ETS-V/EMSS計画について

通信機器部

はじめに
 わが国は世界有数の船舶保有国であり,とりわけ小型 漁船が多く,その操業海域は沼岸のみならず,日本近海 を中心に,ほぼ大平洋全域に及んでいる。また航空の分 野においても,わが国はアジア大平洋域の航空交通の要 に位置し,太平洋各方面への航空機が運行されている。

 これら洋上の船舶,航空機と本土との通信は,主とし て短波帯の電波により行われているが,短波通信は,回 線数が少ないこと,電離層伝搬により回線が不安定であ ることなどのため,品質,容量,信頼度などに多くの問 題があり,通信土の技量,通話時間の割当て制などによ って最低限の通信が確保されている現状にある。

 地上における通信は,マイクロ波,同軸ケーブル,光 ファイバー等の新技術がつぎつぎと導入され,高度情報 化社会への変革が者々と進められている。しかし,移動 体,特に洋上の移動体に対する通信技術はマルコニーの 時代とほぼ同様の技術レベルともいえる状態である。特 にデータ通信,コンピュータネットワークなど今後の移 動体との通信,航行管制,測位などに必要な高度の通信 形態を満足できる回線が構成されていない。

 衛星通信システムの適用により広域性,安定性,均一 性等の点から,移動体通信の問題点を抜本的に改革する ことが可能であると考えられ,衛星通信技術の最も適し た利用分野である。

 しかしながら,移動体衛星通信には,移動地球局が小 型,多数であることに起因する各種の問題があり,これ らを解決するための基盤技術の確立が急務である。

 技術試験衛星V型(ETS-V)による移動体衛星通信実 験システム(Experimental Mobile Satellite System for communications:EMSS)は,我が国の実情に即し た小型船舶及び航空機との衛星通信システム,通信技術 等の確立を図るとともに,将来の移動体衛星通信システ ムの技術開発を図ることを目標に研究開発が進められて いる。またETS-Vは国産静止三軸衛星バスの技術確立 のため,昭和62年度に,国産大型ロケット(H-I)によ り打上げられる。この移動体衛星通信実験に関する計画 は従来までは「AMES計画」と呼ばれてきたが,衛星開 発に関係する他機関等との調整の結果,名称をEMSSと 変更したほか,実験計画に関する所内での検討も進んで きたので,本計画の概要を報告し,多方面の御理解と御 協力をお願いしたい。

ETS-V/EMSS計画の概要
 ETS-Vの主要ミッションは次の三点である。

 1)H-Iロケット(3段式)の性能確認

 2)国産静止三軸衛星バスの機能性能の確認

 3)船舶,航空機等との移動体衛星通信実験

このうち3)の項目については,電波研究所,電子航法 研究所(運輸省),宇宙開発事業団が協力して衛星搭載機 器の開発を行うこととなった。電波研究所においては,衛 星搭載中継器Lバンド部(対移動地球局回線)の開発を 行っている。衛星は静止軌道上で約550kgの重量があり, 昭和62年度,東径150度の静止軌道上に打ち上げられる 予定である。ETS-V衛星の概念図を図1に示す。

 大型のアンテナを使用出来ない小型船舶,航空機等の 移動体を対象とする衛生通信では,衛星側の機能の増大 が要求される。このため衛星搭載マルチビームアンテナ, 高電力増幅器等の開発が必要であり,又限られた衛星の 能力を効率的に利用するための音声符号化方式,誤り訂 正符号方式,高能率復調方式等の開発が必要である。一 方,移動体の方では,衛生からの直接の電波と海面,地 上等からの反射波の干渉によるフェージングを除去する 技術の開発が必要である。電波研究所においては,ETS-V を用いてこのような項日に関する実験を行うシステ ムを移動体衛生通信実験システム(略称EMSS)と称 して,従来のAMES計画による成果を引きついで,58年 度からその本格的な開発に着手している。

EMSS実験計画
 当所の実験計画は,我が国の実情に即した小型船舶及 び航空機との衛星通信システム,通信技術等の確立を図 るとともに,将来の移動体衛星.通信システムの技術開発 を図ることを目的とし,移動体通信系の特性,電波伝搬 特性,移動体衛星通信システムの伝送特性,移動体衛星 通信システムの運用技術,小型移動地球局の開発,衛星 運用管制技術等に関する実験を行うものである。そのた め,所内にETS-V/EMSS実験計画推進本部を設置 (昭和58年4月15日)して,1)研究計画,ETS-V搭載中 継器(宇宙局)の開発計画,地球局設備の開発・整備計 画等の策定,2)EMSS実験計画の策定,3)所内外の 関係機関との連絡調整をはかっており,貴重な衛星実験 の機会を有効に利用すべく全所的な立場から本計画の推 進を行っている。

EMSS実験システム
 ETS-VによるEMSS実験システムは,衛星に搭載さ れる移動体通信実験機器,海岸/航空地球局(鹿島地球 局),及び船舶地球局,航空機地球局等の移動地球局から なっている。移動体−衛星間はLバンド(1.5/1.6GHz 帯),海岸/航空地球局−衛星間はCバンド(6/5GHz) の周波数が使用される。上記の搭載機器の開発について は,電波研究所,運輸省電子航法研究所,宇宙開発事業 団の3者において,「技術試験衛星V型(ETS-V)の移動 体通信実験機器の開発に関する協定」が結ばれ(59年3 月30日),機器の開発分担,責任分担等が明確になってい る。Lバンド部分を電波研究所,Cバンド部分を電子航 法研究所,アンテナ及びタイプレクサーを宇宙開発事業 団が開発し,昭和62年度夏期にETS-V衛星本体に搭載 して打上げる予定である。海岸/航空地球局は,鹿島支 所のCS用設備の改修及び端局装置,衛星管制装置,L バンド送受信装置等の新設により対処することとし,実 験の中枢局として,実験データの取得,衛星の運用管制 等を行うことになっている。船舶地球局は,我が国の小 型船舶の実情に即した衛星通信システムの技術基盤の確 立に資するため,アンテナ,通信方式等に関する各種の 実験が行えるように整備を行う予定である。航空機地球 局については,・日本航空株式会社の協力を得て,同社が 国際航空路に運行しているポーイング747型貨物機に搭 載して,通信,測位等の実験を行う予定である。移動体 衛星通信の将来の動向を考えた場合,対象とする移動体 地球局の小型簡易化が最も強く望まれる。このためEMSS 実験においては,超小型移動地球局,超小型移動受信局 等の開発も行い,将来の移動体通信に関する伝搬特性, フェージング除去技術,変復調方式,符号化方式,信号 伝送特性等に関する実験データの取得も行う予定である。 EMSS実験システムの概略を図2に示す。


図2 EMSS実験システム

 当所の実験は以下に示す6項目について行われる。

 1)衛星搭載機器の特性に関する実験
  ETS一V搭載の移動体通信実験機器(Lバンド及 びCバンドアンテナ並びに中継器)の性能,機能を 測定し,その特性を明らかにする。

 2)電波伝搬特性の測定と評価に関する実験
  電波伝搬特性に関するデータを収集し,海上・陸 上等の電波伝搬特性,対流圏及び電離圏伝搬特性等 を明らかにする。

 3)小型地球局の技術に関する実験
  小型移動地球局に関する技術を開発し,小型ある いは超小型地球局の技術基盤を確立する。

 4)移動体衛星通信システムとしての伝送に関する実 験
  地球局相互において情報信号の伝送実験を行い, 移動体衛星通信回線の設定に必要な基本的パラメー タを明らかにする。

 5)移動体衛星通信システムの運用技術に関する実験
  移動体衛星通信システムの運用技術に関する実験 を行い,システム運用に関する技術的課題を解明す る。

 6)衛星運用管制技術に関する実験
  衛星の軌道及び姿勢の決定と制御,衛星の監視, 制御等の衛星管理技術の確立を図る。

 これらの実験により,移動体衛星通信システムの基本 となる技術開発を行ってゆく予定であるが,特に,(1)衛 星.搭載中継器の全固体化,(2)低C/No回線で良好な回線 品質を確保するディジタル通信方式の開発,(3)フェージ ング除去技術の開発,(4)小型,経済的な移動地球局の開 発,(5)将来の総合移動体通信システム開発のための基礎 データの収集,に重点的な研究開発が必要と考えられる。

衛星搭載移動体通信実験機器
 EMSSにおいては,移動体向けの回線のEIRP,G/T の増大のため,衛星搭載Lバンドアンテナとして,実開 口径1.5mの2ビームオフセットパラボラアンテナが搭載さ れ,北太平洋及び南太平洋域をカバーしている。本アン テナの等利得線図を図3に示す。


図3 Lバンドアンテナの等利得線図

 搭載機器の中継器は,フィーダリング用のCバンド,移 動体回線用のLバンド部,LとCの接続等のためのIF部, ピーコン発振部,局発部等からなり,Cバンド部は現用 系及び予備系,Lバンド部は2ビームに対応する2系統 (相互に冗長系としても機能する)から成っている。搭 載中継器にとって最もクリティカルな,高電力増幅部 (HPA)については,L,CともFETAMPが使用されLバ ンド部は出力20W,Cパンド部は出力4Wが得られてい る。中継器の構成を図4に示す。


図4 中継器の構成

おわりに
 洋上の船舶,航空機等の人命財産の保全,操業,運行 の効率化等をはかるため,洋上で唯一の確実な通信手段 である衛星通信の導入により,高品質,高信頼度の情報 伝送手段を開発する必要がある。しかしながら,移動体 に搭載される地球局が小型であるところから,多くの開 発課題がある。このためETS-V/EMSS計画では,高 性能な衛星機能,伝搬特性,小型地球局技術,新しい 通信方式等の研究開発を行い,これらに関する基盤技術 の確立をはかるとともに,将来の移動体衛星通信システ ムのための基礎管データ収集を行い,総合的な移動体衛星 通信技術に関する技術開発も行ってゆくが,現在までに 既に,搭載中継器BBMの開発,伝搬特性の解明,フェー ジング除去アンテナの開発,フェーズドアレイアンテナの 開発,ディジタル変復調器の開発等を行ってきたほか, 今年度からは,海岸/航空地球局の開発,航空機地球局 の開発にも者手する。本計画の研究成果が,電波研究所 の,そして日本の自主技術開発の結果として,世界に示さ れる日を願ってやまない。なをETS-V計画は,科学技術 庁,運輪省,郵政省,宇宙開発事業団の協同プロジェク トであり,関係する方々の御支援に深く感謝すると共に 今後の‐層のサポートをお願い致します。終りに,日頃 御指導項く前佐分利本部長,岡本・中橋副本部長並びに実 験計画の策定等に協力頂いたETS-V/EMSS計画推進 本部の各位に深く感謝致します。

(海洋通信研究室長 三浦 秀一)


人工衛星の軌道決定

西垣 孝則

はじめに
 電波研究所では,CS,BS,ISSなどの人工衛星を利 用して多くの研究を行ってきた。衛星を利用するために はその軌道を知る必要があるので,軌道決定に関する研 究も行っており,多くの成果を得ている。

 一般に物体の運動は,物体の位置,速度及び加速度を 用いて表される。人工衛星の場合,衛星がエンジンを使 用していなければ,衛星に働く加速度は地球,太陽及び 月の引力,太陽放射圧,大気による抵抗などにより生じ るので,衛星の位置と速度が与えられると衛星に働く加 速度を計算できる。したがって,3次元空間を飛んでい る衛星の軌道は位置と速度について3個ずつ合計6個の パラメータで表すことができる。位置と速度では軌道の 様子がとらえにくいので,人工衛星の軌道は地球の重心 を焦点の一つとするだ円形と見なせることから,ある時 刻(元期)における軌道の大きさを表す軌道長半径(a), 軌道の形を表す軌道離心率(e),赤道面に対する軌道面の 傾きを表す軌道傾斜角(i),軌道面と赤道面が交わる位置 を表す昇交点赤経(Ω),衛星が地球に一番接近する近地点 と昇交点との関係を表す近地点引数(ω),近地点と衛星の 位置との関係を表す平均近点離角(M)が軌道6要素とし てよく使用される。この6要素では衛星の位置のみを表 しているように見えるが,衛星の持つエネルギーにより 軌道長半径が変化するので,軌道長半径は衛星の持つ全 エネルギーも表している。したがって,位置がわかれば 位置エネルギーと運動エネルギーに分解することができ, 速度がわかる。この軌道6要素から任意の時刻における 衛星の位置が計算できる。軌道6要素を求めることを軌 道決定といい,衛星の追跡データをもとに最小自乗法な どを用いて行われる。

追跡データ
 追跡データとしてよく用いられるのは,地球局・衛星 間の距離,距離変化率及び角度である。最近ではVLBI データ(2局からの距離の差)なども利用される。

 距離データは,地球局・衛星間を電波が往復する時間 から求める。この測定では,正確な繰り返しパターンを 有する信号を衛星に送信し,送信信号と衛星で祈り返し てきた信号を比較することによりその時間差を測定する。 測距に使用する信号として正弦波または擬似雑音符号 (PN符号)がよく使用されているが,専用の信号でなく てもTDMA通信などのように正確な繰り返し周期を有す る通信信号を利用することもできる。また,最近ではレ ーザ光を利用した測距装置も使用されており,天候に左 右されるものの,高い精度が得られている。距離測定で は比較的精度の良いデータが得られるので,通常は2〜 3局で測定した距離データを用いて軌道決定を行うこと が多い。軌道決定のために複数の地球局を維持するには コストがかかるが,小局折り返し測距方式を用いれば同 等のデータが得られる。この方式は,親局から送信した 衛星経由の測距信号を親局のほか小局でも受信し,小局 は受信した信号を衛星経由で親局へ送り返すことにより, 親局−衛星及び親局−衛星−小局の距離を測定する方式 である。

 距離変化率は,ドップラ効果による周波数偏移から求 める。衛星が送信している電波を直接利用する方法と地 球局から送信し,衛星で折り返してきた電波を利用する 方法がある。前者の方法は衛星送信周波数の推定が必要 であるが,後者の方法はその必要がなく,精度の良いデ ータが得られる。静止衛星の場合には距離変化率が小さ いので精度が悪いため,あまり利用されないが,静止衛 星以外の衛星の軌道決定にはよく利用される。

 角度(仰角,方位角など)の測定方法には,衛星の電 波を自動追尾するアンテナによる方法,電波干渉計によ る方法,光学観測による方法などがある。光学観測は天 候に左右され,観測時間の制約もあるが,長い年月にわ たる観測により正確に求められている星の位置と比較す ることにより,衛星方向の高精度データが得られる。

 VLBI法は,高精度,高感度,受動的測定方法という 特徴がある。さらに,衛星と位置が既知である電波星と を交互に測定すれば,電波星の測定結果により衛星の測 定に含まれる誤差を推定できる。したがって,電波星の 位置精度と同等の高い精度でデータが得られる。


図 人工衛星の軌道

軌道決定
 軌道決定は,軌道6要素が不明の衛星に対して行う初 期軌道決定と古い軌道要素を更新する場合などのように おおよその軌道が既知の衛星に対して行う軌道改良に分 けられる。

 初期軌道決定は,得られた追跡データから軌道6要素 を計算する方法である。位置般にN個の未知数を持つ方程 式はN個のデータがあれば解くことができるので,衛星 の軌道を表す6個のパラメータを持つ方程式を解くため には6個のデータが必要である。しかし,6個のデータ があるからといって方程式が必ずしも解けるとは限らな い。たとえば,6局で同時に距離を測定した場合6個の 距離データが得られるが,速度を求めるための位置の時 間的変化の情報がないので,軌道6要素を完全に求める ことができない。したがって,データ収集の方法に注意 をする必要がある。また,追跡データの誤差がそのまま 軌道決定誤差となるので,正確な軌道要素を得るために は,この決定値を初期値として軌道改良を行う。

 軌道改良は,多くの追跡データと軌道要素の初期値を もとにした軌道計算結果を比較してその差が最小になる ように軌道要素を修正し,より正確な軌道要素を得る方 法であり,最小自乗法などが使用される。軌道計算法に は,衛星の運動を表す微分方程式を解析的に解く方法と 直接数値計算する方法がある。しかし,解析的な方法で は太陽,月などの引力,大気の低抗などによる衛星の複 雑な動きをすべて含む方程式を解くことは不可能である。 そこで,正確な軌道計算には,衛星の位置からその位置 で受ける加速度を計算し,速度に加えることにより次の 位置を求める数値計算法が用いられる。この軌道決定を 正確に行うためには次の条件が必要である。

 ・正確な衛星の運動方程式を作ること。
 ・追跡データの質が良いこと。
 ・地球局の位置が正確であること。

地球局位置については,データ取得時の位置が特に重要 であり,軌道決定の基準となる座標系,時刻の補正,地 球自転軸の動きなどを考慮する必要がある。

軌道決定の研究
 電波研究所における軌道決定の研究は,1974年,米国 のATS-1衛星の管制を行うため,NASAから軌道決定 ソフトウェアDODS(Definitive Orbit Determination System)を導入したことに始まる。DODSは汎用の大型 ソフトウェアであったので,その経験をぶまえて静止衛 星用小型プログラムKODS(Kashima Orbit Determination System)を開発した。KODSは追跡データの質 が評価できるパラメータを出力できるので,種々の追跡 データの有意性の検討に非常に有効である。

 静止衛星の軌道決定についてはCS,BSを用いて研究 を行い,特に1局の追跡データによる軌道決定とその高 精度化について多くの成果が得られた。静止衛星の場合, 1局の距離データだけでは軌道決定が不可能な場合が多 いため,Kバンド自動追尾アンテナの角度データを併用 している。しかし,アンテナは日射により歪んだり,大気 による電波の屈折の影響を受けるので角度データは0.01 度を超える誤差を含んでいる場合もあるが,夜間の方位 角は比較的誤差が少ない。そこで,24時間分の距離デー タ及び夜間の方位角データを用いた場合の軌道決定の可 能性について検討したところ,1局の追跡データで十分 な精度の軌道決定が可能であった。軌道決定精度向上の ため,天文台に依頼して衛星の写真撮影を行い,正確な 衛星方向のデータを得た。このデータから地球局の追跡 システムの誤差推定を行った。また,衛星の運動方程式 については,地球の形などの各種定数は精度の良い値が 得られているが,衛星固有の形で決まる太陽放射圧の影 響の推定が重要であることがわかった。

 周回衛星の軌道決定については,受信信号のドップラ 効果による周波数偏移のデータから軌道決定を行うプロ グラムを開発し,電離層観測衛星などの軌道決定に実用 化している。

おわりに
 人工衛星の軌道決定はすでに確立された感もあるが, 衛星の利用形態が多様化するにつれ,軌道決定の要求精 度が非常に高くなる場合や,宇宙監視のように,軌道要 素が不明であったり,受動的な追跡データからの軌道決 定が要求される場合もある。そこで,これらの新しい要 請に応えるよう,今後は,追跡データの取得方法や軌道 決定手法などについて研究を進める計画である。

(鹿島支所 衛星管制課 主任研究官)


南極越冬報告

山崎 一郎

はじめに
 第24次南極地域観測隊は昭和57年11月25日最終航海の 観測船「ぶじ」にて東京港から一路南極へ向かった。

 24次隊はMAP(中層大気国際協同観測計画),バイオマ ス,東クィーンモードランド地域調査の第2年次に入り, MAPではレーザレーダ,赤外分光器が新しく設置された。 雪氷系では,みずほ基地において氷床ポーリングが開始 され,冬明けにはセールロンダーネ山脈調査旅行が4ヶ 月にわたって実施された。

「ふじ」から昭和基地へ
 海氷の状況は比較的良好で12月31日に第1便が23次隊 へ家族からの手紙や新鮮な野莱を乗せ昭和基地へ飛んだ。 1月2日から物資の輪送が本格化し,連日の空輸作業で 荷送り,荷受けの担当者は天候悪化を期待して「ブリご い」を行ったりしたが空軸は1日も休むことなく連続空 輸の新記録を作った。晴天続きで夏期建設も順調に進み, 3ヶ年計画での新発電棟の建設は予定通り完成した。筆 者の担当する電離層部門でも,電離層観測用高さ30mの デルタアンテナ,オーロラレーダ112MHz用コリニヤアンテ ナの建設等もほぼ順調に進んだ。

 2月8日に最終便のへリコプターを見送り「余裕の24 次」と自画自賛しながら越冬生活に入った。2月10日に アメリカの基地査察団が砕氷船ポーラースターから2機 のヘリコプターで飛んで来た。団員の中に女性が1名お り,昭和基地に足を踏み入れた最初の女性となった。

海氷流失
 寒さが日増しにきびしくなった3月に入るとMAPの 目玉であるレーザレーダ,赤外分光器等が次々に観測を 開始した。飛行機による観測も盛んに行われた。24次 ではセスナ,ピラタスポータの2機が初めて越冬し,航 空写真撮影,アイスレーダ,海氷の調査,ペンギンの調 査等に活躍した。4月に入るとみずほ基地へ物資補給, 人員交替のため秋旅行隊が出発した。この頃から氷状が 悪化し始め海水面が徐々に広がりを見せていた。4月29 日にうねりのため氷山が浮沈しているのが観測されたた め生活用水のための氷山氷取りを中止した。5月3日に は基地開設以来初めて全ての海氷が流れ去ってしまった。

 みずほ基地で4月末から始まったボーリングは7月末 には目標の255mを大きく上まわる411mを掘削した。

旅行本番
 8月に入ると生物隊員の沿岸調査旅行が頻繁に行なわ れるようになり,ボーリングの終了した雪氷隊員も昭和 基地にもどりセールロンダーネ旅行に向け準備が行なわ れた。セールロンダーネ隊の燃料輸送のため,やまと山 脈まで支援隊が編成され,筆者も支援隊の一員として参 加した。


やまと山脈 福島岳

さらば昭和基地
 夜の短くなった11月,宙空系では最後の大物である大 気球による観測が行なわれた。12月18日,例年より約2 週間早く第1便のヘリコプターが家族の便りを運んで来 た。「しらせ」はハンモックアイスで苦戦していたが1月 5日の夜中,沈まぬ太陽の光をあびながらオングル海峡 をすべるようにして昭和基地に近づいて来た。

 引き継ぎも順調に進み,2月1日,24次隊は昭和基地 に別れをつげ全員「しらせ」に乗船した。「しらせ」は西 へ500km離れたプライド湾に向かい北側からセールロン ダーネ山脈へ調査隊を送り,第3の基地候補地を選定し た。59年2月23日,「しらせ」乗員に急病入が出たため, 海洋観測を中止し調査隊を乗せ,一路ケープタウンめざ して北上を開始した。

 最後に,今回の南極越冬に際し,御指導,御支援をい ただいた関係各位に深く感謝いたします。

(電波部 電波予報研究室 研究官)


外 国 出 張

ISIS通用に係わる打合せのためカナダへ出張して

 国際電離層研究衛星(ISIS)は,1号が1969年,2号 が1971年に打上げられ,カナダ国通信省の通信研究所 (CRC)で衛星の管制運用を行ってきたが,本年3月にカ ナダ側の都合により,運用を中止した。しかし,当所及 び国立極地研究所は,1985年まで実施される中層大気国 際共同観測計画(MAP)の重要項目として,ISISのデ ータを利用しているため,ISISの運用を,当所が肩代り して続行することになった。私が派遣された目的は必要 な技術的資科及び必要なノウハウを入手することであっ た。出張は3月31日〜4月16日で,訪問先はCRCの衛星 管制施設の責任者であるポールディング氏であった。資 料の収集は,こちら側から必要とする資料を要求すると, ポールディング氏がそれらを集めて提示してくれ,コピ ーを取るという手順で進められ,当初期待していたすべ てのデータを得ることができた。

(衛星通信部 第一衛星通信研究室 主任研究官 飯田 尚志)

CCIR中間会観Bブロック及びIWP5/2に出席して

 標記の中間会議は昭和59年4月30日から6月6日まで, スイスのジュネーブ国際会議場(CICG)に於て,39か国 から総勢480名の出席者を得て開催された。日本からは 32名の代表団の派遣及び56件の寄与文書を提出し会議に 臨んだ。今回のBプロックはSG3,4,8,9及びCMVか ら構成され,これはWARC-HFBC(昭和59年1月〜2 月)及びCPM-ORB(6月〜7月)との関連において編成 されたものである。今会合の特徴は議論が常に CPM-ORBへの寄与を念頭に置いていたこと,先進諸国からの 参加が多かったこと,また,通信方式,機器等のディジ タル化への対応及びアナログ方式の高精度化に対して多 少の議論の対立があったこと等が挙げられる。

 今中間会議期間中にIWP5/2が西ドイツ,ダルムシュ タットのドイツ郵電省研究所(F1)で開催され,日本から 3名が参加した。当IWPはRep.724-1の改訂が主目的 であり,当所からの寄与文書は本Rep.改訂案作成に重 要な役割を果した。

(調査部 国際技術研究室長 高杉 敏男)

1983年国際レーダシンポジウムに出席して

 昭和58年10月9日から12日にかけて,インド,バンガ ロールで開かれたInternational Radar Symposium India, 1983に出席した。シンポジウムは24のセッションに分か れ,発表講演数は,招待講演9件,一般講演103件であ った。参加人員は,12カ国より約350名(インド国内よ り約290名,外国より63名)で,日本からの参加は筆者 のみであった。国際レーダシンポジウムの名にふさわし く,発表は,各種レーダシステム,サブシステム,信号 処理,マイクロ波部品,基礎理論,応用等のレーダのあ らゆる分野にわたって行われた。筆者は,宇宙基地搭載 降雨レーダシステムの検討結果および航空機搭載雨域散 乱計システムおよび実験結果の紹介を行った。

(鹿島支所 第一宇宙通信研究室長 岡本 謙一)

オランダ,フランス,スウェーデンに出張して

 科学技術庁の中期在外研究員として,ディジタル移動 無線のための音声の符号化方式(低ビットレート伝送方 式)の動向を調査するため,5月12日から6月7日にか けて表記の3国に出張した。この間,音声通信の研究を 行っている大学,国立研究所,メーカーの研究所等7機 関を訪ね,またIEEEのICC84(アムステルダム)と, “音声を基礎にした情報システム”のセミナー(ストック ホルム)に参加した。これらを通じて得た主な印象を簡 単に記す。

@各国ともディジタル移動無線の実施の準備は進めて いるが,その時期は特定できない。

A9.6〜16kbpsの音声伝送方式について,実用化を前 提とした研究が進められており,有望な方式は大体絞ら れつつある。

B各機関の間で研究者の交流が盛んである。

C研究施設(電子計算機)は最新のものを使っている 所が多い。

D研究の完成した技術による製品化(技術移転)がよ く行われている。

(情報処理部長 鈴木 誠史)


≫職場めぐり≪

宇宙技術による周波数・時刻の精密比較

周波数標準部周波数標準値研究室

 過去において周波数・時間標準は特殊な分野であり, 我々研究者は閉鎖されたテリトリィをそこに形成してユ ートピアを楽しんでいた。しかし,この十年余における 周波数・時間標準の性能向上と利用形態の多様化は著し く,又軽量で低価格のものが一般に普及するようになっ た。ロケットや衛星の追跡,ロランCやGPS(世界測位シ ステム)などの航法測位システム,サルベージ,油田探査, パイプ敷設などに必要な位置決め,高速ディジタル通信 同期放送,VLBI,精密科学分野等々,周波数・時間標準 の利用は急速に広がりつつある。更に月差10秒程度の水 晶腕時計は子供のオモチャにさえなり,年差数秒のものが 普及するに及んで,精密周波数・時間の概念は最早我々 の専売特許でなくなりつつある。ここに至って,我々のテ リトリィはその境界を失ってユートピアは消滅し,没落 した公家の如く,急速な社会情勢の進展にとまどいながら も,適応性をしぶとく発揮して新しい衣替えに忙しい。

 当研究室のぼやっとした名前からその研究内容を推測 することは難しい。実際,原子時の決定,ロランC電波 による時刻の国際比較と公表業務,周波数の精密計測と いう地味な研究業務を長い間担ってきた。しかし,近年 衛星利用による周波数及び時刻の精密比較研究を国際的 趨勢に合せて当研究所でも行うようになり,又VLBIシ ステム開発の協力分担が進む中で徐々に衣替えが進行し ていった。更にVLBI研究開発推進本部の事務局が置か れるに及び,当研究室の地域開発的状況は一段落し,新 しい装いのもとで研究・業務が進められてきた。

 現在の研究室の陣容は,室長,主任研3人,研究官2 人の計6人である。そして,最も精力的に進めているの は宇宙技術による精密周波数・時刻比較の研究であり, CSを利用したSS(スペクトル拡散)方式による比較, 及びGPS(世界測位システム)を利用した国際比較の研 究がその内容である。前者については,CS-2利用に移 行したため新しいSS装置を手作りで完成,今後VLBIに よる国際時刻比較実験に合わせて,応用実験を進めよう としている。後者については当研究室の悲願であったが, 厳しいシーリングの下でGPS受信機の手作りに踏み 切った。現在ハードウェアが完成して受信を行う一方, ソフトウェアの整備を急いでいるが,日本製のものと してはメーカ品(当所で試作機として引き取った)に 次いで2台目になる。これら装置の手作りと実験を,今 江研究官,浦塚主任研究官,三本研究官の三人で進めて いるわけだが,その忙しさは大変なものである。しかし, 開発に対する反響は大きく,メーカからの技術的問い合 せがあいつぎ,手作りの持つ意義を見直している。

 超伝導発振器の開発は51年度から始まり,9年目を迎 えている。施設整備に数年かかり,担当者の小宮山主任 研の外国留学もあって,具体的成果があがり始めたのは この数年のことである。現在Nb共振器のQは10^8まで得 られた所であるが,残念ながら今年度をもってプロジェ クトをまとめなければならない。温度の高安定化と電子 回路系の改善によって,10^-15台の周波数安定度を期待し ている。

 当研究室における原子時の決定,ロランCによる国際 比較と公表業務の歩みは赤塚主任研究官と共にあったと 言ってよい。最近,後者二つが課に移行されることにな ったが,これらのサポートと宇宙技術による国際比較の 新たな進展の中で同主任研に期待される役割は依然とし て大きい。VLBI本部は今年度がら実験実施本部として 再スタートしたが,室長が主幹を継続し,山越業務係長 の助けを得ながら実務とマネージメントに追われている。 VLBIによる国際時刻比較実験が来年よりルーチンベー スで実施されるが,これに伴って周波数標準部とVLBI は,新たな角度から結びつきが強まりつつある。

 当研究室の課外活動は比較的活発であり,囲碁,将棋, 音楽,盆栽,サイクリング,ソフトポール,ジョギング など多彩である。これらに発揮されるエネルギーが,仕 事への意欲的な姿勢となって現われているように思われ る。

(吉村 和幸)


前列左から浦塚、吉村、赤塚
後列左から今江、小宮山、三木


短   信

郵政攻省の宇宙開発計画見直し要望

 本年の3月14日に宇宙開発委員会が決定した「宇宙開 発計画」に対する見直し要望が,宇宙通信連絡会議の審 議を経て,別記の通り6月27日に郵政省から宇宙開発委員会 へ提出された。要望事項は,@自主技術による宇宙開発 の促進について,A放送衛星について,B実験用通信衛 星(JECS)について,C通信技術衛星(ACTS-E) について,D米国宇宙基地計画への参加についての5項 目である。

 一昨年頃から,政府予算の概算要求をしていない項目 は見直しの審議対象としないとの方針が宇宙開発委員会 事務局から打出され,昨年はこれに該当する当所の4項 目の要望事項が変則的な取扱いを受けた。この点を考慮 して所内宇宙開発計画検討委員会で審議した結果,本年 の当所から直接の要望は概算要求の裏付けのあるものに限定 することとなり,結果的にCの1項目だけとなった。B に関しては,昨年は移動体通信ミッション部分を担当す ることとして,開発研究の要望を行ったが,JECS計画 が,CS-4への反映を目的として昭和66年頃打上げ ることを目指す研究へと変ったこと,財政事情からみて, 当所がJECSとACTS-Eの両方に対応するのが困難と 判断されたことなどから,当所としては当面はACTS-E 計画を重点的に進めることとした。

@は昨年と同じ内容,AはBS-2aの異常に伴う対応 に関する事項,Dは予算との関係で当所から直接要望す ることのできなかった項目であるが,郵政省として宇宙 基地の通信分野における利用についての研究を進めるこ とをめざすものである。

−宇宙開発計画の見直し要望−

郵政省昭和59年6月27日

1.自主技術による宇宙開発の促進について

 我が国における自主技術による宇宙開発の促進を図 るため,人工衛星技術の開発に資するとともに実利用 に供することを目的とする人工衛星については,打上 げ失敗により生ずる人工衛星の利用者機関の損害につ いて政府として適切な救済措置を講ずるとともに,利 用の継続性の確保についても十分な配慮を行う。

2.放送衛星について

 我が国の実用放送衛星である放送衛星2号a(BS- 2a)に生じた異常に関し,速やかに原因究明を行い回 復措置を講じるとともに,放送衛星2号b(BS-2b) に関しては,宇宙開発委員会放送衛星対策待別委員会 等の報告に基づき,十分な信頼性が確保されるよう措 置することを前提として打ち上げる。

 放送衛星3号(BS-3)の計画に関しては,BS- 2aに異常が生じている現状にかんがみ,十分な信頼性 が確保されるよう万全の方策を講じ,推進する。特に, 搭載用中継器については,信頼性の確保のため,十分 な試験を行う等特段の配慮を行う。

 なお,実利用の促進を図るという観点から,利用者 機関の経費負担の軽減についても,十分な配慮を行う。

3.実験用通信衛星(JECS)について

 昭和60年代終わりごろに打上げが必要となる実用通 信衛星に用いられるマルチビームアンテナ技術,サテ ライトスイッチ技術,アンテナ展開技術等の開発を目 的とする実験用通信衛星(JECS)を昭和66年度ごろ に打ち上げることとし,所要の研究を行う。

4.通信技術衛星(ACTS-E)について

 宇宙通信が宇宙開発の基幹的技術の一つであること にかんがみ,この分野の自主技術の確立を図るとともに, 将来の通信・放送需要の増大及び多様化に対処する必 要がある。このため,新しい周波数帯を利用した衛星 通信技術等の開発を目的とする通信技術衛星 (ACTS-E)を打ち上げることを目標に,搭載通信機器の研 究を行う。

5.米国宇宙基地計画への参加について

 米国が提唱している宇宙基地計画について,通信分 野における利用に関する研究を行う。


C−バンドドップラレーダによる海面散乱実験

 今年,5月15日から6月13日にかけて鹿島支所のC- バンドドップラレーダを用いた海面のマイクロ波散乱実験 が行われた。実験の目的は,海面のマイクロ波散乱機構 を解明することを通じて,実用的な海面状況計測用のマ イグロ波リモートセンサの可能性を探ることである。今回 の実験は,90度に近い大きな入射角であること,ドップ ラデータを収集していることに特徴がある。海面状態は, 鹿島港沖約1.5kmの海上に通信機器部,海洋通信研究 室の波高計(ウェーブライダ)を設置して実測した。ま た風向,風速データの収集も行った。約180巻の磁気テ ープにレーダデータ,波高データを予定どおり収集し, 現在,解析を進めているところである。


△VLBI法による静止衛星の高精度追跡実験

 去る6月25日から30日にかけて,当所とジェット推進 研究所(JPL)は共同で大陸間基線による△VLBI法で静 止衛星を追跡する実験を行った。△VLBI法は,衛星とそ の近くに見える準星とを交互に観測し,両者に共通の誤 差を相殺することにより,高い精度で衛星に関するVLBI データを得る方法である。

 実験には,当所鹿島支所の26mアンテナ,米国カリフ ォルニア州のゴールドストーン深宇宙追跡局の26mアン テナ,及びオーストラリアのキャンベラ深宇宙追跡局の 34mアンテナを含む5つの地球局が参加し,東経180°の 静止衛星と,12個の準星を24時間連続で3回にわたって 観測した。

 観測は全て順調に行われ,静止衛星の位置を世界で初 めてmオーダの精度(従来の方法にくらべてほぼ2桁の 向上)で決定することを目標に,当所及びJPLでデータ 処理を進めている。


第10回RRL/NASDA共同研究委員会開催

 標記の委員会が6月26日NASDA本社で開催された。 当所からは若井所長ほか16名,NASDAからは寄水理事 ほか15名が出席した。委員会は,寄水理事,若井所長の 挨拶の後,昭和58年度共同研究等の成果報告及び昭和59 年度共同研究等の計画案について審議を行った。

 今年度は,共同研究として「CS搭載用トランスポンダ の機能性能チェック」が,技術協力として「地上- ETS-III衛星間レーザ光昼間伝送特性の研究」及び「ETS IIによる電波伝搬待性の研究」の2項目が承認された。 また,「MOS-1航空機検証に係る雲水量・水蒸気量等 の推定によるマイクロ波放射計データの検証法の研究」 及び「SIR-Bデータの解析・評価に関する研究」の2 項目については,今後両者間で内容を煮つめ,合意に達 した時点で共同研究とすることが承認された。

 引き続きNASDA,RRLの昭和59年度の事業計画の概 要及び研究計画の概要について各々説明を行った後,閉 会した。


測地学審議会がDELP計画に向けて建議

 測地学審議会(永田武会長)は7月26日総会を開き, 大規模地震や火山噴火につながるプレート運動を国際的 な総合調査研究で解明しようという「国際リソスフェア 探査開発計画(DELP)」に,わが国が独自の課題を分担 して積極的に協力することを求めた提言を最終的にまと め,文部,通産,郵政,運輪,建設の各大臣に建議した。 本総会には本所から若井所長が出席した。

 この計画は国際学術連合会議(ICSU)によって立案 され,1980年代を通じた固体地球科学研究の国際協力事 業であり,全世界で50カ国程度の参加が見込まれている。

 建議では,プレートの沈み込み帯に位置する我が国の 貴重な立地条件を生かすべく,六つの重点研究項目を提 案している。電波研究所は,そのうち,建設省国土地理 院,東京大学地震研究所,海上保安庁水路部と共に“プ レート運動の実測”を分担する予定であり,昭和60年度 から5カ年計画でとり組んでいく方針である。


施設一般公開の実施

 8月1日(水)10時から16時まで恒例の本所並びに支所, 観測所の施設の一般公開を実施した。当日は雲一つない 晴天に恵まれ各会場とも朝から熱気で溢れた。空調が一 斉フル回転したせいか,開始直前に本所の全館で停電す るハプニングの一幕もあったが,間もなく復旧し,事無 きを得た。夏休み中の小中学生から90才になられるとい う「かくしゃく」たる元将軍まで,本所だけで1,000名 近い来所者があり,成功裡に終了した。

本所  :973名

支所鹿島:360名 観測所稚内: 79名

平磯  :127名    秋田:110名

           犬吠: 43名

           山川: 36名

           沖縄: 64名