所 長 就 任 に あ た っ て


所長 栗原 芳高


 私は7月1日付をもちまして第9代目の電波研究所長 を拝命致しました。身に余る光栄と存じますが,責任の 重大さに身のひきしまる思いでございます。皆様の御支 援,御鞭達によりつつがなく職責を果したいと存じます ので,よろしくお願い申し上げます。
 御承知のように昭和27年の電波研究所発足当初におけ る研究分野は大別して3つに分けられておりました。す なわち,(1)電波の伝わり方の研究,(2)周波数標準の研究, (3)無線機器の型式検定及びこれに伴う無線機器に関する 研究でありました。これらの研究分野につきましては過 去30年近くにわたる諸先輩の御努力によって数々の成果 が挙げられ,今日の電波研究所の発展を支える基盤をな しており,今後も一層の成果が期待されているものであ ります。
 その後時代の推移とともに宇宙時代,情報化時代の幕 開けを迎え,現在の電波研究所の研究分野は大別して5 つに分けられます。すなわち,(1)宇宙通信及び人工衛星 の研究開発,(2)宇宙科学及び大気科学の研究,(3)情報処 理,通信方式,無線機器の研究,(4)周波数標準に関する 研究,(5)周波数資源の開発 でございます。今後ともこ の大枠に大きな変化はございませんが,この機会に最近 の研究情勢の主な動きについて御説明中し上げたいと存 じます。
 まず第一の分野でございますが,CS及びBSは打上 げ以来2年有余を経過して今日では基本的な定常実験の 大部分を終了し,いよいよ収獲期に入ってまいりまし た。すなわち,これから実施する応用実験を含めた実験 の成果は,通信・放送衛星機構が設置・運用する実用衛 星CS-2及びBS-2の設計・製作に反映され, 実利用 に役立つことになっております。ただ残念なことに,最 近BSの画像送信機能が停止したため画像評価に関する 応用実験実施の見通しは暗くなりました。しかしながら 幸いなことにその他の機能に格別な異常はないので,次 期衛星の開発に資するための資料は十分に得られるもの と確信しております。
 また世界にさきがけて開発したミリ波通信衛星ECS も誠に残念なことに日の目を見るに到らず,当所の研究 計画も大きな打撃をうけたわけでありますが,営々たる 準備努力と大きな地上設備投資を無にしないための関係 者の努力が実を結び,代替実験として「CS利用による サイトダイバーシチ実験」,「ミリ波降雨散乱実験」及び 「ミリ波太陽電波観測」の3項目の実施が可能となりま した。 これらの実験の成果は次期実験用静止通信衛星 ECS-K計画に反映される予定であります。
 ECS-Kはミリ波帯中継器及び準ミリ波帯高性能中継 器をとう載する新構想の衛星で,昭和61年度に打上げる ことを宇宙開発委員会に要望しております。当所関係の 新規要望事項としてはこのほかに,22GHz帯送信機及 び国産12CHz帯TWTをとう載する実験用放送衛星 EBS,衛星とう載用合成開口レーダ及び衛星利用捜索救 難システムがあります。これらの新規要望事項はいずれ も大変意欲的な内容をもっており今後の研究活動を高め る上で極めて重要な意義をもっております。
 更に,かねてから要望を続けている航空・海上技術衛 星AMES計画につきましては,小型船舶用高性能アン テナ装置が完成し本年秋には地上実験を実施する段階に なりました。また航空機とう載アンテナ装置も本年度予 算が認められましたので来年度は是非とも衛星用中継器 EMの予算を獲得したいと考えておりますが,本計画は 郵政省,運輸省及び科学技術庁(宇宙開発事業団)との 共同計画となっておりますので,各省足並みを揃えた努 力が今後とも一層必要であります。
 通信技術衛星ACTS-G関係につきましても長年の努 力が実を結び,本年度からマルチビームアンテナの予算 が認められ研究を開始することができました。マルチビ ームアンテナは次代の衛星にとって欠くことのできない 基本技術となるもので,今後の発展が期待されます。
 次に第2の分野において御承知のISS-b(うめ2号) は打上げ後約2年半を経過してもなお健在で,現在も貴 重なデータを送り続けております。これらのデータをも とに作成された電離層臨界周波教の世界地図は国の内外 において大変高く評価されております。その他のミッシ ョンについても同様な資料が作成されつつありますが, 開発の成果を最大限に活用するため今後も可能な限り衛 星の運用を継続する予定でおります。またISSで開発 した短波帯サウンダは米国の金星周回探査衛星へのとう 載計画が推進されておりますし,ISSを改良発展させた 電磁環境観測衛星計画も引続き宇宙開発委員会に要望を 提出しております。
 地上における電離層観測業務につきましては,昨年度 総合研究宮を中心とした全所的な検討・見直しが行われ 「電離層観測業務の改革に関する試案」が前所長あてに 答申されました。これによると(1)電離層観測乗務は,従 来言われてきた短波通信との限定された関連から脱却 し,広いスペクトルにわたって電波と電離圏との係り合 いに注目しながら,今後発展する広範な無線通信技術へ の寄与ができるように業務内容の改善を進めること,(2) 電離層観測業務は,地球大気の一部としての電離圏を観 測する最も標準的でかつ有効な手段であることを再認識 して,世界的な規模において協調実施すべきこと,(3)イ オノゾンデの機能向上,並びにイオノグラム処理の自動 化等により電離層観測業務の省力化,能率化をはかるこ と,と結論されています。電離層観測業務の在り方につ いては種々論議のある所でありますが,本答申は現時点 における考え方をまとめた当面の指針として活用する方 針であります。
 リモートセンシング関係ではマイクロ波雨域散乱計が 完成し,現在飛行実験実施段階に入っております。実験 の成果はミリ波伝搬に影響する雨域の測定のみならず, 海面散乱等マイクロ波リモートセンシングの基礎となる データと解析結果が得られるものと期待しています。前 にも述べた合成開口レーダはこの技術の延長線上におい て考えております。大気汚染の監視と発生機構を解明す るための航空機とう載型レーザ・センサの研究開発も現 在飛行実験実施段階にあります。同じく大気環境リモセ ン関係のラスレーダは昨年度で開発を終了し所期の成果 を収めております。本年度からは今迄の成果を活用して 電波音波共用上層風隔測装置の開発に着手し,来年度か らは新方式の開発にも着手する予定であります。
 第3の分野における最近の新しい課題は電磁環境問題 でありましょう。電磁環境の実態と,それの通信や他の 社会システムとの係わり方を的確に把握することは,今 後更に増大する電磁波利用に応えるために避けて通れな い課題であり,当所に最もふさわしい態様を検討し,具 体的な施策を打ち出してゆく予定であります。このほか の話題としては,来年度,待望の大型電子計算機(現在 の約4倍規模)が導入される予定で,電波研究所の研究 活動に大きく寄与するものと期待しています。
 第4の分野における最大の課題は超長基線電波干渉計 (VLBI)技術の開発であります。VLBIは宇宙技術の分 野に深く関連しておりますが,技術全体としては周波数 ・時刻標準技術における超高精度・超高安定度技術が不 可欠の要因となり,また情報処理技術等多くの分野の協 力が必要となって参ります。このため昨年9月,周波数 標準部長を本部長とする「超長基線電波干渉計システム 研究開発推進本部」を設け,鹿島支所第三宇宙通債研究 室を中心として全所的に開発を推進しております。
 第5の分野の周波数資源の開発は順調に進んでおり, 未利用周波数帯においては現在の80GHz帯から来年度 は150GHz帯に進展する計画であり,更に光領域周波 数帯の開発に関連するサブミリ波帯の検討も進める予定 であります。既利用周波数帯では移動無線におけるリン コンペックス方式は野外実験を実施してまとめの段階に あり,スペクトラム拡散地上通信方式はエンジニアリン グモデルの試作を進めております。この分野は特に電波 行政と深い係わりをもっておりますが,他の分野におい ても直接または間接に電波行政に寄与しているプロジェ クトも少くありません。本省の研究調査依頼事項のうち 本年度実施するものは14項目にものぼっており,研究の 実施に当たっては電波監理局と緊密な連けいを保ちなが ら進めて行く必要があります。
 以上概観しましたように,現在電波研究所が当面して いる課題,また将来取り組もうとしている課題は誠に多 岐にわたってきております。加えて国の財政事情は益々 厳しさを加え,要員につきましても年々削減が進んでき ております。このような情勢のもとでは,私達は改めて 電波研究所がおかれている立場と任務の重要性を再認識 し,国家公務員としての自覚のもとに職員の一人一人が 創意工夫を重ね,最大の成果を上げることが切に望まれ るものであります。私自身誠に微力ではありますが,電 波研究所発展のために全力を傾倒する所存でございます ので,重ねてよろしくお願い申し上げます。




郵政省の「宇宙開発計画」の見直し要望について


 まえがき
 本年3月26目に宇宙開発委員会により決定された「宇 宙開発計画」(昭和54年度決定)に対する見直し要望が, 別記のとおり,6月17日郵政省から宇宙開発委員会に提 出された。要望事項は,@自主技術による宇宙開発の促 進策について,A航空・海上技術衛星(AMES),B実験 用静止通信衛星K型(ECS-K),C実験用放送衛星(EBS) D通信技術衛星(ACTS-G),E電磁環境観測衛星(EM EOS),F衛星とう載用合成開口レーダの開発研究,G 衛星利用捜索救難システムの研究の8項目である。この うち,昨年の見直し要望に比べ今回新たに出されたもの は,@BCFGである。
 今度の見直し要望の背景として特記すべきことは,本 年2月22日に打ち上げられたECS-b(あやめ2号)が, 残念ながら昨年に続き再度失敗したことで,3月3日に 開かれた本年第1回の宇宙開発委員会第一部会におい て,郵政省はミリ波衛星通信技術の開発の重要性を強調 している。
 要望をまとめるまでには,3月から所内においては宇 宙開発計画検討委員会(委員長:加藤前次長)が主体と なって討議を進めるとともに,電波監理局宇宙通信企画 課及び宇宙通信開発課,宇宙開発事業団,AMES連絡会, 電々公社,NHK等との緊密な連絡調整を経て行った。
 以下に,当所と関係の深い見直し要望事項について述 ぺる。


図1 通信・放送分野の衛星の位置づけ(参考)

 航空・海上技術衛星(AFS)
 既に昨年及び一昨年の宇宙開発委員会による見積り方 針では,「開発研究」を行うとされたものであるが,予算 が認められなかったことから54年度決定の宇宙開発計画 の中では「研究」の段階にとどまった。そこで,今回の 要望でも「開発研究」を要望し,打上げ時期も,昨年の 要望と同じく昭和60年度としている。 AMESは,当所 にとっては,CS,BS,ECSに続くべき最も重要な衛星 計画であり,昭和60年度打上げを是非実現させたい。
 AMESは科学技術庁(宇宙開発事業団),運輸省,郵 政省の共同計画であり,郵政省ミッションは,開発項目 として,衛星とう載ミッション機器(Lバンド固体化直 線大電力増幅器等)及び航空機々上設備(船舶用アンテ ナ,航空機フェイズドアレイアンテナ等)を担当し,実 験項目としては,電波伝搬実験及び通信実験を担当する。
 システムの主な仕様は昨年とほぼ同様で,重量約350 s,スピン安定(アンテナデスパン方式),アンテナはし バンド2ビームオフセットバラボラアンテア及びCバン ドグローバルビームホーンアンテナ,回線容量は電話換 算で14チャンネル程度,周波数は地球局〜衛星がCバン ド(5GHz),衛星〜移動局がLバンド(1.5/1.6GHz), 船舶局G/Tは-15〜-10dB/K(ただしアンテナゲイ ンは9〜i4dB),寿命は打上げ後約1.5年,打上げロ ケットはN‐Kとなっている。
 なお当所の55年度予算として「衛星を利用した航空・ 海上通信技術の研究開発」が認められたので,海上伝搬 実験及び航空機とう載アンテナの開発を進めている。
 実験用静止通信衛星K型(FCS-K)
 郵政省ではFCS計画としてミリ波衛星通信実験を行 おうとしていたが,衛星の打上げ失敗により,その実験 は不可能となった。そこで標記のECS-Kを本年新たに 要望したものである。ECS-Kは,ECSの開発成果を踏 まえたミリ波帯電波の開拓のほか,既に実用化が進めら れている準ミリ波帯(20/30GHz)についても高性能化 を図ろうとしている。
 開発項目は衛星とう載ミッション機器として,ミリ波 中継器,準ミリ波高性能中継器,ミリ波・準ミリ波アン テナ,高速度回線切替器を,また,地上設備として,大 局用高性能送受信システム,大局用高性能通信端局シス テム,可搬型及び小局用高性能通信システムを予定して いる。
 衛星システムとしては,重量約350s及び約550s の2種類を考えているが,いずれにしても昭和61年度打 上げを強く要望している。
 実験用放送衛星(EBS)
 BSの開発成果を踏まえて実用化が進められている 12GHz帯の周波数による衛星放送システムについて, より高出力の国産TWT増幅器の開発をめざすととも に,高品位テレビジョン,ディジタルテレビジョン等新 しい放送需要に応えるため,22GHz帯衛星放送技術の 確立を目的として,FBSを新たに要望した。
 開発項目は,12CHz帯高出力国産TWT増幅器(100 W以上200〜300Wを目標),22GHz帯送信機(50W を目標),アンテナ(12122GHz共用),22GHz帯直接 受信装置である。
 衛星システムの概要は,重量約550s,3軸姿勢安定 方式,設計寿命3年,12GHz帯トランスポンダ2台(上 り14GHz帯),22GHz帯トランスポンダ2台(上り14 又は27GHz帯)であり,打上げ時期は昭和62年度を要 望している。
 EBS及び前記のAMES,ECS-K等の実験衛星,並 びに実用衛星との関係を,参考のため図1に示す。
 通信技術衛星(ACTS-G)
 これは昭和52年度以来要望してきているもので,本年 の要望は昨年と同様である。即ち,将来の宇宙通信需要 の増大や多様化に対処するための技術開発の一環とし て,ACTS-Gを打上げ移動体通信及び衛星通信に係る 技術を開発しようとするもので,昭和60年代前期の衛星 打上げを目標に,当面はマルチビームアンテナの研究に 重点をおくことにしている。予算面でも,55年度に初め て「衛星用マルチビームアンテナの研究開発」が認めら れ,今後4か年計画として進める。
 システムの概要は,打上げロケットがH-T,3軸姿勢 安定方式,ミッション機器はマルチビームアンテナ及び 通信用送受信装置とし,システム構成例の参考図を図2 に示す。同図におげる周波数計画は,昨年の世界無線通 信主管庁会議(WARC-79)の結果を踏まえたもので,図 に見るようにマルチビームアンテナは2GHz帯アレイ (19ビーム)及び8/7GHz帯開口(数本)のものを考え ている。


図2 ACTS-Gシステム概念図(参考)

 電磁環境観測衛星(EMEOS)
 本年の要望内容は,昨年と同様である。即ち,ミッシ ョンは,能動型電波観測ミッション(中・短波帯サウン ダー,超短波サウンダー,マイクロ波ビーコン),受動型 電波観測ミッション(中・短波帯電波雑音観測装置,超 短波・極超短波帯電波雑音観測装置),及び環境直接測定 ミッション(プラズマ・高エネルギー粒子測定装置,イ オン・大気組成測定装置,磁場測定装置)の3種類であ る。
 衛星システムの概要は,重量約350s,打上げロケッ トはN-K又はH-T(2段式),スピン安定(磁気トルク による姿勢制御機能付き),円筒形,寿命3〜5年,テレ メトリは2GHz帯,データ記録方式はテープレコーダ 及びバブルメモリ装置とし,打上げ時期は昨年と同じく 昭和61年度頃を要望した。
 米国の金星周回探査衛星(VOIR)に関して,昨年5月 NASAに対し当所が提案した日・米・加の共同プロジ ェクト:金星電離層観測(VISE)については,NASAに おけるミッション評価の作業が遅れている模様で,現在 までのところ正式の回答は来ていない。しかしながら, 55年度予算として「衛星とう載用電離層観測機器の研究 開発」が認められたので,VOIRとう載用中・短波帯サ ウンダのエンジニアリングモデルの開発を目下鋭意進め ているところであり,また,NASAに対しては,これ まで機会ある毎に作業の進展を働きかけてきている。ま た,VISE計画推進には,宇宙開発事業団との連けいが 不可欠であり,本年度から同事業団と当所との共同研究 を強化しようとしている。
 衛星とう載用合成開口レーダの開発研究
 合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar) は,最も高性能な能動型電波リモートセンサーの一つと して期待されているもので,既に米国のSEASATとう 載実験によりその有効性が認められ,現在カナダ (SURSAT),ESA(COMSS,LASS)等において開発が進めら れているものである。
 SARは,能動型電波リモートセンサー共通の特長と して,昼夜の別なく,また天候に左右されることなく観 測が可能であるほか,周回衛星の軌道上の移動にともな って得られる一連のデータを処理することによって,等 価的に大口径アンテナによるものと同じ高分解能データ の取得が可能である。
 SARによるリモートセンシングに関し必要とされる 開発内容を大きく分けると,@衛星とう載用機器の開発 (ハードウェア),Aデータ解析・利用技術に係る映像 作成技術の開発,Bデータ解析・利用技術に係る測定デ ータ内容の解析技術の開発となる。このうち,@及びA は主としてNASDAが担当するものと考えられるの で,当所は主にBを行うことを考えている。
 開発計画の内容は,衛星とう載SARにより得られる 観測デ-タの解析と有効利用を目的として,昭和56〜63 年度の8年間において,航空機とう載用SARシステム を開発製作し,これを用いた航空機実験を行うと同時に, グランドトルース,シートルースの資料を収集し,衛星 によるSARデータの解析のためのアルゴリズムを確立 するとともに,SARシステムの各種パラメータが観測 結果へどう影響するかというSARシステムの評価を行 おうとするものである。現在考えている観測周波数は, Lバンド(約1.3GHz),Cバンド(5111〜6GHz),及びX バンド(約10GHz)の3周波(同時観測)である。
 なお,SARの研究開発は,NASDAとの密接な連け いが必要と考えられることから,当所はNASDAに対 し共同研究として推進しようとしている。
 衛星利用捜索救難システムの研究
 衛星を利用した非常用位置指示無線標識 (EPIRB:Emergency Position Indicating Radio Beacon)方式 は,現在の地上方式に比べ,遭難通報のカバレージ,応 答時間,信頼性の面で格段に優れた機能を発揮するもの と期待され,将来のグローバルな救難システムの重要な 構成要素となっていくものと考えられる。米・加・仏・ ソは共同でタイロスNを昭和57年に打ち上げ,これを使 用して捜索救難実験を行おうと計画している。
 我が国も海洋国として,国際的な捜索救難システムの 開発に資することが必要と考えられ,当所においては周 波数拡散技術を用いた小型・軽量・安価なEPIRBを開発 するとともに,CSを利用する検証実験,MOS-1を利用 する実験等を計画している。

(企画部第一課長 中橋信弘)



(参考資料)  宇宙開発計画の見直し要里(郵政省、昭和55年6月17日)

1 自主技術による宇宙開発の促進策について
 我が国における自主技術による宇宙開発の促進を図るため, 人工衛星技術の開発に資するとともに,実利用に供することを 目的とする人工衛星の打上げ失敗により生ずる人工衛星の利用 者機関の損害については,政府として遺切な救済措置を講ずる よう検討する。
2 航空・海上技術衛星(AMES)
 海洋国として,現在我が国では,多数の船舶が活躍している が,現在の漁船等の通信システムは,品質.容量等に問題が多 いので,これを改善する必要がある。
 このため,我が国の実情に遺した海上通信衛星システムを開 発することを目的として,昭和60年度に航空・海上技術衛星 (AMES)を打ち上げることとし,そのためのシステム及びミ ッション機器の開発研究を行う。
3 実験用静止通信衛星K型(ECS-K)
 将来の増太する通信需要に対処するため,ミリ波帯中継器及 び準ミリ波帯高性能中継器をとう載する実験周静止通信衛星U 型(ECS-U)を昭和61年度に打ち上げることとし,所要の開 発研究を行う。
4 実験用放送衛星(EBS)
 将来の放送需要に対処し,及び放送衛星の自主技術を確立す るため,22GHz帯送信機及び国産12GHz帯TWT増幅器 をとう載する実験用放送衛星(EBS)を昭和62年度に打ち上げ ることとし,所要の開発研究を行う。
5 通信技術衛星(ACTS-G)
 宇宙通信が宇宙開発の基幹的技術の一つであることにかんが み,この分野の自主技術の確立を図るとともに,将来の通信需 要の増大及び多様化に対処するため,新しい周波数や通債方式 の開発,衛星間通信技術などの確立を図る必要がある。
 これらの関発の一環として,陸上移動体との通信,周回衛星 を対象とする衛星間通信等に必要な技術開発を目的とする通信 技術衛星(ACTS-G)を,昭和60年代前期に打ち上げること を目標に最も基礎的な技術であるマルチビームアンテナの研究 を引き続き進める。
6 電磁環境観測衛星(EMEOS)
 地上無線通信及び宇宙無線通信等の運用は,電波の伝搬媒 質,通信系相互の混信,電波雑音等に影響されることから,こ れら電波環境を中波帯からマイクロ波帯にわたる広い周波数帯 についで観測する必要がある。
 このため電離層観測衛星(ISS-b)による成果を踏まえ,そ の機能を拡充して,電磁環境観測衛星(EMEOS)を,昭和61 年度ごろに打ち上げることを目標に所要の開発研究を行う。
 また,米国NASAの金星周回探査衛星計画に参加するた め,ISS-bの電離層観測技術を応用した金星電離層観測装置 の開発を促進する。
7 衛星とう載用合成開口レーダの開発研究
 将来の最も高性能な電波センサーとして期待されている衛星 とう載用合成開口レーダのシステム及びそれによるデータ処理 ・解析・利用技術の開発研究を行う。
8 衛星利用捜索救難システムの研究
 衛星を利用した国際的な捜索救難システムの開発に資するた め,周波数拡散通信方式を用いたシステムの研究を行う。




ジョルダンに出張して


上田 輝雄

  はじめに
 国際協力の一環として,日本政府はジョルダンに対し 昭和52年12月から約4年間にわたり機材の供与,専門家 の派遣,研修員の受入れ等を同時に実施するいわゆるプ ロジェクト方式の技術協力を行っている。現在協力期間 の中期に来ているところから,技術協力をより効果的に 実施するために現状の把握と今後の技術協力の内容につ いてジョルダン政府関係者と協議するため,高橋昌明氏 (郵政省電波監理局調査官)を団長とし藤村茂幸(日本電 信電話公社),川上兼弘(国際協力事業団)の各氏及び筆 者の4名から成る打合せチームが昭和55年3月25日から 4月8日までの15日間ジョルダンに派遺されることにな った。その模様について報告する。
  ジョルダンに対する技術協力の経緯
 ジョルダンにおいては,経済の発展及び産業の近代化 にともない,広範囲な分野で電子機器の使用が急速に広 まって来ている。同時にこれらの電子機器の円滑な普及 を図るためには電子機器に対する保守,試験,校正等の サービス業務が必要となり,また,これらの業務を行う ための技術者の育成が強く望まれて来た。
 同国政府はこれらの問題対処を国家的施策の一つとし て実施する目的で昭和50年12月に同国王立科学院電子工 学部内に電子工学サービス訓練センター (ESTC:Electronics Service and Training Center)の設立を計画 し, 日本政府に技術協力を要請して来た。これに対して 目本政府は昭和52年2月に事前調査団を,同年12月に実 施協議チームを派遣した。その結果,ESTCに対して 総額3億円に近い通信機器関係機材の供与,専門家の派 遣,研修員の受入れ等の技術協力を行うことになった。 以上の経緯により昭和53年12月に保守,試験関係の第1 回目の機材が発送され,翌年2月にはこれら機材の検収 (検査及び収納)と技術指導のため6名の短期専門家が約 1か月半派遣された(本ニュースNo.40参照)。続いて 第2回目の機材(同じく保守試験用機材)が昭和54年4 月に発送され,これに対する検収,技術指導は同年9月 に3名の派遣専門家により1か月間実施された。
 一方,ジョルダン側研修員の日本における技術研修に ついては,昭和52年度から54年度にわたり5名の研修員 の受入れを行った。
  ESTCの活動状況
 ESTCは保守,試験および標準・校正の3研究室か ら構成されており現在所長以下16名の職員で運営されて いる。標準・校正研究室は校正システムの機材供与が昭 和55年度になるため現在活動していないが,保守及び試 験研究室では53,54年度に供与された測定器類を使用 し,国内の公共および民間の各機関で使用しているHF 帯のSSB送受信機,VHF帯のトランシーバー等の修 理(月平均10件程度)や,増幅器,受信機その他部品等 の試験を行っている。両研究室の活動状況を見ると現状 では保守研究室の方が活発のように見うけられた。
  今後の技術協力の実施方針
 今回のジョルダン側との協議では今後の機材の供与, 専門家の派遣,研修員の受入れ等が主題となったが,特 に55年度以降供与予定機材の校正システム(総額約1.5 億円)はジョルダンにおいて最も期待しているものであ るため,日本側においてもこの校正システムの内容につ いては機材委員会で鋭意検討し仕様書を作り,この仕様 内容についてジョルダン側に詳細に説明した。その結 果,機材委員会の努力の甲斐もあってほとんど全面的に 仕様内容については合意を得た。ただ,校正システム (電圧,電流,周波数,減衰量,電力)のうち,周波数校 正システムについては時間標準を付加して欲しいとの要 望が出されたが,予定されていなかったものであり,ま た予算との関係もあるのでこの要望は日本政府に伝える ことで合意した。短期専門家の派遣については今後昭和 56年末までに3回にわたり実施される予定であるが指導 内容,派遺時期等についてはジョルダンに滞在している 総括顧問(鈴木嘉郎氏)とジョルダン側とで早急に協議 して具体的要望をまとめ,日本側に連絡することで相互 に了承した。また,研修員の受入れについては日本側か ら今後の予定として10人・月を提示したのに対し,ジョ ルダン側は19人・月を要求して来た。これは日本におけ る研修期間を少しでも長くし,より多くの技術を修得し たいという意欲の現われと思われるが日本側の受入れ体 制のこともあり,今後の検討課題となった。


打ち合わせチーム一行(中央鈴木総括顧問,左端筆者)

  おわりに
 ジョルダンは,シリア砂漠の南辺に位置し西はイスラ エル,東をイラク,北をシリア,南をサウジアラビアに 取巻かれ,アカバ湾で海に接しているもののいわゆる内 陸砂漠国家である。日本の約4分の1の国土面積に280 万人(1978年)の人口を有するが,国土の大部分が降雨 に乏しい砂漠地で農地が少なく食糧の自給度も低い。ま た,石油資源に欠け,燐鉱石,銅など多少の鉱物資源に は恵まれているが,全般的に経済環境に恵まれた国とは いえない。したがって,日本を始め工業先進国を手本と し,工業立国をめざして近代化を押し進めており,今回 訪れた王立科学院電子工学部の職員も技術の吸収には非 常な熱意を示していた。なお,ESTCは我々の携わって いる技術協力プロジェクトのほかに無償資金協力プロジ ェクトによる建物も供与されることになっており,昭和 56年2月に竣工する予定で,建物と同時に供与機材を最 大限に活用し,将来近隣アラブ諸国の電気通信分野の技 術センターとしての役割を果たすべく,職員一同意欲に 燃えている。また,日本の技術に全幅の信頼感を持って いるので本プロジェクト関係者並びに関係機関において は,この期待を裏切らないよう特に留意すべきであると 感じられた。
 最後に,この機会を与えて下さった関係各位に厚く感 謝致します。

(通信機器部 機器課 主任研究官)


短   信


RRL/NASDA共同研究委員会(策4回)開催さる

 標記委員会が6月9日,NASDA本社において NASDA側から鈴木副理事長ほか15名,当所から田尾所長ほ か21名の参加を得て開催された。
 委員会は,鈴木副理事長,田尾所長の挨拶の後,昭和 54年度の共同研究等の成果報告及び昭和55年度共同研究 等の計画案について審議が行われた。この計画案の変更 及び新規研究項目は次の通りである。
 「電離層観測装置の機能向上に関する研究」は項目を 「衛星とう載用電離層観測装置の開発研究」に変更し共 同研究で行う。「アクティブセンサに関する研究」と「パ ッシブセンサに関する研究」は「マイクロ波リモートセ ンサに関する研究」に総合し共同研究で行う。新規とし て,「AMESとう載ミッション機器と衛星機器との整合 に関する研究」が共同研究で,「MOS-T,DCSのシステ ム機構に関する技術的検討」が技術援助の形で認められ 研究が進められることになった。
 本委員会では,当所及びNASDAの昭和55年度予算 と宇宙開発計画の見直し要望案について説明が行われる とともに,ECS-bの不具合について平井理事から詳細 な説明を受けた後閉会した。



宇宙開発計画の見直し要里審議始まる

 6月27日,サイエンスビルにおいて宇宙開発委員会第 一部会の本年第二回の会合が開かれた。これは宇宙開発 委員会からの審議付託を受け,昭和56年度宇宙開発関係 費の見積り方針に反映させるべき事項について,7月下 句を目途に審議し終えるとともに.宇宙開発計画の改訂 に必要な調査審議を行うもので,毎年この時期に行われ ている。
 関係各機関から提出された各要望事項(郵政省分は別 項参照)は,衛星系分科会と輸送系分科会とで昨年と同 じ次の観点から審議される。なお,本年度は,実験用静 止通信衛星(ECS-b)の打上げ結果の評価を踏まえ次の 事項について審議を行うこととしている。
 (1)要望された事項を特定の時期までに達成することの 必要性,緊急性,(2)要望された事項を特定の時期までに 達成することの技術的可能性,(3)宇宙開発政策大綱に示 された諸方針との整合性,(4)宇宙開発に関連する技術の 系統的育成及び国産化,(5)射場の打上げ能力,必要な地 上施設の整備等関連する他のプログラムとの関連。



実験用放送衛星小委員会の発足

 標記の小委員会が電波研究所宇宙開発計画検討委員会 の下に6月30日に発足した。同小委員会は郵政省が54年 度決定の宇宙開発計画の見直し要望(別項参照)におい て提出した実験用放送衛星(EBS)計画に係る22GHz 帯衛星放送実験について,技術的検討を行うために設け られたものである。
 55年度はEBSの概念の検討及び22GHz帯TWT, 衛星とう載用アンテナ等について調査検討を進める予定 である。
 構成メンバーは下記の通りである。
 下世古幸雄(主査), 岩崎 憲, 丹羽一寿,手代木 扶,林 理三雄,猿渡岱爾,乙津祐一,山本 稔,田中 高史,飯田尚志



第1回VlBIシンポジウム開催さる

 去る6月23・24日の両日当所講堂において日本学術会 議地球物理学研究連絡委員会付置宇宙技術測地利用小委 員会主催の第1回測地・地球物理学におけるVLBIの利 用に関するシンポジウムが開催され,国内のVLBI関連 の研究機関や大学の関係者約70名が出席した。今回のシ ンポジウムは特にVLBIの測地・地球物理的応用に焦点 を当て,(1)将来のVLBI観測計画立案のための情報収 集,(2)VLBI観測に関する我が国独自の研究成果及び提 案など,我が国におけるVLBIの進捗状況を内外に明ら かにする,の2点が考慮された。第1日目の午前は VLBIの測地への導入,午後は測地,極運動,地球回転の 各テーマにつき観測の提案がなされた。第2日目の午前 中に当所で開発または計画中のVLBIシステムのハード 面の説明を行い,午後は実際に観測を行う際の問題点が 話された。第1回目にしては予想以上の盛況で,VLBI への関心の高さをうかがわせた。