マルチビームアンテナの研究開発


衛星通信部

  はじめに
 トランシーバや腕時計ぐらいの簡単で安価な無線設備 を使って,いつでもどこでも自由に衛星を使った通信が 行えるようにというのは衛星通信に携わる者共通の願い であろう。今の所,衛星通信はサービスの形態も,また そのユーザも極めて限定されたものであるが,将来はサ ービスも多様化すると共に,多くの人々にとりて衛星通 信は経済的で身近かなものとなり,それが逆にユーザ数 の飛躍的増大に拍車をかげるような状況が出現するもの と考えられる。
 マルチビームアンテナは,このような宇宙通信の夢を 実現するための最も基本的技術の一つである。この技術 はユーザの設備の簡易化によりトータルシステムの経済 化をはかると共に周波数再利用によって通信容量の増大 をも可能にする。しかもこれは利用形態とそれを実現す るアンテナに相違はあるものの,固定衛星通信,衛星放 送,移動体衛星通信のすべてに適用でき,大きな経済的 効果をもたらすことからマルチビ-ムアンテナの技術開 発は世界的にも緊急の課題となっている。
 米国では14/11GHz帯において,17個のビームで合 衆国をくまなく覆う計画,30/20GHz帯の32個のスポッ トビームで主要都市を照射する計画等の固定衛星通信計 画がNASAによって打ち出され,様々なアンテナが NASAや各民間会社から提案されている。さらに,運 用に融通性を持たせるため,給電系をアレーアンテナ構 成にし,その励振を制御することでビーム形状を必要に 応じて変える,reconfigurable multibeam antennaも 提案されている。
 移動体通信関係では,追跡データ中継衛星(TDRS) のAGIPA(Adaptive Ground Implemented Phased Array) と呼ばれるアレーアンテナが開発されている。 これは地上で各素子アンテナの位相制御を行って同時に 20個のユーザ衛星とアクセスするもので,やはりマルチ ビームアンテナである。
 ヨーロッパでは,ESAが中心となって,航空機,船 舶との通信を目的とした,19ビームで地球を覆うLバン ドマルチビーム・アレーアンテナの開発が進められてい る。
 我国においては,通信技術衛星(ACTS-G)計画の中 でマルチビームアンテナの研究開発が中心的課題として 位置付けられ,これまで基礎的検討が行われてきた。ま た,現在検討が進められている航空・海上技術衛星(A MES)のアンテナも2ビームとはいえ,マルチビームア ンテナに含まれるし,最近郵政省から要望が出された ECS-U計画,さらには将来のCSシリーズ,BSシリ ーズ等すべてが,規模の差はあるもののマルチビーム化 を指向するのは必須と見られている。
 本文では,マルチビームアンテナについてその特徴, 応用,アンテナ方式等について一般的な解説をすると共 に,当所でこれから開発を進めようとしているデータ中 継衛星用Sバンドマルチビームアンテナについて紹介し たい。
  マルチビーム衛星通信
 −マルチビームアンテナの特徴− マルチビームアン テナが何故必要であるかを,移動体通信を例にとって考 えてみよう。一般に,移動体には固定地球局のような大 形アンテナや大電力送信機をとう載するのが困難である ため,通信の中継を行う静止衛星のアンテナを大形化す る必要がある。しかしアンテナビーム幅はアンテナ直径 に反比例するから,大形アンテナを使うとビームはスポ ット化し,サービスエリヤをすべてカバーするためには 多数のビームを放射するアンテナが必要となる。このよ うな要求は,単一スポットビームの通常のアンテナを, ビーム数の分だけ用意すれば満たすことができるわけで ある。しかし,衛星のように重量や設置空間に種々のき びしい制約がある場合には,大口径アンテナを多数積む ことは実際上不可能となり,1個のアンテナで複数の独 立したビームを放射できる,いわゆるマルチビームアン テナが必要となってくる。
 すなわちこのようなアンテナを用いれば,衛星側の実 効放射電力(EIRP)と性能指数(G/T)を増大させる ことができ,それにより地球局設備の経済化が可能にな る。それと同時に,多数のビームに同一周波数を割当て て,多重使用することにより周波数利用効率を高めるこ とが可能となる。この二つが他の技術の追随を許さない マルチビ-ムアンテナのみが持つ最大の特徴である。
 −ビーム分離− マルチビームアンテナでは各ビーム が独立の情報を伝送できることが原則であるから,ビー ム相互間の干渉は十分に低く抑えなければならない。
 衛星が同一周波数でN個のビームを持っているとす る。i番目の地球局のビーム分離度Iiは



で表わされる。Γは偏波整合係数,PjΓjはj番目ビー ムから放射された電力がサイドロープや偏波の不完全性 のため,i番目地球局に漏れ込んでくる電力である。従 って,十分な分離をとるためには主ビーム方向で偏波の 純度をよくすることと,サイドロープを十分に低くする ことが重要な技術的課題となる。通常この分離度は27 dBないし30dB必要とされている。
 −応用分野− ここでは衛星月マルチビームアンテナ に限定して話を進める。図1はこの技術が各種衛星通信 にもたらすサービスの可能性を示した図である。マルチ ビーム衛星通信が真にその機能を有効に発揮するために は,衛星の大形化,姿勢・軌道の高精度制御技術,オン ボード交換器等他の重要技術の開発が前提となる。


図1 マルチビーム衛星通信

 この図から,マルチビームアンテナは様々な衛星通信 サービスに共通な重要技術であることが理解されよう。 しかしこのことは一つの形式のアンテナがすべてのサー ビスに有効だという意味ではない。例えば衛星放送や移 動体通信においては定められたサービスエリヤをくまな く照らす必要があるので,隣接ビームの交差するレベル (クロスオーバレベル)は高いことが望ましい。ところ が固定衛星通信用に使われる,通常の反射鏡を多数のホ ーンで照射する形式のアンテナでは,ホーンの物理的寸 法から隣接ビームをあまり接近させることは難しく,ク ロスオーバレベルが低く なってしまうので,放送 や移動体通信には不適当 ということになる。
  各極マルチビームアンテナの方式と特徴
 マルチビームアンテナ を形式上から分類する と,反射鏡形,レンズ形, アレー形の三つの基本 形,及びこれらの複合形 がある。複合形は反射鏡 とアレー,レンズとアレ ーの組合せがほとんどで ある。前述の reconfiigurable beam antennaは, 複合形の代表的なもので ある。今後,多様な機能 と高度な性能を実現する ために,複合形の研究の比重が大きくなっていくものと 考えられる。
 表1は三つの基本形アンテナの特徴をまとめたもので ある。


表1 各種マルチビームアンテナ方式の比較

 マルチビームアンテナは,ビーム走査アンテナと技術 的共通点が多い。走査性に優れたアンテナはマルチビー ムアンテナにも適していると言える。反射鏡形,レンズ 形等焦点系のアンテナでは一次放射器の焦点位置からの ずれによって,光学で言う収差が生じ,利得の低下,サ イドロープの上昇等好ましくない結果となる。焦点距離 を長くすることでこれはある程度救済できる。反射鏡ア ンテナではカセグレンアンテナのように 複反射鏡構成にしたり,反射鏡の形状を 変えて焦点が二個存在するようにして収 差の影響が小さくなるように工夫したり している。
  当所における研究計画
 −ACTS-G計画− 当所では52年度 から「宇宙開発計画検討委員会通信技術 衛星(ACTS-G)小委員会」を中心にマ ルチビームアンテナについて調査,検討 を進めてきたが,55年度から予算の裏付 けもついて,いよいよ本格的な研究を開 始することとなった。ACTS-Gには, 衛星間データ中継実験と,大形展開アン テナを用いた陸上移動体通信実験の二つ の主要ミッションがある。そして両方の ミッションに対し,マルチビームアンテ ナの使用が考えられている。(ACTS‐G の実験システム概念図は,本ニュース No.52参照)
 これに対し,我々は当面次の二つを研 究開発のターゲットとして設定してい る。
 (1) データ中継用Sバンドマルチビー ムアンテナ
 (2) アンテナ特性解析装置
 後者は,マルチビームアンテナをはじ め,複雑な給電系を持ち,多様な機能と 高度な性能が求められる衛星とう載用ア ンテナが,今後増々必要となることを考 慮して開発するもので,高精度の測定と アンテナの診断,解析を行うシステムで あり,アンテナ研究のための新しい道具 である。これについては機会を改めて述べたい。
 衛星間データ中継は,今後増加の一途をたどる低軌道 の各種科学衛星,気象衛星,海域・陸域観測衛星からの 多量の観測データや,地上からのコマンドを静止軌道上 の衛星を使って中継し,常時リアルタイムでデータ伝送 を行うシステムである。これについては,本ニュース No.24に詳しく紹介されているので参考にしていただ きたい。データ中継衛星の開発に拍車をかけるもう一つ の要因として,従来我国が衛星打上げの際,支援を受け ていた米国の衛星追跡局が経費削減のため廃止され, 1985年頃までに衛星(TDRS)中継システムに置換えら れる情勢となっていることから,我国も独自の衛星中継 による追跡,データ伝送システムの実用化を迫られるよ うになっているという背景がある。
 −衛星間データ中継のミッション− 高度1000q (静止衛星からの視野角約20度)以下の各種科学衛星, 観測衛星からの観測データ,HKデータ等をデータ中継 衛星を介し地上のデータセンタヘ伝送する。また,地上 からのコマンドをデータ中継衛星経由でユーザ衛星に送 る。人工衛星の追跡,管制(測距を含む)も行う。表2 に本ミッションの主要諸元を示す。


表2 衛星間データ中継主要諸元

 -アンテナシステム− このようなミッションを達成 するのに,どのような形式のマルチビームアンテナが望 ましいであろうか。実際のアンテナは,打上げロケット としてH-1を想定しても,その開口は2m程度である ので各ビームの利得には限度がある。また,サービスエ リヤ内の最低利得23dBを考慮すると,隣接ビームのク ロスオーバレべルはかなり高く保つ必要があることがわ かる。このような接近したビームを作ることは反射鏡 形,レンズ形では不可能に近い。このようなことから開 発要素の大なることは覚悟のうえで,本格的なマルチビ ームアレーの開発に取組むことにした。この方式を選ん だ他の理由として,このようなマルチビームアンテナ は,グロ一バルカバレージを持つ将来の航空,海上衛星 にも比較的容易に適用できること,即ち成果の波及が直 接的で開発の効率が良いこと,前述のアレー給電の反射 鏡やレンズアンテナ等複合形マルチビームアンテナに対 しても,多ビーム形成等の基本的技術が役立つこと等が ある。逆にAGIPAシステムを採用しなかった理由の一 つは,技術の波及に限度があると考えられるからである。 図2は開発を始めようとしているマルチビームアンテナ の構成の一つの案である。マルチビーム構成は受信側だ けで,19本のビーム出力はコマンドで選択され,リター ン回線(ユーザ衛星から中継衛星経由で地球に向かう回 線)用トランスポンダに接続される。
 マルチビームアンテナの心臓部とも言える多ビーム形 成はIF帯で行うようにし,ビーム合成を容易にし,か つその自由度を大きくしている。その部分の損失は多少 あるが,放射素子毎に接続される固体素子の低雑音増幅 器で十分なNFと増幅度を確保することによりIF帯損 失を救済できる。素子は20個程度を考えている。
 送信はコマンドの中継が主で,ユーザ衛星へのアクセ スの頻度やデータ量はそれ程多くないのでフェーズドア レーによる単一ビーム走査方式を採用することにしてい る。
 本システムの中で特に開発要素の大きいデ バイスとしては,(1)軽量で機械的強度に優 れ,高利得,低交差偏波の素子アンテナ,(2) コンパクトなRFモジュール,(3)多ビーム 形成回路があげられる。


図2 データ中継用マルチビームアンテナの構成

  おわりに
 マルチビーム衛星通信は世界的に見て,今 実用化の幕開けを迎えていると言えよう。
 現在我国でも固定衛星通信,衛星放送,移 動体通信に対する新しい計画が目白押しに出 されてきているが,それらのほとんどにマル チビームアンテナの適用が考えられている。
 マルチビームアンテナに限らず,電波の利 用においてアンテナは最も基本的機器であ り,電波利用形態の多様化と複雑化によっ て,今後も増々高度なアンテナ技術が追求さ れるであろう。それに対する研究も常に系統 的に進められる必要があろう。今年度から開 始されたマルチビームアンテナの研究は,大 変に意欲的な内容であると自負している。皆 様方のご援助とご指導をお願いしたい。

(衛星通信部 第三衛星通信研究室 主任研究官 手代木 扶)




カナダCCRSに滞在して


岡本 謙一

  はじめに
 科学技術庁宇宙開発関係在外研究員として,カナダの 首都オタワにあるカナダリモートセンシングセンタ (CCRS)に昭和54年9月2日から昭和55年6月30日まで10 ヵ月問滞在する機会を与えられたので,その概要を報告 する。CCRSはカナダ政府のEMR(エネルギー鉱物資 源省)に所属している国立の研究機関であり,名前の示 すようにカナダにおけるリモ-トセンシングの中心的な 研究機関である。リモートセンシング技術自身が,1972 年の地球資源探査衛星アーツの打上げを契機として急速 に注目され始めたようにCCRSの設立も1972年と新し く,CCRSを構成するデータ取得部門,データ処理部 門,応用部門の三つの部門はオタワ市内の各所に分散し ている。データ処理部門にはSaskatchewan州 Prince Aibert,及びNewfoundland州Shoe Coveの人工衛 星の地上局が所属している。所員数は約200名でその内 約半数が正規職員で,残りの半数がコントラクタとして 民間会社から出向している職員,ポストドクトラルフェ ロー等である。CCRSの活動は,研究開発,人工衛星 のオペレーション,航空機のオペレーション,応用分野 の開拓およびユーザに対するサービスの五つに大別され る。研究開発においては,新しいセンサの開発,データ の取得法およびデータの解析法の開発が行われている。 人工衛星のオペレーションでは上記の衛星地上局でラン ドサットとシーサット(1978年6月より同10月の間)の データの取得,処理,配布が行われている。航空機のオ ペレーションとしては,CCRS所有の4台のリモートセ ンシング専用航空機に各種センサをとう載しデータを取 得すること及び航空機の保守が行われている。応用分野 の開拓では,衛星,航空機で取得されたリモートセンシ ングデータの各種応用面におげる有効性の評価,新規有 効利用分野の開拓を行っている。またユーザに対するサ ービスでは航空機及び人工衛星で取得されたデータのル ーチン的なサービス業務が各種ユーザに対してなされて いる。
 私はデータ取得部門のセンサセクションのマイクロ波 センサグループに所属し,航空機より取得されたマイク ロ波センサデータを用いて,北極海の氷の分類の研究を 行った。
  CCBSでの研究
 カナダでは1977年12月にリモートセンシングの国家的 プロジェクトSURSAT(Surveillance Satellite)プロ グラムが発足し今年3月末に終了した。このプロジェク トは数個の連邦政府機関,地方政府機関,大学,民間会 社が参加した大がかりなもので,カナダの沿岸,領海及 び北極海域の環境監視,資源探査のために人工衛星およ び航空機を利用したリモートセンシング技術,特にレー ダ技術を応用した能動型マイクロ波センサの有効性を確 認し,将来のカナダ独自のリモートセンシングを目的と した人工衛星計画を立案しようというものである。同プ ログラムの中心は,1978年6月に打上げられたシーサッ トの合成開口レーダデータのD取得と画像作成,および航 空機とう載のマイクロ波センサによるデータ取得とデー タ処理であった。CCRSはこのプログラムの中心として Shoe Coveの地上局でシーサットデータを受信し, MDA社の協力を得て画像を作成すると共に,CCRS所有 の航空機コンベア580にとう載された合成開口レーダ, マイクロ波散乱計,マイクロ波放射計を用いて各種の観 測対象のリモートセンシングデータを取得した。主な観 測対象は海氷,海洋および天候,土地利用,人間の活動 (Human Activity)であった。 海氷のリモートセンシ ングについては,カナダは北極海に面する長大な海岸線 を有する国であり,近年の北極海領域の石油資源の開発 およびそれに伴う船舶の航行の安全確保のため,海氷の 分布,海氷の種類(厚さ),開氷域等についての時宜 にかなった信頼性のあるデータを得ることがきわめて切 実な問題として重要な観測対象となった。特に北極海領 域は雲に覆われた悪天候の日々の多いこと,また一年の 半分は日光の少い暗い冬期を迎えること等のことから, マイクロ波センサの有効性に多くの期待がかげられて来 た。
 私はセンサセクションのヘッドであるJ.Neil de Villiers 博士と数度手紙を交換した結果,CCRSにとって も私にとっても有意義な研究テーマとして海氷の各種マ イクロ波センサによる分類をとりあげた。海氷はその誕 生後,年をとるにつれて厚さが増加し,その物理的性質 も変化する。大別すると誕生後間もない厚さ5p以下 のNew Ice,New Iceの成長した厚さ10p以下の Nilas,厚さ10〜30pのYoung Ice,冬期を一度だ け経験している厚さ30〜200pのFirst-Year Ice, 融解期にあたる夏期を一度経験して生きのびて2年目の 冬期を迎えている200p以上のSecond-Year Iceお よび夏期を2度以上経験しているMulti-Year Iceと Ice Islandに分類される。氷の成長過程における周囲温 度等の環境条件の変化に伴って氷の中のbrine(濃度の 濃い塩水)の含有率が変化し氷の複素誘電率の変化に影 響を及ぼす。また氷の表面および内部の粗さも氷が年を とるにつれて変化する。年をとった氷からはbrineが外 部に流出し,その内部には多くの空洞を含む。これらの 氷の持つ物理的性質の変化と共に氷の散乱係数,放射率 は変化する。このことを利用して,各種マイクロ波リモ ートセンサによる氷の識別が行われる。SURSATプロ グラムの一環として,CCRSでは1979年3月に北極海 で航空機コンベア580により海氷の観測を行った。用い られたセンサは,散乱計,放射計,RC-10カメラ(航 空写真)であり,合成開口レーダによるマイクロ波画像 の取得も補助的に行われた。実験目的は上記の各種氷の 散乱係数,放射率についての定量的データを取得するこ と,これらデータによる氷の種類の分類がどの程度可能 であるか,マイクロ波センサの有効性を確認すること等 である。データ解析の結果,散乱計データのみを用いた 場合Second-Year Ice以上の古い氷とFirst-Year Ice 以下の氷の区別は明瞭であるが, First-Year Iceと Young Iceの区別は困難であることがわかった。しか し散乱計データと放射計データを組みあわせた場合上記 の各種氷の識別がかなりの程度可能である。散乱計,放 射計共に非映像センサであるため映像を与える合成開口 レーダと比較した場合直感的な視覚にうったえる所が少 ないが,氷の散乱特性,放射特性と氷の物理的性質の関 係を調べるためには欠くことのできない基本的なセンサ であることがあらためて認識された。


CCRS所有のコンベア580

  カナダでの生活雑感
 外国生活を楽しく過すために最も大切なことは良い外 国人の友人を持つことだと以前から思っていたが,幸い にもこのことが実感として感じられた。オタワの人は, 一般に温厚で親切であった。私のように特に家族づれで 遠い国からやって来た人間に対してはそれだけ親切だっ たのかも知れない。CCRSの所員の多くも家族ぐるみ で仲良くつきあってくれた。オタワに到着した当初,ア パート探しでは,当所に一昨年滞在されたロスコーさん 夫妻に大変御世話になった。車の購入,保守等の日常生 活の面でも,CCRSの友人から助けてもらうことが度 々あった。自分自身がカナダの人に親切にしてもらった ことを思う時,当所を訪問される外国人に対しても親切 な態度で接するようにしたいと思う。CCRSの生活で は個室を与えられ比較的自由に研究することができた。 勤務時間は特に決っているわけではなく,所員の大多数 は朝8時から9時の間に来て,タ方4時〜6時の間に帰 宅する。昼休みは1時間で,他に10時と3時にコーヒー ブレイクがある。休み時間にはつとめて皆んなと話すよ うにしたが英語には本当にまいってしまった。緊張して 一所懸命聞いていても何を話しているのか見当がつかな いことが多くヒヤリングの力のないことが痛切に感じら れた。勤務先がオタワのバスルートから離れた飛行場の 近くに孤立していたため通勤には毎日車を用いた。冬期 は道路が凍結するため,スリップして車のコントロール を失い道路ぎわの川に落ちそうになったことも何度かあ る。夜遅く帰宅する時,車のヘッドライトの中によく野 うさぎの姿が見られた。オタワは文明都市であるが一歩 郊外に出ると野生のビーバーや鹿がおり,市のいたる所 にある公園にはりすがたくさんいる。市全体が一つの公 園といってもよい位であり,緑に恵まれ,秋の紅葉と初 夏の新緑は大変美しい。また4月のクロッカスや水仙, 5月のチューリップはみごとである。市の中央を流れる 運河は冬期凍り,多くの人々がその上でスケートをして いる。オタワの冬は寒く-30℃になることもあった。9 月に出発したため10カ月の滞在期間の内,その寒い冬を まるまる過し,過しやすい夏期に帰国するということに なってしまい,オタワから離れることの少いカナダでの 生活であったが,多くのカナダ人の友人を持つことがで き幸せな滞在でありた。研究面においては中途半端で CCRSに対する寄与もあまりできなかったが,5月に ハリファックスで開かれたカナダリモートセンシングシ ンポジウムのポスターセッションでCCRSの研究者と 共同で発表できた。あっという間に10か月が過ぎ,よう やくカナダに慣れた時期に帰国しなければならないこと は残念であった。
 最後にこのような有意義なカナダ滞在の機会を与えて いただいたことに深く感謝すると共に御世話くださいま した科学技術庁,電波研究所の関係各位に厚く御礼申し 上げます。

(衛星計測部 第一衛星計測研究室 主任研究官)




米・欧の宇宙・電波科学関達研究機関を訪ねて


松浦 延夫

 昭和55年5月15日から6月12日まで科学技術庁中期在 外研究員として,米・加・英・仏・西独5か国を訪問し 金星電離層観測実験計画,ISIS国際協力および宇宙・ 電波科学研究の動向を調査するとともに電離層観測衛星 ISS-bの成果を紹介し討議する機会を得たので概要を報 告する。
 訪問先は次の8研究機関と1学会である。
 (1) ロッキード・パロアルト研究所     米国
 (2) J.H.Chapmanシンポジウム(AGU学会)
                      加国
 (3) NASAゴダード宇宙飛行センタ(GSFC)
                      米国
 (4) NASA本部               米国
 (5) ラザフォード・アップルトン研究所   英国
 (6) レスター大学物理学教室        英国
 (7) 国立通信研究センタ(CNET)      仏国
 (8) 国立天文観測所(Meudon観測所)    仏国
 (9) マックス・プランク超高層物理研究所  西独
 金星表面の画像レーダ観測を主目的とするNASAの 金星周回探査衛星(VOIR:Venus Orbiting Imaging Radaf)に関するミッション公募(A.O.)に対し,日米 加共同プロジェクトとして金星電離層サウンダ実験 (VISE:Venus Ionospheric Sounder Experiment)計画 を54年5月に提案した。NASAの当初スケジュールで は,VOIRミッション決定は54年iO月, VOlRの開発 開始が1981米国会計年度(55年10月〜56年9月),打上げ が59年12月となっていたが,VOIR計画決定およびミッ ション決定が予定より遅れていた。この辺の事情を調査 するため,NASA本部を訪ね国際事業部U.J.Sakss 氏および惑星計画部次長G.Briggs博士に面会し説明 を聴いた。NASA本部では山積する提案プロジェクト の中から限られた数の新規計画の選択を迫られており, 惑星計画においても,ここ5年間(1982〜1986)に開始 すべき優先計画として挙げられている5つのプロジェク ト,つまりVOIR,太陽推進系(SEPS),彗星ランデ ブー,土星探査および火星観測について順位付けを迫ら れている。筆者がNASA本部を訪ねたとき,VISEを 含めたVOIR提案ミッションの選考は最終段階にある とのことであった。(その後7月中旬にNASA本部宇 宙科学担当長官補のT.A.Mutch博士より残念ながら VISEは不採用となった旨の連絡があり,理由として VOIR軌道変更(高度300qから250qに低下) および二次的理由としてミッション機器重量制限が挙げ られていることがその後の連絡によりわかった。)
 米・加合同の地球物理学連合(AGU)学会が5月22日 から27日までカナダのトロント市で開催され,24日には Alouette/ISIS衛星に関する特別シンポジウムが開かれ るので出席した。約20年間継続してきたISIS国際協力 の主機関であるカナダの通信研究センタ(CRC)での計 画終結が近づいたのに際し,Alouette/ISIS衛星により 得られた成果の総合報告を行うことを主眼として,この シンボジウムは企画された。なお同衛星計画に貢献の大 きかった故・J.H.Chapman博士(カナダ通信省次官補) を偲びJ.H.Chapmanシンポジウムと命名された。 Alouette-1号の打上げから約18年間にわたる成果のま とめが米・加の講演者により8編の招待論文として報告 され,高緯度における粒子,オーロラ,電流およびプラ ズマの運動と密度分布,大気光と電離圏およびプラズマ 波動現象に関する研究成果の総合報告がなされた。ま た,9編の寄与論文が報告された。ISISワーキング・グ ループ議長のHartz博士とISISプロジェクトについて 話し含ったが,ISlS運用は56年4月以降には極めて難 かしい情勢のようである。シンポジウムの後, ISIS関 係者による晩餐会が催され,ヨーク大学のG.Shepherd 教授が司会役をつとめ,Hartz博士,NASA/HQの Schmerling博士,前議長のJackson氏,カナダNRC のBurrows博士とともに筆者が日本代表ということで 挨拶を指名された。AGU学会では,上記シンポジウム のほか,赤道域電離層の不規則分布,Pioneer Venusに よる金星の超高層大気観測,国防省気象衛星計画(DM SP)観測結果のセッションに出席した。
 VISE計画グループのメンバーであり,プラズマ波動 の専門家である W.Calvert博士をロッキード・パロ アルト研究所に訪ね,電離層サウンダのドップラー観測 について話し合い,また彼がOPEN計画のPPL(極 プラズマ研究衛星)およびEML(赤道磁気圏研究衛星) に提案中の「ダクト・サウンダ」についても話し合っ た。 この件については,昨年GSFCのR.F.Benson 博士(VISEグループ米国側責任者)からVISEと同 様の体制でOPEN計画にもサウンダ・ミッションを提 案することについて筆者に打診があったが,VISEの結 果が不確定な段階であったので提案を見送った。ダク トサウンダは磁力線に沿ってダクト伝搬する電離層反射 エコーを受信し,伝搬時間を解析することにより磁気圏 の形状を観測することを目的としている。
 5月28,29,30日の3日間NASA/GSFCを訪問し た。28日はNASA本部を訪問,29日午前はGSFC惑 星大気研究部主催のセミナーでISS-bの観測成果につ いて筆者が講演したので,実質1日半でGSFCの研究 者と話し合うことになった。主として,応用科学局惑星 大気研究部の惑星超高層物理関係と科学局地球外圏物理 研究部の惑星磁気圏関係の研究者と話し合った。惑星超 高層関係ではAE(大気探査衛星)シリーズのデータ解 析からPloneer Venusのデータ解析に主力が移ってお り,DE(大気力学探査衛星)の打上げを来年に控えて いる。惑星磁気圏関係ではISEE(国際太陽地球探査衛 星)シリーズおよびVoyager 1,2号のデータ解析を行 っている。惑星大気研究部次長のH.A.Taylor博士は べネット型質量分析器(ISS-b搭載器と同型)の信奉者 で,データ解析および分析器を通して当所との協力関係 を希望していた。地球外圏物理研究部の特別研究官R. Stone博士はISEE-3による太陽電波雑音(30kHz〜 2MHz)の観測について説明してくれ,またとう載用マ イクロコンピュータの開発研究室に案内してくれた。筆 者のGSFC訪問に際しては,先に述べたBenson博士 が終始面倒を見てくれたことに感謝している。
 6月2日,ロンドン近郊のSloughにあるアップルト ン研究所を訪問した。同研究所の名称は昨年よりラザフ ォード・アップルトン研究所と変わり,両研究所の合併 に伴う組織変更が進行中である。訪問に際して連絡をと ったH.Rishbeth博士はIAGA第2分科会議長であ り,またEISCAT(ヨーロッパ・ISレーダ)科学諮問 委員会の英国委員として参加している。EISCATは欧 州6か国による大規模な研究プロジェクトである。J. W.King博士は海況観測計画(Sea State Project)の 責任者で,この計画は高出力のHFレーダで海面波浪の 観測を行うものである。
 6月3日,ロンドン北方約150qのレスター市にあ るレスター大学物理学教室に同講師T.B.Jones博士を 訪ね,平磯支所とのチャープサウンダ共同実験について 話し合うとともに,同博士グループの電波研究活動を紹 介してもらった。短波の伝搬状態に応じてデータ伝送形 式を適宜変化させ通信効率の向上を図る実験が興味深か った。
 6月5,6日パリ郊外Issy-les-Moulineauxにある通 信研究センタ(CNET)を訪ねた。CNETには Paris A,B,Lannion A,BおよびGrenobieと5つの研究センタ があるが,筆者が訪問したのはParis Bで研究内容は当 所に似ており,宇宙・地上通信システム,光エレクトロ ニクス,半導体物性,信号処理システム,地球・惑星環境 物理等の研究を行っている。訪問に際して連絡をとった P.Bauer博士は地球・惑星環境物理研究センタ (CRPE)のIssy-les-Moulineaux責任者であり,また IAGA第2分科会副議長,ElSCAT科学諮問委員会の仏国 委員である。CRPEでは既に運用中のISレーダおよ び現在準備中のEISCAT計画を中心とする中・高層大 気の研究,音波サウンダによる対流圏の研究,ロケッ ト・衛星(GEOS,ISEE)によるプラズマ波動現象の研 究が行われている。6日の午後,CNETから車で約30 分のMeudon観測所にP.Simon博士を訪ね,平磯支 所に関係の深いIUWDSのバリ警報センタの様子およ び太陽光学観測装置(K,Ca,Hα線),太陽磁場観測装 置を見学し,FBS(フレア発生の研究)プロジェクト等 について話し合った。
 6月9,10日の両日,東独との国境に近い西独のノル トハイム郊外リンダウのマックス・プランク超高層物理 研究所を訪ねた。所員約300名に対して,外国からの客 員研究者が30名位で国際色豊かである。落ち着いた中に も活気のある良い研究環境が感じられた。現在,データ 解析が進められているSTARE (Scandinavian Twin Auroral Radar Experiment)プロジェクトに続いて, 西独が経費の約25%を出資しているEISCATが大き い計画であり,H.Kohl博士が科学諮問委員会の西独 委員である。また,EISCATの送信基地であるノルウ エーのTromsφで,HF帯による電離層加熱実験も計 画中でI.A.Fejer教授も参加している。昨年まで平磯 支所とチャープサウンダ共同実験を行った, H.Schwentek博士に会ったが,チャープサウンダは電離層 加熱実験のセンサーとして利用するとのことであった。 J.Rottger博士,J.Klostermeyer博士のグループは高 出力VHFレーダによる対流圏,成層圏の観測,HFレ ーダによる赤道電離層でのTID,スプレッドFの研究を 行っている。W.Becker博士は退職後も研究所の一室 でN(h)解析によるE-F層間の電子密度の谷 (Valley)の研究を続けておられる。宇宙関係では,プラズ マ,粒子測定のミッション機器をHeliosにとう載して おり,Voyager,Galileo(1982年打上げ予定)のプラズ マ,粒子,電波雑音観測ミッションに参加している。
 ISS-bの成果については,先に述べたNASA/GSFC セミナーでの講演の他,各訪問先で電離層臨界周波数 (foF2)アトラスを一部の人々に配布するとともに ISS-bの成果を紹介した。ISS-bによる電離層パラメータ および電波雑音の世界分布観測の結果は世界でも初めて のものであり,なかなか好評であった。ISS-bの結果に ついての議論の中で特に興味を持ったものの一例を次に 述べる。AE-Cの衛星加速計(実際は大気低抗による減 速を計る)データから熱圏大気波動(内部重力波)の発 生頻度の世界分布が求められており,その結果は東南ア ジア,中米,アフリカ地域で高い頻度を示している。こ の分布特性は,ISS-bの電波雑音観測から求められてい る雷発生頻度分布に類似しており,両者の関連を示唆す るものかも知れない。


NASA/GSFC惑星大気研究部庁舎前にてR.F.Benson博士と筆者

 今回の米・欧研究機関訪問により多くの研究者と直接 研究動向について話し合うことができたが,特に国際協 力研究に参加している各国の機関を同時に訪問すること によりそれぞれ違った角度から研究動向を把握すること ができたのは有意義であった。最後に,このような機会 を与えられたことに対しまた今回の出張に際し色々御助 力いただいたことに対し,関係各位に深く感謝致しま す。

(平磯支所長)


短   信


第59回研究発表会プログラム
−昭和55年11月12日当所議堂において開催−

1. ISIS衛星で観測されたオーロラVLF電波の特性
                (電波部)恩藤 恵典
2. 静止衛星電波の電離層効果の研究
            (第一特別究研室)新野 賢爾
3. 電波星による準ミリ・ミリ波帯大型地球局アンテナの絶対利得測定                (鹿島支所)川口 則幸 4. 超長基線電波干渉計実験報告
 −帯域幅合成による超精密遅延時間測定−
               (鹿島支所)河野 宣之
5. 雨域散乱計航空機とう載実験速報
              (衛星計測部)岡本 謙一
6. 実験用中容量静止通信衛星(さくら)実験速報(その4)
               (鹿島支所)小坂 克彦
7. 人工雑音とその計測
              (通信機器部)杉浦  行



宇宙開発計画見直し要望の審議結果

 郵政省が本年6月17日付で宇宙開発委員会に提出した 宇宙開発計画の見直し要望(本ニュースNo.52)はそ の後,衛星系分科会,その上部組織である第一部会及び 宇宙開発委員会で審議され,8月29日,最終報告書であ る「昭和56年度における宇宙開発関係経費の見積りにつ いて」の決定をみて,今年度の一連の見直し作業は総て 終了した。
 それによると,郵政省関連分としては,@自主技術に よる宇宙開発の促進策について:人工衛星の打上げ失敗 により生ずる人工衛星の利用者機関の損害に対する対応 策は,我が国の宇宙開発を円滑に推進していくに当たっ て検討を要する問題であるので今後,総合的観点から十 分検討する必要がある,A航空・海上技術衛星 (AMES):N-Uロケットにより静止軌道に打上げることを目 標として開発研究に着手する,B実験用静止通信衛星U 型(ECS-U):将来の増大する通信需要に対処するた め,ミリ波帯中継器,準ミリ波帯高性能中継器等の衛星 とう載用通信系機器,及び新しい衛星通信方式の研究を 行う,C実験用放送衛星(EBS):将来の放送需要に対 処し,及び放送衛星とう載機器の国産化に資するため, 22GHz帯送信機及び12GHz帯TWT増幅器について 所要の研究を行う,D通信技術衛星(ACTS-G):将来 におげる大規模かつ多様な宇宙通信技術の基盤を確立す ることを目的として衛星とう載可能なマルチビームアン テナの研究を引き続き進める,E電磁環境観測衛星 (EMEOS):中波帯からマイクロ波帯にわたる広い周波数 帯の電磁環境を人工衛星を用いて観測することを目的と し,観測器についての研究を引き続き進める,F衛星と う載用合成開口レーダ:地球資源衛星1号(ERS-1)の 開発研究着手に関連して,特に合成開口レーダその他の センサーについては,積極的に研究を進める必要があ る。G衛星利用捜索救難システム:人工衛星を利用した 捜索救難システムに関する所要の研究を行う,となって いる。



四号館近く着工!

 待望していた四号館の建設は,建設省において設計そ の他の準備が進められていたが,近く着工の運びとなっ た。工期は昭和55年10月から昭和56年8月の予定であ る。
 四号館は,二号館の南側に鉄筋コンクリート造り,地 上4階地下1階,建面積1,522u,延床面積4,825uの 規模のもので,図書室,C2センター,講堂,会議室など のほか一部の研究室が収容される。完成すると,これま で各所に分散していた雑誌,書籍,資料類が移動書架を 使って効率的に収納され,また,講堂は会議にも適する よう音響効果を高めた他,総合調整卓も備え,これまで にない幅の広い使用ができる。
 更に四号館は,身障者対策と省エネルギ対策に考慮が 払われている。


四号館完成模型



技術試験街星U型(ETS-U)電波模型 による偏波角度測定室内実験

 当所第一特別究研室では衛星通信部および宇宙開発事 業団(NASDA)の協力を受けて本年7月に上記室内実 験を実施した。
 昭和52年2月東経130°Eの静止軌道に打ち上げられた ETS-Uのミリ波実験は,打ち上げ後1年余り鹿島支所 において実施され,有益な伝搬データを取得し成功裏に 終了した。しかし,同衛星の136MHzテレメータ波の 受信によるシンチレーション測定及び偏波角度(ファラ デー回転)測定は現在も本所第一特別研究室,鹿島およ び平磯支所にて引き続き実施している。
 受信される衛星電波の偏波角度は電波通路上の電子数 及び地球磁場の影響を受けて回転するので,衛星電波の 初期偏波角度がわかれば全電子数が明らかになり超高層 大気研究上重要な情報として提供されるばかりでなく衛 星電波の遅延時間ひいては航行衛星等の宇宙計測技術に 利用出来る。
 しかしながらETS-U 136MHzの偏波角度測定は衛 星計画当初予定されていなかったため,偏波角度特性に ついては十分な測定がなされなかった。そこで昭和54年 度及び昭和55年度における当所とNASDAとの共同究 研にもとずきNASDAから衛星資料の提供及び電波無 反射室等の使用について協力を受け偏波角度測定室内実 験を行った。
 送信衛星模型はETS-Uの1/3縮尺模型で,衛星電波 の3倍の周波数408MHzを4素子のターンスタイル空 中線から送信するもので,受信はダブレット及びヘリカ ル空中線を用いて行った。
 測定された偏波角特性はかなり複雑なパターンを示し たが軌道上の衛星から地上をみる方向すなわち,ほぼ衛 星スピン軸に直角方向の偏波角度はスピン軸から反時計 回りに12.8°であった。


ETS-II電波模型