鹿島支所
はじめに
図1 海面散乱波のトップラスペクトラム
送信周波数:13.4MHz
規格化ドップラ周波数:0.374Hz
深海洋上の重力波の位相速度はその波長(L)の平方
根に比例することが知られているので,上述の散乱に寄
与した重力波の波長は観測で得られたトップラシフトか
ら計算でき,レーダ送信電波の波長(λ)の正確に1/2
であることがわかった。D. Crombieは,海洋表面は様々
な波長及び伝搬方向の波浪が形成する回折格子群のよう
にふるまっており,それらのうちでL=λ/2の波長を有
し,かつレーダ観測方向又はその反対方向に運動する波
浪で構成される回折格子のみが波長λの送信波に対して
後方散乱を起こすと解釈した。図1において,レーダか
ら遠ざかる方向に伝搬する波浪がA成分を与え,レーダ
に近づく波浪がR成分を与えている。
一次トップラスペクトルの特徴とその応用
短波レーダの送信波として8〜30MHzを用いることに
すれば,後方散乱によってレーダエコーを作る波浪の波
長は5〜18mである。通常, これらの波浪の振幅はレー
ダ送信波長に比べて小さいので,この散乱現象を解析す
るのに摂動近似が使える。一次及び二次の摂動理論から
観測されるスペクトル(図1参照)の特徴の多くが説明
できる。
自己校正機能
一次の散乱過程で生ずる散乱波のスペクトル(一次ド
ップラスペクトル)強度は,その散乱に寄与する波浪の
波高に比例する。他方,上述の波長5〜18mの波浪は,
広い洋上ではほとんど常時吹いている風(〜5m/sec)によ
り,その波高がそれ以上高くなると砕波に至るという限
界にまで発達している。従って,一組の一次ドップラ波
のうちの強い方(図1ではR成分)の強度は殆ど常時一
定であると考えられる。
この事実から,強い方の強度を短波レーダの感度校正
用標準ターゲットとして利用できるわけで,特に電離層
反射を利用する際に問題となる電離層反射損失及びその
変動の除去に有用である。実際に,D. Barrick等国立海
洋大気庁(NOAA) のグループは電離層反射に依らない
海上伝搬波の観測結果が±2dBの範囲で一定であること
を示した。
洋上の風向測定
図1のAとRの強度比はレーダ観測方向と観測海面上
の風向とのなす角度の指標になる。上述の波長帯の波浪
では,洋上風との相互作用により最大振幅となる波浪の
伝搬方向が洋上風の向きと速やかに一致する(10分程度)
性質を利用するもので,レーダ観測方向と風向が一致す
る場合に比A/Rは最大となり,90度をなす場合には1と
なる。
A. Long等海軍研究所(NRL)のグループは観測方向
と風向が任意の角度をなす場合の経験則を得ており,電
離層反射を利用した北大西洋上のレーダ観測から導出し
た風向分布と定点観測等による気象データとの比較を通
じてその手法の有用性を示している。
海洋表面流の測定
図1のA成分とR成分の上部に示されている△は,一
次ドップラのピークが現われるべき周波数の理論値と実
際の測定値の差であり,観測した洋上の重力波自体がな
んらかの流れ(表面流:surface current)の上に乗って
いたことを表している。図1の例では理論値よりプラ
ス側にシフトしていることから,レーダに近づく成分を
有する(その大きさは△より計算でき,この例では22.5
p/secを与える)流れのあったことがわかる。
従って,同一の海面を2方向から短波レーダで観測す
れば,それぞれの方向について得られる流れの成分を合
成することにより流れのベクトルが求められる。
海洋表面上の流れの存在及び流れの変化の情報が得ら
れることは,例えば座礁したタンカー等から流れ出る原
油の拡散防止の措置を取ることを想定しても非常に重要
であることがわかる。また,冒頭に述べた氷海航行支援
技術との関係では,航行の妨げとなる流氷の移動予測技
術に直結しよう。
CODAR
以下に,NOAAのD. Barrick等が開発し,今なお広範
な観測実験を通じてデータ解析手法の改善等に取り組ん
でいる,可搬型の海洋表面流観測用短波レーダシステム
(Coastal Ocean Dynamics Radar)について簡単に述
べる。
システムは,海岸線に沿って30q程度離して設置され
る同一仕様の2台の短波レーダで構成される。その諸元
を表に示す。通常のレーダシステムでは,方位方向の分
解能を高めるために受信アンテナの開口径を可能な限り
大きくしようとするのに対し,このシステムでは特殊な
方法を採用することにより小型化に成功したのが大きな
特徴である。約4m間隔で海岸線と平行に並べた3本の
受信アンテナをパルス毎に切り換え,各レンジゲートで
受信された特定のドップラ成分について各アンテナ間で
の受信位相差を計算し,その成分の到来方向を求める。
表 CODARの諸元
システム全体の性能として,各レーダサイトからのレ
ンジ方向的70qの範囲内の約3q×3qの格子点につい
て10p/secの精度で流れのベクトルが測定できると報告
されている。CODARによるメキシコ湾表面流ベクトル
の測定例を図2に示す。
図2 メキシコ湾表面流の測定例
津波警報への応用
上記の性能を有する短波レーダシステムを用いて,沿
岸から数10qの沖合で津波の第一波を検出できれば,そ
の時点から津波がさらに進行し沿岸を襲うに到るまでの
時間を,必要な対策をとるための貴重な時間にあてるこ
とができる。
沿岸から遠く離れた深海底で起きた地震等によって発
生した津波の波高はそれほど大きくなく,通常数10p以
下と言われており,この低さのために深海上の津波は検
出し難い。この深海上では目立たぬ津波も洋上を伝搬し
て沿岸に近づき,海底が浅くなるにつれてその波高を増
す。その結果,津波の到来によってひき起こされる海面の
流れの速度は海底が浅くなるにつれて増加し,その値が
10p/secを超えれば前述の短波レーダシステムで検出可
能となる。
海底の浅くなる割合を1qにつき3mと仮定すれば,
深海上で発生した波高20pの津波は沖合60qのとこ
ろで検出され,警報時間として約47分が得られると
D. Barrickは計算している。実際にこの津波が沿岸に
達した時点での波高値に興味があるが,B. Kinsmanの
伝搬理論が適用できるとすれば海底までの深さ3mの地
点で約1.2mとなる。従って,上述の規模の津波について
警報ができれば実用上の利用価値が高いと思われる。
二次ドップラスペクトルの特徴とその応用
一次ドップラスペクトルの強度の観測は,その送信波
長及び観測方向で決まる特定の波長及び方向の波浪の波
高情報で得られることがわかった。従って,広い周波数
帯を掃引できかつビーム幅の狭い短波レーダを開発する
ことにより重力波の波高スペクトルを求めることが可能
であるが,@各周波数での利得及び伝搬損失を正確に知
ることの困難さ,A通信等の目的で世界中で使用されて
いる周波数帯に与える妨害,B数qにも及ぶ巨大なアレ
ーアンテナが必要になる等の問題がある。
そこで研究者の関心は,一次ドッブラ成分以外の連続
成分(図1参照)の解釈に向けられるようになった。連
続成分は,全ての波長の波浪の組合せ(散乱過程でエネ
ルギー及び運動量保存則を満たすための制約がある)に
よって引き起こされるので海洋表面に関する情報をより多
く含んでいると言える。さらに,一次成分の強度で規格
化することにより伝搬損失及びアンテナ利得等の未知量
を消去できる(自己校正機能)ので,海洋波浪パラメー
タの絶対値が得られることが大きな特徴である。
二次の散乱過程を記述する方程式には,散乱に寄与す
る二つの波浪(可能な組合せは多数ある)に対応する波
高スペクトルの積の積分が現れる。 従って,受信散乱
波のドップラ解析で得られる二次の成分の振幅を測定す
ることにより,波浪の平均波高に関する情報が得られる。
波長がそれほど長くない重力波の波高は洋上風の強さの
変化にかなり速く追随するので,この平均波高の観測か
ら洋上の風速情報を求めることも可能である。
また,上述の波高スペクトルの方向依存性と周波数依
存性が分離できるとするモデルを使って積分を逆変換す
ることにより,波浪の方向性に関する情報を抽出する研
究がB. Lipa等スタンホード調査研究所(SRI)や国立海
洋大気庁(NOAA)のグループにより取り組まれている。
おわりに
短波レーダによる海洋波浪パラメータの測定原理にっ
いてNOAA及びNRL等の研究状況をまじえながら概説
した。NOAAで開発された海上伝搬波による海洋表面流
観測システムはほぼ完成の域にある。電離層反射を利用
しての広域探査に実用上の魅力はより強いが,そこには
電離層の変動あるいは異なる層からの反射の多重効果等
による海面散乱波信号の劣化が伴うので,実施にあたっ
て解決しなければならない問題が多い。それらの点につ
いては本ニュースに続編として紹介されることになって
いる。
我が国の海洋観測用短波レーダ研究の状況については
我々の知る範囲では,過去に気象研究所,海上保安庁等
で計画されたが本格的な実施には至らず,また当所では
ロランA(〜1.85MHz)電波を利用した基礎研究の段階で
止まっている。
当所には太平洋を望む絶好の地に平磯支所,鹿島支所
犬吠電波観測所等を有していること,そしてなによりも
永年の電離層研究の成果が蓄積されていることを考え合
わせると,当所ほど本研究テーマに取り組むのに適した
機関は無いと恐れる。
振興調整費によるフィージビリティスタディヘの参加
が,短波レーダによる海洋波浪観測の本格的研究を開始
する強力なトリガーとなるよう望んでいる。
(第一宇宙通信研究室長 猪股英行)
通信機器部
はじめに
図1 ディジタル通信システムの構成
ディジタル技術概観
周波数有効利用の尺度の一つを,次のように表すこと
ができる。スペクトル効率(E)=全運ばれた情報(I)/
使用されたスペクトル空間(S)。ただし,スペクトル空
間(S)=帯域幅(B)×物理的な空間(Ps)×通信時間(T)。
周波数有効利用をはかるということは,Iを固定した場
合Sをできるだけ小さくすることである。陸上移動通信
の歴史をふり返って見ると,Bの縮小は従来狭帯域通信
方式の開発で実現され,Psの縮小は小ゾーン構成によ
る周波数再利用等で検討されてきた。Tの縮小に符合す
るものはないが,強いてあげればMCA(マルチ・チャ
ネル・アクセス)システムの実現などで具体化されて来
た。これらのうち,PsとTの縮小はシステム運用形態な
どで実現できるのに対し,Bの縮小は通信や回路技術に
依存するのが特徴である。概してBの縮小を実現できる
変復調方式を完成させ,その後,PsとTを検討するのが
通例であった。アナログ通信の場合Bの縮小はこれまで
隣接チャネルへのスペクトル漏洩を極力押える狭帯域通
信方式の実現に力が注がれてきた。しかしディジタル通
信では,それ以外のことも考える必要がある。すなわち
ある総合帯域幅Wが与えられた場合,1チャネルの占有
帯域幅は大きいが稼動できるチャネル数が多ければ等価
的にBを縮小できるという考えがあるからである。以下
こうした立場から帯域幅の増減ということに話題を限っ
てディジタル技術について述べる。
帯域幅の増減についてはチャネル容量に関するShannon
の有名な定理がある。この定理は帯域幅が与えられ
SN比(1ビット当りの場合はEb/Noで表す)が規定さ
れると誤りなく伝送できる最大情報伝送速度C(これを
通信容量とよぶ)が決定されるというものである。この
関係をグラフに示すと図2のようになる。Cを固定する
と,C/W>0dBはWを狭くしていく領域で,狭帯域化に
応じ高Eb/Noを必要とする。逆にC/W<0dBはWを広
げる領域で,Eb/Noは少なくてすむ。極限においてEb
/No=-1.6dBであるが,この限界はCよりほんのわず
か帯域を広げるだけで到達できる。この定理を満足する
符号化方式は理想的なものであるが,一般的傾向として
低Eb/Noで通信を行うには広帯域を必要とし,高Eb/No
が得られる場合は狭帯域通信が可能である。
図2 Eb/NoとC/Wの開係
さて図1のシステム構成の中で,帯域操作のできる部
分を順次考えて見よう。はじめに帯域縮小について検討
する。音声信号のA-D変換には大きく分けて@波形符号
化とAパラメータ符号化がある。詳しくは触れないが,
フェージングが発生する伝送路では今のところAは適用
不可能なため,@に属する適応デルタ変調が使われてい
る。現状では16Kbpsの伝送速度が通信品質の許容限界
にあるが,まだ品質も低速度化も不満足で一層の研究開
発が望まれている。
帯域縮小の主な操作はパルス整形と変調方式の組合せ
により可能である。整形でロールオフ(スペクトルの肩
のけずり落し)を小さくとり@多用又はA多振幅あるい
はB多用多振幅による変調で単位Hzあたりの伝送ピ
ット数を増やすことができる。報告されているものにB
に属する16値直交振幅変調(16QAM)方式があり,単位
Hzあたり5ビット伝送できる。二相PSK方式とくら
べて,帯域が1/4に縮小されたが,必要SN比は約10dB
余計に必要である。移動通信では電力増幅器をC級動作
で使用することが多く,そのため狭帯域定包絡線変調方
式が多数完成されている。この方式は,急激な波形変化
を避けるよう相前後する数ビットにわたって重みつけ平
均を行い−このため符号間干渉が発生するが,これは故意
のものでその量は分っている−狭帯域化をはかることと
品質劣化をさけるため出来るだけ直交性を保存するとい
う,相反する条件のトレードオフをうまく行い最後に
FM変調を行うものである。この原理にもとずくものには
Tamed FMやGMSKがある。このような変調方式でシ
ステムを組む場合は,アナログ通信と同様の考え方にな
ってしまい,これ以上の効率化はA-D変換の低速度化に
頼らざるを得ない。打解策は別の面から講じる必要があ
る。
次に帯域拡張について検討しよう。これは誤り制御符
号を採用することで実現でき,帯域増加の代償として必
要SN比を下げることができる。ディジタル化のメリッ
トは正にこの技術が利用可能なところにある。現存する
符号化方式の性能比較や,変調による帯域縮小と符号化
による帯域拡張のトレードオフなどはすでに論じられて
おり,衛星回線や深宇宙の通信に多くの使用実積がある。
移動通信と周波数有効利用を考えた場合,従来の加法性
白色ガウス雑音のみを妨害の対象とせずフェージング発
生と他局信号による干渉の下で符号利得が得られる誤り
制御符号の研究が必要である。
広帯域化はフェージング対策にも威力を発揮する。た
とえば信号の時間分解能が向上するため個々のマルチパ
ス波を区別でき,それらを合成する方式(RAKE方式),
フェージングを受けた場合信号の全周波数域が一度に劣
化するのではなく一部正常部分が残っていることから,
そこを手がかりに信号検出を行う方式(周波数ダイバー
シチ),正常な信号波形が得られるよう伝送路の伝達関数
を補正したり,波形等化によりダイバーシチ利得を得る
方式(implicit diversity) など多数の方法が選択できる。
今後の方策
次に周波数有効利用から見た陸上移動通信におけるデ
ィジタル化について述べる。すでに述べたように,狭帯
域定包絡線変調方式は完成されており,スペクトル効率
(E)をあげるには今のところA-D変換の低速度化しかな
い。しかし,ディジタル化することで高品質かつ多様な
情報伝送を可能にしようとする目的があるため,今後ま
すます多くのビットを自由に送れる無線回線の要求が増
大すると思われる。これらを考慮すると従来の周波数分
割の考え方でEを増加する方法は行き詰ってしまう。その
ため打開策としては,他局の干渉信号とスペクトルが重
畳しあった状態でも通信ができる方式−具体的には干渉
信号を自動的に除去する技術−の開発をはかり,スペク
トル効率の高い周波数分割によるチャネル割当を可能に
する必要がある。勿論信頼性向上のため広帯域化による
ダイバーシチ技術を干渉信号除去技術と合わせて完成す
ることが必要である。以上は周波数軸上での高密度化を
ねらうものであるが,その次のテーマとしてはパケット
通信など時分割的な考えで時間軸上での高密度化がテー
マとなるであろう。ランダムなパケット通信の場合時間
軸上で,干渉信号との衝突が発生するため干渉信号除去
技術が研究の主テーマになると思われる。以上に述べた
技術を包含した受信機は非常に複雑になりコストも高く
なるが,今後の技術革新によって解決できるものと思う。
本稿は変復調技術の立場から論じてきたが,最後にフェ
ージング対策には可変指向性アンテナと信号処理技術を
使用し,マルチパス効果を排除できる方法があることを
付言しておきたい。小型で携帯可能なこの種のアンテナ
が陸上移動通信用として実現すれば,正に福音であり
フェージングなど恐ろしくなくなる。所内はもとよりア
ンテナ専門家にその完成を切にお願いする次第である。
むすび
これまで周波数有効利用をはかる立場からディジタル技
術を検討して来た。紙数の関係もあり,具体的な技術や
陸上移動通信におけるフェージング現象の詳細な説明は
省略した。そのためここで述べた方針を完成させ得る技
術が生みだせるかという疑問がわくのが当然と思われる
が,将来にむかって,大きな目標をたてて,着実に研究
開発を心掛けたい。
(通信方式研究室長 横山光雄)
畚野 信義
Asia-Pacific Telecommunity(APT)のセミナーが 「衛星通信」をテーマとして,7月20〜24日バンコックで 開催された。APT前事務次長の服部雅美氏の尽力によ り,当所の栗原前所長(IFRB委員)が基調演説と特 別講演をされることになり,郵政省が強力にバックアッ プして講師団が派遣された。栗原氏の草稿についても電 波監理局宇宙通信開発課,当所衛星通信部,鹿島支所で 集められた資料をもとに企画部がとりまとめを手伝った。 そのため突然私が栗原氏のカバン持ち兼講師として,海 外通信放送コンサルティング協力(JTEC)の依頼出張 の形で出席することになった。まさに突然ヒョウタンか らコマというという感じで,「ところでAPTとは何?」 ということから勉強するという有様であった。APT及び 今回のセミナーについては宇宙通信企画課の森調査官の報告 が電波時報昭和57年5号に掲載されているので参照して戴く ことにして,ここでは私の印象・感想を中心の見聞記とする。(企画部 第一課長)
タイダンス
杉浦 行
1982年CISPR(国際無線障害特別委員会)会議は,表 のように,18か国112名の代表及び国際関係機関から7 名の代表が参加して,9月6日から17日までの12日間, スウェーデン国ストックホルム市郊外のソルナにある会 議施設で開催された。ストックホルム市は北緯約60度に 位置しており,会議期間中は日中でも気温15度程度で相 当肌寒かったが,会議では真剣な討論が行われたため寒 さを忘れる程であった。今回は,第22回総会,運営委員 会,AからFまでの小委員会及び関連Working Groupの 会議が開かれ,審議された議題も多かったため,時には 朝8時半からad hoc Group会議も開かれ,幾分窮屈な 会議日程であった。
表 各国及び関係機関からの出席代表者数
今会議の中で,電波研究所が特に関係しているのは無
線妨害波測定に関するA小委員会(Sub-Committee A)
なので,以下にこの小委員会の主な審論結果を示す。
Sub-Committee A;無線妨害波測定及び統計的手法
1. 擬似電源回路網の特性及び使用範囲に関するPubl.
16の修正案は既に各国の投票にかけられたが,技術的
意見が多く出されたため, これを修正し,再度各国の
意見を聞くことになった。
2. 妨害波測定器のしゅへい効果に関するPubl. 16の修
正案は各国の投票にかけられることになった。
3. 反射箱を利用してマイクロ波帯の機器からの妨害波
を測定する方法も規格として,各国の投票にかけられ
ることになった。
4. オープンフィールド・テストサイトの研究課題案は
電波無反射室に関する研究課題も含めて承認された。
5. 準尖頭値検波器付スペクトル・アナライザの利用に
ついて,新しく研究課題を作ることになった。
以上の主な審議結果の内,2,3,5項及び妨害波測定
器のパルス応答については,当研究所が作成した寄与文
書が審議され,その内容のほとんどが最終案に反映され
た。
またCISPR会議期問中の9月10日に,工業・科学
・医療機器(ISM機器)から放射される妨害波の許容
値を検討するCCIR IWP1/4の非公式会議が開か
れたため,これにも参加した。参加者は全部で17名であ
ったが,議長及び幹事を除いてすべてCISPR会議の
各国代表及び関係機関代表で占められていた。会議の内
容は,各国が許容値に関する提案や意見をもっと積極的
に提出するようにとの要請が議長から出されたため,こ
れについての具体的な意見の交換であった。
なお,今回のCISPR会議及びIWP1/4会議の詳
細な審議結果は,電波技術審議会第3部会の報告書とし
てまとめられている。
1973年のWest Bong Branch会議以後,今回の
CISPRストックホルム会議は9回目の会議であるが,日
本からは毎回10名以上の代表が参加しており,寄与文書
の数も年々増加している。これらの文書は会議において
極めて重要な役割を果しているため,各国も日本の寄与
を期待し,日本に対して意見を求めることが多くなって
きている。また日本代表と食事を共にして歓談したり,
日本代表の部屋で議論をする外国代表の数も増えてきて
いる。このように,日本のこれまでの実績を各国が高く
評価しており,ようやく日本も欧米諸国と対等の地位を
確保し,CISPRの主要国の一つになったと思われる。
今後さらにCISPR会議において,我が国の意見を反
映させ,積極的に貢献してゆくためにも,関係機関の一
層の御援助を切望致します。
終りに,今会議に参加する機会を与えて下さった当所,
電波監理局の関係者に深謝致します。
(通信機器部 標準測定研究室長)
王 宮
▲視察中の桧垣郵政大臣
▲19×19マルチビーム形成回路