サイトダイバーシチ通信実験


鹿島支所

  はじめに
 現在,衛星通信には主に10GHz以下の周波数帯が使用 されているが,最近の衛星通信技術の発展に伴い10GHz 以上の周波数帯の使用が可能となり,さらに通信需要の 増大に対処するため,より高い周波数帯の開発が新たに 望まれてきている。しかし,準ミリ波,あるいはミリ波 と呼ばれる高い周波数帯の電波は,降雨減衰を強く受 けるという短所を持っており,この影響をどのように軽 減するかが大きな問題の一つとなっている。このために 最も有効な手段の一つとして考えられているのがサイト ダイバーシチ技術である。この技術は,電波に強い減衰 を与える激しい雨は大抵十数q以内の小さな範囲に集中 して降るという性質を利用するもので,二つの地球局を 十数q以上離して設置し,二局間を地上回線で結び雨の 降っていない(あるいは弱い)側の地球局を衛星との通 信に用いようとするものである。
 当所では実験用静止通信衛星(ECS)を用いたミリ波 衛星通信実験の主要項目の一つとしてサイトダイバーシ チ通信実験を計画し,主局・副局から成るサイトダイバ ーシチ実験システムの開発を行った。しかし,1979, 1980年の相次ぐECSの静止化失敗で当初予定していた実験 の実施が不可能となった。そこで,ECSの代替実験の一 つとして,現在実験を実施中の実験用中容量静止通信衛 星(CS「ゆり」)のKバンド(20GHz)回線を用いた下 り回線のサイトダイバーシチ実験を実施することとし, 1981年6月から実験を開始した。
 開発したシステムでは,通信方式としてPCM/PSK/ TDMA(Time Division Multiple Access)を用いており, TDMA信号に与えられる無送信時間(ガードタイム)を 利用して,データの欠損及び重複のない無瞬断のルート 切替えを行うことが可能となっている。ここでは,この システムの概要と実験で得たいくつかの結果について紹 介する。
  実験システム
 ECSによるサイトダイバーシチ実験システムを構成す るために,鹿島支所とそこから約45q北方にある平磯支 所に地球局を設置し,それぞれ主局,副局とした。両局 には同一設計の送受信装置及びPSK変復調装置が設置 されており,2局間の高速ディジタル信号(60Mbpsのべ ースバンド信号)伝送のためにマイクロ波帯(7GHz) の地上連絡回線が設けられている。二つのほぼ同一性能 の地球局で構成されたバランス型のサイトダイバーシチ システムであるが,TDMA制御部及び切替え制御部等の 心臓部は主局だけに置かれており,機能的には主局・従 局型の構成になっている。
 図1に,改造後のCS下り回線の切替え実験システム のブロック図を示す。切替えの機能に重点を置きTDMA 制御機能等については省略して示してある。両局間の連 絡回線は,衛星回線受信データの高速伝送の外,副局の 状態監視等のための制御信号の伝送をも行っている。


図1 サイトダイバーシチ受信切替え実験システム

 無瞬断の切替えを実現するために,主局ルート側には, 主局ルートと副局ルートの電気的長さを等しくするため の固定遅延線が挿入されている。他方,副局ルート側に は可変遅延線が挿入されているが,これは衛星の位置変 動等による両ルートの長さの差の変動を吸収するための ものである。両ルートの伝送品質の比較結果に応じて下 りルートの切替えが行われ,両ルートの復号信号のうち 一方が選択される。両ルートのデータは遅延回路を通り 同じタイミングに合わされており,且つ回線切替えはデー タのないガードタイムの時間内に行われるので,ルート を切替えることによるデータの重複や欠損が避けられる ことになる。
 可変遅延線の制御は両ルートで受信された同期用信号 (同期ユニークワード,UWと略す)の検出タイミングの差 を用いて行われており,その差がなくなるように750μsec ごとに1回の制御が行われる。CSを用いた衛星折り返し の実験から,この制御が衛星位置の日変化に良く追従し ていること,及びダイバーシチ切替え時にデータの重複 や欠損がないこと等が確認されている。
  ダイバーシチ切替え制御
 ダイバーシチ切替えでは,主局,副局各ルートの伝送 品質を測定し,その情報を用いて選択すべきルートを決 定する。本システムではその情報としてビット誤り率 (BER),または同期ユニークワード不検出率が用いられ る。BER測定は,データバースト中に設けた特定の時間 帯に既知パターンの符号例(PNパターン:8000ビット/ フレーム)を送信し,受信側で誤ったビットを検出する ことによって行われる。
 伝送品質の測定方法には一定計数法と一定時間法が用 意されている。一定計数法による切替えでは,どちらか のルートのピット誤り(あるいはUW不検出)の数が あらかじめ設定した値に先に達した時,そのルートの品 質は他のルートのそれよりも悪いと判断してルートを切 替え,新たに次の測定を開始する。また,一定時間法に よる切替えでは,ある一定時間内に発生した両ルートの 誤りビットをそれぞれ計数し,その多少で伝送品質を判 定し,ルートを切替える。
  ダイバーシチ効果
 CSのKバンド(20GHz)下り回線を用いたサイトダイ バーシチ切替え実験で得られたデ-タの例を図2に示す。 (a)は主局ルートのBER時系列データ,(b)は副局ルー トのBER時系列データである。BERデータは50msecご とに測定されているが,図ではスピン変動(CSのスピン周 期,約0.65秒)によるBERのばらつきを除くために1秒 平均の値を示してある。(c)に,一定計数法(設定ビッ ト誤り数,100)のダイバーシチ切替え制御によって選択 されたルートを示す。(d)は, このルート選択を基にダ イバーシチ切替えが行われた後のBERである。図2から, 両ルートのBERの大小関係に応じて,ルート選択が効果 的に行われていることが確認できる。


図2 一定計数法によるダイバーシチ切替えの例

 次に,ダイバーシチ切替えの効果を調べるために図2 の(a)と(b)に示したデータを用い切替え制御部と同じア ルゴリズムで計算機による切替えを行った。図3(d)〜 (f)にそれぞれ伝送品質の測定時間が0.25秒,1秒,25秒 の一定時間法による切替えを行った後のBERの累積確率 を示す。図から,測定時間の選び方によってはダイバー シチ効果が劣化することがわかる。これは,測定時間が 長ければ伝送品質の変動に追従した切替えができなくな り,また短ければ測定精度が劣化 することから切替え誤りが生ずる ためと考えられる。


図3 BERの累積確率分布

 伝送品質の変動要因としては, 第一に降雨減衰の変動があげられ, また他にCSのようなスピン衛星 の場合にはスピンによる変動も無 視することはできない。技術試験 衛星ETS-Uのビーコン波(34.5 GHz)を受信して得た降雨減衰デ ータの解析から,降雨減衰の測定 値は,測定時間(平均時間)が増 大するにつれて分散が増大する傾 向にあり,発散性の時系列である ことがわかっている。このことか ら,降雨減衰の影響を受けたBER の測定値の分散も測定時間τが長 くなると増大すると考えられ,結 果として測定時間τを長くすると 降雨減衰の変動に追従した切替え ができなくなる。一方,スピン変 動による切替え誤りの発生は次のように考えることがで きる。スピン変動を受けたBERの時系列データはビット 誤りの発生の多い部分と少ない部分とをスピン変動の周 期Tsで繰り返す。このために,測定時間が約Ts/2の場合 測定時間のタイミングによっては,ビット誤りの発生が 少ない時間帯における測定データの比較結果をもとに次 のビット誤りの発生が多い時間帯におけるBERの優劣を 推定することになり,切替え誤りが起きやすくなる。逆 に,測定時問をスピン周期より長くとれば,ビット誤り の発生個数の多い時間帯を最低1回は含むことになるの で,このようなスピン変動に起因する切替え誤りは発生 しないと考えてよい。
 図3において,測定時間τ=0.25秒でダイバーシチ効 果が劣化しているが,この時間はCSのスピン周期のほ ぼ半分にあたることから,ここで考察したスピン変動の 影響であると考えられ,測定時間が長すぎると降雨変動 に追従した切替えができなくなり,切替えに誤りが生じ ていることを表わしている。切替え誤りによるダイバー シチ効果の劣化は,スピン周期Tsより若干長い時間を伝 送品質の測定時間とした場合(CSによる実験では約1秒) に最小となることがわかった。
  おわりに
 ECS実験のために整備したPCM/PSK/TDMA方式に よるサイトダイバーシチ実験システムを改造し,CSを用 いて受信切替え実験を行った。その結果,可変遅延線は 正常に制御されており,切替え時にデータの重複や欠損 のない切替えが実現されていることが確かめられた。ま た,ダイバーシチ切替え機能についても,降雨変動に追 従した切替えがなされることを確認した。
 一定時間法による切替えでは,測定時間によってダイ バーシチ効果に差が生じることから,効果を最大にする 測定時問について検討を行った。その結果,スピン変動 の影響を考慮すると,スピン変動の周期よりやや長い測 定時間が最適であることがわかった。
 一定計数法による切替えでは,計数すべきビット誤り の数を100に設定して,ダイバーシチ切替えが適切に行わ れていることを確認した。この方法による切替えの場合 にも最大のダイバーシチ効果を与える設定ビット誤り数 が存在すると考えられるが,これについては今後の検討 課題である。
 今回の実験では平磯副局改造の際の制約から送信ルー ト切替え実験は行っていないが,送信切替え時に必要な 可変遅延線制御には受信切替え時の制御量がそのまま適 用できると予想される。上り回線の伝送品質測定方法と 測定時間についてもここで行った検討が応用できると考 えられるが,その場合,衛星折り返しの伝搬時間が与え る影響を考慮しなければならない。衛星折り返しの伝搬 時間は約0.3秒であるから,上り回線伝送品質の比較結 果は約0.3秒後に得られる。この遅延時間がダイバーシ チ効果にどう影響を与えるかは興味深い点であるが,1 〜2秒程度以上の測定時間を用いる場合には,その影響 は少ないであろう。
 本サイトダイバーシチ通信実験は,国際電信電話株式 会社研究所の協力を得てCS応用実験として実施されて いるものである。本実験に協力された方々に深謝します。

(第一宇宙通信研究室 研究官 鈴木良昭)




IEEE/AP-S国際シンポジウムに出席して


手代木 扶

 今年のIEEE/AP-S(アンテナ・伝搬)国際シンポジ ウムは5月24日から5日間,米国・ニューメキシコ州の アルバカーキ市にあるニューメキシコ大学を会場にして 開催された。例年どおり,URSI米国国内会議の外,今回 新たにNEM(Nuclear Electromagnetic Pulse)と合同で あった。


“プエブロタイプ”のニューメキシコ大学の建物

 NEMは主に核融合に関連して電磁波を扱う分野であ る。今回特にNEMが一緒になったのは世界で最初の原 爆開発以来,ニューメキシコ州が今なお原子力,核融合, 核兵器研究の中心になっていることと深い関係があるこ とにもよるのであろう。
 APシンポジウムの論文は約200件,日本からは14名が 参加した。筆者は当所で進めているマルチビームアンテ ナに関する研究発表をするとともに,諸外国の発表を聴 講した。以下,マルチビームアンテナ(MBA)のセッシ ョンの内容を中心に,今大会の特徴と感想を述べる。
 APでは28セッションがあったが,全体として衛星関 連のアンテナの発表が多いという印象を受けた。MBA, レンズ,アンテナ,成形反射鏡,周波数選択性鏡面等の セッションのほとんどが衛星用アンテナを扱ったもので あった。又,「アンテナシステムの歪みと誤差」のセッシ ョンの中の大形アンテナの熱ひずみの解析などもシャト ル時代の衛星アンテナを想定したものである。
 MBAのセッションは二つあり,米国から7件,ESA1 件,日本2件の発表があった。このうち,米国の3件は NASAの30/20GHz国内衛星通信計画に対するGE社, TRW社,ヒューズ社からの提案で,いずれも多数の固定 ビーム(GE案では64)と少数のスキャンニングビームを 持つオフセットカセグレンアンテナである。このアンテ ナでは,カバレージ内最低利得を最大にするビーム合成 法,周波数再利用のために低サイドローブ,低交差偏波 が特に重要な課題となっている。
 ESAのRoedererが発表したのは30/20GHzで欧州全 域を連続カバーする108個のビームと都市カバレージの 12ビームを持つMBAの検討結果であった。ただし,この ような多数ビームの場合には,広角走査ビームの能率が 低下し(-8dB程度),ビーム合成法と低サイドローブ化 には,まだ多くの研究の余地が残されていると感じた。
 ロッキード社のChadwickは広角走査ビームや低サイ ドローブ化のため,3種のアレーフイードについて論じ た。
 コムサット研究所のDiFonzoの話もおもしろかった。 将来は,必要なビーム間分離を確保しつつ,隣接ビーム を接近させることが重要になることを指摘し,このため の技術を“microwave optics”と呼んでいた。カバレージ は一定の強さで照射し,その外側は急峻に放射レベルを 低くするのは光に似てくるからである。
 筆者の発表したマルチビーム形成回路については,特 にESAのRoedererが熱心に質問してきた。ESAも将来 の海事衛星を目標に19ビームのMBAを開発しているから であろう。我々の討論はセッション終了後も続き,ビー ム形成回路だけでなく,MBA全般に及んだ。アルバムを 持参したのが大変役立った。残念なことにこの時まで, 実測データが間に合わなかったのであるが,その後間も なく取得できたデータにより,予期したとおり,ビーム 形成精度,消費電力,寸法,重量等すべての点で我々の ビーム形成回路がESAのものよりも優れていることを 確認できた。今思うと,会場で彼にこれらのデータを示 せなかったのが本当に残念であった。
 今大会の特徴の一つに,ダイクロイック面(2周波数 の一方に対し反射,他方に対し透過となる面)の論文が 増え,一つの独立したセッションができたことがある。
 また,マイクロストリップアンテナのセッションが三 つに増えたのも驚きであった。ただ,ここで気がついた のは欧米では理論の論文が圧倒的に多いのに対し,日本 を含めその他の地域では実験中心の論文は多いが,理論 的研究が極端に少ないということであった。実はこれに 似たことは他にも見られるのである。理論と数値解析の 分野では三つのセッションで計25件の発表があったが, うち18件はアメリカで日本からはわずか1件であった。 実際的問題であっても理論研究を充実させることで,一 段と広い視野に立って質の高い研究を追求できるように なると思うが,この点で日本のアンテナはまだまだ研究 の底が浅いように感じられるのである。
 アルパカーキは砂漠の中にある人口40万人程のニュー メキシコ州最大の都市である。どこまでも澄みきった空 と広大な土地,そこにポツンポツンと建っている窓が小 さく,ヘリが丸みを帯びた茶色の家々が印象的である。 何でもこのやや泥くさい感じのする家は,昔のプエブロ インディアンの生活の知恵を継承しているとのことで, “プエブロタイプ”と言うのだそうである。そして,陽気 で,親切で, しかしどこか抜けているような愛すべき人 達。そう言えば,宿泊を頼んでいた大学の寮からOKの 返事が来たのも,帰国後2週間程だってからだった。
 今大会には筆者が5年前に滞在していたNBSのアンテ ナ研究者も大勢参加しており,旧交を温め,最近の研究 について話を聞くことができた。
 また,以前からひそかに期待していたヨーロッパの友 人を作ることもできた。本当に有意義な研究集会だった と思う。
 85年には京都で第3回ISAPが開かれる。アルバカー キには日本から持参したフレアナウンスメントを配布し たり,会う人ごとにPRをしてきたが,懐しい友人達と 今度は日本で再会できると思うと大変楽しみである。
 最後に,今回のシンポジウムに参加する機会を与えて いただいたことに対し,関係の方々に厚くお礼を申し上 げたい。

(衛星通信部 第三衛星通信研究室長)




第47回IEC大会に出席して


久保田 文人

 1982年のIEC大会は5月31日〜6月11日,ブラジル国 リオ・デ・ジャネイロ市郊外のHotel Nacional会議セン ターで,総会,理事会はじめ28の専門委と小委が開かれ, 39か国から約850名が参加した。日本からは高木昇IEC 前会長,山村昌IEC部会長以下25名が参加した。筆者は この大会に無線通信専門委(TC12),移動無線小委(SC 12F),同作業班(SC12F/WG1)の代表として参加し たのでその概要と動向について紹介する。また残余議題 の処理のため11月2日〜5日, フィンランド国ヘルシン キ市で特別に開催されたSC12F延長会議にも出席した ので, その成果も併せて述べる。
 IECについてはすでにニュースNo. 42,72でも紹介し ている。今大会の重要決定事項は,情報工学 (Information Technology)を取扱う新専門委の設立と,1983年大会の 東京開催の決定とである。ディジタル技術を基盤とした 情報化の波があらゆる産業分野に押寄せている。IECは これまで各専門委ごとに対処してきたが,情報化は各分 野が独自に行うばかりでなく,互いに結びつけることが 大切であり,総合的に横割に取扱う必要性を痛感してき た。今回,新専門委が発足することにより,IECの新た な活動が開始されたと言える。以下TC12,SC12Fの審 議内容から主なものをひろってみる。
  無線通信専門委員会(TC12)
 6月5日と10日の2回に分けて開かれたTC12へは,20 か国から49名の代表及びCCIR等からオブザーバが出席 した。傘下に持つSC12A〜Hの8小委からの報告とその 承認及び全体の作業計画の決定がTC12の審議事項であ る。12A(受信機小委)からは「他の機器,システムに 接続できるTV受信機の技術要件」の調整のための作業 班の設立,12G(有線分配)からは「衛星からの信号の分 配」に関する作業班の設立,12E(マイクロ波)からは今 後ディジタルマイクロ波方式の標準化作業に専念するこ とが報告されたことが注目される。発展途上国向けの放 送用送信装置の最小要求性能の標準化にIECが取組むよ うにとのインド提案が東京会議(1980)に続いて審議さ れ,CCIRの所掌との重複が心配だったが,否決された。 また情報技術を取扱う新専門委の設立が報告され,でき て間もない12H(Videography Equipment for End User) の所掌が新専門委へ吸収されることになろう。TC12の次 期会合は1984年春,ヨーロッパ地域で開催される予定で ある。
  移動無線小委員会(SC12F)
 この数年来SC審議の遅延がら,18件もの審議文書を 抱えた12Fは,6月1日〜4日,新議長(Mr. Lightfoot, 英国)のもと11か国から25名の代表が出席して開かれた。 しかし議題の約半数を消化するにとどまってしまったた め,11月に4日間の延長会議を開催して審議を完了させ るという前例のない事態となった。ヘルシンキ市内の Hotel Presidentiを会場に開かれた延長会議には10か国 から15名の代表が出席し,精力的な審議をすすめて懸案 をすべて処理し,新作業を開始できる体制固めができた。
 両会議の結果,中央事務局文書として回付され,IEC 標準測定法となることが確定したのは次の13件である。
  送信機隣接チャネル電力測定法
  隣接チャネル電力測定器規格
  送信機輻射電力測定法
  送信機スプリアス発射輻射測定法
  受信機スプリアス輻射測定法
  輻射測定用30mテストサイト
  輻射測定用3mテストサイト
  SINAD測定用歪率計規格
  スピーカ内蔵受信機SINAD測定法
  アンテナ内蔵受信機可聴周波数(AF)応答測定法
  SSB送信機間相互変調測定法
  選択呼出受信機測定法
  レイリー・フェージング・シミュレータ規格
 これで10年来取組んできたアナログ技術関係の測定法 の標準化はほぼ完成したことにより,今後はディジタル 技術関係が作業の中心となる。次期会合は1984年初頭, データ伝送受信機測定法を議題に開催される予定である。
  SC12F/WG1作業班
 これは12Fの準備会合の性格を持つ唯一の作業班であ る。これまで4度出席した経験から,移動無線のIEC標 準は実質的にはこの作業班の審議から生まれていると言 える。
 今回作業班は6月7日〜10日,12Fの翌週開催された。 作業の中心は昨年来のデータ伝送受信機測定法の原案完 成に注がれ,すでに回付中の文書と合体させた新しい幹 事文書の作成が合意された。これは次期12Fの最重要議 題である。またディジタル通信に関する各国の周波数利 用計画,開発動向が紹介されたが,将来の統合通信網時代 を控えた動向として注目された。この外,日本から提案 したランダムフィールド測定,インパルス雑音シミュレ ータも審議され,幹事文書の作成が合意されて標準測定 法への道を歩み出したことは喜ばしい。次期会合は1983 年4月パリで,データ伝送送信機測定法及び日本提案の 2件を中心に開催される予定である。
 最近ディジタル通信方式の実用化への努力が盛んにな ってきたが,技術基準を検討するに当って適当な測定法 が確立されていないことが問題となっている。この分野 の研究を強力に進め,IECへ標準測定法として提案して ゆくことが,研究開発を促進する上で必要であると痛感 している。
 最後に,会議出席にあたりお骨折りいただいた関係各 位に深謝申上げます。

(通信機器部 通信方式研究室 研究官)


短   信


設立30周年記念講演会

 5月に始まった設立30周年記念行事の一つとして(本 ニュースNo. 77参照)11月26日午後,4号館大会議室に おいて,電波界の大先輩で電波研究所にも縁の深い難波 捷吾氏(KDD社友),二条弼基氏(伊勢神宮大宮司)を招 き講演会を開催した。
 難波氏は「電波研究の懐古」と題し,昭和初期におけ る長波の研究を中心に当時の電波界の動きにふれ,さら に中年以後の人間の生き方などを熱っぽく講演した。ま た二条氏は「伊勢神宮に奉仕して」の題で講演し,奈良 ・平安のしきたりを今も受け継ぐという聖域,伊勢神宮 の意外な姿をたっぷりのぞかせてくれた。当日の聴講者 は138名を数え,両氏の珍しい話に耳を傾けていた。ち なみに両氏の略歴は次のとおりである。
 難波捷吾氏(工学博士)
昭和2年 京都大学電気工学科卒業
同2年 逓信省電気試験所入所
同13年 国際電気通信社へ転出
同37年 国際電信電話常務
同42年 日本情報処理開発センター会長
 二條弼基氏(工学博士)
昭和12年 東北大学電気科卒業
 〃  逓信省電気試験所入所
同31年 電波研究所次長
同35年 電波監理局次長
同51年 伊勢神宮大宮司



「ふじ」南極へ最後の航海

 昭和57年11月25日,第24次南極地域観測隊員45名は秋 晴れの東京港を出港して昭和基地に向った。昭和40年11 月20日,第7次隊を乗せて南極への処女航海についた「ふ じ」も第24次で18回の南極行となり,これを最後に引退 する。昭和58年の第25次から新砕氷船「しらせ」にその 席をゆずることとなった。第24次では当所から電離層定 常観測に山崎一郎,超高層研究観測に田中高史の2名が 参加した。南極MAP(中層大気国際協同観測)計画の一 環として,第23次から開始したVHFドップラレーダ観 測は,50MHzに加えて112MHz観測装置を搬入し,2波 で観測する計画である。1月上旬,昭和基地に到着し, 電離層観測用30mデルタアンテナの再建と,112MHzコリ ニヤアンテナの建設を行なう。また船上観測では中波電 界強度測定,オメガ電波受信及びチャープサウンダーに よる「ふじ」側送信,平磯支所受信の実験を行なってい る。




衛星を用いた捜索救難システムの実験

 IMO及びCCIRでは,衛星利用の世界的海事捜索救難 システムの検討を行っており,その一環として,当所で は,周波数拡散技術を用いた1.6GHz及び406MHz EPIRB (非常用位置指示無線標識)システムの開発を進めている (本ニュースNo. 76,70,63参照)。
 10月18日〜24日及び11月22日〜27日の2週間,KDD及 びINMARSATの協力を得て,実験を行った。10月の 実験では,本所の屋上から1642.375MHzを10W(eirp)で 送信し,MARISAT中継の4198.875MHzを鹿島支所及び KDD茨城通信所で受信した。11月には,電子航法研究所 と共同で,鹿島漁協と住友金属の協力を得て1.6GHzと 406MHzのEPIRBを鹿島灘に浮かべ,1.6GHzを衛星中 継で鹿島支所で受信するとともに,1.6GHz,406MHzを, 仰角1.7°,距離400mの点で受信した。
 1.6GHzの衛星中継の場合,仰角が約34°では,フェー ジングの標準偏差は,地上実験及び海上実験とも1dB 程度であったが,仰角9°の海上実験では4dBにも達した。 1.6GHz EPIRBのアンテナの海面からの高さが0.7mあり, 仰角9°のときの直接波と反射波の伝搬路長差がほぼ1波 長となるのと,9°以下では反射波の正旋成分がかなり大 きくなるためであると思われる。
 仰角1.7°の海上伝搬実験では,1.6GHzのフェージング の標準偏差(σ)は,約2dBであった。406MHz EPIRBのア ンテナの海面からの高さは0.4mで,波で見えなくなるこ ともあったが,σは約2.6dB程度であった。フェージン グの周期は,ともに,ブイの上下動の周期にほぼ一致し ていた。
 実験時の波高は1.5〜2m(p-p)であった。



50GHz帯海上伝搬実験

 中距離伝搬路(10〜20q)において,5oGHz帯広帯域 信号伝送を行った場合の海面反射,ダクト等によるフェ ージングの有無を調査するため,電波部超高周波伝搬研 究室では,昭和57年10月18日から11月17日までの間,沖 縄電波観測所(主局)と航空自衛隊知念分とん基地(副 局)との間の13.7qの海上伝搬路において伝搬実験を実 施した。
 主局装置は屋内に,副局装置は屋外に設置し,副局の 電源として太陽電池と蓄電池を用いた。主局から伝送す る映像・音声信号(下り:50.85GHz)は,副局で折り返 し(上り:51.35GHz),主局で録画・録音した。また, 上下回線の信号強度を測定した。海面反射によるフェー ジングは1dBp-p程度であり,酸素ガスによる吸収は5〜 7dB程度あるが,上下回線の周波数差(500MHz)のため, 1.2dBの減衰差が生じた。水蒸気による減衰の,周波数 による差は顕著でないものの予想外に大きく,酸素ガス と同程度の減衰が測定された。


50GHz制局装置外観