CCIR研究委員会中間会議(A2ブロック)のトピックス


古濱 洋治

  まえがき
 標記の会議が1983年11月2日から12月7日までの36日間, ジュネーブで開催された。筆者は,日本代表団の団長と してこの会議に出席したので,会議の模様,トピックス について述べることとしたい。
  会議の概要
 この会議は,1983年8月29日から9月30日まで開催され た中間会議(A1ブロック)に続く,今会期(1982年か ら1986年まで)二つ目の研究委員会(SG)である。近 年,中間会議においては,業務に直接関係する分野を取 扱うSG(Bブロック)と基礎技術関連の分野を取扱う SG(Aブロック)とに分けて開催されることが通例で あった。しかしながら,今中間会議においては,今年1 月に開催された「短波放送に分配されたHF帯の計画作 成のための世界無線通信主管庁会議」(WARC-HF BC)の準備との関連で,SG6(電離媒質内伝搬)が SG10(音声放送),SG11(テレビジョン放送)及び CMTT(音声及びテレビジョン番組の長距離伝送)と 共に,A1ブロックとして開催された。このため,今A 2ブロックでは,SG6を除く,4つのSG(1,2, 5,7)が開催された。尚,このほかのSGの中間会議 (Bブロック)は,現在開催中である。
 会議への参加は,主管庁38か国,認められた私企業17, 国際機関6,科学工業団体2,国連専門機関1から合計 67,参加人員は総数267名(第1位は米国の29名,日本 は中国と共に11名で,仏,英,西独,加,伊に次ぎ第7 位)であった。寄与文書の総数は262件(第1位は米国 の62件,日本は29件で第2位)であった。処理文書の総 数は,203件,新テキストの総数は21件であった。当所 からの寄与は,15件(実件数は12件内1件は共同提案) であった。我が国の提案は各国の注目を浴びるものが多 く,高く評価され,その趣旨がほとんどすべて関連テキ ストの改訂・新設案に反映された。各SGにおけるトピ ックスは以下のとおりである。
 SG1(周波数スペクトラムの有効利用と電波監視)
 (1) 宇宙業務のスプリアス発射許容値(Rec.329)
 960MHz〜17.7GHzの宇宙業務において,(a) スプリ アスは基本波の50dB以下,但し100mW,100μWの制限 は適用しない,(b) 帯域外相互変調積は4kHz当り飽和 電力に対して30dB以下とする改訂提案を米国が提出して いた。現在,日本やインテルサットの宇宙通信系には (a)の50dB値を満たさないものがあり,議論が白熱した。 審議の結果,(a)項については改訂提案が承認され, (b)項については,他の関連SGの意見を聞いたうえで 規定方法および規定値の検討を行うことになった。本勧 告(Rec.)案は,最終会議で再度検討され実施までには かなりの期間を要するが,これによりスプリアスの許容 値に対する一つのガイドラインができたわけで,本年6 月に開催される「静止衛星軌道の利用に関する世界無線 通信主管庁会議(WARC-ORB)のためのCCIR会 合(CPM-ORB)にも提出される予定である。今後の 日本の衛星システムへの影響等の点から注目しておく必 要があろう。
 (2) 40GHz以上のスペクトラムの利用(新研究問題)
 40GHz以上の通信システムの研究課題については,光 領域の周波数帯における研究もできるよう我が国は以前 から主長していた。これらは1つの研究問題(Q.)と2つの 研究計画(S.P.)に分かれ,整然としないものとなってお り,1982年の第15回CCIR総会で終結したIWP(中 間作業班)1/3(「SG1の活動の見直し」を担当)で は,これらの統合を提案していた。また,同年の全権委 員会議では,国際電気通信条約を改正し,電波とは人工 的導体のない空間を伝搬する当面3,000GHz以下の周波 数の電磁波を指すものと定義し,CCIRにおいては, この周波数の上限に関係なく研究を進めることにした。 このため,我が国は,これらのテキストの取扱いに特別 の注意を払っていた。審議の結果,これら3つのテキス トは,表記の新Q. として1つにまとめられた。この起 草には,過去の経緯に通じている前IWP1/3の Railton議長(パプアニューギニア)が当たった。この新テ キストの研究事項は,「40GHz以上の通信システムの種 類,各システムに適する周波数バンド」と「40GHz以上 の共用基準,干渉条件,調整事項」であり,光領域を含 んだ形となっている。
 (3) テキストの削減法
 新議長Mr. Olms(西独)は,SG1のテキストが, 共通事項,基本事項を広く扱っているため,非常に理解 し難くまた使い難いので,これらのテキストを使い易く する必要があるとして,テキストの縮少・統合・削除に なみなみならぬ意欲を示した。この結果,SG1テキス トの削減法について,2分割法(不変情報と改訂の必要 な情報との2分冊構成とする),アブストラクト法(これ のみでテキストを構成する),ファイル法(過去のテキス トに通し番号を付けファイルする)等々種々の意見がで て長時間審議を行ったが,まとめるに至らず最終会議に 持ち越した。当面各テキストの分量の削減法として,テ キスト毎に担当国を定め(我が国は,Rep. 664(40〜 3000GHz周波数帯のレビュー)担当),最終会議までに現行 テキストの改訂または統合案を作成しておくことになっ った。
  SG2(宇宙研究と電波天文)
 (1) データ中継衛星間で周波数を共用するために必要 な最小軌道間隔(新Rep.)
 本提案は日本からのもので,二つのデータ中継衛星シ ステムが周波数を共用する場合において,静止衛星軌道 上のデータ中継街星相互間の心要な最小軌道間隔を求め る方法について述べたものであり,一部修正のうえ採録 された。
 (2) 宇宙機の使用を目的とした宇宙距離の分類(信Rec. , 新Rep. )
 米国は,深宇宙についての現行の定義(無線通信規則 では,地球−月間の距離3×10^5q以上の空間と定義)に 基づくと,現在計画している深宇宙研究が困難になると いう観点から,深宇宙を表す距離の定義を「地球から 2×10^6q以上離れた空間」と改訂することを提案した。 本提案は,新たに深宇宙以外の宇宙研究業務用等の衛星 システム間の共用について問題が生ずる可能性を指摘し た日本及びインドのコメントを考慮のうえ,内容を若干 修正した後承認された。
 (3) 18.6〜18.8GHzにおけるパッシブセンサと航空 移動を除く固定・移動・固定衛星業務との周波数共用( Rep. 850)
 米国の提案は,大容量地上無線中継方式,小容量加入 者無線方式との周波数共用等に関する検討結果を述べた ものであり,その中には,日本における20GHz帯ディジ タル無線方式との周波数共用の可能性について検討 した結果も含まれ,共用は可能であるとしていた。 しかしながら,将来システムにおいては今回提案さ. れている共用基準を満たさない可能性があるので,現 行テキストの脚注を「この節で議論されている基準を満 たさないかも知れないシステムが計画されている」と修 正のうえ存続することにした。米国はこのテキストの改 訂のため4件の寄与文書を用意し,提案には具体性があ った。我が国は,部分的ではあるが米国提案に反論し, 最終的には合意を得た。このような文書攻勢に対しては, 十分なデータを準備して対処せねばと痛感した次第であ る。
  SG5(非電離媒質内伝搬)
 (1) 伝搬特性推定法に関するテキストのRec.化
 現在の伝帯特性推定法に関するRec.は,単にRec. に記載されている方法の使用を勧告しているのみである が,このようなRec.は,第15回CCIR総会の決議 (Res.)に適合していないため再検討を迫られていた。こ れについては,既存Rep.を再編成し,重要部分と補足 部分に分けて後者を小活字で印刷し,さらにデータを Rep.から分離したデータベースにするIWP5/2案が提出 され,これが採用された。今後,Rep.のRec.化に向 けて,IWP5/2内に設置されたテキストグループが、 既存Rep.に多い両論併記の推定法を,このデータベー ースを用いて検証し,推定法の一本化を図ることになっ た。現在4つのテストグループが構成され,作業が進め られている。
 (2) 放送業務用VHF・UHF帯伝搬曲線(Rec. 370 およびRep. 239)
 本年10月VHF音声放送プランのための第1地域無線 通信主管庁会議(RARC-FMBC)が開催されるこ ともあり,IWP5/5および各国から多数の寄与・文書 が提出されたが,それらの提案およびデータベースがば らばらのため調整がとれず,現在中近東で実施されてい る伝搬実験のデータおよび各国の既存データをもとに, 再度IWP5/5会合を問き伝搬曲線の見直しを図り, その結果をRARC-FMBC及び最終会議に提出する ことになった。
 (3) 宇宙通信方式に必要な伝搬データ(Rep. 564)
 降雨減衰推定法に高度逓減係数が導入された。これは 従来の0℃層高度に上記係数を乗じて実効的な雨滴層 高度を得るもので,緯度の関数として与えられている。 日本提案のサイトダイバーシチの仰角特性の図は,その まま取り入れられた。また,サイトダイバーシチ効果を 示す図は,日本・英・米の測定データから作成されたも のであるが,伊データにより,ヨーロッパ全体でも適用 可能であることが裏付けられた。日本(RRL)から提 出した交差偏波劣化推定法に及ぼす氷晶の影響ならびに VLBI(超長基線干渉計)による位相シンチレーショ ンの測定結果に関する提案もそれそれ採用された。
 (4)海上移動衛星方式のための伝搬データ(Rep.884) および陸上移動衛星方式のための伝搬データ(新Rep.)
 従来のRep.884が,表記の2つのRep.に分割された。 フェージング推定法については,日本(KDDとRRL の共同提案)およびESAから異なる方法の提案があり, 両代表によって白熱した討論が続けられた。検討の結果, 波浪のモデル化の違いとそれに関連したshadowing effect(遮蔽効果)の取扱いが,フェージングの推定に相 違を与えていることが明らかとなった。推定結果と測定 データを比較すると,波高の小さい所(約2.5m以下)で は,日本提案が良く一致し,波高が大きくなるにつれて, ESA提案に近づく傾向が見られた。今回はこれら2つ のモデルが併記され,今後IWP5/2のテストグルー プで検討することになった。
  SG7(標準周波数と報時信号)
 (1) 人工衛星による標準周波数・時刻信号の分配 (Rep.518)
 米国から,衛星関連技術の最近の動向を反映して,新 Q.(高精度時刻伝送におけるアンテナ及び回路による遅 延),および新S. P. (アンテナの遅延標準と測定技 術)案が提出されていた。我が国もCS(さくら)を用 いて局内遅延に関する研究を行っており,寄与文書(R RL)を用意していたので,これらの提案を積極的に支 持した。支持を表明することは,なかなか気分のよいも のである。その結果,新Q. ,S. P. および我が国の提案 も承認,採録された。GPS衛星を用いる標準周波数と 報時信号の伝送については,いくつかの研究機関で実用 時刻比較に使われており,近い将来TAI(国際原子時) を形成するために,ロランCを用いて行っていた時刻 比較に替って,GPSを用いた国際的時刻比較が,日本 を合めて行われるであろうと予測されている。
 (2) 可視・赤外領域の標準周波数発生器(Rep. 738)
 メートル単位の新しい定義が,光領域の周波数測定に 基づき,光が真空中を1/299,792,458秒間に進む距離とし て定義された事実が追加された。周波数測定を基礎とし た物理単位系の定義は,電圧の定義に続いて2つ目であ る。今後とも最も測定精度の高い周波数を利用した物 理単位系の再定義が進められるすう勢にある。また,こ の周波数領域における研究は先進諸国において活発であ り多数の参考文献が追加された。
 (3) 用語 Instability
 これまで標準器の性能を示す指標としてstability(安 定さ)が使われていたが,10^-15などで表わすように,一 部の例外を除いてほとんど総てinstability(不安定さ) というべきであるとして,テキスト中のstabilityという 言葉がinstabilityで置き換えられた。今後正確な用語と して,instabilityの定義が検検討されよう。
  あとがき
 SG1の会期中に,国際監視システムの改善に関する CCIR/IFRB(国際周波数登録委員会)のアドホ ック会合が3日間にわたって開催された。この会合は, 栗原(前電波研究所長)IFRB議長の司会によって始 められた。同議長の手際良い議事進行を拝見するにつけ, 大いに元気付けられたものである。
 今A2ブロックでは,会期の前半にSG1とSG5が 開かれ,後半にSG2とSG7が開かれたため,筆者は 主としてSG1とSG7とを担当した。専門分野である SG5の会合に出席する機会がほとんどなかったことは, 多少心残りであった。しかし,ロビーでは多数の外国代 表と意見を交換する機会があり,誠に有意義であった。 特に中国の代表とは,4つのSGを通じて話し合う機会 があり,大いに友好を深めることができた。
 最後に多大の御指導,御協力,御支援を頂いた関 係各位に対して厚くお礼申し上げる。

(電波部 超高周波伝搬研究室長)




ミリ波で太陽を見る


平磯支所

  はじめに
 ミリ波帯電波は,広い応用が考えられる新しい周波数 資源として,その実用化が進んでいる。一方,天文学等 の学術研究の分野でもミリ波は現在非常に注目を集めて いる。ミリ波帯には多くの分子スペクトル線があり,ミ リ波宇宙電波の観測から宇宙に様々な分子(複雑な有機 分子を含む)が存在することが明らかになってきた。さ らに太陽をミリ波観測する試みもいくつかの観測所で行 われている。ミリ波帯の電波は,大陽大気中の彩層と呼 ばれる領域から放射されており,この付近の大気の状態 を調べることができるからである。また,太陽フレアと 呼ばれる太陽大気中の爆発現象を調べるためにも重要な 周波数である。
 平磯支所では,1980年4月以来,ミリ波帯の周波数32 GHzで太陽観測を行ってきた。これには,衛星通信用に 設置された直径10mのアンテナと,低雑音受信機が使用 された。この観測の最大の特徴は,ミリ波と大口径アン テナの組祖合せにより細いアンテナビーム(太陽直径の約 1/9)が得られ,太陽表面の電波源の細かい様子を知ること ができることである。よく知られているように,ミリ波 は降雨による減衰を受けるため,日雨の日や,厚い雲がか かった日は観測ができないが,これ以外はほぼ毎日観測 が行われてきた。
 これまでの観測から,ミリ波で見た太陽表面の特徴や, ミリ波太陽電波の放射機構,更に太陽フレアとミリ波電 波強度の対応関係等を調べることができた。これらの結 果を以下に2例紹介する。
  ミリ波太腸マップ
 図1に1982年6用20日の平磯のミリ波マップと白色光 で見た黒点を並べて示す。ミリ波マップは太陽表面の電 波の強さを輝度温度で表し,等高線表示したものである。 現在のところ,このような大陽のミリ波二次元観測は, 世界中のどこの観測所でも行われていない。図1からは, 太陽全面からほぼ一様な強度の電波(輝度温度約104K) が放射されていること,2簡所に輝度温度の高い山があ ること,更にこれらの山はそれぞれ大きな黒点に対応し ていることがわかる。両図の観測時間が約半日ずれてい るため,太陽の自転により黒点とミリ波の山は経度が多 少ずれている。


図1ミリ波太陽マップ(左)と黒点(右)

 黒点は太陽表面の活動の盛んな領域で,強い磁場を伴 っている。黒点の上空には,まわりに比べ高温度密度の プラズマが磁力線ループの中に閉じ込められており,強 いミリ波電波はこのプラズマから放射されている。ミリ 波マップの輝度温度のピークは,登録番号3776の黒点の 上空では11,800K,黒点3781の上空では13,700Kに達し ている。また電波源の大きさは,前者は大きく,後者は 小さいことがわかる。黒点の図ではこの二つ以外にも小 さな黒点が見られるが,ミリ波では目だった上昇は見ら れない。輝度温度が12,000Kに達する黒点はまれにしか 現れず,非常に活発な活動をすることがわかってきた。 事実,この二つの黒点は,出現期間中に数多くのフレア を発生した。
 ミリ波観測では電波の強度だけではなく,偏波の観測 も可能である。太陽電波の偏波は,太陽面の磁場により 作られると考えられるため,ミリ波の観測から逆に太陽 面の磁場の分布を知ることができる。これまでの観測か ら,多くのフレアを発生した黒点が強く複雑な磁場構造 を持っていることが確認された。フレアのエネルギーは 黒点の磁場の中に蓄えられていることがわかってきたた め,磁場構造の観測はフレアの研究にとって欠かせない ものの一つである。
 この他ミリ波マップからは,白色光では絶対に見るこ とができない太陽面のダークフィラメントや,コロナホ ールの位置もある程度知ることができる。これらはフレ アとともに,地球の上層大気を乱し,地磁気嵐を引き起 こす原因であることがわかり,最近注目を集めている。
  ミリ波と太陽フレア
 太陽フレアは太陽大気中の爆発現象で,電波からX線 に及ぶ電磁波の強い放射と,高エネルギー粒子の放出を 伴う。これらは地球の電離層を乱し,短波通信に障害を 与えることは昔から知られている。近年,人類の宇宙進 出に伴いその影響が広範囲に及ぶことがわかってきた。 例えば,街星との通信や計測に障害を与えること,帯電 現象により衛星本体の故障を引き起こすこと,更にフレ ア時には宇宙飛行士の宇宙船外活動が危険にさらされる こと等である。このためフレアの監視及び発生予知の重 要性は高まってきた。
 以前から,マイクロ波帯の太陽電波のスペクトルを調 べるなどのいくつかの方法でフレアの発生予知が行われ ている。平磯の観測では,ミリ波輝度温度の上昇とフレ ア発生との間にかなり良い相関関係が認められ,フレア 予知に役だてることができそうである。ミリ波は,太陽 大気中の彩層から放射されており,フレアも主に彩層で 発生する。ミリ波では,フレアが発生するのとほぼ同じ 高度の太陽大気を見ているため,両者の対応関係が良い のではないかと思われる。しかも,平磯の観測は太陽面 を二次元的に分解して見ることができるため,フレアの 監視や予知にとって非常に有効であると思われる。
 図2に黒点上空の輝度温度の値と,その場所で発生し たフレアの個数の相関を示す。輝度温度の値は,静隠領 域からの上昇分を,フレア個数は黒点出現期間中の全フ レア数を示す。両者の間には良い相関関係があり,ミリ 波の輝度温度の値から,その黒点が大体どの位フレアを 発生するかを知ることができる。更に,輝度温度の高い 黒点ほど大きなフレアを発生する傾向も認められた。


図2 輝度温度とフレア発生数

  おわりに
 平磯支所で行ってきたミリ波太陽電波観測について結 果の一部を紹介した。これまでの観測からはこの他にも, ミリ波電波の放射機構や,フレアに伴う粒子加速の解明 の手がかり等が得られている。今後とも,太陽フレアの 監視及び予知は,宇宙空間及び地球現境のモニターとし て重要性を増すと考えられる。フレアの予知には,不断 の太陽の監視とともに,フレア発生機構に関する研究が 重要である。ミリ波太陽電波の観測は,このような面か ら更に発展させて行きたいと考えている。なお,この観 測は平磯支所アンテナ撤去のため現在中断中であるが、鹿 島支所のアンテナを使用して再開される予定である。

(太陽電波研究室 研究官 熊谷 博)




自動レーダプロッティング機能(ARPA)装置の型式検定


大槻 明男

 はじめに
 1912年のタイタニック号,1954年の洞爺丸等大きな海 難事故のつど,大型,高速化した船舶の安全性が論議さ れ,航行援助装置や無線機器の重要件が強調されてきた。 無線機器の型式検定は,タイタニック号の事故が契機と なり,国際的に制度化されたが,現在我が国では当所通 信機器部機器課において,17機種の無線機器の型式検定 業務を行っている。
 本年9月には,1974年海上における人命の安全のため の条約('74SOLAS)の一部が改正され,通称衝突予 防援助装置と言われる自動レーダプロッティング機能 (Automatic Radar Plotting Aids)装置の船舶設置が義 務付けられることになった。これに対応して,日本でも ARPAが本年3月1日に型式検定の対象となり,5月 15日に初の型式検定合格を発表した。
 このARPAについて,その概要,型式検定導入の経 緯等について述べることとする。
  ARPAの概要
 1935年6月英国国立科学研究所で発明されたレーダ は,電波技術の発達とともに種々の改良がなされ,航行 援助装置として欠くことのできないものになっている。 ARPAは,レーダ等から得られる情報を処理して, 自船と衝突の危険のある物標が存在する場合には警報を 発し,注意を喚起する働きをするものである。
 ARPAには,レーダからの信号として自船から見 た物標の方位(相対方位)及び物標との距離が入力され ると共に,ジャイロコンパスからは自船の速度が信号と して入力される。ARPAのコンピュータでは,これら の情報を記憶し,物標の相対針路,真針路,相対速度, 真速度を計算して今後の各物標の針路,速度を直線的に 予測し,自船との関係をベクトル図形でブラウン管上に, また衝突危険物標との最接近する時間,距離等をデジタ ル表示器により表示する。この表示図形等により各物標 の移動状況及び今後の移動予測が直ちに観測することが できる。
 なお、,これら物標の捕捉は,自動的に20以上の目標を 一度に捕捉して自動追尾し,レーダ空中線が連続する 10回の走査において,5同以上表示面に現われる捕捉目 標を継続的に追尾すること等の厳しい条件が課せられて いる。


ARPA概念図

  型式検定導入の経緯
 1960年代頃から,海運界におけるタンカーの大型化に 伴い座礁,衝突事故等による海洋汚染が激しくなり,国 際的にも大きな問題になってきた。その対策の一つとし て,米国ではARPAの船舶設置の義務化をめざし,19 77年5月17日に米国沿岸警備隊(USCG)は米国連邦 通信委員会(FCC)が作成したARPAの性能基準案 を公示した。これが公的機関からはじめて公表されたA RPAの基準案である。
 さらに米国は,国際的協調を得るために国際海事機関 (IMO)に働きかけ,1977年10月の海上安全委員会( MSC)と海洋環境保護委員会(MEPC)の合同委員 会において,1979年7月1日までにARPAについての 性能基準案を作成すること及び'74SOLASの一部を 改正しARPAの船舶設置義務を決定した。
 その後関係機関の作業を経て,1979年9月のIMOの 航行安全小委員会(NAV)において,ARPAの最終 性能基準案がまとめられ,1979年11月のIMO総会で採 択された。また,1981年11月の拡大海上安全委員会の決 議により,1984年9月1日を期限とするARPAの設置 義務条件が国際的に決定された。
 一方米国では独自に,米国水路を航行する総トン数1 万トン以上の船舶は,国籍を問わずすべて1982年7月1 日以前に,米国連輪省海事局(MARAD)の規格に適 合したARPAを設置することを義務づけた。
 日本においては,これら国際的動向に対応するために 関係の国内法令の改正作業を行い,IMOの基準をもと にARPAの性能基準を定め,1983年1月131日に告示第 67号として告示した。また,関連する無線機器型式検定 規則が,1984年2月20日公布,同年3月1日施行の郵政 省令第6号により改正され,ARPAが型式検定の対象 となった。
  検定の準備と実施
 型式検定実施のための準備は,1981年当初に性能基準 告示案の検討を行うことから開始された。これと並行し て1982年6月からは,ARPAの検定試験を室内で定量 的に行うため,ARPAに入力する信号等を発生するレ ーダシミュレーション装置の開発に者手した。
 このシミュレーション装置は,性能基準で定められた レーダアンテナが一回転する間の各物標の位置を,コ ンピュータ制御によりメモリ部に記憶させ,アンテナ回 転信号と同期して映像信号としてARPAに加えるもの である。しかし,レーダの各信号の波形等の条件がシ ミュレーション装置の設計上最も重要な条件であるため, 船舶用レーダーを購入し実験局の免許を受け,1983年7 月に伊勢湾にお、いてレーダの海上実験を行い,所期のデ データを得ることができた(電波研ニュース89号既報)。 このデータをもとにシミュレーション装置の製作と試験 方法の開発が本格的に進められた。
 シミュレーション装置がほぼ完成した本年2月からは, 試験装置のチェック及びARPAの性能調査のため性能 試験を実施した。同時に検定実施の細目を定めた検定審 査要領、検定試験要領を作成するとともに申請者への検 定実施のための資料を作成し,本年3月8日に各製造者, 日本電子機械工業会,水洋会に対しての説明会を電波監理 局関係官同席のもとで開催した。ARPAの検定業務は, 本年3月22日の初申請によって開始され,検定試験要領に 従って所定の試験を行た結果,5月15日には4社4台 が型式検定に合格した。


シュミレータ信号によるARPA映像

  あとがき
 近年,海運界では,省力化,省工ネルギー化の要求が 強く,高度合理化船の開発が進められており,自動航行 船,機関無人船等が出現している。20年前50名を要した 乗組員が現在では半分程度となり,定員10名以下の大型 船舶時代も近いうちに到来するといわれている。これら 高度合理化船の航海には安全性が強く求められ,近い将 来には,航海に必要なすべての機器からの信号や情報を コンピュータ処理し,操舵装置,機関装置等を自動制御 することにより,衝突や座礁等の事故を回避するように なるものと考えられる。
 一方これらARPAのように人命にかかわるような機 器が型式検定に導入される場合,その基準の検討に相当 の期間と,業務実施に相応の予算及び要員が必要となる。 しかも型式検定業務の停滞や誤りは,国家の信用上許さ れるものではない。
 今回のARPAについても,シミュレーション装置を 外注すると1億円以上が必要となること,試験開始まで の期間に余裕がないこと等から自主開発に踏み切ること となった。装置の製作には2名の試験官が専任し約2年 を要した。また,測定法の開発,レーダ海上実験等では, 検定係及び第二機器係の総員で当たり,その間にも他機 種の検定試験をやりくりする等,きわめて苦しい作業の 連続であった。しかし,各担当の奮闘で,高精度のシミ ュレーション装置が完成し,無事ARPAの型式検定業 務を開始することができた。御援助きただいた関係各位 に深く感謝射いたします。
 今後型式検定に導入される無線機器はますます複雑多 様化するものと考えられ,なお一層の努力が必要である と感じている。

(通信機器部 機器課 検定係)




》職場めぐり《

情報化社会と音声


情報処理部 音声研究室

 「高度情報化社会」という,人それぞれに受止め方が 違っても,ある程度共通のイメージが描ける言葉がは やっている。政策官庁への脱皮をうたった郵政省の改組, 電気通信のあるべき姿をめざした電気通信事業法の制定, 電々公社民営化等のニュースが茶の間にも伝えられてい る。このような世の中の動きは我々の研究分野にも大き なインパクトを与えている。たとえば,当室の主要課題 である「音声符号化」に関する民間機関からの研究発表 を見ても,公衆通信以外は,数年前までは皆無に等しか ったが,最近急増し2桁台に達している。これは,回線 の利用方法についての厳しい規制がゆるみ,回線の設定 さえ自由化されようとするに及んで,設計者が自由に創 意工夫をこらして利用者の多様な要望にこたえることが 可能となったからである。
 当室では,電波が唯一の伝送媒体である移動通信のデ ィジタル化に不可欠な音声符号化を研究しているが,上、 に述べた動向に照らして,当面の実用化をねらった方式 の開発は順次民間の活力にゆだね,より先を見通した効 率的方式の研究に重点を移しつつある。田中主任研究官 を中心とした認識合成手法の利用による効率的伝送系構 成の準備,吉谷研究官を中心としたレート歪理論に基づ く最適量子化,ベクトル量子化の検討,これらの基盤と して欠かせない大山研究官による高精度分析合成手法の 検討などがそのための布石である。
 当所における音声研究の流れを溯ってみよう。音声が 工学的研究の対象として一部で注目されだした昭和30年 代の初期に研究グループが発足している。当時の研究施 設はほとんどが手作りで,昭和34年には我が国初の電子 式音声合成装置が完成して日本語音声の音響的特徴の解 明に活用された。また同年には,日本電気と共同で電子 計算機を用いた研究が開始され,昭和36年の当所への計 算機導入の引金ともなった。その後は計算機を用いた研 究に重点が移り,分析・合成法の高度化やX線を用いた 発声器官の計測などの幅広い基礎研究が実施され,学会 においても先導的役割をはたした。当時の主なメンバー は中田和男(現東京農工大教授),鈴木誠史,角川靖夫の 諸氏である。昭和45年頃からの約10年間は特殊な応用分 野に方向を転じ,海洋開発に関連したヘリウム音声の研 究や音声通信における諸雑音対策の研究が行われた。昭 和55年の前後数年間は,在外研究や異動が相次ぎ,研究 の継続性も危ぶまれる時期であったが,ようやくその危 機も脱して再出発問もない現在に至っている。
 将来の夢については大山が本ニュースのNo.90(昨年5 月号)に書いているので,夢を少し現実に近づけてみよ う。ニューメディアと呼ばれる各種の情報通信サービス が実現しても,人間社会にお、ける音声通信の役割は相変 らず重要である。情報圧縮によって音声の伝送や蓄積を 効率化することは,研究発足以来の一貫した課題である。 さらに,電気通信と情報処理の有機的な結合が成熟期を 迎えようとしており,ますます複雑・多様化する情報シ ステムを人間側に歩み寄らせて,話し,聴く機能を持たせ ることが出来れば,誰でもが情報化社会のまさに主人公 として安住できる。また,発話や視聴覚に障害のある人 達をこのような技術で支援することも大切であり,その 動向にも注目している。
 室員は4名で,特筆すべきは,全員車を持たず,省工 ネと混雑緩和に協力していることである。車に乗らず歩 き,中津井を除く3名は昼休みのジョギングでさらに鍛 えている。趣味等の一端は,映画(吉谷),水泳,楽器演 奏(田中),琴・三絃,自称学生の校長兼小使(大山)な ど。後二者は花嫁募集中。東京農工大の中田研究室より 卒論・修論研修の学生6名を受け入れており,全員そろう と大変賑やかで活気があって結構であるが,打合せ等に は会議室を借りる始未となる。

(中津井 護)


前列左から吉谷、中津井、田中、大山。後列は研修生で 左から井上、小峰、井沢(院生)、橋本、前田(学部4年)。




外国出張報告


中国での「時間と周波数国際シンポジウム」 に出席して

周波数標準部原子標準研究室長 中桐 紘治

 中国計量測試学会が中国と他の国々間の情報交換を 促進するために,9月2日〜5日(1983)に労働者の保養地 でもある杭州市で標記シンポジウムを開催した。外国人11 人を含む約50人の参加があり,日本からは筆者が「電波 研究所における時間周波数標準器」,東工大の田幸教授が 「半導体AlGaAsレーザの安定度制限要因」について発 表した。この分野における草分けでもある王天春氏によ る「中国での時間と周波数の研究」の講演の後原子標準 関係は19件(セシウム5件,同光励起式2件,水素メー ザ4伴,ルビジウム3伴,イオンストレージ1件,レー ザ4件),時間周波数の比較と供給関係7件,その他水晶 2件を含めて5件の発表があった。アジア・オセアニア の開催では1980年のオーストラリア,1981年のインドに 続くものであるが,中国のこの分野に対する熱意と貢献 度に感銘した。会議の前後上海,北京の関係機関を訪問 できたことも今後に役立てたい。



第21回レーダ気象会議に出席して

鹿島支所第一宇宙通信研究室主任研究官 中村 健治

 昭和58年9月19日から23日にかけてカナダ,エドモン トンにて開かれた21st Conference on Radar Meteorologyに出席した。会議は9月19日から22日まで19のセ ッションに分かれて行われ,21日には夕食会が,23日に はAlberta Hail Projectへの見学が行われた。参加人員 は約10カ国から約150人,うち日本から2人,発表件数 は約150件であり,日本からは電波研究所の5件と気象 研究所の3件,合わせて8件であった。これは米国,カ ナダに次ぐ件数であった。
 筆者は20日の午前に降雨の多周波観測に関する成果3 件,システムに関する研究2件の発表を行った。



中国,武漢大学に滞在して

第三特別研究室長 小口 知宏

 国際的なプロジェクトである「中国の大学発展計画」 に参加する形で昭和58年10月4日から約1か月間,中国, 湖北省の武漢大学に滞在し,講議及び研究のアドバイス を行った。講議は研究者,大学院学生を対象とした「降 水中の電波伝搬と散乱」に関する一連の講議,一般学生 を対象とした衛星通信に関する集中講議の二つからなる。 講義を通じて,新知識を吸収しようとする強い意欲に深 い感銘を受けた。対流圏伝搬分野の研究としては,国産 の12GHz帯サントラッカー/ラジオメータ,及び35GHz 帯ラジオメータを用いた高仰角伝搬路での降雨減衰統計, 濾紙法による雨滴粒径分布測定,他機関取得の気象デー タにもとづくダイバーシチ利得の予測に関する研究など がある。その他の研究分野をも含めレベルは高く,中国 の電波科学研究者は近い将来,我々の強力な競争相手と なる事を予想させるに充分であった。



初の大陸間日米VLBI観測への参加

鹿島支所第三宇宙通信研究室長 河野 宣之

 当所が5か年にわたって開発を進めてきた高粘度VL BIシステムは昨年9月完成した。本装置は,日米科掌 技術協力協定の下にNASAと協力してプレート運動や 極運動・地球回転を地球的規模で測定する為に開発され たものである。今回の米国出張(昭和58.10.31〜11.13) の目的は完成後,両国システムの適合性の確認のため,日 米間で初の試験観測を行うことであった。観測は鹿島支 所と筆者の参加した米国モハービ局及びオーエンズバレ ー局の3局で昨年11月4日に約4時間行われ大成功を納 めた。これにより当所のVLBI計画は国際観測へ第一 歩を踏み出した。その後ワシントンに行き,システム の総合的な完成,日米間の距離測定とその精度の確認を 目的としたシステムレベル実験及び59年度から5か年に わたる本実験の実施に関してNASA本部,ゴダード宇 宙飛行センターの関係者と打合せを行った。






短   信


第2回電気通信関係研究機関長連絡会議開かれる

 去る5月23日,第2回の研究機関長連絡会議が開かれ た。この会議では,各機関における研究開発体制の現状 や主な研究開発の成果,今後の重点的な研究開発計画, 人材養成の方策及び共同研究の実施状況等が報告・討論 された。各機関の今後の方向として,NTT電気通信研 究所は非電話サービスの開発とINS(Information Network System)の構築をめざした基礎から実用化段 階にいたる研究実用化,KDD研究所は将来のISDN (Integrated Services Digital Network)の重要な柱と 目される新サービス技術とソフトウエア技術の研究強化, NHK技術研究所は静止画・文字・衛星・高品位TV放 送等の新しい放送システムの開発に重点をおきながら進 めることがそれぞれ強調された。当所の若井所長は,電 波科学の一層の発展とともに,有・無線一体の総合的な 電気通信技術及び多様な電波利用技術に関する研究開発 を重視して推進することを強調した。また,この会議に は,第1回会合に続いて守住事務次官が出席した。次回 会合は,6月21日の予定。



電波の日表彰について

 6月1日第34回電波の日に当たり,超長基線電波干渉 計システムの開発に協力した次の3社が,初の日米大陸 間精密測距実験の成功に多大の貢献をしたことにより電 波研究所長から表彰された。
 安立電気株式会社:ビデオ帯受信部,ディジタル変換 部及び原子周波数標準部の完成
 沖電気工業株式会社:相関処理装置の完成
 日本電子開発株式会社:自動運用及びデータ処理解析 ソフトウエアの完成



第66回研究発表会開催さる

 第66回研究発表会は6月6日,当所4号館大会議室に おいて行われた。午前中の発表は,周波数ホッピングに よる陸上移動通信,微弱電波の測定法,マルチビームア ンテナの開発で,実用技術とのかかわりが深いこともあ り,満席の盛況で外部からの聴講者も173名と記録的で あった。午後は2周波による降雨強度の推定,Es層異 常伝搬,ミリ波による太陽観測,電話回線による時刻比 較,最後に日米間約8,000qの基線によるVLBI試験観測 結果の講演で成功裏に終了した。今回も来聴の方々から 活発な質疑とアンケートによる貴重なご意見をいただい たが,前々同あたりからブルーのスライドに統一し たこともあり,発表も分り易く大変よかったとのコメン トが多かった。今後共,充実した研究発表会となるよう に努力したい。