所長就任にあたって


所長 若井 登


 4月1日付で電波研究所長を命ぜられました。この機 会に日頃から当所の発展のためお力添えを頂いている産 業界,学界及び官界の各位,並びに電波関係及び当所の 先輩の諸氏に厚くお礼申し上げますとともに,今後も相 変らぬ御支援の程をお願い申し上げます。
 さて今年は,当所が昭和27年8月1日に郵政省の付属 機関として発足してから満30年にあたります。更に遡る と逓信省電気試験所平磯出張所を源流とする現平磯支所 は満67年,文部省電波物理研究所を原点とする小金井本 所は満40年を経たことになります。この歳月の流れの中 にあって,社会が当所に期待するものあるいは当所が果 すべき役割は,当然のことながら大きな変遷を遂げてき ましたが,電波研究を取囲む昨今の情勢を考えるとき, 今年を中心とする前後数年はいろいろの意味で転換の時 期にきているといえます。すくすくと天に向って伸びる 竹に節目があるように,将来の発展のための活力と強靭 な反撥力を得るためには,この転換期を当所の歴史の中 の堅い節目とするよう,腰を据えて諸事に対処していか なければならないと考えています。
 昭和57年度の研究計画の概要については,すでに栗原 前所長による「新年のごあいさつ」(本ニュースNo. 70) の中で述べられていますが,本号は年度の初頭にもあた りますので,多少の重複は許して頂いて,研究プロジェ クトの紹介と問題点を記してみたいと思います。
 当所の総予算額は,昭和53年度の60億円をピークにし て年々減少し,今年度は44億円というゼロシーリングな らぬ対前年度比3億円減という極めて厳しい状態になっ ています。その原因としては,ISS(電離層観測衛星), ETS-U(技術試験衛星U型),CS(実験用中容量静止通 信衛星),BS(実験用中型放送衛星)及びECS(実験 用静止通信衛星)用の一連の地上施設の整備完了,ECS 計画の挫折,衛星の機能低下による実験規模の縮小等が 挙げられますし,更には世界的な景気の動向と国の財政 等の諸要因が重なり合った結果大きな落ち込みになった といえます。しかし減少の理由は何であれ,電波が社会 生活の中に占める役割は日増しに増加し,それに伴って 当所の責任も増加しています。例えば最近急速に増えて いる国内諸機関との党書交換による共同研究の設定,国 際的な共同観測,共同実験の実施,研究資科及び研究者 の交換は,その表われであり,また当所の持つ技術が評 価された結果でもあります。研究費の減少は,当然研究 計画の推進に支障をきたすものですが,このような社会 の期待にそむかないよう,創造性の豊かな発展の余力を 蓄えた研究所に育てていかなければならないと考えてい ます。
 人工衛星を利用した無線通信及び宇宙科学の研究が, 今後とも当所に与えられた使命達成のための中心的課題 であることには変わりありません。しかし,郵政省が提 案し,中心となって運用し研究を進めることのできる衛 星を今後も引続き確保していくことは,諸般の情勢から 非常に難しくなってきています。したがって当所におけ る研究の主眼は,将来の多様なニーズに対応する,基本 的または応用的かつ先行的な宇宙通信技術の開発に置く べきだと思います。この意味では当所で目下進めている, マルチビームアンテナ,衛星を用いた捜索救難システム, 航空,海上および陸上移動業務用衛星の開発に関する研 究,衛星を利用した周波数及び時刻の分配技術の研究, 将来の高度な衛星通信及び衛星放送技術にかかわる研究, 宇宙局の監視技術に関する研究等を更に推進する必要が あります。
 次に当所が長い伝統をもつ大気科学の研究,特に電離 圏の観測と電波予報・警報の発令業務について述べます。 昭和55年の3月に「電離層観測業務の改革に関する試案」 (本ニュースNo. 56)についての解説記事が掲載されてい ます。その中で,地方電波観測所の中心的業務となって いる電離層定常観測は,大気科学研究のための世界的ネ ットワークの一端を担うと同時に電波予警報の適中率向 上を最終目的とする電離圏研究の一環として行われるべ きことが述べられています。そして電波の予警報業務は, その対象をVLFからSHFにわたる広い周波数帯にまで 拡張して,より広い電波ユーザ層の需要に応えるべきこ とを示唆しています。このような結論は確かに当所の電離 圏研究態勢に活を入れる大変好ましい方向なので,当所 内にある電波予警報将来計画検討会で更に具体的方策を 練ると同時に,前述の試案に示された斜め入射観測網に よる短期予報及びイオノグラム自動読取りシステム開発 にも力を注ぐこととしています。
 昭和57年1月1日がら満4年間はMAP(中層大気国際 協同観測計画)期間として,地上約10qから120qにか けての大気層に各種の探求のメスが入れられます。当所 もこの計画に積極的に参加し,特に下部電離圏の物理・ 構造を究明して,電波とのかかわり合いを明らかにして いく予定です。
 長い伝統をもち,当所の看板ともなっている研究業務 の一つに標準電波の発射とその基になる周波数標準の研 究があります。現在の短波及び長波によって放送されて いる標準周波数と時刻は,一般に広く利用されています が,電離層を仲介することによる精度の限界,近隣諸国 からの電波との干渉などに制約されるため,当所では可 成り以前からテレビジョンや人工衛星を使った新しい分 配方式を研究してきました。今年もこれらを推し進める と共に,より高安定度なセシウム一次標準器の整備,ミ リ波・赤外領域での標準発振器の開発と,関連する計測 技術の確立に努めることとしています。
 当所が無線機器(基本的な測定器,航行及び人命の安 全にかかわる機器等)の基準確保と性能向上のため,国 としての型式検定試験を行っていることは御存知の通り です。しかし,最近のように電波の利用が社会生活に深 く浸透し,無線機器の種類,性能が多様化してくると, 検定の対象,機器も急激に増えてきています。その上無 線機器も他の商品同様,国際的流通が高まってくると, 型式検定制度も国際的な視野とレベルに立って運用しな ければならないので,当所としてもそれに適わしい実力 と態勢をもって対応していかなければなりません。
 当所ではかねてから年次計画をたて検定用施設の整備 拡充を行ってきていますが,それを上廻わる速さで進み つつある電波利用にどのように対処していくかは当面の 大きな課題です。
 電波は通信の他に,リモートセンシングにも,またエ ネルギーとしても利用することができます。電波が物質 から受けた影響を検出し,離れたところにあるその物質 の状態・性質を知るのがリモートセンシングですが,こ の面での電波の利用は更に進めなければなりませんし,開 発すべき電波技術は山積しています。今年度も合成開口 レーダに関する研究を継続すると共に,散乱計,放射計, 降雨レーダ,及び多周波ミリ波送受信機などを駆使して 降雨のセンシングを行い,これらの技術を発展させて更 に電波を用いた降雪のセンシングも行いたいと考えてい ます。またラスレーダ(電波音波共用上層風隔測装置) やレーザを用いた大気の状態及び大気中に含まれる有害 物質の検出の研究は,引続き環境庁から経費的支援を得 て実施します。最近にわかに注目されているのが海象の リモートセンシングです。中波レーダによる海洋波浪や マイクロ波による海水のセンシングは可成り前から当所 が持っていた技術ですが,それらに改良を加え,科学技 術振興調整費による研究項目への参加において国際的な 協力研究の一環として推進する計画をもっています。
 電波の有効利用を図るための中心的課題は,周波数資 源の開発です。ミリ波帯領域を実用するための開発研究 は更に進めますが,すでに十分な量の伝搬データが取得 され,伝搬特性の解析が進んでいる帯域から,逐次実用 回線の設計に資する技術基準を作成していく予定です。 また既利用周波数帯の開発にかかわるスペクトル拡散地 上通信方式の研究は着々と成果があがり,拡散方式間の 比較検討も終っていよいよ実用システムに挑戦する段階 になりました。また,この分野に属するディジタル移動 通信方式の研究は,ゼロシーリングの枠組みの中にあっ て,新規項目であるにもかかわらず予算が認められまし た。研究のいのちともいうべきこの新しい芽を当所とし ては種々の制約を乗り越えて育てていく所存です。
 さて当所の最も大きな研究項目に成長したVLBI(超 長基線電波干渉計)計画は,昭和58年度末の日米共同実 験に向けて着実に歩を進めています。本年5月に東京で 開催されるIAG(国際測地学協会)学術総会には米国か ら多数のVLBI計画関係者が来日し,情報交換及び討論 を行う予定になっていますし,また当所からも担当者を 約10か月間米国に派遣してシステム開発を促進すること にしています。
 今年度当所が力を入れていく研究項目は他にも沢山あ りますが,紙面の都合で割愛し,最後に当所の長期ビジ ョンについて付言します。
 研究に限らず物事すべて先の見通しが大切ですが,し かしながら的確な将来予測とこれに基づく正鵠を射た方 針策定は非常に難しいものです。例えば将来社会が何を 要求するか,開発すべき技術を支える周辺技術はどこま で発達するか,ニーズに基づく技術開発だけでなく,逆 に開発による需要の発掘という要素はないか等について 予測しなければなりません。光波も含めて電波と名のつ くものならば,より深くより広く探求することを掲げる 当所としては,21世紀の人口までの研究方針を打ち樹て たいものと,目下特設グループを中心に長期ビジョン作 りを急いています。
 以上研究項目という面にだけ光をあてて,そのあらま しと本年度の方向づけを述べました。しかし当然のこと ながら,水面に現われる大きな研究成果を生みたすため には,その何倍もの水面下の強力な支えが必要です。こ の意味で研究を直接推進する研究部にだけでなく,間接 的に支援する企画部,総務部に期待するところ極めて大 きいものがあります。私も微力ではありますが,全職員 と一体となって,電波研究所の使命達成という共通の目 標に向かって全力を尽したいと思います。関係各位の御 指導・御鞭撻を切にお願いする次第です。





昭和51年度電波研究所研究計画


 今年度当所が重点的に進める研究の分野として,
(1) 宇宙通信及び人工衛星の研究開発
(2) 宇宙科学及び大気科学の研究
(3) 情報処理,通信方式及び無線機器の研究
(4) 周波数標準に関する研究
(5) 周波数資源の開発
の五つを引き続いて取り上げることとした。
 研究計画の主要な事項を中心として以下に簡単に記す。
 CSについては,衛星の有効利用を図り,基本実験(各 種伝送方式の実験研究等),応用実験(コンピュータネッ トワーク実験,サイトダイバーシチ通信実験等)を行 う。なお,CSの応用実験については,外部機関が参加す る実験項目(報道用各種情報伝送実験,国鉄等の業務用 衛星通信システムに関する実験等)に対して所要の協力 を行う。
 BSについては,すべての実験を終了したので,管制/ 開発実験報告書のとりまとめを行う。
 衛星を利用した航空・海上通信技術の研究開発では, Lバンド電波の海上伝搬実験を行うと共に,ETS-X計 画との整合をとりながら計画をすすめる。
 衛星用マルチビームアンテナについては,昨年度迄の 素子の研究開発の成果をもとに,アレーアンテナシステ ムの開発を行う。
 超長基線電波干渉計(VLBI)システムについては,1983 年からの日米共同実験を目標に,ハードウェアの整備, ソフトウェアの開発を引き続きすすめる。なお,国土地 理院のVLBIシステムに対して,所要の技術協力を続け るとともに,緯度観測所とはVLBIシステムに関する情 報を相互に交換する。
 周波数資源の開発については,40GHz以上の電波伝搬 の研究及びスペクトラム拡散地上通信方式の研究を引 き続き進める。またディジタル移動通信の研究を開始す る。なお,従来の研究の間隙となっていたミリ波と光の 中間領域の周波数帯について基礎的研究をすすめたい。
 捜索救難衛星通信システムについては,406MHz帯と 1.6GHz帯において,NOAA-E,MARISAT,INTELSAT-X 等を用いて,非常用位置指示無線標識(EPIRB) の国際実験に参加する。
 今年度予算の新規項目として,中層大気国際協同観測 (MAP,1982〜5年)への参加が認められた。13の観測 研究項目について可能なものから開始する。
 科学技術振興調整費(科学技術庁)により,合成開口 レーダ映像のディジタル処理技術に関する研究等,また 国立研究機関公害防止等試験研究費(環境庁)により, オゾンの三次元分布測定用航空機搭載用レーザ・レーダ の高性能化の研究等をすすめる。
 郵政省からの研究調査依頼事項は,継続11件,新規2 件を実施する。なおNASDAとの間の共同研究4件,技 術協力2件,技術援助2件の他,文部省極地研究所,宇 宙科学研究所,大学・他省庁と共同研究や協力を行う。
 その他の各種研究,業務を研究計画一覧表に示す。

(企画部 第一課)


電波研究所研究計画一覧


 企画部
第一課
●51101 研究・調査の企画及び総合調整
●51102 研究成果の発表及び広報
●51103 研究資科の出版
第二課
●51201 電波科学技術情報管理システムの開発及び特許管理業務
●51202 電波科学技術情報の管理業務
●51203 電離層世界資料センター業務
●51204 国際ウルシグラムセンター及び通信連絡業務
●51205 機械器具の試作及び写真に関する業務
 調査部
●52001 電波技術の将来的動向に関する調査及び研究
国際技術研究室
●52101 電波技術の国際的動向に関する調査及び研究
周波数利用研究室
●52201 周波数利用についての調査研究
電波技術研究室
●52301 電波利用技術の調査及び研究
通信調査研究室
●52405 無線通信技術に関する調査研究
 情報処理部
情報処理研究室
●53122 情報処理ネットワークシステムの研究
計算機応用研究室
●53320 電子計算機による画像情報の高能率伝送と自動処理の研究
計算機研究空
●53401 計算機の運用及び計算機使用の能率化の研究
音声研究室
●53520 音声情報に関する基礎的研究
 電波部
●54001 電波観測所の研究業務に関する総合調整
●54002 地球電波環境に関する諸研究の調整
電波伝搬研究室
●54123 電離層伝搬波の研究
●54124 VHF帯電波遠距離異常伝搬の研究
●54130 ISS-bによる電波雑音観測
電波予報研究室
●54201 電波予報に関する研究
●54202 電離層定常観測
●54203 電離層情報の管理業務
●54210 南極における電波観測
●54220 電離層観測技術の開発
宇宙空間研究室
●54302 宇宙空間諸現象の解析
●54321 宇宙空間の電波計測の研究
超高層波伝搬研究室
●54420 対流圏伝搬波の研究
●54421 40GHz以上の電波利用の研究
衛星データ解析研実童
●54501  ISSデータの処理及び解析
●54520 人工衛星データによる電波科学研究
 衛星通信部
第一衛星通信研先
●58120 衛星通信システムの研究
●58121 CS計画による実験研究
第二衛星通信所究室
●58221 衛星放送システムに関する研究
第三衛星通信研究室
●58321 衛星応用の研究
●58322 衛星通信用アンテナの研究
 衛星計測部
第一衛星計湖研究室
●59120 リモートセンシングデータの解析と利用に関する研究
●59121 電波リモートセンシング技術に関する研究
第二衛星計測研先史
●59220  ISS及びロケット等による上層大気の研究
●50221 スペースチェンバーによる電離圏プラズマと組成の研究
 通信機器部
通信方式研究室
●56126 ディジタル通信方式に関する研究
通信系研究室
●56320 スペクトラム拡散地上通信方式に関する研究
標準測定研究室
●56429 受信障害用自動測定処理システムの開発研究
●56430 電磁環境に関する研究
物性応用研究室
●56526 レーザを利用した飛しょう体の高精度姿勢決定に関する 研究
●56527 地球環境計測へのレーザ応用の研究
海洋通信研先,
●56621 海洋通信及び観測技術の研究
●56622 衛星による小型船舶・航空機との通信の研究
機器課
●56701 測定器の校正
●56702 型式検定
●56725 無線機器試験法の研究
 周波数標準部
●57021 時間標準に関する総合調査
●37022 衛星による標準供給及び同期に関する研究
●57023 VLBI計画に関する調整と調査
原子標準研究室
●57120 水素原子標準の研究
●57122 新方式原子標準の研究
●57125 セシウム原子標準の研究
周波数標準研究室
●57220 周波数標準値及び原子時の決定
●57222 周波数精密計測の研究
標導電波課
●57301 標準周波数と標準時の通報
●57320 実用標準の設定
●57322 標準電波の利用と開発に関する研究
第一特別研究室
●61120 電離圏不規則性の研究
第二特別研究室
●62124 電波音波による対流圏の探査
●62125 電波に関連する太陽・地球環境の研究
第三特別研究室
●63120 電磁波に関する理論的研究
●63121 電磁波の伝搬に関する理論的研究
 鹿島支所
衛星管制課
●67001 ISS-b,ISISの管制
●67002 CSの管制
●67021 衛星管制に関する調査・研究
第一宇宙通信研究室
●67121 衛星電波伝搬並びにリモートセンシングに関する実験研 究
第二宇宙通信所究室
●67201  CSによる衛星通信の実験研究
●67221 衛星通信・放送システムの開発に関する実験研究
第三宇宙通信研究室
●67320 VLBIシステムの開発とその応用研究
●67601  CS(実験用中容量静止通信衛星)実験実施センター
●67605 VLBIシステム研究開発センター
 平磯支所
超高層研究室
●68101 電波警報業務
●68102 電波警報に関する研究
太陽電波研実量
●68201 太陽電波及び銀河電波の観測と研究
●68222 太陽及び衛星の電波に関する実験研究
稚内電波観測所
●69101 電離層定常観測
●69120 稚内における研究観測
秋田電波観測所
●69201 電離層定常観測
●69220 秋田における研究観測
犬吠電波観測所
●69301 VLF電波の定常観測
●69320 犬吠における研究観測
山川電波観測所
●69401 電離層定常観測
●69420 山川における研究書観測
沖縄電波観測所
●69501 電離層定常観測
●69520 沖縄における研究観測
 共同研実
J-121  CCIR等対策委員会
J-125  電離層観測衛星研究運用本部
J-127  南極観測本部
J-131  CS実験実施本部
J-132  BS実験実施本部
J-133  宇宙開発計画検討委員会
J-134  電子計算機運用委員会
J-136  宇宙開発研究調整委員会
J-137  VLBIシステム研究開発推進本部




図書運営の改善について


  はじめに
 電波研究所における図書の管理と利用については,昭 和52年に全所的規模でアンケート調査を行い,その結果 に基づいて貸出基準を作成し,運用してきたが,この基 準に対して利用者から専門図書の自由な購入と,その長 期貸出しについて強い要望がなされた。この機会に図書 の利用と管理に関して全般的な見直しを行うこととなり, その作業母体として“図書利用と管理の改善”のための 臨時検討委員会(以下「委員会」と略す)を設置し,改 善方策について検討を行ってきた。本委員会は企画部長 が委員長となり,各部から1〜2名の委員を選出し,企 画部第二課が事務局を担当した。会議は昭和55年12月以 降,ほぼ月1回開催され,本年2月その結論が得られた ので,そのうち主なる改善策について報告する。
  審議概要
 委員会としては審議を進める前に,その対象を明確に するため,各部に依頼して図書の利用と管理の改善に関 する要望事項の調査を行い,その結果を次の8項目に集 約して順次検討を行った。
 (1) 試験研究費による専用図書の購入について
 (2) 図書室移転に伴う要望事項について
 (3) 外部情報の利用について
 (4) 図書の利用と新着図書等の周知について
 (5) 図書管理業務の電算機処理について
 (6) 図書の購入について
 (7) 図書貸出の方法について
 (8) その他
 上記の各項目に関して,従来のシステムと異なる新し い方策を講ずることとなった事項もあり,又現状どおり としたものもあるが,ここでは主な改善策を二,三とり 上げ,その概要を説明することとする。
 1. 専用図書制度の発足
 従来,所蔵図書の貸出しについては,そのすべてが所員 の共通図書であるとの考え方で運用されてきたが,本制 度はこの共通図書とは別に専用図書という新しい粋を設 け,研究業務遂行上専有することを必要とする図書を課 又は研究室の経費で購入できることとし,貸出期間につ いても1年毎の更新を認め,長期貸出しを可能とした。
 しかしながら,本制度には「特定の入がその図書を専 有し,他の人の利用が極めて制限される」「図書の購入に 歯止めがないと,無制限に増加し,図書室本来の機能を 失う」等の危倶もあり,また本制度がこの委員会にとっ ては最も多くの審議を重ねた重要テーマであることから, 一定の経過期間を置いて,その見直しを行うこととした。
 2. 新図書室移転に伴う改善
 四号館へ移転前はスペースが狭隘なため,旧図書室, プレハブ書庫及び南極事務庁舎の3か所に全図書を分散 収容していたが,新図書室では1階に雑誌,辞書及びハ ンドブック類,2階に書籍を一括収容することとし,特 に雑誌については集約型電動書架を設置し,スペースの 有効利用を図った。複写機についても図書室の内部に専 用機を設置し,利用手続も簡略化した。又,雑誌展示棚 を増設する等,かなりの設備の充実も図っている。
 3. 代本板システムの採用
 図書借用の際,従前の貸出手続に加えて代本板方式を 導入することとした。本方式は図書を借用する人にとっ ては,余分な手数が必要となるが,図書を捜す人にとっ ては,所蔵全書籍の所在が判るため非常に便利であるこ とから,図書室でその準備を行い,新年度から試行する こととなった。
  おわりに
 上述した3点以外にも,いくつかの改良点が挙げられ るが,これらの詳細については本年3月提出した“図書 利用と管理の改善に関する報告書”を参照願いたい。と もあれ,各要望事項について利用者側と管理担当者側の 双方が,それぞれの立場を理解し合った上で現状を改善 するための最善に近い方策を見出したことは,委員長は じめ各委員並びに事務局の並々ならぬ努力のお蔭と感謝 している。今後はこれらの改善策を円滑に実施するため, 努力することとなるが,これが当所の研究成果の向上に 少しでも役立つことを期待している。

(図書利用と管理の改善のための臨時検討委員会)


短   信


第27回前島賞受賞


 当所第三特別研究室小口知宏主任研究官は,第27回前 島賞を鈴木逓信協会会長から3月15日に受賞した。本賞 は逓信事業の創始者前島密の功績を記念しその精神を伝 承発展せしめるために設けられ,逓信事業の進歩発展に 著しく貢献する発明・改良または著述をした者に贈られ るものである。本賞は昭和30年度に創設され,小口主任 研究官が当所から9人目の受賞で昭和33年以来のもので ある。
 表彰の対象となった研究は「降雨によるマイクロ波回 線交差偏波歪の発生と予測に関する研究」である。周波 数有効利用の観点から,マイクロ波帯の地上あるいは衛 星回線において同一周波数の直交する2偏波に別々の情 報をのせ,実効的に電波を2倍に利用しようとする場合 に,実用上最大の問題点は,雨滴による電波の交差偏波 成分の発生に基づく混信であり,これは雨滴の形が等方 的でないこと,対称軸が垂直から傾くことに起因してい る。小口主任研究官の10余年の努力の結果,変形雨滴に 対する散乱問題の数値解が得られ,現象の厳密な解析が 可能となった。この研究結果は直交偏波間の混信の理論 的予測が広い周波数帯及び種々の降雨条件にわたって適 用できることから衛星通信回線における国際的設計基準 として確立されている。また混信量の予測のほか,混信を 受信回路系で補償する方式についても理論的検討に基づ く補償装置が内外で製作され,その成果が国際衛星通信 インテルサットX号系において実証されている。このよ うに本研究が無線通信分野において世界の最先端をいく 高度の研究として極めて高く評価されている。



昭和57年度科学技術庁長官賞受賞


 福島 圓第二特別研究室長は,科学技術庁の研究功績 者として,昭和57年度の同長官賞を4月16日に受賞した。 本賞は,昭和50年に創設され,科学技術に関する優れた 研究で,しかも将来実用に供される可能性のある研究に 対し贈られ,毎年約40人が受賞している。当所からは福 島室長が5人目の受賞者である。
 表彰の対象となった研究テーマは,「電波音波複合利用 による気温等高度分布の遠隔測定方法の研究」である。 本研究に係る装置はラスレーダとも言い,パルス音波発射 器とドプラレーダを組合せたシステムで気温及び風向風 速高度分布を求めることができる。
 本研究は,このラスレーダの特性を明らかにし,従来 不明確であったラスレーダ測定における不安性要因を解 明したこと,並びにアレー状に配列した多数の受信ア ンテナと受信機によってラスレーダ反射電波を確実に捕 捉する新しい測定方法を開発したものである。このラス レーダは,大気汚染関連の事前環境評価をはじめ各方面 にその応用普及が期待される。
 なお,本研究は,環境庁の環境汚染物質に係る計測技 術の高度化に関する総合研究の一環として昭和52年度か ら実施しているものである。



第6回電子通信学会学術奨励賞受賞

 昭和56年度総合全国大会に講演発表した浜本直和研究 官と水野光彦技官の両氏が電子通信学会学術奨励賞を3 月27日(土)に受賞した。両氏の受賞テーマ及び受賞理 由は次のとおりである。
 浜本 研究官 (鹿島支所第二宇宙通信研究室)
  受賞テーマ「スペクトラム拡散通信方式における非 直線中継器の影響」
  受賞理由  4相スペクトラム通信方式の有効性を 理論とともに,CS実験で実証した。
 水野 技官 (通信機器部通信系研究室)
  受賞テーマ「周波数ホッピング方式のフェージング 下における誤りのランダム化の効果」
  受賞理由  周波数ホッピング方式を陸上移動通信 に用いた場合,都市内でのフェージング によるバースト誤りをランダム化でき, これは従来行われているインターリーブ の技術と等価であることを理論的に示し た。
 学術奨励賞は米沢賞にかわるものとして昭和51年度か ら新設され,全国大会規模の講演発表のうちで特に若い 研究者を対象にすぐれた講演に対して毎年受与される。



宇宙開発計画決定さる

 昭和57年第3回宇宙開発委員会定例会議が3月17日に 開催され,宇宙開発計画が決定された。当所に関連する 改定部分は,実験用中型放送衛星(BS)の運用が削除さ れたこと,通信衛星3号(CS-3)の開発研究が追加さ れたことである。CS-3については,「通信衛星2号 (CS-2)による通信サービスを継続し,また,増大かつ多 様化する通信需要に対処するとともに,通信衛星に関す る技術の開発を進めることを目的とする通信衛星3号 (CS-3)について開発研究を行う」となっている。
 その他,海洋観測衛星1号(MOS-1)の打上げが昭 和59年度から昭和61年度に変更された。また,「H-Tロケ ット(2段式)試験機のペイロードに,測地衛星1号 (GS-1)の開発研究の成果を活かして測地実験に供し うる機能を付与する」と変更され,GS-1の開発研究は 削除された。



CSによるFM-SCPC通信実験を沖縄で実施

 CS実験実施本部では,鹿島CS実験実施センターと協力 してCS実験の一環として,本年3月16日〜19日の間1 mφアンテナの車載局を用いたFM-SCPC通信実験を那覇 市の沖縄郵政管理事務所構内において実施した。
 本実験の目的は,CS-Kバンドのビーム・カバレッジ外 にある沖縄において,回線設定を行う場合の技術的問題 点を把握し,実用衛星通信時の基礎資料を得ることにあ る。
 実験の概要は,1mφ車載局(空中線電力17W)を上記 管理事務所に移動し,鹿島主局との間にCSを用いた衛 星回線を設け,FM-SCPC装置を用いて電話の通話試験 を行った。回線設定では,鹿島送信電力31.2dBm,沖縄 最大送信で鹿島→沖縄C/No約60dB・Hz,沖縄→鹿島C /No約56dB・Hzであり,通話試験では良好な結果が得ら れた。
 なお,実験は3月19日午前中に公開され,102名の見学 者があった。



電波音波による対流圏の探査実験

 第二特別研究室では冬季における上層風ラスレーダの 性能評価を目的に標題の実験を去る12月14日〜18日ま での5日間,本所第10棟跡地,ラスレーダ実験場におい て実施した。
 主な実験目的はヘテロダイン方式により最低受信感度 -140dBmと格段に改善された受信機を使用したラス レーダと低層ラジオゾンデ及び測風気球との同時測定で ある。天候に恵まれ所期の比較データを取得することが できた。
 ラスレーダによる上層風測定には特に問題はない。気 温測定については,現在のところ,ラスレーダ受信信号 をFFT周波数分析器により分析したスペクトラムの最大 強度をもつ周波数を音速によるドップラーシフト周波数と している。しかし,低高度からのラスレーダ反射信号には, ドップラー周波数成分のほかに使用音波周波数成分が含 まれていることが,高感度改造受信機を使用した今回の 比較実験により明らかにされた。ラスレーダ開発におい ては,このドップラー周波数成分分離が最終課題である。



「電波研究所季報・英文論文集原稿作成の手引」を作成

 当所には,従来「電波研究所季報・英文論文集原稿作 成要領」があったが,時間的経過によって多少修正すべ きところが出たこともあり,今回新たに標記の手引を作 成した。作成にあたって,特に次の点を注意したもので ある。@電波研究所季報及び英文論文集の記事の分類を ある程度明確にしたこと。A出版委員によって行われる 査読の方法を掲載したこと。これは,あらかじめ査読方 法が分かれば論文が書きやすいからである。B時間的経 過によって変化するものを,付録として添付したこと。
 本手引に規定する内容は,原稿の書き方に関するルー ルであって,原稿は本手引に従って修正されるので,無 用な手間を省く意味で本手引に沿った執筆が望ましい。 本手引の作成により,出版に要する事務量の軽減が期待 される。筆者各位の御協力をお願いしたい。





第62回研究発表会プログラム
−昭和57年6月9日当所大会議室において開催−

1. 静止衛星VHF電波受信による沿磁力線伝搬実験
  ……………………第一特別研究室   新野 賢爾
2. 超長基線電波干渉計システムの開発
 (1) 計画の概要………周波数標準部   吉村 和幸
 (2) システムの概要………鹿島支所   河野 宣之
3. スペクトル拡散地上通信方式の基礎実験
  ……………………………通信機器部  水野 光彦
4. 実験用中容量静止通信衛星CS(さくら)の実験
  (その6)
 (1) サイトダイバーシチ通信実験
   ……………………………鹿島支所  鈴木 良昭
 (2) コンピュータネットワーク基本実験
   …………………………情報処理部  柿沼 淑彦
 (3) 衛星を用いた高精度時刻比較実験
   ………………………周波数標準部  今江 理人