昭和59年度電波研究所研究計画


 今年度当所が重点的に進める研究分野として
 (1) 宇宙通信及び人工街星の研究開発
 (2) 宇宙科学及び大気科学の研究
 (3) 情報処理,通信方式及び無線機器の研究
 (4) 周波数標準に関する研究
 (5) 周波数資源の開発
の5つを引き続いて取り上げることとした。
 研究計画の主要な事項については以下に簡単に記す。
 標準電波の施設整備の必要性が認められ,今年度から 3年計画で実施することとなった。
 CSについては,将来の実用衛星の長期運用に資する ため,引き続き所要な実験を行うと共に中継器特性等の 測定を行う。またCS-2を用いてパイロット実験計画 を実施する。
 衛星用マルチビームアンテナについて,昨年度まで得 られた多くの研究成果をもとに研究開発を更に進める。
 衛星を利用した航空,海上通信技術の研究開発では, ETS-Xに搭載する移動体通信実験用ミッション機器 並びに地上システムの開発及び通信システムの研究開発 を行うとともに実験計画についても具体的な検討を進め てゆく。
 超長基線電波干渉計(VLBI)については日米共同 予備実験に引き続き本実験を開始する。また国土地理院 とは技術協力を続けてシステムレベル実験を行い,緯度 観測所とはVLBIシステムの情報交換を引き続き進め る。
 テレビジョン同期放送システムについては野外実験に も着手する。
 周波数資源については,40GHz以上の電波伝搬研究, スペクトラム拡散地上通信方式の研究,ディジタル移動 通信の研究及び光領域の研究開発を引き続き進める。
 中層大気国際協同観測計画(MAP)では,標準電波 ドップラ法による大気波動の観測等を引き続き実施する。
 電磁環境は昨年度新設が認められた研究室において本 格的な研究を行う。
 科学技術振興調整費により,高性能レーザセンシング システムに関する研究及び豪雪地帯における雪害対策技 術に関する研究,また国立研究機関公害防止等試験研究 費(環境庁)によりオゾンの三次元分布測定用搭載レー ザ・レーダの高性能化の研究,航空機搭載映像レーダに よる油汚染の広域監視技術の研究を進める。
 本省からの研究調査依頼事項は継続12件,新規6件を 実施する。なお,宇宙開発事業団,文部省の極地研究所 及び宇宙科学研究所,大学,他省庁と共同研究や協力を 行う。
 CS,BS,ETS-U/ECS,ISS-b等の衛 星計画に伴うビッグプロジェクトが峠を越えて以来,研 究予算額の大幅減少は回復せず,ひとつの転機を迎えて いる。
 本年度は,衛星計画発足に伴う大幅機構改革から16年, 電波監理局の3局体制発足に伴う行政と研究のかかわり 等を含めて,当所の今後15年位の長期にわたる研究方向 について全所的に真剣に検討して行きたい。
 今年度の研究調査計画の一覧表を次に示す。

(企画部第一課)

電波研究所研究計画一覧1

電波研究所研究計画一覧2




昭和59年度一般会計予算の概要


 昭和59年度一般会計予算の規模は,前年度比0.5% 増の50兆6,272億円であるが,そのうち一般歳出は,32 兆5,857億円,前年度比0.1%減と2年連続のマイナス となり,昭和30年度以来の低水準で,極めて苦しい国の 台所事情を反映した超緊縮型予算となっている。
 電波関係の予算額は,228億2,826万4千円で,前年度予 算額に対し3億6,774万8千円(1.6%)の増となっている。
 さて,当所の予算額は,44億6,548万1千円で,前年 度予算額に対し,1億3,449万(3.1%)の増となっている。 事項別内訳は別表のとおりであるが,その特徴として,
 1 新規事項として標準電波施設整備の取替整備が認 められたこと,
 2 標準予算及び入当研究費については,前年度統一 的に5%の査定減がなされたまま,今年度も前年度 と同額におさえられたこと,
 3 予算額には,航空・海上衛星技術(移動体衛星通 信実験システム)の研究開発に係る昭和58年度の国 庫債務負担行為の歳出化分3億7,052万円が含まれ ていること,
等であり,相当厳しいものとなっている。
 また,言うまでもなく国の財政事情は非常に苦しく, 昭和60年度の予算についても,今年度以上のマイナスシ ーリングを行う考えが伝えられており,これに伴って当 所の予算の増加は当分期待できそうもないと考えられる。
 なお,重要施策事項の概要は次のとおりである。
 1 通信衛星の実験研究
 CS-2によるパイロット計画が前年度に引き続き 認められた。
 2 航空・海上衛星技術の研究開発(移動体衛星通信実 験システム)
 航空機地球局設備の開発及び海岸地球局端局装置が 国庫債務負担行為として認められた。
 3 衛星用マルチビームアンテナの研究開発
 マルチビームアンテナ特性解析装置が昭和59,60両 年度で開発されるが,昭和59年度分として,簡易電波 無反射室,プローブ操作装置の製作及び軽量アレーパ ネルの試作費が認められた。
 4 宇宙電波による高精度測位技術の研究開発
 日米共同実験に必要な経費が認められた。
 5 テレビジョン同期放送システムの研究開発
 高安定周波数同期装置(主局部)及び同期放送測定 システムの開発費が認められた。
 6 周波数資源の研究開発
 (1) 40GHz以上の電波伝ぱんの研究
  伝ぱん実験システムによるデータ取得及びデータ 解析を進めるための経費が認められた。
 (2) 光領域周波数帯の研究開発
  可視,近赤領域における通信方式の研究のための 機器の一部が認められた。
 (3) ディジタル移動通信方式の研究開発
  昭和60年度に完成する全施設の今年度分として, 基礎ディジタル通信実験装置(伝ぱん整合処理部) 等の経費が認められた。
 7 機構及び要員の確保
 1名の増員が認められた。

(総務部会計課)





多周波レーダによる降雨の観測


中村 健二

 降雨レーダは雨の観測用として良く知られている。今 でこそテレビの天気予報には「ひまわり」の写真がでる が,以前は富士山レーダの写真が良く出ていたことをご 記憶の方も多いことだろう。この降雨レーダを多周波化, 或いは多偏波化して,降雨に関する情報をより幅広く集 めようとする試みが盛んになってきている。これは multiparameter radarと呼ばれている。従来のレーダでは1 観測点について受信電力が1つだけ得られたが, multiparameter rardarでは1観測点について2つ以上の情報 が得られ,これにより降雨の状態がより詳細にわかると いうわけである。
 降雨レーダを多周波化すると何が見えるであろうか。 降雨レーダの周波数を選択するときの第1の条件は降雨 から十分検出できる散乱波があることである。この条件 から降雨レーダにはS-バンド以上の周波教の電波が用 いられ,通常S,C或いはX-バンドの電波が使用され る。ちなみに気象庁の標準型のレーダはC-バンド,富 士山レーダはS-バンドである。このような周波数帯で は,伝搬路上における降雨減衰が事実上無視できること, 又降水粒子の大きさが電波の波長に比べて十分に小さい ため,散乱が,電気双極子の振動によるものとする Rayleigh散乱と呼ばれる故乱により良く近似され,降水粒 子の大きさと散乱断面積との間に簡単な関係が成り立つ利 点があるためである。具体的には散乱断面積は降水粒子 の直径を6乗したものを単位体積中の各雨滴について総 和した量に比例する。しかし,Rayleigh散乱領域に属 する多周波による降雨観測を行っても,ひょう等特別の 場合を除いて新しい意味のある情報を得ることは困難で あろ。より高い周波数,例えばKa-バンドでは,伝搬 路上での降雨減衰が顕著となり,また散乱も簡単な Rayleigh散乱とはみなせなくなる。多周波を用いた降雨観 測では各周波数における散乱特性,減衰特性の差が見え てくることになる。
 次に偏波を変えると何が見えるであろうか。落下中の 雨滴は,小さいときはほぼ球形であるが,大きくなると 空気の抵抗で全体として水平方向に広がったような形と なる。このような雨滴の電気双極子能率は水平方向の方 が鉛直方向よりも大きくなる。この雨滴に電波が当たる とRayleigh散乱の近似では水平偏波の時の方が垂直偏 波の時よりも散乱波は大きくなる。このように,大きな 雨滴の変形で偏波による受信電力の差異が現われること になる。今のは水平偏波と垂直偏波の場合であり,円偏 波の場合には受信電力には差は現われないと考えられる が,受信波の主偏波に対して逆旋偏波の発生としてやは り雨滴の変形の効果が現われる。その他偏波間の位相差 にも雨滴の変形の効果が現われる。Multi-parameter radarでは降水粒子の形状等による散乱の差から雨滴粒 径分布,降水粒子の相(水滴,氷晶等),雨滴の変形等を 推定することができる。
 ところで鹿島支所では,従来から準ミリ波やミリ波の 高仰角の衛星伝搬実験の一環として,C-バンド降雨レ ーダによる降雨の観測,14GHz帯電波の降雨による後方 散乱実験等を行ってきた。また本所衛星計測部では, X-バンドとKa-バンドの二周波を持つ航空機搭載用雨域 散乱計/放射計を開発した。そこで,いろいろの周波数 のレーダによる降雨の見え方の差を実験的に検証するこ と,そしてその差から降雨情報を引き出すアルゴリズムを 開発することを目的として,これらの施設,装置を用い た降雨の多周波同時観測を計画し,1982年6月より鹿島 支所において観測実験を始めた。
 実験施設の概要を図1に示す。使用される装置として は,地上気象測器系,C-バンド降雨レーダ,雨域散乱 計/放射計,Ku-バンドレーダ(14GHz帯後方散乱実験施 設),ETS-U/ECS用10mφアンテナを利用したミリ波レ ーダ,またCSを用いる準ミリ波高仰角伝搬実験施設等 がある。各レーダサイトは半径500m以内の円内に入っ ている。C-バンドレーダと雨域散乱計/放射計はほとん ど同じ位置にあり,C-バンドレーダのビームはほとん ど雨域散乱計/放射計のビームにおおわれている。 Ku-バントレーダは送受のアンテナが別々になっておりレー ダ方式は小さい送信電力でも良い感度で受信できるFM- CW方式,またはパルス圧縮方式をとっている。


図1 実験システムの概要

 解析例として降雨減衰を用いた降雨強度の推定を示そ う。二周波として雨域故乱計のX-バンドとKa-バンド を選ぶ。第一近似として降水粒子による散乱は Rayleigh散乱と仮定すると両者の受信電力の差は主にKa- バンドの降雨減衰によるものとみなすことができる。適 当な雨滴粒径分布を仮定すればこの降雨減衰の大きさか ら降雨強度を求めることができる。一周波のレーダの受 損電力から降雨強度を求める通常の方法は適当な雨滴粒 径分布,或いは経験式を使って受信電力を降雨強度に換 算する方法であるが,降雨減衰から求める方法には以下 の二つの利点がある。第一点は,降雨減衰の測定では受 信電力の差をとることにより,システム定数や補正係数 が消去されてしまうため,それらの影響が無いこと,第 二点は各雨商の降雨減衰への寄与と降雨強度への寄与と は似ているため,雨滴粒径分布の変動による降雨強度推 定の誤差が小さいことである。
 降雨減衰から得られた降雨強度と,X-バンドの受信 電力から通常の方法で得られた降雨強度の時系列の比較 を図2に示す。大きな変動については,両者の相関が良 く降雨減衰から降雨強度を推定する方法の実用性を示し ている。しかし,細かく見るとかなりの差が見られる。 差の中でも,1分以下の細かい変動は散乱が多数の粒子 によっていることで説明できる。また1分から数分の時 間スケールの変動は,C-バンドの降雨レーダによるド ップラ観測からRayleigh散乱では記述できない大きな雨 滴からの散乱に起因することがわかっている。


図2 降雨減衰から求めた降雨強度とX-バンドの受信電力から求めた降雨 強度の時系列(1982月7月7日)

 その他,降水粒子が氷晶等がら水滴へ変化する融解層 と呼ばれる層の観測,雨域散乱計の偏波切替え機能を用 いた偏波観測実験等も行った。
 Multi-parameter radarは各種の国際会議で特別にセ ッションが作られ議論されているように,非常にアクテ ィブな分野となっている。ちなみにインテルサットでは 偏波レーダによる1年間の降雨観測実験を募集している。 現在日本ではこの方面の研究を行っているところは電 波研究所だけであることを考えると,当所の責任は大き いものとなろう。
 本実験は衛星計測部を始めとする関係各部の協力によ って成されたものであり,関係者各位に感謝すると共に, 今後の御支援をお願いする次第である。

(鹿島支所 第一宇宙通信研究室 主任研究官)




電気通信関係研究機関長連絡会議が発足


企画部

 郵政省は4月6日,電気通信関係研究機関長連絡会議 の第1回会合を開いた。この会議は,郵政省が目指す有 無線を一体とした総合的な電気通信政策の展開に役立て るために,行政部門も含め電気通信を所掌とする研究所 相互が素直に意見交換を行う場として発足した。会議に は,当所のほかNTT武蔵野,横須賀,茨城および厚木 の電気通信研究所,KDD研究所,NHK総合技術研究 所および放送科学基礎研究所の各所長と行政部門から電 気通信政策次長,電波監理局審議官,無線通信部長お よび監視部長が出席した。
 会議の冒頭,守住事務次官は次のように挨拶された。 「この会合は,各研究所長間の気楽な交流の場として 進めていただきたい。逓信の歴史は,分離・独立の歴史 であったが,それぞれの機関が特殊性を持って発展して 来た。昨牛,米澤元電電公社総裁にお会いした時に“五 研会”の話が出ましたが,行政面から皆様方の研究努力 をバックアップしていくことも必要と考え,こうして私 ども行政側として皆様方と情報交換の場を持つこととし た。


第一回会合(4月6日)

 郵政省は,規制官庁として安閑としていて良いわけで はなく,政策官庁として研究所の皆様方にも補完してい ただき,総合的電気通信の幕開けに対処していきたい。 今後,電電公社が民営化された場合のプレミアムを,一 般会計に繰り入れて赤字の穴うめ等に使うという話もあ るが,全部はともかく一部については電気通信の発展の ための施策に用いられるべきものであると考えている。 これに関しても研究者サイドの声をまとめ,国会審議等 にも反映させていければと思っている。
 また,研究資源の共同利用も重要であり,このことを 目指して研究機関の自主性を保ちながら,情報交換を進 めていくことが大事であると考えている。この会議は, 行政と研究の一層の発展を願うものであり,ここでの議 論が我が国の電気通信の健全な発展に大きく寄与するで あろうことを期待している。」
 このあいさつを受けて,第1回会合の座長となった当 所の若井所長は,「研究開発は技術行政の基盤となるも ので,研究機関は行政をリードする役目も持っている。 自由な議論の中から問題点を抽出し,また研究所からも 行政からもお互いに注文を大いに出すことが必要である。」 と発言した。
 この会議は,今後継続して開催されるが,研究開発の 長期展望,研究者等の人材養成,国際技術協力,その他 研究管理に関することを議題として取りあげることにな った。今年度は,さらに6回の会合で
 (1) 各機関における研究開発体制
 (2) 電気通信分野における技術の現状と将来方向
 (3) 共同研究開発体制
 (4) 研究開発環境の整備
 (5) 研究開発における国際関係
 (6) 行政との連携
等について検討し,まとめる予定になっている。
 本年7月1日からの郵政省電気通信行政機構の三局体 制移行や電電公社の民営化等に見られるように,電波・ 電気通信界は大きな転換期を迎えているが,本会議を通 じて各研究機関和互並びに研究機関と行政部門との間の 連携が深まり,各研究機関の特色を生かした研究開発が 一層促進されることが期待されている。
 また,この会議には幹事会が設けられたが,当所から 企画部長が出席する。次回会合は,5月23日の予定。

(企画部長 塚本 賢一)




中国を訪問して


佐分利 義和

 中国科学院の招待と科学技術庁の専門家派遣費の補助 を頂き,昨年の10月6日より3週間,中国へ出張する機 会を得た。目的は時間・周波数標準及び超長基線電波干 渉計(VLBI)に関する4項目の講議,施設見学及び 共同研究の打合せであり,上海天文台,上海計量管理局 研究所,陜西天文台(西安郊外),北京天文台及び計量科 学研究院(北京市内)の5機関を訪問した。
 時間標準はこれら全機関,またVLBIについては上 海天文台が施設をもち,研究を進めている。原子時計の 開発は1958年に始まり,その歴史は長くかつ内容も幅広 いものである。水素メーザを殆んどの機関が使用してい ることや,国内専門家が集まってセシウム標準器の評価 をするなどは特徴的なものであった。約2年前から米国 の商用セシウム時計が各所に設置され,時間スケールの 長期安定度も改善されている。陜西天文台による標準電 波は短波(BPM)のほか,100kHzパルス電波(BPL) があり,標準供給の高精度化がなされている。時刻比較 には,TV信号,ロランC(沖縄局)及びBPLを利用 しているが,広大な陸地のため高精度化が難しいようで ある。ソ連の放送衛星(714MHz)のカラー・テレビ信号 による比較実験が北京,陜西天文台等で行われている。
 VLBIシステム開発は上海天文台で1975年より始め られ,1981年には西独との共同観測の実績もある。現施 設は6mアンテナと自作のMARK-Uターミナルであるが, 1985年末には25m アンテナの完成が 予定され,また MARK-Vターミナ ルの導入の可能性 もある。国内観測 網として,上海, 昆明及び烏魯木斉 の3局案が提案さ れ,審議中とのこ とである。
 日中共同研究と しての気象衛星 (GMS)による 時刻比較及び VLBI共同観測については,強い関心がもたれ早期実現を 熱望された。帰国直前の10月25日東京で開催された日中 科学技術協力委員会でこれら2項目が新たな協力事項と して双方で合意されたとのことであり,今後は一層円滑 に推進されることとなろう。
 施設は各所とも自作のものが多く,その形式も新しい ものではなく,自動化も進んではいない。しかし,科学 技術振興政策による種々の努力は実を結びつつあり,研 究レベル,特に理論的なものはかなり向上しており,遅 れがちなハード面も,部品材料等の人手が自由諸国なみ になれば急速な進歩が期待される。出発前の講義の準備, 滞在中の長時間の講義など多少の苦労は,中国研究者の 驚くばかりの熱心さ,今迄にない詳細な指針になったと の感謝の言葉で報われ,楽しい交流となった。


北京天文台朱愛 嬢と万里の長城にて

 日曜日,早朝からの観光も,歴史の長い国だけに素晴 らしいものばかりで,欧米とは異なった印象深いもので あった。上海の国際都市の趣きに対して,西安の紀元前 250年から1000年以上も続いた古都の風格,また北京の 500年以上の首都としての偉容と巨大なスケールの近代 都市化は興味深かった。陜西天文台は西安より車で約1 時間の農村にあり,近くに秦の始皇帝陵や数千体の兵馬 桶などの遺跡があるが,ここでの宿泊は楊貴妃が玄宗皇 帝と住んだ温泉付の華清池宮殿内であった。柳に囲まれ た池が小雨に煙ると,何んともロマンチックな風情であ り,人気も全くなく,物音一つない夜の静けさのなかで, 毎晩温泉に一人つかっていた一週間は一生の想い出とな ろう。4000年前の遺跡に始まり,万里の長城,秦時代や 唐時代の文化,明及び清時代の故宮や広大な頤和園など, すべて歴史の重みを感ずるものばかりであったが,一方 この巨大な国が近代化のなかで躍動し始めたとの感じが した。終りに,中国訪問を実現させて戴いた中国科学院, 科学技術庁及び郵政省の関係の方々に感謝致します。

(総合研究官)


短   信


宇宙開発計画の決定

 昭和59年第9回宇宙開発委員会定例会議が3月14日に 開催され,宇宙開発計画が決定された。当所に関連のあ る改定部分は,CS-2b,BS-2aの開発を運用に変 更したこと,BS-3の研究開発を開発に変更したこと, ETS-Vの運用を削除したこと,EXOS-Dの開発 及びERS-1の開発研究に著手したこと,H-1ロケ ットの性能向上に関する研究を削除し大型ロケットの研 究を追加したことである。



宇宙通信政策想談会が発足

 郵政省電波監理局は,長期的・総合的宇宙通信政策の 確立に資するため,21世紀を展望し,通信全体の在り方 及び社会全体の動向を踏まえた総合的視点から,我が国 の宇宙通信政策に関する調査・研究を行うことを目的と して「宇宙通信政策懇談会」(座長:渡辺文夫東京海上火 災保険且ミ長)を発足させ,その第1回会合を3月21 日に開催した。同懇談会には,利用部会(部会長:塩野 宏東京大学教授)及び開発部会(部会長:平山博早稲田 大学教授)が置かれており,それぞれ2回の会合が開催 されている。本年度は我が国の衛星通信政策の調査研究 を行い,衛星放送については昭和60年度に調査研究を行 うこととしている。なお,当所の金田次長は開発部会の 部会長代理に指名された。



「技術試験衛星X型(ETS-X)の移動体通信 機器の開発に関する協定」を締結

 昭和58年3月に宇宙開発委員会が決定した「宇宙開発 計画」において,昭和62年度に移動体通信実験機器を搭 載した技術試験衛星X型(ETS-X)が打上げられる こととなった。
 上記の搭載用実験機器を円滑に開発するために,昭和 59年3月30日,ETS-Xを用いて移動体航法実験を行 う運輪省電子航法研究所,移動体通信実験を行う当所及 び衛星本体の開発を担当する宇宙開発事業団は,それぞ れの間で協定を締結した。
 なお,当所では昭和53年以降,AMESの名称で,航 空・海上技術衛星の実験システムの研究開発を行ってき たが,これを機会に名称をEMSS(Experimental Mobile Satellite System for Communications:移動 体衛星通信実験システム)と改めることとなった。



昭和58年度 国際協力学術奨励励論文1席に入選

 衛星通信部の飯田尚志,島田政明,岩崎憲,下世古幸 雄の4名は4月18日(財)国際協力推進協会(APIC) の発展途上国との国際協力に関する論文・研究プロジェ クトの公募に,研究論文「人工衛星を利用したアジア・オ セアニア地域の放送サービスシステムに関する研究」を 応募し1席(奨励金50万円)に入選した。これは,国際 協力に関する広い分野の応募論文の中から時宜を得た優 れた論文として審査委員の高い評価を得たものである。
 APICは,昭和50年9年に外務省の指導の下に我が 国の国際協力が真に受入れ国の発展に貢献できるよう官民 協調のパイプ役として発足したもので情報提供,学術奨 励,国際交流等を行っており,(会長)勝田龍夫氏,(理事 長・審査委員会委員長)牛場信彦氏,(専務理事)松本浄 氏,理事,顧問に各界の有力者をもって運営されている。



科学技術週間 所内一般公開

 例年,4月中旬に科学技術週間にちなんだ種々の行事 が全国的に催されているが,当所は本年も4月19日に所 内の一般公開を実施した。今回は昭和54年から5か年計 画で開発し,このたび試験観則にも成功した日米間VLBI 実験とNASAのスペースシャトル計画に採用され, 今秋,共同実験を行う予定のSIR-B計画について, 特別コーナーを設けて公開した。このほか新しく開発し た19素子19ビームマルチビームアンテナ等,11項目を公 開した。当日はあいにく雨模様の天気で肌寒く,室外で 公開したラスレーダのコーナーでは寒さに震えながらの 説明となりた。このような悪天候にもかかわらず,200 名近い方々が訪れ,大変貴重なご意見等をいただいた。 当所は年2回の公開を実施しているが,本年も学校等の 夏休み時期にもう一度公開を予定している。



昭和59年度科学技術庁長官賞受賞


 去る4月19日,佐分利義和総合研究官は,昭和59年度 研究功労者として科学技術庁長官賞を受賞した。本賞は 昭和50年に創設され,科学技術の進歩に大きく貢献した 研究者に対し贈られるもので,科学技術功労者表彰の受 賞は当所から初めてのことである。
 表彰の対象となった研究テーマは「原子時計による超 長基線電波干渉計の研究開発」で,原子時計の高安定化 を達成し,これを基盤に超長基線電波干渉計(VLBI) の研究開発を推進し,我が国独白の高精度システムを完 成して,史上初の日米大陸間精密距離測定に成功したこ とによるものである。
 高精度VLBIシステムの開発と実用化は,プレート 運動,地殻変動の測定と地震予知への応用,国際時刻比 較,衛星軌道の決定など,その利用面は極めて広い。同 氏はこれらの科学技術の新たな発展に努力し,国内及び 国際的に多大の貢献をした。



「注目発明」に当所から2件選定される

 4月18日,当所の「SSRA通信方式における回線接 続方式(発明:横山光雄,通信方式研究室,特許出願中)」 及び「電波音波共用風向風速遠隔測定方法と装置(発明 :福島圓*,秋田錦一郎*,増田悦久,第二特別研究室,特 許出願中;*58年退職)」の2件が第43回注目発明に選定 され,科学技術庁長官から証書が授与された。
 注目発明は,科学技術庁が最近の国内における発明の うちから,国民的関心を喚起する必要のある発明を注目 発明として選定公表することにより,研究開発の優れた 成果を一般に周知させ,その実用化を促進し,我が国の 科学技術水準の向上に資するために設けたもので,当所 からは初めて上記2件が選定されたものである。



逓信記念日表彰について

 4月20日第51回逓信記念日に際し,当所関係では大臣 表彰として事業優績団体2,永年勤続功労者6名が表彰 され,又所長表彰として事業優積団体1,発明考案者3 名,事業優績者1名がそれぞれ表彰された。
1 大臣表彰
 「K-3型VLBIシステム研究開発グループ」
 超長基線電波干渉計計画の重要性を深く認識しその計 画の推進にあたっては一致協力して多くの困難を克服し 日米間における試験及び観測実験を成功させるなど電波 科学技術の向上に多大の成果を挙げた。
 「電波部超高周波伝搬研究室」
 ミリ波帯電波利用の開発の重要性を深く認識し一致協 力して多くの困難を克服しミリ波帯の降雨減衰特性を解 明するなど電波監理行政の発展に多大の貢献をした。
2 所長表彰
 「衛星計測部第一衛星計測研究室研究官 篠塚 隆」
 旺盛な研究心をもって合成開口レーダのデータ解析ソ フトウエアの開発に尽力し多くの困難を克服して高精度 の画像再生に成功するなど電波計測技術の進展に多大の 貢献をした。
 「企画部第二課試作係」
 一致協力して多くの困難を克服し複雑かつ精巧な機器 の設計及び試作等に尽力し研究業務遂行に多大の貢献を した。
 「周波数標準部原子標準研究室主任研究官 森川 容雄」
 周波数原器の安定度向上を図るため創意工夫をこらし て水素メーザ自動同調システムを開発し時間標準の精度 向上等に多大の貢献をした。
 「周波数標準部原子標準研究室主任研究官 占部 伸二」
 同  上
 「周波数標準部原子標準研究室研究官 太田安貞」
 同  上
3 永年勤続功労者
 本所 金田秀夫,土屋清實,鴨下 義,大内ケイ
    木戸敬久(現宇宙開発事業団)
 稚内電波観測所 岡本 智