所 長 田 尾 一 彦
昭和54年7月14日から当所の組織を一部変更して衛星 通信部及び衛星計測部を新たに発足させることになった。 これは旧来の衛星研究部を改組し衛星通信を担当する衛 星通信部及び衛星によるリモートセンシングを担当する 衛星計測部の二部を設置し、従来にも増して責任ある体 制の下に組織的に研究を促進して行くことを目指したも のである。発足に際し組織改正の経緯を述べ,あわせて 新しい両部の将来の指向する方向について述べてみたい。
先づ,衛星通信部に関して所掌するその研究分野を述
べてみると,第一衛星通信研究室においては固定地点間
の衛星通信システムに関する研究並びにそれに必要な衛
星搭載用通信機器に関する研究を行うことになっている
。
第二衛星通信研究室においては衛星放送システムに関
する研究並びにそれに必要な衛星搭載用通信機器に関す
る研究を行うことになっている。
第三衛星通信研究室においては移動体,航行衛星通信
システム及び衛星間通信システムに関する研究並びにそ
れらに必要な衛星搭載用通信機器に関する研究を行うこ
とになっている。
次に衛星計測部の方であるが,第一衛星計測研究室に
おいては衛星による対流圏以下の領域についての計測に
関する研究,並びにそれに必要な計測装置に関する研究
を行うことになっている。
第二衛星計測研究室においては衛星による電離圏以上
の領域についての計測に関する研究,並びにそれに必要
な計測装置に関する研究を行うことになっている。
宇宙開発委員会は昭和53年3月17日,新たに「宇宙開
発政策大綱」を決定し,今後15年間に具体化すべき宇宙
開発プロジェクトを示しているが,当所においても,こ
の大綱に沿って衛星利用の移動体通信技術の開発を目的
とする航空・海上技術衛星(AMES)を関係各省庁と共
同して推進している。移動体との通信及び衛星間データ
中継を目的とする通信技術衛星(ACTS-G)に関連す
る衛星用マルチビームアンテナの研究開発も計画されて
いる。またISS-bの成果を踏まえて,さらに宇宙及び地
球の電磁環境のリモートセンシングを主目的とする電磁
環境観測衛星(EMEOS)計画や,既に研究が開始され
ている衛星搭載用能動型電波リモートセンサの研究開発
等いくつかの先行的な宇宙関連プロジェクトが考えられ
ている。それらの計画は現在所内に設けられている宇宙
開発計画検討委員会,並びにその下部組織である航空・
海上技術衛星,通信技術衛星,観測衛星,計測衛星,未
来構想衛星の各小委員会において全所的な知識を総合し
て検討されている。宇宙関連の研究プロジェクトは大型
のプロジェクトでありコンピュータの有効な使用を始め
として関連各部の協力を得ながら実施されて行くことに
なるが,とりわけ上記研究計画の中で宇宙開発委員会の
決定に従い具体化してきた課題については,それに付帯
する基礎研究を含めて新たに発足した衛星通信部及び衛
星計測部の各研究室が中心となって進められることにな
ろう。
電波の有効利用の大きな分野である通信と計測に関し,
当所が今後とも重点を置いて研究開発を進めて行かねば
ならない衛星利用の宇宙研究の分野において,衛星通信
部と衛星計測部とが新たに設けられたことは誠に時宜を
得たものであり研究開発の責任体制を一層明確にしてわ
が国の宇宙開発進展のためにも寄与出来るよう関係職員
の一層の努力研さんを切望する次第である。
鹿 島 支 所
はじめに
図1 SSRAシステムブロック図
図2 SSRA通信方式におけるスペクトル拡散と相関受信の説明図
拡散変調部でスペクトルの拡散を行う。その方法には
色々あるが,ここでは疑似雑音符号(以下PN符号とい
う)によるスペクトル拡散の場合を説明する。
変調信号の10^2〜10^6倍高速のクロック周波数fPNで駆
動された±1の値をとるPN符号c(t)(図2(2)参照)と
b(t)の積により,SSRA信号s(t)(図2(3)参照)が求まる。
s(t)は次のように記述される
s(t)=c(t)×b(t)
s(t)の帯域幅Wは,ほぼc(t)の所要帯域幅に等しく,
PN符号のクロック周波数fPNの2倍であり,帯域の拡張
率をプロセス利得Gpという。
Gp=2fPN/B=W/B
s(t)は,無線周波数(RF)に周波数変換された後,
電力増幅され,アンテナより相手方へ送信される。
以下,説明を簡単にするため送受間の遅延を無視して
話をすすめる。
受信側では送信側とは逆に,アンテナで受信された信
号はRF増幅され,次に周波数変換されてs(t)となり,
拡散復調部へ入力される。拡散復調部では,受信SSRA
信号と同期したPN符号c(t)が発生され(図2(4)参照),
s(t)との積により次式に示すように拡散復調される。
s(t)×c(t)=(b(t)×c(t))×c(t)
=b(t) (∵c^2(t)=1)
以上の操作により送信側と同じFM信号b(t)が復元さ
れ(図2(5)参照),情報復調部でFM復調されると,情報
信号a(t)が得られる。
しかし,受信SSRA信号と同期したPN符号が得られ
ないと,上述の狭帯域信号の復元が不可能となり,広帯
域信号のままとなる。図2(6)に示したものは,PN符号
の1チップ△t=1/fPNの1.5倍の時間遅れのあるPN
符号である。この信号で受信SSRA信号と積の操作を行
うと図2(7)に示す結果となり,スペクトルは拡散したま
まとなる。
非希望SSRA信号s'(t)が受信された場合の受信機動作
について説明する。拡散復調部の動作は,s'(t)と局発PN
符号c(t)との積を行うことで,次式のようになる。
x(t)=s'(t)×c(t)
=(c'(t)×b'(t))×c(t)
=r(t)×b'(t)
ただし
r(t)=c'(t)×C(t)
r(t)は,上式に示すように,異種PN符号の積の信号
である。x(t)と信号s(t)の数式上の類似性から,信号x(t)
は,c(t)のPN符号の代わりに信号r(t)でFM信号を
拡散変調したものと同じであることが理解できる。
そして,x(t)の中心周波数fc近傍における電力スペク
トル密度は,Pを1局あたりの平均電力とするとP/fPN
となる。
従って,同時通信局数がK局の場合,拡散復調出力投
のIFにおける雑音電力密度は,Noを受信機雑音電力密度
とすると,
となるので,搬送波信号対雑音電力比(CN比)は,次
のように求まる。
ここで(C/N)IF及び(C/N)RFは,それぞれ拡散復
調後のTF帯域幅Bにおける拡散復調後のCN比と拡散復
調前の帯域幅Wにおける拡散復調前のCN比である。こ
の式より,拡散復調によりGpのCN比改善効果が得ら
れることがわかる。
CN比から信号対雑音電力比(SN比)を求めること
は,一般のFMにおけるSN比を求めることと同様にし
て得られる。
図3 異種PN符号どうしをかけ算して得られる信号の波形
衛星通信回線への適用
衛星における通信形態には,一般に多元接続
(Multiple Access)方式が採用されている。これは一つの衛星を多
くの地球局で共通に同時に利用するもので,それを可能
にするためには,局識別のゲート操作が必要となる。ゲ
ートの手段としては,周波数ゲート,時間ゲート及び符
号ゲート方式があり,それぞれに対応し周波数分割多元
接続(FDMA),時分割多元接続(TDMA)及び符号分割
多元接続(CDMA)と呼ばれている。SSRAはCDMAに
属するもので,PN符号により局識別を行う。3方式を
周波数−時間の座標上で表現すると,図4のようになる。
FDMA方式は全時間軸上を占有するが,周波数軸はある
一部のみしか占有しない。その逆がTDMA方式である。
これに対しSSRA方式は時間軸と周波数軸の全領域を占
有する。卑近な言い方をすれば,密に占有するのではな
く,非常にうすく隙間だらけで占有する。この隙間が一
ぱいに埋まるまで同時通信局数が増やせるものと見てよ
い。
運用上から見ると,FDMA及びTDMA方式は,それぞ
れ周波数軸と時間軸を厳しく監視・統制及び制御するた
めの中央局や基準信号などが必要となる。そのため自由
度があまりないが,衛星を使用する上でムダがなく利用
効率がよい。これに対しSSRA方式では,隙間が埋まる
まで,通信は自由にランダムに行われ,自由度が大きい
というメリットがある。システム設計で,初期接続の能
力を通話が出来なくなる限界と一致させておき,一たん
同期がとれたものは,同期系のループ帯域幅を狭くする
ことで同期保持能力を向上させる。このようにすると,
空チャンネルがない状態で発呼した場合,決められた時間
内に返答がなければ空チャネルがなしと判断し,数分間
待って発呼すればよい。すでに通話中のチャンネルは,
同期保持能力が向上しているので,これらの発呼による
影響は通話品質が幾分劣化する程度である。更に,衛星
中継器へ入力する各SSRA信号のレベルが一定となるよ
う,各局で電力制御する規則を採用すれば,中央統制局
などは不要で,運用上非常に楽な,真にランダムアクセ
スに近い通信形態となる。この点が他の多元接続方式と
比べSSRA方式が有利な点である。
図4 衛星多次元接続の分類
むすび
専門外の人にも理解できるようにという依頼で,SSRA
の原理と衛星へ適用した場合のメリットについて説明し
た。他の文献を参照することなく,理解できるように記
述したつもりであるが,紙面の都合上,十分,意が満た
せない部分がある点は御容赦願いたい。
(通信機器部通信系研究室 主任研究官 横山光雄)
丸 橋 克 英
はじめに
作業班とその議長
IJWDS会合の概要
4月25日午前中の予定で始まったIUWDSの会合は,
重要話題が多く同日夕刻まで延長された。出席者も,米
国,オーストラリア,ポーランド,日本,インド,フラ
ンス,西独の各警報センタから1〜2名の他,SMY
(Solar Maximum Year,1979年8月〜1981年2月)の関連で数
名の計約20名に達する,IUWDSとしては例外的に大き
な会合であった。今回の討議内容の主なものは,
(1) SMYにおける太陽観測指令の連絡体制で警報センタの果
たす役割の確認,(2) 太陽活動,地磁気活動のじょう乱
警報の発令基準の改訂及び確認という実務的打合せのほ
か,(3) 最近の観測技術の進歩に伴って,新しくウルシ
グラム(テレックスによる国際データ交換)に組み込む
データに関する討議などであった。特に(3)では,磁気嵐
の原因になる高速太陽風の吹き出し口と考えられるコロ
ナホールの観測結果がウルシグラムに取り入れられる見
通しとなった。
このほか今回の新しい動きとして,各警報センタ間の
人的交流の促進,各センタにおける即時データ収集の促
進が特に望まれるとの提言が多く出された。特に日本に
対しては,東京天文台のフレア光学観測,太陽電波スペ
クトル観測,名古屋大学の電波星シンチレーションによ
る太陽風観測等のデータの迅速な入手に努力するように
非公式な申し入れがなされた。今後の重要な課題である。
宇宙環境サービス・センタ(SESC)の概要
4月27日の午後と30日の午前中にSESC訪問の機会を
得た。SESCは一般の人達に常時開放されていて,誰で
も勝手に入室して各種の表示を見たり,予報官に質問し
たりすることができる。ここに集められる太陽地球環境
データは実に豊富で,太陽風を除いて,現在常時観測さ
れているあらゆる必要な情報があると言っても過言では
ない。データ入手はSESCが自前で先端的観測装置を備
えているほかに,内外の著名な観測機関の観測結果の毎
日の送付によっている。このような外部機関の協力は,
SESCが入手したデータを総合的にまとめて研究機関に
フィードバックする等の活動が十分に評価されているた
めに得られるものと考えられ,当所でも考慮すべき問題
のように感じられた。SESCの運営形態で非常にうらや
ましいと思ったことは,ERL内の研究者グループが警報
センタの業務に参加していることである。第一線の研究
者が警報業務に携わることにより,彼等の太陽地球環境
物理現象の理解にもとづく深い洞察力が,太陽地球環境
の現状把握に大いに生かされる。また同時に最新の研究
成果がより早く予報技術にとり入れられるという利点も
ある。ERLの研究者は毎日の太陽活動,地磁気活動
の追跡のなかに,自らのアイデアの確認,未知との遭遇
を求めて積極的に警報業務に参加しているように感じら
れた。
おわりに
今回の出張の主要目的である二つの会合とSESC訪問
について概要を説明した。そのほか出張にあたっていく
つか個人的に期待したこともあったが,ほとんどすべて
達成された。特に,(1)180名の参加者のうち約70名程
の人達と親しく話し合えたこと,(2)筆者の念頭にある
磁気嵐と太陽面現象との関係についての研究計画につい
てNOAAのDryer博士他数人からの意見がきけたこと,
(3)Kitt Peak天文台のHarvey博士からコロナホールの
データを研究用として入手する見通しがついたこと等は
筆者にとって大きな成果であった。
短期間で忙しかったが,収穫の多い楽しい出張であっ
た。このボウルダへの出張の機会を与えて下さった田尾
所長はじめ関係の方々,特に早くからこのワークショッ
プに筆者の目を向けて下さった羽倉元調査部長,桜沢平
磯支所長に感謝の意を表して出張報告としたい。
(平磯支所 超高層研究室長)