衛星通信部・衛星計測部の発足にあたって


所 長  田 尾 一 彦

 昭和54年7月14日から当所の組織を一部変更して衛星 通信部及び衛星計測部を新たに発足させることになった。 これは旧来の衛星研究部を改組し衛星通信を担当する衛 星通信部及び衛星によるリモートセンシングを担当する 衛星計測部の二部を設置し、従来にも増して責任ある体 制の下に組織的に研究を促進して行くことを目指したも のである。発足に際し組織改正の経緯を述べ,あわせて 新しい両部の将来の指向する方向について述べてみたい。
 “宇宙通信及び人工衛星の研究開発”は当所の主要な研 究分野の一つであるが,宇宙通信に関する研究について は既に20年も前にその研究に取り組んだ。初期の段階に おいては,鹿島支所に大型アンテナを含む宇宙通信施設 の建設を行い,昭和37年11月6日に交換された日米間の 通信実験に関する覚え書きに従って,NASAの通信衛星 リレー2号及び応用技術衛星ATS-1号等を利用して 日米間で主として通信実験を行い,当所は我が国の宇 宙通信の分野ではパイオニア的存在として活躍した。昭 和42年の機構改正により衛星研究開発部が設置され,従 来から行ってきたNASAの衛星による宇宙通信実験に加 えて新たにわが国独自の人工衛星の研究開発が開始され た。電離層観測衛星(ISS)と実験用静止通信衛星(ECS) とが衛星研究開発の目標として取り上げられたが,昭和 44年10月1日宇宙開発事業団の設立と共に人工衛星の開 発は事業団の方へ移され,当所においては衛星研究開発 部を衛星研究部に改め,開発研究からユーザとしての衛 星の計画,設計並びに搭載ミッション機器の研究等を行 うようになり,今日に至った次第である。
 世界的な衛星通信開発の機運に伴い,我が国において も災害に対処する臨時回線,離島回線の設定,テレビ難 視聴世帯の解消策等将来予想される通信需要の増大及び 多様化に対処して放送を含む通信政策上,通信衛星,放 送衛星の開発の重要性が強く認識され,郵政省では昭和 46年頃から実験用中容量静止通信衛星(CS)と実験用 中型放送衛星(BS)の開発及び打上げ計画が検討され, 昭和48年宇宙開発委員会によってそれらの開発及び打上 げが正式に決定された。当所は郵政省の附属機関として, ナショナルプロジェクトであるこれらの大型プロジェク トの実験実施を担当することになり,CSについては日 本電信電話公社,宇宙開発事業団,BSについては日本 放送協会,宇宙開発事業団の協力を得て,当所の衛星研 究部並びに鹿島支所を中心とした実験的研究が行われる ことになった。従来からの衛星開発研究の対象であった ISSとECSに加えてCS及びBSの研究業務をも担当す ることになり,衛星研究部の業務は急激に増大した。更 に,昭和53年度からは衛星搭載用能動型電波リモートセ ンサの研究開発にも着手し,その対象とする範囲も極め て広範にわたり,同一部内で放送を含む通信を主目的と する静止通信衛星に関する研究と,宇宙及び地球の電磁 環境のリモートセンシングを主目的とする移動型衛星に 関する研究を行う部門とが混在している状況になってき た。将来更に通信分野と観測分野に関する衛星計画並び にそれらに付帯する基礎的研究を行うためには,これら の目的及び性格を異にする研究分野を二分割してそれぞ れ責任体制を明確にして推進する必要性を認識したため, 行政管理庁並びに大蔵省の方へ組織改正を強く要望して いたところ,本年7月から旧来の一部三研究室の改組が 認められ,次のように二部五研究室で新たに発足するこ とになった次第である。


 先づ,衛星通信部に関して所掌するその研究分野を述 べてみると,第一衛星通信研究室においては固定地点間 の衛星通信システムに関する研究並びにそれに必要な衛 星搭載用通信機器に関する研究を行うことになっている
。  第二衛星通信研究室においては衛星放送システムに関 する研究並びにそれに必要な衛星搭載用通信機器に関す る研究を行うことになっている。
 第三衛星通信研究室においては移動体,航行衛星通信 システム及び衛星間通信システムに関する研究並びにそ れらに必要な衛星搭載用通信機器に関する研究を行うこ とになっている。
 次に衛星計測部の方であるが,第一衛星計測研究室に おいては衛星による対流圏以下の領域についての計測に 関する研究,並びにそれに必要な計測装置に関する研究 を行うことになっている。
 第二衛星計測研究室においては衛星による電離圏以上 の領域についての計測に関する研究,並びにそれに必要 な計測装置に関する研究を行うことになっている。
 宇宙開発委員会は昭和53年3月17日,新たに「宇宙開 発政策大綱」を決定し,今後15年間に具体化すべき宇宙 開発プロジェクトを示しているが,当所においても,こ の大綱に沿って衛星利用の移動体通信技術の開発を目的 とする航空・海上技術衛星(AMES)を関係各省庁と共 同して推進している。移動体との通信及び衛星間データ 中継を目的とする通信技術衛星(ACTS-G)に関連す る衛星用マルチビームアンテナの研究開発も計画されて いる。またISS-bの成果を踏まえて,さらに宇宙及び地 球の電磁環境のリモートセンシングを主目的とする電磁 環境観測衛星(EMEOS)計画や,既に研究が開始され ている衛星搭載用能動型電波リモートセンサの研究開発 等いくつかの先行的な宇宙関連プロジェクトが考えられ ている。それらの計画は現在所内に設けられている宇宙 開発計画検討委員会,並びにその下部組織である航空・ 海上技術衛星,通信技術衛星,観測衛星,計測衛星,未 来構想衛星の各小委員会において全所的な知識を総合し て検討されている。宇宙関連の研究プロジェクトは大型 のプロジェクトでありコンピュータの有効な使用を始め として関連各部の協力を得ながら実施されて行くことに なるが,とりわけ上記研究計画の中で宇宙開発委員会の 決定に従い具体化してきた課題については,それに付帯 する基礎研究を含めて新たに発足した衛星通信部及び衛 星計測部の各研究室が中心となって進められることにな ろう。
 電波の有効利用の大きな分野である通信と計測に関し, 当所が今後とも重点を置いて研究開発を進めて行かねば ならない衛星利用の宇宙研究の分野において,衛星通信 部と衛星計測部とが新たに設けられたことは誠に時宜を 得たものであり研究開発の責任体制を一層明確にしてわ が国の宇宙開発進展のためにも寄与出来るよう関係職員 の一層の努力研さんを切望する次第である。




衛星通信用スペクトラム拡散ランダムアクセス通信方式について


鹿 島 支 所

   はじめに
 スペクトラム拡散(Spread Spectrum。以下SSとい う)通信方式は,名前が示すように,ある帯域に制限さ れたスペクトルを広帯域に拡散させて通信するもので, SS動作によりさまざまな特徴を発揮する。その一つは 衛星回線におけるランダムアクセス通信を可能にすること で,当所ではスペクトラム拡散ランダムアクセス (Spread Spectrum Random Access,以下SSRAという)装置を 開発し1971年のATS-1号衛星による基礎実験以来,こ の方面の研究に力をそそいで来た。以下にSSRA通信の 原理及び衛星通信回線への適用について述べる。
 SSRA通信の原理
 図1を参照しSSRA通信の原理を説明する。音声やデ ータなどの情報信号a(t)で搬送信号に変調を行うとb(t) が得られる。変調方式に制限はないが,これ迄採用され た実例で見る限り,変調信号b(t)の包絡線が一定となる 周波数変調(FM)や位相又は周波数シフトキーイング (PSK,FSK)方式が採用されている。振幅変調(AM) 方式も可能であろうが,それが採用されなかったのは, 衛星中継器の非直線特性などで,情報の喪失が発生する ためと推測される。図1の点線個所を取り除いて,信号 b(t)の送受を行う形態が一般の通信形態に相当する。信号 b(t)がFM変調信号とした場合の信号波形及びスペクト ルは,図2(1)に示すようになる。


図1 SSRAシステムブロック図


図2 SSRA通信方式におけるスペクトル拡散と相関受信の説明図

 拡散変調部でスペクトルの拡散を行う。その方法には 色々あるが,ここでは疑似雑音符号(以下PN符号とい う)によるスペクトル拡散の場合を説明する。
 変調信号の10^2〜10^6倍高速のクロック周波数fPNで駆 動された±1の値をとるPN符号c(t)(図2(2)参照)と b(t)の積により,SSRA信号s(t)(図2(3)参照)が求まる。
s(t)は次のように記述される
   s(t)=c(t)×b(t)
 s(t)の帯域幅Wは,ほぼc(t)の所要帯域幅に等しく, PN符号のクロック周波数fPNの2倍であり,帯域の拡張 率をプロセス利得Gpという。
   Gp=2fPN/B=W/B
 s(t)は,無線周波数(RF)に周波数変換された後, 電力増幅され,アンテナより相手方へ送信される。
 以下,説明を簡単にするため送受間の遅延を無視して 話をすすめる。
 受信側では送信側とは逆に,アンテナで受信された信 号はRF増幅され,次に周波数変換されてs(t)となり, 拡散復調部へ入力される。拡散復調部では,受信SSRA 信号と同期したPN符号c(t)が発生され(図2(4)参照), s(t)との積により次式に示すように拡散復調される。
  s(t)×c(t)=(b(t)×c(t))×c(t)
      =b(t)   (∵c^2(t)=1)
 以上の操作により送信側と同じFM信号b(t)が復元さ れ(図2(5)参照),情報復調部でFM復調されると,情報 信号a(t)が得られる。
 しかし,受信SSRA信号と同期したPN符号が得られ ないと,上述の狭帯域信号の復元が不可能となり,広帯 域信号のままとなる。図2(6)に示したものは,PN符号 の1チップ△t=1/fPNの1.5倍の時間遅れのあるPN 符号である。この信号で受信SSRA信号と積の操作を行 うと図2(7)に示す結果となり,スペクトルは拡散したま まとなる。
 非希望SSRA信号s'(t)が受信された場合の受信機動作 について説明する。拡散復調部の動作は,s'(t)と局発PN 符号c(t)との積を行うことで,次式のようになる。
  x(t)=s'(t)×c(t)
    =(c'(t)×b'(t))×c(t)
    =r(t)×b'(t)
 ただし
  r(t)=c'(t)×C(t)
 r(t)は,上式に示すように,異種PN符号の積の信号 である。x(t)と信号s(t)の数式上の類似性から,信号x(t) は,c(t)のPN符号の代わりに信号r(t)でFM信号を 拡散変調したものと同じであることが理解できる。
 そして,x(t)の中心周波数fc近傍における電力スペク トル密度は,Pを1局あたりの平均電力とするとP/fPN となる。
 従って,同時通信局数がK局の場合,拡散復調出力投 のIFにおける雑音電力密度は,Noを受信機雑音電力密度 とすると,


となるので,搬送波信号対雑音電力比(CN比)は,次 のように求まる。


 ここで(C/N)IF及び(C/N)RFは,それぞれ拡散復 調後のTF帯域幅Bにおける拡散復調後のCN比と拡散復 調前の帯域幅Wにおける拡散復調前のCN比である。こ の式より,拡散復調によりGpのCN比改善効果が得ら れることがわかる。
 CN比から信号対雑音電力比(SN比)を求めること は,一般のFMにおけるSN比を求めることと同様にし て得られる。


図3 異種PN符号どうしをかけ算して得られる信号の波形

  衛星通信回線への適用
 衛星における通信形態には,一般に多元接続 (Multiple Access)方式が採用されている。これは一つの衛星を多 くの地球局で共通に同時に利用するもので,それを可能 にするためには,局識別のゲート操作が必要となる。ゲ ートの手段としては,周波数ゲート,時間ゲート及び符 号ゲート方式があり,それぞれに対応し周波数分割多元 接続(FDMA),時分割多元接続(TDMA)及び符号分割 多元接続(CDMA)と呼ばれている。SSRAはCDMAに 属するもので,PN符号により局識別を行う。3方式を 周波数−時間の座標上で表現すると,図4のようになる。 FDMA方式は全時間軸上を占有するが,周波数軸はある 一部のみしか占有しない。その逆がTDMA方式である。 これに対しSSRA方式は時間軸と周波数軸の全領域を占 有する。卑近な言い方をすれば,密に占有するのではな く,非常にうすく隙間だらけで占有する。この隙間が一 ぱいに埋まるまで同時通信局数が増やせるものと見てよ い。
 運用上から見ると,FDMA及びTDMA方式は,それぞ れ周波数軸と時間軸を厳しく監視・統制及び制御するた めの中央局や基準信号などが必要となる。そのため自由 度があまりないが,衛星を使用する上でムダがなく利用 効率がよい。これに対しSSRA方式では,隙間が埋まる まで,通信は自由にランダムに行われ,自由度が大きい というメリットがある。システム設計で,初期接続の能 力を通話が出来なくなる限界と一致させておき,一たん 同期がとれたものは,同期系のループ帯域幅を狭くする ことで同期保持能力を向上させる。このようにすると, 空チャンネルがない状態で発呼した場合,決められた時間 内に返答がなければ空チャネルがなしと判断し,数分間 待って発呼すればよい。すでに通話中のチャンネルは, 同期保持能力が向上しているので,これらの発呼による 影響は通話品質が幾分劣化する程度である。更に,衛星 中継器へ入力する各SSRA信号のレベルが一定となるよ う,各局で電力制御する規則を採用すれば,中央統制局 などは不要で,運用上非常に楽な,真にランダムアクセ スに近い通信形態となる。この点が他の多元接続方式と 比べSSRA方式が有利な点である。


図4 衛星多次元接続の分類

  むすび
 専門外の人にも理解できるようにという依頼で,SSRA の原理と衛星へ適用した場合のメリットについて説明し た。他の文献を参照することなく,理解できるように記 述したつもりであるが,紙面の都合上,十分,意が満た せない部分がある点は御容赦願いたい。

(通信機器部通信系研究室 主任研究官 横山光雄)




太陽地球環境予報国際ワークショップに参加して


丸 橋 克 英

  はじめに
 太陽地球環境予報国際ワークショップは本年4月23日 から5日間,米国コロラド州ボウルダ市で米国立海洋大 気局(NOAA)の宇宙環境研究所(SEL)の主催で開かれ た。このワークショップの目的は「太陽地球環境予報に 関して,予報技術の現状,予報の新しい応用分野,将来 の新しい予報の需要について検討すること,また同時に 予報利用者,予報業務担当者,関連分野の科学研究者を 集めて,それぞれの立場から意見を交換すること」とう たわれていた。ここで太陽地球環境とは,太陽から惑星 間空間,磁気圏,電離圏,下層大気,地表までを包含し ており,検討する予報対象としては,通信関係,人工衛 星の運用,人体への影響,気候変動,地磁気嵐の地上諸 施設への影響等の項目が挙げられていた。このように, このワークショップは太陽地球環境科学のあらゆる分野 を,予報という一つの応用面から総ざらいしようとする ものであり,しかも科学研究者のみでなく,予報利用者, 予報業務担当者をも積極的に参加させる非常に野心的で 新しい試みであった。なお,宇宙科学,地球物理,天文 電波科学関係のいくつかの国際機関と米国の地球物理連 合,気象学会等が共催団体となっており,財政面は,米 空軍,米エネルギー省,米国立科学財団,NOAAの環境 科学研究所(ERL)に支えられていた。
 このワークショップの会期中IUWDS(国際ウルシグ ラム及び世界日警報業務機関)の会合が計画されていた。 IUWDSは国際電波科学連合(URSI)の勧告により, 国際天文学連合(IAU),国際測地地球物理連合(IUGG) の協力のもとで設立された国際機関であり,世界の数カ 所に設置された地域警報センタを中心とするネットワー クにより,太陽地球環境についての迅速な観測データの 交換,配布,及び太陽活動,地磁気活動の予報を業務と している。当所は西太平洋地域警報センタに指定されて おり,企画部通信係と平磯支所超高層研究室がその実務 を担当している。
 筆者は上記二つの会合に出席すること及び,IUWDS の世界警報本部を務めているNOAAの宇宙環境サービス センタ(SESC)の訪問を目的として,4月21日から12 日間米国に出張したのでその概要を報告する。
  太陽地球環境予報国際ワークショップの概要
 ワークショップのプログラムは,Donnelly博士 (SEL/NOAA)を議長とする15名のプログラム委員会によ って計画された。会議は各1.5時間ずつ3回の総会のほ かには,すべて表に示す14の作業班の個別討議または, いくつかの作業班合同の討議に費された。参加者はすべ て作業班の議長またはプログラム委員会の招待に基づい て決定され,およそ180名程であった。筆者は作業班C3 のメンバーとして招待されたが,電離層の研究者として よりは,平磯支所における予報業務担当者として参加し たいと考え,作業班B1の討議に加わった。このワーク ショップの一つの特色は,提出された180編をこす論文 を関連する作業班のメンバーが予め読んでおき,これに 基づく議論も各作業班の議長を中心に手紙によって進め ていたことである。従って,各作業班の会合の進め方は 議長によって綿密に計画され,実質的な討議に大部分の 時間をあてることができた。なお提出された論文は,通 常の査読を経た後,各作業班の報告とともに54年度中に 出版されることになっている。
 23日朝,開会に続く総会のおわりに,予報業務担当者 が壇上に並び,業務の紹介や問題点の指摘を行うセッシ ョンがあった。筆者も呼び出され,当所の業務として, 電波予報研究室の月間電波予報,平磯支所の電波警報及 び気象衛星センタとの地磁気嵐予報に関する共同作業開 始のきっかけとなったGHz帯衛星電波のシンチレーショ ンについて5分程度で紹介を行った。これについては, 作業班E2の議長のKlobucher博士が興味を示し,E2 の会合で詳しい説明をするように要請された。残念なが ら,B1のグループから離れる時間がとれないので,休 憩時間に当所の新野,小川両博士による論文の下書きを 見せて説明した。
 筆者が参加した作業班B1の課題は,太陽風と磁気圏 の相互作用であり,地磁気じょう乱予報の核ともいえる ものである。地磁気じょう乱は太陽風の速度,密度,太 陽風磁場の南向き成分の大きさに強く支配されており, 最近では,これら諸量の観測結果から地上で観測される 地磁気じょう乱を,計算によってかなりうまく再現する モデルもできている。従ってこの作業班の中心課題は, いかにして太陽風観測のリアルタイム・データを予報の ために利用できる体制をつくりあげるかということであ り,昨年秋に打ち上げられたISEE-3の利用が検討さ れた。また,地磁気じょう乱の原因となる高速の太陽風 を磁気圏到達以前に知るために,電波星のシンチレーシ ョンによる太陽風観測,軟X線による太陽面観測につい ても討議され,その重要性が確認された。そのほかの話 題としては,一般の予報利用者は地磁気じょう乱指数を 重視しているとの認識から,その拡充を目的とした議論 がなされ,指数の即時的決定,新しい指数として極冠帯 の大きさの導入等の必要性を作業班の勧告に入れること になった。
 4月27日午前の総会で各作業班の提出するレポートの 概要が紹介された。これを逐一述べることはできないが, きわめて大ざっぱにいえば,今まで行われてきた太陽・ 地球物理学の研究は更に進めるべきであり,更に観測結 果の即時利用によって予報は大きく進歩するという考え が貫かれていた。最後に,予報技術をカタログ化して常 にどこか(例えばWDC-A)に登録しておくこと,この ワークショップが数年毎に開催されるよう努めることの 提案があった。いずれも結論には達しなかったが,参加 者の期待・意気込みを感じさせる提案であった。


作業班とその議長

  IJWDS会合の概要
 4月25日午前中の予定で始まったIUWDSの会合は, 重要話題が多く同日夕刻まで延長された。出席者も,米 国,オーストラリア,ポーランド,日本,インド,フラ ンス,西独の各警報センタから1〜2名の他,SMY (Solar Maximum Year,1979年8月〜1981年2月)の関連で数 名の計約20名に達する,IUWDSとしては例外的に大き な会合であった。今回の討議内容の主なものは, (1) SMYにおける太陽観測指令の連絡体制で警報センタの果 たす役割の確認,(2) 太陽活動,地磁気活動のじょう乱 警報の発令基準の改訂及び確認という実務的打合せのほ か,(3) 最近の観測技術の進歩に伴って,新しくウルシ グラム(テレックスによる国際データ交換)に組み込む データに関する討議などであった。特に(3)では,磁気嵐 の原因になる高速太陽風の吹き出し口と考えられるコロ ナホールの観測結果がウルシグラムに取り入れられる見 通しとなった。
 このほか今回の新しい動きとして,各警報センタ間の 人的交流の促進,各センタにおける即時データ収集の促 進が特に望まれるとの提言が多く出された。特に日本に 対しては,東京天文台のフレア光学観測,太陽電波スペ クトル観測,名古屋大学の電波星シンチレーションによ る太陽風観測等のデータの迅速な入手に努力するように 非公式な申し入れがなされた。今後の重要な課題である。
  宇宙環境サービス・センタ(SESC)の概要
 4月27日の午後と30日の午前中にSESC訪問の機会を 得た。SESCは一般の人達に常時開放されていて,誰で も勝手に入室して各種の表示を見たり,予報官に質問し たりすることができる。ここに集められる太陽地球環境 データは実に豊富で,太陽風を除いて,現在常時観測さ れているあらゆる必要な情報があると言っても過言では ない。データ入手はSESCが自前で先端的観測装置を備 えているほかに,内外の著名な観測機関の観測結果の毎 日の送付によっている。このような外部機関の協力は, SESCが入手したデータを総合的にまとめて研究機関に フィードバックする等の活動が十分に評価されているた めに得られるものと考えられ,当所でも考慮すべき問題 のように感じられた。SESCの運営形態で非常にうらや ましいと思ったことは,ERL内の研究者グループが警報 センタの業務に参加していることである。第一線の研究 者が警報業務に携わることにより,彼等の太陽地球環境 物理現象の理解にもとづく深い洞察力が,太陽地球環境 の現状把握に大いに生かされる。また同時に最新の研究 成果がより早く予報技術にとり入れられるという利点も ある。ERLの研究者は毎日の太陽活動,地磁気活動 の追跡のなかに,自らのアイデアの確認,未知との遭遇 を求めて積極的に警報業務に参加しているように感じら れた。
  おわりに
 今回の出張の主要目的である二つの会合とSESC訪問 について概要を説明した。そのほか出張にあたっていく つか個人的に期待したこともあったが,ほとんどすべて 達成された。特に,(1)180名の参加者のうち約70名程 の人達と親しく話し合えたこと,(2)筆者の念頭にある 磁気嵐と太陽面現象との関係についての研究計画につい てNOAAのDryer博士他数人からの意見がきけたこと, (3)Kitt Peak天文台のHarvey博士からコロナホールの データを研究用として入手する見通しがついたこと等は 筆者にとって大きな成果であった。
 短期間で忙しかったが,収穫の多い楽しい出張であっ た。このボウルダへの出張の機会を与えて下さった田尾 所長はじめ関係の方々,特に早くからこのワークショッ プに筆者の目を向けて下さった羽倉元調査部長,桜沢平 磯支所長に感謝の意を表して出張報告としたい。

(平磯支所 超高層研究室長)


短   信


超高周波伝搬研究室の発足

 7月14日付で,別記の衛星研究部二分割とともに,従来 の電波部電波気象研究室が標記のとおり名称変更された。
 ミリ波帯電波の研究開発が取り上げられてから20年以 上になるが,近年の通信需要の増大,リモートセンシン グ技術の進展に伴い,1971年のWARC-ST,今秋開催 予定のWARC-79でもミリ波に対する関心が高まって きている。当所にはかつて(昭和31年10月1日〜昭和42 年5月31日)超高周波研究室があり,35GHz帯電波の伝 搬実験,ミリ波機器の研究開発を行った。また,最近で はETS-K(きく2号)によるミリ波伝搬実験を行い, 多大の成果を収めており,さらに,昭和52年度からは「周 波数資源の開発」の一項として「40GHz以上の電波伝搬 の研究」を実施しているところである。
 以上の状況から,超高周波領域の電波伝搬特性の研究を なお一層積極的に推進するとともに,従来の概念の気象現 象(大気屈折率変動,前線,逆転層等)だけでなく非電離媒 質全般の伝搬特性を研究するため,超高周波伝搬研究室が 発足したものであり,言わば超高周波研究室の復活である。



研究施設一般公開の実施

 当所の創立を記念して,8月1日10時〜16時の間,本 所並びに地方機関の施設を一般に公開した。
 当日は猛暑にもめげず,多数の見学者が訪れ,どの研 究室も超満員,職員も見学者の熱心な質問の応対に大童 であったが,内容については極めて好評であった。
 なお,本所の公開の模様は,新設のビデオシステムに より収録した。
 見学者数は次のとおりである。
     本 所      566名
     支 所  平磯: 96名
          鹿島: 308名
     観測所  稚内: 60名
          秋田: 92名
          犬吠: 36名
          山川: 100名
          沖縄: 85名