まえがき
本年もまた宇宙開発計画の見直し要望が,6月19日郵
政省から宇宙開発委員会に提出された。要望の内容は別
記のように@実用放送衛星A航空・海上技術衛星
(AMES)B電磁環境観測衛星(EMEOS)C通信技術衛
星(ACTS-G)D衛星とう載用能動型電波リモート
センサーの開発研究の5項目からなり,そのうちAから
Dまでは当所と特に関係が深いものである。要望をまと
めるまでには,3月頃から所内においては宇宙開発計画
検討委員会が主体となって討議を進めるとともに,電波
監理局宇宙通信企画課及び宇宙通信開発課,宇宙開発事
業団,AMES連絡会等との緊密な連絡・調整を行った。
昨年の見直し要望(本ニュースNo.28参照)との主な相
違点は,AMES及びEMEOSの打上げ目標年次を1年順
延しそれぞれ昭和60年度及び昭和61年度ごろとするとと
もに,ACTS-Gについても昭和60年代前期と先へ延ば
したこと,EMEOS計画の推進と並行して米国NASAの
金星周回探査衛星(VOIR)計画への参加を要望してい
ること,ACTS-Gについてはマルチビームアンテナを
先行的に研究するとしたこと,衛星とう載用能動型電波
リモートセンサについては,研究開発の成果を観測分
野の各種衛星シリーズ(海域及び陸域観測衛星シリーズ
等)の電波リモートセンサの開発に資すると,その位
置づけの明確化を図ったこと等である。
なお,今年の見直し要望との関連で特記すべき状況と
して,宇宙分野の日米専門家会議が3回開催され,勧告
が出されたこと(本ニュースNo.40参照),「あやめ」の予備
衛星(ECS-b)が本年度冬期に打ち上げられることが
決まったこと(本ニュースNo.39参照),「通信・放送衛星
機構法」が先の国会で成立したことがあり, 見直し要
望の帰すうとともに, 当所の将来の計画に大きな影響を
与えることになろう。
以下に,当所と関係の深い見直し要望事項について述
べる。
航空・海上技術1衛星(AMES)
昨年の宇宙開発委員会の見積り方針では,開発研究を
行うとされたが,予算が認められなかったこともあり,
53年度決定の宇宙開発計画の中では研究の段階にとどま
った。そこで,AMES連絡会(科学技術庁,運輸省,郵
政省,宇宙開発事業団で構成)による検討を経て,打上
げ年次を59年度から60年度に延ばした上,開発研究を行
うことを再度要望したものである。
郵政省ミッションとしては,衛星とう載ミッション機
器の開発(L-バンドトランスポンダ等),船上及び航空
機上設備の開発,電波伝搬実験及び通信実験がある。
システムの主な仕様は,直径約2m,重量約350kg,ス
ピン安定(アンテナデスパン方式),とう載アンテナはL
バンドオフセットパラボラ(2ビーム)及びCバンドホ
ーンアンテナ(グロ-バルビーム),周波数は地球局〜衛
星がC-バンド(5GHz。ただしWARC-79の結果によ
り再検討もあり得る。),衛星〜移動局がL-バンド
(1.5/1.6GHz),船舶局G/Tは−19dB/K,寿命は打上げ
後約1.5年となっている。昨年の要望では,フィーダリン
ク(地球局と衛星を接続する回線)の周波数が2波
(C-バンド及びK-バンド),L-バンドアンテナのビーム数
が2〜3個となっていた。
なお,前記のように当所の54年度予算では,AMES計
画は認められなかったが,「衛星を利用した海上通信技術
の研究開発」として単年度の経費が認められたので,目
下,船上設備の試作及び模擬衛星の製作を行っていると
ころであり,この研究の成果はAMESに活用される。
電磁環境観測衛星(EMEOS)
電離層観測衛星(ISS-b,「うめ2号」)は,昨年2月
16日に打ち上げられ,同年4月24日から定常運用に入っ
て以来,1年余を経た現在も順調に観測を続けている。
この間の観測データを用いて電離層臨界周波数世界分布
図,雷放電発生頻度世界分布図等,従来の諸外国の衛星
観測では得られなかった画期的な結果が求められている。
これらの成果を踏まえ,中・短波帯からマイクロ波帯に
わたる広い周波数帯の電波に関する電磁環境を観測する
ためのEMEOSを,再度要望している。
地球をとりまく電磁環境は,中・短波だけでなくマイ
クロ波帯まで,かつ地上無線通信に限らず宇宙通信にも
影響を与え(例えば,昨年2月15日,「ひまわり」,
「きく2号」,「さくら」からの電波は,電離層擾乱により顕著
な電界変動を生じた。),また,航行衛星による無線測位
あるいは報時衛星による時刻同期に対しても誤差を生じ
させる。一方,空電等の自然雑音,人工雑音,他の通信
システムからの混信は,通信の妨害となる。従って,電
磁環境を電波伝搬媒質として,また雑音・混信の場(フ
ィールド)として観測することが,電波の有効利用上,
必要不可欠である。
EMEOSのミッションは,能動型電波観測ミッション
(中・短波帯サウンダ,超短波サウンダ,マイクロ波ビー
コン),受動型電波観測ミッション(中・短波帯電波雑音
観測装置,超短波・マイクロ波帯電波雑音観測装置),及
び環境直接測定(プラズマ・高エネルギー粒子測定装置,
イオン・大気組成測定装置,磁場測定装置)の三種類で
ある。
EMEOSの概要は,円筒形,重量約350s,スピン安定
(磁気トルクによる姿勢制御機能付き),軌道高度約1000
q,傾斜角70°,寿命3〜5年とし,N又はN-Kロケッ
トにより,次期太陽活動サイクルの起点付近となる昭和
61年度頃に打ち上げることを要望している。
前記のISS-bの成果は,内外から高く評価されている
が,その一つとして,ISS-b電離層観測装置の技術を応
用した金星電離層観測を日・米・加の国際協力プロジェ
クトとして進めることをNASAが要請してきている。こ
れを受けて第2回日米専門家会議(54年3月)において,
VOIR計画への参加を提案した。そして手続上のことも
あり,5月にNASAのAO(プロジェクト計画参加公募
告示)に応ずる形で,郵政省は科学技術庁,宇宙開発事
業団等と協議・調整の後,プロポーザルを提出した
(図1参照)。
以上の経過を踏まえて,この提案が宇宙開発計画の中
に盛り込まれるよう見直し要望を提出したもので,その
内容はEMEOSの中・短波帯サウンダと基本的には同
一の機能をもつ金星電離層サウンダを昭和58年末まで
に開発することを要望し,59年12月のVOIR打上げに備
えようとしている。
図1 VOIR観測の概念図
通信技術衛星(ACTS-G)
宇宙開発政策大綱の「移動体通信技術衛星シリーズ」
の一つとして,陸上移動体を対象とする通信技術及び周
回型衛星を対象とする衛星間通信技術の確立を主要なミ
ッションとし,将来の宇宙通信需要の増大や多様化に積
極的に対処するため,標記の衛星を要望している。
ACTS-G計画を推進するため,昭和55〜58年度の
4年間,最も基礎的な技術である衛星用マルチビームアン
テナの研究開発を行うものである。具体的なアンテナ形
態としては,アレイ及び開口で,ビームは固定型及び可
変型を計画している。この場合,固定マルチビームアン
テナは陸上移動体との通信用に,また,可変マルチビー
ムアンテナは周回型衛星との通信用に考えている。そし
て固定マルチビームアンテナのカバレージを日本全土な
いし日本本土としている点で,グローバルカバレージを
目指すAMESのマルチビームアンテナと大きく相違して
いる。周波数は,陸上移動体については300/400MHz及び
2GHz帯,周回型衛星については136,400/148MHz,ま
たは2GHz帯を予定しているが,WARC-79の結果を踏
まえて再検討する。
なお,ACTS-Gの構想と宇宙開発事業団のTDRS構
想との間には共通点が多いことから,両者で53年度から
共同研究を実施している。
衛星とう載用能動型電波リモートセンサの開発研究
当所においては,既に昨年度から標記の研究を3か年
計画として実施している。即ち53〜54年度にかけて,航
空機にとう載して行う実験用の能動型電波リモートセン
サを開発し,54年度にまず航空機とう載予備実験を,昭
和55年度には本格的な航空機とう載実験を行う。(図2参
照)。本研究により,降雨量及び雨域を対象とする衛星と
う載用能動型電波リモートセンサの開発に必要な技術及
びデー夕解析処理技術が習得される。従って,将来の計
画としては,本研究の結果に検討を加え衛星とう載用に
発展させて適切な衛星へのとう載を考えるとともに,観
測分野の各種の衛星シリーズ(海域及び陸域観測衛星シ
リーズ等)の電波リモートセンサの開発に役立てること
を予定している。
(企画部第一課長 中橋信弘)
図2 航空機とう載実験概念図
会議の概要
宇宙分野における日米専門家会議は,第1回(昭和53
年12月12日〜15日,東京),第2回(54年3月26日〜29日,
ワシントン),及び第3回(6月6日〜8日,東京)の会
合を持ち,専門家会議としての報告及び勧告をとりまと
めた。この報告及び勧告は6月13日宇宙開発委員会に提
出,了承され,日本側の専門家会議の仕事は無事終了し,
解散した。
この専門家会議については電波研究所ニュースNo.34(短
信),No.35,及びNo.37(短信)に一部報告されているので
発足の経緯等は省略してふり返ってみたい。
宇宙開発を通じ,全人類の福祉に貢献し,国際協力を
強化し促進するために,日米間で将来協力可能な宇宙協
力プロジェクトの分野及びその方法について討議した。
協力可能な共同プロジェクトは,相互に関心があり,双
方の責任範囲はそれぞれの科学的技術的能力に見合った
ものであり,またそれぞれがその活動に必要な経費を出
し,かつ明確に定義づけられたインターフェイスを持つ
個々の領域について責任を有するものとした。
専門家会議ではカリオNASA宇宙地球応用局長及び下
邨科学技術庁科学審議官が共同で議長を勤め,その他
NASA側からは応用部門で6名,科学部門で5名,宇宙輸
送部門で1名,及び国際部門で1名計13名の委員が,ま
た日本側からは一般部門で2名,科学部門で4名,及び
応用部門で10名計16名の委員が参加した。委員の他,多
数のオブザーバが参加し各論の審議に加わったが,そ
の数は第1回の時は25名(うち当所からは恩藤・古浜・
高橋・川尻の4名),第3回の時は26名(うち当所からは
畚野・安田・川尻・河野の4名),また第2回の時は米国
側からの21名であった。
第2回会合(於ワシントン)に出席の日本代表
(NASA本部前にて)
専門家会議は,それぞれの科学的,技術的及び資金的
能力内にあり,共に興味があり,近い将来着手可能な多
くの具体的協力プロジェクトについて勧告を行うととも
に,必要なミッション及び計画の調査後,将来の時点で
着手しうると思われる共同プロジェクトもあるとの結
論に達した。
また,専門家会議は今回の報告及び勧告書をNASA及
び宇宙開発委員会に提出した後解散されるが,実施中の
プロジェクトの進捗状況の確認や,新たな協力プロジェ
クトの可能性を探究し,将来具体的な追加プロジェクト
を提案する途を開くために常設幹部連絡会議
(Standing Senior Liaison Group)を設立すべきであるとの結論に
達し,その設立に必要な手続をとることを勧告した。
3回にわたる会合の結果勧告された応用部門における
共同作業としては
○台風による風と波の研究
○海洋ダイナミクスの研究
○海洋生物資源の研究
○衛星立体写真による雲高度の測定
○MOS-1データの受信
○積雪特性に関する研究
○蒸発散(Evaporation)算定の可能性に関する研究
○地殻プレート運動の研究
○実験用通信衛星データの交換
また科学分野における共同作業としては
○ハレー彗星共同研究
○土星周回機及び2個の探査器ミッションのための
突入前科学観測器
○大平洋横断気球観測プロジェクト
○X線天文学
○共同テザープロジェクト
○地球近傍におけるプラズマの起源(OPEN)計画
○太陽共同研究
○スペースラブでのライフサイエンス研究
であり,これらの共同作業は個々にNASAと日本の適当
な協力機関との間で協定を結ぶことにより実行に移すよ
う勧告されている。
また専門家会議では,AO(参加呼びかけ),又は
“Dear Colleague”書簡手続によるものも話題に上がったが,これ
らは考慮の対象外とされるべきであるとのことで意見が
一致した。これらは
○粒子加速装置を用いた宇宙科学実験(SEPAC)
の延長
○金星周回探査衛星(VOIR)
○上層大気中のエアロゾル及びガス実験(SAGE-U)
○地磁気観測衛星(MAGSAT)
○国際太陽地球間探査計画(ISEE)客員研究者計画
○宇宙における材料処理
であり,また検討の過程で提案され,将来の共同プロジェ
クトの基礎となり,将来勧告されるかもしれないものは,
○LANDSATデータ解析技術
○ジオダイナミクス(レーザレンジング)
○衛星を用いた捜索救助プロジェクト(SAR)
○材料処理
○通信衛星に関する情報交換(将来)
○大規模宇宙構造物
○雷及び嵐の研究
○太陽発電衛星
○軌道変換技術
○再使用形シャトル上段ステージ
○宇宙線観測所(CRO)
○紫外及び可視線天文学(STARLAB)
○太陽周期及び活動ミッション
○X線天文学(XRO)
である。なお上記の勧告は約束と見なされるものでな
く,NASAと宇宙開発委員会との間で合意される今後の
取扱いにゆだねられるものである。
当所での専門家会議への対応
当所ではこの専門家会議に対処するため所内の宇宙開
発計画検討委員会(委員長,加藤次長)の下に,日米合
同調査計画対策小委員会(主査・村主総合研究官)を昭
年53年10月12日設置し,相京・恩藤・古浜・松浦・橋本・
宮崎・高橋・安田・川尻の諸委員により検討を行った。
当所関連の共同作業
(1)地殻プレート運動の研究。最初は共同作業としてど
の程度の発展を見るか一部疑問視されたが米側が福祉行
政に関連し非常に積極的であり,日本側もその必要性を
感じていたので順調に進み成果を得た。
(2)実験用通信衛星データの交換。当初は日本の伝搬デ
ータと,米国の追跡・データ中継方式(TDRSS)データ
との交換を考えていたが,米側がTDRSSについては既
発表データ以外はないとのことで,結局伝搬及び姿勢・
運用関係のデータ交換となった。なお余談ではあるが,
米側はこの場を借りてCCIRやWARCに関する情報交換
をしたいとの積極的態度を見せた。
(3)ISEE客員研究者計画。当初はISEE衛星の直接受信
を当所で行い,ISEE計画に対し積極的に協力したいと
の意向であったが,米側の一部の研究者の反対や,当所
内での態勢の,専門家会議中での変化等のため最終回の
会議には日本側からとり下げを提案した。しかし種々討
議の結果客員研究者計画とすることになった。
(4)VOIR。第1回会合後米側研究者より勧誘があり,所
内での数回にわたる討議の後第2回会合に提案したが,
種々の事情で前記のように,結局AO処理で進めること
とした。
(5)SAR。昭和53年7月17日の非公式文書の中でNASA側
が言及したものであったが,その後この計画が米・加・
仏の三国の他ソ連も加わることで話が進んでおり,その
結果を見ないと,日本の参加が認められるかどうか疑問
となった。
なおNASA側は日本の参加が可能となるよう努力して
いる模様である。
おわりに
専門家会議は計3回の会合により,その報告及び勧告
をまとめたが,これは共同議長となったカリオ局長及び
下邨科学審議官に負う所が大であり,両代表とも大局を
つかみ,妥協する所と反対する所をはっきりと述べ,短
期間に成果を上げることができたと思われる。宇宙開発
委員会委員の方々の中にも,成果が出るかどうか少し心
配されていたやにも伺ったが,日米間で対等の立場での
成果を得,また深宇宙への拡張・発展の方向も見られ,
予期以上の成果であったとのおほめの言葉もいただき感
激している。また日米間で今回のような内容のある勧告・
報告を行ったことは初めてだとのことでもある。専門
家会議の後には常設幹部連絡会議が設立されることと思
われるが,この会議が日米間の,そしてまた全世界の宇
宙平和利用と国際協力に,より以上の貢献と成果を上げ
るよう期待するものである。
また私も専門家会議の一員として終始参加し,無事に
任務を果たすことができたと思うが,これも所内の幹部・
研究者の方々の御指導・御協力のたまものであり,また
科学技術庁・電波監理局・宇宙開発事業団・東京大学宇
宙航空研究所等関連各機関の御理解,御協力のおかげで
あると,深く感謝申し上げます。
(総合研究官 村主行康)
渡辺重雄・上田輝雄
はじめに
ジョルダン派遣短期専門家
技術指導の実施
1) 日程
日本短期専門家チームは,技術指導に先立ち,ジョ
ルダン側と指導方針及び日程等について協議した。技
術研修者は12名で全員が欧米先進国留学の経歴者であ
った。しかし,専門分野が通信,コンピュータ,計測
回路,強電関係等とそれぞれ異なり,供与機器を一律
に指導することは無理であることが分かったので,短期
間で効果があがる指導ができ,また,日本専門家チー
ムが帰国したあとでも操作指導ができるよう配慮した。
日程は,45日(約6週間)を供与機材の性能確認,技
術指導,大型機器の設置,とほぼ3分して実施した。
(通信機器部 機器課 主任研究官)
9B型イオノゾンデ諸元
-