通 信 機 器 部
はじめに
図1 測 定 位 置
測定器の動作
この測定器は分布測定のためのレベルは4dBごとに11
段階に測定されている。今回の実験における分布の測定
時間は0.5秒とした。それに続く0.353秒間に測定結果
をデータ・レコーダに記録する。したがって0.853秒
毎にデータが連続して収録される。例えば,列車の長さ
400m,速度200q/hの場合は列車がアンテナの前を通り
過ぎる時間は7.2秒であり,この間に8個のデータが測
定されることになる。APD,NADは同時に測定される。
また,このAPD,NADから計算によって準尖頭値を求める
ことができる。
測定結果
APD,NADの形状
同一列車について,アンテナの前方を通過中に連続し
て測定したAPD(図2),NADの形状は殆んど同じである。
ただし準尖頭値のレベルには±1dB程度の変化がある。ま
た,他の列車のAPD,NAD(図3)についても,準尖頭値
のレベルは違っていても形状にはあまり変化はない。さら
に周波数の違いによる形状の差もあまりないようである
(図3)。測定周波数がVHF帯で帯域幅が80kHzと測定条
件を限定した場合には,周波数,列車に拘わらず分布の形
は大体同じと考えられる。この形状は自動車雑音のそれ
に比べると,傾斜が緩やかで時間率が大きい。電波技術
審議会旧答申規格の準尖頭値のレベルを越える時間率は
ほぼ0.1%である。ちなみに自動車雑音の場合は0.05%
である。新旧両規格による測定値の差は約3dBで,新
規格による方が低い値となる。また旧規格の測定のため
に必要とする準尖頭値のレベルを越える直線範囲は6〜
8dBあればよい。
図2 同一列車の振幅確率分布(APD)
図3 異なる列車の雑音振幅分布(NAD)
東北新幹線での測定では,8月31日と9月1日の測定
で分布の形が著しく違った結果が出た(図4)。8月31日
の分布は東海道新幹線の場合に近いが,9月1目の分布
はパルスの数が前日に比べて約1/10である。準尖頭値のレ
ベルも8dB程度低いが,これは個々のパルスのレベルが
低いのではなく,パルスの数の減少による測定器の検波
能率の低下のためと考えられる。この原因としては31日
の夜,雨が相当強く降ったため何らか条件が変ったこと
によるものとも考えられる。
図4 1列車通過に伴う累積パルス分布
APD,NADから計算により求めた準尖頭値
周波数特性: 図5は列車がアンテナの前を通過中の
データから計算によって求めた準尖頭値の平均値の周波
数特性である。測定点が上り線路に近いため,幾分上り列
車の雑音強度が大きい。水平垂直両偏波の差はあまり
ない。
図5 雑音電界強度(準尖頭値)の周波数特性
列車通過に伴う雑音レベルの距離特性: 図6は列車
の走行距離と準尖頭値の関係を表わしたものであるが,
横軸(図1のD)は列車の中心とアンテナの直前の線路
上の点との距離であり,縦軸は準尖頭を表わす。また図
中のrはアンテナに近い方の列車の端とアンテナとの距
離である。列車が近づいてくるとき,または遠ざかると
きは,列車の端のアンテナに一番近いパンタグラフから
の雑音が測定点では支配的であると考えられる。列車の
前(後)端が受信点に最も接近した時,列車の中心はそ
れよりも200m(列車の長さの1/2)だけ離れているから,
1/rの曲線を図では200mだけ中心からずらして実測値の上
に重ね合せてある。図から,列車が測定点から離れてい
くときは1/rの距離特性で雑音レベルが減少し,近づいて
くるときは増大する。
列車の速度と雑音レベル: 東北新幹線では列車の速
度を変えて試験を行った。110q/hと210q/hでは後者
のときの方が約20dB雑音レベルが高い。
図6 列車通過に伴う雑音レベルの変化
おわりに
一般に使われている準尖頭値の雑音測定器に対しては,
いかなるパルス性の電波雑音の測定にも対処できるよう
に,大きな過負荷係数が要求されている。このために測定
器に使われている指示計の目盛範囲は極端に狭くなって
いる。このことは通過する電車からの電波雑音のように
急速にレベルの変化するものを測るのに大変不便である。
また広い指示範囲を得るために対数目盛表示を使用する
場合,検波出力をフィードバックして,中間周波増幅器
の利得を制御する方式が多く採用される。この場合,フィ
ードバックの時定数は検波器の時定数に支配されるため,
雑音レベルの変化がこの時定数より早い場合は,測定値
が不正確なものとなる。これらの理由から,新幹線の電
波雑音を普通の雑音測定器を用いて正確に測るためには,
測定器の選択とその使い方が大変むずかしい。これに対
し,APD,NADから準尖頭値を計算によって求める場合
は,準尖頭値測定器の場合と異なって対数増幅器等を使う
ことができ,測定可能なレベル範囲を相当広くとること
ができる。したがって雑音のレベルが急速に大きく変化
するときでも,このレベルを正確に求めることができる。
東北新幹線の8月31日と9月1日の測定における準尖
頭値間の大きなレベル差は分布の測定結果から,個々の
雑音パルスのレベル差ではなく,パルスの個数の差であ
ることがわかった。このようにAPD,NADの測定は準
尖頭値等の単一のパラメータの測定に比べ,雑音の特性
をより詳細に知ることができる。このことは雑音が放送
や通信に与える妨害の程度を予測するのに有効であり,
また雑音による受信妨害の研究に必要な雑音シミュレー
タの製作に役立つものと考えられる。さらにパンクグラ
フのすり板の改良等による雑音抑止効果を調べるために
も有効である。
ここに報告した結果をもって新幹線の雑音の一般的特
性として論ずるにはまだデータ不足であると考えられる。
この実験結果を踏まえて,より綿密な計画のもとに再度
実験を行う計画である。また,これには帯域幅を変えた分
布の測定,パルスの間隔の分布の測定等,新しい測定項目
も加える予定である。
おわりに,本実験の機会を与えて下さった日本国有鉄道
の関係者の方々に深く感謝する次第で
ある。
久保田 文 人
第44回IEC(国際電気標準会議)大会は昭和54年5月 21日から6月2日までの2週間,オーストラリアのシド ニーで開催された。この会議の目的は,電気及びエレク トロニクスの分野における標準化について国際協調を促 進することである。筆者は無線通信専門委員会(TC12) と移動無線小委員会(SC12F)に出席し,引き続き6月 4日から8日,メルボルンで開かれた作業班 (SC12F/WG1)にも参加した。当所からIECには村主総合研究 官(TC12日本国内委員会委員長)が昭和51,52年の2回 出席し活躍されている。今回は南半球で開かれる初めて の大会で,総会,理事会と約80ある専門委員会のうち9 つとその分科委員会に35ヵ国から約600名の代表が集ま り,日本からは地の利もあって32名の多数が参加した。
第44回 IEC大会の構成
WG1はメルボルン郊外のフィリップス社を会場に開
かれた。日本からの出席は初めてのことで心配であった
が,幸いシドニーからメルボルンへのWG貸切バス旅行
に始まり,寝食を共にする極めて密度の濃い一週間を楽し
く過ごせたことは,大変有意義であった。WGに出席し
てみて,メンバー一同の倦むところを知らない熱心さと
あくまでコンセンサスを得ようとする議長の努力と意志
に強い感銘を受けた。毎日正面きって鋭くやり合ってい
ても夜,ホテルで誰かの室に集まった面々は皆一様に屈
託がなかった。
メルボルン会議のWG1のメンバー
無線通信部門では今回は表の6分科委員会が開かれ,
日本から13名が出席した。最近の動きとして従来,無線
通信技術に関する測定法の標準化がこれら委員会の作業
の中心であったが,SC12A,Gでは性能規格へ一歩踏み
出そうとしている。これが他のSCに及んだ場合,現に性
能規格を定めている他の国際機関(CCIR,EBU等)との
協調が問題になると考えられる。SC12Aは日本が幹事国
を引き受けている数少ない委員会の一つで,国際市場で
の日本の割合が大きく,今後とも他のSCとともに日本の
活動が不可欠である。
最後にこの会議をかえりみて,電子航行装置に関する
新しい委員会(TC80)の設立,SC12Eの幹事国をアメリ
カが辞退したこと,SC12A,Gの次回会議を来年日本へ
招請したことなどトピックスにこと次かず,筆者にとっ
て又とない貴重な体験であった。この機会を与えられ,
また様々な形でお世話になった関係者の方々に厚く感謝
いたします。
(通信機器部 機器課)
沢路 和明
昭和53年2月16日に打ち上げられた電離層観測衛星 (ISS-b「うめ2号」)は,その後も順調に運用されている。 特に同年8月から12月にかけての連続的観測により,世 界で初めての電離層臨界周波数と雷放電発生頻度世界分 布図などが作成され,ISS-bの所期目的達成に向けて大 いなる第一歩を記した。
CRC(オタワ局)のテレメントリ・アンテナ
コマンド・アンテナ(後方右)
後方左はCTS用USBアンテナ
運用施設
ISS-bの運用協力の行われているCRCは、通信省庁
舎のあるオタワ市中心から西方約25qの緑野の郊外にあ
り、通信省の4つのBureauのうちSpace関係は5つの
Branchからなっている。運用施設は、このCRCの
Space Technology & Applications Branch
(Director General:Dr.B.C.Blevis)の
Space Communications Program Office(Director:Dr.N.G.Davies)
内のSatellite Ground Gontrol Center(Chief:Mr.J.D.R.Boulding)
のISIS関係施設が流用されている。このControl Center
では,ISIS-T(1969年1月30日打上げ)、同U(1971年4月1
日)、CTS(1976年1月17日)の運用管制はもとより,運
用計画の作成,取得データの処理・編集・解析,データ
伝送等,一連の総ての業務が行われている。ちょうど,
鹿島支所と小金井本所の関連業務が,このControl Center
内で一貫して行われている感じである。
コマンド系(148MHz帯)は,コマンド符号装置,送
信機(出力2kW,通常1kWで運用),予備送信機
(出力50W ISIS用)、8素子9段八木アンテナ(Az-El型)等
である。アンテナは,テレメトリ・アンテナに追従して
駆動され,中央の1本だけがコマンド用で他はテレメト
リ・アンテナ(136MHz帯)のバックアップ用となって
いる。
テレメトリ系(136MHz,400MHz帯)は、18mφパ
ラボラアンテナ(Az-El型),受信機(AM,FM,PM),
PCM符号解読装置,MTR,チャート・レコーダ等で
ある。アンテナは,プログラム追尾方式で,紙テープ(時
間一秒ごとの角度値)によりアンテナ駆動制御装置を介
して駆動されている。ISISについては,PCM符号解読
装置によりコマンド照合がなされ,チャート・レコーダ
には衛星コマンド受信機AGCレベルも記録されている。
ISS-bについては,残念ながらソフトが無いため
にこれらの機能はない。また,取得された観測データは,
MTに記録され,当所へ送付される。
これらの運用施設では,コマンド符号の設定,周波数
の切換え,レベル校正等が総てマニュアルで実施されて
おり,鹿島支所の電子計算機による準集中制御システム
に比べると前近代的な感じもするが,運用の経験では先
輩であるCRCの施設に不安は認められず,取得データ
の質も良好である。
運用状況
前述のようなISIS,CTSに関する一連の業務と施設
の維持が公務員6名(うち課長1名,女性秘書1名)と
民間契約人(Contractor)30名,うち女性数名で実施さ
れている。民間契約人は,官庁執務時間外のみならず常
時,交替で執務している。なお,CRCの人員は,150名
弱の民間契約人を含めて約500名である。
ISISとISS-bの運用操作は,アンテナ制御系に1名,
コマンド/テレメトリ系に1名,計2名が組んで16時間
交替で行われている。もちもん,この運用操作に伴う前後
の作業には他の要員も当っている。ISS-bは,当所か
らのスケジュールに基づき原則として週4パス運用され
るが,テレメトリ解読ソフトがなく運用時に衛星状態の
確認ができないので,衛星姿勢(Sun/Spin角)が90°
±45°の範囲外となる場合に生ずる主として衛星内部装
置の高温状態に対処するための運用制限期には,運用を
休止することにしている。
運用上の主な問題点としては,148MHz帯の混信のた
めにコマンドのかかりにくいことが多い。特に北米大陸
東部では軍用施設からの混信が大きいとのことで,同一
コマンドを27回も打って実行させたという例もある。も
う一つ,下限電圧制御(UVC:Under Voltage Control)
作動に伴う問題がある。UVCは,衛星電源電圧が一定
値以下に低下すると自動的にエンコーダ,観測機器,テ
ープレコーダ等の電源を切るため,運用開始とともにこ
れらの電源を逐一入れなおした後,所定のスケジュール・
コマンドによる観測とデータ取得を実施しなければなら
ない。これらの問題については,衛星状態監視機能のな
いCRCでの運用を考慮して,同一コマンドを4回まで
打って衛星が運用可能状態にならなかった場合は,緊急
連絡により当所で対応措置を講ずることにした。
CRCにおける運用協力の終了期限は,ISIS,CTS双
方の運用予算が本年10月一杯分までしかなく,stationも
閉鎖される予定になっているとのことで,残念ながら
10月で終了せざるを得ない。
なお,この運用協力終了後,CRC関係者が来日し,
協力成果に関する会合が開催される予定になっている。
その他のこと
このControl Centerには,CTS用に9mφアンテナの
USB運用管制施設と4mφアンテナ2基からなるKバ
ンド実験施設がある。しかし,CTSのテレメトリ送信
機(出力2W)出力が10mW程度に低下し9mφアンテ
ナでは受信不能になり,NASAの26mφアンテナ局で辛
うじて受信されたテレメトリ信号の提供を受けて運用さ
れていた。
CRCでは,80pから9mφまでの各種アンテナによ
るANIK-B(1978年12月14日打上げ)のTV実験も行わ
れていた。この衛星は,オーストラリアでの実験のため
近く移動されるとのことであった。
なお,CRCからの帰路,トロント市のYork大学で,
同大学を中心に進められている雷放電の地上観測・研究
にISS-bのRAN観測データを提供することについて打
合せを行った。
おわりに
以上,CRCにおけるISS-bの運用協力の実状面か
らみた概要を述べた。当所でもこのCRCの運用協力の
肩代りとして,従来からのISISの運用協力に加え夜間
の増運用を行っているところである。残り少ない協力期
間とはいえ,国際的研究と親善の実が結ばれることを祈
念したい。最後に,この出張について御配慮いただいた
関係各位に御礼申し上げるとともに,ISS計画を推進さ
れておられる方々の努力と成果に敬意を表する次第であ
る。
(調査部 国際技術研究室長)