一次周波数標準器について


中桐 紘治

  

はじめに
 科学が進歩して周波数・時間標準の高度利用が, 精密計測,通信,宇宙科学,地球物理,天文学等広 範囲に及んでいる。VLBI(Very Long Baseline Interferometer)で日米間の距離を2〜3pの精度 で測ることができたのも高安定度の水素メーザの周 波数標準器の完成があったからである。このような 社会の様々な要請にこたえるため,当所は国家標準 の研究開発,維持及び供給に努力している。
 周波数標準業務において一次周波数標準器の果た す役割は特に重要で,当所では10年程前から大型セ シウムビーム周波数標準器の研究開発に鋭意取り組 んできている。そして昨年の5月にその正確さが国 際レベルに達したことが確認されたので,国際報時 局(フランス,パリ在置)にそのデータの送付を開 始し,世界協定時の基になっている国際原子時の較 正に,米国,カナダ,西独の一次周波数標準器と共 に寄与している。図1にこの関係を示している。


図1 一次周波数標準と標準時

 「一次周波数標準」を端的にいうと「周波数を較正 しないで,明示された正確さをもつ秒の定義に対応 する周波数標準」となる。
 ここで秒の定義は1967年に第13回国際度量衡総会 で決議されたもので「秒はセシウム133原子の基底 状態の二つの超微細準位の間の遷移に対応する放射 の9,192,631,770周期の継続時間である」とされる。 現在,一次周波数標準器の正確さは1×10^-13(30万 年に1秒の狂いに相当)に達している。本稿では「セ シウムビーム一次周波数標準器」及び「最近の成果」, 「将来展望」について解説する。
  

セシウムビーム一次周波数標準器の原理
 セシウム原子のエネルギー準位を図2に示す。セ シウム原子は,原子番号133で電子の数も多く複雑 であるが,最も外側の軌道は電子が1個だけで基底 準位がF=3,F=4の二つのエネルギー準位に分 かれる。この原子に外部から磁界を掛けると,図の ようにさらに16本になる。このうち,周波数標準に 利用するのは,外部磁界の変化に最も影響されない F=4,mF=0とF=3,mF=0間のエネルギー状 態の移り変わりである。


図2 セシウム原子基底状態の超微細構造エネルギー準位

 図3に原理図を示す。原子源より放出された原子 は六極マグネットによりエネルギーの高いものだけ になり,次の空胴共振器を通るときマイクロ波信号 により共鳴吸収を起こしエネルギーの低い状態に変 わる。従って,次の六極マグネットを通ると原子ビ ームは発散する。ビームの収束,発散状況は,原子 をイオン化しそれを電流として検出することにより 知る。この共鳴吸収が常に起こるように水晶発振器 の周波数を制御すれば標準周波数を作ったことにな り,また,これを分周すると時計用秒パルスができる。


図3 セシウムビーム一次周波数標準器の原理

  

正確さの評価
 図4に共鳴吸収スペクトルを示す。中央の幅が110 Hzである。これは共鳴周波数の1×10^-8に相当する。 更にこれの中心を10万分の1以上の分解能で調べて, 正確さ1×10^-13を求めるわけであるから話が細かく なる。正確さの主な評価項目を次に述べる。
 (1) 共振器の位相差と一次ドップラーシフト:セ シウム原子にマイクロ波を二度作用させて干渉パタ ーンを作り,そのスペクトル幅を小さくして分解能 を上げている。従って,この二か所の相互作用状態 が決定的な役割を果たすことが予想される。二か所 のマイクロ波の位相が10^-4ラジアンずれていると10^-12 ずれることになる。また,ビーム軸方向とマイクロ 波の進行方向を互いに直角にして一次ドップラーシ フトが起こらないようにしている。しかし,実際は ビームに広がりがあり,マイクロ波に乱れがあるの で大きな問題となっている。これらは,いずれもビ ーム方向を変えることにより周波数シフトの符号が 変わるので,ビーム方向を反転することによって評 価する。反転したビームの速度分布,軌道が同じで ある必要があるが,これは周波数領域でのスペクト ルをフーリエ変換して時間領域の速度分布を求めて 比較し,更に,周波数シフトのマイクロ波パワー依 存性を測定して判断する。
 (2) 磁場による周波数シフト:周波数標準には, 磁場に依存するエネルギー準位の遷移を利用してる から,磁場の大きさ,分布は特に重要な測定対象で ある。これには,隣接遷移の磁場に対する依存性が 周波数標準に使う遷移のものより1万倍程度大きい ことを利用する。磁場分布シフトのマイクロ波パワ ーと磁場の大きさに対する依存性を詳しく調べて評 価する。
 (3) マイクロ波純度の影響:エネルギー遷移を起 こさせるマイクロ波自身が汚れていたら,その結果 得られる標準周波数もずれてしまう。そのため低雑 音な水晶発振器,逓倍器を使用している。これの評 価は,マイクロ波のパワーを変えてエネルギー遷移 の信号対雑音比を変化させて雑音の影響度を周波数 シフトとして調べることによっている。その他には, ビームの速度分布による二次ドップラー,地球重力, 黒体ふく射,隣接遷移などによる周波数シフトがある。


図4 周波数標準に使用する共鳴吸収のスペクトル

  

最近の成果
 国際報時局へ報告した結果を図5に示す。国際原 子時は一次周波数標準の結果を基に2か月に1回 2×10^-14のステップで較正されていて,その誤差は ±1×10^-13である。このデータは国際報時局の昨年 の年報から用いたものである。なお,当所の1985年 2月の結果は隔月報から推定した。世界測位衛星に よる周波数・時刻比較が全世界的に最近確立され, 10^-14のオーダが可能となったので,国際報時局は各 国の一次周波数標準器に大きな期待を寄せている。 これにこたえるため当所では,国際報時局への一次 周波数標準器のデータ送付を隔月あるいは毎月にす べく努力している。


図5 国際原子時から見た一次周波数標準器の動き

  

将来展望
 一次周波数標準器はその使命の重大さから 常に最良の状態で維持し,また,改良を重ね て精度向上を図る必要がある。特に前記の(1) (2)(3)の項目の評価をするためのハードとソフ トの充実を図り,正確さ5×10^-14を目標と している。これを上まわる正確さは,原子の エネルギー選別,検出に半導体レーザを利用 する「光励起式セシウムビーム 周波数標準器」で達成する計画 である。この方式は現在,各国 とも建設中であり,当所では独 自の方式でこれに貢献するつも りである。関係の方々の御指導, 御支援をお願いする次第である。

(標準測定部 原子標準研究室長)




“研究成果の特許化及び実用化について”の講演会


斉藤 義信

 講演は去る9月3日午後,新技術開発事業団,顧 問弁理士阿部龍吉先生をお迎えして当所4号館大会 議室で行われた。
 日頃,特許は難しいもの,あるいは時間のかかる ものというイメージが強いが,特許の専門家をお招 きして,特許の意義や必要性,発明のポイントなど, 特許について分りやすく解説しで頂き,特許に関す る誤ったイメージを払しょくしたい。また,本年4 月の当所の大機構改革により,これまで以上に,「役 に立つ研究」を推し進める必要に迫られており,研 究者の特許に関する意識を開拓する目的も含めて企 画・実施したものである。
 講演には予想を上回る80余名の聴講者が参加し, 2時間近く,淡々と時折問いかけるような話し振りに 熱心に聞き入っていた。
 以下簡単に講演の要旨について印象,私見など混 ぜながら述べる。

 現在わが国の特許出願数は46万(件1年),本年 度には50万件にも達しようとの勢いである。この件 数は,欧米諸国と比較すると3〜6倍になる。しか も外国への出願件数も含め,我が国だけが増加の傾 向にある。この傾向は,社会の技術開発の活力を反 映していると見ることもできよう。
 ところが国有特許出願数は,数年間横這いで約 1,500(件1年),全体の0.4%である。この数字が妥 当か否かを断定するのは困難であるが,我が国の研 究開発費に占める政府負担率は約26%であり,国立 研究機関の研究成果が,特許化に必ずしもなじまな いことを差し引いても,講演者の意見と同様に“あ まりにも低すぎる水準”であると思われる。その要 因としては,制度,システム,更には政策等にいく つかの問題が考えられよう。
 国有特許は,知的資源,知的財産としての価値や 国益を確保するために不可欠であり,また,公益を 守るためにも必要なものである。ところが,必要性 は理解できても特許出願となると二の足を踏んでし まう。その理由として,発明のポイントのとらえ方 が難しい,明細書の作成が煩わしいなどが挙げられ る。そのため,自分の研究成果が“発明”に値する か否かなど疑問ももたず,学会への発表や論文誌へ の投稿をしてしまい,発明の権利を失ってしまうケ ースもある。もし発明のポイントを簡単にとらえる ことができれば,特許出願数の増加も期待できるは ずである。

 講演ではその一例として,「入力→ブラックボック ス→出力の流れを想定し,研究成果をブロック図で ブラックボックスに書いてみる方法がある。」との説 明があった。ここで,入力には水晶発振子,ブラッ クボックスには特殊な方法で加工する原理,出力に は高精度の水晶発振器を置き換え,前記の“流れ” に当てはめてみれば,特許の内容が容易に理解でき よう。このときブラックポックスに描かれたブロッ ク図の動作原理が発明の内容となる。次に目的,作 用(動作),効果を考えながら,フォーマットに従い 明細書を作成すればよい。この発明のポイントのと らえ方が特に印象に残った。

 講演終了後には,発明の基本的な考え方から特許 出願の分野まで質疑応答があり,関心の強さ,層の 幅広さを知らされた思いがする。

 この講演により特許というものが,多少なりとも 理解していただければ幸いである。そしてこの講演 を機会に特許の出願が増えることを期待したい。

 最後に,この講演会の実現に尽力された新技術開 発事業団の関係者に紙面を借りて深謝いたします。

(企画調査部 企画課)




垣間見た韓国


上田 義矩

 韓国電気通信百年記念国際フォーラムに所長の代 理として招かれ,去る9月3日から7日まで訪韓し た時の印象を綴り,編集担当のご依頼にこたえたい。

 韓国は近くて遠い国といわれ,わが国とは意外と 疎遠で,あまり理解していない人が多い。私とてそ の類であり,わずか丸4日の滞在では,本当のとこ ろは何も分かるはずがないが,眼に映ったもの,感 じたことをそのまま記すこととする。

 9月初旬のソウルは,カラッとした良い天気が続 くと言われていたのに,滞在した5日問はパラパラ 程度を含めて雨の降らぬ日なしと恵まれず,こうい う土地は好きになれないのが普通である。しかし, 韓国の人々は接した限り皆親切で,さらにはお人好 しの感さえした。そのために,天候の悪さも帳消し で,どちらかと言えば多少とも好印象さえもって帰 ることができた。

 まず第一印象はというと,顔つきである。正に日 本人と区別がつけ難い。我々は在日韓国人というと, 日本人とは違った顔つきの人を想い浮かべるが,そ のような顔の人は1割もいるだろうかと思う。そこ で問題は言葉である。日本人の中にいて日本語が通 じないといった感じ。日韓統合時代の名残りで日本 語を話せる人も少しはいるが,町で通じる程ではな いようである。街の中もハングル文字一色で,たま にしか英語にお目にかかれず,ましてや漢字などほ とんどないのは淋しい。日本人は,英語だけでなく, 近隣の中国,韓国,ソ連等の国語にもっと関心を持 ち,近くて近い国にする努力の要を痛感した。

 韓国はいま建設ブームと言ってよい。88年オリン ピックを目前に控え槌音が高く,10何年か前の日本 を想い出す。百年あまり前の日本は,西欧に比し随 分遅れていたが,先人達の努力により今日の繁栄を 得た。韓国もこれに習えとばかりに頑張っている。 顔だけでなく,勤勉さ,向学心など日本人と良く似 ている韓国人にそれができないはずがないと思う。 日本を手本として見る眼が輝いているせいか,若い 人達の日本語学習も熱心に進められている。

 私をご招待して下さった電気通信研究所の鄭部長 に敬意を表し,ソウルから南140q余のデジョンに ある同研究所を訪れたときも,韓国の発展に賭ける 強い意欲を感じた。研究者約750,全体で千人余の研 究所であるが,平均年令は20歳代の若さ。会った人 は皆眼を輝かせて研究に取り組んでいた。内容的に は今一つの感もあるが,決して見くびってはならな い感じがした。一層のご発展をお祈りする。

 一方で暗い陰がないわけではない。南北の分断と 対立は,同一民族内の最大の不幸であり,国民生活 にも深刻な影響を与えているようである。その現わ れが軍事優先の考え方で,徴兵制度により若者はす べて兵役の義務があると聞く。高速道路の直線部分 に中央分離帯のないのは,非常時に滑走路にするた めとか。車優先の道路交通もその一端なのかと感じ た。撮影禁止の壁にもよくぶち当たる。東洋一を誇 る63階建のGolden Towerの展望台からは,ソウ ル市内が一望に見渡せ,素晴しい景色だが,写すこ とはできない。多分そこからも軍事施設が見えるた めであろう。我々は平和維持に一層の努力をしなけ ればならないと肝に銘じるとともに,南北和解の一 日も早いことを祈る次第である。

 最後に市内見物した所の中から。第一が国立中央 博物館。古代から今日までの陳列品があるが,中で も我が国の範となった陶磁器は素暗しい。第二が南 大門近くの市場。我がアメ横より一層庶民風という 感じで,生活臭がプンプンしていた。

(次長)




》随筆《

ゴ ル フ 入 門


今井 信男

 どんな趣味やスポーツでも,新しく入門するのに は,それなりの動機やきっかけがあるようである。 私もつい最近までゴルフに関しては全然の門外漢で あったが,そんな私が五十歳を過ぎてからゴルフを 始めることになったのである。

 これまで一度も研究所の外へ出たことのなかった のが,思いがけず3年前の夏に,通信・放送衛星機 構へ出向を命ぜられ,その新設の君津衛星管制セン ターヘ勤務することになった。センターにおける仕 事以外の共通した話題としてはゴルフが圧倒的で, 職員の過半数がゴルフの愛好者であった。センター は房総半島の奥地に在り,その広い構内の芝生上で ゴルフの練習ができ,また,センターの近辺にはい くつかのゴルフ場が存在している。このように恵ま れた環境の中で,センター内でのゴルフ熱は急激に 上昇していった。それにつられて,あらたにゴルフ に入門すろ職員が続出したが,実は私もその中の一 人であった。

 早速ゴルフセットを買い込み,それ以来周囲の先 輩ゴルファの手ほどきを受けて練習を開始した。は じめのうちは,クラブとそれを握る両手及び身体が ばらばらの感じで,球を打ってもまともに飛ばず, 自分はゴルフには不向きかもしれないと落胆するこ とも度々であった。でも“習うよりは慣れよ”の諺 のとおりに,辛抱して練習を続けているうちに,な んとかまともに球が飛ぶようになってきた。これと 前後して,センターのコンペなども催され,これに 無理やりひっぱり出されたが,大たたきをしながら もなんとか無事に全ホールを回り終えたときは,何 か大事業を成し遂げた様な満足感を持った。

 最初はおつきあい程度にゴルフができればよいぐ らいの気持で始めたのだが,生来の凝り性と,さら に単身赴任の気楽さも手伝って,そのうちに仕事以 外は専らゴルフに没頭することになった。目標を1 ラウンドで100を切ることに設定し,それを目指し て努力を続けた。これは予想したよりもはるかに難 しく,目標を達成したのは既に2年近く経った時で あった。これで念願の100の壁を超すことができた と喜んだのも束の間,その後も少し調子が悪いと簡 単に100をオーバーする始末である。この様な状態 は現在まで続いている。2年半程して研究所に戻り, センターに居た頃にくらべて練習も実戦もめっきり 回数が減った。しかし幸い研究所内にも同好の志が 居り,また,コンペも行われているのでそれへの参 加を楽しみにして今後共ゴルフを続けていきたいと 思っている。

 最後に,話を私の属する情報管理部に移そう。当 部は,図書,出版,通信,試作を担当する情報管理 課,電子計算機室及び電波観測管理室から成ってい る。今年4月の電波研究所の組織改正以前には,こ れらの課室は全然別の部に属していたものが,まと まって一つの部になったのである。ゴルフにたとえ れば,あまり面識の深くなかった3人のゴルファが 一つのパーティとして,これから共に協力し合って ゴルフコースに挑戦し,各々最善をつくし,また種 々のトラプルも乗り越えて共通のゴール,すなわち 情報管理部の使命の達成を目指して進むわけである。 このパーティの各メンバーが気持よくプレイして実 力を充分に発揮し,それぞれが好スコアでホールア ウトできるよう全力を あげて支援するのがキ ャディとしての私の役 割と思う。

(情報管理部長)





》職場めぐり《

開聞岳と40年


山川電波観測所

 「高さこそ劣れ,ユニークな点では,この山のよう なものは他にないだろう。これほど完壁な円錐形も なければ,全身を海中に乗り出した,これほど卓抜 な構造もあるまい。名山としてあげるのに私は躊躇 しない」日本百名山の著者はこう評した。

 この春,環境整備のため雑木を一掃したら,開聞 岳が久し振りに全姿を現した。それは西の空に美し い山容である。山川電波観測所とこの山との縁は来 年の7月で満40年になる。観測所もすっかりこの地 に根を張った。

 電波観測管理室が電離層観測の老舗なら,観測所 はさしずめその分家と言えよう。時代の変遷は少し ずつ観測所の業務を変えてきた。山川も他の観測所 同様多角的に手を広げている。しかし,いまでも大 黒柱は電離層観測である。もちろん他の観測所とは ネットワークのきずなで結ばれている。それだけに 今日,観測所としての特徴を作り出すのは容易でな い。

 山川は現在,次の五つの仕事を抱えている。

 電離層定常観測:観測所の歴史が刻まれている。
すでに100万枚を超えるイオノグラムを世に送り出 した。電離層情報に対する社会的ニーズは低下して きてはいるが,太陽地球環境の監視を目的とする電 離層観測の意義は今日も変わらない。いま曲がり角 にあることは確かだが,9-B型観測機はいまも動 き続けている。

 HFドップラー観測:MAP(中層大気観測計画) 参加項目の一つである。目的は大気波動の観測で, JJY5波の電離層伝搬波を対象としている。

 遠距離FM放送波の受信:テレビ混信の元凶と言 われるEs層の正体は依然として不明である。その手 がかりを得るための国内観測網に組み込まれている。

 シンチレーションの観測:衛星回線の通信障害と してクローズアップされてきた。ETS-U 136MHz 波を受けている。また,全電子数を求めるファラデ ー回転の同時観測も行っている。

 衛星関連実験:たった一つ電離層とは関係がない。 開始はBS,CS実験の幕明けにさかのぼる。かつて 経験しない,全く異質の分野であった。今日他の業 務と見事に共存を果している。20GHz波帯の伝搬デ ータ取得,コンピュータネットワーク実験を行う。

 職員数は6名。ずい分少なくなった。顔ぶれを紹 介しよう。満留は昨年から釣キチに急変した。2児 のパパになってはりきっている。國武は公私共に多 忙である。農園を開き,夜はバスケット,ロードレ ースにも遠征した。斎藤は一途にへラブナ。本物で ある。連休になると,釣場を求めて九州一円を車で 走りまわる。西牟田は南国男に似合わず大人的風格 がある。暑さにはめっぽう強い。岩元はいまは貴重 な生えぬき。紅一点というべきか。大山は最後のご 奉公にと目下山川の年史作りに精出している。

(大山 治男)


後列左より 満留、岩元、斎藤
前列左より 西牟田、大山、国武




外国出張報告


第1回コスバス・サーサット運営委員会
及び日米共同降雨観測実験に参加して


 本年7月14日から8月3日まで第1回コスバス・サー サット*運営委員会及び日米共同降雨観測実験に参加す るため米国に出張した。コスパス・サーサット運営委員 会は,10か国,2国際機関(INMARSAT,ICAO)より 81名の出席のもとにシアトル市において7月15日より19 日まで開催された。会議では,コスパス・サーサット406 MHzシステムが初期実用段階に入ったことが宣言される とともに,ビーコンの仕様,コーディング等についての 詳細が決定された。日米共同降雨観測実験では,7月22 日から8月1日までNASAワロープス飛行施設において 初期実験が実施された。当所,雨域散乱計1放射計シス テムのNASA航空機への据付け調整,機器の基本特性デ ータの取得及びテストフライトが行われ,ほぼ順調に機 器が動作していることが確認された。今後の降雨を対象 とした本実験での有意なデータの取得が期待される。
*コスパス・サーサット:捜索救難衛星システムの名称
コスパス及びサーサットは,それぞれ探索救難衛星システムのロシ ア語の頭文字COSPAS,英語の頭文字SARSATである。

(鹿島支所 第一宇宙通信研究室長 岡本 謙一)



ISAE'85に出席して


 昭和60年8月26日から28日の3日間,中国北京市の友 誼賓館で開催された1985年国際アンテナと電磁理論会議 (ISAE'85)に出席した。本会議は京都で開催された ISAP'85の直後に引き続いて開催され,米国の38名,日本の13 名をはじめ15か国から94名が参加し,中国全土から集ま った多数の研究者とともに,アンテナ,電磁界理論,電 波伝搬等に関する22のセッション(2つのポスターセッ ションを含む)がもたれた。筆者は,電波伝搬のセッシ ョンで80及び240GHzの大気乱流による振幅及び位相シ ンチレーションの測定結果について発表した。特に,位 相シンチレーションに関して,中国の電波天文研究者か ら熱心な質問を受けた。各セッションは,比較的小さな 部屋で,テーブルを囲んで中国茶を飲みながら親密な雰 囲気のもとで進められた。会議場内外での,中国の若手 研究者からの積極的な質問や討論が印象に残った。

(電波部 大気圏伝搬研究室 主任研究官 真鍋 武嗣)



国際地磁気学・超高層物理学連合
(IAGA)第5回総会に出席して


 1985年8月5日〜17日,IAGA(International Association of Geomagnetism and Aeronomy)の第5回総会 がチェコスロバキアの首都プラハで米ソ日英等48か国か ら約850名が参加して開催された。今回の総会では分科 会ごとのセッションと並行して,今年,最終年を迎える 中層大気国際協同観測計画(MAP,1982〜1985)の観測 成果を討議するため,「中層大気の遠隔測定技術及びダイ ナミックス」に関するシンポジウムが開かれ,各種レー ダ,ライダ,人工衛星,気球,航空機等による各種観測 データをもとに中層大気力学から太陽活動の中層大気へ の影響に至る諸問題に関する研究報告が行われた。私は 主にこのセッションに出席し,電波吸収の冬季異常に関 する講演を行った。このシンポジウムの討議を通じて, Ignosphere(無知圏)と呼ばれてきたこの未知の領域に 関する我々の理解が急速に進みつつあることを深く印象 づけられた。

(平磯支所長 石嶺 剛)



CISPRシドニー会議に出席して


 様々な機器・設備から発生する無線周波妨害波の許容 値及び測定法を国際的に取り決めるためのCISPR(国際 無線障害特別委員会)会議は,8月26日から9月6日に かけてオーストラリアのシドニー市で開催された。この 会議はほぼ毎年開かれるもので,日本からは電気通信技 術審議会CISPR委員会の蓑妻二三雄委員長を団長に総 勢11名の代表が参加した。各代表は主として担当の小委 員会,例えば筆者の場合は測定器及び測定法の検討を行 うA小委員会に出席し,熱心に審議に加わった。また, ほとんど毎日,各国代表と夕食を共にし,妨害波測定に 関する意見の交換を行った。今回の会議での最大の話題 は,コンピュータなどの情報技術装置からの妨害波を担 当するG小委員会が新設されたことである。なお,この 小委員会の幹事国を日本が引き受けることを希望してい たが,投票の結果,西ドイツに敗れてしまったのは,甚 だ残念なことであった。

(総合通信部 電磁環境研究室長 杉浦 行)





短 信


日本−ESA専門家会議


 標記の会議が,9月25日,26日に郵政省本省会議室で 開催された。当会議は,昨年11月に開催された第10回 日本−ESA(欧州宇宙機関)行政官会議(本ニュース, 1984年12月第105号参照)に基づいて開催されたもので, データ中継衛星及び航行衛星等について専門家の間での 情報交換と協同実験の可能性について検討した。  会議にはESA側からAshford氏とSandberg博士,日 本側からは,郵政省(当所からは中橋宇宙通信部長を含 む7名),運輸省及び宇宙開発事業団の関係者が出席 した。
 当所はETS-X/EMSS計画で航行衛星に,また, ETS-Y/CTDS計画でデータ中継衛星に関係してお り,外部機関との協力関係を重要視している当所として も興味ある会議であった。会議の結果,今後も情報の交 換を進めるとともに,協同実験の可能性について検討を 深めていくことが決まった。26日の午後には会議に出席 したESAの2名が当所のマルチビームアンテナ等関連 施設の見学を行った。



衛星利用パイロット計画実験成果 中間報告会の御案内


 郵政省が推進している衛星利用パイロット計画(CS -2利用)も3年度目に入り,実験グループが19となり, 参加機関も50を超えている。実験は主としてコンピュー タネットワークと新聞紙面伝送に関するものである。前 者は,最初64kbpsのネットワークから最近は各社とも広 帯域(1.5〜3Mbps)のTV会議やファイル転送等の実験 へと拡大発展し,それぞれの分野での利用技術の開発を 行っている。一方,後者の実験では,FEC(Forward Error Correction),ARQ(自動再送要求)の効果を確 認するとともに新聞用に開発したプロトコルの適用実験 や同報通信の簡易化,低廉化について検討を行っている。
 さて,当所ではパイロット計画による実験のこれまで の成果を広く周知し,今後のいろいろな社会活動の分野 における衛星利用の拡大に資するため,下記のとおりグ ループの代表による実験成果の中間報告会を催すことに なりました。一般にも公開される報告会ですので関係の 方々をはじめ,興味のある大勢の方々にぜひ参加して頂 き,貴重な御意見等を賜わり,今後のパイロット実験を より実のあるものにしたいと考えております。
 日時  :昭和60年12月5日(木)10時から17時
 場所  :電波研究所4号館大会議室
 問合せ先:宇宙通信部 乙津主任研究官
      電話 0423-21-1211  内線 452



基盤技術研究促進センター設立なる


 基盤技術研究円滑化法が去る5月17日,第102回国会 で成立し,これに基づく「基盤技術研究促進センター」 が約4か月の準備期間を経て10月1日に発足した。
 基盤技術研究促進センターは,民間活力を最大限に活 用して民間において行われる基盤技術の促進を図るため 郵政省,通産省が共同で推進していたものである。業務 の具体的内容は,民間が行う試験研究に必要な資金を供 給するための出資事業や融資事業を行うほか,国立試験 研究所と民間とが行う共同研究のあっせん,海外の研究 者の招へい,その他民間において行われる基盤技術に関 する試験研究を促進するために必要な業務を総合的に行 う。今後は当所と民間企業との問の「共同研究」実現の 道が開かれたことになり,民間機関を対象とした共同研 究等に対処すべく共同研究規程(公達),並びに共同研究 実施細則(所達)等の整備を待って実施できることとなる。



大内室長の死を悼む


 平磯支所太陽電波研究室長大内長七氏は去る9月24日 早朝,脳内出血のため急逝されました。亨年59歳でした。
 大内氏は昭和15年逓信省電気試験所平磯出張所に入所, 犬吠電波観測所長,平磯支所太陽電波研究室長等の要職 を歴任し,この間電波伝搬,電離層,電波予報・警報, 太陽電波からミリ波衛星通信技術に至る広い分野の研究 に従事し,数多くの業績を挙げられました。昭和47年に は永年勤続により郵政大臣から表彰され,また,昭和48 年にはロラン電波特殊観測装置を考案し,低域電離圏連 続観測法を開発して超高層物理学の発展に貢献した功績 により,所長表彰を受けられました。ECS計画では平 磯実験実施センターの総括主任として,平磯副局施設の 建設整備に努力され,ミリ波衛星通信技術開発に大きく 貢献され,さらにこの施設を用いてミリ波太陽電波の太 陽面分布測定に成功して太陽面じょう乱の研究に新局面 を開いたことは特に大きな業績といえます。大内氏の突 然の死は当所にとって誠に大きな損失であります。
 故人の御冥福をお祈りするとともに,御遺族の御健勝 と御発展を心から願うものであります。