VLBl日米共同実験


VLBIシステム研究開発推進本部

  はじめに
 当所では昭和58年末完成を目途に5か年計画で VLBIシステム(「K-3」システム)の開発を進めている。 これは昭和59年から開始される日米共同実験により日米 間を始めいろいろな方向の大陸間距離を数p以下の精度 (到達時間差決定精度0.1nsec以下)で測定し,いわゆる 地殻プレート運動の検出を行うことを直接の目的として いる。そのほか国内においては,建設省国土地理院の整 偏する可搬型システムとの間でもVLBI実験を行い, これらの共同実験を通じて長期的地震予知,高精度測距, 地球回転運動の観測,大陸間高精度時刻比較,衛星軌道 の高精度決定などに役立てていく予定である。
 ここでは,K-3システム開発の経緯,日米共同実験 を含むVLBI実験計画の概要について述べる。なお K-3システムそのものについては,前号で鹿島支所より 紹介されているので御参照下さい。
  K-3システム開発の経緯
 当所は宇宙通信,電波伝搬,周波数標準,データ処理, などVLBIシステムの開発に必要な技術を総合的に備 えており,また早くから他に先がけて同システムの開発 に取組んできた国内唯一の機関である。すなわち,最初 のVLBIシステム(K-1)の製作に昭和49年に着手し たのに続いて,実験用静止通信衛星ECS計画の一環と してK-2システムを開発した。一方,測地学審議会に おいて第4次地震予知5か年計画(昭和54年〜58年)が 答申され,新たに「宇宙技術によるプレート及び地殻変 動観測」という項目が採択されるに及び,当所は「超高 精度電波干渉計システムの開発研究」の五か年計画を昭 和54年度を初年度として開始した。すなわち,現在の K-3システム開発の開始である。
 K-3システム開発計画発足の時期と並行して,米国 航空宇宙局(NASA)と我が国の宇宙開発委員会との 間で進められていた「宇宙分野における日米合同調査計 画」は,1979年6月,17の調査項目をまとめたが,その 一つに「Study of Crustal Plate Motion」があり,地殻 プレート運動の研究にVLBIを含む宇宙技術を適用し ていくことが合意された。これにもとづいて,当所所長 とNASA国際部長との往復書簡で,1984年から日米間 でVLBI実験を行うことが確認された(1980年2月)。 一方,「日米間の非エネルギー分野の科学技術協力協定」 が両国政府間で1980年5月に調印・発効したが,上記の 合同調査項目は形式上この協定の傘の下に置かれ, VLBI日米共同実験は協定の第1項目「地球力学」に含ま れることとなった。
 上記の事実を踏まえて,既に始まっていたK-3シス テム開発5か年計画は,米国側のMark-Vシステムと 互換性を計るべく56年度以降の予算計画も含めてシステ ムの大幅な見直しを行い,それに基づき今日まで計画通 りすすめてきた。K-3システムは昭和58年の9月末頃 整備を終了し,引き続き総合試験を実施して翌年1月末 の日米間の予備実験に備える予定である。
  日米共同実験
 1. 地殻プレート運動等の測定
 日米VLBI共同実験が提案された背景には,NAS Aの主導する「Geodynamic Program」の一項目である 「Crustal Dynamics Project」があり,米国の地震災害 軽減法の一環として推進されている。Crustal Dynamics Projectの目的は以下の様であるが,これは日米共同実 験の目的と内容に当然含まれることになる。
@米国西部のプレート周縁部に発生する地震に関連した 地域的変形の歪みの蓄積の調査。
A同時期における北米,太平洋,南米,ユーラシア及び オーストラリアの各プレート間の相対運動の測定。
B北米と太平洋の大陸的及び海洋的地殻プレートの内部 変形の調査。
C地球回転の力学と,それらの地殻プレート運動や他の 地球物理学的現象との相関。
D地震多発地帯で発生する運動及び変形の調査。
この為,米国内の10か所以上のVLBI局及びレーザ測 距局を観測に動員すると共に,移動形システムによる約 30の候補地をあげている。また汎世界的規模の観測網を 敷くために20数か国と協議していると言われる。
 周知のように,日本は世界有数の地震の多発国である。 日本海溝などにおいては,太平洋プレート,フィリピン 海プレートが日本列島を乗せているユーラシアプレート の下にもぐり込み,関東大地震や三陸沖地震のような逆 断層型の大地震を発生させてきた。最近起きた日本海中 部地震も逆断層型の地震であり,プレートのもぐり込み に起因しているという説もある。また,世界の地震の80 %は環太平洋地震帯と言われる太平洋地域のプレート とプレートの境い目で発生している。従って,日米 VLBI観測によって大小様々のプレートの動きを測定する ことは,長期的地震予知の点からも極めて重要な意義が ある。
 1982年5月東京で国際測地学総会(IAG)が開かれ たのを機会に,NASAのVLBI関係者との間で日米 特別会議が当所において開催された。この席上実験スケ ジュールが提案され,1984年1月末に予備実験を日米間 で実施してK-3とMark-V両システム間の互換性, 測定精度等を確認した後,同年夏頃に第1回の本実験を 行うことを決定した。予備実験には鹿島局と米国の VLBI局が2〜3局参加する予定である。また第1回の本 実験は図及び表に示すような局の組み合せで行う予定で ある。すなわち全体で3組のVLBI局群から成り,そ れぞれが1〜2日間同じ電波星群を観測してゆき,全観 測は1〜2週間にわたる。


表 日米VLBI本実験における参加局と組み合せ


VLBI主要観測局の地理分布

 日米共同観測は取り敢えず5か年間継続することにな っているが,本実験を年何回行っていくかについては今 の所未定である。しかし,1回の実験に対するデータ処 理が1日24時間処理を行っても数か月以上要することを 考えるとき,年間の実験回数は非常に重要になる。地球 回転運動の観測を目的とするMERIT計画では年四回 の実験参加を鹿島局に要望してきている。
 2. 国際時刻同期実験
 遠く離れた二地点の時刻を高精度に比較する時刻同期 は国際原子時の決定や各国標準時の同期のみならず,衛 星トラッキング,電波航法,超多重高速通信などの分野 でも必要としており,今後増々高精度の時刻同期システ ムの確立が要求されることになろう。
 VLBIによる時刻同期は衛星による方法と類似して おり,高精度で世界的規模の比較手段として有望である。 比較精度は到達時間差決定精度の0.1nsecと同程度が期 待できるが,衛星による比較と同様,これが時刻の絶対 値の比較精度(確度)を必らずしも意味しないことに注 意する必要がある。その為,簡易型のVLBI受信装置 との間でVLBI観測をすることにより,K-3システ ムの局内遅延の絶対量を評価しようとする計画が鹿島支 所において進められている。
 VLBIによる時刻同期実験は,米国を中心に年数回 行う計画が立てられており,日本,米国(海軍天文台, 海軍研究所など),スウェーデン,西独,英国,スペイン, オーストラリアなどが参加を表明している。
  国内実験
 1. 国土地理院との共同実験
 建設省国土地理院は国内測地網規正の目的で,昭和56 年度から当所の全面的技術協力のもとにVLBIシステ ムの製作を進めている。システムは5mアンテナ可搬型 で,59年度に完成を予定している。
 国土地理院のVLBIシステムはK-3システムと互 換性を有し,完成後は両システムの間で測地網規正や地 殻変動などに関する観測を行っていく。先ず鹿島一筑波 間の約54qの基線で60年度頃実験を行い,その後は年1 回くらいの割合で5mアンテナを九州や北海道に移動し て共同観測を行う予定である。現在の国内三角測地網に よる誤差は,筑波を原点として北日本及び西日本の先端 で3mを超えている可能性があるが,VLBIによる補 正で大幅な改善が期待されている。
 2. 静止衛星軌道の高精度決定
 VLBIの電波源として人工衛星からの電波を用いる と衛星の軌道が決定できる。これは電波天文で星の位置 を決めるのと同じ応用であるが,静止衛星の中継器など からの雑音を受信するだけで行えるので,宇宙監視の有 力な手段となろう。これまでは鹿島−平磯間のK-2シ ステムで予備実験を実施してきたが,将来は鹿島26m局 とVLBI車載局などとの間で様々な方向の基線を設置 して,宇宙監視実用化のための実験を行っていくことが 検討されている。
  その他の計画への寄与
 1981年9月国際学術連合(ICSU)において,国際 リソスフェア探査開発計画(DELP)が決定された。 これは1960年代の国際地球内部開発計画(UMP),1970 年代の国際地球内部ダイナミックス計画(GDP)の期 間に達成された大陸移動,海洋底拡大などのプレートテ クトニクスの確立という著しい成果をうけて,1980年代 においても国際的学術的研究計画が実施されるべきとの 認識により合意されたものである。本計画は日本学術会 議より政府に対して,計画の推進に必要な予算的措置を とるよう勧告が出されたが(1981年11月),当所はVLBI による国内外の共同実験を通じてDELPに参加し, 寄与していく予定である。
 MERIT(地球回転運動の観測及び観測手段などの 比較・評価)計画は,1979年8月の国際天文連合 (IAU)総会などで承認されたもので,主観測(Main Campaign) は1983〜1984年にかけて行われる。当所は本計画 に対しても寄与していく考えである。
  まとめ
 当所におけるK-3システムの開発整備は,現在の厳 しい社会情勢を反映していろいろ制約された条件の下で 米国のMark-Vとの互換性を図りながら0.1nsecの 到達時間差決定精度を実現するという困難な技術目標に 向って進められている。幸い担当者の創意と努力で開発 は順調に進んでおり,昭和58年末には全システムが完成 する予定である。また日米間の予備実験の打合せのため 秋頃担当者が渡米し,更に翌年1月末の予備実験時にも NASA側の実験に担当者が立合う予定でいる。このよ うに,1984年における日米共同VLBI実験の開始に向 けて着々と準備が進められている。
 昭和58年1月「位置天文学における新技術研究会」が, 測地を含む地球科学の各分野の研究者を集めて開かれた。 そして将来の観測手段としてのVLBIの重要性が一段 と強調され,国内においてはVLBI小型車載局の開発 が急がれること,更に2〜3の大型局の建設が望ましい ことで意見の一致を見た。一方,海上保安庁などにより 衛星レーザ測距(SLR)の実験が行われているが, SLRは測定誤差が距離依存性を有し,1,000q程度以下 の距離測定に適していると言われる。これは衛星の軌道 要素を決定する必要があることから,地球重力や地球回 転運動の影響をうけるためであり,非常に遠距離では1 m以下の誤差は難しいとされている。従って,上に述べ た研究会としては,将来的にVLBIによる観測を主眼に し, SLRによって補完していく見通しを立てている。
 このように,VLBIによる観測は将来の地球科学を 解明する上で主流をなしていくことは明らかであり,日 米共同によるVLBI実験と地殻プレート運動等の観測 は,この新しい時代の幕明けにふさわしい創造的で汎地 球的規模の大事業になるものと思われる。

(VLBIシステム研究開発推進本部主幹 吉村 和幸)




音 声 研 究 の 事


大山 玄

  プロローグ
「ピッ,ピッ,ピッ,お目覚めの時間です。ピッ,ピッ, ピッ,お目覚めの時間です。本日は2×××年×月×日 ×曜日。本日の天気は時時々曇りでしょう。本日の予定 は,小学校の運動会,お弁当を忘れないように。」
 この装置ですか?これはしゃべる目覚しです。つまり ディジタル時計に音声合成装置を付けたものです。単に 時間とか日付だけを知らせるだけでなく,天気予報とか その日の予定なども知らせてくれます。その日の予定は 前もってキーボードから入れるか,音声入力装置から入 れておきます。この音声入力装置は人間の話したことを 認識して文字として内部にしまっておきます。その日の 予定の他にも忘れてはならない大切な事などをメモとし て入れておけます。特に朝のように時間のない時は見落 しかないので大変助かります。
 食事の準備ですか?トースター,ポット類はすべて目 覚しと連動してますからすぐできます。ほら,もう家族 が集まって食事が始まりました。
  音声スイッチ
 大部分の家庭電気器具には音声スイッチが付いていま すから,離れた所から操作できます。例えばTVを見 たい時は「TV スイッチ ON」と,これだけでTV のスイッチが入り,チャンネルの切換え,音量の調節等 もすべて音声で十分です。もちろんスイッチを切る時も 「TV スイッチ OFF」と,これだけです。
 この音声スイッチは手足の不自由な人,特に寝たきり 老人には大変重宝されています。しかし老人の場合は言 葉がはっきりしないので,その人に合わせてよく調節し ておく必要があります。又同様の装置は病院において, ベットの上下,電灯その他の調節等にもよく使われます。
  個人の声の特徴を利用したもの
 そろそろ登校,出社の時間です。鍵ですか?これは旅 行などで長く家をあける時以外は必要ありません。普通 は音声キーで十分です。これは家族一人一人の声の特徴 を装置におぼえさせておいて,特徴が合えば鍵を開けて くれます。子供の場合は特徴がすぐ変わるので,常に登 録を更新しておく必要があります。
 会社においても音声キーを用いて入口で社員がどうか を声で調べて鍵を開けます。会社の場合はこれがタイム カードの役目もはたしてます。室のドアも音声で開きま すが,この場合はだれが話したかまでは調べていないの で,鍵の番号が合っていれば十分です。
 その人の声の特徴はその他に銀行等において印鑑の代 わりとして用いられています。この場合は単に名前を一 回だけ言うのでは不十分ですので,口座番号とかキーワ ードとか他の情報も用いて本人かどうか調べます。もし 少しでも違っていたらはじかれます。声の特徴は常に更 新しておく必要があります。カゼをひいた時は困ります。 その時は窓口で身分証明等を示します。
 その他自動車のドアにも音声キーが付いており,一部 は音声で車の操作ができるものもあります。車の異常, スピードの出しすぎ等にはやはり音声で警告されます。
  電話での利用
 電話では留守番電話に音声合成,認識装置が利用され ています。最も簡単なものは単に音声合成装置を組み込 んでいてこちらのメッセージを相手に伝えたり,相手の 伝言を記録しておくものです。これにメッセージを入れ るには単に自分の声を入れてもよいし,キーボードから 入れて合成させでもかまいません。少し複雑にして音声 認識装置を組み込むと,相手の言ったことを認識して簡 単な応答ができます。例えば何時に戻ってくるとか,急 ぎの時はどうやったら連絡がとれるかといったことです。 更に複雑にして,人工知能を持った音声理解装置が組み 込まれていると,電話が秘書の役目をしてくれます。例 えばスケジュール表と比べて約束を入れたり,予定を伝 えたり,簡単な応答ができます。もちろんあらかじめ予 想される問い合わせに対する答えは与えておきます。更 に複雑にして相手が誰であるかを判断する装置が付いて いるともっとおもしろい事ができます。例えばAさんか ら電話がきたら,これは重要な件だからすぐ受けとり, Bさんから電話がきたら,これは悪い話だから居留守に してことわってしまう事もできます。
 その他,予定とか重要な事などをメモ代りにためてお くこともできます。
 その他電話を利用した各種サービスシステムにも音声 理解,合成装置は良く利用されています。例えばよく利 用されているのが,列車,飛行機等の座席予約,ホテル, 旅館などの予約,劇場等のキップの予約などです。これ は日時,人数,その他の必要な情報を会話しながら与え ていきます。
 その他キャプテンシステムのようなインフォメーショ ンサービス等と組み合わせて用いられています。これも 聞きたいことを音声を使ってシステムと会話しながらさ がしていきます。主に旅行観光案内,天気予報,各種催 し物の案内等に利用されています。
 又一寸変った使い方といえば苦情相談に使っている場 合があります。この場合ほぼ決まりきったパターンか, 相手が一方的にしゃべりまくる事が多いし,機械は感情 を持っていないので冷静に相手の言う事を聞いていて, 決して口論にならないのでかえって評判が良いようです。
  ハンディキャップ対象
 ハンディキャップの人を手助けする装置にも音声処理 技術は様々の形で用いられています。
 難聴者を対象とした場合は音声認識装置が用いられま す。すなわち相手の言ったことが文字となって表示され ます。又音声合成装置と組み合わせて,相手の言ったこ とを聞き易いように,ゆっくり,はっきり言いなおして くれます。これなどは正常者でも外国語を聞く時に役に 立ちます。
 発声障害の人の場合は合成装置が役に立ちます。キー ボードから打ち込んだ文章が音声になって出てきます。 よく使われる文章はボタン1つで十分です。言葉がはっ きり言えない人にはそれを合成音で言いなおすこともで きます。これは声の悪い人にもよく使われています。
 盲人には自分の話したことを文字として印字してくれ る音声タイプライタがよく使われます。これは正常者に も大いに利用されています。逆に本,新聞,手紙等を音 声にする装置が特に役立っています。この装置も正常者 に大いに利用されています。例えば時間のない人はあら かじめ早口で読ませたのを録音しておいて通勤の時に聞 くことができます。
  医療方面
 医療関係ではノドの病気の発見に音声処理技術が使わ れています。例えば自分の声がおかしいなと思ったら検 査センターに電話をかけて調べてもらいます。センター の指示にしたがって発声するとその結果をすぐに知らせ てくれます。問題のある場合は病院に出かけて行ってく わしい検査をします。これでノドの病気が早く見つかる ようになり,治療もしやすくなりました。
  訓練器
 発声訓練器も様々な方面で使われています。これは声 の大きさ,高さ,口の中の形,ノドの動き等を表示して 標準のものと比べてみることができます。又自分の声を 録音して,ゆっくり再生したり,ある一部の所を止めて みることができるので,口とか舌の細かい動きもわかり ます。この装置は主に言葉がうまくしゃべれない人のた めに用いられていますが,外国語を練習する場合も大い に役に立ちます。変った例では歌の練習等にも口,ノ ドの使い方がわかるので利用されています。
  翻訳器への応用
 音声認識,合成装置と自動翻訳機を組み合わせると外 国語,日本語間の同時通訳装置ができます。これは本, 新聞等を日本語に翻訳して読み上げることもできます。 外国語の不得意な人には大いに利用されています。
  音声研究のテーマ
 現在の音声研究のテーマですか?これはどうやって自 然音と合成音を見分けるかです。今は合成音の音質が良 くなったので,他人に似せた合成音を用いた詐欺事件が 多くなっています。又以前ですと電話を用いた犯罪では 作り声でしゃべっていたので大抵わかるのですが,今は 合成音を使われるので大変です。それが本当にその人が 話したものかどうかが問題になります。以前は必死にな って合成音を自然音に近づける研究をしてたのですが。
 他に音声研究においては音声中央研究センターの事を 指摘しなければなりません。そこにはスーパーコンピュ ータと大量の音声データが蓄積されており,世界各国の 研究センターとも衛星回線で結ばれています。更に国内 の主な研究施設と高速回線で結ばれており, どこからで も自由にこれらを利用できます。各研究者が共通のデー タを用いているので各方法の相違が簡単に評価できるよ うになり,又プログラムは標準の入出力形式を用いてい るので他人のプログラムが簡単に使えます。更に主なプ ログラムは計算機との対話形式で簡単に利用できますの で,計算機に弱い人にも大変便利になっています。研究 者も工学,医学,言語学,教育学など多方面の人が集ま り境界領域もカバーでき研究が急速に進みました。
  エピローグ
 リーン, リーン, リーン
 「アレッ,電話だ, いつの間に眠ったんだろう」
 「ハイ,モシモシ」
 「受付ですが,残っているのはそちらの室だけなんで すが」
 アッ,もうこんな時間!
 机の上には題目だけの原稿用紙
 「音声研究の夢」             END

(情報処理部 音声研究室)




中国で行った衛星放送システムの講演


山本 稔

 中国の国家科学技術委員会の要請により,国際協力事 業団を通じて,1983年1月31日から10日間,北京にある 中国放送テレビ省放送科学研究所(広播電視部広播科学 研究所,中国の部は日本の省に相当する)に,NHK技 術本部の松下主幹と私の二人が派遣され,衛星放送シス テムに関する講演を行った。
 中国には未だ具体的な放送衛星計画はなく, どこの国 とも特別な協力関係はないが,米,加,独の各国と交渉 を続けている。またインテルサット5号衛星を用いて, 国内通信とテレビの中継実験を実施しており,実用化す る計画がある。講演は,衛星放送システムの概論, BS 実験計画と結果,地上送受信局の設計と実例等広い範囲に わたって行った。講演と座談(主に質疑応答)が対にな っており,いずれも1単位3時間であった。講演の受講 者は全国の関係機関から集まった約130名の技術者で, その代表約30名が座談にも参加した。質問は,純技術的 なもの,コストと性能の両面からみて,最適な衛星放送 システムのパラメータは?という難解なもの,運用に関 する現実的な質問等多岐にわたった。我々はその日の質 問の内容や中国側の希望に従って,翌日の講演内容を調 整した。世界的に衛星放送テレビの音声にPCM方式が 採用される傾向にあることが,中国側に衝撃を与えたよ うで,強い関心を示した。一般的な印象として,上意下 達の傾向が強いようで,技術的な目的意識に裏打ちされ た質問が多く,衛星放送の社会的な効用とか将来の夢の ような事柄は,幹部以外との座談では話題にならなかっ た。講演,座談の通訳をして頂いた放送科学研究所の丁 士楕氏は日本への留学経験があり,流暢な日本語を話す 上,放送衛星の知識も豊かな技術者である。氏を始め多 くの方々の行届いたお世話のおかげで我々は何不自由な く,講演や観光に没頭できた。
 歓送迎会や我々の返礼のパーティは,中国料理と中国 の酒を味わいながら歓談する楽しい時間であった。特に 返礼のパーティでは,アルコール濃度が60%前後の茅台 酒で,本当の干杯(杯を飲み干したことをお互に確認し あう)を幾度も繰返す程の和やかさで,副大臣自から文 革による中国の放送技術の遅れについて述ベ,出席して いた方々の当時の職務に話が及ぶに至って,この国でこ んなに自由な発言が許されているのかしらと,我耳を疑 った。パーティの席上での中国側関係者の挨拶は,こそ ばゆい程礼節に満ちており,特に許放送科学研究所長の 「我々は知り会ってまだ10日しかたっていないが,あなた 方は既に中国の古い友人である。」と結ばれた講演会終了 時の挨拶が,氏の力強い握手と共に印象深く残っている。 しばらく,我々は中国の放送衛星の発展におおいに役立 ったと錯覚してしまった。
 次に北京の印象を駆足で。空は石炭暖房でくすんでい た。道路には人力車,馬車から地下鉄まで大抵の乗物が 揃っていて,動く交通博物館のようであった。名所・旧 跡の建造物はどれもとてつもなく大きく,大陸の文化の 壮大さを誇っているように見えた。大部分の人々は紺又 は草色の人民服(生地と仕立ての程度はさまざまで,地 位を反映しているようである)を着ており,絵巻物に現 われるような妖艶な美女はおろか,スカート姿の中国女 性にさえ,ついに出会わなかった。それだけに,つつま しく,ささやかなおしゃれが印象的だった。ホテルのバ ーで,美しいウエイトレスに「写真を。」と頼んだが,含 羞んで撮らせて呉れない。少し離れて,機を見て無断で シャッターを押したら恐い顔で睨んだ。恐るおそる御免 なさいの中国語を尋ねたら,笑顔に戻って対不起(トイ プシ:すみませんの意)と教えて呉れた。安心した。ホ テルや商店のサービスはやや公務員的であった。一人で 下町をふらついて,酒を楽しむ機会を持てなかった事が, 返すがえすも無念である。
 今回の出張でお世話になった多くの方々への感謝のし るしと近くて遠い国中国の放送技術の発展を祈って,干 杯!

(企画部一課 主任研究官)


夕暮の頤和圏(北京郊外)




南極越冬観測を終えて −スタートした南極MAP計画−


倉谷 康和・五十嵐 喜良

  はじめに
 第23次南極地域観測隊では従来の定常観測に加えて(1) 極域中層大気の総合観測(MAP計画)(2)東クイーンモ ードランド地域雪氷・地学研究計画(3)南極沿岸生態系に おける生物生産の基礎研究の3つをテーマに取り組んで きた。この中で特にMAP計画では初年度に当り,当所 から電離層定常観測担当倉谷康和と宙空系研究担当五十 嵐喜良が越冬観測を行ったので報告する。
  天候不順下での夏作業
 昭和56年11月25日,晴海を出発した「ふじ」は航海中 の予期せぬ悪天候の中,氷海に進入したがハンモックア イスに進路を阻まれ,昭和基地への初空輸便は1月4日 に行われた。それ以後の空輸作業は進まず,予定してい た新発電棟の基礎工事もあやぶまれた。しかし中旬以降 の天気は次第に回復し,かろうじて物資の運搬を終えた。 私達MAPグループの夏作業であるVHFトップラーレ ーダ装置,9-B型電離層観測機の搬入とコリニアアン テナ建設は工期の遅れはあったものの2月17日には完成 し観測態勢に入った。
  基地開設以来の最低気温
 3月に入り極地特有のブリサードの数もうなぎ昇りに なり,毎日強風が吹き荒れる。1本しかない電離層用20 mデルタアンテナは夏作業の合間に補強したが心配であ った。ミッドウインター(6月22日)を境に気温も下が りはじめ,内陸旅行隊が出発した9月4日は最低で -45.3℃を記録した。内陸部ではもっと下って-50℃以 下という寒波の襲来で大型雪上車のデフギアを破損する 事故が相次ぎ,この修理のため内陸旅行隊は昭和基地と みずほ基地の間を3往復することになった。また雪上車 の修理は機械担当者だけでなく旅行隊も一体となって行 うため本来の観測業務に加えて修理作業にも従事した。
  みずほ旅行
 内陸旅行隊とは別にみずほ基地要員の交替,物資の補 給を目的としたみずほ旅行隊が編成され,私達も交替で 参加した。目的はみずほ基地でのリオメータ観測の調査 で,VHFトップラーレーダとの総合観測の可能性の有 無である。以前は雪上にアンテナを建て観測したが,静 電気の発生による給電部コネクタの熔損や静電ノイズで データの質が悪かったので,今回は雪中,それも基地内 の雪洞中にアンテナを張り受信を試みた。結果はアンテ ナの指向特性の改善で十分実用になる事がわかった。 なお,冬明け旅行隊(9月1日〜22日)に倉谷,春旅行 隊(10月20日〜11月2日)には五十嵐が参加した。
  大気球実験
 MAP計画の一環として大気球による高層概測(オゾ ン,NOx,電場・電離度,オーロラX線の測定)が行わ れた。私達超高層部門(地球物理,電離層,宙空系研究) も協力し,11月25日の1号機を皮切りに12月21日まで3 機打上げた。一部途中で不具合が発生したが他は全て良 質のデータを得ることができた。
  30mアンテナ建設
 越冬中盤まで悪天候に悩まされ続けたが12月に入り好 天続きで3m以上もの積雪もあっという間に溶け,観測 船「ふじ」も順調に進入し,第24次隊の初空輸便は12月 31日に飛んできた。家族の便りをゆっくり見る間もなく 夏作業の開始,空輸作業も連続空輸日数の最高記録を作 る程順調で,当初困難が予想されていた30mアンテナも 1月20日無事建柱に成功した。また1年間のしめくくり である引継ぎも順調に終り,2月1日には2人揃って基 地を離れる事ができた。この一年間国内からの御指導御 援助を得て厳しい自然の中で一連の仕事を無事遂行でき ました。改めて関係各位に感謝致します。

(電波部 電波予報研究室 研究官)
( 〃     〃    主任研究官)


建設中のコリニアアンテナ




オーディオ事始め


鈴木 誠史


 部屋にはコンポ,車に はカーステレオがあり, 歩くときはヘッドホンで カセットを聞く。常に音 楽に囲まれ,オーディオ 機器と離れられないのが今のヤングである。わが子らも その例にもれず,時間さえあればラジカセの音量をあげ, 難聴になりそうな音を聞いている。しかし,わが家のス テレオは,十数年前に買った普及品でディスクの回転数 も怪しくなっているし,マイカーにはステレオが付いて いない。子供達には,もっとましなコンポを買えとか, カーステレオを付けろと迫られてはいるが,現在の所は 断固拒否している。そんな状態だから,昔はオーディオ 振興の片棒をかついだり,オーディオ界では多少知られ た存在だったなどと言っても,誰も信用してくれない。
 私がオーディオに無中になっていた時代は,オーディ オやHiFiという言葉を知る人も少なく,LPレコードも 一部のマニアのものでしかなかった。オーディオ界のこ の30年の進歩は驚くばかりで,今のオーディオの隆盛と 技術レベルの高さは,30年前には誰も予想できるもので はない。
 私は子供の時から,模型やラジオにこってはいたが, オーディオ歴は,上京して伯父の所に止宿した昭和26年 から始まる。特定郵便局長の伯父は,戦前は弱電の技術 者で,アンプいじりを趣味にしていた。同じ趣味を持っ 2人が集まったため,相乗効果が起こり,いろいろな実 験が始まった。試作したものに,ウィリアムソンアンプ を始めとする種々のアンプ,コンデンサ・マイクロホン, エコーマシンなどがある。糸釣りダンパのスピーカがよ いと聞くと,虎の子の12インチのスピーカを改造して, 使いものにならなくしたり,重さが4sの糸ドライブの ターンテーブルを作り,電源を切っても30分は動く,な どと喜んでいた。
 一番苦労した作品はテープレコーダである。録音・再 生ヘッド,消去ヘッドからフライホイールなど,ほとん どすべての部品を手作りし,昭和27年の夏休みを使って しまった。放送局が輸入品を使い始め,東通工(ソニー) の製品が市場に姿を見せ始めたころで,テープが1巻2 千6百円もする時代であった。時報を録音し,時ならぬ 時にこれを再生して,通行人を惑わすという,やや悪質 ないたづらをしたものである。
 オーディオフェアが始まってから,事務局のスタッフ としていろいろな催しに参画したが,ステレオに関する 実験が多かった。その一つに,生演奏とステレオ録音し た再生音の切換え実験がある。三越のパイプオルガンの 演奏を切換えた時,音楽が流れているのにオルガニスト が席を離れ,見物人がびっくりした情景は,今でも思い 浮かべることができる。しかし,ステージの幕の後でブ ルーコーツが演奏し,これを再生音に切換えた実験は失 敗であった。フルバンドの迫力を再現するには,アンプ のパワーが余りにも不足していたのである。
 2チャネルのラジオを使ったステレオ放送の受信実験, クラシックのカラオケに相当するミュージック・マイナ ス・ワンの実験などにも多くの思い出がある。
 ステレオディスクに関しては,いろいろなアイデアが 出された。ある会社は,同心円状に2本の溝を刻んだデ ィスクを試作した。これを双頭のピックアップで再生す るのだが,二つのカートリッジの間隔を微調整し,両チ ャネルが同期するように針を下さなければならない。か なり難しいテクニックを必要とするが,試演会で演奏係 を引受けた。多数の聴衆が見守る中で,慎重に針を下す。 かすかなスクラッチノイズの後,テーマが始まる。する と少し遅れて同じテーマが続く。やがて,輪唱のように なり,どっと笑いをよんでしまった。針の間隔と両チャ ネルの溝の間隔が僅かに異なり,1周か2周ずれてしま うためである。何度がやり直して成功し,拍手を浴びた のだが,汗びっしょりになっていた。
 レコートコンサードが各所で開かれ,よく出かけたが, システムの新製品発表を兼ねたレコードコンサートでの ことである。営業部長が,システム構成とその優秀さを 宣伝してから曲の紹介に移った。“曲はロッシーニの” でメモを見直し,少し考えてから,“シベリヤの理髪師 !”。システムの性能については,記憶がない。
 オーディオが普及するころには,私はオーディオから 完全に離れてしまった。かってオーディオに熱中したよ うに,もう一度何かに打ち込みたいとは思う。しかし, 若い時のような一途さがなくなり,よい対象に巡り合わ ぬまま,本ばかりが増えていく最近である。

(情報処理部長)


短   信


宇宙開発計画検討委員会小委員会の構成を変更

 第18回宇宙開発計画検討委員会(5月30日開催)は, その下部組織である各小委員会の構成の見直しを行い, 航空海上技術衛星,通信技術衛星,ミリ波通信衛星,実 験用放送衛星,実用通信・放送衛星の5つの小委員会を 廃して,新たに通信技術衛星小委員会を設置することを 決定した。これは,最近の衛星開発計画では複合ミッシ ョンを想定する場合が多く,また,従来の各小委員会の ミッションには共通要素が多い上,重複して指名されて いる委員も多いため,これらを総合して,宇宙開発計画 の検討により柔軟にかつ迅速に対処することを目指すも のである。新しい小委員会は,生島衛星通信部長を主査 として,10月の始めに委員の指名通知が行われ正式に発 足の予定である。
 なお,同宇宙開発計画検討委員会は,観測衛星小委員 会を電磁圏観測衛星小委員会,計測衛星小委員会を地球 観測衛星小委員会と名称変更することも決定した。未来 構想及び宇宙基地の両小委員会は従来通りである。



宇宙開発計画見直し要望の審議結果

 宇宙開発委員会は8月31日「昭和59年度における宇宙 開発関係経費の見積りについて」決定をした。これは, 関係省庁の宇宙開発計画見直し要望(郵政省は6月15日 に同委員会へ提出,本ニュースNo.88)の同委員会第一部 会及び衛星系分科会における審議結果に基づいてなされ たものである。郵政省関連の審議結果は概略次の通りで ある。@放送衛星3号(BS-3):H-1ロケットに より六機を昭和63年度に,予備機を昭和65年度に打上げ ることを目標に開発を行う A実験用通信衛星(JECS) :マルチビームアンテナ技術,衛星内交換技術,ア ンテナ展開技術等の開発を目的として,H-1ロケット により打上げることを目標に開発研究を行う。B新しい 周波数帯を利用し,また,既に使われている周波数帯を より高度に利用した衛星通信及び衛星放送に用いる衛星 搭載用通信機器の研究を行う。C人工衛星技術の開発に 資するとともに,実利用に供することを目的とする人工 衛星の開発・打上げに当っては,信頼性の向上及び利用 者機関の経費負担の軽減を図る。
 その他の主な決定には,第12号科学衛星(EXOS- D)の開発,スペースシャトルによる第1次材料実験( FMPT)の実験システムの開発,通信衛星3号(CS -3)用のH-1ロケットの関発,地球資源衛星1号( ERS-1)の開発研究などがある。
 なお,当所が要望した地球観測ミッション機器,電磁 環境ミッション機器,レーザを利用した静止衛星の高精 度姿勢・軌道決定システム及び大型宇宙アンテナの組立 ・測定技術の4件は予算要求をしていないと言う理由で, 見積りの審議対象にはならなかった。今後,これ等のテ ーマのように予算要求をしない事項を国の宇宙開発計画 に反映させる方法を検討していく必要がある。



シャトル映搬レーダ実験(SIR-8)プロポーザル 採用の見通し

 米国航空宇宙局(NASA)は,1984年8月打上げ予定の スペースシャトルで合成開口レーダ(SAR)を用いた第 2回目の観測(SIR-B)を行うが,同実験への参加を全 世界に公募した。当所では従来よりSARの研究を進め て来ており,公募に対し,(1)標準反射体を用いたSAR 電波の反射特性,分解能等の較正実験,(2)電離層や大気 の伝搬特性のSAR画像に与える影響,(3)稲作のSAR 画像と地上の作柄調査の比較,(4)日本近海に於ける海洋 油汚染のSIRと航空機搭載用散乱計/放射計との同時 観測および船からのシートルースデータの取得,の4項 目の提案を行ったが,このうち,暫定的ではあるが,(1), (3),(4)の項目が採用されたとのテレックスおよび手紙が 本研究の実施を担当するジェット推進研究所(JPL) およびNASA本部より届いた。我が国では,当所の提 案のみが採用されており,そのため,第一衛星計測研究 室を中核とした実験グループを構成し,外部機関にも働 きかけて積極的に同実験に参加する予定である。当面9 月6日〜9日にJPLで開催された第一回会合に出席す ることが強く米国側より求められたので主担当者である 畚野企画第一課長が同会議に出席した。会議では,実験 の目的,詳細なテストサイト,希望入射角,映像モード 等を説明すると共に,他の実験と競合する要求条件等の 調整を行った。



CCIR中関会議へ当所から多数の寄与文書

 中間会議A1ブロック:SG6(電離媒質内伝搬), SG10(音声放送),SG11(TV放送),CMTT(放 送番組の長距離伝送)が8月29日から9月30日までジュ ネーブで開催された。この会議では,特に,来年1〜2 月及び1986年に開催予定のWARC-HFBC(短波放 送用周波数帯の使用計画作成のための世界無線通信主管 庁会議)に対してCCIRが提出する技術報告書の審議 (SG6,SG10)が重要な問題になっている。
 当所は,SG6に対し,単一伝搬モードにより安定し た短波通信品質の得られる周波数帯,中緯度における電 離圏シンチレーション特性,上部電離圏で観測されたプ ラズマ圏ヒス,空電による大気雑音,40KHz波の短距離 伝搬等5件の文書を提出,寄与している。また,各SG に提出された各国寄与文書の検討を行い寄与した。