新幹線電波雑音の測定について


通 信 機 器 部

  はじめに
 国鉄新幹線は一般の電気鉄道と同様に,走行中振動に より,パンタグラフがトロリー線から離線するとき,放 電現象を伴い,このときパルス性の電波雑音を発生し,沿線 のラジオやテレビに妨害を与える。今,全国各地に新幹線 の延長工事が進められているが,日本国有鉄道では,鉄 道通信協会に委嘱して,「高速運転に伴う電波雑音防止 に関する研究委員会」を設け,NHKその他の関係機関 の協力のもとに,電波雑音の研究や対策を進めている。
 電波雑音を従来の妨害波測定器を用いて測定した研究 結果は既に報告されている。我々は先にVHF帯電波雑音 の振幅確率分布(APD:Amplitude Probability Distribution), 雑音振幅分布(NAD:Noise Amplitude Distribution)の測定 器を試作し,都市雑音や自動車雑音の測定を行ってきた が,今回上記委員会に協力して,この測定器を用いた新 幹線電波雑音の測定を行った。なお測定実験は東北新幹 線試験線の試験列車および東海道新幹線の営業列車につ いて実施したものである。
  測定の概要
被測定列車
  東北新幹線: 
961試験列車(新型車で速度制御にサ イリスタを使用)6両編成 全長150m パンタグラフ3個 速度70〜210/h
 東海道新幹線: 
営業列車 16両編成 全長400m パンタグラフ8個 速度約200/h
測定場所と日時
  東北新幹線: 
栃木県小山市郊外(小山試験線68q地点)
1978年8月31日〜9月1日
 東海道新幹線: 
神奈川県平塚市郊外
1978年12月4日〜5日
測定周波数
  東北新幹線: 100,200MHz
 東海道新幹線: 50,100,200,400MHz
測定器
 APD,NAD測定器 帯域幅80kHz(6dB帯域幅)この 測定器の詳細については本ニュースNo28を参照されたい。
アンテナ
 半波長ダイポールアンテナ,水平および垂直偏波,水 平偏波の場合アンテナは軌道に平行,設置位置は東北新 幹線では軌道から65m,東海道新幹線では50m,高さ3m (図1)


図1 測 定 位 置

測定器の動作
 この測定器は分布測定のためのレベルは4dBごとに11 段階に測定されている。今回の実験における分布の測定 時間は0.5秒とした。それに続く0.353秒間に測定結果 をデータ・レコーダに記録する。したがって0.853秒 毎にデータが連続して収録される。例えば,列車の長さ 400m,速度200q/hの場合は列車がアンテナの前を通り 過ぎる時間は7.2秒であり,この間に8個のデータが測 定されることになる。APD,NADは同時に測定される。 また,このAPD,NADから計算によって準尖頭値を求める ことができる。
  測定結果
APD,NADの形状
 同一列車について,アンテナの前方を通過中に連続し て測定したAPD(図2),NADの形状は殆んど同じである。 ただし準尖頭値のレベルには±1dB程度の変化がある。ま た,他の列車のAPD,NAD(図3)についても,準尖頭値 のレベルは違っていても形状にはあまり変化はない。さら に周波数の違いによる形状の差もあまりないようである (図3)。測定周波数がVHF帯で帯域幅が80kHzと測定条 件を限定した場合には,周波数,列車に拘わらず分布の形 は大体同じと考えられる。この形状は自動車雑音のそれ に比べると,傾斜が緩やかで時間率が大きい。電波技術 審議会旧答申規格の準尖頭値のレベルを越える時間率は ほぼ0.1%である。ちなみに自動車雑音の場合は0.05% である。新旧両規格による測定値の差は約3dBで,新 規格による方が低い値となる。また旧規格の測定のため に必要とする準尖頭値のレベルを越える直線範囲は6〜 8dBあればよい。


図2 同一列車の振幅確率分布(APD)


図3 異なる列車の雑音振幅分布(NAD)

 東北新幹線での測定では,8月31日と9月1日の測定 で分布の形が著しく違った結果が出た(図4)。8月31日 の分布は東海道新幹線の場合に近いが,9月1目の分布 はパルスの数が前日に比べて約1/10である。準尖頭値のレ ベルも8dB程度低いが,これは個々のパルスのレベルが 低いのではなく,パルスの数の減少による測定器の検波 能率の低下のためと考えられる。この原因としては31日 の夜,雨が相当強く降ったため何らか条件が変ったこと によるものとも考えられる。


図4 1列車通過に伴う累積パルス分布

APD,NADから計算により求めた準尖頭値
 周波数特性: 図5は列車がアンテナの前を通過中の データから計算によって求めた準尖頭値の平均値の周波 数特性である。測定点が上り線路に近いため,幾分上り列 車の雑音強度が大きい。水平垂直両偏波の差はあまり ない。


図5 雑音電界強度(準尖頭値)の周波数特性

 列車通過に伴う雑音レベルの距離特性: 図6は列車 の走行距離と準尖頭値の関係を表わしたものであるが, 横軸(図1のD)は列車の中心とアンテナの直前の線路 上の点との距離であり,縦軸は準尖頭を表わす。また図 中のrはアンテナに近い方の列車の端とアンテナとの距 離である。列車が近づいてくるとき,または遠ざかると きは,列車の端のアンテナに一番近いパンタグラフから の雑音が測定点では支配的であると考えられる。列車の 前(後)端が受信点に最も接近した時,列車の中心はそ れよりも200m(列車の長さの1/2)だけ離れているから, 1/rの曲線を図では200mだけ中心からずらして実測値の上 に重ね合せてある。図から,列車が測定点から離れてい くときは1/rの距離特性で雑音レベルが減少し,近づいて くるときは増大する。
 列車の速度と雑音レベル: 東北新幹線では列車の速 度を変えて試験を行った。110q/hと210q/hでは後者 のときの方が約20dB雑音レベルが高い。


図6 列車通過に伴う雑音レベルの変化

  おわりに
 一般に使われている準尖頭値の雑音測定器に対しては, いかなるパルス性の電波雑音の測定にも対処できるよう に,大きな過負荷係数が要求されている。このために測定 器に使われている指示計の目盛範囲は極端に狭くなって いる。このことは通過する電車からの電波雑音のように 急速にレベルの変化するものを測るのに大変不便である。 また広い指示範囲を得るために対数目盛表示を使用する 場合,検波出力をフィードバックして,中間周波増幅器 の利得を制御する方式が多く採用される。この場合,フィ ードバックの時定数は検波器の時定数に支配されるため, 雑音レベルの変化がこの時定数より早い場合は,測定値 が不正確なものとなる。これらの理由から,新幹線の電 波雑音を普通の雑音測定器を用いて正確に測るためには, 測定器の選択とその使い方が大変むずかしい。これに対 し,APD,NADから準尖頭値を計算によって求める場合 は,準尖頭値測定器の場合と異なって対数増幅器等を使う ことができ,測定可能なレベル範囲を相当広くとること ができる。したがって雑音のレベルが急速に大きく変化 するときでも,このレベルを正確に求めることができる。
 東北新幹線の8月31日と9月1日の測定における準尖 頭値間の大きなレベル差は分布の測定結果から,個々の 雑音パルスのレベル差ではなく,パルスの個数の差であ ることがわかった。このようにAPD,NADの測定は準 尖頭値等の単一のパラメータの測定に比べ,雑音の特性 をより詳細に知ることができる。このことは雑音が放送 や通信に与える妨害の程度を予測するのに有効であり, また雑音による受信妨害の研究に必要な雑音シミュレー タの製作に役立つものと考えられる。さらにパンクグラ フのすり板の改良等による雑音抑止効果を調べるために も有効である。
 ここに報告した結果をもって新幹線の雑音の一般的特 性として論ずるにはまだデータ不足であると考えられる。 この実験結果を踏まえて,より綿密な計画のもとに再度 実験を行う計画である。また,これには帯域幅を変えた分 布の測定,パルスの間隔の分布の測定等,新しい測定項目 も加える予定である。
 おわりに,本実験の機会を与えて下さった日本国有鉄道 の関係者の方々に深く感謝する次第で ある。

  通信方式研究室
   主任研究官 小口哲椎
  標準測定研究室
   主任研究官 杉浦 行



IECシドニー会議に出席して


久保田 文 人

 第44回IEC(国際電気標準会議)大会は昭和54年5月 21日から6月2日までの2週間,オーストラリアのシド ニーで開催された。この会議の目的は,電気及びエレク トロニクスの分野における標準化について国際協調を促 進することである。筆者は無線通信専門委員会(TC12) と移動無線小委員会(SC12F)に出席し,引き続き6月 4日から8日,メルボルンで開かれた作業班 (SC12F/WG1)にも参加した。当所からIECには村主総合研究 官(TC12日本国内委員会委員長)が昭和51,52年の2回 出席し活躍されている。今回は南半球で開かれる初めて の大会で,総会,理事会と約80ある専門委員会のうち9 つとその分科委員会に35ヵ国から約600名の代表が集ま り,日本からは地の利もあって32名の多数が参加した。
 IECはISO(国際標準化機構)よりはるかに古い歴史 を持っているが,政府間機構というより技術者(学会,メ ーカ等)の団体という色彩が強く,しかもヨーロッパ主 導の実状から従来わが国の寄与はそれほど活発ではなか った。近年,国際貿易上の様々な問題が表面化するにつ れ,国際規格というものについて我が国もこれまでの受 動的な姿勢を改めざるを得なくなっている。昭和52年, 高木昇IEC会長の誕生はその意味でわが国のIEC活動の 歴史に一頁を記すものである。
 移動無線(SC12F)はどちらかというとアメリカ主導 型で進んできており,移動体通信が無線通信の中で最も 大きい比率と関心を占める現在,アメリカは一層これに 力を入れると宣言している。我が国では業務用機器とい うことで従来あまり熱心な寄与がなかったが,国内委員 会発足から8年経過し,情報収集の段階からより積極的 な活動へと向っている。今回SC12F及びそのWG1で議 論され,継続となっている主要なテーマは,
 (1)隣接チャネル電力の測定法
 (2)携帯用無線機の輻射測定のための人体シミュレータ
 (3)輻射測定用テストサイトの研究
 (4)自動車雑音等に対する受信機のimmunity(妨害排 除能力)評価のためのNAD(雑音振幅分布)測定法
 (5)データ伝送系の性能測定法
などいずれも地味であるが重要な問題である。隣接チャ ネル電力については陸上移動FM狭帯域化の動きに関連 して強い関心が寄せられている折でもある。またNAD測 定にはSC12FとCISPRとの間で若干の考え方の相違 があり,国内的にも十分な調整がとれていない状況であ るが,SC12FのまとめるNADレポートは発行が決まって いる。この他compliance test method(認証試験法)が SC12Fの新しい作業となった。


第44回 IEC大会の構成

 WG1はメルボルン郊外のフィリップス社を会場に開 かれた。日本からの出席は初めてのことで心配であった が,幸いシドニーからメルボルンへのWG貸切バス旅行 に始まり,寝食を共にする極めて密度の濃い一週間を楽し く過ごせたことは,大変有意義であった。WGに出席し てみて,メンバー一同の倦むところを知らない熱心さと あくまでコンセンサスを得ようとする議長の努力と意志 に強い感銘を受けた。毎日正面きって鋭くやり合ってい ても夜,ホテルで誰かの室に集まった面々は皆一様に屈 託がなかった。


メルボルン会議のWG1のメンバー

 無線通信部門では今回は表の6分科委員会が開かれ, 日本から13名が出席した。最近の動きとして従来,無線 通信技術に関する測定法の標準化がこれら委員会の作業 の中心であったが,SC12A,Gでは性能規格へ一歩踏み 出そうとしている。これが他のSCに及んだ場合,現に性 能規格を定めている他の国際機関(CCIR,EBU等)との 協調が問題になると考えられる。SC12Aは日本が幹事国 を引き受けている数少ない委員会の一つで,国際市場で の日本の割合が大きく,今後とも他のSCとともに日本の 活動が不可欠である。
 最後にこの会議をかえりみて,電子航行装置に関する 新しい委員会(TC80)の設立,SC12Eの幹事国をアメリ カが辞退したこと,SC12A,Gの次回会議を来年日本へ 招請したことなどトピックスにこと次かず,筆者にとっ て又とない貴重な体験であった。この機会を与えられ, また様々な形でお世話になった関係者の方々に厚く感謝 いたします。

(通信機器部 機器課)




カナダにおけるISS-bの運用協力について


沢路 和明

 昭和53年2月16日に打ち上げられた電離層観測衛星 (ISS-b「うめ2号」)は,その後も順調に運用されている。 特に同年8月から12月にかけての連続的観測により,世 界で初めての電離層臨界周波数と雷放電発生頻度世界分 布図などが作成され,ISS-bの所期目的達成に向けて大 いなる第一歩を記した。
 ところで,ISS-bの汎世界的観測は,搭載テープレコ ーダを利用した鹿島支所の一局運用で行われてきた。運 用局をふやし,効率的スケジュールにより運用すれば, ISS-bの地球経度方向の観測軌道分布はさらに均一化さ れ,一層充実した観測データの取得が可能になる。そこ で,当所は約10年も前から国際電離層研究衛星 (Alouette/ISIS)の観測運用に協力してきたカナダ通信省通信研 究センター(CRC)にISS-b運用協力を要請していたとこ ころ,本年4月から試験運用が開始されることになった。
 CRCによるISS-bの運用協力に関しては,当所所長と カナダ通信省次官補(Dr.J.H.Chapman)との間に協力受 諾の書簡交換がなされるとともに,当所と宇宙開発事業 団との間に「ISS-bの管理運用業務の分担及び実施 に関する協定」(昭和53年2月15日)に基づいて「カナダ 国CRCが実施するISS-bの利用実験についての取決め」 (昭和54年3月16日)が締結され実施されることになった。 この取決めには,取員を派遣してCRCでの運用がISS-b に支障を与えないことの確認を行う旨,定められている。 筆者は,CRC(オタワ局)におけるISS-bの運用施 設,運用状況等を確認し,運用についての打合せを行 う目的で本年5月21日から30日まで出張したのでその 概要について報告する。


CRC(オタワ局)のテレメントリ・アンテナ コマンド・アンテナ(後方右)
後方左はCTS用USBアンテナ

  運用施設
 ISS-bの運用協力の行われているCRCは、通信省庁 舎のあるオタワ市中心から西方約25qの緑野の郊外にあ り、通信省の4つのBureauのうちSpace関係は5つの Branchからなっている。運用施設は、このCRCの Space Technology & Applications Branch (Director General:Dr.B.C.Blevis)の Space Communications Program Office(Director:Dr.N.G.Davies) 内のSatellite Ground Gontrol Center(Chief:Mr.J.D.R.Boulding) のISIS関係施設が流用されている。このControl Center では,ISIS-T(1969年1月30日打上げ)、同U(1971年4月1 日)、CTS(1976年1月17日)の運用管制はもとより,運 用計画の作成,取得データの処理・編集・解析,データ 伝送等,一連の総ての業務が行われている。ちょうど, 鹿島支所と小金井本所の関連業務が,このControl Center 内で一貫して行われている感じである。
 コマンド系(148MHz帯)は,コマンド符号装置,送 信機(出力2kW,通常1kWで運用),予備送信機 (出力50W ISIS用)、8素子9段八木アンテナ(Az-El型)等 である。アンテナは,テレメトリ・アンテナに追従して 駆動され,中央の1本だけがコマンド用で他はテレメト リ・アンテナ(136MHz帯)のバックアップ用となって いる。
 テレメトリ系(136MHz,400MHz帯)は、18mφパ ラボラアンテナ(Az-El型),受信機(AM,FM,PM), PCM符号解読装置,MTR,チャート・レコーダ等で ある。アンテナは,プログラム追尾方式で,紙テープ(時 間一秒ごとの角度値)によりアンテナ駆動制御装置を介 して駆動されている。ISISについては,PCM符号解読 装置によりコマンド照合がなされ,チャート・レコーダ には衛星コマンド受信機AGCレベルも記録されている。
 ISS-bについては,残念ながらソフトが無いため にこれらの機能はない。また,取得された観測データは, MTに記録され,当所へ送付される。
 これらの運用施設では,コマンド符号の設定,周波数 の切換え,レベル校正等が総てマニュアルで実施されて おり,鹿島支所の電子計算機による準集中制御システム に比べると前近代的な感じもするが,運用の経験では先 輩であるCRCの施設に不安は認められず,取得データ の質も良好である。
  運用状況
 前述のようなISIS,CTSに関する一連の業務と施設 の維持が公務員6名(うち課長1名,女性秘書1名)と 民間契約人(Contractor)30名,うち女性数名で実施さ れている。民間契約人は,官庁執務時間外のみならず常 時,交替で執務している。なお,CRCの人員は,150名 弱の民間契約人を含めて約500名である。
 ISISとISS-bの運用操作は,アンテナ制御系に1名, コマンド/テレメトリ系に1名,計2名が組んで16時間 交替で行われている。もちもん,この運用操作に伴う前後 の作業には他の要員も当っている。ISS-bは,当所か らのスケジュールに基づき原則として週4パス運用され るが,テレメトリ解読ソフトがなく運用時に衛星状態の 確認ができないので,衛星姿勢(Sun/Spin角)が90° ±45°の範囲外となる場合に生ずる主として衛星内部装 置の高温状態に対処するための運用制限期には,運用を 休止することにしている。
 運用上の主な問題点としては,148MHz帯の混信のた めにコマンドのかかりにくいことが多い。特に北米大陸 東部では軍用施設からの混信が大きいとのことで,同一 コマンドを27回も打って実行させたという例もある。も う一つ,下限電圧制御(UVC:Under Voltage Control) 作動に伴う問題がある。UVCは,衛星電源電圧が一定 値以下に低下すると自動的にエンコーダ,観測機器,テ ープレコーダ等の電源を切るため,運用開始とともにこ れらの電源を逐一入れなおした後,所定のスケジュール・ コマンドによる観測とデータ取得を実施しなければなら ない。これらの問題については,衛星状態監視機能のな いCRCでの運用を考慮して,同一コマンドを4回まで 打って衛星が運用可能状態にならなかった場合は,緊急 連絡により当所で対応措置を講ずることにした。
 CRCにおける運用協力の終了期限は,ISIS,CTS双 方の運用予算が本年10月一杯分までしかなく,stationも 閉鎖される予定になっているとのことで,残念ながら 10月で終了せざるを得ない。
 なお,この運用協力終了後,CRC関係者が来日し, 協力成果に関する会合が開催される予定になっている。
  その他のこと
 このControl Centerには,CTS用に9mφアンテナの USB運用管制施設と4mφアンテナ2基からなるKバ ンド実験施設がある。しかし,CTSのテレメトリ送信 機(出力2W)出力が10mW程度に低下し9mφアンテ ナでは受信不能になり,NASAの26mφアンテナ局で辛 うじて受信されたテレメトリ信号の提供を受けて運用さ れていた。
 CRCでは,80pから9mφまでの各種アンテナによ るANIK-B(1978年12月14日打上げ)のTV実験も行わ れていた。この衛星は,オーストラリアでの実験のため 近く移動されるとのことであった。
 なお,CRCからの帰路,トロント市のYork大学で, 同大学を中心に進められている雷放電の地上観測・研究 にISS-bのRAN観測データを提供することについて打 合せを行った。
  おわりに
 以上,CRCにおけるISS-bの運用協力の実状面か らみた概要を述べた。当所でもこのCRCの運用協力の 肩代りとして,従来からのISISの運用協力に加え夜間 の増運用を行っているところである。残り少ない協力期 間とはいえ,国際的研究と親善の実が結ばれることを祈 念したい。最後に,この出張について御配慮いただいた 関係各位に御礼申し上げるとともに,ISS計画を推進さ れておられる方々の努力と成果に敬意を表する次第であ る。

(調査部 国際技術研究室長)


短   信


宇宙開発計画見直し要望の審議結果

 郵政省が本年6月19日付で宇宙開発委員会に提出した 宇宙開発計画の見直し要望(本ニュース,No.40)はその 後,衛星系分科会,その上部組織である第一部会及び宇 宙開発委員会で審議され,8月29日,最終報告書である 「昭和55年度における宇宙開発関係経費の見積りについ て」の決定をみて,今年度の一連の見直し作業は総て終 了した。
 それによると,郵政省関連分としては,@実用放送衛 星について,昭和58年度に放送衛星2号-a(BS-2a) を,昭和60年度に放送衛星2号-b(BS-2b)を打ち上げるこ とを目標に開発を行う,A航空・海上技術衛星(AMES) については開発研究を行う,B金星探査衛星(VOIR) 計画については参加を予定し,金星電離層観測装置の開 発研究を行う,C電磁環境観測衛星(EMEOS)につい ては電磁環境観測を目的とする人工衛星について概念的 なシステムの研究を行う,D通信技術衛星(ACTS-G) については移動体通信技術開発を目的として,衛星用マ ルチビームアンテナ等の研究を行う,E衛星搭載用能動 型電波リモートセンサの研究はこれを進める,となって いる。



ラス・レーダ性能評価実験

 第二特別研究室では3年計画(本年度は最終年度)に よるラス・レーダ(電波音波共用探査装置,本ニュース No.33参照)の開発研究を実施しているところであり,目 下,探査性能向上を目指して装置各部の改造を進めてお り去る7月24日から8月10日までの期間には,福島県岩 瀬郡長沼町,長沼東小学校校庭の一部を借用して表題の 実験を実施した。
 実験の概要は次のとおりである。
(1)改造ラス・レーダの探査高度限界調査(1200mに達 した)
(2)一定配列のラス・レーダによる連続測定(毎正時か ら2分間,約3昼夜:探査高度は約200mより600m 位まで変化)
(3)低層ラジオゾンデ等との比較測定(ラス・レーダ側 定に及ぼす風の影響についての貴重なデータが得ら れた)
赤城山麓における空電離音の収録

 機器課では去る8月1日から14日まで赤城山麓で空電 雑音の収録を行った。これは1974年に採択された海上人 命安全条約の発効を明年5月に控え新しく義務検定の対 象機種となる2182kHz無線電話警急自動受信機の試験の 準備の一環である。この受信機は空電雑音に対する妨害 排除能力が特に重視されるが,空電雑音は発生時期,場 所などが不確定なので従来(500kHz無線電話警急自動 受信機の場合)から空電雑音をテープレコーダに収録し たものを試験に用いている。空電雑音収録は先にニュー ジーランド航路の船上においても行われ,電離層伝搬によ る遠雷,しゅう雨雑音などについて良好なサンプルを得た。 しかし,もう一つの代表的波形をもつ激しい近雷につい ては船上で遭遇しなかったので,今回はその近雷による 空電雑音をテープレコーダに収録した(帯域幅は20kHz)。 収録場所は雷の多発地帯として名高い群馬県北部の赤城 山麓を選んだ。ここは標高約800mの峡谷で,谷は関東 平野に向って開け,空電雑音の受信には適地であると同 時に落雷の危険も少ない場所であった。結果は8月2日, 6日,11日の3回近雷が発生し,発生頻度,ダイナミック レンジなどについて雷雲の生成地以外では得られないサ ンプルを収録した。なお,この他に空電雑音シミュレー タの開発用データとしてVTRによる広帯域波形記録も 行った。これらの結果は検定試験及び空電シミュレータ 開発に効果を発揮するものと期待される。



ISS-bの設計寿命後の利用について

 電離層観測衛星(ISS-b「うめ2号」)は,昭和53年 2月16日に打ち上げられて以来,1日当たり4周回の割 合で観測し,貴重なデータを地上に送り続けてきている が,昭和54年8月15日で同衛星の設計寿命である1.5年 が経過したことになる。
 これに先立ち,当所と宇宙開発事業団では,設計寿命 期間終了後の同衛星の管理および運用について協議を重 ねてきたが,同事業団理事長からの書簡(8月13日付) に対する当所所長の返書(8月14日付)の形で合意がで き,ISS-bの成果を更に高めるための利用実験が従前 通り継続されることになった。
 ISS-bは,サン・スピン角及び日陰率の推移によっ て,低温低電力期あるいは高温期となることはあるが, 現去も打上げ当初の機能を保持しているので,太陽活 動度や季節に依存する電離層に関する貴重な観測データ が今後も引き続き取得できるであろう。



庁舎(1,2号館)の化性直し

 研究環境施設整備の一環として,昨年度の庁舎建具取 替えに引続き,今年度,8月から10月にかけて庁舎の外 部及び内部の化粧直しを建設省に委任して着手したもの である。
 工事の仕様は大略次のようになっている。
 外     壁 外装吹付材をはく離し,既存下地モ
         ルタルを補修した後マスチック仕上げ
 内     部 廊下,階段室の壁,天井を合成樹脂
         エマルシヨンペイント(EP)塗り
         仕上げ
 玄関ポーチ   屋根をウレタン系塗装防水仕上げ
 2号館ひさし   既存モルタルを削り取り,下地モル
         タル塗りをした後ウレタン系塗装防
         水仕上げ
 外  階  段 手すりをケレンした後OP(合成樹
         脂)塗り仕上げ
縦どいOP塗り仕上げこれをもって,研究環境施設整備の 懸案事項は総て終る。



通信・放送衛星機構の発足

 わが国における宇宙開発の成果をいち早く国民生活に 還元する使命をおびた通信・放送衛星機構が,去る8月 13日にめでたく発足した。
 新機構の陣容は発足当初20数名という小人数ながら, 理事長の網島前宇宙開発委員会委員長代理を頂点として, 郵政省,NTT,NHK及びNASDAから派遣された人材 で固められ,当所からは金田前調査部長がシステム企画 部長として,また橋本前主任研究官が管制センタ建設部 の通信衛星管制課長として参加し,新任務を強力に遂行 することになった。
 電波研究所は,新機構が設置・運用するCS-2及び BS-2の前身であるCS及びBSの打上げ以来,成功裏 に実験研究を遂行し,新機構誕生にあたっての技術的な 条件作りに大きく寄与してきたものであり,今後の新機 構発展にも深いかかわりを持ちつづけることになろう。



第57回研究発表会プログラム
−昭日和54年11月7日当所構生において開催−

1.短期電波予報の実験
−ISS-b「うめ2号」による観測値を使用して−
          (電波部) 竹之下 裕五郎
2.スペクトラム拡散技術を用いた地上通信方式について
          (通信機器部) 角川 靖夫
3.ラス・レーダ(電波音波共用探査装置)の開発
         (第二特別研究室)福島  圓
4.超長基線電波干渉計システムの開発研究
          (鹿島支所)  川尻 矗大
5.ミリ波帯電波伝搬実験速報
 (1)計画の概要
          (電波部)   古浜 洋治
 (2)実験結果
          (電波部)   井原 俊夫
6.実験用中容量静止通信衛星
(さくら)の実験速報 (その3)
          (衛星通信部) 猿渡 岱爾
7.実験用中型放送衛星(ゆり)の実験速報(その3)
          (衛星通信部) 梶川  實