53FG形微小電力テレビジョン中継放送装置


通信機器部

  はじめに
 辺地難視聴解消は放送行政における重要課題の一つで ある。最近はNHKのテレビジョン放送局が設置され, 民放のテレビジョン放送が受信できない地域から,民放 の受信を要望する声がますます高まってきている。この ような置局格差は主に微小電力テレビジョン放送局にお けるものである。辺地難視聴解消の促進にはこのクラス の放送局の置局が重要な課題である。
 現在,微小電力テレビジョン放送局は,コスト的に割 高なため,民放事業者が多くの放送局を置局するには, コストを下げることが是非必要である。
 当所では,本省からの53年度研究協力依頼に応えて, 本省との緊密な連携のもとに,NHK,民放,電子機械 工業会の参加を得て,微小電力局低廉化研究委員会を運 営し,試作を含む研究を行い,「53FG形微小電力テレ ビジョン中継放送装置」および「多波共用周波数安定化 装置」の仕様書を作成し,同委員会の承認を得て,54年 10月,これを主内容とする微小電力局低廉化研究委員会 報告書を作成した。
 同報告書は,54年11月1日放送局一斉再免許の際,当 局から放送事業者に対する辺地難視聴解消に関する指導 に引用され,関係者から高く評価され,今後の辺地難視 聴解消促進への寄与が期待されている。
 ここでは開発の必要性と意義,開発目標,装置の概要 と特徴,試験結果,今後の問題等について以下に述べる。
  必要性と意義
 現在辺地用テレビ中継放送にはUHF帯が割り当てられ ており,チャンネル数にして50波で,内30波だけが一般 放送用としてNHKも民放もこの中で割り当てられている。 低廉化により微小電力局が増加すると,中継ルートの多 い地域ではたちまち周波数が不足し,同一チャンネル妨 害や隣接チャンネル妨害などの混信が増加すると予想さ れる。したがってこれに対する適当な対策を準備するこ とが必要である。
 従来の混信妨害対策には,混信除去フィルタ,送受分 離およびオフセット効果,指向性アンテナによる方法が 用いられてきている。実際にはこれらのどれか,又はい くつか,ひどい時には全部を用いて対策が講ぜられて来 ている。
 従来オフセット効果を用いるには,たとえ共同建設で も各チャンネル毎に高価な静差数安定化装置を付加しな ければならなかった。本体の低廉化と同時にこの装置の 低廉化もぜひ必要で,周波数事情によっては,必要の際 にはオプションにより容易に本体に付加できるものでな ければならない。混信除去フィルタ,指向性アンテナに ついてはよく研究されているが,送受分離方式について はなお検討すべき事項が残されていた。これらを中継放 送装置本体の低廉化と併せて研究することが必要である。
  開発目標
 微小電力テレビジョン中継放送局の置局費用の低廉化 のための要求条件は,次のとおりである。
 (1) UHF電力がチャンネル当り10W以下。
 (2) 大量生産と構造の合理化によるコストダウンが可 能となる規格であること。
 (3) 共同建設がしやすいこと。(4波まで可能)
 (4) 地況に制約されない汎用性があること。
 (5) メンテナンス・フリーであること。 (互換性,信 頼性)
 (6) 音声多重を考慮しておくこと。
 上記を満足する規格を有する装置の仕様を策定するこ とを開発目標とした。
  装置の概要
 本装置は写真に示すように,左側が本体で右下が耐雷 受電部である。耐雷受電部は,辺地などで単相100Vの 配電線に沿い進入してくる雷撃電流を遮断するためのも のである。本体の高さは2,060q,幅57q,奥行450o の寸法で,本体装置の中に,下から順に多波共用周波数 安定化装置,電源部,受信部,0.1W送信部(以上4波), UHF電力増幅部(10W,3W,1Wの内指定のもの) (各波毎,計4波),出力合成部(4波)の順に配置され ている。このほか送受分離方式の場合に用いる中継増幅 器がある。多波共用周波数安定化装置は必要により用い られるもので,用いられないときはもちろん始めから取 付けられていない。このほか擬似空中線形電力計など付 属品一式が付くことになっている。上位局からの4波ま でのVHFまたはUHF帯のテレビ電波を受信部に導き VHF受信ではそのまま,UHF受信では一旦VHFに 変換し,増幅後0.1W送信部で各波毎に分配して復調す ることなく所定の 周波数のUHFに 変換し,UHF電 力増幅部で各波毎 に増幅し,出力合 成部で再び合成し, 映像出力チャンネ ル当り10W,3W, または1Wの UHFテレビジョン放 送電波を空中線に 供給する。この間, 上位局の電波の発 射,停止に対応し てスケルチ動作も 行う。周波数事情 によってオプショ ンにより用いられ る多波共用周波数 安定化装置は,出 力合成部からの結 合出力を同装置内 のサンプリングチューナ部に導き,内部の周波数安定度 の高い基準発振器の出力の逓倍周波数群と比較される。 次に,その差の周波数を,基準発振器出力を分周して得 られる周波数と位相検波器で比較し,これを誤差信号と して,本体の0.1W送信部のVHF/UHF変換器の局 部発振器に加え,所定のUHF波の周波数に一致するよ う制御するものである。本装置は以上の動作を時分割で 全チャンネル(4波まで)にわたって順に常時切換えて 行う。


58FG形試作機

  装置の特徴
 この装置は前記の開発目標および民放業者から微小電 力局低廉化研究委員会に提出された「微小電力局低廉化 についての基本方針」に十分応えられるものであり,次 の特徴をもっている。
 (1) 4波までの共同建設がしやすい。
 (2) 所要性能は置局格差が集中している末端局および    次末端局用としている。すなわち,これら2段中    継後,更に極微小電力局を通して受信者に良好な    質のテレビ電波を供給できる。
 (3) (2)により低廉な極微小電力局の考えを活用してい る。
 (4) オプションにより,安くかつ簡単に組込が可能な 多波共用周波数安定化装置を付加し,送信周波数 を高安定に維持できる。これは入力周波数が±3 kHz程度変動していても実行される。これによる オフセット効果により同一チャンネル妨害をかな り改善できる。
 (5) 装置がユニット化され,各ユニット単体は,互換 性と量産性をもつように,パネル寸法,コネクタ の種類,入出力インピーダンス,入出力レベル, その他の必要な電気的特性を規格化してある。し かも組立にあたり,相互間での反復調整を全く必 要としない規格となっている。特にコネクタ類は 強度の点でも安心できるものを指定している。
 (6) カラー混変調は-30dB以下。
 (7) ±10dB程度のフェージングに対する空中線電力 の変動は+10%〜-20%以内(無線設備規則第14 条の条件)。
 (8) 送受分離方式の合理的設計が簡易化されている。
 (9) 床面積が従来形の1/2。
 (10) 入力はVHFでもUHFテレビ電波でもよい。
 (11) 出力はUHF一波あたり10W,3W,または1W (何れか指定)。
  試験結果
 仕様で定める規格の妥当性を確かめるため,試作仕様 書を作成し,試作装置として10W装置(分離方式)及び 3W装置(非分離方式)各1台を製作した。そして次末 端局・末端局の2段接続試験を実施するとともに,互換 性試験も行うこととした。なお,新規開発の性能を確かめ るため多波共用周波数安定化装置は両方の装置に付加す ることとした。試験は仕様で規定する標高2,000m等の 条件以外全項目について行い,さらに互換性試験も行っ た。その結果試作仕様書を満足できるばかりでなく,試 作仕様書では技術的に安全をとった項目も,その必要が なく,すべて十分な性能を期待してよいことまでわかり 最終仕様書に採用することができた。互換性試験の結果, ユニット単体の規格を定める必要があることがわかり, 単体機器規格表を制定し,これにより互換性が向上した。 次末端局・末端局2段接続試験の結果,画質主観評価4 が得られた。
 多波共用周波数安定化装置についても全項目について 試験を行った。とくに本体に付加してうまく制御できる か,また基準発振器の周波数が十分な安定度を有するか が重要である。まず制御動作は予想通り良好であること を確認できた。基準発振器の周波数安定度の測定は当所 の標準周波数群の中で5MHz(10^-12〜10^-13)を用い良 好な結果を得た。すなわち,本体装置の最下位に配置す ることにより仕様では±5Hz/月のところ,1,200日で± 5Hz(両者とも770MHzで)と推定される極めて高い安 定度が得られる見通しを得た。
  今後の見通し
 本装置は現在の技術水準を結集してまとめたもので, 今後の技術の進歩をある程度吸収できるよう配慮してあ る。したがって当面,末端局,次末端局に関する限り, 辺地難視聴解消に寄与すると考える。
 なお,実際の置局費用には中継放送装置のほかに局舎 関係,アンテナ関係その他基本的に相当の部分を占める 要素があるが,これらの中には本装置の床面積が従来の 1/2程度になっていることによりかなり低廉化される面も あるので,一層の関係者の工夫と努力をお願いしたい。
  まとめ
 以上により本装置は所期の目的を十分達し,辺地難視 聴解消促進に大いに寄与できることが明らかとなった。 なお経年変化特性に関しては未だ確認できていないので 本来低廉化を目的としていること,郵政省が民放事業者 に活用をすすめていることと併せ,一応MTBFなどを 念頭に入れて仕様を定めたものの,是非経年変化特性を 確かめることとしたい。結果については機会があれば報 告したい。なお,本装置の開発に当たっては微小電力局 低廉化研究委員会の方々の助言,資料の提供によるとこ ろが多かった。当研究所関係では加藤次長,宮島部長各 位のほか通信機器部各研究室,機器課および業務係,さ らに総務部会計課の方々の多大の御支援があり,関係の 方々に心から深く感謝の意を表する次第であります。

(標準測定研究室長 高橋 剛)




フランス国立宇宙研究センターに滞在して


三 浦 秀 一

  はじめに
 移動体通信衛星システムに関する研究を行うため, フ ランス政府給費研究生として,1978年9月末から,1979 年10月まで1年間滞仏し,フランス国立宇宙研究センタ ー(CNES:Centre National d' Etudes Spatiales)に おいて,フランス及び欧州宇宙機関 (ESA:European Space Agency)の宇宙開発計画について学ぶ機会を与 えられたので,ここにその概要を報告する。
  CNES
 CNESは1962年に設立され,フランスにおける宇宙 の科学的研究と工学及び実用分野の技術開発を行ってい る研究組織である。主として工業省の助成金を得て,通 信,環境,気象,軍事,農業の各分野にわたる宇宙技術 の研究開発を行っている。CNESの1979年度の総人員 は1,050人,予算総額は約950億円である。これらの予算 ,人員が,本部(パリ),ツールーズ宇宙センター (CST),イブリー(パリ近郊),ギアナ宇宙センター(南米大 陸赤道附近の仏領)に分散している。このうちツールー ズには約650人が配属され,最大の研究施設となってい る。ツールーズは南仏のスペイン国境近くに位置し,フ ランス第一の宇宙航空工業の中心地であり,コンコルド の製造でも名高いフランス第四の都会であるが,中世に おいては,カトリックの堕落に抗して,禁欲・清貧のキ リスト教への宗教改革運動を起こし,ローマ法皇による 派遣軍(アルビ十字軍)による大弾圧(異端裁判による 処刑)を受けた古い町でもある。現在は政府の南部工業 化の中心地として活況を呈しており,いたるところでの 道路工事など,東京オリンピック時を思い出す混乱も見 せている。
 このため静かさと落着きを見せたしっとりとした他の 地方都市とはまったく趣を異にした街でもある。フラン ス宇宙開発の現在の柱は,大型ロケット“ARIANE(ア リアン),地球観測衛星“SPOT”,通信衛星 “Telecom 1”,放送衛星“TV direct”の開発である。以下 にこれらのCNES主導によるフランス宇宙開発計画を 概説する。


CNESの概要

  ARIANEの開発
 ARIANEロケットは,ESAのプロジェクトであるが, CNESがメインコントラクターであり,また開発費の大 部分をフランスが出資しており,政府の最大宇宙計画と なっている。第1,第2段のエンジンはフランスにおい て既に開発されたDlAMANT衛星の技術が,第3段に は仏独両国に既に蓄積されていた液酸・液水ロケットの 各種技術が利用されており,ヨーロッパ独自の技術開発 による打上げ機であることが彼等の大きな誇りとなって いる。この点が,宇宙開発における,国際協力,自主開 発,技術輸出の点で大きな特質となっている。打上げ予 定機数としては,欧州の各種宇宙計画(MARECS, ECS,SPOT,METEOSATなど),国際衛星計画 (INTELSAT,INMARSAT),他国宇宙計画(中東,東南 アジア,南アフリカなど)等で1980年代に40〜50機が見 込まれている。1機80億円として,3,000〜4,000億円の 市場となっており,国際協力,自由開発の大きな成果が 出つつある。ARlANEの能力向上については,1983年頃 にはトランスファー軌道に2,300s,1990年には静止軌 道に2tonの衛星の投入が可能となることが計画されて いる。なお,第一号ロケットが1979年12月25日打上げに 成功し,いよいよ米国のスペースシャトルとのシェア争 いが注目される。
  Telecom 1の開発
 国内通信衛星Telecom 1が1983年度運用開始の予定 である。第一のミッションは,仏本国内の企業間通信, 第二は海外県,海外領土及びアフリカ諸国との通信画像 伝送である。第1号本衛星は1982年,予備衛星が1983年 ARIANEによって打上げられる。総経費約900億円で ある。
  SPOTの開発
 独自の地球観測衛星で,CCDを利用した高解像度可 視,近赤外センサ(HRV)2台を搭載し,1984年 ARIANEにより打ち上げられる。CCDの利用により,機械 的走査が不要になること,解像度が良いこと,2台のセ ンサによりステレオ画像が得られることが特徴となって いる。ESAも本衛星に興味を示し,ESAの衛星に SPOTのバスを利用することが検討されている。
  MARECSの開発(ESAの海事衛星)
 MARECSはLバンド(1.5/1.6GHz)による対船 舶通信衛星であり,1980年に1号,1982年に2号が ARIANEにより打ち上げられ,船舶とのデータ通信,音声通 信を全世界的に可能とすることを目的としている。衛星 システムの諸元を表に示す。現在,国際海事衛星組織 INMARSATにおけるMARECSの採用が強力に推進 されている。


表 MARECSシステム諸元

  欧州の宇宙開発の特徴
 フランス及びESAによる宇宙開発の一部を紹介した が,いずれもシステムの経済評価が非常に重要視されて いる。また国際的な技術輸出の可能性,主導権の確立に 大きな比重がおかれ,開発が地道に,自由技術の開発の 観点から行われている。欧州の宇宙開発は宇宙がデモン ストレーションの時代から実用の時代に変化している事 が良く現われている。我が国の宇宙政策が経済情勢,国 産技術育成,国際市場性の観点で考えて,大きな転換期 を迎えていることをつくづく感じさせられた一年間であ った。
  フランスの印象
 ノースリーブの女性と毛皮のコートの女性が同時に街 を歩いていたり,ジーンズ,皮ジャンバースタイルでの 学会発表があったり,フランスはまったく自己主張の国 である。家よりも高いヨットを持った人が,ヘッドライ トもこわれ,ドアも普通では開け閉め出来ない20馬力の 分解寸前の車で通勤してくるなど,他人の目より自己の 充実が一番であることが随所に証明される。このへんに, 第2次大戦で共同体としての国家は簡単に降伏したが, レジスタンス運動においては驚異的なねばりと愛国心を 見せた人間性としての基盤があるのかも知れない。
 いつも陽気なレストランの親父が,溢れる涙を拭こう ともしなかった別離の光景や,夕暮れとともに赤くかが やく広い,広い空のもとに古い教会の塔と置き物のよう に動かない牛の群れの間をゆったりと歩く農民の姿など 美しい人情と自然が,いつもあざやかに思い出され,実 に有意義で感動させられた一年間であった。
 このような機会を与えて下さったフランス政府,科学 技術庁,郵政本省の各位,当所衛星計画多忙の中,一年 間の長期出張を許可された,前電波研究所長糟谷績氏, 現所長始め電波研究所各位に深謝致します。渡仏前,フ ランス語講座でお世話になったDupuis夫人(前駐日仏国 大使館科学参事官夫人),日本科学技術情報センター参事 鴫原良樹氏にも心から感謝致します。

(通信機器部 海洋通信研究室長)




第11回IUGG総会に出席して


松 浦 延 夫

 国際測地学地球物理学連合(IUGG)の第17回総会が 昭和54年12月2日から12月15日までの約2週間豪州の首 都キャンベラにおいて開催され,筆者は科学技術庁国際 研究集会派遣研究員として同総会に出席し,論文発表及 び関連会議に参加する機会を得た。
 1919年に設立されたIUGGは七つの協会(測地学,地 震学地球内部物理学,火山学地球内部化学,地磁気超高 層物理学,気象学大気物理学,水理科学,及び海洋物理 科学)で構成されている。筆者が関係する国際地磁気超 高層物理学協会(IAGA)は(T)地球内部磁場,(K)超高層 物理現象,(B)磁気圏現象,(M)太陽風・惑星空間磁場,及 び(X)観観測所・測定機器・インデックス・データの5部会 から成っており,その他南極研究,中層大気など四つの 部会間委員会とIAGA/URSI及びIAGA/IAMAPの二つ の共同委員会を含んでいる。今総会中の役員改選により IAGA会長はJ.G.Roederer教授(米国)からK.D.Cole 教授(豪州)に引き継がれた。
 IUGG総会は4年毎に開催されており,南半球での総 会は今度が最初である。開会式はキャンベラ劇場におい て豪州総督の出席の下に行われ,英国国歌の吹奏ではじ められた。その後の研究集会は豪州国立大学の広大なキ ャンパスに散在する建物を会場として各協会毎に行われ た。今回の総会参加者総数は約1,940名に及び,国別参 加者数は上位から米国(506名),豪州(466名),西独(99 名), 日本(93名),英国(92名)の順となっている。中 国からは51名の参加者があり,学術交流に熱意を持って いることがうかがわれた。
 会期中に,IUGG各分野の代表的な講演者5名による 解説的な講演が行われ,普段なじみの薄い分野について の講演を興味深く聴いた。IAGGの講演会は部会毎に殆 ど並行して行われたので,筆者はU部会(超高層物理現 象)の講演会を中心に,W部会(太陽風・惑星空間磁場) の一部及びIAGA/IAMAP共同の中層大気研究(MAP) の講演会に出席した。筆者の発表論文3編は電離層観測 衛星(ISS-b)の成果に関するものであり,U部会の三 つのテーマの講演会で1編づつ発表した。ISS-b独特の 世界分布観測結果は今までに例のないもので各国研究者 の興味を引いたらしく,多くの研究者から論文別刷を請 求されたり,質問を受けたり,またISS-bのデータを利 用する協力研究の依頼を受けたりした。会期中会場に展 示したISS-b観測によるf0F2のアトラスについても興 味が持たれ,多数の入手希望者があった。
 IAGAのK部会では六つのテーマに関する講演会が開 かれた。「熱圏・電離圏の力学と組成」の講演会では熱圏 ・電離圏の数値モデルに関する論文が多く発表され,「電 離層不規則分布」の講演会では赤道域の不規則分布に関 する論文が目立った。「非太陽電離源」の講演会は世話人 であり貢献の大きかった故等松隆夫教授を偲ぶ追悼講演 会として企画され,同講演会に出席された等松夫人の流 暢な英語の挨拶のあと講演会に入った。W部会の「太陽 風と惑星大気」の講演会では,米国のPioneer‐Venus衛 星の観測による太陽風と金星電離層の相互作用について の論文が数編発表され,夜間電離層の成因について意見 が分かれていた。金星電離層サウンダ実験(VISE)計画 に関係している筆者としては興味深く聴いた。「MAP」 の講演会では気象関係の研究者も積極的に活躍しはじめ ている印象を受けた。
 IUGG総会に関係者が多数出席することを考慮して, 会期中にURSIワーキング・グループG10,つまり「国際 デジタル・イオノゾンデ・グループ(IDIG)」の非公式 会議とURSI/STP委員会に属する電離層観測網諮問グ ループ(INAG)会議が持たれ,筆者はIDIGのメンバー として,またINAGのメンバー代理として両会議に出席 した。デジタル・イオノゾンデの開発には米国のほかベ ルギー,英国,豪州,ソ連が取組んでいる。INAG会議 での各国の報告を総合すると,地上の電離層観測点数は 現在約125(リンカーン女史の概算による)で,特に増減は ないようである。
 開催地となったキャンベラ市は1911年から豪州の首都 として計画的に建設された都市であり,現在も周辺の宅 地開発が進められつつある。会場の豪州国立大学は良く 整備された広大な敷地に点在する教室・ホール等の建物 群,カレッジ(学寮)群及び諸施設で成っており,学内用 バスが運行されている。会期中連日盛夏の日射しを受け てすっかり日焼けしたが,幸い湿気が少なく汗が流れる ことは殆どなかった。屋外の至る所で蠅が顔面にまつわ りつくのには一寸閉口した。帰路,シドニーの電離層予 報業務(IPS)センターを訪問した。最後に,今回の外 国出張に際しお世話になった関係者の方々に感謝致しま す。

(平磯支所長)


短   信


「あやめ2号」ミッション達成ならず

 実験用静止通信衛星(ECS-b)の打上げは,2月22日 17時35分,宇宙開発事業団の種子島宇宙センタからNロ ケット6号機によって行われた。国際標識番号は「1980 -018A」,愛称は郵政大臣により「あやめ2号」と命名さ れた。
 しかし,2月25日午後1時46分に衛星のアポジモータ 点火が行われたところ,点火約8秒後に衛星からの送信 電波が受信不能になり,「あやめ2号」のミッション達 成は困難となった。今後,宇宙開発委員会第四部会にお いて失敗の原因究明が行われることになっており,また, 当所としても直ちに対応策の策定に着手した。



実用通信・放送衛星小委員会の発足

 標記の小委員会が電波研究所宇宙開発計画検討委員会 の下に2月15日に発足した。同小委員会は郵政省が55年 度から進めようとしている第二世代実用衛星(CS-3, BS-3)計画の策定に対し,姿勢制御方式,打上げ方 式,ミッション機器及び追跡管制技術に関する調査を技 術面からサポートする為に設けられたものである。
 55年度は概念設計に必要不可欠な要素技術の洗い出し と評価,外部機関への委託項目の選択を行い,さらに CS-3の概念設計の仕様作成にも参加の予定である。
 当所が将来の実用衛星に対し,どの様に対処していく べきかを考えるのも同小委員会の仕事の一つである。  構成メンバーは下記の通りである。
 塚本賢一(主査),今井信男,林理三雄,下世古幸雄, 高橋耕三,手代木扶,猿渡岱爾,岩崎憲,山下不二夫, 沢路和明,高杉敏男



非エネルギー分野における日米科学技術協力
第2回会議の開催

 日米両国の非エネルギー分野における科学技術研究協 力の可能性を探るための第2回会議が2月12,13日の両 日開催された。米国ワシントンの国務省及び航空宇宙 局本部において,日本側からは菊地外務審議官を団長 に山野科学審議官ら総勢34名の代表が,また,米国側か らはプレス大統領科学技術顧問を団長にフロッシュ航空 宇宙局長官ら多数の代表が出席した。
 12日午前の全体会議に引き続き12日午後からは五つの 分科会が開催され,宇宙分科会には郵政省から田尾電波 研究所長が出席した。Geodynamicsの討議では米国航空 宇宙局のフリン博士から米国側のVLBI計画について説 明があり,MARKVシステムと日本側のバンド幅合成法 との整合を取りたい旨述べられた。田尾代表は,日本側 のVLBI開発5か年計画と進捗状況を説明し,特に問題 もなく了承された。
 また,昨年8月30日付のNASA国際部長から電波研究 所長に宛てたVLBI共同実験の書簡に対する返事が国内 事情のために遅れたことを田尾代表から説明し,回答の 書簡を手渡したところ米国側は満足の意を表明した。こ れによりVLBI日米共同実験は正式に同意された。
 なお今回の会議では,さきの第1回会議で提案された 24項目のプロジェクトのうち宇宙関係4項目を含めた10 項目を当面の研究協力として進めていくことが同意され た。一方,非エネルギー分野における日米科学技術協力 協定(いわゆるアンブレラ協定)については,熱心に討 議をしたが,協定締結に至らず,引き続き協議すること になった。



電離層観測衛星の協定更新さる

 電離層観測衛星(ISS-b,「うめ2号」)の管理・運用 業務の分担及び実施に関する宇宙開発事業団との協定が 昭和55年2月14日を以って期限が切れるので,引き続き 衛星の有効利用とその管理・運用業務を円滑に実施する ため昭和56年3月31日までの協定が2月15日締結された。
 ISS-bは,昭和53年2月に打上げられてから満2年を 経過した現在も貴重な観測データを地上に送り続けてい る。それらのデータにより世界で始めて衛星観測による 電離層F層の臨界周波数,雷の発生頻度,プラズマ特性 等の世界分布図が作成されるなど数多くの成果を上げ広 く内外に発表されている。