同 期 放 送


通信機器部

  はじめに
 我が国のテレビジョン(以下TVと略す)放送は,昭和 28年に本放送が開始されて以来30年近くになろうとして おり,その普及も進み,今日では我々の日常生活に不可 欠なものとなっている。さらに,既に実施されている音 声多重放送に加えて,文字放送,ファクシミリ放送,緊 急警報信号の重畳も検討されており,TV放送の社会的重 要性は,今後一層高まるものと考えられている。
 TV放送は,電波が遠くへ速く広く伝わるという性質を, 有効に活用しているが, それでもなお電波が届かない地 域,すなわち難視聴地域が存在する。その抜本的解消に は衛星放送が有効であり,電波研究所では,その開発お よび実験を行ってきた。しかし現在の技術では,県域の ような小さな範囲を単位とする地上の放送系の難視聴を, 衛星放送のみで解消することは容易なことではない。そ のため,毎年中継放送局の建設が進められており,現在 全国で11,000局ものTV放送局が設置されているが,な お多くの難視聴地域が存在している。また近年は,都市 周辺部の開発が進み,これまでサービスエリアの端であ った地域が宅地化した結果,難視聴世帯が新たに発生す るといった現象も見られる。
 これら難視聴の解消には,さらに5,000局程度の中継 放送局を設置しなければならないが,TV放送用周波数に 限りがあるため,周波数の割当が極めて困難になってき ており,新たな放送局の開設が不可能になりつつある。 したがって,TV放送用周波数を,より一層効率的に使用 するための技術を開発する必要が出てきた。TV同期放送 方式はその技術の一つとして期待されているものである。
  同期放送とは
 図1のように,近接した地域で同じチャネルを使用 すると,双方の電波が受信されるために,同一チャネル 混信によるフリッカーやビート縞が発生し, 正常なTV 受信のできない地域が生じる。そのため,我が国ではこ の混信保護比を40dBと定めているが,これよりも低いDU 比(希望波対非希望波電力比)でも妨害が邪魔にはなら ないようにすることができるならば, 一つのチャネル を多数の局で共用できるようになる。その一つの手段と して同期放送方式が検討されている。なお同期放送には, 「同期」という言葉の解釈により,次の2種類の定義があ る。すなわち,@完全に同一の周波数を用いて複数の局 が放送することA一定の周波数関係を保って複数の局 が放送することである。前者は狭義の同期放送である。 後者は広義の同期放送であり,オフセットキャリア方式 などが含まれる。


図1 同期方送方式の概念

1. オフセットキャリア方式
 音声信号などと異なり,TV信号には特徴的なスペクト ラム構造があり,そのエネルギーは水平走査周波数fH(4.5 MHz×1/286≒15.73kHz)と,その高調波成分に集中して いる。したがって,二つのTV放送局の送信周波数の差 を,fH×2/3,あるいはfH×4/3付近にすると,スペクトラム の重なりが少なくなり,混信妨害を図2のように15dB程 度改善できる。これが,オフセットキャリア方式で,周 波数の許容偏差は±1kHz以内である。


図2 オフセット周波数と改善度

 2. 精密オフセットキャリア方式
 TV信号のスペクトラムをさらに細かく見ると,フレ ーム周波数fF(fH×1/525≒29.97Hz)ごとのラインスペク トラムとなっている。そこで,オフセット周波数をfFの偶 数倍に一致させれば,混信防害は一層目立たなくなる。 これを精密オフセットと呼んでおり,±2.5Hzの偏差内 で,改善度は20dBになる。なおこの場合のオフセット周 波数は10.01と20.02kHz(fF×334,fF×2×334)である。
 3. 完全同一周波数放送方式
 次に,オフセット周波数が数百Hz以下の場合もfFの偶 数倍でやはり改善効果が現れ,±1Hzの周波数偏差内で 約14dBの改善度が得られる。これは超精密オフセットキ ャリア方式と呼ばれている。
 オフセット周波数をさらに下げて行き,周波数差を零 にしたらどうであろうか。この場合は妨害波も正常に復 調されて,希望波の画像に重なって見える。これが完全 同一周波数放送方式であり,前記の区分に従えば狭義の 同期放送である。以下本文ではこれを同期放送と呼ぶこ とにする。特に,希望波と妨害波が同じプログラムであ る場合には,同一画面が重なることになり,マルチパス 妨害,すなわちゴーストと同じ状態になる。このときの 改善度は,搬送波の位相差や信号の遅延時間差により大 きく変化し,10〜20dB程度である。しかしこの効果を得 るためには,ゴーストの位相変動が検知されない程度に 遅い必要がある。
 これら搬送波オフセットおよびその一形式である同期 放送による,同一チャネル混信の改善効果については 古くから知られていたが,実用化されているのは精密オ フセットまでである。その主な理由は,各局の周波数関 係を高精度に維持することが困難であったことにある。 しかし最近の発振器および回路技術の進歩などにより, 実現の可能性が高まったこと,そして何よりもチャネル の需要がひっ迫してきたことから,現在当所を中心に各 方面で,同期放送の研究が進められている。
  同期保持
 同期放送および超精密オフセット方式を実用化する上 で,最も重要なものは同期保持の方法である。これには 大別して独立同期方式と従属同期方式の2種類がある。 同期放送で許される周波数偏差は,±0.1Hz程度と考え られており,UHF帯の放送に使用すると安定度は10^-10の オーダーを要求される。
 1. 独立同期方式
 同期関係にある各局が,各々独立した安定な発振器を 持つ方式で,発振器としては水晶発振器,原子標準器等 が考えられる。発振器の安定度が向上した現在,独立同 期方式の実現性は十分にあるが,中継放送局は通常交通 不便な所に建設され,しかも局数が多いから,長期間無 調整で動作することを要求され,経年変化特性が問題と なる。
 2. 従属同期方式
 親局等からの参照周波数に同期させる方式で,周波数 の精度は参照信号に依存する。同一の参照信号を使用す る局間で同期関係が成立するが,参照信号の種類により 親局との問も同期関係になる場合と,必ずしもそうはな らない場合とがある。参照信号としては,親局の映像搬 送波,色副搬送波,映像同期信号,標準電波等が考えら れる。
 親局の搬送波を使用する方法は,構成が容易であり, 現在各方面で検討されている。一般には伝搬路の影響を 受けやすいこと,回路に非線形件があると,AM‐PM変 換により位相変動を生じ, それが順次伝搬して行く等の 問題がある。色副搬送波の場合は安定度が高く,伝搬路 の影響も受けにくい等周波数の分配方法としてすぐれて いる。しかし,番組の切換えで位相が不連続になる欠点が ある。
 一方,標準電波の利用は,電離層による夜間の位相変 動が問題であるが, これを用いる全ての放送局が同期関 係になるという,他にはない特長がある。
  ゴースト除去装置
 同期放送において,所要の混信保護比を達成するため には,受信機側の対策も極めて重要である。このゴース ト除去装置は,マルチパスによる受信障害を改善するた めの,受信機側に付加する同路である。同一プログラム による同期放送における混信は,ブーストと同じ現象で あるから,ブースト波の諸特性を測定し,受信機内でゴ ースト成分を作り出し,受信画像から差し引くことによ って,10dB以上の改善が行えると報告されている。
  アンテナ技術
 これまで述べてきた同期放送,およびそれに関連する 技術は,TV映像信号の性質を利用して混信妨害を改善す るものであった。一方,TV放送の音声に関する混信妨害 の改善も,音声多重放送が行われている現在,十分な注 意が必要である。次に述べるアンテナ技術は,入力DU 比を良くできるため,映像,音声共に有効である。
 1. 指向性
 希望波と非希望波の,到来方向が違っていれば,アン テナの指向性を制御することにより,DU比を改善できる。 特に非希望波の到来方向に,ヌル点を合わせられれば, DU比は大幅に改善される。
 2. 偏波
 一般にTV放送は,水平偏波を使用しているが,直交す る偏波を共用し,アンテナの偏波面識別度(8〜10dB) を利用してDU比を改善することができる。
 3. 円偏波
 地形や建物による反射で,非希望波が希望波と同じ方 向から到来する場合には,受信アンテナの指向件だけで は非希望波を除去できない。反射波の影響を除くには, 円偏波を使用することが有効である。図3に,円偏波に よる放送の概念を示す。このように,すべての局を同一 方向の円偏波にしておくと,反射波成分は逆旋となり, 受信アンテナの識別作用(13dB程度)を受ける。


図3 円偏波による放送

  まとめ
 TVチャンネルの有効利用を目ざす同期放送方式につい て,主として現在各方面で研究されている完全同一周波 数方式及び同期放送システムで最も重要な同期保持方式 について述べた。
 当所では,同期放送方式として,完全同一周波数方式 のみならず,超精密オフセットキャリア方式についても 並行して検討を進めている。そのために,両方式それぞ れの特徴を抽出し,比較するためのシミュレータを製作 し,実験を行うことにしている。同期放送のための技術 的検討事項及び技術開発項目は多岐にわたるが,当所で は,同期放送を行う場合に最低限確保すべき混信保護比, 同期放送状態を維持するのに必要な,搬送波の周波数安 定度及びそのための技術,TV電波の伝搬状況を中心に調 査研究を進め,同期放送に関する技術基準の確立のため 研究をすすめる計画である。

(標準測定研究室 研究官 大内 智晴)




電離層観測画像の自動処理


情報処理部

  はじめに
 ボトムサイドイオノゾンデ(電離層観測レーダ)によ る電離層の状態の観測と,観測結果による短波通信回線 の状態予測および地球環境諸現象の研究は,歴史的に当 所の最重要業務の一つであり,現在も国際観測計画の一 環として,南極及び国内5か所の観測所において15分 ごとの定常観測業務が行われている。イオノゾンデは, 地上からパルス変調された電波を上空に発射し,電離層 によって反射された電波を受信して,その遅延時間から 層の存在する見かけの高さを測定するもので,観測結果 は横軸を発射電波の周波数,縦軸を見かけの高さとした 画像データ(イオノグラム)の形で出力される。
 現在,取得されたイオノグラムから,10数項目のパラ メータ(図1,表1)の読取りがマニュアル処理で行わ れているが,この処理にはかなり熟練したオペレータを 必要とし,その育成に年月を要することや,処理の省力 化,高速化,低コスト化,誤差の均一化などの観点から, コンピュータによる自動解析処理システムの開発が期待 されている。


図1 イオノグラムのモデルと主要抽出パラメータ


表1 抽出パラメータの定義

 しかしながら,イオノグラム画像データは,@1枚当 りの情報量がぼう大であること。Aエコートレースパタ ーンの変形が多様であること。B外来電波の混入による 信号のDU比(希望信号電力対非希望信号電力比)の劣 化が著しい場合が多いことなどから,自動処理システム の開発は現在の画像処理技術にとってかなり困難な課題 となっている。
 このため,計算機応用研究室では,自動処理システム の開発上の問題点の把握と,その解決のための基礎技術 の確立を目的として,主として計算機シミュレーション による検討を行ってきた。その結果,主要な読取りパラメ ータに関しては,良好な性能を持つシステム開発の見通 しが得られたので,最も重要なパラメータとされている f0F2の抽出を中心に,処理手法と今後の計画の概要を紹 介する。
  ノイズの削減とデータ量の圧縮
 イオノグラム画像データにはおよそ周波数範囲0.5〜20 MHz,高さ範囲0〜1000qの情報が記録されており,分解 能をそれぞれ1000ステップ程度とすると,濃度情報を含 めて1枚当り数Mbitの情報量を持つことになる。後述す る集中型処理のためには,地方観測所から本所の計算セ ンターへデータ伝送を行う必要があるが,現在オンライ ン計算システム(TSS)で使用している公衆電話網によ った場合,1枚当たり10分以上の伝送時間を要すること となり,伝送コストがぼう大なものとなる。また,高速 処理を行うためには,計算機が少くとも3枚以上の画像 データを格納できる主記憶容量を持つ必要があり,かな り大規模な処理システムが必要となる。このため,デー タの伝送および蓄積を能率良く行うためには,何らかの データ量圧縮技術の導入が不可欠である。
 また,図2の例に示すように,イオノグラム画像デー タには大量のノイズの混入が見られるのが通常であり, 能率のよい解析処理のためには,あらかじめ前処理過程 において,可能なかぎりノイズの削減を行っておくこと が望ましい。種々の検討の結果,適切な空間フィルタリ ング処理(通常のフィルタが1次元の時系列信号を処理 するのに対して,図形や画像など多次元の空間情報を持 つ信号を扱うフィルタによる処理)の採用によって,エ コートレースのパターンをあまり損うことなく,外来ノ イズの大部分が除去可能であることが明らかとなった(図 2下)。


図2 イオノグラム画像データの例(上)とノイズ処理結果(下)

 しかしながら,通常空間フィルタ処理にはぼう大な演 算ステップを必要とするため,処理に要する時間が長く なる欠点がある。このため,アナログ・シフトレジスタ (BBD−Bucket Brigade Device)を利用した,極めて簡 易で高機能な並列フィルタ演算機能を開発し,観測と同 時にノイズ削減を行うリアルタイムノイズ処理を可能に している。
 抽出すべきパラメータの大部分がエコートレースの位 置に関するものであることから,濃度情報のレベル削減 がデータ量の圧縮に有効と推定される。このため,局所 適応型の閾値処理(画像データの部分領域ごとに異った 閾値を用いる飽和処理)による濃度情報の2値化と,2 値画像を走査したときに発生する白黒のランの長さを符 号化する1次元ランレングス符号化方式の採用によって, データ量を数10kbit(原始データの約1/100)程度に圧 縮できることが明らかとなった。
 これらの検討によって,データ伝送に要する時間が, 公衆電話網で10数秒,高速データ回線等では1〜2秒程 度に短縮されるとともに,処理システムの高速メモリー へのデータ格納の効率化が図られ,かなり高能率なシス テムを構成できる可能性があることが明らかとなった。 さらに高能率な2次元符号化方式などを採用すれば,よ り高い圧縮効果を期待することもできる。
  パラメータの抽出
 大量の情報を含むイオノグラム画像デ-タの自動解析 処理を能率良く行うためには,各パラメータの抽出に必 要な処理すべきデータ領域を,あらかじめ,いかに限定 できるかということがキーポイントとなる。図3はこの 領域限定の目的に良く用いられるプラン処理の例で,全画 面を約300の部分領域に分割した場合の,各領域の平均信 号密度が示されている。矩形の枠で示されるように,信号 密度の高い部分領域を探索することによって,エコートレ ース・パターンの形状の概要を把握でき,各パラメータ の抽出に必要な処理領域をかなり限定することができる。 図の中で領域Aはf0F2,Bはfmin,CはE層およびEs層関 連のパラメータの抽出領域を示している。以下,各パラ メータの抽出法について述べる。


図3 プラン処理による処理領域の限定

(1) f0F2
 f0F2はF層反射波の正常波臨界周波数で,長距離短波 通信回線を運用するうえで最も重要なパラメータである。 図4はf0F2抽出領域のエコートレースのリーディングエ ッジ(下縁)と,正常波トレースの近似曲線であり,図 に示されるようにトレースパターンは臨界周波数の近傍 で著しい遅延を示し,発射周波数fと見かけの高さh'の関 係は双曲線状に変化することが知られている。図は上記 のエッジ情報に対してAnalysis-by-Synthesis法(合成 による分析法)によって求めた近似双曲線を示しており, パラメータf0F2の値は,同曲線の垂直漸近線の位置から 決定することができる。


図4 foF2抽出領域のトレースエッジ(太線)と近似双曲線(細線)

(2) M(3000)F2及びM(3000)F1
 パラメータM(3000)F2およびM(3000)F1は,F2およ びF1層による斜め伝搬通信の場合の最大利用可能周波数 を示す係数であり,上記双曲線が決定されれば,同曲線 と標準伝送曲線との接点を求める問題として解析的に処 理することができる。
(3) fmin
 fminは電離層による反射波の最低周波数を示すパラメ ータで,先に述べた限定領域のデータに対して,平滑化 フィルタ処理および閾値処理を施すことによって,発 射周波数の増大に対してエコートレースが初めて出現す る位置として比較的容易に検出することができる。
(4) E層及びEs層関連パラメータ
 E層領域のエコートレース・パターンは極めて複雑な 変化を示し,E層及びEs層関連のパラメータの抽出には かなり高度なパターン認識技術の導入が必要である。こ れらE・Es属領域パラメータ(Es Type,f0E,f0Es,h'E,h'Es) およびh'F,h'F2の抽出には,従来から当研 究室において検討を行っている手書き漢字の自動認識方 式が使用されている。トレースのセグメント(線素)の 相対分布と接続関係を利用した認識手法が採用され,大 部分のデータに対しては良好な自動抽出結果が得られて いるが,極めて複雑なEs層トレース・パタ-ンの場合の Es Typeの認識処理,Es層の多重反射トレースがF層ト レースと接近または重複している場合や,Es層など下層 の遮へいによりF層トレースの明瞭度が低下した場合の h'F,h'F2の抽出処理に関しては, まだ誤認識の可能性 があり, システムの実用化のためには今一歩検討を深め る必要がある。
(5) fbEsおよびfxI
 fbEsおよびfxIの抽出法については現在検討中である が,fbEsについては,Es Typeが正しく認識できればfmin とほぼ類似の手法で抽出可能と思われる。電離層による 電波の散乱状態などの指標となるfxIの抽出には,上記の 他のパラメータの抽出方法と異質のTexture(きめ−地 肌などの)認識の手法の導入が必要である。
  実用化システムの検討
 実用システムの構築方法には種々の形態が考えられる が,原始データがぼう大な情報量を持つこと, 1日あた り約600枚の画像の処理を行い,かつ1枚の画像から10 数項目のパラメータの抽出を行う必要があることから, システムには極めて高速の演算機能と,大容量クイック アクセスメモリを用意する必要があり,各観測所におけ る分散処理方式よりも,図6に示すような集中処理方式 がコストパフォーマンスの面で得策と考えている。


図5 集中処理システムの構成例

 各観測所では収集したイオノグラム画像データをフィ ルム記録するとともに,ノイズ削減とデータ圧縮符号化 を行い,公衆電話網,同データ網または衛星通信網など を使用して,本所の画像処理センタへ実時間伝送する。 処理センタでは各観測所のデータのモニタリングと,パ ラメータの自動抽出処理を行う。データの品質劣化など により自動処理が不可能となったものについては,必要 に応じてディスプレイとデータタブレットを使用したマ ニュアル処理を実施する。フィルムによる画像データの 蓄積は,依然として最もコストパフォーマンスの優れた 方式であり,従来通り郵送によりデータベースに蓄積さ れ,バックアップ,精密解析および長期保存等の用途に 使用される。
 このような集中型システムの採用により,処理センタ では全国の観測結果の即時モニタリングおよび数分以内 のパラメータ値の取得が可能になるほか,処理に必要な 大容量メモリーおよび高速演算機構の有効利用を図るこ とができる。集中型システムの最大の検討課題は,能率 の良い原始データの伝送方式の確立であるが,この点に 関しては,すでに高能率なデータ圧縮符号化方式の開発 に成功しており,また通信衛星(CS)と小型地球局を使 用した山川観測所−本所間の伝送実験を実施し,良好 な結果を得ている。57年度には,公衆電話網による伝送 実験を実施し,回線品質,伝送コスト等の比較検討を行 う予定である。
  おわりに
 これまでの基礎検討の結果,重要パラメータとされて いるf0F2,M(3000)F2,fmin,f0Eについては,ほぼマニ ュアル処理に匹敵する能力を持つ抽出方式が開発され, 他の多くのパラメータに関しても,若干の改良によって 実用に耐える性能に達するものと考えているが,複雑な パターンに対するEs Typeの認識精度の向上および,fxI の抽出方式については,もう一歩の基礎検討の集積が必 要である。
 また,現状の処理頻度,抽出パラメータ数および抽出 精度に見合う性能を持つ自動処理システムを実現するた めには,具備すべきハードウェアならびにソフトウェア がかなり大規模なものになると推定される。このため, 真に効果的なシステムの構築のためには,処理結果の今 後の需要動向の考察等をふまえた,パラメータ数や処理 頻度等の見直しの検討も重要と考えている。
 今後の課題としては,上記のパラメータ抽出手法の補 足・改良の他,データ伝送方式の選定や処理手法の簡略 化などのシステムの最適化の検討,処理不能の場合の前 後のデータを使用したパラメータ値の自動内挿法の開発 等が残されており,実用システムの早期実現へ向けて引 き続き努力したいと考えている。

(計算機応用研究室長 吉田 実)




光&レーザ・リモート・センシング研究会議に出席して


浅井 和弘

 どんよりとした冬空の東京を飛び立って10時間。飛行 機の窓からは,どこまでも抜けるような2年振りのカリ フォルニア・ブルー・スカイがあるはずだった。ところ が,実際はタイ航空の運行が半日遅れとなったため,鹿 島セントラルホテルで夜明けを迎えていた。したがって, アメリカに入国したのが夜中の1時半。この先が,多難 に思われる。
 「光&レーザ・リモート・センシング研究会議」は,2月9日 〜11日の3日間,カリフォルニア州モントレ市の“ホリデー イン・モントレ”で開催された。会議の実行委員長は,MIT. (マサチューセッツ工科大学)リンカーン研究所のProf. A. Mooradian とDr. D. Killingerで,会議の目的は「最新の光 及びレーザ技術を利用した大気パラメータ(温度,湿度 風速,風向,そして微量気体分子の濃度)の遠隔測定法 の研究・開発の現状と動向」について世界の専門家達が 集まって討議したり情報を交換し合うことにある。参加 者は,約150名で,うち外国からの参加は日本から筆者 と環境庁公害研の竹内氏の2名,その他英国,西独,仏, スウェーデン,ノルウェーから合わせて16名が出席した。


表 研究会議のプログラム

 会議全体に対する感想としては,従来の様にトピック 的な報告はなかったが,各国とも地味ではあるが着実な 研究の進歩が見られた。一方このリモート・センシング 技術に対する他分野(例えば,気象,大気物理,大気化 学,環境行政等)からの期待が年々大きくなっているせ いか,レーザレーダ装置を使った大がかりな実験も多く 見受けられた。次に主なセッションについて話を進める。
(1) 赤外域レーザレーダ
 この赤外域での研究は,CO2レーザと光波ヘテロダイ ン検波法を組み合せたレーザレーダ開発が近年主流と なっている。米国NOAA(国立海洋・大気研究所)の WPL(波動伝搬研究所)では,成層圏(高度8q)内の風 向,風速の測定に成功しつつあった。またNASAのMS FC(マーシャル宇宙飛行センタ)では,CATC (Clear Atmospheric Turbulence)観測用装置をコンベア990に 搭載し,実験を行っており,現在飛行機より3q先まで の風向,風速の測定に成功している。一方,筆者等が環 境庁の協力のもとにこの4年間研究を行ってきている広 域オゾン測定用航空機搭載型CO2レーザレーダと同様な 研究について,我々の他にNASA GSFC(ゴダード宇宙 飛行センタ),西独バッテル研究所,カリフォルニア工科 大・JPL(ジェット推進研究所)の合せて4件報告があ った。筆者等は,会議の席上搭載型CO2レーザレーダの 研究開発において,(1)CO2レーザの小型・高性能化 (2) 地表面アルベド・スペクトルの把握の2点が重要である ことを飛行機実験や室内実験のデータをもとに明らかに した。他の研究者等も同様な報告であり,今後これらの 点を如何に解決していくがいろいろと議論がなされた。
(2) 紫外・可視域レーザレーダ
 この分野は,レーザレーダが発明されて以来この15年 間以上ずっと主役であったが,ここ2,3年前述のコヒ ーレントCO2レーザレーダに席を譲った感がある。しか し高度10qから120qの範囲で,Na,Li,K等の原子密 度分布,水蒸気,オゾン,OH等気体分子の測定に対する 地道な努力がなされており,大気物理,大気化学の分野 での大気モデルのパラメータに使い得る立派なデータが 蓄積され始めている。
(3) パッシブ・リモートセンシング
 この分野は,電波天文学やマイクロ波ラジオメータの 光波への拡張であり,主にNASAのGSFCで火星,金星 上でのCO2の観測や赤外星上でのアンモニアやメタンガ スの観測のためのCO2レーザヘテロダインスペクトロメ ータの研究が盛んに行われており,筆者にとっても非常 に興味深い討議が多数なされた。
(4) レーザ及び光波検出器
 このセッションは,近年精力的に研究がなされている 光波ヘテロダイン用の高性能CO2レーザやミキサーとし ての赤外半導体素子,局発用半導体レーザの開発の動向 について報告があった。
 会議のあったモントレは,サンフランシスコから南へ 130qのところにあり,隣り町のカメールと並び美しい 海岸線が印象的であった。この地は,映画「エデンの東」 の舞台となったサリナス谷が海に面した所で,米国有数 の保養地帯であり,ジャズファンにとっても良く知られ た「モントレ・ジャズ・フェスティバル」の開催地であ る。こんなすばらしい所での会議ではあったが,過密プ ログラムのため抜け出す機会が見つからず,3日間ホテ ルにいたことが今もって悔まれる。また,予感通り,帰 路の飛行機も故障のため飛行できず,2日間シアトルの ホテルにかんづめとなった。
 最後に,今回このような有意義な機会を与えてくれた 本研究会議実行委員会と種々御配慮,御世話いただいた 当所関係の方々に深く感謝いたします。

(通信機器部 主任研究官)


短   信


河野哲夫元所長に勲二等


 光電波研究所長河野哲夫氏には,菊花香る11月3日 の「文化の日」にあたり,多年にわたっての電波技術の 研究開発並びに電波行政貢献の功績により勲二等瑞宝章 受賞の栄に浴され,9日午後皇居において勲章伝達式が 行われた。同氏は昭和12年3月東北帝国大学卒業と同時 に当時の逓信省電気試験所に入所されてから,電波研究 所第四代所長として48年5月に退官されるまで,一貫し て無線通信に関する研究並びに後進の指導に尽力され, 特に対流圏散乱通信,宇宙通信の発展に対し極めて顕著 な業績を挙げられた。御退官後も三菱電機株式会社,株 式会社ゼネラルの顧問として活躍されると共に,永年に わたって電波技術審議会委員として我が国の電波行政に 大きく貢献された。この度の叙勲は御本人・御家族の栄 誉であるばかりでなく,当研究所にとっても非常に慶ば しきことであり,心からお祝い申し上げると共に並々の 御発展をお祈り申し上げる次第である。



第63回研究発表会開催

 10月27日,第63回研究発表会を4号館大会議室で開催 し,部外の来聴者86名を迎え,午前3件,午後5件(プ ログラムは本ニュースNo. 78に掲載)の研究成果を発表 した。
 講演では,BS(ゆり)による衛星放送実験及びISS-b (うめ)による電離層観測実験の最終報告が行われ,10数 年にわたり当所が大きな努力をしてきた宇宙開発も,そ の第一世代が終りつつあることを感じさせた。またBS 実験の結果がBS縄2の設計にどう生かされているか,CS, BSを用いた準ミリ波高仰角電波伝搬実験報告では降雨 減衰と交差偏波識別度との関係はあるか等について活発 な討論が行われた。これら実験の成果は,論文の形で発 表される予定である。



第11回電波研親ぼく会開催

 第11回電波研親ぼく会総会並びに懇親会が,10月23日昨 年に引き続き電波研究所で開催された。当日はさわやかな な秋晴れに恵まれ,OB57名,現職34名が参加して盛会で あった。総会は,村主幹事の司会で進行,IFRB委員とし て活躍中の栗原会長に代って菅野副会長のあいさつ,引 続き新会長に若井所長を選任し,新会長のあいさつを受 けた。又,栗原前会長を顧問に推薦承認の後幹事を指名 し,新代表幹事生島衛星通信部長が昨年総会以降の経過 報告を行い,新副会長金田次長の閉会のことばで無事に 幕を閉じた。4号館をバックに記念撮影の後,会場を講 堂に移し,小泉幹事の司会で懇親会が開かれた。会場に は早川さん(通機)が電波研構内で採取して飾った草花 が人目をひき,今さらながら電波研のすばらしい環境を 認識した。会場は壊しい人,人,人。料理はホカホカお でんが人気を集め,コップを片手に時の経つのを忘れ楽 しい一時を過し,お互いの健康と,活躍を確かめ合い, 次回の再会を楽しみに19時過ぎ散会した。