CS・BS実験の中間報告


CS・BS実験実施本部

  まえがき
 実験用中容量静止通信衛星(CS)及び実験用中型放 送衛星(BS)は,それぞれ52年12月15日及び53年4月 8日に打上げられ,CSについては53年5月15日から, BSについては53年7月20日から,郵政省,日本電信電 話公社,日本放送協会及び宇宙開発事業団と協力して, 衛星通信,衛星放送技術を確立するため,各システムの 伝送特性, 運用管制技術等に関する実験を実施してい る。これらの実験は,今後も継続して実施されるもので あるが,当初計画していた実験期間の半ばを経過し,宇 宙通信連絡会議,開発実験部会から“CS実験中間報告 書”及び“BS実験中間報告書”が発行されたのを機会 に,この間の実験成果の概要を報告する。


MCPC/SCPC局(本所)

  CS実験状況の概要
 1. 衛星とう載ミッション機器の特性測定
 ミッション機器の特性は,衛星の打上げ以来ほぼ半年 ごとの定期点検において,衛星の送信電力,周波数特性, アンテナの放射特性等を測定し,経年変化をは握してい る。
 この結果,中継器(初期段階で故障した準ミリ波中継 器2台を除くマイクロ波帯2台,準ミリ波帯4台)と成 形アンテナ(マイクロ波帯・準ミリ波帯共用)は所定の 性能を有し,打ち上げ前と同等の性能であることを確認 し,精度のよい遠隔測定の手法も開発している。
 なお,昨年8月の第3回定期点検では,衛星のスピン 軸を傾げてアンテナ特性の測定を行い,少数の地球局に よっても広範囲なアンテナ特性を測定できることを確認 した。
 2. 衛星通信システムとしての伝送実験
  (1) 通信方式の検討及び伝送品質の評価に関する実 験
 本項目では,実験参加地球局の特性及び衛星回線の基 本伝送特性の測定を行っている。
 春季及び秋季の衛星の蝕時には,地球の影に入るため 衛星の温度が急激に変化する結果,中継器の周波数変動 が予測された。しかし測定の結果,その変化は準ミリ波 帯においても数kHz以内にすぎず,通信に大きな影響 を与えないことが分かった。また,春分の前及び秋分の 後の数日間,数分間にわたって太陽が地球局のアンテナ ビーム内に入り,通信に影響を与える太陽雑音の妨害が 発生する。そこでアンテナ直径,周波数帯等のパラメー タを定量的に取り扱うことにより,妨害度を予測する技 術を確立しつつある。
 そのほか,各変調方式について基本伝送特性の測定を 行い,回線設計及び降雨マージンの設定基準を確立して いる。
  (2) 新しい通信方式の開発に関する伝送実験
 本項目では,双方向画像通信,データ通信等の実験を 行い,良好な結果を得ている。また,多数の小規模局が 同一の中継器を共用する場合の運用条件を決定するた め,多数の送信波による干渉(相互変調積)の発生状態 を種々の動作点において測定し,共通増幅時の基本特性 を得ている。
 3. 伝搬特性の測定と評価に関する実験
 各地において準ミリ波ビーコンを受信し,電波の減衰 の時間率と降雨強度の関係を測定しているほか,テレメ トリ情報を利用して上り回線減衰特性,ダイバーシチ効 果,交差偏波識別度の劣化特性などの測定を行ってい る。これまでの結果から,下り回線の減衰が10dB及び 20dBを超える時間率は,CS主局(鹿島)においてそ れぞれ0.016%(1年間で約1時間25分)及び0.0035% (同約18分)程度であることが分かった。
 また,約21q離れた副固定局(横須賀)と電界強度 測定装置(横浜市杉田)の間でダイバーシチ受信を行う ことにより,減衰が10dBを超える時間率が一局受信に おける0.03%(同約2時間38分)から0.0018%(同約9 分)に改善されることが分かった。
 4. 衛星通信システムの運用技術に関する実験
  (1) 多元接続実験
 多元接続技術として,TDMA(Time Division Multiple Access) 方式及びSCPC(Single Channel Per Carrier) 方式について試作装置を用いて実験を行って いる。
 TDMA方式については,符号誤り率特性,初期接続 特性,同期特性などについて実験を行った。準ミリ波に おいては信号品質の劣化要因としてスピンによる受信レ ベル変動の影響が大きいが,その他の諸特性については 良好であることを確認した。
 SCPC方式については,符号誤り率測定,電話及びフ ァクシミリの伝送実験を行い,符号誤り率が10^-3まで は通話に影響を与えるような劣化が生じないことを確認 した。
  (2) 車載局及び八丈島局による回線設定実験
 準ミリ波車載局及びマイクロ波車載局は,それぞれ 京都,尾鷲,青森をはじめ宮古島等の離島へも移動し, 回線設定実験を行った。この結果,それぞれ基本特性は 良好であること,マイクロ波車載局のような小型地球局 からのカラーテレビ信号伝送が十分可能であることが明 らかになった。また,離島との通信を想定して八丈島局 と副固定局の間で実験を行い,十分な品質の電話及びカ ラーテレビ回線が設定できること等を確認した。
  5. 衛星運用管制技術に関する実験
 衛星の追跡,状態監視及び制御は,CS主局及び副固 定局により,宇宙開発事業団と密接な連絡を保ちながら 実施している。
 衛星の軌道決定に必要な追尾データは,衛星までの距 離及び衛星の方位データがあり,開発した数種類の距 離測定の方式はいずれも十分な精度を持ち,方位測定に おげる地球局のアンテナの角度データは,光学観測デー タ等と比較した結果,十分精密であることが確かめられ た。また,複数の地球局を用いることにより,小規模局 (アンテナ直径2m)による簡易な方式によっても十分 実用的な測定データが得られることが分かった。衛星を 決められた静止位置(東西,南北それぞれ±0.1°以内) に保つため,地上からのコマンドにより軌道制御実験を 行っている。この結果,当所と日本電信電話公社がそれ ぞれ独自に開発した衛星運用管制システムの機能が正常 に動作し,ほぼ目的どおりの制御が行えることを確認し た。また,衛星の姿勢も±0.1°以内に保持できることを 確認した。
 衛星の管制用として,衛星の軌道及び姿勢を決定する ためのプログラムの規模が,従来の1/10程度になるソフ トウェアシステムを開発し,静止衛星の運用上十分な精 度を持つことを確認した。この結果,小型のコンピュー タによっても十分精密な制御が行えるようになった。
 そのほか,衛星の管制ソフトウェアの汎用化も行った。
  BS実験状況の概要
 1. 放送衛星システムの基本的技術に関する実験
  (1) 受信可能区域及び全国各地の受信評価
 晴天時の受信評価は,国内の大部分の地点では直径1 m,椎内等では直径1.6m,また,小笠原,南大東,与 那国等では,直径4.5m程度のアンテナで,当初の計画 どおり良好な映像及び音声が得られた。
 都市での受信評価については,BSからの電波の仰角 が大きいこと,指向性の鋭いアンテナを使用すること等 により,建造物,移動体等から受ける妨害範囲は地上放 送と比較して著しく狭いことが分かりた。
 太陽雑音妨害は,発生時刻は予測どおりであり,ま た,テレビの率品質は若干劣化したが,その継続時間 は,降雨による減衰と比較すると十分小さいことが分か った。
 また,積雪したアンテナでは受信評価がときとして劣 化することが分かった。このため,積雪対策として安価 なレドームの開発などの検討が必要である。
 一方,全国各地へ移動した可搬型送受信局から送信し た場合のBS電波の画質と伝送特性は,いずれも良好で あり,実際の放送への適用は可能であることが明らかと なった。
  (2) 基本伝送特性とミッション機器の特性
 衛星中継器の伝送特性は,いずれも設計値あるいは打 上げ前の測定値とほぼ一致しており,また打上げから一 年半までの間に大きな経年変化はないことが分かった。
 テレビ信号伝送特性は,BSの初期点検及び半年ごと の定期点検時に測定を行い,映像,音声共に衛星中継器 による特性の劣化はほとんどないことが分かった。
  (3) 特殊方式伝送特性
 将来多様化,高度化する放送需要にそなえて新しい放 送システムや放送技術についての可能性を調査するた め,音声多重信号の伝送実験,文字多重信号の伝送実 験,商品位テレビ信号の輝度信号(Y信号)/色信号(C 信号)分離方式による伝送実験,静止画放送信号の伝送 実験,高精度の時刻及び周波数標準の分配方式の実験, PCM伝送方式による高品質ステレオ音声信号の伝送実 験を実施し,それぞれの有効性を裏付ける基礎資料を得 た。例えば,Y/C分離伝送方式の実験では走査線数 1125本の高品位テレビ信号をFM伝送し,東京及び大阪 で受信画質の評価を行った結果,1.6m程度の小型アン テナによっても高品位テレビ信号の受信が可能であるこ とが分かった。
  (4) 電波伝搬特性
 BSでは12GHz帯を使用しており,受信品質に対す る降雨減衰の影響が予想されるため,地域条件,気象条 件を考慮して全国各地に配置した受信専門局においてB S電波を受信し,それぞれの地点での降雨減衰と降雨強 度の関係についての資料を得た。また,BS主局(鹿島) においては,ビーコン信号を受信して,降雨減衰特性, 交差偏波特性等の測定を実施し,これらの特性と降雨強 度の関係についての資料を得た。
  (5) 周波数共用
 下り回線干渉は,BSの下り回線と地上SHF放送波 との干渉実験を行った結果,衛星放送周波数と地上SH F放送周波数は,かなり接近して使用できること及び周 波数が重なった場合でも,衛星放送受信アンテナの仰角 が大きく,またアンテナ特性が鋭いので,妨害が生ずる ことはほとんどないことが明らかになった。
 上り回線干渉は,放送衛星相互間の干渉,放送衛星回 線と固定衛星回線の間の干渉について測定し,有用な結 果を得た。
  (6) 地上施設の特性
 BS主局,可搬A局(組立て型)及び可搬B局(車載 型)について定期的に特性測定を実施しているが,高調 波特性,ベースバンド特性とも経年変化はほとんど認め られず,安定に動作している。
 受信専門局及び簡易受信装置は,これまで3回にわた り全装置一斉に性能確認,経年変化の調査,受信画質評 価等を実施し,ほぼ予想どおりの良好な結果を得てい る。
 2. 衛星管制の運用と技術
  (1) 運用管制
 衛星の追跡,状態監視及び制御は,BS主局のKバン ド追跡管制(TT&C)システムを使用し,主として実 験のために必要な項目について宇宙開発事業団と1密接な 連絡を保ちながら実施している。定常的にはテレメトリ データを常時取得して,BSの状態監視を行い,BSの 追跡及び距離測定を行うとともに,中継器切替え等のコ マンド送信を行い,放送衛星の運用についての貴重なデ ータを得ている。
  (2) 運用管制技術
 1局追跡と複数局追跡による軌道決定比較では,複数 局の場合,測距データのみで十分可能であるが,1局だ げの場合,測距データのみでは不十分なので,分解能の 高い角度データを併用する可能性について検討を行って いる。また,送信するテレビ信号に含まれているテレビ 同期信号を利用した測距方式は,放送衛星の軌道決定に とって十分な精度を持つことが分かった。
 3. 衛星放送システム運用制御技術
 地上送信局の送信電力を,降雨減衰を補償するように 制御し,衛星の受信入力レベルを一定にすることを目的 とする地上送信局の電力制御実験が行われ,簡単な装置 により容易に実現可能であることが分かった。
 全国各地の送信局からテレビジョン信号を順次円滑に 切り替えて送信するための制御装置の性能確認を実施 し,視覚上問題のない切替えが可能であることが確認さ れた。
 なお,本報告は,本年初頭までのものであり,本年5 月及び6月に生じたBSトランスポンダの不具合に関す る調査検討結果は含まれていない。

(衛星通信部 主任研究官 山田勝啓)




CCIR研究委員会Aブロック中間会議に出席して


若井 登・古濱 洋治

  はじめに
 今回の中間会議は,1978年の京都総会後初めての研究 委員会にあたるが,実際にはそれらの間にSPM(特別 準備会合,1978)とWARC-79(一般問題を扱う世界無 線通信主管庁会議,1979)が開催されたため,従来と多 少異なった意味をもつ中間会議となった。
 そのAブロック会議は,本年の6月2日から7月8日 までジュネーブで開催され,日本からは13名から成る代 表団が派遣された。Aブロック会議に含まれた研究委員 会(Study Group)は,SG1,2,5,6,7とCMV (用語)という,いわゆる基礎技術関連のSGである。
 会議出席報告となれば,当然これら全SGの審議状況 を記述すべきであろうが,限られた紙面でもあるので, ここでは要点だけを拾い出して述べる。
  会議の全貌
 会議には,35か国の主管庁,22の認められた私企業等 から総勢354名が参加した。しかし約6週間の全会期 が,前半(SG2,7,CMV)と後半(SG1,5, 6)にほぼ2分されたスケジュールであったので,これ ら参加者の大よそ半数しか会場にいなかった勘定にな る。「昨年のWARCの時は,千人を超える出席者でこ の国際会議センターが埋まり,電波権益のからんだ熱気 と興奮でムンムンしていました」と語る一代表は,人影 もまばらな今回の中間会議にひとしお感慨深げであっ た。
 中間会議が専門的色彩の濃い会議であり,しかもAブ ロックは基礎技術関係のSGばかりということで,参加 国は電波先進諸国に限られた感があり,Kirby委員長も 挨拶の中で今後もっと発展途上国の参加を望みたいと触 れた程であった。
 今会議の特色の一つに議長団の交代がある。
 SG2では,京都総会でRanzi氏(伊)から議長を 引継いだHagen氏(米)は,病気のため一度も議長席 につくことなく,今期より副議長から昇格したHorner 氏(英)が采配を振るい,後任副議長にはKimball氏 (米)が全参加主管庁の信任を受けて選出された。
 SG5では,今年4月に死去したSaxton氏(英)の 後を受けて,副議長であったKalinin氏(ソ連)が新議 長になり,それに伴って副議長選挙が行われた。 Dougherty氏(米)とFedi氏(伊)の2人が立候補したた め,一国一票の投票が行われた結果,12対9の僅差で Dougherty氏が選ばれた。
 SG7では,Becker議長(独)が冒頭の挨拶で,こ れを最後に引退するとの意志表示をしたため,副議長 Steele氏(英)の昇格とそれに伴う新副議長選出が行 われた。そして副議長には唯一人立候補していた Leschiutta氏(伊)が参加全主管庁の信任を受けて選ばれ た。しかし今回の中間会議は旧議長団が取り仕切った。
  SG 2(宇宙研究と電波天文)
 日本からは4件の寄与文書が提出された。そのうち, 地球局用低サイドローブアンテナ(Doc.2/11)と姿勢制 御技術(Doc.2/13)に関する提案は,高く評価され提 案通ク採択された。気象衛星から電波天文パンドヘの不 要電波放射に関する提案(Doc.2/12)は,ほぼ同じ内 容のオーストラリアからの提案と調整の上承認された。 またカラーテレビの帯域圧縮技術の地球観測衛星への適 用に関する提案(Doc.2/14)に対しては,各国から可 成り立場の異る意見が寄せられ,調整の結果提案の趣旨 は採択された。
 今回は3件のReportと1件のDecisionが新たに生 れた。 SG2の最大の成果はNew Decisionの誕生, すなわちIWP(暫定作業班)の新設である。会議に先 立ち,議長から5つのIWPの設立が提案されていた。 そして会期中に更に2つのIWPの新設が追加提案され た。しかしSG6のように多数のTWPを抱えている SGと違って,SG2では全般的にIWP設立に消極的で あった。審議の結果一つだけ残ったのが,静止衛星軌道 の有効利用を所掌とするIWP2/1である。同じテーマ のIWPがSG4にもあって(IWP4/1)積極的に活動 している。これらは共に,1984年の宇宙に関するWARC に照準を定めており,IWP2/1は,IWP4/1と重複し ないよう,SG2の所掌にある衛星を対象として作業を 進めることが要請されている。この新設IWPの議長に はKimball氏(米)が就任し,日本を含む8か国が参 加の意志を表明した(会場での参加意志表示であり,最 終的参加国数ではない)。
 SG 5(非電離媒質内伝搬)
 日本から17件の寄与文書が提案され,ほぼ全面的に ReportとStudy Programに反映された。
 電波気象データのRep.では,新しい世界降雨気象区 が採用され,雨域高度の緯度分布が時間率毎に与えられ た(日本の寄与文書も反映)。これらとレーダ反射因子 Zと降雨強度Rとの関係を利用して,世界中どこでも降 雨散乱の高度分布が与えられるので,同Rep.から,レ ーダ反射因子の高度分布の図面が削除された。
 降雨及び他の大気粒子による減衰と散乱のRep.で は,降水による散乱の項が分離され新Rep.が作成され ると共に,降水減衰予測法については,各論が併記され た。また,特定の周波数,伝搬路長で与えられた降水減 衰から,別の周波数,あるいは別の伝搬路長における降 水減衰を求める周波数スケーリソグ及び伝搬路長スケー リングの項が設けられると共に,レーダによる推定法の 記述が拡充された。尚レーダの項の改訂作業は我が国が 担当した。大気による交差偏波のRep.では,交差偏波 識別度XPD劣化の改善の実験例として日本の成果が引 用された。XPD劣化の予測法については,各論併記に とどまった。
 最悪月の統計のRep.では,平均最悪月の概念が導入 された。また,最悪月の定義に関する新Rep.案は,同 Rep.の付録とされた。
 10GHz以上の周波数を用いる衛星放送のための伝搬 データに関しては,放送衛星BSによって得られた日本 全土における降雨減衰データが追加された。
 降雨散乱の非等方性に関する当所からの提案は,関連 Rep.及びSPの改訂に反映された。
 WARC-79からの懸案事項として,無線通信規則 (RR)の地域区分の問題があった。今中間会議では, SG1,5,6でこの問題が審議された結果,SG5が中 心になって作業を進めることになり,“周波数割当のため の地域区分”を所掌とするIWP5/4が生れた。
  SG 6(電離媒質内伝搬)
 日本から9件の寄与文書が提案された。このうちの5 件は電離層観測衛星(ISS-b)の成果の反映であり,そ れぞれの関連テキストに新しい情報を加えるものとして 高く評価され採択された。また3件の寄与文書は,電 離圏が衛星通信用電波に与える影響のうち,シンチレー ション,群遅延の効果を扱ったものであり,他の1件は VLF波の沿磁力線伝搬に関する提案であって,これら はすべて採択された。
 レーザで成層圏大気中に高密度電離領域を作り,それ を反射体としてVHF〜SHFの通信又は放送を行う新 しい方法がベルギーから提案されていた。しかし一連の 寄与文書は,提案国代表が出席しなかったため完全に無 視され,審議されることなく終った。
 SG6の今会議のトピックスの一つは,短波電界強度 計算法(Rep.252-2)とその改訂版(Sup.Rep.252-2) との比較,更にこれらに関連した新しいIWPの発足で ある。今会議にも原版と改訂版との比較研究結果がいく つかの国から寄せられた。しかしこれらの計算法は精度 は高いが,プログラムは複雑かつぼう大であって,迅速 に多数の回線予報を処理するというわけにはゆかない。 そこで今会議の終幕近くになって,1983年に開催予定の HF放送プランのWARCに役立つような,簡易計算法 を開発してもらいたい,またそのためのIWPを新設し てもらいたいという強い要請がIFRBから提出された。 その結果IWP6/12が誕生したのであるが,その所掌 事項を規定したDec.36によると,このIWPは,1983 年のHF-WARCに備えて,1981年9月1日までに目的 に適った計算法を,IWP611(HF電界強度計算法)と IWP6/3(電離層マッピング)の協力の下に完成するこ とを要請されている。尚このIWPの議長はLucas氏 (米)であり,日本を含む12か国と2機関が参加するこ ととなっている。
  SG 7(標準周波数と報時信号)
 SG7には6件の寄与文書が日本から提案された。そ のうちの2件は,それぞれ衛星による時刻・周波数供給 (Doc.7/8)と国際時刻比較(Doc.7/9)に関する提案 であり,特に前者は非常に高度な新しい技術であると賞 讃された。その他の文書もすべて採択されたが,全寄与 文書を通じて提案内容を要約し,修正案として各文書の 末尾にAnnexを添付していることは,問題点の所在が 明確になり,審議を能率化する助けとなると議長から何 度か賞讃の言葉を頂いた。
 外国からの寄与文書の中で問題のあったのは,ソ連か ら遅着文書として会場に持込まれた2件である。この2 件とも以前から日本が反対の立場をとってきた,オフセ ット方式に関するものであり,その中の一件(Doc.7/ 32)は反対せよという対処方針であった。会場での反対 演説の後,ソ連代表と対決して,はっきりと遅着文書で あることを反対理由の一つに挙げて日本の意見を説明し た。詳細な経過を説明する紙面の余裕もないが,結果的 には一応原案を修正させるのに成功したものの,べテラ ンのソ連代表にだまされたと今でも思っている。しかし 全寄与文書を会場に持ち込むことを常習としてきたソ連 に,面と向って遅着文書であるから受け入れられないと 言った代表はないらしく,その私の発言に一瞬ソ連代表 の顔色が変ったのを今でも覚えている。
  雑感
 ジュネーブでのITU関連会議は,大体秋から春にか けて開かれ,今回のように6〜7月の時期は珍しいと言 われる。またジュネーブ在住経験者は,この時期が一年 を通じて最も気候のよい従って楽しい時期と口を揃えて 言う。しかし残念なことに,今年の異常気象はジュネー ブにとっても例外ではあり得ず,特に会期の後半に雨の 多い冷たい日々が多かった。
 今回の中間会議に中国は11人の代表を送りこんでき た。そして寄与文書,発言は少ないものの,SG7では 5件の寄与文書を遅着文書ながら提出して,参加者を驚 かせた。
 ジュネーブの顔といえばもちろん国際機関である。し かし最近はウィーンも国際機関誘致に力を入れているよ うで,ジュネーブとしても安穏としてはいられなくなっ たらしい。 藤木IFRB委員にうかがった話によると, ITUが諸会議開催のため相当の経費を割いてジュネー ブから借りる国際会議センターが,間もなく無料で使え るようになるという。そしてこれもウィーン対抗策とい うか,国際機関誘致運動の一環とのことである。
 最後にかねがね言われていることではあるが,当所か らのCCIRへの代表派遣について所感をのべる。一つ の会議に当所から2名の代表が出席したのは,今回が初 めてであろう。SG2,5,6,7に当所担当の多数の 寄与文書が提出されたのであるから,当然のことのよう ではあるが,といっていつもそうも出来ない台所の事情 のあることも事実である。今後当所からレベルの高い研 究成果がどんどん国際的場(この場合CCIR)に出てい くようになれば,もちろん台所の都合を何とかつけてい かなければならないわけで,この2人以上の代表派遣は また世代交代のためのあるいは新人育成のための欠かせ ぬ条件でもある。問題は大きいのではあるが,我々関係 者はじっくりと腰を据えてこの問題解決に取組まなけれ ばならないと考えている。

(企画部長・電波部 超高周波伝搬研究室長)




ポーランドへ出張して


皆越 尚紀

 COSPAR/URSIシンポジウム “Scientificand Engineering Uses of Satellite Radio Beacons”が昭和 55年5月19〜23日の間,ポーランドの首都ワルシャワ市 で開催された。筆者は,我が国における電離層シンチレ ーション及びファラデー回転の観測結果を発表するため に,このシンポジウムに出席したので,その概要と感想 を述べる。


シンポジウムの開会式

 この種のシンポジウムは,国際電波科学連合(URSI) の第16回総会(1969年オタワ)で出された,電離層観測 手段としての衛星ビーコン電波の有用性に対する考察と 勧告がきっかけで,1970年西ドイツのリンダウで開かれ たのが最初である。その後,1974年以来衛星ビーコン電 波の利用に興味をもつ専門家グループ (COSPARBeacon Satellite Group)が音頭を取り,およそ2年毎に 主要題目を選定し,宇宙空間研究委員会(COSPAR)と URSIの後援を受けてシンポジウムを開いている。
 今回は5回目に当たり参加者は18ヶ国からの52名で, (内訳を表1に示す)表2に示すように5つの主要題目 にわたる37件の論文発表と,その他に Satellite Beacon Groupの将来についての討論,未来衛星のビーコン電 波による電離層研究の問題についての報告とパネル討論 が行われた。


表1 シンポジウム参加国と人数


表2 シンポジウムの主要題目と発表論文数/プログラム論文数

 Session T,Oでは伝搬の遅延時間の予報,電波干渉 計の評価,宇宙航行の補正など,電離層電子が及ぼす悪 影響についての議論が多かったが,ビーコン電波をHF 加熱などによる電離層変調の診断に利用する提案も出さ れた。Uでは日変化季節変化特性,地磁気・太陽活動と の相関などmorphologyに関する報告が大部分だった。 V,[の多くは地磁気嵐に関するものであったが,移動 性電離層嵐(TID)との関連や変動の周期成分に着目 したものもあった。Wではビーコン電波を利用した陽子 圏電子数の測定方法と従来のホイッスラー観測方法の比 較検討,観測結果に基づく電離圏と陽子圏の結合の解析 などが発表され,データの蓄積につれてこの研究は今後 発展するように思えた。X,Zでは,やはり赤道地域の 電離層不規則構造の研究が最も盛んで,種々の観測手段 を用いた総合観測によって,その発生機構が一層明らか になりつつある。一方中緯度地域は,まだ観測データが 少なく遅れているようだ。オ-ストリアのDr.Leitiner は,中緯度地域での長期間の連続観測の必要性を総 括論文で強調していた。今後の研究課題のひとつとし て,アメリカのDf.Linらによる,電離層通過電波の 振幅,位相情報から不規則構造を再生する試みはおもし ろいと思った。総電子数やシンチレーションの morphologyに関する報告では,インドの研究者がETS-U の136MHz波を利用して精力的に観測しているのが目 についた。ETS-Uの電波はアジア地域が主体であるが, かなりの国の研究者が利用しており,利用者はもとより 参加者の多くがETS-Uの今後の運用には強い関心を持 ち,会議の席でも質問を受けた。
 筆者は1977年以来,主にETS-Uを利用して定常的に 観測している電離層シンチレーションとファラデー回転 に関する研究成果と,1979年3月に発生した地磁気嵐に 伴う大シンチレーションの観測結果を,それぞれ SessionU及びZで発表した。日本からは,1970年の最初 のシンポジウムに中田第二特別研究室長(当時)が参加 して以来ということもあって,筆者の拙い英語にもかか わらず,反応は非常に好意的であった。
 はじめての外国出張で,言葉の不自由さはもとより, 生活環境習慣の違いに緊張して大変疲れたが,最新の世 界情勢を知ることができた上,この分野の長老や著名な 研究者達と親しく討論したり歓談できたことは,有意義 かつ貴重な体験であった。すがすがしい緑と落着いた石 造りの建物,そしてショパンの生家訪問や,豪華な館で の宴会(banquet)など開催者の親切なもてなし,…… 短いながらも思い出深いポーランド滞在であった。
 終りに今回のシンポジウムに出席する機会を与えて下 さった所長をはじめ幹部の方々に深謝致します。また出 張の事務手続等でお世話になった総務,企画,電波各部 の担当官に厚くお礼申し上げます。

(第一特別研究室 主任研究官)


短   信


超長基観電波干渉計システム研究開発センタの発足

 標記のセンタが,鹿島支所で9月15日発足した。当所 では,既に昭和50年,超長基線電波干渉計(VLBI)の 基礎実験を,鹿島支所と電々公社横須賀電気通信研究所 との間で実施し所期の成果を収めた。昭和54年度から は,更に高精度のVLBIシステムの研究開発5カ年計画 をスタートさせた。一方,昭和53年から54年にかげて3 回開かれた宇宙分野における日米専門家会議では,17項 目の日米共同研究が勧告され,その一つである「地殻プ レート運動の研究」で,1983年に日本と米国等との間で VLBI技術に関する共同実験を行うことが記された。そ の後,書簡の交換によりNASA国際部長と当所所長と の間で共同実験の実施が同意され,実験の準備を開始し た。また,1980年5月には非エネルギー分野における日 米科学技術協力協定が締結され,この中に上記宇宙分野 の17項目のプロジェクトがそのまま組込まれ,同会議の 枠組に沿って進められることになった。
 そこでさきに発足したVLBI研究開発推進本部と密接 に協力し,VLBI施設整備計画及び実験計画に基づく開 発と実験の円滑な実施を図るために本センタを設けたも のである。構成メンバーは次のとおりである。
(センタ長)塚本賢一,(副センタ長)山下不二夫, (総括主任)川尻矗大,(副総括主任)河野宜之, (ソフトウェア主任)高橋冨士信,(ハードウェア主 任)川口則幸,(部員) 青野泰造,浜 真一, 小池国正,村上秀俊,黒岩博司,杉本裕二



陸上移動用リンコンペックス方式の性能調査実験

 当所通信機器部通信系研究室では,試作したリンコン ペックス方式の陸上移動車載機の走行実験(本ニュース No.49参照)を去る3月に実施し,その後結果の検討 と性能の改善をはかってきた。今年度,電波技術審議会 第2部会第4小委員会ではリンコンペックス方式の陸上 移動通信への適合性について審議を行っている。同小委 員会への協力もかねて,上記試作機の性能調査を実施し た。性能調査は,主に模擬走行による室内実験と実際の 走行による野外実験とを,8月中旬から9月上旬にかげ て行った。なお,性能評価の尺度は復調音声品質の主観 的評価値(5段階評価)を用いた。この結果,現行の FM方式と較べほぼ同等か,両方式の感度が等しく比較 的低電界の場合は,むしろFM方式以上の性能が得られ ることがわかった。



ミリ波街星通信実験実施本部の発足

 ECS-b打上げの失敗に伴ない,ECS代替実験として 行われるミリ波帯衛星通信技術に関する実験研究(本ニ ュースNo.51参照)ならびにこれに必要な地上施設の 運用計画を作成し,実験の円滑な推進を総括することを 目的として,従来のECS実験実施本部を解消し,標題 の本部が発足した。この本部は56年度までECS代替実 験を進め,以後は次期衛星であるECS-U(本ニュース No.52参照)開発のための組織に発展することを目的と している。なお,当本部の発足に伴い,ミリ波衛星通信 実験実施鹿島センタおよび同平磯センタも発足した。担 当者の構成は以下のとおりである。
 ミリ波衛星通信実験実施本部
(本部長)生島広三郎,(副本部長)今井信男,(主幹) 林理三雄,(副主幹兼本部員)甲藤隆弘,(本部員)木村 繁,小室英雄, 近藤 智, 宮崎 謙, 高橋靖宏, 新保 礼次, 渡辺昭二,(エキスペリメンタ)古濱洋治, 新野 賢爾,皆越尚紀,高杉敏男,内田国昭,吉田 実,森河 悠,安田嘉之,小林三郎,手代木扶,畚野信義
 ミリ波衛星通信実験実施鹿島センタ
(センタ長)塚本賢一,(副センタ長)山下不二夫,村 永孝次,(総括主任)吉村和幸,(実験主任)藤田正晴, (部員)中村健治, 阿波加純, 島田政明, 篠塚 隆, 鈴木良昭,黒岩博司,峯野仁志,鹿谷元一,井口幸仁
 ミリ波衛星通信実験実施平磯センタ
(センタ長)松浦延夫,(総括主任)大内長七,(実験主 任)磯崎 進,(部員)大部弘次,磯辺 武,大内栄治, 西野徳男,熊谷 博,堀 利浩



電波音波による対流圏の探査実験

 当所第二特別究研室では気温高度分布を地上から遠 隔測定する電波計測システム,ラス・レーダ(RASS: Radio Acoustic Sounding System)の開発実績の上 に,新しく風向風速高度分布を測定する電波音波共用上 層風隔測装置(上層風ラス・レーダと略称する)の開発 研究を本年度から進めている。これは地上から発射する 音波の伝搬速度は,静止空気中の音速と風速とのベクト ル和であることを利用して,独立な3軸に向けられた3 台のラス・レ-ダを組み合せる方式のものである。
 去る7月末から8月初めにかげて,上層風ラス・レー ダ開発基礎資料を得るために,福島県下長沼において主 としてラス・レーダ利用による傾斜実験を始め各種の実 験を行った。若干のトラブルもあったが,所期のデータ を集録することができた。
 ラス・レーダは,パルス音波(約1,000Hz,幅0.2 秒,300W)波面からのUHF(445MHz,80W)電波 の反射波をスペクトル分析して,音速すなわち気温を連 続的に測定する。写真は最近の測定例で,気温測定精度 は0.6℃である。(ラス・レーダの詳細は本ニュース No.33を参照のこと)