広域オゾンモニタのための航空機搭載型CO2レーザレーダ装置の開発


通信機器部

  はじめに
 光と物質との間で起るいろいろな相互作用を利用した レーザレーダ(ライダとも呼ぶ)は,1960年代の上層大 気観測用ミーライダ(第一世代),1970年代の分光技術を とり入れた大気汚染物質(NOx,SOx,オゾン等)測定 用差分吸収型ライダ(DIAL),ラマンライダ等(第二世 代)地球環境計測の有力な測定手段として注目を浴びた。 そして,1980年代のレーザレーダの研究開発(第三世代) は,それ程遠くない将来に実験が予定されているスペー スシャトル搭載レーザレーダに代表される様な飛翔体と レーザレーダを組み合せ,このダイナミックに生きてい る地球環境の変化を広範囲にリモートセンシングしよう とする試みである。この研究分野の一つに,現在当所や 米国NASAゴダード,ラングレー両研究所, カリフォ ルニア工科大学,西独のバッテル研究所で開発が競われ ている「広域オゾンモニタのための航空機搭載型CO2レ ーザレーダ」がある。
 当所では,昭和51年より環境庁と協力し,第二世代の レーザレーダの開発の一環として「CO2レーザを用いた 長光路差分吸収法による広域オゾンモニタの開発」およ び「距離分解能を有するオゾン測定用CO2レーザレーダ の開発」を世界に先がけ行い,数々の野外実験からこの 方式の有効性の実証に成功した。そして,これらの研究 から得られた成果を基に,昭和54年度から第三世代のレ ーザレーダの開発を進めている。
 光化学反応によって発生するオゾンは,光化学スモッ グで代表される大気復合汚染の状況を知る目安として, またそれ自身化学的に活性な性質を有することから,自 動車からの排気ガス中のNOx,工場等からの排煙中の SOxと並んで重要なトレースガスとして,種々の測定が なされており,光化学スモッグの発生機構の解明に寄与 するパラメータである。この発生機構を解明するには, 汚染物質の光化学反応による生成過程に加えて,拡散や 移流による汚染物質の移動を知ることが重要であると言 われている。そのために,都心部をはじめその周辺部, 山間部,海上等広い領域内のオゾン濃度分布を短時間に 測定する能力をもつ測定技術が不可欠である。このため 大気複合汚染の動態を研究している大気物理化学者等か ら,航空機搭載型CO2レーザレーダの開発が切望されて いる。
 各国で精力的に研究が進められているこの「航空機搭 載型CO2レーザレーダ」は,オゾンの吸収帯(9.4μm) を利用した差分吸収方式により,オゾン濃度分布をもと める装置である。この装置には,光源に使用するCO2レ ーザの動作モードにより,CW方式とパルス方式とがあ る。両者とも一長一短があり,今後の研究によってその 優劣が決定されるであろう。当所では,CW方式による 2波長ドップラーレーダを基本とした装置の開発を行っ て来た。以下,CW方式によるオゾン測定法の原理,試 作した装置の概略と飛行実験並びに解析結果について紹 介する。
  差分吸収型CO2レーザヘテロダイン方式によるオゾ ン濃度分布の測定
 差分吸収法(differential absorption method)の原理 は,オゾンに対して非常に吸収の強く起る波長で発振す るCO2レーザ光(P(14)線)と,吸収効果のほとんどない 波長で発振するCO2レーザ光(PG(24)線)を,航空機上か ら同時に発射し,地表面(地面や建物の屋根,木立等) から反射,散乱されたレーザ光を機内の受信望遠鏡で受 光し,各々の波長に対する受信光電力比から,航空機と 地表面との間にあるオゾンの平均濃度を求めるものであ る。航空機を一定の高度で飛行させることにより,オゾ ンの二次元分布が得られる。
 一方,機内の受信光学系で集光された地表面からの反 射,散乱光の強度は,赤外検出器のもつ等価雑音電力 (N.E.P.)をはるかに下まわっているため,直接検出方 式は使用できない。しかし,地表面からの反射,散乱光 の周波数は,飛行機と地表との間で生しる相対的速度差 のためドップラシフトを受ける。したがって,機内の送信 レーザ光の一部を局発光とし,受信光学系で集光された 極微弱散乱光と一緒に混合器としての赤外検出器の光電 面に照射すると,ヘテロダインビート信号(すなわちドッ プラ成分)が発生する。よく知られている様に,光波へ テロダインは低雑音プリアンプと高い変換効率をもつ赤 外検出器とを組合せることにより,検出感度を容易に量 子雑音眼界まで到達させることができる。したがって, この高感度ヘテロダイン検波方式と差分吸収方式との組 合せにより,はしめて航空機搭載型CO2レーザレーダ装 置が可能となる。
  開発中のCO2レーザレーダ装置
 装置の設計,試作にあたり,(1)航空機底床部からの機 械的振動の除去,(2)送受信望遠鏡の光学軸調整が簡単に できる事,(3)装置の全重量の軽量等に注意を払った。試 作した装置は,次の4つの部分,(1)2台の導波型CO2レ ーザ,(2)ヘテロダイン検波部を含む送受信光学系,(3)テ、ニ タ収録部,(4)オフラインデータ処理部からなる。
 直径1mmのレーザ光は, ビーム径50mmφに拡大され平 行ビームとなって・航空機より地上に向け斜め後方に発 射される。なお,航空機は速度250q/時で飛行し, こ の時2MHzのドップラシフト周渡数が得られるように, 送信ビームは航空機と地上とを結ぶ垂直軸よりα=7°の 傾きをもたせている。(図1) 地表で反射,散乱された 赤外光は,機内の受信望遠鏡(開口径5omm¢,f=1550o) で集光された後,局部発振光と重ねられて赤外検出器に 入る。レーザを含む光学系の装置全体は, アルミ鋳物台 上に組立てられており,防震ゴムによって・航空機から の振動を除去している。赤外検出器からのドプラシフト 成分のビート信号は,データレコーダに収録される。一 方,飛行位置確認のため,VTRカメラを送信望遠鏡の 光軸と平行に設置している。機内で収録された実験デー タは,実験後研究室においてロックインアンプで各信号 成分に分離されてから,A/Dコンバータを通して計算機 に入力される。演算結果の情報は,時刻,飛行場所の情 報とともに, CRTグラフィックディスプレイやプロッ タ上に表示される。試作した装置の諸元を表1に,また 機内装置を写真に示す。


図1 出射ビームと飛行機との関係


表1 搭載型CO2レーザオゾンモニター装置の諸元


飛行機内の様子

  飛行実験とデータ解析
 飛行実験データの解析を通じてオゾン濃度および・測 定誤差を算出する場合, もっとも重要な基礎データが, 2波長(P(i4づレーザ線とP¢づレーザ線)に対する平均地 表面アルベド比(地表面での反射率)1五4とその誤差△P4 であることが明らかになった。この解析結果は, その後 カリフォルニア工科大学でも確認され,現在の主要な研 究対象となっている。
 現在,光化学スモッグ発生時におけるオゾン濃度の分 布測定は,今のところ都内及び近県の大都市だけに限ら れている。しかも,その測定位置は,地表面からせいぜい 1Om以下である。当所で開発している航空機搭載型レー ザ・オゾンモニタ装置は,大都市のみならず, その近郊 都市域. 田園地帯,海上等の広範な地域を測定対象地と している。それ故,いろいろな地表面に対する平均アル ベド比の情報を的確に把握しておかねばならない。以上 の理由から,飛行実験の主課題を各種地表面の平均アル ベド比の取得とした。そのため,飛行実験はオゾン濃度 がほぼ零に近い気象条件となる冬季に行った。
 アルベド比測定のための飛行実験は,双発のグランド・ コマンダを用いて主に調布飛行場をべ一スに,大宮市 と栃木県栃木市との間,調布飛行場と東京湾との間, また,仙台飛行場をべースに,仙台市と相馬市の間お よび海岸線等で延べ25時間以上にわたって行った。大 宮市,浦和市等の都市部上空では,コンクリート建造物 (ビルディング,道路)や工場等の大きな屋根が,人家 に混在しているため反射光強度の変化は,他のどの場所 よりも大きく,激しかった。しかし,2本のレーザ光線 に対して同じ様な急激な変化を示すため,△RA/^^RA= 20%でそれ程著しくないことがわかった。なお,平均ア ルベド比として,約1.6を得た。また,田園地帝では一 面に続く田園と,ところどころに点在する集落からの反 射光強度の変化は,あまり大きくなかった。図2は,古 河市近郊の田園地帯上空の写真で,下のグラフはそれに 対応した反射光強度変化を示す。なお,中央の高速道路 は東北縦貫道である。田園地帯でのアルベド比は,測定 の結果,約1.3,△RA/^^RA=15%であることが判明し た。一方,海面の状態は,風速と密接な関係にあり,飛 行実験時の風速は約7m/秒であった。したがって,大 きな波のうねり上に無数の小さなさざ波が重畳している ため,海面からの反射光強度は,細かい変化を示した。 しかし,海面は一様な物質,すなわちNaCl含有の水だ けなので,アルベド比の変化は少なく,約0.99で,△RA /^^RA<10%を得た。以上,各種地表面の反射光強度と アルベド比についての実験結果を述べた。測定結果をま とめて表2に挙げておく。なお,表の右側は,開発中の 装置を用いて高度3000mから各種地表面のオゾンを測定 する際の最少測定可能オゾン濃度値である。


図2 高速道路付近での地表面反射率


表2 測定結果と推定オゾン最少測定可能濃度

  おわりに
 以上現在開発中の「広域オゾンモニタのための航空 機搭載型CO2レーザレーダ、装置」について紹介をした。 今回,設計・試作した装置は,飛行実験の結果,都市域 では48ppb以上,田園地帯では45ppb以上,海上では40ppb 以上のオゾン濃度をそれぞれ測定できる性能があること を確認した。一般に,光化学スモッグ発生時のオゾン濃 度は,150ppb以上に達するため,本装置で充分光化学ス モッグを測定できる。今後,装置の改良と未知のパラメ ータの解明を通じて,更に測定精度を高める努力を続け る予定である。前述した如くこの研究は,国内では当所 のみで,また外国でも数か所の研究機関で始まったばか りであるため,技術的にも未完成の部分が多く,また測 定精度を決定づける重要な因子である地表面のアルベド 比に対しても,当所を含めまだどこのグループも正確な 情報を把握していない現状である。今後,各研究グルー プの飛行実験の回数が増えるにつれ,これら未知のパラ メータの数も減り,より測定精度の高い装置が実現でき ると確信する。当所では本研究で確立した光波ヘテロダ イン検波枝術を活かし,今後ミー散乱を利用した3次元 オゾン濃度分布測定可能なレーザ・レーダ方式の開発を 進めると共に,装置の小型化,高信頼化を目指し,大気 物理化学の分野の研究者が切望している広域オゾンモニ タのためのリモートセンシング技術の確立を図っていき たい。
 なお,この研究は「国立機関など公害防止に関する試 験研究」の一つとして,環境庁の予算で実行されたもの である。

(物性応用研究室 主任研究官 浅井 和弘)




第20回国際電波科学連合総会に出席して


佐分利 義和

  はじめに
 国際電波科学連合(URSI)は,通信の基礎科学的研究 推進を目的としており,当所にとっては無線通信諮問委 員会(CCIR)とともに極めて関係の深いものである。 1919年創立以来,最近では3年毎に総会を欧洲とそれ以 外の地で交互に開催する慣例となっている。
 第20回総会は1981年8月10日〜8月19日に米国ワシン トン・DCで開催された。参加者は1,030名(約40か国) で,我が国からは38名,そのうち当所からは,古津宏一 (第三特別研究室長),藤田正晴(衛星計測部,米国留学 中)と筆者の3名が参加した。


URSI総合会場(Hyatt Regency Hotel)

  総会概要
 URSIには,現在AからJ(Iは除く)までの9つ の研究分科会がある。総会では,これら各分科会の活動 成果と計画を討議するBusiness Sessionと研究報告の Science Sessionがあり,さらに複数の分科会が共通の テーマで開催する合同のScience SessionおよびOpen Symposium があって,数セッションが並行して開催され るのが普通である。本総会では4件の公開シンポジウム (リモート・センシング,ミリ波および準ミリ波,電波 伝搬における数学的モデル,および電磁波の生体効果) 及び一般セッション(約400件)の発表があった。
 各国主席代表および連合の役員で構成する理事会 (Counci1)で決定した主な事項は次のとおりである。
 (1). 第21回総会(1984年)はフローレンス(イタリア) で, 8月下句から9月上句に開催する。
 (2). G分科会(Ionospheric Radio and Propagation)と H分科会(Waves in Plasma)は共通課題も多く,その 合併は以前から問題となっていたが,今回もH分科会の 反対で実現せず,合併の方向で次の総会までに検討する。
 (3). Remotc Sensingの新分科会設立案は異論も多く, 分科会間連絡グループの設立となった。
 (4). 分科会の研究課題の改訂がDおよびF分科会につ いて行われ,前者はElectronic and Optical Devices and Applications,後者はRemote Sensing and Wave Propagation(Neutral Atomosphere,Ocean,Land and Ice)となった。
 (5). 役員の改選が行なわれたが,日本から古賀逸策先 生が名誉会長に,また岡村総吾先生が副会長に選ばれた。
  A分科会(電磁波計測)について
 本分科会単独のセッションとしては,次の5つがあっ た。
 A1.Precise Time Transfer (3件)
 A2.High Stability T & F Standards (4件)
 A3.Circuit Measurements(4件)
 A4.Application of Optical Fiber to Measurement (5件)
 A5.Cryogenic Measurement (5件)
時間,周波数の分野では,航法衛星(GPS)による時刻 比較実験が進み,10〜50ナノ秒の精度をもつ国際比較法 として実用段階に入ってきたこと, レ一ザ冷却と光ポン ピングを併用したイオンストレージ方式が高精度標準器 として有望であることなどが主要なテーマであり,一方, 超伝導素子の進歩や新しいセンサとしての光ファイバの 利用にも興味深い発表があった。
 Business Sessionは3回開催され,活動報告と計画, 勧告案の審議,各国代表による次期副委員長の選挙など がなされた。岡村委員長は任期終了となり,次期は西独 のKose委員長とポーランドのHahn副委員長である。 採択された研究推進あるいは支援に関する勧告と決議は 次の通りである。
 Rec.A-1:URSI Register of National Standards Laboratories
 Rec.A-2:Primary Cesium Clock
 Rec.A-3:International Atomic Time
 Rec.A-4:Support of the BIH
 Rec.A-5:Use of International System of Units
 Re6.A-6:Interactions of Electromagnetic Waves with Biological System
 Resolution:W.G.on Time Domain Waveform Measurements
  VLBI
 総会期間中に,NASA本部およびゴダード宇宙飛行 センター(GSFC)を訪問し,58年度実施予定の日米 VLBI実験に関する打ち合せを行った。本部では,データ 公開に関する意見交換,米国はじめ各国の状況など、 GSFCでは当所からのソフト・ウエアに関する質問,今 後の協力体制などが主な内容であった。特に興味深い米 側の新提案として“VLBIによる時刻国際比較計画” があり,米国海軍天文台を含む世界10局程度の間で,年 数回,10ナノ秒以上の精度で測定を行うというもので, 日本も参加希望のあることを伝えておいた。日米実験は, VLBI局としての日本の地理的条件の重要性もあり, 米国側も大きな期待をしている。(余談になるが,NASA ではVLBIをVery Large Batch of Investigators と も呼んでいるとの事であった。)
  その他
 時間,周波数標準分野に関して,海軍天文台,海軍研 究所でのGPS受信, またGSFC,John Hopkins大学の 応用物理研究所(APL)およびBendix社でのNASAの 水素メーザ開発の現状を見学し,一方,CCIRでの問題 等も議論できた。
  おわりに
 総会の前半は東京と変らぬむし暑さのなかでの会議と なったが,開会式の演説の一つでは当所故青野雄一郎氏 の業績も述べられ, また私の直接関係した標準と計測の 分野でも当所の成果が参照されていた。過去から現在ま でのこのような国際的評価を今後ともより高めるよう, 研究内容,国際協力など多くの面での努力の必要性をあ らためて感した。紙面の都合もあり,ごく概要の報告と なったが,終りに今回の出席にあたり,種々御世話にな った関係の方々に深く感謝いたします。

(総合研究官)




lAGA総会及びMAPシンポジウムに出席して


石嶺  剛

 国際地磁気・超高層物理学連合(IAGA;International Association of Geomagnetism and Aeronomy)第4回学 術総会及び中層大気国際協同観測計画(MAP;Middlle Atmosphere Program)シンポジウムが英国スコットラ ンドのエジンバラ大学で8月3日〜15日に開催され,出 席の機会が与えられたので, その概要について述べる。
 IAGAは地球・太陽系天体の大気・電磁気諸現象を 研究の対象としており,研究分野を5つに分けて分科会 を設けている。今回の集会には47か国から約740名(米 国 212名,英国 125名,西独 70名,カナダ 43名, フランス 36名,日本 26名,ソ連 24名など)が参加 し,各分科会毎の講演会,シンポジウム,研究作業班 会合等が開かれた。また地球大気環境の広域かつ長期の 変動における中層大気(高度10〜120q)の役割を解明す るため,大気の運動・組成及び放射について,国際的, 総合的に観測と研究を行うことを目的とするMAPが来 年から開始されるのに備え,中層大気の諸問題を討論す るための特別シンポジウムが企画された。筆者は主に第 U分科会(超高層諸現象)及びこのMAPシンポジウム の講演を聴溝するとともに2件の講演を行い,電離層観 測網諮問班(INAG;Ionosonde Network Advisory Group),流星観測に関する研究作業班,MAPアジア地 域協力調整班等の諸会合に出席した。
 第U分科会では惑星大気,高緯度大気と中緯度大気の 電磁力学・大気力学的結合,高緯度電離層不規則微細構 造等についての講演があった。このうち特に土星の周り のトーラス状水素雲はタイタンから逃散した水素が土星 の重力に捕えられてできることがVOYAGERの観測資 料から判明したということやPIONEERの観測資料から 金星の夜間電離層は昼側からのプラズマ流によって維持 され,イオンの流速は数q/secと推定されるという報告 等が注目された。その他レーダの分反射エコーのスペク トル解析から下部電離層大気運動の乱流,波動成分を求 めた結果や,Fabry-Perot干渉計による熱圏風速の観測 の試み,衛星電波を用いて電離層微細構造を推定する方 法等も興味深かった。
 MAPシンポジウムでは(1)「中層大気力学の諸問題」, (2)「電磁力学的結合と下部電離層力学」,(3)「X線から紫 外線に至る太陽輻射スペクトル」,(4)「声エネルギー粒 子」,(5)「H2O,OH,NO等微量成分を含む光化学過程 と大気光」の各課題について先ず招聘基調講演があり, そのあとに関連講演が行われた。(1)では惑星波動,赤 道準2年周期現象,大気潮汐,重力波,中間圏乱流等が 概説されたが,高度50〜80qの大気層における大気運動 のルーチン的観測資料が欠けているため,観測データに よる理論の検証は不十分との印象を受けた。(2)では主に D層電子密度の鉛直構造及びその日変化を制御する要因, 多水化プロトンH+(H2O)n分布,流星活動度と段層及びナ トリウム層変動との関係が議論された。さらにNIMBUS 衛星で観測された高度50q付近の準2日周期波動は流星 領域(高度80〜110q)でも存在するが,振幅の緯度特性 が違うことが報告された。筆者はこのセッションで「下 部電離層による電波吸収の冬季異常の空間変動」につい て講演し,この現象の発生領域は2500q/日の速さで西 から東へ移動することを示し,そのような移動は下部電 離層風と密接に関連していることを強調した。これに対 し吸収データの種類及び各地のデータを比較するときの 時差処理等に関し質間があった。さらに講演のあとでも 電離風の測定精度等について質問があり,関連論文の別 刷りを請求される等手答えも十分だった。(4)では1972年 8月のSolar Proton Eventに伴うオーロラ帯大気の物 理化学的変動,特にオゾンの顕著な減少,F層及び下部 成層圏以下の大気層における大気圧・温度の増大につい て議論された。最後に(5)ではマイクロ波ラジオメータに よる中間圏水蒸気分布の測定結果や夏季に高緯度中間圏 圏界面付近で観測される夜光雲の発生時に重い多水化プ ロトンH+(H2O)n(測定最大値はn=20)が観測される ことが報告され,多水化プロトン氷晶核説を裏づける結 果として注目された。
 流星観測に関する研究作業班X-2(観測所,地磁気 指標,データに関する第5分科会に属する)の会合では アデレード大学のElford教授が議長となり,GLOBM ET(Global Meteor Obscrvation System)他7つの議 題について討議した。このGLOBMET計画はソ連の地 磁気・電波伝搬研究所のKazimirosky博士が原案を作成 して事前に全メンバに検討を依頼していたもので,流星 レーダの全地球的観測網を確立して,下部電離層大気観 測,流星の輻射点の分布特性・流星飛跡による電波伝搬 特性調査等を行うことを目的としており,満場一致で承 認されてMAP総会に提案され,そこでMAPの特別研 究計画として採択された。
 INAGの会合では「電離層観測網の現況」,「資料読 みとり手引書」等の問題がとり上げられ,後者と関連し て,当所が初心者用に作成した手引書の英語版を出版す ることを要請され,この面でも当所は一歩先行している ことを改めて認識した。
 最後にMAP期間中にアジア諸国間で研究協力すべき 課題について日本,ソ連,インド,台湾の代表が集って 検討した結果,流星レーダ・短波ドップラ法による大気 波動の観測やライダーによるエアロゾル観測研究等で協 力することになった。具体的な協力方法については今後 詰めていくことになっており,実りある協力を期待したい。
 電磁気学の基礎を確立したMaxwellや電波科学の礎を 築いたAppletonを生んだエジンバラで開催された今回 の集会には旧知の研究者も多く参加し,旧交を温めるこ とができた。いろいろと印象深かったこの集会に出席の 機会を与えて下さった科学技術庁,郵政省関係各位に深 謝致します。

(電波部 電波伝搬研究室長)




第32回国際宇宙航行連盟(IAF)大会に出席して


下世古 幸雄

 “宇宙:人類の第4の環境”を主テーマとした第32回 IAF大会は米,ソ,仏の主要宇宙開発国を始め,33か 国,約800名が参加して,9月6日〜12日の間,イタリ ア,ローマ市のローマ大学工学部で開催された。筆者は 「BSの衛星放送実験結果と軌道上の動作特性」の発表 を行うために本大会に出席したので,その概況を報告す る。
 IAFは世界の宇宙航行学術団体の集りで,宇宙科学, 宇宙工学,宇宙医学及び宇宙法学の広汎な分野での唯一 の年次国際会議で,1950年パリ大会(第1回)以来, 昨年の東京大会(第31回)まで毎年世界の主要都市で開 催され,ローマは1956年以来2回目の開催である。今回 は1982年に国連によって計画されているUNISPACE 82の前の国際会議であり,また最初の有人宇宙飛行から 20回目の記念の大会にあたる。
 大会では,“第4の環境への挑戦”に関する招待講演 「最初の米国のスペース・シャトル飛行の回顧と次の20 年に対する関係」(米国のスペース・シャトルの宇宙飛 行士)と「過去20年にわたるソ連の有人飛行プログラム の開発」(ソ連のサリュート/ソユーズ計画の担当者) のスペースシャトル,アリアンロケットなど“今日の話 題”に関する特別講演があった。また一般講演として, “宇宙への到達・利用・探査・文明”に関する8つのシ ンポジウム(宇宙輸送システム,通信衛星,宇宙からの 地球観測,宇宙のエネルギと電力,宇宙探査など),8つ の技術セッション(宇宙ステーション,人類への宇宙開 発の影響,宇宙とマス・メディアなど)のほか合計48セ ッションで約400件の論文が発表された。また,大会中 の9日午後にはイタりアの宇宙関連施設を,(a)フチノ宇 宙通信センター,(b)Selenia社の宇宙部門とC.N.S.(イ タリアの衛星開発に責任を持つ組織),(c)SNIA社(宇 宙の推進関係)の3コースに分れて見学が行われた。
 日本からは24名が参加し,筆者の論文や,「人工衛星搭 載用のマイクロ波雨域散乱計の設計仕様と検討」(岡本主 任研:衛星計測部)を含め13件の発表を行った。筆者の論 文については,簡易地上受信機装置のG/T,電力利得 実験,100W TWT増幅器の不具合について関心を持た れた。表は主要国の論文数と参加人数(中間集計)であ る。


表 主要国の発表論文数と参加者数

 今回の大会では,将来の宇宙への輸送手段となるスペ ースシャトルや大型衛星打上げ能力(2,000s以上)を持 つアリアンロケットに関連した論文,それらを利用した 大型多目的衛星,宇宙プラットフォームなどの具体的な 構想や計画に関する数多くの論文が発表された。筆者の 研究分野に関連の深い通信衛星に関するシンポジウムで は,通信衛星技術,国内及び地域通信衛星システム,分 配/放送衛星システム,移動通信衛星システムの4つの セッションで38件の論文発表が行われたが,以下に主要 な発表内容を紹介する。
 衛星運用実績に関しては,日本からのBSのほかに, INTELSAT X(1号機と2号機)及びインドの実験 用静止通信技術衛星APPLE(Ariane Passenger ayload Experiment) の概要と打上げから軌道上の初期チェック までの運用結果の報告である。特に,APPLEはCバン ドのトランスポンダを搭載した3軸安定型の衛星で, ESAが募集した打上げ費無料のアリアンの第3番目の開 発ロケット(L03)の“Fly Passenger Payload” とし て,1981年6月19日にMETEOSAT(ヨーロッパの気象衛 星)とCAT(アリアンの技術カプセル)とともに打上 げられた。その後,APPLEの2つの太陽電池パネルの うちの1つのパネル展開に失敗したが,6月24日に3軸 捕捉に成功し,現在,姿勢保持に大変な運用努力を払い, 電力の不足分に対しては時分割運用等により,当初計画 された実験ミッションを実施している。
 近い将来の衛星計画としては,日本の実用放送衛星B S-2の衛星とシステム概要,フランスの準実用放送衛 星TDF-1のシステムに対する要求と基本技術特性, 12GHz帯放送衛星業務の周波数及び軌道割当てのための 第2地域無線主管庁会議(RARC'83)に向けてのアメリ カの連邦通信委員会(FCC)の活動状況と直接放送衛 星計画の概要,イタリアの直接放送衛星構想と通信衛星 ITALSAT計画,インドの通信/放送/気象のミッショ ンを持つINSAT,オーストラリアの最初の国内衛星通 信システムである14/12GHz帯の通信/放送衛星計画, ESAの17/12GHz帯の直接衛星放送,30/20GHz帯の 通信と伝搬実験などのミッションを持つ大型多目的衛星 L-SAT,移動通信衛星のMARECS,TELE-X等 が報告された。この中で特に,イタリアのITALSATは 1987年に打上げを予定し,30/20GHz帯の通信と40/50 GHz帯の伝搬実験のミッションをもつ3軸衛星として開 発しようとして検討しているもので,我国のECS-U 計画とも類似した構想であり,また検討の過程で衛星の ミッション要求を考慮したスピン衛星と3軸衛星との tradle-off解析についての内容には非常に参考になるもの がある。
 将来スペースシャトルを利用して打上げる大型多目的 プラットフォーム構想としては2件の報告があった。い ずれも1990〜2000年代の実用を目標としており,スペー スシャトルにいくつかのモジュール部に分けられたプラ ットフォームを積み,低地球軌道(LEO)上で組立て, 静止軌道(GEO)まで持っていくものである。ヨーロ ッパの構想はヨーロッパ地域に対して国内及び多数国間 の電話や直接放送などのサービスをするもので,15年の 寿命,1,000〜2,000sのペイロード重量,4,000〜6,000 sのプラットフォーム重量,25〜50kWの太陽電池発生電 力を持つ衛星である。もう一つの構想はグローバル衛星 通信システムで,6つの静止プラットフォームで構成さ れ,大西洋,太平洋,インド洋に,衛星間通信衛星と対 で配置され,移動,海事,直接放送サービス等の2,000 年代のPoint-to-Pointの通信要求を満たすことを目的と している。
 以上,多数の論文のうち,特に通信・放送衛星に関連 のあるものを紹介したが,詳細については予稿集を見て 頂ければ幸いである。
 今回のIAF大会では,スペースシャトルの初飛行や アリアンロケット3号機(LO3)による衛星打上げの 直後でもあり,発表内容からも宇宙への大量輸送時代が 近いことが印象づけられた。さらに,衛星の開発・利用 の面でも,大型化,3軸化,プラットフォーム化,多目 的化の構想が強く打ち出され,また米,ソ,日,ヨーロ ッパ諸国などの宇宙開発主要国のほかに,インド,オー ストラリア,アラブ諸国が衛星を利用した具体的計画を 発表しており,世界的に衛星利用に対する期待が強いこ とを感じた。
 最後に,本大会に出席する機会を与えて下さった科学 技術庁,郵政省並びに電波研究所の関係各位に深く感謝 します。

(衛星通信部 第二衛星通信研究室長)


短   信


選択受情方式標準アンテナ装置の野外実験

 通信機器部機器課では,去る9月25日から10月2日ま で富士山麓朝霧高原において電界強度測定器の校正装置 の野外試験を実施した。現在当所野外試験場で実施して いるVHF・UHF帯電界強度測定器の校正の際,周辺 電磁環境条件の悪化により混信波のマルチパスによる測 定誤差を無視できない状況になってきた。このため信号 波のみを選択受信する方式の校正装置を新たに整備中で ある。今回この方式への移行を目的に周辺にじょう乱の 原因となるようなものが全く見当らない富士山麓西側の 平坦地で試験を行った。
 試験は,30MHzから1000MHzまでの範囲の23波につい て現用方式と新方式との相互比較及び新方式アンテナの 諸特性について調査した。現在装置の一日も早い実用化 をめざし,とりまとめ作業を急ぎ進めている。



AMES海上伝搬実験

 通信機器部海洋通信研究室では,航空・海上技術衛星 (AMES)の開発に資するため,昨年10月,12月(本 ニュースNo56,58参照)に引き続き,海上伝搬実験を実 施した。今回の実験では,インド洋上空に静止している 米国海事通信衛星MARISATのビーコン電波(周波数 1541.5MHz)を利用して,沼津市獅子浜において,衛星 仰角約11度に於けるフェージング特性を主として測定し た。
 実験は10月1日から10月31日まで行ない,(1)各種波浪 状況における,小型アンテナ(直径40pショートバック ファィアアンテナ),航空機用フェーズドアレイアンテナ 等のフェージング特性,(2)海面反射波の偏波特性を利用 したフェージング軽減アンテナ(特許申請中)の有効性 の測定等を行い,AMESのサービス海域(仰角10度以 上)におけるフェージングマージンについて充分なデー タの蓄積をすることができた。今後は,このデータを用 いてフェージングシュミレータにより,各種通信方式 (特に△M-PSK及びNBFM)の品質評価を行い, AMES通信システム設計に生かしてゆく予定である。



第61回研究発表会開化さる

 10月21日,当所講堂において第61回研究発表会を開催 し,外部から130名の来聴者を迎えた。午前3件,午後 4件の発表(プログラムは本ニュースNo.66に掲載)を行 ったが,衛星用マルチビームアレーアンテナの開発と, 実験用中容量静止通信衛星(さくら)の実験速報(その5) については大きな関心がよせられた。またミリ波帯地上 伝搬実験や,電離層観測画像の自動解析では活発な討論 が行われた。



大運動会

 10月26日(土)13時から,本所の第5回大運動会をサレ ジオ学園グランドにおいて開催した。
 秋晴れの天候に恵まれ, スポ-ツの秋にふさわしい運 動会日和であった。
 今年は,紅・白の2組に分かれての対抗運動会とした ため,昨年以上の白熱した競技が展開された。スプンレ ースを皮切りに熱戦の火ふたが切られ, 800mレースで は若者の力一杯の力走に負けじと頑張る50代の高年令者 の痛走に心うたれ,観覧席からは盛大なる拍手が送られ た。
 誇り高き騎馬戦に引き続いて,障害物,タイムレース 等の競技が行われ,最後は花形スターが出場する紅・白 対抗リレーが行われ,地力に勝る白組が1位となったが 惜しくも逆転ならず,赤組の総合優勝となった。今回は 多数の参加者を得,事故もなく半日和気あいあいと楽し い運動会であった。


800mレース

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