C2センターのあゆみ


企 画 部

  はじめに
 世界資料センター(World Data Center,以後WDCと略 称する)は国際地球観測年(IGY,1957〜58年)期間中に 国際学術連合会議(ICSU)のもとに設けられたIGY特別 委員会の勧告に基づいて設立された。その目的はIGY期 間中の共同観測によって得られた地球物理学関連観測デ ータを広く全世界の科学者に利用できるようにするとと もに、天災等による滅失を防ぐために,世界中に複数個 のセンターを設けた。WDC業務はIGY終了後も度重なる 国際共同観測を経て,永続的な基盤を確立し,現在に至 っている。当所のC2センターは電離層研究についての長 年にわたる実績が認められ,電離層部門におけるWDC として1958年に設置され,以来25年を経過した。この機 会にWDCの組織と当所C2センターの今日までのあゆみ について紹介する。
  WDCの沿革
 世界的規模のIGY計画を推進させるため,1950年ICSU 内にIGY特別委員会(CSAGI)が設置されたが,CSAGI は1953年以来4回にわたって毎年会議を開催し,1955年 のブラッセルにおける会議で以下の事項が決議きれた。 “IGY計画に従って交換される観測データはすべての国 の科学研究機関に利用されること。少くとも3か所のW DCを設置し,各センターはすべての国家及び科学関連 団体にデーダサービスを行うこと。”この決議に基づいて CSAGIは,各研究機関及び各国のIGY国内委員会からの 申告をもとに,全観測部門のデータを保管するA及びB- WDCを米国及びソ連にそれぞれ設け,各観測部門毎の データを保管するC-WDCをヨーロッパ及びアジアの各 国特に日本及び西ヨーロッパに設けた。IGYの終了に伴 い,CSAGIは1959年に解散したが,その後もWDCの機 能を維持するため,ICSUは国際地球物理委員会(CIG) を設置し、その指導と援助により同業務を続けてきた。 1967年CIGが廃止された後,永続的データサービスを行 うため,1968年にWDCパネルが設置され,今日に至っ ている。
 なお各WDCは,その所属する国の予算によって維持 されることとなっており,また各国はそれぞれの観測デ ータの収集,複製配布と保管に責任を持たなければなら ない。
  WDCの責務
 IGY特別委員会により規定された下記の基本原則に従 って,各地球物理部門の観測データを収集・交換し,科 学者へのサービスを行うことがWDCの責務である。
 1. 各WDCはICSU及びその他の国際団体の勧告に 基づき,ICSUパネルによって採択された“国際データ 交換のガイド(以下ガイドという)”に従ってデータを収 集しなければならない。また科学関連国際団体からの要 請や決議勧告に対応すべきである。
 2. 各WDC間の資料の交換はガイドに従い,各部門 毎に無料で行う。
 3. 各WDCは科学者個人または科学研究機関からの 資料要請に応じ,複製の費用を超えない範囲内で,デー タを提供する必要がある。すべてのWDCは,そのよう な要請に対してできる限り迅速に(例えば1か月以内に) 対応すべきである。
 4. 各WDCはICSU,IOC(政府間海洋委員会)その 他ガイドに示されている分野からの訪問者及び客員研究 者に対し自由に閲覧させ,センター内にあるデータを入手 し易いようにすぺきである。
 5. 資料は安全に保管する。
 6. データの正確な複製及び再生を行い,資料の質を 保持する。
 7. できれば資料についての報告またはパンフレット を編集し,各関連団体に無料で提供する。
 8. センター内に保管してあるデータのカタログを適当 な間隔で編集し,発行し,配布すること。
  日本国内に設置されているC2センター
 地球物理学の各分野は(1)太陽地球間物理(STP)(2)ロ ケット及び衛星(3)気象 (4)海洋(5)氷河及び(6)固体地 球物理に分れているが,当所C2センターが所属する分野 は(1)のSTP部門である。日本国内に設置されているC2 センターは当所を含め表1に示す7か所になっている。


表1 日本国内にあるC2センター

  WDC-C2(電離層)
 電離層部門の世界資料センターは全世界で表2に示す4 か所にあり,各センターは相互協力のもとに観測資料の収 集,交換及び配布を行うとともに一般利用者へデータを 提供している。


表2 電離層世界資料センター

 当所の電離層C2センターはIGY期間中1958年に設立さ れ,現在企画部第二課がその業務を担当している。C2 センター設立時にはその業務を当時の資料課で担当し,図 書室の一部をC2センター資料室にあてていた。主な仕事 は渉外,月報作成,資料室の設備の充実,データの整理 作業等で課内の職員数名がこれに当り,その中の1名が 主任担当官としてC2センター業務に専任した。電離層デ ータを保管する資料室は,資料が増加する毎に5回にわ たって移転し,資料も数か所に分散保管されてきたが, 56年末完成した4号館1階に資料室と閲覧室が設置され, 初めて全所蔵データを1か所に収納できるようになっ た。
 当センターで取扱っている電離層部門の観測項目は電離 層垂直観測,全電子数,トップサイド垂直投射観測,A1 (パルスエコー),A2(リオメータ)及びA3(搬送波電界 強度)法による電離層の吸収,電離層ドリフト,電離層 後方散乱,ホイスラー及びVLF放射,空電雑音,電波予 報その他である。この中で垂直観測のデータは観測所の 数,観測期間とも量が多く保管データの8割を占めてい る。垂直観測の原記録であるイオノグラムはh'-f曲線と もいわれ,35oのフィルムに記録されている。又イオ ノグラムからパラメータ毎に数値化されたものは月報 (印刷物),35oマイクロフィルムまたはフィッシュの 形で保管している。印刷物とフィルムの割合は半々で ある。これらのデータは,主としてIGYのような国際的 な共同観測期間のみのものと,継続して現在まで取得し ているものとがある。最近の傾向として電離層月報のフ ィッシュ化を実施する観測所が世界的に年々増加してき ており,その数は約30か所に及んでいる。
 センター資料室には手動式密集型移動棚が5ブロックと マイクロフィルムキャビネット10台が設置されている。 その移動棚の配架内容は下記に示す通りである。
 Aブロック 内外電離層関係月報
 Bブロック 上記以外の太陽,地磁気等地球物理関係 データ,読取表, プロット類
 Cブロック 国内のイオノグラム
 Dブロック 外国のイオノグラム
 Eフロッグ その他
国内のイオノグラムは稚内,秋田,国分寺,山川,沖縄 及び昭和基地においてそれぞれ観測されたもので,100フ ィート巻で約13,000リールあり,外国のイオノグラムは 1000フイートに編集され1900リールが保管されている。

  C2センター業務
 当センターは国際的に定められた方式に基づくデータ の収集,整理,保管と交換及び利用者へのサービスを行っ ている。
 各センターとの交換業務としては,アジア地域から送付 される電離層関係データの一部と当所の5観測所及び昭 和基地のイオノグラム(優先通常世界日;Priority Regular World Day) のフィルムコピーのほか,数種類の印 刷物データの送付を定常的に行っている。なお,電離層 月報その他の関連資料は当所の出版係から世界中の関連 機関に送付されている。
 C2センターにはアジア,オセアニア地域の観測所から もデータが送付されてくるので,ほぼ全世界の観測所の 電離層データが収集されている。当所C2センターと各 WDC間の資料の交換状況を表3に示す。


表3 各世界資料センター間との資料の交換状況

 各世界資料センターから送付されてくる未編集のイオノ グラム(通常世界日の3日分が多い)と電離層月報は年 に一度,利用上と管理上の必要性からイオノグラムは10 00フィートに,月報は100フィートにそれぞれ観測所毎 に編集されており,また毎日受取るシート及びフィッシ ュ化された月報はその都度整理を行い,データが何時で も利用できる状態にしてある。
 国内外の大学,研究所からのデータの要請については 可能な範囲でセンター内で処理しているが,内部で処理不 可能なものまたは大量の場合は外注により処理している。 最近における国内外からの主なデータリクエスト状況は 表4のとおりである。


表4 国内外の資料の利用状況

 C2センター内には閲覧室があり,所内外の研究者にデ ータの利用の便宜を図るため,マイクロフィルム・マイ クロフィッシュ用リーダプリンタその他の設備が設置さ れており,研究者は何時でもこれらの装置を利用してデ ータを参照することができる。
 又C2センターに保管されているデータを紹介するため 毎年1回電離層データのC2カタログを発行し,国内を はじめ全世界の関連機関に配布している。
  おわりに
 今後は設備の充実を図り,あらゆる資料の利用に迅速 かつ十分に対応できるようにしたい。またC2センター 業務の近代化の一歩として,現在C2センターカタログ の計算機処理による発行について努力しているが,当所 計算機研究室の全面的な協力により今年中にも実現可能 な見通しがついたことを感謝している。今後とも近代化 への地道な努力を続けると共に利用者へのサービスのよ り一層の向上を図っていきたい。

(第二課 主任研究官 合歓垣礼子)




宇宙監視について


鹿島支所

  はじめに
 近年の宇宙開発の進展は国の内外において目覚しく, 人類が宇宙に打ち上げた人工衛星の数はすでに数千個に のぼるといわれている。それに伴い,宇宙監視というこ とが脚光をあびつつある。宇宙監視とは,宇宙において 運用される無線局の位置(軌道)およびそれから発射さ れる電波の質について測定を行い,事前に公表されてい る情報等を用いてその宇宙局の所属や規模等について確 認(同定)するとともに,適正な運用がなされているか どうかの判定をするのに必要なデータを取得することで ある。
  宇宙監視の必要性
 今後,人工衛星の数と規模はますます増大していくと 予想されるが,これらの人工衛星は現在のところすべて, 電波を利用して制御され,かつ各種の実験や観測,情報 の伝送等に電波を用いている。したがって,これらの宇 宙局の無線業務相互の間,あるいは地表における各種の 無線業務との間の干渉や混信の問題はますます大きくな ってきている。人工衛星は地表面の無線局と異なり,地 域や国々の別なく地球を周回したり,高々度の位置から 多数の国々に電波を放射したりするので,干渉や混信は 国際的な問題として考えなければならない。
 ここ数年来,特に静止衛星軌道は各国が打ち上げた各 種の静止衛星によって混み合ってきている。ところが, 軌道位置や使用周波数を国際的に調整し割り当てる作業 は,各国の利害が直接からみ合うものだけにますます難 しいものとなっている。宇宙監視によって得られる各種 のデータは,これらの調整作業や,干渉問題等の解決に も非常に役立つのである。
 国際電気通信条約附属無線通信規則では,従来から宇 宙局をも含むあらゆる無線局の業務に関して国際間の種 々の規則を定めているが,特に宇宙監視については,宇 宙局が発射する電波の周波数,電力束密度,スペクトル 占有度等について国際的に監視を行いその結果について 報告するよう要請している。また,宇宙監視の方法や技 術は,まだ未開発な面もあり,今後の宇宙技術の進展に 伴って進歩していくと考えられ,CCIRにおいても,研究 グループ1(SG-1,周波数の有効利用および監視)に おいて,宇宙監視に関して,地上の電波監視との相違点, 電波監視技術,宇宙局の同定技術などについて研究し, 報告書を提出するように各国に求めているところである。
  外国における宇宙監視の実施状況
 現在,各国の状況としては,米国,西独,英国におい て,程度の差はあるものの宇宙監視の実用的または実験 的な運用が行われている。これらはいずれも,1979年か ら1980年にかけて開始されており,各国とも緒についた ばかりである。
 米国では,1979年1月からメリーランド州で実験的運 用を開始した。アンテナは,直径5mパラボラ,静止・ 周回衛星共用。周波数は給電部交換により,1-2GHz, 2-4GHz,4-8GHz,8-12GHzの周波数帯を受信。 監視項目は周波数,占有周波数帯幅,電力束密度,スプ リアス放射,方位測定などとなっている。将来(1985年 頃)は,大陸西部およびハワイに固定監視局を設置する 予定といわれている。
 西独では,1980年10月から2基のアンテナを備えた本 格的な固定監視局により実用的運用を開始した。アンテ ナは対数周期アンテナアレーおよび直径12mパラボラ。 周波数は130-1300MHzおよび1300MHz-13GHz,監視項 目は周波数,発射の種別,周波数占有帯幅,電力束密度, スペクトル分布,偏波などとなっている。
 英国では,1980年12月から実験的運用を開始。アンテ ナは12.2mパラボラ,対象は静止衛星のみ。周波数は 3.4-4.2GHz帯となっている。
 なお,軌道や位置の監視については各国とも現在のと ころ十分な設備を有しているとはいい難い。これは,一   般に宇宙監視局で精度の高い軌道測定を行うのが難し いということと,各国とも電波の質の監視に重点をおい ているためと考えられる。ただ,西ドイツの場合,宇宙 局を自動追尾したり,宇宙局の動きによる周波数のドッ プラー偏移の測定ができるということであり,対象とす る宇宙局によってはある程度の軌道推定が可能であろう。
  日本における宇宙監視システムの検討
 日本においては,宇宙監視技術についての検討が郵政 大臣の諮問機関である電波技術審議会においてなされて きた。特に昭和54年度から3年間にわたり,「宇宙監視に おける技術的諸問題のうち,宇宙無線通信業務局から発 射される電波を監視するための技術的条件」という諮問 事項に関して審議が行われた。その最終的な結果は今年 の3月に答申された。この答申では,宇宙局の電波の監 視についてはもちろん,軌道の測定や推定の方法につい ても詳しく論じられている。そして,宇宙監視システム の構想案として監視センターと二つの固定局,および一 つの移動局とから構成され,運用やデータ処理を高度に 自動化・省力化する全体システムを提示している。以下 でこれについて紹介する。
 宇宙監視システム構想案(電波技術審議会)
 電波技術審議会においては,システムの経済性にも配 慮し,既にいろいろな宇宙業務を行っている我が国の機 関(例えば宇宙開発事業団など)から得られる情報を活 用することを考慮しながら検討が進められ,次のような 構想がとりまとめられた。
1. 対象宇宙局:静止衛星および中・低高度周回衛星
2. 周波数帯:
   1GHz以下,1-3GHz,4-6GHz, 7-8GHz,10-15GHz,17-23GHz, 27-33GHz
 の7周波数帯を重視する
3. 監視項目(目標精度)
 a. 軌道
    静止衛星(軌道推定精度の目標0.01°)
    周回衛星(1週間後に確実に再捕捉可能 な軌道推定を行う)
 b. 電波の質
    周波数(10^-6の精度を目標とする)
    占有周波数帯幅
    スプリアス輻射(基本波より-40dBまで ±1dBの精度で測定可能)
    電波の型式(AM,FM,PSKの型式の識 別ができ,FMについては周波数偏移,PSK については,相数,クロック数を測定す る)
    空中線電力(監視局方向の実効放射電力 を±1〜3dBの精度で測定する)
    電力束密度(制限値より-10dBまで±1 dBの精度で測定する)
    偏波面(直線から円までを識別)
    スペクトル(中継器帯域内での周波数利 用度も測定する)
4. 宇宙監視システムの構成
 全体システムは,図1に示すように宇宙監視センター と固定監視局および移動監視局とからなる。センターに は大型計算機が設置され,監視運用全体の計画,管理, データ処理・解析,結果の整理・報告・記録などが行わ れる。固定監視局の構成としては図2のような案が示さ れている。二つの固定監視局は同等の機能を有しており, 軌道や電波の質の監視のために最もよい配置となるよう に国内の2か所に設置される。移動監視局は,車載局と し,日本各地を自由に移動し,主として電力束密度の測 定を行う。


図1 宇宙監視システムの全体構成例


図2 固定監視局の構成例

5. 宇宙監視システムの運用の形態
 上述のようなシステムによって宇宙監視の運用は4と おりの方法で行われる。すなわち,全天一巡監視,詳細 監視,重点監視,外部機関の情報を補完する監視,であ る。要するに,通常は全天を一巡しながら監視を行い, 問題となっている宇宙局があったり,出現したら,それ らについては特別に念入りに測定するということである。
 宇宙監視システムの整備手順と研究課題
 上述のような宇宙監視システムが整備されるならば, これは世界にも例をみない模範的なものとなるであろう。 電波技術審議会では,このようなシステムの整備を一気 に行うのではなく,予備的・実験的運用を経ながら行う のが望ましいとしており,また,次の点については今後 も研究が必要であるとしている。
1. 軌道の監視の方法…全天監視の方法,VLBI(超長基線 電波干渉計)を含む電波干渉計による監視方法,人工衛 星の姿勢の測定・推定方法などに関する研究
2. 電波の質の監視 …偏波面の測定,微弱な電波につい ての測定,電波の型式の測定,各種の測定およびデータ 処理の高速化などに関する研究
3. アンテナ・受信系技術…多用波および偏波共用アンテ ナ,マルチビームアンテナ,低サイドローブアンテナ, 高感度・高分解能・高選択性受信機などに関する研究
 また,宇宙監視を完全に行うためには,宇宙局と対向 して電波を発射する地球局,あるいは宇宙局に対して干 渉を与える地球局についても監視を行う必要がある。こ れには宇宙からの監視を行う必要があり,さしあたって は航空機等,将来は人工衛星を利用することも考えられ る。これらについて,電波技術審議会でも審議されたが, 今後の研究課題としても重要である。
  おわりに
 宇宙監視の重要性は日増しに高まっており,外国では すでに宇宙監視が始められた。我が国の電波技術審議会 の答申はまさに時宜を得たものである。一方,電波研究 所においては,特に鹿島支所を中心に宇宙通信実験等の 目的で整備された各種のアンテナ・受信施設がある。そ こで,我々は宇宙監視の重要性について理解した上でこ れらの施設を十分活用しながら,宇宙監視に関する実験 研究を実施する計画をたてているところである。すでに 実験の一部は開始されており,我が国の宇宙監視システ ムの整備のために有用な実験データが得られるように努 力したいと考えている。

(衛星管制課 主任研究官 塩見 正)




第24回COSPAR総会に出席して


恩藤 忠典

 第24回COSPAR(宇宙空間研究委員会)総会及び関連 シンポジウムは,昭和57年5月16日から6月2日の間カ ナダのオタワ市中心街にあるシャトー・ローリエホテル 及びその向い側の会議センターで開催された。筆者はこ れらの会議の内「第5回太陽地球間物理国際シンポジウ ム」及びこれに関連した「IMS衛星からの結果に関する シンポジウム」に出席するため,科学技術庁短期国際研 究集会派遣員として5月16日〜29日の間出張したので, その概要について報告する。


第24回COSPAR総会会場のシャトー・ローリエホテル

 第5回太陽地球間物理国際シンポジウムの開会記念講演 は,5月17日午前10時からオタワ小劇場で行われ,プログ ラム委員長のRoederer教授が「太陽地球間物理学:人類 の最前線の研究」という講演を,又英国のSir Granville Beynon 教授が「太陽地球間物理学の一世紀1882−1982」 という講演を行った。いずれも感銘深いものであった。特 にBeynon教授は電離層研究の先達として電波研究所にも なじみ深い方で,第一回極年(PY)前後の話から始まり, その後故シドニー・チャップマン教授が,太陽から飛来 する帯電微粒子による磁気嵐理論を完成したこと,極域 電離層の等価電流系を描いていたこと,第2回極年頃か ら電離層研究が盛んになったこと,又COSPAR委員会 がIGY直後に組織されたこと等を,故人の写真,エピソ ードを交えて楽しく語られ,今年が第1回極年100周年, 第2回極年50周年,IGY25周年であることを記念するに ふさわしいものであった。このシンポジウムは24のセッ ションからなり約210の論文が発表され,日本からは23 人以上が出席した。シンポジウムの内容を概観すると, 深宇宙探査機HELIOS,HEAO,VOYAGER等の観測に よって従来地上観測から主に推定されていた,太陽大気, コロナ,惑星間空間,太陽風等の構造が飛躍的に明らか にされた。又これに関連して太陽フレアに伴う電磁プラ ズマ過程,太陽活動極小期のコロナ孔から放出される高 速プラズマ流等の理論的モデル化が進んだ。一方地球磁 気圏に関しては,ISEE,GE0S衛星等による観測結果の 報告が相次ぎ,太陽風と磁気圏との境界領域における磁 力線の融合過程,磁力管輸送,プラズマ塊9磁気圏への 侵入,電場等が明らかにきれた。磁気圏と電離圏との結 合に関しては磁力線に沿う電流,平行電場によるオーロ ラ粒子加速等の報告があった。特に磁気圏のプラズマ組 成の観測により,電離層イオンの寄与が意外に大きいこ とがわかった。又中層大気に関しては気象条件のD層へ の影響,プラネタリー波,大気重力波の伝搬効果が詳し く議論された。今回のシンポジウム形式で目立ったこと は,太陽ダイナモ,磁気圏環電流,太陽地球系プラズマ, 気象条件へのD層の依存,コロナ擾乱とその地球への効 果,太陽風内の粒子と波動,擾乱電離層内の対流,中層 大気の動力学について各専門家の特別講演があったこと である。「IMS衛星からの結果に関するシンポジウム」 は5月25日〜27日の間シャトー・ローリエホテルで開か れ五つのセッションで57の論文が発表された。関係した 衛星はISEE,GEOS,Intercosmos,Prognoz,ISIS, SCATHA,S3,ISS,EXOS等の主に磁気圏向きのも のであった。筆者も5月26日に「ISIS衛星によって観測 された磁気圏電波放射の緯度特性」という昭和基地と鹿 島で受信したISIS衛星からのVLF-HF帯の電波現象に 関する論文を発表した。ISIS関係者及び波動の専門家等 から発表後多くの質問があった。特に極光帯以上の高緯 度での電離層高度の波動観測は,我々のものだけであっ たこともあり大変好評であった。又宮崎茂氏に依頼され た「ISS-b観測から得られた上部電離層パラメータの世界 的特性」の代読発表も行った。代読であったにもかかわら ず,「それ以外のパラメータの世界分布はやっていないの か?」という質問があった。
 このシンポジウムで印象的だったことは,プラズマシ ート境界附近で厚さが500〜2500qの1〜40Amp/m^2の 沿磁力線電流が観測され,低高度の極光帯で得られるも のと一致すること,2個の衛星で測った磁気擾乱の伝搬 速度が,電場ドリフト速度と一致すること,内部プラズ マ圏のイオンは電離層温度のマックスウェル分布だが, 外部プラズマ圏の特性温度は電離層温度の数倍で10〜20 evの磁力線に沿ったH+,O+,He+が主成分であること,又 プラズマ圏の外の熱プラズマは波動粒子相互作用に影響 された複雑な分布をしていること等である。5月21日夕 方IUWDS会議がシャトー・ローリエのクック氏の室で あり,電波研究所を代表して出席した。平磯支所で電波 警報に32GHzミリ波強度の大陽面分布図,及び気象衛星 の陽子データを用いて成果をあげていることを報告した ところ,ウルシグラムコードにして欲しい旨の強い要望があ った。レーガン政権の1983年度予算削減計画で成行きが 心配されているホルダーのNOAA,宇宙環境研究所につ いては,担当者のへックマン氏の報告があり,多少の機 構再編成はあるものの,太陽地球環境予警報業務の現在 の活動レベルは維持できると頼もしい発言があった。な お出席者はパリのシモン,シドニーのクック,ボルダー のベックマン,モンシーを代表してスマート,プラーグ のトリスカと筆者の6氏であった。筆者が出席した5月 17日からの初めの数日間は,日本の夏の暑さだったが, その後は曇りか雨の日が多く肌寒い日々であった。5月 23日の日曜日は,オタワ市内を流れるリド運河の創設150 周年を記念して,夫々に飾ったポートが色鮮やかに運河 に浮び,楽隊の音と共に北国の夏の祭りを終日賑わせて いた。オタワ滞在中に色々とお世話下さったロスコー氏, 及びこの出張の機会を与えて下さり面倒な事務手続の世 話をして下さった科学技術庁,郵政本省,電波研究所の 関係各位に対し心から厚く御礼申し上げます。

(電波部 宇宙空間研究室長)


短   信


参議院逓信委員視察

 8月12日(木)午前11時参議院逓信委員(八百板委員長 他4委員)が本所視察のため来所された。若井所長から 本所の沿革及び研究活動の概要報告をうけられた後,約 1時間にわたって主要な研究施設並びに研究状況を熱心 に視察された。
 視察内容は,航空・海上技術衛星(AMES),スペクト ラム拡散地上通信方式,衛星搭載用マルチビームアンテ ナ,電波音波共用探査装置(ラスレーダ)等の実験装置 及び標準周波数,標準時刻の定常業務施設,更に車載局 による通話実験,コンピュータ・ネットワーク等CS実 験のデモンストレーションを見られた。短時間の視察で あったが,各項目に深い関心と理解を示された。
 なお,今回の視察には,桜井官房審議官,高橋電波監 理局審議官が同行された。


視察中の各委員



宇宙開発計画見直し要望の審議結果

 郵政省が6月9日付で宇宙開発委員会に提出した宇宙 開発計画の見直し要望(本ニュースNo. 76)はその後, 衛星系分科会及びその上部組織である第一部会において 審議された。この審論結果に基づき,8月31日の臨時宇 宙開発委員会において,「昭和58年度における宇宙開発関 係経費の見積りについて」が決定された。
 それによると,郵政省関連分の審議結果は,次のよう になった。@自主技術による宇宙開発の促進策について: 昭和58年度に計画されている放送衛星2号(BS-2)の打 上げに万一失敗した場合に備え,利用者機関の立場に配 慮しつつ適切な対応措置を講ずる。A通信衛星3号(CS -3):通信衛星2号(CS-2)による通信サービスを継続 し,また,増大かつ多様化する通信需要に対処するとと もに,通信衛星に関する技術の開発を進めることを目的 とする通信衛星3号(CS-3)について,H-Tロケットに より,本機を昭和62年度に,予備機を昭和63年度に静止 軌道に打ち上げることを目標に開発を行う。B放送衛星 3号(BS-3):放送衛星2号(BS-2)による放送サービ スを継続し,また,増大かつ多様化する放送需要に対処 するとともに,放送衛星に関する技術の開発を進めるこ とを目的とする放送衛星3号(BS-3)について,静止軌 道に打ち上げることを目標に開発研究を行う。また,打 上げ機として,H-Tロケットを使用することを基本とし て衛星の諸元の検討を進める。 C航空・海上技術衛星 (AMES):H-Tロケット(3段式)試験機の性能を確認 するとともに,静止三軸衛星バスの基盤技術を確立し, 次期実用衛星開発に必要な自主技術の蓄積を図り,併せ て,航空機の太平洋域の洋上管制,船舶の通信・航行援 助・捜索救難等のための移動体通信実験を行うことを目 的とする技術試験衛星X型(ETS-X)について,昭和62 年度に静止軌道に打ち上げることを目標に開発を行う。



「防災の日」にCS車載局が活躍

 当所では,防災の日(9月1日)に中央防災会議が主催 する総合防災訓練で,中央非常無線通信協議会(事務局: 電波監理局無線通信部陸上課)が行う非常通信訓練に参 加し,衛星経由の通話に協力した。
 当所のCS車載局(アンテナ直径1m)を国土庁構内 に移動し,CSを用いた衛星経由による国の訓練緊急災害 対策本部(国土庁内)と,国鉄静岡駅に設置してある国 鉄可搬局(アンテナ直径2m)との間でFM-SCPC回線 を設定した。国鉄可搬局から先は建設省の移動多重無線 等を用いて静岡県訓練災害対策本部(県庁内)及び災害訓 練現場である焼津市とを結び,国土庁との間に電話回線 を設定した。
 9月1日午前の訓練では,発災当日を想定し,被害,状 況報告及び救援物資の要請を受け,その要請に対する回 答を,国鉄固定局からの衛星通信回線やその他の通信回 線を用いて伝送した。午後の訓練では,発災後1日経過 を想定して,CS車載局を用いた衛星通信回線の利用によ り訓練緊急災害対策本部副本部長(国土庁官房長)と県本 部長(静岡県知事)及び焼津市長との間で情報交換を行い, その模様を会議室内にスピーカで流したがノイズもなく, 鮮明な音声が聞え良好な訓練成果を上げた。
 なお,訓練終了後参加機関関係者にCS車載局の公開 を行い,好評を博した。


CS車載局を利用した通信訓練の模様



衛星の光学追尾に成功

 当所では昨年度完成した衛星追尾光学装置による衛 星追尾実験を開始したが,5月13日夜初めて米国のビ ーコンC衛星を望遠鏡視野内に捕えることに成功した。 その後もビーコンC,スターレット(仏),ラジオス(米) の各衛星を対象に衛星追尾実験が順調に行われている。
 この装置は地球上からCWレーザ光を人工衛星に向け て発射し,衛星上でこのレーザ光を検出して衛星の姿勢 を高精度に決定する方法を開発するための研究の一環と して,試作された地上装置である。測角の分解能は1/1000 度で,器械誤差等のために追尾精度は悪くなるが,それ でも5/1000度(全角)以内で衛星を追尾することが可能 である。口径50pのカセグレン式反射望遠鏡及びガイド 望遠鏡(口径10p)を備えており,それぞれ超高感度テ レビカメラが付属し,夜間光学的に人工衛星を観測でき る機能を有している。日没後又は日出前(高度1000qく らいの衛星では数時間)太陽光に輝く衛星を観測できる が,現在はこの状態の衛星を観測して装置の試験を行っ ている。この装置は高出力のアルゴンレーザ光を発射し, 衛星に搭載された逆反射器からの反射光を検出すること ができる。
 ETS-V(9月3日打ち上げに成功し「きく4号」と なった)衛星のビジコンカメラで検出することにより ETS-Vの姿勢決定及び地球−衛星間レーザ光伝搬特性 の測定等を行い,本姿勢決定システムに関する基礎資料 を得る計画である。なお,ETS-Vを利用した実験を宇 宙開発事業団と共同で行い,順調に行けば10月下旬に第 1回目の実験が行われる予定である。


望遠鏡に捕えられたビーコンC衛星



沿岸無線電話機帯用送受信機の型式検定実施

 昭和33年瀬戸内海航行中の船舶を対象としてサービス を開始した船舶電話は,船舶に設置する電話(以下沿岸 無線電話という)と全国の加入者電話間及び沿岸無線電 話相互間を電波を介してダイヤル通話できるものである。 年々サービス区域は拡大を続け,最近では,日本全国の 沿岸をカバーし,加入者もさらに増加する情勢である。 当所の型式検定業務も250MHz帯を使用する自動接続方式 の船舶電話(空中線電力10W)を対象に対応が迫られ, 検定試験基準の検討及び機器の予備調査を行ってきた。
 本年3月25日無線機器型式検定規則の一部改正が行わ れ,沿岸無線電話は,新たに,型式検定機種として検定 が実施されることになった。早速製造中のメーカ2社か ら2台の受検申請があり,試験の結果1台が8月11日合 格し,型式検定合格1号機が誕生した。他の申請機につ いても引き続き試験を実施中である。