二ューメデイアの開発動向

吉田 実

 近年ニューメディアという言葉が巷間を賑わしており、 それらを紹介する書物等も数多く見受けられるが、改め てニューメディアとは何かと問われたとき、それに明確 な定義を与えている文献は今のところ見あたらない。

 ニューメディアの体系を論ずる手法も様々であるが、 その中で従来の電気通信・放送・郵便・出版等のコミュ ニケーションメディアの融合化により、その境界領域に 生まれた新メディアとの見方が最も理解しやすいように 思われる。

 ニューメディアの出現の背景をなすものとして、最近 の光ファイバーや衛星通信技術の進展による大容量・高 品質・低価格の通信回線の実現、ディジタル信号処理技 術の進展に伴うディジタル化による通信メディアの統合、 LSI(大規模集積回路):技術の発展による分散処理シス テムの経済効率の向上などがあげられている。

 ニューメディアの分類の手法も多様であるが、ここで はビジネス用と家庭用メディアに大別し、かつ伝送路媒 体によって電話系、有線系(ケーブル系)、放送系、衛星 系、パッケージ系等に分類を行い、紙面の都合から家庭 のテレビ受像機に関係の深いニューメディアに限定して、 これまで電波研になじみの薄かった電話系を中心に最近 のトピックスを紹介する。


図1 コミュニケーションメディアの融合化現象(通信白書)

(1)電話系二ューメデイア
 主として既存の公衆電話網を使用するもので、ファク シミリ通信を始めとして、本年11月に実用化が予定され ているビデオテックスサービスの他、テレテックス、テ レライティング、ホームバンキング・ショッピング・ナ ーシング(在宅検診など)、およびテレコントロール、セ キュリティサービスなど数多くのシステム開発が進めら れている。

@ファクシミリ

 ファクシミリは文字・図形などの画像情報を簡易な操 作で伝送可能であり、昭和47年に公衆電話網の利用が認 可されて以来急速に需要が拡大している通信メディアで ある。CCITT(国際電信電話諮問委員会)ではファクシ ミリをグループ1〜4(以下G1〜G4機と略称)の機種 に分類して国際間通信のための技術基準の策定を行って いる。G1、G2機はアナログ型ファクシミリであり、 G1機は原稿を走査して得られる画信号をそのまま伝送 するもので、A4判の原稿の伝送に約6分を要する。G 2機はG1にSSB(単側波帯通信)などの伝送帯域圧縮 方式を付加することによって、伝送時間を2〜3分に短 縮したもので、経済効率が良いことからG3機と共に広 く使用されている。

 G3およびG4機はディジタル型でいずれもランレン グス符号化により伝送時間の短縮を図っている。G3機 は一次元符号化方式を使用し、伝送時間は約1分である。 G4機は主として現在整備されつつある新データ網(D DX)での利用を目的とするもので、高品質網の特徴を 生かした二次元符号化方式(走査線間の相関を利用する) の採用により、48kbpsの回線速度で数秒以内の伝送を目 標としている。このほかG4機では後で述べるテレテッ クス通信機能を統合した混合モード方式(原稿の文字部 分と画像部分を分離して、各々に最適な符号化を行う) の開発が予定されており、電気通信審議会技術部会第一 作業部会において技術基準の策定作業が進められている。

Aビデオテックス

 家庭のテレビ受像機と電話回線を接続し、家庭のリク エストに応じて情報センターから画像の形で情報提供を 行うシステムであり、わが国では本年11月からキャプテ ンシステムが商用化される予定である。キャプテンに使 用されている方式はアルファホトグラフィック方式と呼 ばれ、ファクシミリと同様に表示画面の走査信号をラン レングス符号化して伝送するもので、文字と図形を区別 すろことなく伝送・表示できること、情報入力方法が簡 易であること、受信端末機に文字パターンメモリを持つ 必要がないことなどの特徴を持つ反面、一枚の画面の伝 送に7〜8秒の時間を要すろという欠点がある。

 その他、北米を中心にNAPLPS方式、西欧のCEPT 方式と呼ばれるビデオテックスが実用化されており、本 年10月のCCITT総会においてこれらの3方式併存の形 で国際標準方式の選定が行われた。

 ビデオテックスの利用形態としては情報検索、情報処 理サービス、予約やホームショッピングなどの会話型サ ービス、端末間メッセージ通信などが考えられている。

Bテレテックス

 これまで代表的なテキスト通信メディアとして用いら れてきたテレックスのテレタイプ端末をディスプレイ端 末に置き替え、50bpsのテレックス回線の代りに標準 2400bpsの電話回線を使用することによって高速化を図 ったものである。文字情報のみを対象とするべーシック モードについては国際・国内標準化作業が終了し、現在 図形情報の伝送が可能な混合モードの開発が進められて いる。また日本語を使用するテレテックスについて郵政 省は昨年度推奨通信方式の告示を行っている。

Cテレライティング

 電話機にデータタブレットとディスプレイ装置を付加 し、通話と同時に送り手の描画情報(タブレット上のぺ ン先の軌跡)を伝送し、意思疎通の拡大を図るもので、 デルフト大学のスグリブフォンや電電公社のスケッチフ ォンその他が実用化されている。描画情報は音声信号に 童畳して伝送されるが、音声帯域の一部を使用する周波 数分割方式と音声の休止区間を利用して伝送する時分割 方式がある。テレライティングはメモの伝送システムと して遠隔教育や遠隔会議システムへの応用の他、聴覚障 害者のためのメッセージ通信方式としての利用が期待さ れている。

Dその他の電話系メディア

 上記のほか、公衆、電話網を利用するメディアとしては、 プッシュフォンやビデオテックス端末を使用して銀行口 座の管理を行うホームバンキング、同じく通信販売サー ビスを行うホームショッピング、各家庭の電気・ガス・ 水道等の使用量を遠隔計測するテレメトリシステム、火 災や盗難などを集中的に監視するホームセキュリティシ ステム等々の実用化が進められている。

(2)有線系(ケーブル系)
 有線系メディアとしてはCATV(有線テレビジョン) への関心が高まっている。CATVは当初テレビ放送の難 視聴対策を目的として発展してきたが、同軸ケープルや 光ファイバーケーブルなどの広帯域化・低コスト化に伴 って、テレビ放送から独立した新しい地域情報メディア としての地位を築きつつある。とりわけ各家庭の端末か ら情報センターへの上りのデータ伝送を可能にした双方 向CATV方式は、情報検索、ホームショッピング、総合 テレメトリ、ホームセキュリティ、在宅学習などの多目 的な利用が可能であり、効果的な課金方式の開発や大都 市におけるケープル敷設コスト等の課題を克服すること ができれば、将来の高度情報社会における中心的な通信 メディアとなる可能性がある。

(3)放送系二ューメデイア
 放送系メディアは主として現用のテレビ放送等のスペ クトラムの未利用部分や、情報の空き時間を使用して付 加情報の伝送を行うものである。

@テレテキスト(文字放送)

 テレビ映像信号の垂直帰線時間を利用して文字・図形 から成る静止画番組を数十種類程度伝送し、受信側で必 要な番組を選択受信するもので、送信画の画素パターン をそのまま伝送するパターン方式と、文字や図形素片を コード符号化して伝送するコード方式がある。パターン 方式はビデオテックスのフォトグラフィック方式と同様 にコード方式に比べて受像機のコストを下げることがで きること、符号誤りに強いことなどの特長を持つ反面、 1画面の伝送に10倍程度の伝送時間を要するという問題 点がある。パターン方式については昨秋より実用化試験 局による放送が開始されており、現在コード方式の実用 化に向けて検討が行われている。

Aファクシミリ放送

 テレビ音声信号の高域にファクシミリ信号を重畳して 伝送し、家庭に新聞等の詳細な文書情報を提供するサー ビスで、現在技術基準の検討が行われている。

Bその他の放送系メディア

 その他テレビに第2音声情報を付加してステレオ放送 や二か国語放送などを行う音声多重放送、コード方式の テレテキストを利用してパソコンのプログラムなどを提 供するコードデータ放送、番組の自動録画等を可能にす るための番組識別コード放送、地震の予知情報などの緊 急情報の発生時に受信機を自動的に動作させる緊急警報 放送などの開発・実用化が行われている。


図2 家庭のテレビに関するニューメディア

 (4)衛星系二ューメデイア

 衛星系メディアは主として衛星通信の広域性・広帯域 性を利用して現行放送の難視聴地域の解消や高品質化を 目的とするもので、本年5月に開始された衛星放送や高 精細テレビ放送、PCM音声放送などの開発が進められ ている。

@衛星放送

 放送衛星BS-2によって12GHz帯のテレビ放送が 実施されており、地上放送に比べてより広い映像信号帯 域お、よびPCMによるディジタル音声伝送方式の採用に より、高品質の番組の提供が計られている。

A高精細テレビ放送

 現在のテレビ放送の倍程度の高精細な画像を提供する テレビ放送で、NHKなどが開発を行っている高品位テ レビ方式(走査線数1125本)と、従来の標準方式と両立 を保ちながら、新信号の付加や受信側での信号処理によ って高品質化を図るエンハンスド方式がある。

BPCM音声放送

 多様な番組の二ーズに対応することを目的として、多 数の高品質PCM音声番組をディジタル多重し、衛星を 介して放送する方式について検討が行われている。

 (5)パッケージ系二ューメデイア

 主として家庭内にクローズして情報の処理や蓄積を行 うメディアで、パソコンやVTR、ビデオディスク、PCM ディスクなどがこの範疇に属する。

 上記の他、今回触れることができなかった移動系メデ ィアやビジネス系メディアを含めると、ぼう大な数のニ ューメディア開発が進行している。それらの通信の安全 を保証するための最適な技術基準の制定は郵政省の重要 な行政課題であり、その技術支援の任務を持つ電波研究 所にとっても、今後より明確な位置づけをして取組むべ き重要な課題である。

 高度情報社会の進展に伴って電気通信に対する社会の 要請は多様化の様相を示してはいるものの、現在のシー ズ先導型のニューメディアの乱開発は、国民にかなりの 混乱を与えている。電気通信行政の主管庁としての郵政 省にとって当面する最も重要な検討課題は、今後21世紀 におよぶ社会動向(高齢化社会・都市問題などの社会構 造面、教育システム・家・庭生活・行政システム・政治シ ステムなどの社会生活面、生産性向上・省エネルギーな どの産業構造面等)の綿密な分析予測データに基づいて、 汎宇宙的規模からローカルエリア内までの電気通信のト ータルビジョンの構築であり、その中で個々のニューメ ディアが分担すべき機能領域と開発スケジュールのガイ ドラインを明示することによって上記の混乱を防止する とともに、メディア統合など効率的なシステム開発のた めの施策を早急に実施して行く必要がある。

(情報処理部 計算機応用研究室長)


無線機器型式検定よもやま話

渡辺 重雄

はじめに
 無線機器の型式検定は、明治45年、イギリスの貨客船 タイタニック号の遭難があり、これを契機に、海上にお ける人命の安全を図るための国際会議が何度か開催さ れ、国際航海を航行する船舶には無線方位測定機や緊急 自動受信機等の設置の義務付けが検討された。これらを 背景に昭和8年関係諸法令が公布され、引き続いて昭和 10年に逓信省令(型式試験規則)が、施行されて型式検定 業務が開始された。その後昭和25年6月に電波法及び電 波関係諸規則の改正が行われ、この規則も装いを新たに 無線機器型式検定規則として公布施行されたのである。 当初は、設置を強制する義務検定機種が主であったが、 電波利用の多様化に伴い、昭和30年代に入ると申請者か らの委託によるFM送受信機やSSB送受信機等の任意 検定が行われるようになり、機種や申請数も年々増加し てきた。このため昭和53年には、無線設備検査検定協会 が設立され、任意検定機種の試験業務の一部が協会で実 施されるようになった。現在の検定機種は、義務検定機 種の船舶用レーダ、周波数測定装置等6機種及び任意検 定機種のラジオ・ブイ、遭難自動通報設備の機器等12機 種である(第1表参照)。このうち当所が義務検定の全機種と 任意検定4機種(1部協会と重複)の試験を行い、協会 が任意検定の9機種の試験を実施している。こうして型 式検定は、電波監理の一翼を担って歩み続け戦後の電波 法施行からも30有余年となる。この間、次々と新しい無 線機器が開発され検定申請されてきた。真空管からトラ ンジスタ、IC、LSIへと部品等は集積化、複合化へ と進み、更に無線機も単独でなくシステム化の方向へと 自動化、合理化、省力化を含めながらAM方式からFM、 PM方式の利用等と研究開発の重点が大きく変ってきて いる。技術革新の流れは、潮のうねりとなり押し寄せ押 し返し混じり合いつつ、いつの間にか幅広い分野に拡散 して行く。かつては大型のコンソールタイプ形を申請し てきた船舶無線機もいつの間にか、技術の先端を行く航 空機用無線機と同様にデジタル化あるいはコンピュータ 化による性能のよい小型化を指向したものへと変ってきて いる。このように日々新たな電波界の中に混りながら無 線機器の型式検定試験は続けられている。この型式検定 の実状について、検定試験法開発のための実験、調査あ るいは検定試験状況等を二、三の話題を混ぜながら述べ てみたい。

表1 検定機種

義務検定機種
(1)周波数測定装置(2)警急自動受信機(3)救命艇用携帯無線機
(4)航空機用無線機(5)無線方位測定機(6)船舶用レーダ及び自動レーダプロッテング装置


任意検定機種

*(1)気象援助局用の機器*(2)ミニサテライト局用の機器*(3)公共用トランシーバ
*(4)自動車公衆無線電話*(5)MCA陸上移動局用無線局*(6)船舶用沿岸無線電話
*(7)簡易無線機 (8)遭難自動通報設備の機器(9)ラジオ・ブイ
*(10)SSB送受信機*(11)FM送受信機(12)船舶用レーダ(義務を除く。)


(注)*印は、検定規則第5条第1項ただし書により無線設備検査検定協会で試験を実施、
       気象援助局用の機器にについてはラジオロボットのみ。


野外実験、調査から
 新しく検定機種が追加されると規則の施行前に試験法 の確認や試験設備の検討準備が行われるが、その一環と して野外実験等には必ずといって良いほど何らかのエピ ソードが生まれる。

 昭和50年に船舶用レーダが検定機種に加えられた。こ のため同年夏に、測定用電源車の屋根に9GHz帯のレー ダアンテナを取り付け、静岡県田子の浦の防潮堤上に測 定場所を移して、方位及び距離分解能特性等を測定して いたときのことである。夜間測定が3日間も続いた11時 過ぎ、激しく測定車のドアを叩くので1人が出てみると 白い腹巻、白木綿の短かい浴衣を着た30歳前後の地回り と称する2、3人が両柚をあげて「お前ら何をやってん だ、俺らに見せろ」という。場所は名にしおう駿河の国 は清水港に近い、大政、小政の声がするところ、こちら は気が小さいのでびっくり仰天、そこで「今レーダとい うものの試験をやっている。これは船が安全に走れるよ うに、また、遭難したらどうやって助けることができる かなど調べているところだ…」と当たらずとも遠からず の説明を義侠の人にする。「今あなた達に見せてあげた いがこのように寝ずに実験を続けている最中であるので、 途中で測定をやめると今までの調査が駄目になってしま う、1時間ほど待ってもらえれば区切りのよいところに くるからそれまで待って欲しい。」というと「そうかそれ では涼みながら待っている。」と堤の上に坐りこんで歌や ら何やらワメいていた。しかし、30分も過ぎると静かに なったので車の窓から外をみると人影はない。衣は更け ていく。蚊も出てくる。待ちくたびれて帰ったらしい。 測定していた2入はもう一度あたりをうかがって車の外 へ出た。太平洋に向かって大きな深呼吸をして顔を見合 わせてニヤッと笑った。

 船舶用レーダの申請も当初から1、2年経つと9GHz 帯から5GHz帯及び3GHz帯の申請が出始めてきたので 昭和53年8月に茨城県の北浦で航行性能調査の実験を行 った。この年はどうしたことか台風が8月早々から日本 をうかがい実験当日にも影響を及ぼしていた。湖水の波 は荒く、静まりそうにもない。1日待ち2日待った。実 験予定日は無為に過ぎて行く。どうしても実験をやりた い。実験責任者はみんなが寝ている早朝に抜け出して湖 畔を1周してみた。測定地のある湖の西側は波が高いが 東側はそれほどでもないことが分かった。南北約20km、 東西約2km、リフレクタを付けたモータポートを東側へ 回せば実験はできる。宿舎に帰ってみんなの起床を待つ。 1級小型船舶操縦士の資格をもつM君が波に対し正面か ら突込めば対岸まで乗切れるという。「決行」M君と実験 責任者が乗り込む。さすが2人の顔も心なしかこわばっ ている。時速約30ノット、4m長のポートは本当に木の 葉のように揺れて、台風の余波で荒れる波間を一直線に 進む、だんだん小さくなって視界から消えて行くオレン ジ色の救命胴衣が今でも目に浮ぶ「SWELL SHORT、 REFLECTOR SET、測定どうぞ」の無線連絡が入っ たとき、これで実験も終ったとホッとした。今構内の鉄 塔上でアンテナ特性等を測定しているが、東京湾である いは開港前の成田空港の滑走路上での実験等と数々の先 人達の泥くさい結果の積み重ねが17m、30mの鉄塔等の 試験設備や試験法と化しているのである。

検定試験から
 試験は、環境試験と性能試験が行われるが、いずれの 場合でも珍現象や思いがけない突発事故が発生する。

 例をあげると、ブイ式遭難自動通報設備の機器は、船 が遭難した際、水圧により電源スイッチが自動的にON となり、これによりアンテナは自動伸長してSOSの遭 難信号が発射されるようになっている。試験中に、この スイッチの安全装置回路がおかしいというので立合人と アンテナ自動伸張用炭酸ガスボンベを取り替えてアンテ ナ突出口を下にして具合をみていた。ところが突然スイ ッチ回路が誤動作し、瞬時にガスが噴出し、十数kgの管 体が2mほど宙に舞い落下した。立合人も試験官も身の 安全を図るのが精一杯であった。人身事故にならなかっ たのがせめてもの幸いであった。この後、安全対策がと られたことは申すまでもない。このほか落下、振動試験 なども筐体が変形してしまったりの突発事故が比較的多 く発生する。、

試験立合人
 試験の立合人は、規則で申言書すれば立合うことができ ることになっているが、中には誠に面白い人にお目にか かれる。

 ある年、警急自動受信機のアンテナ実装連続試験(500時 間)を平機支所で実施していたときのことである。試験 準備も整い、いよいよ開始となった。そのとき立合人が オズオズと「お願いがあるんですが」という。合格する ように大洗磯神社にお参りしてお札をいただいてきたの で検定受験機にはらしてもらえないかという。霊験あら たかに合格とはなったが、メーカのトップを行く開発部 の技術者とお札の組合せは誠に日本的で合格ともなれば 試験官は福の神、救いの神かもしれない。どんな検定機 種であれ、何といっても一番気持ちがよいのは合格証書 を渡すときである。何はともあれ、ご苦労さまでした。 いろいろとお世話になりましたとにこにこと合格証書と 受験した機器を引き取って行く。中にはうれしさのあま り合格証書のみを持って機器を忘れて帰ってしまった人 がいた。2度、3度目の挑戦で自分の開発した機器が合 格したというときの技術者の喜びが微苦笑となって伝わ ってくる。

おわりに
 検定は研究所にとって、電子通信社会と直接つながっ ている大きな窓であり、時のエレクトロニクス技術の先 端をいち早くみつけることのできる利点を生かして一層 飛躍して行きたいと思います。

(通信機器部 機器課長)


CCIR研究委員会中間会議(Bブロック)

高杉 敏男

まえがき
 標記の会議が1984年4月30日から6月6日の6週間、 スイスのジュネーブ国際会鼓場で開催された。筆者は日 本代表団の副団長として参加する機会を得たので、会議 の概要等について述ベる。

会議の概要
 1983年8月29日から9月30日まで開催された中間会議、 A1ブロック、同年11月2日から12月7日まで開催され たA2ブロックに続く本会期最後の中間会議で、今回は SG3(約30MHz以下の固定業務)、SG4(固定衛星業 務)、SG9(無線中継業務)及びCMV(用語と定義)の 5つのSGから構成された電波利用業務に関する研究集 会である。

 会議は39か国の主管庁等から総勢480名の参加があり、 日本からは32名の代表団が参加した。提出された寄与文 書総数は405件、処理文書数は330件にも上った。日本 から提出した文書数は56件で、その内、当所からは10件 (共同提案3件を含む)であった。我が国の提案は充実し た技術的内容を含んでいたので、各国から高く評価され、 その趣旨はすべて関連テキストの改訂、新報告案等に反 映された。

 なお、当所提案の7件の寄与文書に対する処理状況は 下記の通りである。

(1)Rep.207-5の削除提案(4/26):ソ連からも同様の 提案があり当該レポートは削除された。

(2)ドップラ周波数偏移の量(4/27):英国より数値修正 の提案があり、これを含めてRep.214-3は修正された。
(3)太陽妨害の継続時間(4/28):米国、西ドイツ、英国 からの干渉ゾーン角直径、干渉時間等の数値修正を含め、 Rep.390-4は修正された。

(4)固定衛星業務における10GHz以上の周波数帯の使用 (4/34):伝搬データの追加に関してはSG5で記述済み であるので修正は取りやめたが、他は全面的に認められ、 Rep.552-2は修正された。

(5)静止衛星の精密軌道保持(4/36):提案通りRep.556-2 は採択された。

(6)18.4、18.75及び31.65GHzにおけるアンテナ雑音温 度の測定結果(4/39):1つのパラメータ値が従来のもの と大きく異なる理由及び物理的裏づけについて西ドイツ、 米国から質問が出され、現行テキストと同様の条件で計 算したパラメータを再提案し採択された。

(7)低G/T船舶局システム構成−小型船舶局用アンテナ (8/26):ショートバッグファイアアンテナの特性表にビ ーム幅の記述を追加し承認された。

あとがき
 CCIR会合への参加は筆者にとって今回が初めてで あった。その為、国際会議がもたらす一種独特の雰囲気 に戸惑い、初めの2週間程度は緊張の連続であった。当 所からの参加者は研究者及び主管庁双方の代表として参 加している為、気苦労が多いが、それだけ各国の主管庁 代表者や研究者との交流の機会が多くなり、慣れるに従 い、最適な立場で参加していると自覚してくる。SG4 での研究者として当所の研究成果の紹介と応答、また、 村谷代表のSG4副議長選出に関する各国代表との歓談、 IWP4/1のWithers議長(英)の留任に対する主管庁代表 としての支持演説、SG8におけるIWP8/7の平田 新議長選出での感謝声明等は両者の立場を兼務している が故の特権であった。なお、今会期中にIWP5/2の会 合が西ドイツ、ダルムシュタットにあるドイツ郵電省研 究所(FI)に於いて開催されたが、筆者はその会合にも 参加する機会を得、当所の成果の紹介ができた。

 さて、スイス、ジュネーブは氷河の水をたたえるレマ ン湖畔にあり、遠くヨーロッパアルプスを望み、外交官 ナンバーの車が多く行き来する国際都市、観光都市で ある。筆者にとって10年ぶりの訪問であったが、車の台 数が増えたこと、自動販売機が普及しすぎたことを除い て何もかもあまり変っていない様に感じられた。宿の窓 からの車の流れ、入々の騒音も同じなら、乾いた空気の においが全く同じであった。物価は驚く程高く、生活す るにはなかなか大変な所であるが、想い出多き所として、 再び訪れてみたいところである。

 終りに、今回の機会を与えて項き、またご協力、ご指 導、ご支援項いた関係各位に厚くお礼申し上げる。

(調査部国際技術研究室長)


外 国 出 張

1984年米国電気・電子学会アンテナと伝搬に 関する国際シンポジウムに出席して

 本シンポジウムはURSI米国内集会と共催の形で昭 和59年6月25日から29日まで米国、ボストンで開催され、 世界20数か国から約500名の参加者があった。発表件数 は約400件(内、日本から15件)で、発表は7会場に分 かれて行われた。発表内容は各種アンテナ、アンテナ測 定法、リモートセンシング、電波伝搬など多岐にわたっ ている。筆者は伝搬関連のセッションで「14GHz帯降雨 散乱実験の統計処理結果」について発表した。

 なお、本年はIEEE創立百年にあたるため、アンテ ナ及び伝搬分野の大家による記念講演が行われた。また、 J.F.Kennedy Libraryで催された晩餐会では、百年記 念メダルの授与式が行われた。

(電波部 超高周波伝搬研究室 主任研究官 阿波加 純)

地球カ学のための宇宙技術国際シンポジウム に出席して

 昭和59年7月9日〜13日の間、ハンガリーのショプロ ン市においてIAG(国際測地学協会)及びCOSPAR 共同のCSTG(宇宙技術調整委員会)とハンガリー科学 アカデミー共催の下に上記国際シンポジウムが開催され た。米国、西独、地元ハンガリー等全体で27か国、約120 名の参加があり、日本からは筆者がK−3システムのテ スト段階の紹介をしたほか、緯度観測所から横山紘一氏 が出席した。今回のシンポジウムでは科学論文の発表の ほか、IAG Commission Vlllの各Subcommission毎のビ ジネスミーティングも併せて開催された。筆者の関係し ているIRIS(国際電波干渉サーベイ)については、各 国の測地的VLBI活動の現況報告、MERITキャン ペーン後のIRIS地球回転観測の討議の後、二つの決 議即ら、VLBI局とGPS局とのコロケーション(並 置)、及び平均海面測定へのVLBI、GPSの活用を採 択した。シンポジウムを通じて電波研究所に対し、プレ ート運動のみならず、極運動・地球回転研究でも期待の 大きいことを再認識させられた次第である。

(周波数標準部 主任研究官 川尻矗大)

第12回レーザレーダ国際会議に出席して

 8月13日から17日まで、南仏の歴史的町・音楽祭で有 名なエグス・アン・プロバンスで開催された第12回レー ザレーダ国際会議に出席した。この会議は、米国気象 学会のレーザによる大気研究グループが中心となって約 1年半ごとに米国その他の国の研究機関がホストとなっ て開かれている。今回は、仏のCNRS(国際科学セン ター)がホストとして準備し、約200人の参加者があり、 130件の論文が発表された。この会議は、どちらかと言 えばレーザレーダと言う狭い研究分野の人が集まり、 互いに顔馴染で同窓会の雰囲気がある。レーザレーダ は対流圏の気象観測で赤外ラジオメータ等と組み合わせ て実用に供されており、また、大気汚染測定や大気パラ メータ測定の分野でも実用化にむかいつつあるとの印象 を得た。米国は幅の広い研究開発を進めているが、スエ ーデンや西独などでは環境計測に重点を置いて成果を挙 げていた。また、欧州ではESAを核として国際的共同 観測をやっているのを羨ましく思った。

(周波数標準部長 五十嵐 隆)

第21回国際ご波科学連合(URSI)総会に 出席して

 昭和59年8月28日から9月5日にかけて標記総会がイ タリアのフローレンスにおいて開催された。約40カ国、 800名の参加者があり、我が国からは当所の古濱洋治及 び筆者の2名を含む33名の出席者があった。9研究分科 会について公開シンポジウム(27日より開催)を含む計95 のセッション(約600件)があり、前回の総会(昭和56年 ワシントンDC)以降の研究の発展、現状、将来動向に 関するレビュー、個々のテーマに関する研究報告などが 行われ、活発な討論がなされた。また、各研究分科会ご とに行われた数回の事務会議では将来の研究集会の計画 立案、次期副委員長の選出などが行われた。筆者の関係 する対流圏伝搬とリモートセンシングを扱う分科会にお いては、多周波・多偏波レーダによる雨や雲の観測(日本 の現状については古濱より報告)、衛星通信における通信 方式を強く意識した研究、リモートセンシングにおける 実験研究と理論研究との間のギャップなどが印象に残っ た。

(第三特別研究室長 小口 知宏)


>職場めぐり<

将来の移動通信の総合的研究

通信機器部通信系研究室

 自動車社会の発達に伴って、陸上移動通信の需要は飛 躍的に増大してきた。これらの需要増加に対処するため に、当研究室では、種々の陸上移動通信に関する研究開 発を進めてきた。これまでの研究の流れを簡単に述ベ、 次に、現在の研究内容について紹介する。

 当研究室は、昭和42年の機構改革によって、当時の機 器課測定器係が独立して、通信機器の新しい研究室とし て発足した。

 発足当時は、移動通信用無線機器の検定を対象とした 「総合試験装置」の開発や、都市雑音に対する所要信号強 度の実験的検討等が行われた。その後、陸上移動通信の 需要増加に対処するために、FM方式の狭帯域化に関す ろ研究を行い、12.5kHzセパレーション方式の実用化に も貢献してきた。又、陸上移動通信を効率的に運用する ために、電子計算機による陸上移動通信モデルの解析手 法を開発し、電波行政に寄与している。

 更に、周波数の有効利用をはかるために、従来短波帯 で用いられていたリンコンペックス方式をVHF帯の陸 上移動通信へ適用するための研究を行った。電子計算機 シミュレーションによる最適パラメータ及び室内実験装 置による実験で得られた成果をもとに、実用下能な機器 を試作し、野外走行実験を実施した。その結果、従来の FM方式より優れた特性を有することがわかった(本二 ユース、No.59参照)。

 現在、新しい移動通信方式として注目をあびているス ペクトル拡散(SS)通信方式の適用に関して、理論的 及び実験的な研究に取り組んでいる。第一世代として、 直接拡散(DS)方式及び周波数ホッピング(FH)方 式の室内実験用エンジニアリングモデル及び都市内伝搬 特性を模擬する広帯域フェージング・シミュレータを試 作し、各種の実験を行った。実験及び理論的検討の結果 から、FH方式が、周波数ダイバーシチ効果や遠近問題 の点で優れていることがわかった。第二世代として、F H方式及び誤り訂正符号化を適用した野外走行実験用シ ステムモデルを昭和58年夏に完成して、種々の室内実験 によって、その特性が優れていることを確認した。本年 1月に、実験局の免許を受けて、これまでに数回の野外 走行実験を行い、周波数ダイバーシチ効果及び誤り訂正 符号化による特性の改善を確認した。試作した6台のシ ステムモデルを用いて、多元接続特性に関する野外走行 実験を行い、SS方式の陸上移動通信への可能性につい て研究を進めているところである。

 移動通信の需要は増大し、利用形態も多様化している。 このために、より高い周波数帯の利用技術、衛星移動通 信方式、フェージング軽減技術、小エリアにおける携帯 移動通信方式等の研究を進める予定である。

 当研究室では、室長猿渡、水野研究官、守山、柳光及 び関沢技官の5名と、伊藤、井家上の両研修生が研究に 当っている。水野研究官は、SS方式のプロジェクトに 最初から参加し、SS方式のエキスパートとして、実験 を推進している。守山技官は、水野研究官とともに実験 に当るとともに、実験システムの開発を行っている。関 沢技官と新人の柳光技官は、実験用八一ドウェアの製作 や実験を中心に行っている。伊藤研修生は警察庁から派 遣され、先端的な移動通信について研修している。井家 上研修生は、明治大学博士課程に在籍し、学位の取得を 目指して研究に当たっている。猿渡は、他の研究室と関運 する作業(光通信、衛星通信実験)及び将来の衛星移動 通信システムの検討を行っている。ちなみに当室の平均 年令は29歳である。

(猿渡岱爾)


研究室メンバー(前列左から柳光、水野、猿渡、守山、 後列左から伊藤、関沢、井家上)


短   信

SIR-B実験実施

 当所は、スペースシャトル・チャレンジャー(日本時 間10月5日20時3分打ち上げ)に搭載された映像レーダ (Shuttle Imaging Radar-B:SIR-B)による科学観測 実験を国内6か所の実験サイトで実施した。研究テーマ は、1.標準反射体による較正実験2.稲作地帯観測実験 3.海洋上の擬似油汚染観測実験である。実験は衛星計測 部を中心に稚内・秋田・山川の各電波観測所、鹿島支所、 及び秋田県立農業短期大学、海上保安庁等関連諸機関の 協力を得て、各実験サイトの映像を研究(解釈)する上で 重要な現況データの収集等を行った。データ中継衛星を 経由して取得したデータを地上へ伝送するためのアンテ ナ系の不具合等により、シャトルが日本上空を通過する 14のバスのうち7パスについてしかデータ記録が出来な かったが、その取得率は世界中から参加した43の機関の 中では高い方であり、その成果が期待されている。


ISIS衛星管制運用の開始

 当所はISIS-1及びISIS-2衛星からのデータ取得を鹿 島及び昭和基地において実施してきたが、衛星所有国の カナダは管制業務を本年3月をもって中止することとな った。当所は1985年まで続く中層大気国際共同観測計画 (MAP)の一環として少くとも1986年3月まで運用の継 続を要望し、管制運用業務の譲渡をカナダ側に打診して いたが、カナダ側は5月7日付の通信省ラビノピッチ事 務次官から若井所長宛の書簡にて快諾を表明、5月23日 付の所長からの返書を以って公式に譲渡が決定した。準 備期間を経て7月16日鹿島支所からコマンド送信して、 休止状態にあったISIS-1及びISIS-2衛星を活性化さ せ、テスト運用を行って両衛星の正常な作動を確認した。 同月30日より定常運用に入り、1週間8〜9バスの割合 でデータを取得している。昭和基地におけるISISのデ ータ取得についても6月28日付テレックスにて仏国CN ESによるコマンド送信業務継続の受諾回答を受け、9 月3日テスト運用を実施、その後定常運用に入った。


無線従事者教育講習会始まる

 10月8日より第1回目の標記講習会が本所と鹿島支所 で開始された。受講者は本所で22名、鹿島支所で8名と なっている。

 現在、当所では81局の無線局を運用(6月1日現在) しているが、それに従事し得る有資格者は中高年齢層 に集中しており、今後年を追って減少する傾向にある。 そのため、当面第2級無線技術土の資格取得を目指して、 今回の開講に至った。

 講師陣は所内の室長、主任研クラスが受け持っている。 受講者は第一線で活躍している若手中心で、熱気あふれ る講習が行われている。また、開講に先立ち、既に資格 を取得した経験者より、合格の秘訣等の伝授がなされた。

 第1回目の講習会は、本所では11月2日まで、鹿島で は1月中旬まで続けられる。


鹿島支所厚生棟完成

 昭和59年9月26日、鹿島支所の歴史と共に歩み続けて きたプレハブの厚生棟は、御役御免となり引退した。

 これに代る新厚生棟は、関東地建の設計施行により58 /59年度国債で総工費5,600万円をかけ完成したもので、 面積228m^2の立派な建物である。

 松林の中に立ち、ひときわ目立つこの白い厚生棟は、 食堂・厨房96m^2、日本間45m^2、浴室・洗面所38m^2、共通 部分49m^2からなり、大きな窓、天井部分のトップライト など採光には特に配慮されたため、室内の明かるさは、 見違える程であり、清潔感あぶれる近代的な建物になっ た。