AMES海上伝搬実験及びフェージング除去アンテナについて


通 信 機 器 部

  はじめに
 航空海上技術衛星(Aeronautical Maritime Engineering Satellite, 以下AMES)計画については,昭和52年度 から関係省庁(郵政省,運輸省,科学技術庁,NASDA) の間で検討が進められ,昭和55年度にはシステム設計 (予備設計相当)まで終了した。しかし昭和57年度予算要 求段階でNASDAは衛星及びバスの開発方針を変更し たため,計画の見直しを余儀なくされた。現在H-1ロ ケット(3段式)初号機(昭和62年度打上げ予定)にAMES ミッション機器を搭載して実験を行う方向で研究が進め られている。
 当所では,AMESをCS,BS以後の最も重要な研究課 題の一つとして取り組んでおり,衛星搭載トランスポン ダの設計及びBBM開発,小型船舶地球局,航空機用アン テナ等移動局設備の開発,電波伝搬実験,バス機器との インターフェースの研究等を行ってきており,衛星開発 へのGOサインを待つばかりとなっている。
 移動体を対象とした衛星通信では,移動体が大型のア ンテナを搭載出来ない事から,アンテナビーム幅が広く なり,多重路干渉によるフェージングが大きな問題とな ってくる。特にAMESは小型船舶,航空機等が対象で あり,アンテナも非常に小さく(直径40pショートバッ クファイヤアンテナ,以下SBF)等,海面反射波との干 渉が問題となる。この観点から当所では,1.5GHz帯電波 (海事衛星用周波数)の海上伝搬実験並びにフェージング 除去アンテナの試作,実証実験を昭和55年度及び昭和56 年度に,模擬衛星装置及びMarisat衛星電波等を利用し て行ったので,その成果の概要を報告する。
  フェージング測定実験
 1. 実験の概要
 1.5GHz帯電波を小型アンテナを使って低仰角で受信 時のフェージング特性を,種々の海象時において測定す るため,実験は自然条件(波浪条件,測定用ブイの設置 可能性等),測定条件(仰角,アンテナ鉄塔及び実験小屋 の設置,電源,交通,通信等)を考慮して福井県三方郡 美浜町の若狭湾で,昭和55年10月及び12月に実施した。 実験用模擬衛星装置を天王山(標高300m)に,小型船舶 地球局装置を,水平距離3800mの海を隔てた対岸の早瀬 海岸(仰角4.5度)に設置し,受信用アンテナ(SBF)は 上下に移動できるようにして海岸の鉄塔に取付けた。又 電波反射点付近の海上に波高観測用のブイを係留し,波 浪データ,受信電力,アンテナ高さ等を計算機に入力し, ハイトパターン,フェージング量等との処理,評価を打 った。

 2. 理論的背景
 海面が完全鏡面の場合のハイトパターンは直接波と海 面反射波の伝搬路差による干渉であらわされる。この場 合,反射波の受信強度は,衛星仰角における海面反射係 数,アンテナ指向性係数,アンテナ高の関数であらわさ れる。海面が完全鏡面でなく一般的な場合,海面の粗さ は電波の波長,海面波高の標準偏差,入射角,散乱角の 関数として表わされる。同一海面状態であっても,電波 の波長,入射角,散乱角によって散乱の様子が異なる。
 3. ハイトパターンの測定
 使用したアンテナは直径40pのSBFであり,ビーム 半値角±17度,利得14.5dB(1.5GHz)である。海面波高 5p(標準偏差)の時のSBFのハイトパターンを図1 に示す。図中の実線はバイトパターン理論値で,フェー ジング幅,ピッチ共実測値と良く一致している。


図1 波高σ=0.05mの場合のハイトパターン

 4. フェージング測定及び累積分布
 アンテナを一定の高さに固定してフェージングを測定 した時の例を図2に示す。この時の波高は7p(標準偏 差)である。フェージング累積分布及び波高分布を図3, 図4に示す。図中の実線は理論値である。この結果フェ ージング分布は理論値とよく一致している。
 荒れた海の場合(標準偏差で74pp-p,約3m)のフェ ージングデータを図5に示す。フェージング分布,波高 分布共に静かな海の場合と同様の分布をしていることが 確認された。これらの測定から波高とフェージング量を 求めたものを図6に示す。大略10dB程度のフェージング が存在することがわかる。


図2 フェージング


図3 フェージング累積分布


図4 波高分布


図5 フェージング特性


図6 40cm SBF 波高に対するフェージングレンジ

 5. まとめ
 海面散乱機構の解明から,海の粗さは,電波の波長, 入射角,散乱角の関数で表わされ,荒れた海と静かな海 では散乱の状態が違うこと,フェージングおよび波高は 両状態とも統計的な分布を持つことがわかった。又波高 の標準偏差が電波の波長と同程度までは散乱は鏡面反射 と見なされ,この反射波を軽減出来ればフェージング軽 減が可能であることが明らかとなった。又5度程度の仰角 では,利得14dB程度のアンテナを使用した場合10dB程度 のフェージシグマージンが必要であることが明らかとな り,何らかのフェージング除去技術が必要であることが 判明した。
  フェージング軽減アンテナ
 前述のように,小型船舶用として,利得14dB,ビーム 幅35度程度の小型アンテナを使用した1.5GHz帯による 海事衛星回線では,低仰角(5〜10度)で,海面反射波 による大きなフェージシグマージンを考えなければなら ない。このフェージングの除去についての方法とその効 果に関する実験を行った。
 1. フェージング軽減の原理
 本方式は,円偏波アンテナ用の90度-3dBハイブリッ ド結合器の特性と,海面のような誘電体によって反射さ れる円偏波の特性を組み合わせたもので,原理的に鏡面 反射によるコヒーレント反射波を完全に除去することが できる。
 (1) ハイブリッド結合器の特性
 2点給電の円偏波アンテナには一般にハイブリッド結合 合器(図7)が使用される。端子T1,T2が円偏波アン テナ素子に接続される。右旋円偏波及び左旋円偏波が入 射する場合出力端子T3には右旋成分が,T4には90度 遅れた左旋成分が出力される。現在の海事衛星では右旋 円偏波が使用されているので,T4は50Ωで終端されて いる。


図7 円偏波アンテナの構成

 (2) 円偏波の海面反射特性
 円偏波の反射は水平偏波と垂直偏波の反射にわけて考 えることができる。水平及び垂直偏波が誘電体に入射した 場合の反射係数は良く知られている。したがって円偏波 が入射した場合の反射波の正旋成分と逆旋成分の反射係 数を求めることができる。周波数1540MHzにおける反射 係数(振幅)の計算値を図8に示す。入射角の小さな場 合(高仰角),逆旋成分が大きく,仰角5°付近で両成分が 等しくなる。位相については仰角によらずほぼ一定であ ることが計算で示される。


図8 円偏波反射係数(振幅)

 (3) フェージング除去法と装置
 以上のハイブリッドの特性と海面反射特性とから,現 在用いられているアンテナ装置では,端子T3には直接波 正旋成分及び反射波正旋成分が出力され,T4にには反射 波逆旋成分が出力されていることがわかる。従来の装置 ではT4の出力は50Ω終端で無駄な電力として消費され ていた。T3の反射波止旋成分とT4の反射波逆旋成分 の振幅を等しく,かつ逆位相とした後合成すれば直接波 のみを取り出すことができる。機器構成としては図9に 示すように,減衰器で移相器を挿入すれば良い。図8か ら仰角5度付近ではT4側に減衰器を挿入すれば良いこと がわかる。


図9 フェージング軽減アンテナ装置

 2. 実験と結果
 本方式の効果を実証するため,実際の海事衛星 (MARISAT)の電波(1541.5MHz)の受信実験を沼津海岸にお いて(仰角11度),昭和56年10月に行った。使用したアン テナは前述の40pSBFである。図10は従来の方式によ るバイトパターンである。実験中の海面波高は6p(標 準偏差)であり,実験は鏡面反射の理論値で実測値に良く 一致している。次に本方式による同一アンテナのバイト パターンを図11に示す。両図を比較すると反射波による バイトパターンが完全に消去されていることがわかる。


図10 従来のアンテナによるハイトパターン


図11 本アンテナによるハイトパターン

 アンテナを固定した場合の時間的フェージングについて も測定を行い,本方式によればコヒーレント成分による 同期の長いフェージングが良く軽減されている事がわか った。本実験の場合は仰角が11度であるが,5度であれ ば一層顕著な効果が期待できる。
 3. まとめ
 従来の円偏波アンテナ装置に若干の素子(減衰器及び 移相器)を付加するだけで大きなフェージング軽減効果 が期待できる方式を提案し,その効果を実証した。本方 式は仰角が低い程効果があり,小型アンテナでも5度程度 までをサービス海域とする海事衛星通信が十分可能であ ることが示された。
  結論
 小型船舶等を対象とする海事衛星通信システムについ て大きな問題となるフェージングの特性及びその軽減に ついて,理論的,実験的にその特性を明らかにし,特に 問題となる低仰角での鏡面反射によるフェージングの除 去が可能である事を示した。このことによりAMESにお いて小型アンテナ(40pSBF)の使用による通信が十分 可能であることが示された。今後は本年打上げ予定の INTELSAT-X号衛星を利用して仰角5度付近で実験を行 うほか,航空機用フェーズドアレイアンテナについても 航空機実験を行う予定である。又衛星トランスポンダ及 び周波数の有効利用のための耕しい通信方式(ディジタ ル方式等)の適用についての検討を進め,AMESを含め た移動体衛星通信のための基礎技術をかためていく予定 である。
 最後に本実験について,多くの御協力を頂いた電電公 社,福井県水産試験場,美浜町役場,美浜漁業協同組合, 沼津市役所,静浦漁業協同組合の各位に深く感謝致しま す。又実験関係の事務に強く御支援を頂いた総務部各位, 通信機器部業務係に厚く御礼申しあげます。

(海洋通信研究室長 三浦秀一)




第20回レーダ気象学会議に出席して


猪股 英行

  はじめに
 科学技術庁国際研究集会派遣費により,昨年11月30日 〜12月3日,米国ポストンで開かれた標記の会議に出席 する機会を得たのでその概要を報告する。会議の正式名 称は20th Conference on Radar Meteorology of the American Meteorological Society で,米国気象学会が主 催する幾つかの分野別の会議の中でも最も回数が重ね られている会議である。ここ2〜3回の会議に見られる 発表論文数の増加から,一つの会場で順次発表していく という従来の進め方では発表の時間も質疑応答の時間も 十分に取れないことへの反省があり,今回は新しいプロ グラムの立て方で行われた。
  会議の進め方と発表の概要
 午前中は三つの会場に別かれてパラレルセッションが 行われた。また,会場では二つのセッションが開かれた。 各セッションには座長とRevewerが指名されており, 平均して6件の発表及び質疑が行われる。他方午後から は会議出席者全員が一つの会場に集まり,Plenary Review Session が始まる。ここでは午前中に行われた六つ のセッションの各Reviewerが,担当したセッションで 発表された各論文を1件3分程度に要約して報告する。 その際,各論文発表者は演壇の近くに用意された席に座 わり,Reviewerのまとめ方に注目するとともに後の質問 等に備えている。内容の似た論文はさらにまとめられた あと“Now,open these papers to discussion”の言葉 により全員による討論に付される。つまり,この午後の セッションに出れば,午前中がパラレルセッションであ ったが故に聞き得なかった発表についてもかなり的確に その内容をつかめるように工夫されていた。
 私は2日日のPrecipitation Measurementsにおいて「航 空機搭載マイクロ波雨域散乱計1放射計と地上気象レー ダシステムによる降雨の同時観測」について報告した。 その内容は,航空機搭載南域散乱計のデータ解析手法を 確立するために第一衛星計測研究室と第一宇宙通信研究 室とで昨年の梅雨期に実施した共同研究で,既にその技 術及び信頼性が確立されているCバンド降雨レーダとの 同時観測結果を解析したものである。
 各Reviewerの役割は大変に重要で極度の緊張を強い られるようであった。私が発表したセッションのReviewer はP. S. RayというNSSL/NOAAの人で,セッション ン終了直後に,お前の発表をこのようにまとめたけれど これで良いかと言って手書の原稿を見せてくれた。「衛星 搭載を目的とした雨域散乱計の研究でCCIRの周波数割 当に従ってその周波数を決めていること。XバンドとKa バンドのビームが同一の散乱体積を照射する設計である こと。実験システムとして非常に工夫されたものである こと。しかし実験はpreliminaryで航空機からの観測と地 上の気象レーダによる観測でブライトバンドの構造がほ ぼ同一であることを示した」といった内容で多少ひっか かる点もあったが他の著者との打合せも並行して進めて いる彼の苦労を思ってOKとし,説明のポイントになる スライドを3枚提供した。
 会議では,スペースシャトルからの降雨観測という, 我々と同じような構想を持っている研究者(Dr. D. Atlas :GSFC/NASAをはじめとするグループ)とも 親しく話ができ,情報交換ができたのは第一の収穫であ った。また, 3日目の彼等の発表では,この分野で日本 がリードしていることを数回にわたって述べていたのが 非常に印象的であった。彼等が我々の構想を引き合いに 出してくれたことにより出席者(総数264名)の多くの 人々に日本の先行性が理解されたものと思う。


チャールス川対岸のボストン市街

  今後の雨域散乱計開発
 観測の分野の衛星開発計画において,静止気象衛星( GMS-3),海洋観測衛星(MOS-1),の開発がわが国の宇宙 開発委員会によって決定されているが,資源探査衛星(ERS) 降雨観測ミッションを搭載する衛星の開発研究について は未だオーソライズされていない。日本において先行研究 が進み,諸外国が注目する成果を上げている分野につい ては,その傾向により一層の拍車がかけられるべきであ ろう。したがって,我々はあらゆる機会を利用して(M OS用にそのBBMの開発が進められているSEASATタ イプの海面高度計への機能追加により降雨データを取得 することをNASDAに提案中),このリードの保持に努力 すべきである。
  おわりに
 会議では総計142件の研究発表が行われたがその中に は日本がかなり遅れを取っている分野(VHFレーダによ る成層圏〜中間圏の観測等),また鹿島支所で計画中の内 容(多周波直交偏波レーダ)と密接につながる事項が多 数あり,それらの発表を直接聞き得たことは非常に有意 義であった。
 この会議参加の機会を与えて下さった科学技術庁,郵 政本省,及び電波研究所の関係各位に厚く御礼申し上げ ます。

(鹿島支所 第一宇宙通信研究室長)




日米VLBI実験に関する調査のため米国へ出張して


高橋 冨士信

 1月31日より2月14日まで米国へ出張し,NASA本部, ゴダード宇宙飛行センター,へイスタック観測所を訪問 した。日米VLBI実験に関する調査,特にVLBI用ソフ トウェアとデータベースに関する調査と情報の収集が主 目的であった。


ゴダード宇宙飛行センターの構内

 ワシントンDCのインデペンデンス通りにあるNASA 本部には,2月1日午前と5日午後の2回訪問して,地 球力学プログラムの責任者であるFischetti氏や,Flinn氏 と打合せた。NASAのMarkVハードウェア,ソフトウェ アに関する情報提供について謝意を述べるとともに電波 研のVLBIシステム(K-3システム)の英文説明書を提 供し簡単な説明を行った。また,本年5月のIAG総会時 におけるNASA-RRL特別会議の下打合せや日米間の VLBI研究者の交換についての打合せをした。
 ワシントンDCから車で約1時間のゴダード宇宙飛行 センターには, 2月1日午後より5日の午前までと, 2 月8日に訪問した。ゴダードの地球力学プロジェクトの 責任者のCoates氏とリーダーのClark氏に2度にわた るVLBIソフトウェア情報提供への謝意を述べた。また 筆者の本年8月からのゴダードヘの長期滞在へのサポー トを依頼した。丁度ゴダードでは1月末に地球力学プロ ジェクトのReviewが開かれたばかりであり,まずその 資料を収集し,次にソフトウェアの調査に入った。
 Vandenberg女史とはMarkVの観測スケジュール作成 ソフトウェアと,自動運用をするためのField Systemに ついて打合せた。スケジュール作成ソフトウェアはVLBI 観測の計画をつくる重要な機能を持つが,MarkVのソフ トウェアと言えども,計画作成はオペレータにとって負 担の重いものであることが強く印象として残った。
 Ryan氏やSchupler氏とはデータベース,カタログシ ステムに関する打合せをした。VLBIデータ解析は,お びただしい数のデータファイル群を手際よく扱うことが 第一課題である。そこでMarkVではそれらのファイル群 をカタログとして大分類して磁気テープに保管し,各カ タログの中をデータベースで管理する方式をとっている。 鹿島でもVLBI処理解析が進めば同様の繁雑な作業が待 っており,MarkVの方式は大変参考になった。
 Chopo Ma氏とは物理モデルソフトウェアに関して打 合せた。MarkVでは物理モデルに関して,既に最新のユ リウス2000.0年系が完成しており,彼等の進取の精神に 感心した。国際的に1984年より天文定数関係が全面的に 2000.0年系に改訂されることになっており,日米実験の 開始時期と一致しているので,K-3でもユリウス2000.0 年系となる。
 基線ベクトルを決定する推定ソフトウェアについては Ryon氏より説明を受けた。極めて会話性を重視したソフ トウェアであり,推定すべきパラメータをオペレータが 自由に選択しながら,グラフィックディスプレー上の誤 差解析プロット図を見て,エラーをどんどん小さくした り,あいまいさを無くしていく過程を見ることができた。
 以上の他,文書管理の手法についても説明を受けた。 特にソフトウェアでは回路図面の様に便利なものが使用 できないので,文書の充実と更新の迅速さがどれだけな されるかで,将来の発展性が決められる。ゴダードでは, 文書管理の重要性を各人が認識し,計算機の機能を十分 に利用してしっかりしたドキュメントを作成していた。
 これらのソフトウェアやデータファイル等について, 当所への提供を依頼したところ,ほとんどすべてについ て磁気テープの形で受けとることができた。これはNASA が70人年余をかけて開発してきたものである。
 2月9日午後から11日までボストンの北西約50qのへ イスタック観測所を訪問した。ここでは鹿島のハードウ ェア開発グループより依頼された質問事項の解答を得る ことと,相関処理ソフトウェアの打合せが主要な作業で あった。丁度訪問した日にへイスタックの近くのウェス トフォードのアンテナでPOLARIS実験(VLBIによる極 運動の測定実験)が始まり,特に準備段階と開始時の様 子を見学した。相関処理ソフトについては,レーダの同 期再生についてCapallo氏,処理部についてWhitney氏よ り説明をうけた。相関処理については,鹿島もK-2シス テムまでの開発で独自のノウハウを蓄積してきており, 更にヘイスタックで今回入手した情報と比較検討するこ とで,K-3相関処理システムは一段と強力なものとなる であろう。
 本出張中において,物性応用研究室の板部氏(GSFC 長期滞在中)には,空港やホテル・GSFC間の往復に大 変にお世話になり,深く感謝致します。また本出張の機 会を与えて下さった当所の関係の方々に深く感謝の意を 表します。

(鹿島支所 第三宇宙通信研究室 主任研究官)




南極越冬を終えて


栗原 則幸

  はじめに
 第22次南極地域観測隊を乗せた「ふじ」は,昭和55年 11月25日家族,関係者の見送りを受け東京晴海埠頭を出 港した。
 22次隊は,3か年計画の最終年度である地学,気水圏 の重点観測をはじめとして,超高層,環境科学等の研究 および定常観測を実施した。同時に,南極有数の科学基 地に拡大された施設の維持も重要な任務である。当所か らは,電離層担当として筆者が越冬することになり,昭 和56年2月1日第21次越冬隊から観測を引継ぎ57年2月 1日第23次越冬隊に引継くまで定常観測を実施した。以下 に電離層観測の内容,基地内での生活について簡単に述 べる。
  電離層観測
 当所では,第1次隊からこれまで延べ47名の隊員が南 極観測に参加している。基地観測では,気象,地球物理, 電離層の3部門が定常観測を続けている。電離層観測と しては,電離層棟内に設置された観測機を用いて,電離 層垂直打上げ,オーロラレーダ,リオメータ,短波電測, オメガ電波観測等を実施している。観測機は,逐次新型 機に更新されているが,故障の発生も少なくない。屋外 に林立する24基のアンテナ群の保守も重要な仕事である。 屋外作業時には,他部門の隊員にも随時協力を願った。 昭和56年9月5日に基地開設史上2番めの超大型ブリザ ードが吹き荒れ,電離層棟の象徴とも言える垂直打上げ 観測用30mデルタアンテナ柱が倒壊した。幸いに予備20m デルタアンテナ柱を用いて観測を再開したが,自然の猛 威に驚いた。他の部門は,担当者が複数であるが,電離 層の場合,筆者1人だけのために,けが,病気には充分注 意した。仕事が類似する超高層担当者に最少限の仕事を 覚えて頂き,不在時の観測をお願いした。
  越冬生活
 基地での生活は,氷を溶かして水を作ることから始まる。 約2か月の夏期間は,東オングル島内の池からポンプに よる送水,給水車による運搬が可能であるが,それ以外 は,氷山氷を溶かす以外方法が無い。基地には,屋外に 造水用の10kl水槽と非常備蓄用の130kl水槽があり,常時 発電機(125KVA)の余熱を利用し冬期間でも凍結しない ように工夫されている。週一度の割合で,手空き隊員の 氷取りがあり,作業隊が招集される。大型ソリ数台を連 結し,ツルハシを手に雪上車に乗り込み,近くの氷山を 目指す。巨大な氷山にへばり着きツルハシを振う姿は, さながら角砂糖に群るありのようである。溶かした水は, 調理,風呂,火災発生時の消火用水等貴重な生命の水と なる。22次隊は,これまで最も多い34名の隊員であった が,このうち数名は,常時昭和基地から270q離れたみ ずほ基地で越冬した。隊員は,基地主要部の居住棟に2 畳程度の個室が与えられている。内地の居住空間に比べ 極めて狭いが,一年間の楽しい我が家となる。筆者には, 電離層観測の特殊性を考慮し,例年通り約150m離れた電 離層棟内に個室が与えられた。電離層棟は,旧電離棟(18 次隊まで使用)時代より,“峠の茶屋”の名称で隊員に親し まれ,憩いの場でもあった。休日には,昭和基地内郵便 局,カラー現像所およびアマチュア無線等で振った。し かし,基地中心部から離れている為,悪天候時には,建 物間を張り巡らしたライフロープだけが頼りとなる。外 出禁止令が発令された際には,食堂にも行けず,電離層 棟に籠城し自炊する事もたびたびであった。
 基地生活で最大の娯楽行事は,南半球の冬至に行われる ミッドウィンク祭である。米国大統領をはじめ外国基地 から,お祝いの電報が届けられた。この時期は,40日間 太陽が姿を見せず,ほとんど夜ばかりで精神的にも気の 晴れない日々が続くが,このお祭りを契機に越冬生活も 後半に入り,太陽を迎える頃から基地内は活気を呈して くる。週2回の映画,VTR放映,毎月の誕生会,広い海 氷上でのソフトボール等が,数少ない娯楽であった。


電離棟生活水用の氷とり

  むすび
 日本を遠く離れた1年4か月の南極越冬生活は,毎日 が新鮮であった。白い大陸,氷山,神秘的なオーロラ, 厳しいブリサード,初めて体験する白夜暗夜の世界,雄 大な氷河,みずほ基地での紫御殿,砂浜を赤く染めるガ ーネットサンド,愛らしいペンギン,アザラシ等想い出 を数え挙げれば,きりがない。昭和57年1月29日で日本 の南極観測も25周年を迎え,南極探険時代に比べて基地 の施設は整備され生活環境も充実したが,昔も今も変ら ぬ自然の美しさの底に隠された偉大な力を侮ることはで きない。素晴しい自然と良き仲間に恵れた数多い想い出 を胸に,57年2月9日昭和基地に別れを告げた。
 最後に,出港前,越冬中に御指導をいただいた南極観 測本部及び,貴重な南極越冬の機会を与えて下さった関 係各位に感謝いたします。

(電波部 電波予報研究室 技官)


短   信


IAG学術総会およびNASAとの
特別会議の開催

 5月7日より15日まで東京において国際測地学協会 (International Association of Geodesy,略称IAG)の学 術総会が開催された。これには,超長基線電波干渉計 (VLBI)の測地利用シンポジウムが含まれ,当所のVLBI 開発成果には多くの関心が寄せられた。一方,この総会 に出席の米国研究者と日米共同実験の今後の計画につい て当所で特別会議を開催したので,これらの概要を報告 する。
 (1) IAG総会でのVLBIシンポジウム
 IAGは当所に関係の深い国際地球電磁気学・超高層物 理学協会(IAGA)と同じく,国際測地学・地球物理学 連合(IUGG)を構成する7つの協会の一つである。今回 は41か国376名(外国より205名)が参加し,測地学に関す る最近の研究および国際協力などにつき,八つのシンポ ジウムが企画された。VLBIに関しては2日間にわたり, 基準座標,地球運動,システム開発,電離層および大気 の影響,観測計画,国際協力について発表と討議がなさ れた。VLBI技術は,レーザ測距技術とともに, この分 野における従来の天文光学観測より約2桁の精度向上が 可能であり,多大な関心が寄せられているものである。
 当所からは,現在開発中のK-3システムのハードウェ アおよびソフトウェア,K-2システムを用いた鹿島・平磯 間を基線とした実験結果,鹿島局の測地学的条件,日米 および国内観測計画につき,合計6件の発表を行った。 高精度システムとしては,米国のMARK-Vが唯一のも のであったため,当所のK-3システムについては欧州, 中国などの研究者は勿論のこと,NASA以外の米国関係 者からも注目を集めた。また,日本の地理的位置は世界 的な観測網の構成という点から極めて重要であり,当所 のVLBI観測についても多くの期待が寄せられた。
 研究発表には,電波源,水蒸気ラジオメータによる大 気中遅延補正など,観測精度を現在の数pからoオー ダに向上するための考察もあり,一方欧州などの計画や 現状など耳新しいことも多く,極めて有益であった。
 (2) 日米共同実験計画に関する特別会議
 日米技術協力協定の一環としての当所とNASAとの日 米VLBI共同実験計画は,1984年初めに初の実験を行う ことを目標に,準備を行っている。VLBI観測は,独立 した2局で受信した準星電波の信号を相関処理して始め て結果が得られるものであるため,双方のシステム性能, データ記録など多くの点で両立性が厳しく要求される。 このため,情報交換,短期間ながら研究者の派遣など NASAとの密接な連絡を図ってきた。
 幸い,今回のIAG総会にNASA本部をはじめとする米 国関係者が来日したので,共同実験に関して打合せを行 うまたとない機会であった。この特別会議は5月12日本 所においてNASA本部のFlinn氏をはじめ7名の米国関係 者を迎えて日米実験計画の総合的検討,さらに5月13日 には鹿島支所においてGSFCのVandenberg女史ほか10 名の関係者を迎えて,技術的な詳細検討,打合せを行っ た。その主な内容は次の通りである。
 @) 初実験(システムレベル)は1984年1月を予定 する
 A) 第1回定常実験は世界的観測網として行い,19 84年8月を予定する
 B) 1983年末までに実施すべき両立性確認の実験事 項
 D) 磁気記録器,相関器,水蒸気ラジオメータおよ びソフトウェアの技術的詳細
 E) 研究者の交換など協力関係の推進
 2日間の特別会議で,双方の研究者が一同に会し,技 術的情報はもとより,観測計画に関する意見を直接交換 して,具体的な実施計画の合意が得られたことは,今後 の目標がより明確になり今後の強力な推進力ともなって, 双方にとり極めて有意義なものであった。
 以上,IAG総会およびNASAとの特別会議の概要を述 べたが,当所のVLBI関発に対する諸外国の関心は,予 想以上に極めて大きいものであった。この期間に多くの 外国研究者の所内見学にもつきあったが,これらを通じ て,当所が電波の総合技術開発という面で一層努力して いくべきこと,さらに今後の国際協力の重要性について 感ずることが多かった。



“鼎(てい)談”これからの電波研究所
−研究にもロマンを−

 「電波研究所創立30周年によせて」と題する鼎談を5 月7日行った。これは30周年記念行事の一環として企画 したもので,外部から電波天文の権威である田中春夫東 洋大学教授,通信工学を専門とし宇宙開発にも関係の深 い平山 博早稲田大学教授を招き,当所から若井所長が 出席した。
 鼎談は, これからの電波研究所はどうあるべきかを テーマとして和やかに進められ,話題は地上から深宇宙 にも及んだ。また,電波研究所全体が少し衛星に傾き過 ぎているのではないか,しかし衛星に関しても基本実験 では電波研究所のやるべきことは多々ある等の提言もあ った。「人あっての研究,魅力ある職場,研究にもロマン を」と外部の両氏はしめくくられた。この鼎談は電波時 報1982,No. 3に掲載される予定である。



第2回国際極年,IGYパネル展示

 第2回国際極年(昭和7〜8年)50周年及びIGY25 周年の記念行事が,5月11日より13日まで地球電気磁気 学会で行われた。当所では創立30周年と云うこともあっ てパネル12枚,当時の論文,IGYでの古いビデオ記録等 を出展した。第2回国際極年50周年の記録は各研究機関 でも珍らしく,当所平磯支所(前電気試験所平磯出張所) から出品した論文(当時の直筆論文報告集)と,着物姿 で米国オークランドKGO局の放送受信の時の写真(大正 13年)は人気を呼んだ。第2回国際極年ではボトムサイ ドの電離層探査を学術会議の要請で海軍が行ったのも見 学者の興味をひいていた。昔の人の写真は同じ年代でも 目つきがするどく,何となく立派に見えるのはどういう 事であろうか?
 IGYには,壮,熟年の人で直接参加した人も多く,パ ネルの写真を前に,若かりし頃の思い出話に花を咲かせ ていた。



第7回日独科学技術合同委員会の開催

 日独科学技術協力協定に基づく標記会議が,5月25, 26日に外務省で開催され,7パネル及び7分野の活動状 況のレビュー及び一層の協力の可能性についての討議が 行われた。当所は,環境保護技術パネルにおいて,大気 環境測定用光学リモートセンサ開発に関する研究,宇宙 分野において,通信放送衛星及び地球観測センサに関係 しており,協力の内容は情報交換を行うことである。環 境保護技術パネルでは,情報及び専門家の交換を進める こと,宇宙分野において通信放送衛星では,情報交換を 進めること,及び地球観測センサでは協力の可能性を検 討することが同意された。
 なお,近く開催される二国間科学技術協力の会合とし て,6月14,15日にオタワで第5回日加科学技術協議が, 7月1,2日にキャンベラで第1回日豪科学技術合同委 員会が予定されている。



第3回全国電波卓球大会開催

 全国電波レクリエーション連盟主催の第3回全国電波 卓球大会は,当所担当の大会運営により5月21日,22日 の両日東京郵政局体育館において開催された。全国から は,団体13チーム,個人戦の男子一般A級トーナメント 5名,OBトーナメント19名,一般B級トーナメント38名 及び女子リーグ4名の総勢78名の選手が集い,広い体育 館に整然と配列された10台の卓球台を舞台に和やかな雰 囲気のうちにも正正堂堂と白熱した試合が展開され,親 善友好の実をあげて,成功裡に終了した。幸いにして当 研究所チームは,第一回大会から連続優勝の栄誉に浴し た。大会実行委員の皆さんご苦労様でした。