テレビジョン同期放送を取り巻く環境


石川 嘉彦

  

はじめに
 テレビジョン放送の難視聴地域を解消するため, 中継放送局の置局が進められている。しかし,59年 度末現在NHK約42万世帯,民放約110万世帯と推 定される辺地難視聴世帯が依然として残されている。 これを解消するため更に5,000局程度の置局が必要 であるが,中継局用周波数の確保が次第に難しくな ってきている現状から,テレビジョン同期放送方式 の研究を58年度から進めている。同期放送方式の技 術的全体像については,本ニュースNo.80で紹介さ れているので,ここでは現在のテレビジョン放送の 中で占める同期放送の位置づけと,これまでに得ら れた主な研究成果について述べることにする。
  

使用周波数
 テレビジョン放送用周波数の割当ては,「テレビジ ョン放送用周波数の割当計画基本方針」に基づいて 以下のように行われている。
 各チャンネル(ch)の周波数帯は次の通りである。
◎ 1〜12ch:VHF帯90〜108,170〜222MHz
◎13〜62ch:UHF帯470〜770MHz
◎63〜80ch:SHF帯12.092〜12.200GHz
 13〜32chまでの周波数は33〜62chでの割当てが不 可能な場合,又は著しく不合理な場合に限って割当 てている。63〜80chまでの周波数は,高層建築物等 によるテレビジョン放送の受信障害の解消を目的と する放送局に割当てる。
  

放送局の種類
 ア.一次プラン局
 放送対象地域の中心的地域(県域を対象とする放 送の場合は県庁所在地)を放送区域とする放送局。
 イ.二次プラン局
 一次プラン局を補完するため,市及び主要町村並 びにそれらの周辺地域を放送区域とする放送局。
 ウ.微小電力放送局
 二次プラン局を補完するため,原則として3,000 世帯以下を対象とする放送区域に対し,他の放送局 の放送番組をそのまま中継する放送局。空中線電力 は,原則としてVHF帯3W以下,UHF帯10W以 下で,混信の除去のためオフセットキャリア,指向 性空中線,垂直偏波等を使用することがある。
 エ.極微小電力放送局
 原則として300世帯以下を対象として,電波伝搬 特性上閉鎖的で狭小な放送区域に対し,他の放送局 の放送番組をそのまま中継する放送局。空中線電力 はUHF帯0.1W以下で,混信除去のため指向性空 中線,垂直偏波等を使用することがある。
 このようにして割当てられた放送局は,59年度現 在全国でNHK6,906局,民放6,056局ある(表1に NHKの空中線電力別放送局数を示す)。同期放送は, 微小電力放送局(特にUHF帯)ヘの適用を主とし て考えている。

総合教育
VHF帯50kW〜10W216215431
3W〜mW級270270540
UHF帯10kW〜30W179168347
10W〜0.5W1,9851,9303,915
0.1W級8418321,673
3,4913,4156,906
表1 NHKの空中線電力別放送局数

 許容周波数偏差は1kHzであるが,他の放送局の 放送番組を周波数変換して放送する放送局に対して は,VHF帯で2kHz,UHF帯は3kHz,SHF帯は 10kHzまで許されている。
  

受信画質と混信妨害
 受信画質としては,表2の5段階評価における我 慢限を実用限界としているが,許容限以上の画質で あることが要求されている。

評価受信状況限界値
妨害が認められない←検知限

←許容限

←我慢限

妨害があるが、気にならない
妨害が気になるが、邪魔にならない
妨害がひどくて、邪魔になる
妨害のため受信不能
表2 画質の5段階評価

 同一チャンネルを使用する2つの放送信号による 混信妨害は,映像搬送波周波数の差によってテレビ 画面上に横縞が現れ,しかもこの横縞が上下に流れ て見ずらい画となる。オフセットキャリア方式では, この横縞を目立たないようにするため,相互の映像 搬送波周波数を特定の値(10kHz,精密オフセット では10.01kHz)だけずらすと共に,上下に流れない ようにする等の工夫をして妨害をできるだけ少なく している。なお,オフセットキャリア方式での許容 周波数偏差は,普通オフセット1kHz,精密オフセ ット2.5Hzである。所要D/Uを,表3に示す。

許容限検知限
オフセット無し4555
オフセット有り普通オフセット3242
精密オフセット2838
表3 同一チャンネル混信所要D/U(dB)

 同期放送方式での混信妨害は,同一放送番組の場 合ゴーストとなる。許容周波数偏差は0.05〜0.1Hz で,所要D/Uに関しては室内実験を現在進めている。
  

希望信号とゴースト信号の位相関係
 希望信号のほかにゴースト信号が受信されると, 両者の映像搬送波の位相関係によってテレビ画面上 のゴーストはいろいろな現れ方をする。写真で示す ように,例えば,位相が0度(同相)の場合は希望 信号と同じ画がゴーストとして現れ,また,位相差 が180度(逆相)では希望信号を白黒反転させたゴー ストとなる。この同相及び逆相の場合のゴーストが 一番目につきやすい。しかし,位相差が90度及び 270度の場合には,テレビジョン信号を残留側波帯変 調している影響でゴーストは目立たなくなる。


写真 ゴーストの表れ方 左上0度、左下90度、右上180度、右下270度

  

同期放送でのゴースト
 都市内で発生するゴーストは希望信号と建物等か らの反射信号の干渉によって生ずるのに対して,同 期放送で発生するゴーストは異なる中継局からの放 送信号の干渉によって生ずる。同期放送の場合,干 渉する2つの放送信号の映像搬送波周波数が異なる ことがあるが,この場合2つの放送信号の周波数差 によって正ゴースト→逆ゴースト→正ゴーストを繰 り返す。ゴーストの位相が動くと妨害を更に増加さ せることになるが,室内実験を行って妨害の許容限 (表2参照)で比較すると,周波数差0.1〜0.2Hz(ゴ ーストの位相が5〜10秒 毎に回転する)であれば, 位相が静止したゴースト と同程度の妨害であった。 従って同期放送での1局 当りの許容周波数偏差は, 0.05〜0.1Hzとなる。
 ゴーストの位相は,強 風によって送受信アンテ ナが揺れると変動する。 例えばアンテナが4p揺 れたとするとUHF帯62 chの放送波では位相が約 40度変動する。アンテナ の揺れの周期は東京タワ ーで0.3Hz程度であるが, 中継局で使用しているパ ンザマストで1Hz程度,家庭用受信アンテナで数Hz 程度であり,人間の目に感じやすい周波数なので, 位相変動の大きさによっては妨害を更に増加させる ことになる。なお,強風時の揺れの振幅は東京タワ ーで3p程度,パンザマストで3〜6p、,家庭用受 信アンテナで1〜9pである。また,伝搬路上の屈 折率が気象条件によってゆらぐことによってもゴー ストの位相変動が生ずる。室内実験を行って妨害の 許容限で比較すると,位相変動が10度(実効値)程 度であれば,位相が静止したゴーストと同程度の妨 害であった。
  

おわりに
 割当てを制限している13〜32chを使い,またオフ セットキャリア方式を使用しても,なお中継局用の 周波数が確保できない難視聴地域が残されており, テレビジョン同期放送方式の実用化が望まれている。 同期放送を実現するに必要な周波数同期技術(独立 同期方式:各中継局がルビジウム原子発振器を持ち, これで周波数を同期する方式,従属同期方式:親局 の映像搬送波又はカラー副搬送波周波数に同期する 方式)に関しては,実現の見通しが立ってきている が,いくつかの検討課題が残されている。独立同期 方式では,同期放送で目標としている許容周波数偏 差を維持するためには,半年から1年に1回周波数 の較正が必要である。しかし同期放送を導入しよう としている中継放送局は山の上などの交通の便の悪 いところにあり,周波数の較正をどのように行なう かが大きな課題である。
 また従属同期方式では,受信周波数に含まれてい る位相変動(特に強風時に生ずる位相変動)を軽減 させる技術が重要である。
 今後は,伝搬路で生ずる位相変動の特性(気象条 件や伝搬距離との関係)を明らかにすると共に,こ れらの実測データを使って画質評価実験を継続する( また,実際に同期放送方式による実験放送波を送出 して,野外実験を行なう計画である。
 なお,同期放送に関しては郵政省内に設置されて いる「テレビジョン同期放送に関する調査研究会」 (参加機関:NHK,民放,電子機械工業会,郵政省) で共同して検討を進めており,61年度中に基礎的デ ータの取得を終える予定である。そしてこの成果を 見ながら,電気通信技術審議会への諮問が図られる ことと思われる。

(総合通信部 放送技術研究室長)




コスパス・サーサットの動向


岡本謙一

 本年7月15日から19日まで,アメリカ・シアトル 市において開催された第1回コスパス・サーサット 運営委員会に参加する機会を得たので,会議の報告 を中心とし,コスパス・サーサットの動向を報告す る。本会議への参加者は,10か国,2国際機関(国 際民間航空機関:ICAO,国際海事衛星機構:INM ARSAT)から81名であった。内訳は,アメリカ32名, カナダ10名,フランス11名,ソビエト10名,ノルウ ェー6名,イギリス5名,スウェーデン1名,デン マーク1名,ブラジル1名,日本2名,ICAO1名, INMARSAT1名であった。我が国からは郵政省並 びに運輸省から各1名がオブザーバーとして参加し た。コスパス・サーサット捜索救難システムはパー トナーと呼ばれるアメりカ,カナダ,フランス及びソ ビエトの4か国により開発されたものであるが,同 パートナーは,昨年10月レニングラードに集まり,そ れまで行われてきたコスパス・サーサットプロジェ クトに関する一連のデモンストレーション及び初期 評価の結果,同システムの有用性を一様に評価し, 実用段階への移行を前提にした覚書を確認した。同 覚書中に,世界的な捜索救難システムの早期確立を めざしたコスパス・サーサット運営委員会の設立が 規定されており,その第1回目の会議が今回の運営 委員会となった。今回の会議は,既に500名もの人 命救助を行ってきたコスパス・サーサットシステム が実用段階に入ったことを宣言しうるかどうがを決 定し,将来も同システムを連続して運用するための 計画作成を行う重要な会議としてパートナーの間で は位置づけられていたようである。同覚書の有効期 限は,コスパス・サーサットグループが世界的な捜 索救難システムを確立するか,又は1990年12月31日 のどちらか早い方までである。

 コスパス・サーサット捜索救難システムの概要を 図に示す。遭難した船舶又は航空機のビーコンから 発射した121.5MHz又は406MHzの緊急遭難信号を 人工衛星(ソビエトのコスパス又はアメリカのノア 衛星)により受信し,ローカル・ユーザ・ターミナル と呼ばれる人工衛星地上局に伝送する。地上局では 遭難信号を処理し,そのドップラーシフトより遭難 場所を決定し,ミッション制御センターに伝送する。 ミッション制御センターでは,救難に最も適した救 難調整センターに遭難信号を伝送し,そのせンター からの指令により捜索救難活動が開始される。コス パス・サーサット地上局及び人工衛星の現状を表に 示す。現在の参加国は上記パートナー4か国及びイ ンベスティゲータと呼ばれる6か国である。このう ち,デンマークは今回の会議において覚書が確認さ れインベスティゲータのメンバーとなったものであ る。外にブラジルが近い将来メンバーとなることを 希望しており,現在覚書を準備中である。またヴェ ネズエラが参加の意志表明を行っている。ローカル ・ユーザ・ターミナルの局数を表中に示す。カナダは 現在の1局に加えて更に新しく3局の建設を計画中 であり,ソビエトは現在の3局に加えて新しく1局 をノボシビルスクに建設中である。現在運用中の人 工衛星はコスバス1〜3号及びノア8,9号であり, ノアG(10)号が1986年2月に打上げ予定である。ま た引続き将来にわたって,捜索救難ミッションを有 するコスバス,ノア衛星の打上げが予定されている。

 今回の会議では,コスパス・サーサット406MHz遭 難ビーコンの電気的特性,温度特性及び寿命に関す る仕様が合意されるとともに,船舶用,航空機用及 びテスト用ビーコンのコーディング(符号化)につい ても合意され,これらは,CCIR,IMO(国際海事 機構)にも提案されることになった。これらの合意 に基づき,コスパス・サーサット運営委員会は406 MHzが初期実用段階に入ったことを宣言するととも に,ビーコンの管理を厳密に行うためのルールが合 意された。1985年7月以降は406MHzビーコンは主 に遭難の場合に用いられることになったが,新しく 加入を希望する国のためにビーコンの評価試験を行 う道は残されている。このためにはコスパス・サー サットの仕様,コーディングの条件を満たしたビー コンを用いるプロポーザル(提案書)を提出し,コス パス・サーサットパートナーと協定を結ぶ必要があ る。今回の会議にはIMO代表は参加しなかったが, IMOは,将来の世界的な海事遭難安全システムに おける406MHzコスパス・サーサットシステムの利 用を検討しており,このための質問書をコスパス・ サーサット運営委員会に提出した。具体的には,1990 年以降のシステム使用料及び衛星打上げ費用のユー ザ負担について,並びに組織運営の仕方についてで あるが,今回の会議においてコスパス・サーサット 運営委員会は1990年以降も無償の運用を行って行く こと及びコスパス・サーサットグループは国際的な 組織を目指すという回答を行った。


図 コスパス・サーサット捜索救難システム


参加国地上局数人口衛星
(1)パートナー
アメリカ
カナダ
フランス
ソビエト


3
1(+3)
1
3(+1)

(1) コスパス
1号 運転中
2号 運転中
3号 運転中
4号 地上待機中
5号 生産開始
(2)インベスティゲータ
ノルウェー
イギリス
フィンランド
スウェーデン
ブルガリア
デンマーク


1
1

(2) ノア
8号 運転中
9号 運転中
G(10)号打上げ予定
H.I.J契約中
K.L.M調達中
表 コスパス・サーサットの現状

 今回の会議では新たに静止衛星GOESを用いた406 MHz帯捜索救難実験をアメリカ(NASA)が他のパー トナーに提案しているとの報告があった。GOESは, 1986年春期及び秋期に東西に各々打上げられるが各 パートナーは実験のための地上施設を整備中である。 このうちGOES-Westは西径135°に位置し,当所鹿島 支所からは可視範囲にないがソビエトのカムチャッカ半 島にある静止衛星受信施設を利用すれば仰角5°で受信 することができる。我が国がGOES実験への参加のた めには種々の方法が考えられるが,実験プロポーザル をNASAに提出し承認されることが必要である。

 今回の会議に出席し卒直に感じたのは,コスパス ・サーサット運営委員会はパートナー4か国の非常 に強い結束の下に自信を持って運営を行っていると いうことであった。一方,コスパス・サーサットが 捜索救難活動の責任を有する主管庁を含めた我が国 の加入を望んでいることも事実である。コスパス・ サーサットは既に初期実用段階に入っており,我が 国が今後参加するにしても,ローカル・ユーザ・タ ーミナルを有するユーザかあるいは単にビーコンの みを所有してシステムを利用するユーザかのいずれ かの形を取らざるを得ず,パートナーから大きく遅 れを取っていることは認めざるを得ない。いずれに しても,当所を含めた関連政府機関の間で十分議論 をつくし,我が国の参加について早急に態度を決定 する必要があろう。

(鹿島支所 第一宇宙通信研究室長)




WARC-ORB-85


小坂 克彦

  

WARC-ORB-85
 昭和60年8月8日がら9月16日までスイスのジュ ネーブ市で開かれたWARC-ORB-85(静止軌道を 使用する宇宙業務のための第1会期世界無線主管庁 会議)に参加した。なお、,会議は難航し3日間延長 されたが,筆者を含めた代表団の大多数は航空便の 都合もあり最後の2日間は出席していない。
 WARC-ORBはすべての国のために静止軌道と周 波数の公平な使用を目的としており,今回の第1会 期と昭和63年の第2会期に分かれている。第1会期 の主な目的は,@計画化すべき宇宙業務と周波数帯 の決定及び計画作成の原則,方法,並びに技術基準 の作成,A12GHz帯衛星放送業務のためのフィーダ リンク用周波数帯と技術基準 の決定,B第2地域の 衛星放送業務の計画を無線通信規則に統合すること であった。
  

審議の概要
 総会のもとには第1〜7の委員会及び会期間活動 と第2会期の仮議題を扱う特別委員会が設置され, このうち第6委員会の議長には日本の松下(NHK) 代表が選出された。実質的な審議は第4〜6の委員 会が行い,委員会には作業グループ(WG)やサブW Gが設置された。さらに特に難航した第5委員会の ためには,総会議長自らが議長となり,特別作業グ ループが設けられた。
 第4委員会は計画すべき業務と周波数帯の現状, 技術基準,共用基準,音声衛星放送を所掌しており, 当初は高精細度テレビジョン方式(HDTV)に関して も審議を行った。このうち音声衛星放送とHDTVに 関しては今後の作業を求める勧告が作成された。技 術基準と共用基準については一応の報告書がまとめ られた。しかし計画に必要な基準については,第5 委員会の結論が最後まで間に合わなかったため十分 な審議が行えたとは言えないであろう。
 第5委員会は主に計画化すべき宇宙業務と周波数 帯の決定及び計画作成の原則と基準の設定を所掌し ている。計画すべき業務としては固定衛星業務が了 解されたものの,当初から予想されていたとおり, できるだけ多くの周波数帯で固定的な計画手法を要 求する開発途上国とそれに反対する先進国が厳しく 対立した。そのため重要事項については第5委員会 では何も決定されず,3日間延長された会期の最後 の2日間の総会において6/4GHzと14/11〜12GHz 帯の一部に固定的計画手法を採用することなどが多 くの問題を残したまま一応決定された。
 第6委員会は,第1及び第3地域の衛星放送用フ ィーダリンク周波数(14,17GHz)と技術基準の決定 そして第2地域の衛星放送業務の計画を無線通信規 則に統合する作業を行った。いずれも松下議長のも とで完結し,本会議で最も完成度の高いものとなっ た。
  

雑感
 筆者は第4委員会の業務間共用問題を扱うWGの 議長として指名された。本問題については常識程度 しか知らない筆者にとっては予想もできなかったこ とであり,会期間で最も余裕のある(後になると週 末はつぶれる)最初の週末から夜遅くまで準備作業 に追われることとなった。議場での作業のほか会議 準備や進行のための雑務など初めて経験するもので あった。英語が途中で理解できなくなったり,政治 問題が出て困ったことなど今は懐かしい思い出で あり,良い経験をさせて頂いたと感謝している次第 である。

(宇宙通信部 移動体通信研究室長)




VLBIによる静止衛星の軌道決定


塩見 正

 電波研究所とジェット推進研究所(JPL)は昨年6 月に大陸間基線のVLBIにより,静止衛星の軌道 を高精度で測定する実験を実施した。筆者は実験デ ータの処理・解析を行うため,今年7月から2か月 間JPLに滞在した。

 データ解析の結果,電波研究所とJPLとでそれ ぞれ別個のプログラムを用いて行った軌道決定結果 が推定誤差の範囲内で一致した。また,観測誤差と 物理モデル誤差を考慮に入れて,24時間の軌道測定 の中央の時間帯では,約4m以内の誤差で衛星位置 が求められたことが確認された。これは従来の方法 にくらべて1桁以上の精度の向上であり,追跡・デ ータ中継衛星や,航法・測地衛星の精密軌道決定に VLBIが有効であることを示した。また,今回の 実験は,衛星の送信波が2GHz帯のみで,かつ狭帯 域という不利な条件で行われており,これらが改善 されるなら,約1mの位置精度の達成も可能である との見通しを得た。

 今回は2度目の滞在であったが,JPLではいろ いろな分野の科学者・技術者が豊富で,彼らは忙し く仕事をしているものの,我々にくらべると大分恵 まれているとの感を改めて受けた。各研究者が1台 以上の計算機端末を持つのもまれではなく,ソフト ウェアの開発や利用は非常に便利である。

 前回は家族連れであり,初めての経験であったの で,全般に慎重になった。今回は,単身でもあり, 「トラブルを恐れるな」を心に銘記して事にあたるこ とにした。夏期の出張だったので,カリフォルニア 工科大学のガラガラの大学院寮に宿泊した。1泊10 ドルと割安なのも魅力であったが,院生及びアメリ カ内外から短期の出張で滞在している研究者や留学 生との触れ合いは興味深いものがあった。

 いくつかの知人宅を訪問する機会もあったが,そ のうちの多くは裏庭でバーベキューをやったり,軽 い食事をしたりできるようなテーブルなどを備えて いた。めったに雨が降らず,しかも年中暖かい所な ので人々は戸外で食事をしたり,楽しんだりするス タイルを身につけている。家族がふえたり,子供が 成長したりするのに合わせて,適当な家を探して引 越すことも日本に比べればかなり頻繁に行われてい ると思った。ある家の留守番を頼まれたこともあり, ペットの世話や,芝生の水やりなど,いわゆる中流 家庭の家事を一通りやってみるという経験もした。 治安の面では,やはり日本とは全く違った感覚にな る。隣近所の環境が“dangerous(危険)”になってき たからといって引越しをした友人も(母子2人だっ たせいもあるが)いた。

 真夏のパサデナ(JPLのある町)は,摂氏42度ほ どになる日もあったが,健康を害することもなく,有 意義な出張となり,関係各位に感謝する次第である。

(鹿島支所 第三宇宙通信研究室長)


知人宅にて




外国出張報告


韓国標準研究所訪問


 昭和60年9月12日から1週間,科学技術庁の二国間協 力に伴う専門家派遣により,韓国標準研究所(KSRI, ソウルより列車で2時間の大田市の郊外にある)を訪問 する機会を得た。目的はBS及びGMSによる日韓間精 密時刻比較と韓国標準電波送信に関する技術協力である。
 KSRIは1975年に設立された研究財団で,職員数約 250名の韓国度量衡標準の責任機関である。2研究部で時 間,長さ,質量等国際基本単位と,その他誘導単位の標 準の研究を行っている。このほか内外機関の標準器,計 測器類の較正業務を行っており,昨年11月から昼間だけ であるが,標準電波HLA,5MHzの送信を開始している。
 時刻比較では我が国での衛星比較実験の中間成果を紹 介した。KSRIではBSを1.2mφアンテナで受信し,画質 は良くないが,RRL間で日本国内と同等の20nsの時刻 比較精度が得られていた。また,GMS受信機製作につ いては,今後も引き続きRRLが密接に協力してゆくこ ととした。

(標準測定部 周波数標準課長 小林 三郎)



日加共同の科学衛星観測計画の協議


 RRLニュース60年8月号に紹介されているように, オーロラの元になる荷電粒子の加速のなぞを解き明かす ために,第12号科学衛星EXOS-Dに日加共同でイオ ン組成観測装置(SMS)を搭載する計画が進められてい る。このたび,科学技術庁の“二国間協力に伴う専門家 派遣”により9月24日から10月8日の問,オタワ市にあ る国立研究会議(NRC)所属へルツベルグ天体物理学研究 所を訪問し,上記計画推進のための協議を行った。協会議 内容は 1.衛星開発状況,2.SMSの開発状況,3. データ処理計画,4.カナダ地上局の問題,などである。 どの問題をとっても,検討が進行中でこれで決まりとい うものはないが,現状について共通の認識を深めること ができ双方にとって有益なものであったと思う。特に4 のカナダでの衛星電波受信の問題は,日本のEXOS-D 研究グループ全体が大きな期待を寄せている点で,これ を契機に連携が早く始まれば幸いである。

(電波応用部 宇宙環境計測研究室長 巖本 巖)





短 信




蛭田 饒氏叙勲


 元第四特別研究室長蛭田饒氏には,11月3日の「文化 の日」にあたり,多年にわたって高精度水晶振動子の研 究開発並びに周波数標準用水晶時計の基礎を確立した功 績により,勲四等瑞宝章受賞の栄に浴され,11月7日郵 政省講堂において大臣の出席のもとに勲章伝達式が行わ れた。
 同氏は昭和15年3月京都帝国大学理学部地球物理学科 卒業,同年4月海軍艦政本部,25年1月電波庁電波部に 入庁して以来50年6月に退官されるまで,一貫して水晶 振動子の改善による発振周波数の高安定化に関する研究 に従事され,標準電波の確度と安定度の向上に対し極め て顕著な功績があげられた。退官後も金石舎常務取締役 開発部長として広い見識と深い経験をもとに無線通信機 用水晶発振器と時計用水晶振動子の高安定化と普及に尽 力された。この度の叙勲は御本人,御家族の栄誉である ばかりでなく,当研究所にとっても非常に喜ばしい限り であり,心からお祝い中し上げると共に益々の御発展を お祈り申し上げる次第である。




第27次南極観測隊出発


 昭和60年11月14日牛前11時,第27次南極地域観測隊50 名を乗せた観測船「しらせ」は東京・晴海埠頭を出航し た。今次隊では「あすか」観測拠点(セールロンダーネ :昭和基地より南西680q)の本格的越冬観測を目的と した増設と,25次隊で焼失した作業棟の建設が計画され ている。第27次越冬隊には当所から電離層定常観測に鈴 木晃隊員,超高層研究観測に菊池崇隊員。また,雪氷観 測グループとして海氷厚リモートセンシング機器の開発 を行う浦塚清峰隊員の3名が参加している。今回の研究 観測の目玉としてはFM/CW方式の電離層観測機と海 氷厚を計測するステップ周波数レーダで,特に近年昭和 基地でも電離層観測機が通信や観測機器に与える妨害波 の問題がクローズアップされているだけに,今回試作し たFM/CW方式の観測機が注目されている。また,船 上観測は昨年同様オメガ伝搬測定とVHF異常伝搬測定 を実施する計画である。


この機会を大切にしたい

電波部 鈴木 晃

 電離棟での私の仕事は,主に国内と同様9Bによる電 離層垂直打ち上げ観測,オーロラレーダによる電波オー ロラの観測,リオメータによる電波雑音吸収測定,JJY を受信しての短波電界強度測定などです。機器の機嫌を 損ねると2〜3人分の仕事量となるため,不安ですが, 伝統的な24時間体制で頑張る覚悟です。
 その他,今回はFM/CW方式の新しい電離層観測機 の据え付け調整の仕事,来年4月には宙空部門の一員と してハレー彗星の撮影も控えております。この機会にし かできない仕事でもあり,張り切っております。



超高層研究観測

電波部 菊池 崇

 第27次越冬隊の超高層研究観測では従来から行われて いる観測のほかに,新しくFM/CW方式の電離層観測 機による実験的観測や,76年ぶりに地球に接近するハレ ーすい星の観測,そして北極と南極での地上と衛星から のオーロラの総合観測を行う。FM/CW電離層観測機 は低電力で,イオノグラムのほかに固定周波数の反射高 度の連続測定,電波吸収の測定を行う。本機は将来の多 機能省電力型電離層観測機の予備実験機でもある。南極 は電波を用いる地球環境モニターの実験場としては大変 良い場所であり,従来型の観測機器の改良と他の観測と の有機的結合でまだまだ多くの成果が得られるものと期 待している。



雪氷部門隊員としての南極出発

電波応用部 浦塚 清峰

 今回,私は電波研としては初めて雪氷部門で南極観測 に参加します。極地での主な任務は,南極観測船「しら せ」の氷海での航海を円滑にするための海氷レーダの開 発実験,及び雪氷部門の一隊員として4か月にわたる南 極内陸への調査旅行に参加しての大陸氷の測定です。海 氷レーダについては,鹿島支所で開発中のステップ周波 数レーダを海氷上に置いて数々の実験を行う予定です。 また,大陸氷は,航空機に179MHzのアイスレーダを搭 載して広域の氷厚測定を行います。電波研としては異色 のテーマですが,一生懸命がんばりたいと思います。




文 化 展


 年間レクリェーションの最後の行事として,11月6日, 7日の2日間講堂において文化展が開催された。
 今年も昨年と同様,研究発表会に時期を合わせ研究発 表会に出席した支所,観測所の職員及び外部の参加者に 観覧できるように行った。今年の観覧者数は,200名余 で昨年を大幅に上回り,会期中は多数の観覧者でにぎわ っていた。出展作品は,絵画15点,写真38点,書7点, 生花10点,その他16点の合計86点であり,そのうち家族 の作品は絵画2点,その他12点,計14点と全体の2割近 い比率であった。どの出展作品もそれぞれ力作ぞろいで, 観覧者に大変好評であった。



電波研究所親睦会の総会開催される


 第14回電波研究所親睦会並びに懇親会が昭和60年10月 26日(土)午後3時から電波研究所で開催された。当日は曇 り空でやや肌寒い日にもかかわらず,OB110名(うち女 性6名),現職員41名(うち女性1名)と,これまでにな い多くの方々の参加で盛会となった。
 総会は島田幹事の司会で始まり,上田副会長の開会の ことば,若井会長から本年4月に行われた電波研究所の 組織改正の概要,国際共同研究の展開並びに先空の叙勲 及び職員の表彰など,この1年間の動向についての話と 新任幹事の指名紹介が行われた。つづいて藤木東京電波 友の会会長からお祝いのことばがあった後,今井代表幹 事から会員の異動等経過報告が行われ,総会は終了した。
 その後,通信・放送衛星機構制作の映画「ニューメデ ィア時代ヘ」(約30分)を観賞,4号館前で全員の記念写 真撮影後に会場を講堂に移し懇親会に入った。
 懇親会は,高野幹事の司会で進められ,上田元所長の 乾杯の音頭で気分を盛り上げて始まった。会場には盛り 沢山な数々の料理が並び,焼とりとおでんのにおいが一 ぱいに漂うなか,互いに旧交を暖め合い,おいしい科理 に舌鼓を打ちながら,のどの潤いとともに話がはずむう ち,6時30分河野元所長の乾杯の音頭で再会を約して散 会した。
 さらに名残りを惜しむOBの多くは,別室に設けられ た二次会場で夜おそくまで昔話に花を咲かせた。