今年度の研究計画について,重要事項を中心に記す。
CS及びBSについては,衛星寿命の最終段階とし
て,基本実験に加えて各種の応用実験を予定しており,
これには外部機関(NTT,NHK,警察庁,国鉄,電
力会社,新聞協会,大学,水沢緯度観測所等)の参加・
協力を得ることとしている。
ECS-b「あやめ2号」は,残念ながら失敗したた
め,対応策を検討中である。
航空・海上技術衛星(AMES)については,ポストC
S・BSの最重要プロジェクトと考え,今年度は,Lバ
ンド電波の海上伝搬実験,Lバンド直線増幅器の研究,
航空機搭載用アンテナの開発等を行う。
昭和55年度予算において,二つの新規宇宙開発関係項
目が認められたので,これらについては本格的な研究開
発に取り組めることとなった。即ち,一つはかねて宇
宙開発計画の見直しの中で要望してきた通信技術衛星
(ACTS-G)に係わる「衛星用マルチビームアンテナの
研究開発」であり,他の一つはやはり見直し要望事項と
しての電磁環境観測衛星(EMEOS),及び,米国の金
星周回探査衛星(VOIR)に係わる「衛星搭載用電離層
観測機器の研究開発」である。
超長基線電波干渉計(VLBI)システムについては昨
年6月,宇宙分野における日米合同調査計画専門家会議
により勧告された17項目の共同プロジェクトの一つであ
り,また,昨年9月及び本年2月に開かれた非エネルギ
ー分野における日米科学技術協力の会合においても日米
共同プロジェクトの一つとして取り上げられたことか
ら,当所としても積極的に推進することとし,昨年10
月,所内に設置されたVLBIシステム研究開発推進本
部が中心となって,1983年のシステムレべルの日米共同
実験を目標に,昨年度に引き続き研究開発を行う。
53年度から進めている衛星搭載用アクティブマイクロ
波センサーの研究開発については,今年度は航空機搭載
実験を実施する。
このほかの主な宇宙関連計画として,ISS-b及び
ISISの観測を,NASDA及びカナダの協力を得て継続
する。
以上の宇宙開発関係プロジェクトは,本部組織及び昨
年7月に発足した衛星通信部・衛星計測部が主体とな
り,従来にも増して責任ある体制の下に組織的に推進す
る。
周波数資源の開発については,40GHz以上の電波伝
搬の研究開発及びスペクトラム拡散地上通信方式の研究
開発を引き続き進めるとともに,これまで実施してきた
VHF-UHF狭帯域化通信方式(リンコンペックス)の
研究開発の成果取りまとめを行う。
本省からの研究調査協力依頼事項については,新規事
項7件((1)空間伝搬光通信方式に関する調査研究,
(2)BS実験にかかわる協力,(3)第二世代の実用衛星(CS-
3,BS-3)の開発にかかわる協力,(4)地上回線から衛
星回線への干渉の調査,(5)スポラディックE層による
Co-CH混信予測地域図の作成,(6)空中線電力の微弱な
無線設備の電界強度測定法に関する調査,(7)放送及び重
要通信等への妨害電波の発射源特定システムの開発)及
び継続事項7件,計14件に対して協力していく。なお,
53年度から協力してきた2件((1)徴小電力テレビジョン
局低廉化の研究,(2)放送妨害探査システムの設置基準決
定及び運用に関する調査)は,所期の成果をあげ,54年
度をもって終了した。以下に,本年度研究計画の一覧を
示す。
(企画部第一課)
研 究 計 画 一 覧 表 1
研 究 計 画 一 覧 表 2
研 究 計 画 一 覧 表 3
安 田 嘉 之
第11回精密時刻と時間 (PTTI,Precise Time and Time Interval) の応用に関する計画会議は,1979年11 月27日から29日まで,米国メリーランド州の米国航空宇 宙局ゴダード宇宙飛行センタ(NASA,GSPC)で開催 された。この会議の主目的は,PTTIの応用と関連シス テムについて検討をすることである。深宇宙追跡網を例 にとれば,追跡局間の時刻同期は現在及び将来どの程度 が必要か,同期方法はどの様にするか,などが議論され る。また,各システムの構成要素である周波数標準器の 確度や安定度の現状と将来も重要であり,さらに,PTTI の新しい応用は何かなどということも議論の対象とな る。会議の主催はNASA GSFCのほか,海軍研究所 (NRL),海軍天文台(USNO)などで,1969年以来, 毎年1回行われている。今回の参加者はアメリカが大半 であるが,カナダ,イギリス,フランス,オランダ,西 ドイツ,イタリア,インド,日本,中国などから合計 200人程であった。前記の主催機関を始め,米国国立標 準局(NBS)ボールダ研究所,西ドイツの連邦物理工学 研究所(PTB),パリの国際報時局(BIH)などの専門 機関の幹部又は一線級の研究者はほとんど出席していた ようで,顔見知りもかなりいて,コーヒーブレイクや昼 食時にいろいろ話し合うことができた。
表 PTTI会議講演一覧表
まずPTTIの応用分野では, アメリカのジェット推
進研究所(JPL)が,近い将来の深宇宙追跡に必要な追
跡局間の時刻及び周波数同期精度はそれぞれ10ナノ秒及
び10^-14が必要とのことである。また,軍用ディジタル
通信における同期の問題(3件,アメリカ),多分今回が
最初と思われるが,医療への応用として,インドの国立
物理研究所(NPL)による患者の監視システムについて
の発表もあった。
次にPTTIの比較及び供給システムのうち,衛星の
利用に関しては,第9画(1977年)頃までは,発表はほ
とんどアメリカだけであったが,今回は表のように,我
が国(当所)を始め多数の国々からの発表があった。当
所からの発表は,1980年に実施予定の放送衛星利用の時
刻と周波数供給実験の計画と予備実験の結果(受信した
色副搬送波の周波数安定度,衛星の漂動によるドップラ
シフトの消去又は軽減など),及び1978〜1979年に,ア
メリカの航行技術衛星(NTS-1)を利用して行った当
所とUSNO間の国際時刻比較結果の報告である。とく
に,NTS-1利用の時刻比較実験で,1周波(335MHz)
受信の際に受ける電離層の影響を全電子数変化の簡単な
モデルで補正した高確度(数百ナノ秒)の時刻比較結果
は大変好評であった。航行衛星(周回)の利用では,こ
のほか,1980の年代半ばから運用開始予定
の世界測位システム(GPS)を利用した時
刻同期実験の報告(アメリカ,同期精度20
ナノ秒可能)があり,注目を引いた。ま
た,静止衛星の利用では,前述の放送衛星
利用の実験のほか,アメリカの気象衛星
GOESの電波に重畳した時刻コードによ
る半ば運用的な報時実験の報告(NBSボー
ルダ,確度数十マイクロ秒),Hermes及
びSymphonie衛星によるカナダ,アメリ
カ,フランス間の時刻比較共同実験(精度
数ナノ秒,短時間安定度約0.2ナノ秒)な
どが印象的であった。なお,計画として
は,レーザパルスによる時刻測定と衛星測
距を行うことにより,1ナノ秒の時刻比較
確度が実現できるという LASSO
(Laser
Synchronization from Stationary Orbit,欧州で計画,
1981年実施予定),また,NASAの追跡及びデータ中継
衛星システム(TDRSS)に関する講演があったが,と
くに前者の成果が期待される。VLBIは1件を除き,す
べてJPLによる報告で,22qの短基線で行ったシステ
ム評価実験(誤差数ナノ秒)の報告,三つの深宇宙追跡
局(オーストラリア,スペイン,米国)を使用した3基
線による測定結果(一巡の誤差約40ナノ秒)などがあり,
着実な確度改善が感じられた。
最後に周波数標準器については,PTBによる高確度
のセシウム標準器に関する現状報告,NBSの概観的な
講演数件などがあった。とくにNBSは,原子標準では
ルビジウム,水素,セシウムはいうまでもなく,将来の
一次標準器の検討,さらに,超伝導空胴による発振器の
周波数安定化や水晶発振器の性能改善にいたるまで,非
常に幅広く,しかも着実な研究を続けているという印象
を受けた。
以上PTTI会議の内容の概略につき述べた。当所と
しては好い時機に衛星関係の論文発表ができたわけであ
るが,欧米諸国のこの方面での活発な動きを強く感じ
た。
なお,会議とは別に,NASA,GSFCとNRLの関
係者らと会合し,NTS後の有力な国際時刻比較手段で
あるGPS用の受信機の開発について打合せを行った。
価格を最低限に抑えるため,時刻比較の目標確度を100
ナノ秒とし,従来のNTS用受信機を部分的にもせよで
きるだけ活用する方針がとられた。試作には1年半程度
必要であるが,高確度国際比較方法の早期確立に努力し
たい。
おわりに,今回の会議に参加の機会を与えて下さった
上司の方々,ならびに関係の方々に深く感謝致します。
(周波数標準部 周波数標準値研究室長)