第三特別研究室
はじめに
図1 実効半径3mmの雨滴の形(プルッパカー・ピッター,
J.Atmos.Sci.,28,p.86,1971による)
図2 識別度劣化と周波数特性(細矢ほか,信学会アンテナ・
伝播研資AP75-76,1975による)
次に.衛星通信回線での偏波間混信は複雑な様子を示
す。即ち,ある場合は変形雨滴モデルで予想される主偏
波減衰量対混信量の関係を示すが,他の場合には主偏波
減衰量が極めて少ないのに大きな混信を示すことが,米
国,ヨーロッパでのATS-6号,米国でのCOMSTAR,
我が国のETS-K衛星などの実験結果から示された。衛
星回線では当然0℃層を突抜けて電波が進む力、ここで
氷晶とか氷片,ひょうなどの雨以外の降水粒子に遭遇す
る。これらの粒子が大きな混信の原因ではないかと考え
られ,1975〜76年のヨーロッパにおけるATS-6号衛星
の実験を契機として,主として英国ワトソンらのグルー
プにより散乱の性質を調べるための計算か行われてきた。
氷晶とか一部の氷片は波長に比べ極めて小さいので,
レーレー散乱近似で散乱特性の計算が可能である。一方,
ひょうなどの様に波長と同程度かそれ以上の大きさで,
変形も大きい場合,モード整合法による計算はどうもう
まく答が出ない様である。これに対し,T-マトリック
ス法,積分方程式を用いる方法,有限要素法では答が得
られている。計算例としては,例えば米国のブリンジら
による図3に示す様な複雑な形状の氷についてT-マト
リックス法で散乱特性を計算したもの,英国のエバンス
らによる積分方程式を用いた,かなり薄い氷の楕円体に
よる散乱の計算,ごく最近の有限要素法で薄板状の氷の
散乱を計算したものなどが報告されている。ただし,こ
れらの計算に使われたモデルは実際に空間に存在するも
のと直接対応づけられるものではない。
図3 氷のモデル(ブリンジら,Ann.Telecom.,32,
11-12,p.392,1977による)
現在衛星回線で観測された氷の影響と考えられる現象
は,前述の減衰を伴わない大きい混信のほか,雷放電に
伴うと思われる混信量の突然の変化,主偏波と直交偏波
との間の位相差が突然180°変わることなどである。これ
らの現象に対してワトソンらは氷片の整列を規定する力
学的,電気的な力を仮定し,モデル化を行い,定性的な
説明を行っている。しかし,定量的な対応をとろうとす
ると,氷片の形状,向き,数密度,粒径分布など多くの
量を知らねばならないが,これらは現在極めて不十分に
しか分かっていない。また,これらの瞬時瞬時の値が分っ
たとしても,地上回線の場合のごとく,雨量といった様
な単一の量との対応で説明出来ないので,結果を整理す
る場合にも多くの困難があるのではなかろうか。
話は変わるが,これらの基礎的研究の結果を踏まえ,
受信系で交差偏波を取除く装置の開発も国際電々研究所
などで進あられ,非常に良い結果が得られつつある。ま
た,この装置の実用化に関し,交差偏波識別度の帯域内
特性その他のデータが必要となり,新しく計算が行われ
た。通信帯域内のわずかな周波数の違いによる雨滴の散
乱特性の違いは予想されるごとくわずかなものであるが,
それでも高品質の通信を行う際,無視出来ないものであ
ることが分かった。
降雨散乱による干渉の問題
衛星への送信を行っている地上局などの様に,高出力
の局の近くにある地上マイクロ回線には,降雨による散
乱を介して混信の起るおそれがある。このため,混信量を
予測して,局間の距離,方向などを決める必要がある。
取りあえず,雨滴を球体として電波の入射角と散乱角を
色々と変え,散乱の計算が行われてきた(CCIR,
Report 569-1,1978)。球状雨滴でも偏波面の方向によって散乱
の仕方は大きく変わる。変形雨滴についてもドローニュ
らにより,最近12GHzで一部計算が行われている。球状
雨滴の場合には,ある偏波方向と散乱方向の組合せで混
信の起らない場合があるが,変形雨滴の場合には混信が
起こりうるので注意が必要である。変形雨滴の場合,入射
波の方向,偏波,雨滴軸などの関係が複雑に組合わされる
ので,結果を整理した形で示すには工夫が必要であろう。
多重散乱の問題量
これまで述べた話は,雨滴に当たって散乱した電波が
さらに次の雨滴に当る,いわゆる多重散乱効果について
は考慮していない。従来から雨の様に比較的粒子密度が
薄く,吸収性の強い散乱体では,それ程多重散乱による
影響はないのではないかと言われていた。しかし,波長
のますます短い電波を使わねばならぬ様になった現在,
その影響を調べておくことは極めて重要である。
この10年程の間に,多重散乱に関する理論は長足の進
歩を遂げた。散乱体に比べ,波長がずっと短い場合に成
り立つ前方e^-1散乱近似,散乱体から成る媒質が濃い
場合に成り立つ拡散近似のもとでは解析解が得られてい
る。しかし,雨滴の場合,その大きさはミー散乱の領域に
あり,また光学距離(強度がe^-1になる距離を1光学距
離とする)も5〜10の範囲が問題になる。それ故,ここ
でも半解析的・半数値計算的方法をとらざるをえない。
その様な問題があるにしろ,以前から少しずつ研究結果
は報告されていたが,特にここ数年来多くの人がこの問
題についての多くの論文の発表が見られるようになった。
多重散乱が減衰,交差偏波発生に及ぼす影響については
1975年以来ドローニュのグループが検討を行っている。
これとは別に種々の別な計算法を用い,色々新しい情報
が得られつつある。結果として言えることは,信号の減
衰,交差偏波発生に対する多重散乱の影響は数10GHz程
度ではそれ程大きくない。しかし問題によっては注意し
なければならない場合がある。図4に示すごとく,リモ
ート・センシングなどの際,雨の層に上方から左旋円偏
波を入射させたとする。雨滴を球体と仮定すると雨から
の反射波は右旋円偏波
のみである。そのため,
雨中の対象物(一般に
は複雑な形をしている)
を検知する際,左旋円
偏波を受信すれば雨に
よる反射の影響を除去
することができる。と
ころが多重散乱を考慮
すると,球状雨滴でも
左旋円偏波がかなり反
射してくる。図4の曲
線はそれぞれの偏波の
散乱指向性を極座標で
示したもの,斜線を入
れた部分は多重散乱効
果によって生じた特徴
的な部分を表わす。この図では35GHzで,すべて半径3.25
oの雨滴からなる仮想的な雨を考えているので,多重散
乱効果が実際の雨より強調されている。150o/hr程度の
強雨でも,この図よりは影響は少ない。また,雨を突き
抜けた前方方向の波は入射波と同じ左旋偏波のみのはず
であるが,これもかなり右旋成分を生ずる。反射の場合
を含め,これらの事は前述の降雨による大電力回線の干
渉を考える際,注意せねばならない。
さらに,厳密に言えば多重散乱ではないが,雨滴がラ
ンダムな位置関係で落下することによる受信信号の振幅・
位相の変動,帯域内での振幅・位相の歪などがイタりア
のカプソーニらによって調べられた。また,ワトソン・
グループは雨滴が落下する際に振動することに着目し,
受信信号のスペクトルがドップラー効果によるものと上
記振動によるものとに分離されることを示し,この振動
周波数から降水の種類,雨滴分布を求めることの可能性
を調べている。
図4 多重散乱波の指向性
おわりに
雨滴による電波散乱の研究の現状について,主として
理論計算の面から二三の問題をとりあげ述べてみた。文
献リストを含むより詳細な議論については,来年行われ
るURSIシンポジウムの依頼により現在まとめている所
である。同じ報告は当所のジャーナルにも来年度発表し
たいと考えているので,関心の向きはこれを参照してい
ただけると幸いである。
(主任研究官 小口 知宏)
通信機器部
はじめに
協会での試験風景
協会の発足と型式検定の処理手順等
協会の発足に伴い,F,C,Gの三機種に限り,郵政
大臣に型式検定の申請を行う場合は,協会の発給した検
定試験成績書を,申請書類に添えて提出すれば,当所は
書面の審査により検定を行うことになったのである。更
に,協会では,賛助会員に対して,型式検定の申請の際
に提出する取扱説明書のチェック等事務処理の迅速化の
ための便宜を計っており,通常,図1に示すような処理
手順となっている。試験を厳正に行うことは勿論のこと,
申請者に対しても試験の迅速化を心掛け,その成果を着
々と挙げている模様である。当所においても,専任の審
査担当者を配置して,協会側からの技術的質疑に対して
も速やかに対処でき,かつ,協会,申請者,当所相互間
に行違いの起きないよう配慮している。更に,協会と当
所間の意志の疎通を計り常に密接な関係を持ち,業
務の円滑化を図るため,両者問の定期打合せ会をもつな
ど,万遺漏なきを期している。なお,F,C,G以外の
機種の申請手続きは,従来のとおりである。
図1 協会へ検定申込みした場合の検定試験処理手順
協会における試験の実施状況
協会に試験を実施させるに当たっては,申請機器の構
造及び性能の条件等を確認する技術審査基準の作成,機
器の機械的,電気的条件を試験するための試験要領の作
成等に関しての指導打合せ,あるいは,協会側の試験設
備のチェックや測定器の較正など,努力が重ねられた。
協会の職員に対しても実地研修を行い,試験業務移行の
ための数々の問題が克服されて,とにもかくにも業務の
実施にこぎつけたというのが,実感である。53年10月か
ら54年8月末までの10ヵ月間の経過をみると,申請機種
は,FとCのみで,試験の総処理件数は154件である。
FとCとの申請割合は約7:3である。月別の処理件数
をみると月平均10数台を処理し,最も多い月は20数台を
処理している。協会における処理期間は,申込みを受け
てから,すべて1カ月以内に処理されている模様である。
最新方式による自動化が,測定,作図及び試験成績書な
ど精度は勿論,試験のスビード・アップや省力化に寄与
していることがうかがわれる。協会の試験結果は,当所
に送られ,その他の申請書類と一諸に合格の条件に適合
するか否かの審査,判定が行われ,特殊のケースを除い
ては,おおよそ1週間程度で処理されている。
協会の業務開始に伴う型式検定の現状
従来,型式検定の年間総申請数は約220から250件であ
るが,このうちF,C,Gが約50〜60%を占め,検定試
験の業務量のかなりの部分を占めていた。今回,協会へ
この3機種の試験が移行したので,この分だけ時間的に
も人的にも余裕ができるはずであり,この分を型式検定
を支える測定法や測定器の調査研究及び較正部門の拡充
強化に当てる予定であった。しかし現実には,協会の分
担部分が,いわば型式検定業務に占める試験作業だけに
過ぎず,完全に当所から離れて独立したわけではないた
め,そのままの余裕とはならなかったようである。協会
の試験の遂行が,従来からの経緯を踏まえて,円滑に流
れるようにするためには,協会との間に密接な連絡を保
って即応できるよう新たに担当昔の配置の必要があった
ことも一つである。しかし,従来,試験作業に追われ,お
ろそかになりがちであった基礎的調査や試験設備の改善
整備を多少とも充実させることができるようになったこ
とは,一つの大きなメリットである。特に,1974年海上
人命安全条約(74SOLAS)の発効を来年5月に控え,
船舶に設置が義務付けられる無線電話警急自動受信
機,新しく義務化される無線電話遭難周波数による方位
測定機等の検定開始のための,赤道海域における空電雑
音等の調査を初めとする一連の準備や,検定の実施は,
協会の業務開始が遅れていたならば,極めて困難になっ
ていたであろう。このことから,協会の発足は誠に時宜
を得たというべきである。当所の型式検定の対象も,昭
和53年度はミニサテ局用送信装置を追加し,本年8月か
らは前記74SOLAS発効に備えて種類の増加をみたが,
今後とも電波監理上の要請に応えていく必要があろう。
おわりに
型式検定は,電波監理上,国が行う試験であるので,
試験法及び試験設備等が確立されていなければならない
ことは当然なことであるが,そのためには,常に国の内
外にわたる技術の進歩に即応する不断の研究調査が必要
である。幸いに協会が設立されて一部の機種ではあるが
試験業務が移行されたことは,当所9調査研究分野を充
実させていくうえにおいて大きな助けとなるものであり,
今後も協会の育成に一層の協力を行うとともに型式検定
業務の円滑な運営につとめる所存である。
終りに,移行に際し,種々御協力をいただいた電波監
理局,協会及び関係機関の方々並びに御助言,御指導を
いただいた所内の方々に深く感謝いたします。
(機器課長 今野 清恒)
栗 城 功
COSPAR(Committee on Space Research:宇宙空 間研究委員会)は国際学術会議(ICSU)に設けられて いる10の科学特別委員会の一つで,よく耳にする南極研 究科学委員会(SCAR)や太陽地球間物理学特別委員会 (SCOSTEP)などと同列のものである。COSPARはそ の名の示すように,宇宙空間の研究を国際的規模でおし 進め,研究情報の交換を行う国際研究機構であり,スプ ートニクが打ち上げられた翌年の1958年に第1回が開かれ た。当所からは第4回のフィレンツェ(イタリア)開催 の際,青野次長(当時)が初めて出席した。
表1 国別参加者数
会合は,表2のように,総会と4つのシンポジウム,
ワークショップおよび,ワーキンググループ公開会議で
構成され,前半はB〜Dのシンポジウムが並行して,後
半はワークショップと各公開会議が並行して開かれた。
表2 シンポジウム等
筆者は,5月30日から6月1日まではシンポジウム。
に出席した。これは6つのセッションからなり,そのテ
ーマおよび発表論文数は表3のようになる。各セッショ
ンの初めにはレビュー講演があり,これには20〜30分の
時間が与えられていたが一般講演は10〜15分であった。
このシンポジウムには全部で79件の論文発表が行われた
が,その約70%がインドの研究者によるもので,開催国
のせいもあろうが,インド人のこの分野の研究に対する
並々ならぬ意欲のあらわれとも感じられた。
表3 シンポジウムCの構成
6月4日,5日は総会とシンポジウムAが,市の中央
部のホールで開かれた。総会には当時インドの首相兼宇
宙大臣であったM.Desai氏が出席し,宇宙開発がイン
ドの教育,農業,鉱物資源,気象などにとって如何に有
意義であるかを述べ,またインドの第2号衛星が今週中
にもソ連から打ち上げられる予定であることを公表した。
シンポジウムAは,Physical Res. Lab.の所長であり,
Atomic Energy Comm.の議長および
Indian Space Research Organisationの秘書官でもあったインド宇宙
研究の大先駆者V.A.Sarabhai教授(1919〜1971)をたた
える,米,ソ,豪,印各国の老大家による記念講演であ
った。
6月6日以降のワーキンググループ公開会議にはWG.4
(Experiments in the upper atmosphere)とWG.7
(Space related studies of the moon and planets)の一部
に出席した。ここでも盛り沢山の発表がなされたが,
ISS本部の仕事に携わっている筆者に印象深かったのは,
西独の代表が衛星AEROS-A&Bで測った衛星高度の
電子密度とIRI(国際標準電離層)のプロファイルを使
ってF2層最大電子密度を求め,CCIRの電離層分布図
と比較し差違を示していたことと,ソ連の代表が
Venera9&10によって得られた金星電離層のプロファイルと理
論計算値を示し両者がよく合うことを示していたことな
どである。
インドの宇宙開発
インド政府は,宇宙科学技術の開発と利用を推進する
ため,1972年にSpace Commissionを設け,宇宙省の
行う政策の策定を行っている。宇宙省は国内の宇宙に関
する研究開発の実行をISRO(Indian Space Research Organisation)
を通して推進しており,これにSpace Application Center
(アーメダバッド市),ISRO Satellite Center
(バンガロール市),Vikram Sarabhai Space Center
(トリバンドラム市),Shar Center(スリハリコタ
市)の4つのセンターとPhysical Res. Lab.(アーメ
ダバッド市)が付属しているとのことである。
インドでは,これまで二つの人工衛星が何れもソ連の
ロケットにより打ち上げられているが,製作はISRO衛
星センターで行われたと言われている。最初の衛星
(Aryabhata)は1975年4月に打ち上げられ,第2号となった
SEO(Satellite for Earth 0bservation)は1979年6
月7日の今COSPAR開催中に打ち上げられ,Bhaskara
(天文・数学者名)と命名された。この衛星は高度約500
qの略円軌道で,軌道傾斜角は50.7°,周期95分とのこ
とである。衛星には2台のTVカメラと3台のマイクロ
波ラジオメータが搭載されている。インドでは,第3の
衛星として3軸制御の静止通信衛星を1980年にESA
(European Space Agency)によって打ち上げてもらう
計画で,これをAPPLE(Arian Passenger Payload Experiment)
と呼んでいる。
諸外国の衛星,例えばATS-6やSymphonieを利用
した通信実験や,ISISからのテレメトリによる科学研
究の行われていることなどは衆知のとおりであるが,さ
らにISS-bからのテレメトリも希望しており,宇宙にか
ける彼等のすさまじいエネルギーには驚嘆させられる。
COSPAR総会風景
おわりに
今回COSPARに出席する機会を与えられ,大いに見
聞を広めることができましたことに対し所長及び幹部の
方々,また,企画,庶務課の担当官の御厚意,御配慮に
深謝します。
(電波部 電波伝搬研究室長)
市野 芳明・増沢 博司
はじめに
ニュージランド航路
船上及びニュージーランドでの雑悪
本コンテナ船は我が国から,日用品,工業製品を,ニ
ュージーランドからは,酪農製品,食肉,またはキウイ
フルーツなどをコンテナに積み,平均約21〜22ノットで
休みなく往復する働きものである。乗組員は25人で何故
か関西,九州出身者が多かった。船の食事は種類が多く,
和,洋,中華と変化があり気に入った。サロン食堂での
食事は,地位の順に席が決っていて,皆がテーブルにつ
き,やや間をおいた頃船長がはしをとると一斉に食事開始
となる。食事は毎食たっぷり出る。しかし,あまり体を動
かすことがないので,運動不足には注意が肝要である。
風呂は塩水を蒸気で沸かしたものだが,毎日入れたのは
ありがたかった。酒は,船員の人達とざっくばらんに話
ができる「日課」の一つで欠かせないものとなった。と
ころで赤道に赤い帯は見えなかったが,台風さえなけれ
ば熱帯の海は静かなものだとか,赤道の方からみると小
笠原や硫黄島などがずいぶん北の方にあるような認識の
変化,しけには三度会い,船が17°位傾むいたことがあ
り,その時は壁をつたわって歩くので大変であったこと
など,なにもかも初めて体験した。ニュージーランドでは
最初オークランドに入港したが,先住民のマオリ族と白
人とが混在してうまくとけ合っている様子には好感を覚
えた。街中では,日本と米国の10年以上も前の車がか
なり堂々と走りまわっており,タクシー以外はすべてシー
トベルトを着用していた。住宅は,日本の半値以下で買
うことができるそうで,広々した芝生の庭に,ハイビス
カス,ポインセチヤなど熱帯の植物が植えられていた。神
戸に上陸した時はまだ地面がゆれているような気がした。
本調査により貴重な空電データの収録ができたと考えて
いる。
終りに,この調査に対して,御指導,御援助いただい
た電波監理局技術調査課,航空海上課及び格段の御協力
をいただいたジャパンラインの関係の方々並びに当所の
関係者の方々に深く感謝いたします。
(通信機器部 機器課)
今 井 信 男
第11回モントルー国際テレビジョンシンポジウムは, 1979年5月27日から6月1日まで,スイス連邦共和国の モントルー市で開催された。筆者はこのシンポジウムに 参加して,我が国の実験用放送衛星(BS,「ゆり」)の実 験結果について発表する機会を得たので,ここに当シン ポジウムの紹介と,とくにその中で放送衛星に関連する セッション内容について報告する。
シンポジウム会場のモントルーパレスホテル
参加者としては,ヨーロッパ,アメリカ,カナダ,日
本,その他世界の国々の関係官庁,放送企業,及び関連
産業から多数の人々を迎えている。前回の1977年の場合
は,55ヵ国から4000人以上の参加者かあり,展示コーナ
ーも160社に達したが,今回はそれを上回ったものと思
われる。我が国からは過去数回にわたって,日本放送協
会(NHK)及び放送機器メーカ等から参加している。今
回は筆者の他にNHK 2名,宇宙開発事業団(NASDA)
1名,そのほか民間メーカからは展示のためもあっ
て多数が参加した。
セッションは,A,Bの2グループに分類され,Aグル
ープは「放送システム」,Bグループは「放送設備」に関
するものを取扱った。A,Bどちらも9セッションあり,
それらのテーマはVideo prduction,Terrestrial broadcasting,
Satellite broadcasting,Digital technology,
CATV,New TV serviceなどである。発表件数は全部で
89件あり,国別ではアメリカ20,ドイツ17,フランス14,
イギリス11,スイス8,日本6,オランダ4,イタリア3,
カナダ3,その他3となっている。
このシンポジウムは,従来地上のテレビ放送技術をテ
ーマとして扱ってきたが,今回は特に最近の放送衛星に
対する世界的な関心の高まりを反映して,「放送衛星設備」
及び「放送衛星システム」という二つのセッションが設
けられた。「放送衛星設備」のセッションはChairmanが
カナダCBCのSiocos氏であり,NHKの原氏が
moderatorとして活躍された。NASDAの荒井氏による
BS衛星本体についての発表のほか,放送衛星用のトラン
スポンダ,太陽電池パネル,および受信機などについて
の発表がヨーロッパ諸国から行われた。
「放送衛星システム」のセッションでは,Chairmanが
European Broadcasting Union(EBU)のMertens氏,
MooeratorがEuropean Space Agency(ESA)の
Hieronimus女史であった。セッション前半は筆者による
「BS実験結果」(NHKの小川氏と連名),カナダ
Communications Research Center(CRC)のHuck氏による
「CTSの実験結果」,及びESAのCollete氏による「ヨー
ロッパの放送衛星計画」の合計3件の発表が行われた。
筆者の発表については,日本のBSが世界でも初めての
本格的な実験用放送衛星であることからその実験成果は
非常な関心をもって迎えられ,発表後応用実験や次期実
用衛星の実現時期等について活発な質問が会場から出さ
れた。セッション後半では,上記3発表者に更に数名を
加えたパネリストによるパネルディスカッションが行わ
れたが,世界各国の将来の放送衛星に対する考え方や相
違などがわかって大変興味深いものであった。
セッションのしめくくりのあいさつでMertens氏は,
「今や世界的に見て,放送衛星の実験段階は終わろうと
しており,次はいよいよいかに実用段階へ移っていくか
が問題であり,次回のシンポジウムには実用放送衛星に
ついての発表が多数なされることを期待する」と言われ
たが,これはまた大方の参加者の感想でもあるように思
われた。
我が国としては,今後もこのシンポジウムに参加して,
BSの実験成果や,将来の実用衛星計画の進捗状況などを
積極的に発表すると共に,諸外国のこの方面の動向をつ
かむことが肝要であると思う。
シンポジウム会場はモントルーパレスホテル内の2つ
の会議場を使って行われた。発表は殆んどが英語で行わ
れ,一部がフランス語で行われたが,英,独,仏の三ヵ
国語同時通訳により英語のみで不自由は感じなかった。
しかし旅行中やホテル,街中などでは英語が通じない場
合もかなりあったが,そんなとき筆者の習いたての片言
フランス語でも何とか用が足せることがわかり意を強く
した。
シンポジウムでの発表も無事終えて,帰途は飛行便の
都合もあって,かけ足ではあるがジュネーブおよびパリ
に寄り,その一端を見聞できたのも貴重な経験であった。
最後にこのような国際会議にBS実験成果を報告する
機会を与えていただいた所長をはじめ関係の方々に厚く
御礼申し上げる。
(衛星通信部 主任研究官)