CSを利用したコンピュータネットワーク実験計画


情報処理部

  はじめに
 当所では,1977年に打ち上げられた実験用中容量静止 通債衛星CSを用いた実験の一環として,コンピュータ ネットワーク実験計画を進めている。本実験のねらい は,端末を簡易な小型地球局を用いて衛星経由で直接中 央の大型計算機と結ぶことにより,データ発生量の少な い多数のユーザがどこからでも中央計算機を使え,地域 格差のない集中型のネットワークを構成するための方式 を確立することにある。第1段階として,特にネットワ ーク内部に注目した基礎デ-タの獲得及び問題点9把握 に重点を置き,昭和54年からシステムの開発にとりかか った。現在実験システムの整備を終了し,昭和56年初め から57年にかけて実験を実施する予定で準備を進めてい る。本稿では,実験システムと実験概要について紹介す る。


コンピュータネットワーク実験システム

  ネットワークモテルとパケットの流れ
 本実験システムが対象としているネットワークは,中 央にある大型コンピュータを多数のユーザが共用する形 態である。この形態は,企業の中央機関と出先機関とい う組織形態に適合しており,企業内に分散している計算 機や端末を処理するシステムを実現する際に採用されや すいものである。
 各局で発生した情報は,一定長の長さに区切られ,宛 て先のアドレスをつげて送信される。これをパケットと 呼んでいる。これらの送信パケットを受信して,その中 から自局あてのパケットを選び出して受け入れることに より,パケット交換が行われる。送信されるパケットに は送信順序番号がつけられており,受信局ではこの番号 に基づいてパケットを並べかえる。伝送誤り又は後で述 べる“衝突”によってパケットが正しく受信されない場合 は,受信局はこの送信順序番号に基づいて誤りを検出し て,再送要求を出すことになる。この誤り制御は,高速 伝送に適し任意のビット系列の転送が可能で信頼性が優 れている等の特長を持つHDLC(High Level Data Link Control) と呼ばれる手順に準拠したものである。
 実験システムでは,各ユーザ局は衛星回線(Kバンド SCPC「Single ChannelPer Carrier」チャネル)を共 有して,後述するアクセス方式に従って,センタ局へ約 1000ビットのパケットを送信する。センタ局からの再送 要求がある場合,または受信確認が一定時間に届かない 場合は,パケットの再送が行われる。
 センタ局は,ユーザが共有するチャネルとは別のSC PCチヤネルを用いて,TDM(Tlme Division Mul tiplex)によりユーザ局にパケットを送信する。
  プロトコル
 コンピュータネットワークを構成するにあたり,コン ピュータ間の通信を円滑に行うための通信規約(プロト コルという)をきめる必要がある。プロトコルは 拡張 や変更に対して柔軟性を持つようにレベル分けを行うの が普通であり,実験システムでは,網の内部に関するプ ロトコルとして,次の3つのレベルのプロトコルを規定 している。
 @フィジカルレベルプロトコル
 このレベルでは衛星回線,変調方式,地球局とのイン タフェース等を規定する。
 Aバーストレべルプロトコル
 このレベルでは,パケットを送信する際の形式や,衛 星回線を多数の局が共用する方式,即ちアクセス方式を 規定する。アクセス方式として,後述の各方式を規定し ている。
 Bリンクレベルプロトコル
 このレベルでは2局間で正しくデータを授受するため の伝送手順を規定する。HDLC手順に準拠したものを 採用している。
 実際にコンピュータネットワークを構成する場合は, この上に更にユーザプログラム間の相互交信の申し込み や受付け及びデータ転送に伴う制御についての規定,ま たTSSのような実際のサービスを行うためのプロトコ ルの規定等が必要になる。これら上位レベルプロトコル については,次のステップで導入することを考えてい る。
  アクセス方式
 コンピュータ間通信におげるトラヒックは,一般に散 発的であるといわれている。多数のユーザ局が散発的に トラヒックを発生する時,それぞれの地球局間に専用の 回線を設けることは回線効率上望ましくない。また,同 一回線を時間的に分割して,自局に割当てられた時間帯 を使って送信するTDMA方式でも,自局の割当てが くるまでたとえ伝送路が空いていても送信を待たねばな らず,低トラヒックのユーザが多数ある場合は,チャネ ル利用率やメッセージ遅延の点から適当でない。本実験 においては,アクセス方式の評価を実験の大きな項目と しており,実験システムには,多数の低トラヒックユー ザ局から成るネットワークに適していると考えられるラ ンダムアクセス方式を基本とした次の3種のアクセス方 式を採用している。
 @スロット付きアロハ方式
 衛星上で時間軸を一定間隔に刻み(これをスロットと 呼んでいる),このスロットにパケットを入れるように 送信を行うのがスロット付きアロハ方式である。どのス ロットを使って送信するかは各局が全く独立に決めるた め,複数局のパケットが同一スロットを使って送信さ れ,“衝突”をおこすことがある。網が衝突による再送 パケットで飽和してしまわないように,各ユーザ局は網 の混雑度を推定.して,パケットを送出する間隔を制御し ている。
 A予約方式
 パケットを送信するにあたり,前もってスロットを予 約して,パケットの衝突をさけようという方式である。 予約に必要な情報量は小さいため,各局は予約用の短い パケットを予約用小スロットを用いてスロット付きアロ ハ方式で送信し,センタ局がこれを受信して,データス ロットの割当てを行う。予約チャネルとしてデータチャ ネルと異なるチャネルを使う2チャネル予約方式と,同 一チャネルを用いる1チャネル予約方式が実現されてい る。1チャネル予約方式では,チャネルを一定間隔に区 切って,そのフレーム内でデータスロットとして割当て られた残りの領域がそのフレームの予約領域となり,従 ってデータ領域と予約領域の境界は可動となる。
 B複合方式
 スロット付きアロハ方式で運用されるランダムアクセ スチャネルと,TDMA方式で運用されるTDMAチャ ネルを用いてパケットの送信を行う。あるユーザ局に送 信すべきバケットが一定数以上たまった時は,そのユー ザ局は“HELP”バーストと呼ぶパケットを送信する。 センタ局はこのパケットを受信して,どの局にHELP 許可を与えるか決定してその結果を送信する。許可を与 えられたユーザ局は,同一グループ内の他局に割当てら れているスロットも専有して送信できるという方式であ る。
  実験システム
 実験に便用する地球局は,センタ局としてCS鹿島主 局(13mφアンテナ),ユーザ局として本所及び山川電 波観測所に設置されている小型地球局(2mφまたは1 mφアンテナ,送信電力2W)を使用する。実験はKバン ドSCPCチャネルを使用し, 伝送速度64kbpsで行わ れる。
 各局には,パケット伝送制御装置(PTC)とネットワ ーク制御プロセッサ(NCP)が設置される。NCPは, 各種アクセス方式や伝送手順および測定データ収集処理 を実現するミニコンピュータであり,MELCOM70/40 (記憶容量512kバイト)を採用している。またソフトウ ェアで種々のメッセージを発生させて実験の効率化を図 っている。更に各ユーザ局は最大15局の擬似ユーザ局の 機能を実現でき,多数のユーザ局で構成されるネットワ ークのシミュレーションが可能である。
 PTCは,SCPC実験装置のIF/RF部及びNCPと 接続し,NCPから送信パケットを受け,バーストモー ド4相PSK変調を行う機能,SCPC装置IF/RF部 から受信したバースト信号を復調し,NCPに受信パケ ットとして渡す機能及びバースト送信タイミングの制御 機能等を持つものである。


図1 コンピュータネットワーク実験システムの構成

  実験項目
 実験は,CS実験実施手順書に記載されている「衛星 通信システムの運用技術に関する実験」の中の1項目と して,手順書にのっとって実施されるものであり,次の 2つの項目から成っている。
 @ パケット伝送基本特性の測定実験
 A プロトコルの性能の測定実験
 パケット伝送基本特性の測定実験では,表1に示す各 特性を中心に測定する。
 プロトコルの性能の測定実験では,センタ局とユーザ 局間でパケットを送受信し,伝送遅延やチャネル利用率 等を測定することにより, 各種アクセス方式やHDLC 準拠伝送手順の性能評価を行うものである。


表1 実験項目

  おわりに
 現在本実験のために必要なシステムの整備を終え,昭 和56年初めから本格的な実験に入る予定で準備を進めて いる。この実験をとおして,Kバンドを使った衛星パケ ット交換網における伝送基本特性や,システムを構成す るにあたっての問題点等の資料を得,また,ネットワー クシステムを構成するにあたって必要な設計値を確立で きると考えている。
 更に,実用システムに向けて確立すべき主要技術要索 の実験を行うために,衛星通信の特徴を生かして,完全 メッシュ型ネットワークを構成する分散型にシステムを 発展させ,上位レベルのプロトコルを加えたものに,本 実験システムを拡張し,CS利用コンピュータネットワ ーク応用実験を行うことを計画している。
 これらの実験が,接続の柔軟性という大きな特徴を持 つ衛星利用コンピュータネットワークの実現に貢献し, 近い将来,衛星を使ったデータ通信網が実用に供される ことを期待している。
 この実験計画は,各方面の御協力のもとに推進されて いるものである。ここに関係各位に厚く御礼申し上げる とともに,今後一層皆様方の御指導,御協力をお願いす る次第である。

(情報処理研究室長 高橋寛子)




雨滴粒径分布測定器および落下水滴の形状


電 波 部

 ミリ波帯電波の大気中伝搬における減衰は大気による 吸収と降雨による減衰が主なものである。大気による吸 収は定常的に生じており変動はほとんど無視してもよ い。これに対し雨の場合は全く“気まぐれ”であり,減 衰量の変動は極めて大きく,回線設計にあたって最大の 問題となる。そのため当研究室ではこの降雨減衰に力点 を置きミリ波の伝搬特性の解明に努めている。
 ミリ波では電波の波長と雨滴の大きさが同程度になる ため,減衰の様子は雨滴の大きさに強く依存する。その ため降雨減衰の評価にあたっては,雨の中に“どんな大 きさの雨滴がどれだげあるか”という雨滴粒径分布を知 る必要がある。しかし雨滴粒径分布の測定は必ずしも容 易ではなく,測定が容易で粒径分布とある程度の相関が あると考えられる降雨強度の測定で代用してきた,とい うのがこれまでの実状である。この降雨強度と粒径分布 の相関はかなり大きいが,一義的に決まるほどの確度は なく,降雨減衰に関する理論値と実験値との差を生ずる 一つの原因となっている。したがってミリ波の降雨減衰 の実験では降雨バラメータとして降雨強度だけでなく, 雨滴粒径分布の測定が必要である。
 また雨滴が完全な球形ではないために電波の偏波方向 による減衰特性に異方性が生ずる。したがって厳密な議 論をする場合は雨滴形状も大切な要素である。
 雨滴粒径を測定する方法はいろいろ提案されている が,当研究室では雨滴の落下運動量を計測する方式の装 置を開発している。雨滴は静止している大気中では空気 抵抗を受けながら定速度で落下し,その速度はほぼD^^0.5 (D:直径)に比例する。雨滴の質量はD3に比例する から運動量はD3.5に比例することになる。そこで図1 のような可動コイル型のマイクロホンのコーンに雨滴を 衝突させるとその運動量に応じたパルス出力が得られ, パルス波高値から雨滴直径を知ることができる。本測定 器では表1のように0.03pより0.50pまでを19チ ャンネルに分割,5o以上をまとめて1チャンネ ル,合計20チャンネルに分割して計測する。そして10秒, 30秒あるいは1分間隔で各チャンネルのパルス数を集計 して粒径分布を求める。この方式の長所は,出力がD3.5 に比例するため,直径の変化量僖に対する出カ変化 が大きく弁別度がすぐれていること,またオンライン処 理が可能なことであり,短所としては,雑音に弱いこ と,風が上下方向の速度成分を持つときは誤差を生ずる ことがあげられる。


図1 雨滴粒径分布測定機センサの構造


表1 雨滴粒径分布測定機の分解度

 この測定器の性能試験および落下水滴の形状撮影は図 2に示す装置によって行った。風を防ぐため鉛直に立て た直径30p,高さ10.5mの円筒の上部に設けた注射器 を応用したノズルから水滴を落下させ,下部に置かれた 測定器(Distrometer)に衝突させる。ノズルの太さを 変えて水滴粒径を変える。形状撮影においては,ノズル 直下に設けた水滴検出器によって水滴の落下開始を検出 し,その水滴が下部暗箱内のカメラの視野内に到達する 時間を経過したとき,フラッシュランプを点灯し撮影し た。水滴の大きさは直径0.19pから0.51pまでの6 種を作った。


図2 雨滴粒径分布測定器試験と落下水滴形状撮影の装置

 測定器の試験は,それぞれの大きさの水滴を落下さ せ,それがどのチャンネルに判定されるかを調べた。こ れを数千個の水滴で行った。直径3.01oの例を表2に 示す。14,15の両チャンネルの境界が,3.0oに設定 されており,両チャンネルにまたがって判定されるのは 避けられない。むしろ両チャンネルの和をもって正解と いうべきであろう。またこの粒径分布測定器で測定され た分布から一定時間内に落下した雨滴の総体積つまり降 雨強度を求めることができる。このため直径の3乗の荷 重をかけた百分率が考えられ,これを表中に示した。14, 15チャンネルの和は98%にも達する。他の大きさの水滴 でも極めて良い結果が得られ,総じて荷重百分率では80 〜95%の確度をもっている。


表2 直径3.01mm(等体積球換算)水滴による試験

 水滴の形状撮影については3.01oと4.44oの場 合を図3(a),(b)に示した。当所,小口知宏氏によ って理論的に計算されている形を像の外側に少し大きく 描いてある。両者の形状が良く合致していることがわか る。他の大きさの水滴に対しても理論形状と実際の形状 とは極めて良く合致している。一般に小水滴では球に近 いが水滴が大きくなるにつれ下部が押しつぶされた形と なる。


図3 落下水滴の形状(直径は等体積球換算表示)

 結論として,雨滴落下運動量を計測する方式の雨滴粒 径分布測定器は1.9o(小雨程度)以上の水滴に対し てはすぐれており,ミリ波伝搬実験において十分使用で きる精度を持っていること,雨滴形状についての小口氏 による計算法が極めて正確であることがわかった。1.9 o未満の水滴に対しては実験できなかったが,この方 式の粒径分布測定器は小水滴に対しては原理的にも弁別 度が悪くなる。ミリ波の周波数の高い領域ではこうした 小水滴の影響が大きくなり,小水滴の測定法が今後の問 題である。

(藤間 克英 超高周波伝搬研究室 主任研究官)




カナダおよび米国へ出張して


河野 宣之

  はじめに
 1EEEAP/S国際シンボジウムが1980年6月2日か ら6日までカナダのケベック市で開催され,筆者は「実 時間VLBIを用いた位相シンチレーション測定システ ム」について発表した。この後,米国マサチューセッツ 州にあるNortheast Radio Observatory Corporation のヘイスタック観測所において,昭和58年度に予定され ている日米協同実験に使用する両国のVLBIシステム 間のコンバチビリティに関して調査・打合せを行ったの でその概要について述べる。
  IEEEAP/S国際シンポジウム
 このシンポジウムではアンテナ・電波伝搬に関する広 い分野にわたってセッションが持たれたが,筆者は日程 の都合上VLBIに関連したセッションにのみ参加した。
 VLBIセッションでは,現在システム開発を進めてい る国,即ち日,米,カナダの3国の研究者が一同に会す ることになり,各々が開発したシステム,これを用いて 得られた成果あるいは計画について,合せて8件の講演 が行われた。筆者は当所で開発したマイクロ波回線を利 用した実時間VLBIシステム(K-2)とこれを用いた 位相シンチレーションの測定結果について講演した。シ ステムについてはヨーロッパを含めた各国の研究者から 休憩時間まで多くの質問を受けた。質問は主に装置の特 性,製造会社,値段,開発状況,計画等であった。また 電波伝搬の研究者から詳細な資料の請求もあった。全体 的な印象として, 日本のVLBIシステム開発が知られ ていなかった点もあり,注目を集めたようである。この セッションの中で,カナダと米国から大計画が明らかに されその規模の大きさに驚かされた。カナダの計画は国 内の北緯49度線上に9個のアンテナを配置して,VLBI 網を形成しようというものである。予算は23×10^^6ドル で現在Design Studyを終えて本格的な検討段階に入 っているとのことである。一方米国では現存の施設も含 めて約10個のアンテナを国内に配置し,0.7pから50 pにわたる6つの波長で天体を高分解能で観測する計 画がDr.K.I.Kellefmannから提案された。予算は約 38×10^^6ドルということである。両計画とも日本の低雑 音増幅器の優秀性に注目していた。
  へイスタック観測所
 シンボジウムの後,米国マサチューセッツ州にあるへ イスタック観測所を訪れ,3日間滞在した。この観測所は 昭和58年度に予定されている日米協同VLBI実験の相手 局の1つでもあり,米国側で使用するシステムMarkV を開発して来たところでもある。初めの1日余は, VLBIグループのリーダであるDr.A.E.E.Rogersと日 本側(当研究所)で開発を進めているVLBIシステム のMarkVとのコンパチビリティについて議論した。 初めに筆者から主要な項目について説明をしたが,更に 多くの点について考慮しなければコンパチビリティはと れないという意見が出された。この為,当所で行った MarkVの調査結果と日本側のシステムの概要を説明 し,了解が得られた。また日本側のシステムが明確なも のとなった時点で,これを米国側に示し検討することで 意見が一致した。主要な内容は,受信周波数,チャンネ ル数,データフォーマット,計算機等5項目である。
 残りの1日余はMarkVシステムについて,各担当 者から説明を受けることと,実際に操作を行ってもら い,動作を確認することに費やした。しかしながら当初 予定していた筆者自身が操作を行う事は時間の不足から 実現できなかった。各担当者はVLBI関係の論文を数 多く書いている人達であり,多方面にわたって議論する ことができた。
  おわりに
 ヘイスタック観測所は共同利用施設であることから, 入れ替り立ち替り大学や研究所から観測やデータ処理に 研究者がやって来ていた。従ってわずか3日間の滞在で あったが,10人余りのVLBI関係者を知ることができ たことは,今後VLBIに関する情報を得るために大い に役立つであろう。
 最後に,同シンポジウムに当所から参加し,種々の指 導をしていただいた古濱超高周波伝搬研究室長,並びに このような機会を与えて下さった関係の方々に深く感謝 致します。

(鹿島支所 第三宇宙通信研究室 主任研究宮)


短   信


雨域散乱計第2回航空機実験

 衛星計測部第一衛星計測研究室では,9月下旬から11 月中旬にかげて,マイクロ波雨域散乱計/放射計の標記 実験を行った(第1回については本ニュースNo.53に既 報)。前回の実験は梅雨期であったため日本列島のいた るところに降雨があり容易に雨域観測ができたが,今回 は秋晴れの日が多く,また鹿島支所が所有する降雨レー ダとの共同観測に重点を置いたこともあって,フライト は3回しか行えなかったが,ほぼ所要の観測ができた。 図は鹿島支所のCバンド降雨レーダによる地上高4km における降雨強度と,7qの高度を飛行する雨域散乱 計で得られた,対応する雨域からのXバントとKaバン ドの信号強度とを比較したものである。両バンドで降雨 強度との相関が見られるとともにKaバンドには降雨に よる減衰が現われているのがわかる。


航空機搭載雨域散乱計データと地上降雨レーダデータとの比較(昭和55年10月20日)



第1回日米常設幹部連絡会議開催さる

 宇宙分野の日米研究協力プロジェクトの推進状況を報 告し,今後の進め方を討議するため第1回日米常設幹部 連絡会議(SSLG)が11月20日東京竹橋会館で開催され た。同会議には日本側から吉識宇宙開発委員長代理を代 表とする6人のメンバーが,米国航空宇宙局(NASA) からはフロシュ長官を代表とする6人のメンバーが参加 した。当所からは粟原所長がメンバーとして,また川 尻VLBI本部主幹がオブザーバとして出席した。会議 は,両代表の挨拶で始められ日米双方がそれぞれの宇宙 開発計画について説明し,続いて現在実施されている17 プロジェクトの現状の報告及び今後の進め方の討議を行 った。両者はそれらが順調に進行していることを確認す ると共に,今後のプロジェクトの推進と新たなプロジェ クトを取り上げることの重要さについて意見の一致をみ た。当所が関係する“地殻プレート運動の研究”につい ては,事前の打合せ通りの共同報告文が採択されたが, 日米双方共VLBI実験の延長を希望していることが明ら かとなった。また,実験用通信衛星データ(電波伝搬, 特に1OGHz以上の周波数帯での大気の影響,及び地上 局による衛星の運用管制)について引き続き交換を行う ことが合意された。会議終了後共同声明が発表された。 なお次回は1981年秋ワシントンで開催される。



大型降雨実験施設を用いたミリ波降雨減表実験

 電波部超高周波伝搬研究室では,11月10日から21日ま での約2週間にわたって,科学技術庁国立防災科学技術 センタの協力を得て,筑波学園都市にある同センタの大 型降雨実験室のモデル降雨を用いて,ミリ波降雨減衰特 性の解明のための実験を実施した。同実験室は,長さ72 11m,幅48mの範囲に地上高16mの位置から4種のノズル を用いて,15o/h〜200o/hの降雨強度の降水を再 現できる性能を持っている。
 今回は,昨年の予備実験に続いて,ミリ波電波降雨減 衰の降雨粒径分布依存性の解明に力点を置いた。同実験 室の雨滴は,自然の降雨に較べ細かい雨滴商が比較的多い ことから,波長の短かいミリ波帯では,自然の降雨によ る減衰に比較して著しく強い減衰が記録されるなど興味 ある結果が取得されており,現在これらのデータの解析 を進めている。



昭和55年度試験研究所長会同及び
直研逆共通問題研究会開催される

 昭和55年度試験研究所長会同が去る11月10日,昨年度 末をもって国立試験研究機関の筑波への移転が完了した ことにかんがみ,科学技術庁研究交流センター(筑波) において開催され,全国の国立試験研究機関,特殊法人 研究機関等の長ほか,関係行政機関の科学技術行政担当 者等,当所粟原所長も含め約100名が参集して討議が行 われた。この所長会同は毎年開催されているものである が,今年度は特に「科学技術立国と国立試験研究機関」 のテーマでパネルディスカッションが行われ,また新し い試みとして,この会議に参加した試験研究所長に押し ボタン方式による共同アンケートを実施するなどの討議 と懇談が行われた。また翌11日は,各省直轄研究所長連 絡協議会(直研連と略称)主催の昭和55年度共通問題研 究会が開催され,第1分科会においては「80年代の国立 試験研究機関像」のテーマで@国際協力,A共同研究・ 学際研究,B研究の社会性と独創性,のサブテーマにつ いて所見の発表と討議が進められた。また第2分科会に おいては「処遇改善と人材の育成」について活発な討議 が行われ,国立試験研究機関の今後の活動に反映してい くこととなった。



大運動会

 11月8日(土)13時から,本所の第4回大運動会をサ レジオ学園グランドにおいて開催した。
 いささか肌寒い日であったが,今年から各部合併チー ム(四ブロック)による対抗運動会ということもあり, 昨年以上の白熱した競技が繰り広げられ,先ずスプンレ ースを皮切りに熱戦の火ぶたが切られ,風のいたずらで ピンポン球が飛ばされ随所に珍プレーが続出,800mレ ースでは若者の力一杯の競技,名物種目である騎馬戦, 障害物,タイムレース等の熱戦が行われ,最後に花形レ -スである,各部合併チームの対抗リレーが行われ,地 力に勝るBチームが後半圧倒的強みを見せ優勝した。今 大会には210人の参加を得,事故もなく半日皆で和気あ いあいと楽しく実施できました。ここに参加者並びに実 行委員の方々に深く感謝します。


800m走



第59回研究発表会開催さる

 11月12日,講堂において第59回研究発表会を開催し, 外部から80名の来聴者を迎え,午前3件,午後4件の発 表(プログラムは本ニュースNo.54に掲載)を行っ た。特に超長基線電波干渉計実験報告−帯域幅合成に よる超精密遅延時間の測定−については大きな関心が よせられ,また静止衛星電波の電離層効果の研究や,人 工電波雑音とその計測では,活発な討論が行われた。



「ふじ」南極へ出発

 11月25日,第22次南極地域観測隊44名は,晩秋にして はおだやかな晴海埠頭から南極,昭和基地に向け出港し た。当所からは栗原則幸技官が電離層定常観測担当の隊 員として参加している。予定通りいけば正月には昭和基 地に到着して第21次越冬隊から観測を引き継ぐことにな っている。今年の昭和基地は日本と同様な異常気象で真 冬でも気温の高い目が続き,7月の平均気温は-13.5℃ と基地開設以来の記録となった。このため周辺の海氷が 薄く,調査旅行やみずほ基地補給旅行の雪上車走行に苦 労している。第22次隊は従来通り電離層定常観測の他に オメガ電波受信測定,昭和基地とみずほ基地間のVHF 散乱通信等を実施する予定である。テレメトリ受信担当 隊員が電気通信大学から参加したので,今回も当所から の参加隊員は1名となった。なお船上観測は中波電界強 度測定とオメガ電波受信測定の移動観測を実施する予定 である。