を図6及び図7に示
す。
図6 RPT観測記録例(上段低感度,下段高感度)
図7 PIC観測例(上段センサ1,下段センサ2:左4枚低質量範囲,右4
枚高質量範囲)
RPTの観測は1シーケンス毎に
測定電流感度を低・高交互に切り換
えて行われており,128秒毎に図6
(上段は低感度,下段は高感度)のよ
うな観測データが得られる。各グラ
フの横軸はプローブに印加する直流
電圧で,縦軸は左から順に電子直流
電流,イオン直流電流,イオン高周
波電流及びイオン第2高調波電流を
示している。これらのグラフをラン
グミュア法に従って解析することに
より,上に述べたプラズマのパラメータを決定すること
ができる。解析はかなり熟練を要する面もあり,主計算
機に直結したライトペン付グラフィックディスプレイ装
置を用いて会話形式で進められる。図7のPICのデータ
は64秒の1観測シーケンス中の8秒間に得られたもので,
衛星が地球を一周する間にこのようなデータが約100枚
得られる。各グラフの横軸はイオンの質量数に比例し,
左半分の低質量範囲図では0〜4.5AMU(原子質量単位)
右半分の高質量範囲図では0〜24AMUに対応する。従っ
て前者ではH+,He+などが,後者ではN+,O+などが測
定対象となる。縦軸はイオンの計数値を示し,各イオン
のピーク値がそのイオンの密度に比例する。図7の上段
は衛星の上側面の中心にとりつけられているセンサ(S1)
から,下段はその反対側にとり付けられているセンサ
(S2)からそれぞれ得られたものである。センサが衛星の
進行方向に対してかげ(ウェーグ)の中に入ると精度の高
い観測を行うことができなくなる。2個のセンサを備え
ている理由もこの影響を除くためである。図7の場合,
衛星の速度ベクトルとスピン軸との角度が約120度でS1
がウェークに入っている。この図からも示唆されるよう
にO+のような質量数の大きいイオンがウェークの影響
を強く受ける。
ISS-bのデータの質はRPTについては1号機の場合と
ほぼ同様であるが,PICについては簡単な回路上の改良
を行った結果,大幅な改善が見られる。このことは図7
からも推察して頂けるものと思う。
図8 プロトン世界分布図(地磁気緯度−経度座標)
以上示した観測データをもとに解析を進めてゆくわけ
であるが,その1例としてここでは先づISSの全ミッシ
ョンに共通のテーマである世界分布図の作成について述
べてみたい。図8は地方時を一定(6〜18時)に保った時
の地磁気緯度−経度平面でプロトン(H+)がどのように
分布するかを,密度の対数の等高線で示したものである。
用いたデータは定常運用が始まった直後,昭和53年4月
15日〜6月15日の2か月間に及ぶ約150周回分のもので
あり,これらを緯度:5°,経度:15°,地方時:3時間
のセルに分類して積算平均したものである。積算に当た
っては地磁気活動度が高い日のデータは除外してある。
この分布図の作成時点ではまだデータの蓄積が少なく,
地方時については12時間にわたるデータを用いているの
で平均化され過ぎており,特徴がうすれているが,イオ
ンの分布がかなりの経度変化,すなわち
地磁気による制御を受けていることが示
されている。この図8はいわゆるLTマ
ップと称するもので,地球をある角度
(この場合太陽側)から眺めた時に地球の
回転と共に変化するイオン分布の様子を
示すものである。
図9 プロトン分布図(地磁気緯度−地方時座標)
図9は全く同じデータを用いて地方時
−地磁気緯度平面内でのH+の密度の等
高線を描いたものである。この場合の経
度については全て積算平均化されており,
1つのセルには平均85個の観測点が含ま
れている。この図では正午の赤道付近に
密度の山があり,北半球の夏にあたる季
節であるため,全体として北半球の密度
が高く,南半球で極に向って急激に密度
が落ち込んでいるという極く自然な結果
が現われている。また密度の低い南の高
緯度において,12時付近では赤道方向か
ら割合密度の高い台地がのびてきている。
このことはまた推測の域を出ないが,太
陽風の直接の流入と関連づけて考えると
非常に興味深い。
以上H+について2例の分布図を示し
たが,He+やO+についても全く同様な
ものを作ることができるし,またパラメ
ータを変えると様々な観点から地球大気
の構造,変化を探ることができる。これ
までイオン測定器を搭載した多くの衛星
が打ち上げられ,各種のデータが公表さ
れているがISS-bによるこの種の世界分
布を求めた例は意外に少なく,今後季節
毎のイオンの分布図を作成して研究を進
めることは,極めて有意義であると考え
ている。
おわりに
ISS-bは姿勢制御系を持たない周回型の衛星であるた
め,交互に繰り返されろ低温・低電力期と全日照期にお
ける観測中断が当初計画したミッション達成にとってか
なりの制約となっている。しかしながらNASDAの協力
と関係職員の努力によって比較的順調に運用されてきて
おり,搭載装置も正常に動作しているので,今後も従来
のペースでできるだけ多くのデータを取得すべく努力し
ている。
この計画の推進によって得られた成果は逐次公表し,
電波科学,行政に役立てると共に,これらの成果をふま
えて将来の衛星計画にまで発展させたいと念願している。
(本部長 若井 登)
村主 行康
経 緯
当所提案項目の討議結果
1 衛星による時刻同期に関する実験。 この計
画は米国NRL(Naval Research Laboratories)で行われ
ており,NASAはNRLに連絡するから今後は当所とNRL
との間で直接相談してやってほしいとのことになった。
2 ジオダイナミクス。 当所ではVLBI
(Very Long Base-line Interferometer,超長基線電波干渉計)
技術の開発をめざしており,54年度予算が内示されてい
るものである。一方,日本の地球力学関係者は米側より
提案の可搬局による日本本土の観測に強い興味を示して
おり,その参加の具体的計画については次回討議するこ
ととなった。
3 スペースラブ搭載マイクロ波リモート・センシ
ング。 これは国内審議の段階でスペースラブ利用に関
する統一見解が未熟であることから,米側からの提案待
ちの形としたが,米側からは何の提案もなく,従って見
送られた。
4 スペースラブのACPL(Atmospheric Cloud Physics Laboratories,
雲物理実験室)を用いたマイク
ロ波散乱特性測定実験。 米側からACPLの利用の誘い
はあったが当所の実験目的には小さくまた利用目的も適
していないので話題提供だけで終った。
5 静止衛星によるプラズマポーズ観測。この
計画はOPEN(Origin of Plasmas in the Earth's Neighborhood,
地球周辺プラズマ起源)計画の一環として考え
られることになりNASAはこれに必要な長さ400mの衛星
搭載アンテナについて検討することとなった。
6 ISEE衛星計画への参加。 ISIS
(International Satellite for Ionospheric Studies)に次ぐ計画とし
てISEE(International Sun-Earth Explorers)計画に参
加したいとの日本提案については,日本より2月1日ま
でにその参加の目的,必要なデータ等の詳細をNASAに
送ることとなった。
7 太陽発電衛星計画。 これについては米国エ
ネルギー省が担当しており,NASAにおいては現在のと
ころ承認された計画がないとのことで将来問題とされた。
8 国内通信衛星に関する情報交換。 日本は米
国のTDRSS(Tracking and Data Relay Satellite System)
の情報と国内通信衛星の情報との交換を考えていた
が,NASAはTDRSSについては従来発表している以外
の情報は何も提供できるものはないとのことで結局,双
方の国内衛星の情報交換をすることとなった。これにつ
いては両国とも2月1日までに交換可能なデータのタイ
プリストを提供し合い,次回討議することとなった。
9 SAR(衛星利用捜索救助計画)。 これにつ
いてはラブレース副長官が来日の際,非公式に例示した
関心事であったので日本側としても積極的に対応するこ
ととし,NASDAはMOS(Marine Observational Satellite)-1
につき,電子航法研究所は米加仏三国の共同計
画方式,当所は周波数拡散型新方式について検討してい
た。しかし討議の過程で最近ソ連がこの三国共同計画に
参加することになり,その際121.5MHzを用いる実験へ
の参加を条件にしていることから,日本も少くともソ連
と同等以上の条件でなければ参加は認められないだろう
との意見が示され,結局1月15日までに日本側の代替案
等をNASAに届くよう準備することになった。しかしそ
の後関係機関で協議した結果,121.5MHzを用いる実験
は困難であること,406MHzでの周波数拡散型新方式に
ついては検討していることを申し送った。
むすび
以上簡単に第1回専門家会議に関連する概要について
述べたが,今回の会議に対する科学技術庁宇宙国際課の
意欲は立派であり,次回の成果が期待される。第1回会
議は終ってもすぐ懸案事項の審議・資料提出があり,更
に次回は3月中旬〜下旬にワシントンで開催される予
定でその準備もあり,過去・現在・未来を含めこの会議
に対する作業は片手間では追いつかぬ状況である。さい
わい所内には宇宙開発計画検討委員会の中に日米合同調
査計画対策小委員会ができ,国内対策会議の作業グルー
プもあり,また関係各機関・部内各機関の御協力をいた
だくことが出来,立派な成果をあげ得る体制作りが進ん
でいるので,その趣旨に沿い日本のため国際協力の実を
あげたい。
最後ではありますが,今回の第1回会議に対し色々と
御協力をいただいた科学技術庁,文部省,東京大学宇宙
航空研究所,宇宙開発事業団,電子航法研究所,宇宙通
信開発課をはじめ所内の関係の皆様方に厚く御礼申し上
げます。
(電波研究所総合研究官)
生島 広三郎,岡本 謙一
はじめに
IAF会議会場(ドブロブニク市)
第29画IAF会議の概要
IAF会議は1950年に発足し,現在37か国の59非政府機
関で運営されており,我が国からは日本ロケット協会,
日本宇宙飛行協会,経団連宇宙開発推進会議がメンバー
となっている。その活動範囲は広く,宇宙開発に関連し
た工学,医学,法学等の国際的な情報交換,広報活動,
国際協力の場となっている。IAFは非政府機関により構
成されているが,国連宇宙平和利用委員会には正式なオ
ブザーバーとして参加し,数多くの資料作成団体として
の役割を果たしている。当所では第26回から毎年この会
議に出席しており,主に通信衛星分野の活動を紹介する
と共に諸外国の宇宙開発の動向の調査を行って来た。今
回の大会には36か国から816名の参加があり,提出論文
数は342編であった。主な国別参加者数は,アメリカ189
名,ユーゴスラビア115名,フランス89名,西独79名,
ソ連71名であり,その他の国は20名以下であった。共産
圏の中では最も自由化の進んだユーゴスラビアらしく自
由主義国からの参加者の多い会議であった。日本からは
IAFの副会長である斎藤成文東大教授,第29回IAFのプ
ログラム委員会の委員である野村民也東大教授,NASDA
(宇宙開発事業団)の松浦理事長を始め,大学関係 6,
NASDA 5,日本電気kk 1,日産自動車kk 1,当所 2
の計15名が参加した。今度の会議のテーマは
「Astronautics for Peace and Human Progress」であった。会議
の1日目は登録及び歓迎レセプションであり,実質的な
会議は2日目以降であった。セッションは46に分かれ,
2日目午前の開会式及びフォーラム以外は五つのセッシ
ョンが並行して行われた。主なセッションは,通信衛星
(3セッション),宇宙航行力学(3セッション)及び二つ
の大きなシンポジウム「Earth Exploration from Space」
(6セッション)及び「Systems for Space Exploration」
(6セッション)等であった。またこれらとは別に2日
目, 3日目及び5日目の夕刻にcurrent eventのセッシ
ョンがあり,それぞれソ連によるサリュート6号,ESA
(欧州宇宙機構)によるARIANEロケット及びSpacelab,
そしてNASA(米国航空宇宙局)によるSpace Shuttle
の報告があった。4日目の午後はセッションを休み半日
の観光旅行が行われたが,今回の会議ではtechnical tour
に相当するものはなかった。今会議開催中に開かれた役
員会で,第30回大会をミュンヘンで1979年9月17日〜23
日に,また第31回大会を東京で1980年9月21日〜27日に
開催することが正式に決定された。セッションが並行し
て開かれていたため,筆者達は通信衛星及び宇宙からの
リモート・センシング関係の講演に焦点をしぼった。通
信衛星関係では,上記CS,BSについての発表と同じセ
ッションで,他にINTELSATシステムとその将来計画,
インドネシアのPalapaシステムとその拡張計画,ECS
(European Communication Satellite)計画,ESAの海事
衛星計画,ウェスタンユニオンのWESTARシステム等
の発表が行われたが,いずれも実用システムとは言うも
のの将来計画を述べたものであった。各発表に対する質
問は少なく,1〜2件程度であった。当所の発表に対し
ては,CSのテレビ画像伝送実験の詳細,実用放送衛星
のチャンネルプランに関する質問があった。また「ユリ」
とはどんな意味かどの質問もあった。当所及びNASDA
共著のECSについての発表が行われたセッションでは,
他にカナダのCTS/Hermesの実験状況,イタリアのSIRIO
を用いた12GHz帯での伝搬実験速報,ESAのOTS速
報及びARIANEロケットによるH-SAT打上げ計画,
CNESによるSYMPHONIEシステムの応用,またアメリ
カからは商用衛星によるデータ収集システム,COMSAR
の19及び29GHzビーコン測定結果及び衛星を利用した
陸上移動無線実験の応用と問題点等の多くの発表が行わ
れた。これらを総合すると各国の衛星計画には複数の国
または機関が共同して行っているものが多いことや,12
GHz帯にはかなりの実験計画があること,及びそれ以上
の周波数帯には幾分関心が高まりつつあることが印象と
して残った。各国のNational Projectを総括した国連の
宇宙平和利用委員会議長のJankowitch氏の講演の中で宇
宙を平和的に利用する二つの柱があり,その一つが既に
実用段階に達した通信衛星システムであり,他の一つが
リモート・センシング技術である。リモート・センシング技術に
ついてはこれから実用に達するまでに多くの研究開発が
活発に行われるべきであるとの指摘があったように,今
大会ではリモート・センシングは重要な問題として取り
上げられた。上記の「Earth Exploration from Space」
のシンポジウムは,六つのセッションに分れて興味深い
論文が多く発表された。 岡本が発表したのはこの内の
「Weather and Climate」のセッションであり,議長は
CNES副総裁のMorel博士であった。同セッションでは,
CNESによるMeteosatの成果が自信を持って報告され
ていたことが印象的であった。しかし同セッションの最
大の興味はNOAAから提出されたSEASAT-Aの初期的
な成果発表であった。特に合成開口レーダによる海面画
像,散乱計による海面風速の測定の例に関しては降雨の
影響がデータに現われており興味深かった。岡本の発表
に対して特に質問はなかったが,議長より衛星搭載用セ
ンサを開発するために航空機実験を行うことは良い考え
であること,良い成果を期待する等の激励の言葉をもら
った。講演が終って大きな拍手をもらった時,これで義
務を果たすことができたと思い本当にうれしかった。他
に「Active and Passive Microwave Sensor」のセッシ
ョンがあり,アメリカ,ESA,CNES,カナダのいずれ
も合成開口レーダの開発と同レーダによる地表面及び海
面の観測を将来の最大の課題としているようであった。
今回のIAF会議中,国連より,IAF東京大会の前の週に
一週間程度でUN Workshop on Remote SensingをIAF
共催の形で主に東南アジア開発途上国を対象にして東京
で開催できるかどうかを日本側で検討するようにとの依
頼があった。このように宇宙からのリモート・センシン
グの分野は,これからも増々その重要性が認識される分
野であることを思い,当所で関連するプロジェクトをど
のように進めるべきかを考えることが会議中多くあっ
た。
CRC訪問の概要
筆者の一人生島は,IAFでの発表が終わった翌日の10
月4日早朝にドブロブニグ市を発ち,CRC訪問のためカ
ナダヘ向った。
CRC(Communication Research Center)はカナダ通
信省に所属し,オタワ市の西部郊外に位置している。今
回訪問したのは,CRCの中の
Space Technology & Applications Branchであり,
ここのDirector GeneralはDr.B.C.Blevisである。
このBranchの中は,また幾つか
に分かれており,今回はSCOPO(Space Communications Programme Office)
を中心に訪問した。ここのOffice DifectorはDr.N.G.Daviesである。折から小嶋
弘研究官がCRC滞在中であったので,前もって連絡をと
り,CRC側でもスケジュールを作って待っていてくれた。
CRCでは,まずDr.Daviesに挨拶したあと,
CTS Conference Roomで,当方で持参したカラースライドを
用いて約45分ばかり,鹿島支所やCS,BS,ISS等の関
連施設の説明を行った。日本の施設には感心したようで,
行って見たい等と言った人もいたが,またCS,BSはも
う上がっているのかと問いた人もいた。このあとはCRC
側からCTS実験,CTS実験端局及びANIK‐B関係,
CTS管制システム等の説明が行われた。
昼食後はDr.Blevisと歓談した。彼はBSの伝搬と日
本での使い方に関心が高いようであった。そのあと
Dr.NusplのCENSAR(Centralized Synchronization and Ranging)
と呼ばれるTDMA方式の実験施設や,ISIS/CTS
の管制室その他の地上局施設を見学させてもらった(
ISISの管制室へ行ったとき,丁度パスがあり,コマンド
・トーンが聞こえたが,鹿島にいるような気がして大変
親近感を覚えた。見学後,再びDr.Daviesの部屋に行
き,しばらく話したが,彼は「今まで放送衛星関係の会
議をやっていた。近い内に放送衛星のことで日本へ行く
ことになるかも知れない」と語っていた。
あとがき
筆者の一人の岡本にとっては最初の,しかも予期して
いなかった海外出張であり,見聞きすることすべてが興
味深く,また会議の発表を通して啓発されることが多か
った。この機会を与えて下さった関係各位に深く感謝す
る次第です。なおリモート・センシング関係,通信衛星
関係の論文の別刷を20篇ほど,またIAF会期中に発刊さ
れIAFの模様を伝える新聞(No.1〜No.6)を手に入れ
て来たので興味を持たれる方はぜひ御利用下さい。
(鹿島支所長.衛星研究部電離層衛星研究室主任研究官)
気象衛星センタでの画質確認