栗原 芳高・中橋 信弘・古漬 洋治
まえがき
電波研究所寄与文書の処理状況1
電波研究所寄与文書の処理状況2
深宇宙関係も米国の寄与文書のみであったが,論議の
中心は,深宇宙の定義に関するものである。即ち,現行の
無線通信規則等では,およそ月以遠の空間(38万q以上)
となっているのを,約200万q以遠の空間とするよう,
新Rep. 及び新Rec. を米国は提案したが,ソ連等が慎重
論を唱え,結局,Q. 及びS. P. (Study Prolgram)の中
で今後の研究課題とされるにとどまった。
リモートセンシング関係で,日本として特に問題とし
たのは米国から出された18GHz帯におけるパッシブセン
サに関する文書であった。これは,SG2のほかSG4
においても審議され、我が国の通信衛星計画の実態と矛
盾しないよう修正が行われた。
可視・赤外領域における通信,特に伝搬については,
新たにQ. が設けられるとともに,英国の寄与文書をも
とにRep. 681の改訂が行われた。その際,当所の指摘に
より所要の修正が加えられた。
WARC-Space関係では,SG2としても対応する
ため,1980年の中間会議においてIWP2/1を設置し,
1981年5月に第1回会合を用いた。そして今会期中に第
2回会合を開き,第1回会合をもとに作成されたRep.
を部分的に改訂し,TWP2/1の作業を一応終了した。
SG4(固定衛星業務)
日本からの寄与文書は13件,その内当所からのものは
3件(実質5件)で,これらの処理状況は表に示す通りで
ある。まず,Doc. 4/264については,鹿島における実験
をベースに宇宙局の運用及び保守に関する新Q. と,これ
に基づく2件の新Rep. を提案したものであるが,残念
ながら採択されるに至らなかった。即ち,英,仏,米,
ソ連の代表からコメントがあったので,日本代表は議場
の内外で局面打開のため努力した。しかし米代表の反対
が固く,このような結果に終わった。
Doc. 4/265は,サイトダイバーシチに関するもので,
鹿島局及び平磯局のTDMAシステムに適用された最先
端のディジタル技術を紹介したものである。また,Doc.
4/267は,鹿島局でBSにより行った,上り回線の電力制
御の実験結果を述べたものである。これら二つの文書は,
審議の結果,共にRep. 552の改訂に反映された。
その他,特記すべきことは,(1)地球局のアンテナパタ
ーンの設計目標値に関する新勧告案が,インドの保留,
中国のコメント(適用年次は総会で決めるべきである)
付きながら採択されたこと,(2)CSのアンテナパターン
について,その実測データが先の中間会議でRep. に取
り入れられたが,説明文との間に矛盾があることが分っ
て,今会合で訂正したこと,(3)地球局アンテナ天空温度
の仰角特性について,西独からの寄与文書を当所の指摘
で修正したこと,(4)CS実験でも使用されている小容量
局について,従来のRep. から分離し新Rep. が作成され
たこと,(5)WARC-Spaceについて,IWP4/1が
中心となって準備作業を行ってきたところ,一応の成果
を得たので,IWP4/1は今後,軌道有効利用に関す
る専門家グループに戻ることとなったこと,(6)固定衛星
業務ハンドブック(MSFS)について,先の中間会議
以来関係者により作成準備がなされてきたが(当所は伝
搬データを提供),今会合で草案を審議し,今後の発行手
続きを決めたこと等である。
SG5(非電離供覧内伝搬)
日本から12件の寄与文責を提案し,当所からは,ブラ
イトバンド高度の地上気温依存性,降雨減衰の周波数ス
ゲーリング,衛星地上間伝搬データなどに関する4件の
寄与文書を提案し,いずれも貴重なものとして,関連テ
キストの改訂に反映された。
IWP5/4(周波数帯分配用世界地域区分に関す
る技術・運用上の研究)においては,5月に会合を開き,
新区域の設定はメリットが少ないように思われるという
結論をSG5最終会議に提出した。これを受けて,本総
会では,この報告を第15回CCIR総会に提出し,今後
の作業は同総会の決定に委ねることとし,IWP5/4
を廃止した。
SG5では,重要な項目はIWPで事前に検討する傾
向が強くなっている。伝搬推定法はIWP5/2が担当し
ているが,その担当分野があまりにも広がりすぎたとし
て,地上の放送・移動伝搬を担当するIWP5/5が新設
された。議長には,フランスのBerthod氏が選出され,
日本を含む12か国が参加した。
長年懸案であった降雨減衰推定法について,一応の合
意が得られ,降雨気候区分も全面的に改訂された。
また,無線通信規則との不整合,関連Report間の不
一致が問題となっていた干渉に関するテキストが修正さ
れ,統一のとれたものとなった。
SG6(電離媒質内伝搬)
日本から4件の寄与文書を提案し,当所からは,電離
層観測衛星(ISS-b),国際電離層研究衛星(ISIS),
及び技術試験衛星U型(ETS-U)を用いた観測デー
タの解析結果に関する3件の寄与文書を提案し,いずれ
も有用な情報として,関連Reportに採録された。
IWP6/12の成果に基づいて,1984年に開催を予定され
ている短波放送に関する世界無線通信主管庁会議
(WARC-HFBC)のための実用的短波電界強度計算法が
まとめられ,新Reportとして採択された。また,この
Reportが1984年WARC-HFBCで用いられるのに最
適なものであり,更にIWP6/12は,次期中間会議
までに,精度その他の検討を続けて,その結果を中間会
議に報告すべきであるとの新Resolutionが採択された。
IWPの大幅な見直しが行われ,従来11あったIWP
のうち,その任務を遂行完了した,あるいは,その活動
が不活発になっているIWP6/3,6/4,6/9,6/10,
6/11の五つが廃止された。
なお,最高利用可能周波数(MUF)の定義が改訂さ
れ,従来のstandard MUFとclassical MUFとを合せ
て,basic MUFなる言葉が造られた。これは伝搬上純
粋に決まるMUFであり,運用上決まるOperational MUF
と対比して用いることとなった。
SG7(標準周波数と報時信号)
日本から4件の寄与文書を提案し,当所からは,放送
衛星を用いた時刻・周波数分配及び平均原子時の安定度
に関する2件の寄与文書を提案し,いずれも有用なもの
として,関連Reportに採録された。
IWP7/4の成果に基づいて,衛星を用いた時刻信号
と標準周波数の分配に関する新勧告が採択されると共に,
従来三つのテキストに分散していた人工衛星を介しての
時刻信号と標準周波数の分配に関する記述が一つのテキ
ストにまとめられ,使い易くなった。また,静止気象衛
星を用いてタイムコードを分配することの有効性を述べ
た新Opinion案は,ほぼ原案通り採択された。これにつ
いて,日本から,タイムコードに加えてレンジングシグ
ナルの追記を主張したが,提案の有用性については理解
されたものの,レンジングシグナルは衛星システムには
既存の情報であるから,殊更記載すべき事項ではないと
して受け入れられなかった。
中間会議において議論を呼んだ時刻同期に影響を及ぼ
す相対論的効果の問題は,1980年9月に開催された秒の
定義に関する諮問委員会(CCDS)で引き続き議論さ
れた。この結果と,米国からの提案を基にして,テキス
トの大幅な改訂が行われ,内容が最新のものになった。
SG8(移動業務)特別会議
遭難安全用の電話,ディジタルセレコール(DSC),
狭帯域直接印刷電信(NBDP)に関する日本のチャネ
ル配列案は,SG8最終会議にも既に提出され,米国案
と共に採択された。これを基に審議が進み,結論として,
2案とも技術的に可能であるが,日本案は将来NBDP
の割当周波数を変更する必要がないので運用上の利点が
あるとの言及がなされた。
2182kHzのSSB化については,日本などの意見を取
り入れて,SSB(J3E)は技術上の利点はあるが,
将来の全世界遭難安全システム(FGMDSS)の実施
前にSSB化すると,既存の聴守受信機の取替が必要と
なるので,SSB化のスケジュールはFGMDSSへの
移行計画に依存することとなった。
非常用位置指示無線標識(EPIRB)の将来の利用
と特性に関して,CCIRにおける衛星EPIRBの勧
告は次会期(1982−86)の最終会議に作成される見込み
であるので,1983年のWARC-Mobileで技術運用特性
を勧告するのは時期尚早であるとされた。また2182kHz
を用いる将来のEPTRBは,CCIR Rec. 493-2(MODF)
に従うべきであり,121.5MHz及び243MHzを
用いるEPIRBの信号特性はICAOの基準に従うべ
きとされた。
SG 10-11(放送衛星)
SG10-11合同会議は,録音・録画(10-11R)及び放
送衛星(10-11S)の両分野を対象に,先の中間会議と
同様,SG10,11とは区別して開かれた。この報告では,
10-11Sについて記すこととする。10-11Sへの日本か
らの寄与文書は9件,内当所からのものは表に示したよ
うに5件で,いずれもテキストに反映された。
当所の寄与文書は,1件を除いて直接BS実験と関連
しており,特にDoc. 10-11S/114は,諸外国の要請
に応えてBS実験の結果を総合的に報告したものである。
フィーダリンクの電力制御については,日本の寄与文
書及び携行資料,並びにEBUの遅着文書を基に活発な
討議が行われた。そして電力制御のメリット,デメリッ
トがあげられ,その有効性については今後の検討が必要
とされた。SG4においては,上り回線の電力制御は有
効としているのと対照的である。なお,BSによるフィ
ーダリンク電力制御の実験結果は,10-11Sのテキスト
に取り入られた。
BSの姿勢制御については, SG2にも提出された文
書をもとに,10-11Sのテキストに取り入れられた。そ
の際,ヨーの制御に使用するMECO
(Monopulse sensor and Eearth sensor Combination)
方式に関連し
て,外国代表のコメントにより, BS衛星の直下点方向
と鹿島局方向とのなす角が約7°である旨,加えられた。
前記のように,放送衛星は先の中間会議からSG10,
11とは別個の場で審議されたが,今会合ではこの方向
がより明確になった。即ち,放送衛星に関するQ. 2件,
S. P. 15件として再編成された。ただし, この中には内
容的にも新しいS. P. ZL/10-11も含まれている。これ
は仏提案をもとに,放送衛星のTT&C信号,RF特
性試験信号を研究することとしたものである。
WARC-Spaccについては,先の中間会議で設けら
れたIWP10-11/1が報告書を提出してきた。その内
容は,また,IWP4/1の報告書の一部を構成してい
る。今会期中の10-11Sは,時間不足のため,十分な審
議ができなかったので,IWP10-11/1は今後も存続
させ,報告書改訂の作業を行うこととされた。
新しくTWP 10-11/3が今会期中に設けられ,各地
域毎の,できれば世界規模の,地上又は衛星テレビジョ
ン回線における複数音声信号の統一基準について研究す
ることとなった。そして日本もこのIWPへの参加を表
明した。また,このIWPの設立にも関連して,ディジ
タル音声方式,多重方式,変調方式についてRep. の作
成及び改訂がなされた。
あとがき
今最終会議は,79日間にわたって全SG会議及びSG
8特別会議が開かれたため,日本から51名の代表団が参
加し大いに活躍した。当所からは,栗原所長が首席代表
として出席し,古濱が会議前半のSG5,6,7,8を
中橋が会議後半のSG2,4,10-11Sを担当した。1980年
の中間会議においては, SG4,10-11Sに対し当
所から代表を派遣できなかったが,今回はこれらのSG
もカバーすることができた。
どのSGでも共通的なことであるが,ディジタル技術
に関する問題が脚光を浴びており,今後この今野の寄与
が期待されている。IWPについて言えば,その活動が
SG会議の審議方向を決める場合が多く,IWPの段階
における寄与が今後共重要であると思われる。
SG4の審議最終日に,CCIR事務局のDr. Maoが
今期会合を最後に引退することが披露され,1949年以来
の氏の活躍に対し,Kirby委員長から感謝の言葉と記念
品が贈られた。
今期会合は,日本の暦の上で丁度秋に当たり,会議の
初めの頃は,残暑の中,好天に恵まれ湿度が低く快適で
あった。名物のレマン湖の大噴水は,9月末までは毎日,
10月に入ってからも晴天の日には眺められた。ジュネー
ブだけでなく,スイス各地の花飾りも,旅行者の目を楽
しませてくれた。ジュネーブのコルナウァン駅は地下街
の建設工事中であったが,その後ほぼ完成した由である。
今回の会議参加については,準備段階及び会議開催中、
種々の面で所外,所内の関係各位にお世話になり深く感
謝しています。
(所 長)
(調査部長)
(超高周波伝搬研究室長)
久保田 文人
はじめに
表 IEC/TC12の構成
トブロブニク会議の概要
SC12F会議には10か国20名の代表が集って開かれた。
議題はPublicationの原案である14件の幹事国文書で,
これに対し各国から77件の意見文書が寄せられた(日本
からは7件提出した)。会議ではそのうちの7件の原案に
ついて審議したが,概略は次の通りである。
●AM,FM及びSSBのアンテナ内蔵型受信機の輻射
及び測定治具での測定法−ほぼ完成し,「6か月規則」
に従って各国から文書による賛否の投票手続をとること
とした。
●NADレポート:インパルス雑音による受信機性能の
劣化度評価法−すでに完成しているNAD(雑音振幅
分布)測定法と合わせて,IECレポートとして発行す
ることが決った。
●選択呼出装置のRF測定法−改訂作業を行ったが完
成に至らず,次回送りとなった。
続いて開かれたWG(Working Group)は,幹事国文
青の原案作成を任務としており,日本からは先の中村氏
と筆者がメンバーに登録されている。今回は技術的に興
味深い項目が審議された。概略は次の通りである。
○ストリップライン測定治具−ドイツから報告され,
標準測定法の中へ取入られることになった。
○ランダム・フイールド測定法−日本から提案した。
従来の輻射測定と異なった考え方が理解され,引き続き
寄与を求められた。
○データ伝送用送信機及び受信機の測定法−各国が分
担して執筆した草案を審議し,幹事国文書原案の作成を
行った。
○SSB送信機隣接チャネル電力測定法−議論を行い,
英国が分担する原案作成のガイダンスを示した。
おわりに
ドブロブニク会議では,最も注目していたAM,FM
送信機隣接チャネル電力測定法が未審議のまま次回送り
になるなど不満な点もあったが,永年にわたって検討さ
れてきた問題に結着がつけられたことは評価されよう。
SC12Fはこの10年間の活動で,アナログ通信方式の
測定法はほぼ完成させてきた。今後は最近急速に実用化
が進行しているディジタル通信方式を主として取扱うこ
とになる。わが国はこの分野で世界のトップクラスの技
術水準にあり,今後は積極的にその成果を委員会に寄与
し,国際的な技術水準の向上に協力していくことが必要
であると考えられる。
最後に,今回の会議出席の機会を与えていただいた関
係各位に対し深く感謝致します。
(通信機器部通信方式研究室研究官)