新年のごあいさつ


所長 若井 登

 明けましておめでとうございます。昭和61年の年 頭にあたり,一言ご挨拶申し上げます。

 当所は今年度早々,18年ぶりの大幅な機構改正を 行い,研究室の模様替えや引越しなど,付随する問 題も片付いて,年度の後半から新しい体制での研究 活動が軌道に乗ってきたところです。今回の改正は, 日本の電気通信界の変革と連動する,いわば未来対 応型の,また自発的な性格のものでしたが,たまた まこれと軌を一にして,昨年秋に総務庁は,行革審 (臨時行政改革推進審議会)の答申に基づき,科学 技術関係の国立試験研究機関に対し3年(昭和61〜 63年度)以内に業務の総合的見直しを行うことを求 めてきました。側聞するところによると,他省庁の 研究所の中には,すでに統廃合の話が具体的に出 ているところもあるとのこと,予想された事とはい え,事態は急といわなければなりません。とはいっ ても当所としては,独自に進めてきた機構改正を完 成することが先決です。そのためには昨年来鋭意検 討を重ねてきた総務部門業務検討委員会による結論 を参考にして,総務部関連業務(地方電波観測所の 庶務係を含む)の見直しを行うとともに,今回の改 正に含まれなかった,支所・観測所の組織と業務の 見直しなどを,積極的に進めてゆくことが大切だと 考えています。

 さて,暮の28日に決まった当所の昭和61年度予算 並びに関連事項は次のとおりです。予定総額は41億 3千万円で,対前年比98%,定員はEMSS関連の 1名増が認められましたが,定員削減計画による7 名減を含めると,総勢430名で研究を行うことにな ります。また残念ながら複合システム研究室の増設 は認められなかったので,組織上の増減はありませ ん。全体的には暗い見通しですが,明るい材料もあ ります。それは衛星通信技術の研究開発という項目 でのCTDS(高度通信技術実証衛星)計画,周波 数資源の開発の項目での準マイクロ波帯における陸 上通信の伝搬に関する研究及び太陽電波観測施設整 備(平磯)の新規項目が認められたことです。特に CTDS計画は,EMSS計画につづき,当所の宇 宙通信研究の柱となるものだけに大きな期待が寄せ られます。さらに従来の計画を変更し延長したとい う意味では実質的に新規の,40GHz以上の電波伝搬 の研究(周波数資源の開発の項目中)も認められま した。しかし新規要求項目の中でただ一つ,微小エ リヤ内統合移動データ通信システムの研究開発だけ は,複合システム研究室増設との関連から,残念な がら認められませんでした。この外,文部省からの 南極観測事業費及び環境庁からの国立機関公害防止 等試験研究費が合計1億円弱移し替えられることに なっています。さらに科学技術庁から,科学技術振 興調整費として,従来の各省庁にまたがる研究課題 経費(金額未定)に加えて,昭和60年度から発足し た重点基礎研究課題に対する経費が,昭和61年度は 倍増(研究者1人あたり14万円,合計3千6百万円) 配算される予定になっています。

 このように,昭和61年度も,相変わらず厳しい情 勢には変わりないので,より一層の経費の効率的運 用を図らなければなりません。

 前述の行革審の答申に基づく見直しの外に,昭和 61年は,国立試験研究機関にとって,研究交流促進 法(仮称)の制定という新しい事態の展開が予想さ れます。これは産学官及び外国との研究交流を促進 するために,科学技術庁が3月の上程を目指して準 備している法案ですが,当然当所へのインパクトも 生じてくるでしょう。しかしすでに外部との研究交 流について,積極的姿勢で臨み,また成果も挙げて きている当所としては,この法律の制定によって特 段に新しい問題が発生するわけではなく,むしろ国 際的に開かれた研究所として,研究交流がよりやり 易くなると認識していますし,また,もちろんその ような性格の法律であって欲しいと期待していると ころです。

 その外電気通信関係では,日米経済摩擦など国際 的情勢の展開を背景に,当所としては,持てるポテ ンシャルを電気通信技術審議会などに寄与していか なければなりませんし,無線機器検定制度の国際化 への脱皮に際しては,本省及び無線設備検査検定協 会との連携,並びにそれらへの技術的支援を益々深 めてゆかなければなりません。また本格的に活動を 開始するであろう基盤技術研究促進センターを通じ ての産業界との研究交流も推進していがなければな らないと考えています。

 昭和61年度の研究計画全体については,本ニュー スの4月号で紹介することとして,ここでは4月早 々から実施に移される電離層関連業務の新しい形態 について申し上げます。

 その一つは電波予報です。当所が昭和22年2月以 来発行している月刊電波予報は,日本を中心として 世界各地と短波で通信を行う場合,使用できる周波 数の上限と下限とを,時刻の関数として図示したも のです。電波予報は日本はもちろん,世界中の電離 層観測所で得られたデータを利用して作成するもの ですが,現在までにすでに太陽活動の3周期以上に わたるデータの蓄積を得たので,これをもとに電波 予報の総合版を1冊の本としてまとめ,利用者の便 宣を図ろうというのが,4月に行う業務改善の趣旨 です。もう一つの電波警報も30年余の歴史をもつ業 務ですが,電話又は葉書により特定の利用者にだけ 通知するという従来の方式をやめて,電波警報情報 (電波の伝わり方だけでなく,太陽・地磁気等多様 な情報を含む)を欲しい人は誰でも,電話代だけで それを入手できる方式に改めることです。

 電波予報・警報業務は電波研究所における電離層 研究を支える中心的な名目であるだけに,これらの サービス形態の変化は当所にとって非常に大きな意 味をもちます。もちろんそのねらいは,電波伝搬情 報をもっと分かり易い身近なものとして,より広く 国民に利用して頂きたいという点にあるのです。

 さて,研究は広い視野に立ち,外に向かってゆく ことが肝要ですが,また人の交流を促進することも 大切です。現在電波研の外に出て頑張っている職員 は28人にも及び,その内訳は,国内機関に20人(本 省:2,NASDA:3,極地研:5(第26,27次 南極地域観測隊員),通信・放送衛星機構:8,基 盤技術研究促進センター:1,科技庁:1),外国に 8人(アメリカ:3,カナダ:1,欧州(CCIR を含む):4)となっています。これらの人達は, 研究にとってかけがえのない戦力ですが,当所のも てるポテンシャルを外に移植したり,当所ではでき ない研究や経験をする目的をもって,一時的に出向 または留学をしてもらっている訳で,期待するとこ ろ極めて大なるものがあります。

 昭和61年度は,当所を取巻く情勢が今までになく 複雑かつ多様になると思われます。私どもとしては, 研究費・人員共に大きな制約を受けてはいますが, 本年も最大限の努力を尽くす所存ですので,なお、一 層の御支援御鞭撻をお願い申し上げます。




官民共同研究制度の発足


企画調査部

 21世紀を前にして産業と社会の新たな発展のため に,科学技術に対する期待がかつてない程高まって いる。特に,これまでの我が国の科学技術が主とし て欧米先進国に対するキャッチアップ型であったこ とと最近における国際環境の変化から,今後は「創 造的な基礎的研究を重視した研究開発体制へ転換す ることが重要であり」そのためにも「産学官の研究 組織を超えた共同の研究開発を促進する必要がある」 と強調されている。
 こうした状況を勘案してこの度「郵政省電波研究 所共同研究規程(公達第4号)」を整備し,当所と民 間企業等国以外の機関との共同研究を積極的に推進 することとした。
 以下,主に民間における共同研究の現状と今回整 備した共同研究規程の概要について紹介する。
  

1. 民間における産学官連携の現状
(1) 民間における連携の実施状況
 プロジェクトの推進の面で他の機関との連携によ り研究開発を実施する形態には,@委託研究制度, A共同研究開発制度,B研究補助金制度等があるが, さらに,技術指導・知識交換による連携,研究員の 交流・研究施設の利用による連携がある。
 科学技術庁は,昭和58年11月に「独創的自主技術 のための産学官の連携に関する調査研究」を取りま とめた。調査には,民間企業534社及び産学官の研 究者1,421名が同答している。この調査によると民 間企業における過去5年間の形態別の産学官連携の 実施状況は,図1のようになっている。「資金分担 を前提とした共同研究」で民間企業同上のものが半 数を占める等,全体として民間企業は大学や他の民 間企業との結びつきが強いことが分かる。


図1 民間における過去5年間の連携の実施状況

 また,総務庁統計局の「昭和59年度科学技術研究 調査報告」によれば,民間企業が国(地方公共団体 も含む)から委託研究,研究補助金等によって受け 入れている研究資金は約587億円にのぼっており, 民間から国内の大学及び海外の研究機関へ流れてい る研究資金は,それぞれ約219億円と218億円に達 しているもようである。一方,国立試験研究機関全 体が受託する研究開発資金は約1.3億円に過ぎず, 官民の連携を効果的に行うためには,制度面を含め た改善が必要となっている。

(2) 民間から見た連携上の問題点
 前述した科学技術庁の調査によれば,民間企業は 連携上の問題点を次のように指摘している(但し, それぞれに対して「本質的に問題はない」との回答 も多い)。
 ・連携のための企画・調整・マネジメントを行う システム等が不十分。適当な連携の相手先を見 つけ出すことが困難。
 ・国と民間の予算制度が異なり,長期的計画が立 てにくい。特に国の単年度主義は,連携を大い に困難にしている。
 ・自己資金が不足し,積極的な連携が行えない。
 ・共同利用できる最新,高度な研究施設が少ない。
 ・国の施設を弾力的に使用しにくい。
 ・国が関与する委託・受託研究の成果の取扱いに ついて民間側の立場に対する配慮が不十分。
 ・共同研究成果の秘密保持が守りにくい。
  

2 共同研究規程の概要
 電波研究所は,これまでも大学,他の国立試験研 究機関,宇宙開発事業団,米国航空宇宙局等との共 同研究や研究協力を積極的に進めてきたが,基盤技 術研究円滑化法の施行や臨時行政改革推進審議会答 申等に見られるように,先導的・基礎的研究分野に おける産学官の連携強化が一層重要になっている。 このため従来の共同研究の枠を広げ,前述のような 民間企業等の要望も考慮して「郵政省電波研究所共 同研究規程」を整備し,61年1月18日から施行した。
(1) 規程整備の目的
 この規程は,電波研究所が国以外の機関(民間, 法人等)と共同して研究開発を行うものを対象とし ており,最新・高度な研究施設の提供を含め双方の 研究ポテンシャルを効果的に活用,相補うことによ り,電気通信と電磁波利用技術分野の研究開発を相 乗的に発展させ,関連科学技術の学問的進歩に大き く貢献することを目的としている。
 また,大学を含む国の研究機関や外国の政府機関 等との共同研究及び二国間科学技術協力協定に基づ く共同研究は,その形態が多様であり個々のケース に応じて柔軟に対処することが必要であることから, この規程を適用しないこととした。
(2) 共同研究の実施手順
 この規程に基づいて実施する共同研究には
 @円滑化法が対象としている「基盤技術」に係る 研究開発であって,基盤技術研究促進センター の斡旋による電波研究所と民間との共同研究
 Aセンターが関与せず双方が相手方に中入れ,合 意して行う研究開発であって,法人や地方公共 団体との共同研究及び「基盤技術」を対象とし ない民間との共同研究
があり,それぞれ図2及び図3に示す手順によって 実施される。


図2 センターの斡旋による共同研究の手順


図3 相手方と直接調整して実施する共同研究の手順

(3) 規程の概要
 <共同研究契約の締結>
 電波研究所長は,相手方と次の事項を記載した契 約書を締結する。
 ・共同研究の課題,目的及び内容
 ・共同研究の実施場所,実施期間
 ・共同研究の管理及び分担並びに費用及び固定資 産の分担
 ・共同研究に参加する主な研究員
 ・特許出願,特許権の実施及び特許権の実施料等
 ・技術知識の提供及び研究成果の公表
 ・その他共同研究を行うために必要な事項
また,双方の研究施設及び試験研究用機械器具等の 使用,持込みについても円滑に行い,効果的に共同 研究を推進できるようにしている。

 <特許出願>
@双方の研究者が共同で発明した特許権は,持分 を定めて共同出願する。
A双方の研究者が独自に発明した特許権は,あら かじめ相手方の同意を得て出願する。
 <特許権の優先実施等>
@国が承継した特許権は,共同研究終了の日から 5年を超えない範囲内で,相手方または相手方 の指定する者が優先的に実施できる。
A共有の特許権は,共同研究終了の日から5年を 超えない範囲内で,相手方の指定する者が優先 的に実施できる。
B国が承継した特許権の実施を許諾したときは, 別に実施契約で定める実施料(共有の特許権の 場合は,国の持分に応じた額)を徴収する。

 <成果の公表>
@共同研究の実施期間中に成果を第三者に公表す るときは,あらかじめ双方の同意を得る。
A共同研究の終了後は,成果を公表することを原 則とする。但し,相手方から業務上支障がある として成果を公表しないよう中入れがあった場 合,成果の一部または全部を一定期間公表しな いことができる。

 昨年12月に政府は,「科学技術政策大綱」を決定し, 向う5年間の科学技術の基本方策を示した。併せて 次期通常国会に向けて「研究交流促進法案」の準備 を進めているが,その場合官民の共同研究も様々な 形態が生まれ緊密かつ柔軟な推進が可能となる。
 また,この規程に基づく共同研究が,本年度内に 数件契約締結をめざして調整が進展している。関連 科学技術分野の一層の発展に寄与するものとして, 注目されている。

(企画調査部 通信技術調査室長 内田 国昭)




外国出張報告


アジア太平洋,気通信共同体への技術協力


 国際協力事業団(JICA)から,バンコク市にあるア ジア太平洋電気通信共同体(APT)に対する技術協力の 委嘱をうけ,昭和60年9月24日から10月23日までの1か 月間,国際協力の仕事に従事した。
 APTで与えられた任務は,タイ国運輸通信省の郵便 電信局(PTD)において,電離層及び短波伝搬の基礎理 論,電離層観測方法及び観測データの無線通信への利用 方法について講義をし,電離層観測センター設置の際の システム構成について勧告をすることであった。
 専門家派遣の背景には,先進国としての我が国が,開 発途上国の経済社会の発展に貢献しようとする基本姿勢 があり,今回の派遣は,タイ国の電離層観測装置が老朽 化し,業務停止のやむなきに至っている現状を,なんと か救済したいという関係機関の対応策の一つであったと も思われる。無事任務を終え,ささやかではあるが国際 親善に役立てたものと考えている。

(情報管理部 電波観測管理室長 栗城 功)



日中共同VLBI予備実験の実施


 昭和60年9月1日から9月21日まで中国科学院上海天 文台に出張し,日中共同VLBI予備実験を実施した。 これは55年に締結された日中科学技術協力協定のもとに 第2同日中科学技術協力委員会(58年10月)で合意された 日中共同実験の最初のものである。共同実験は地殻プレ ート運動や地球回転の測定,精密な時刻比較等を目的と している。特に興味深いのは,鹿島を含む東北日本がユ ーラシア,太平洋,北米の三つの巨大プレートに挟まれ た小プレートをなすというマイクロプレート仮説の妥当 性をこの実験で検証することである。北米及び太平洋プ レートに対する鹿島の動きは,日米共同実験によって明 らかにされつつあり,ユーラシアプレート上にある上海 間の距離測定も並行して進めれば,日本列島周辺の地殻 構造を解明できることになる。予備実験の結果,基線長 を高精度で決定することに成功し,電波源の構造や時刻 同期及びK-3システムの初めての国外搬出などに関し て貴重なデータが得られた。また,上海天文台の多くの 研究者と実験を共にすることで彼等の日常生活や,中国 のVLBIにかける意気込みなどの一端にふれることが でき貴重な体験となった。今回の実験に際し御尽力いた だいた関係各位に深く感謝いたします。

(鹿島支所第三宇宙通信研究室 主任研究官 川口 則幸)
(同上郵政技官 雨谷 純)






最北の地 稚内のお正月


稚内電波観測所

 新年あけましておめでとうございます。はるか北 の街,稚内から新年のご挨拶を申し上げます。

 ここ稚内は風景こそ日本離れしていますが,日本 各地からの移住者が100年足らずの間に作り上げた 街です。各地の風習を足して平均すると稚内になる のではないかと思えるほどです。それではその生い 立ちや風土,正月についてご紹介します。

  

稚内の歴史と風土
 稚内市は,昭和53年に開基100年を迎えたばかり で内地では考えられないほど若い都市です。しかし, 市内のあちこちには,石器や土器の出る遺跡も多く, 江戸時代の貞享2年(1685年)には松前藩が宗谷の地 (宗谷岬の近く)に知行地を開設し,その後明治まで の約200年間にわたり武士や商人など多くの人々が 移り住み,ロシアに対する警備やアイヌの人々との 交易を行っていますのでかなり古い歴史があるとい えます。しかし,明治以前からの永住者やその子孫 は全く見当らず,明治時代から戦後に至るまでの入 植やヤン衆(ニシン漁民をこう呼ぶ)たちの移住に よって今日の発展をみたものです。

 明治12年の宗谷郡の人口は,52戸(和人7戸41 人,土人45戸228人)とあり,この年に明治政府に よって宗谷に戸長役場,郡役所が設置され,これが 稚内の基となりました。しかし宗谷は,海が遠浅の ため大型船舶が利用できず,その後現在の稚内に港 が建設されるとともに各役所の施設が移されました。 また,宗谷アイヌの人々は,江戸時代から何度も流 行した天然痘でほとんど絶え,地名にだけその名残 りがあります。

 稚内市は,日本の最北端に位置し,宗谷岬を境に 東側にオホーツク海,西に日本海,利尻・礼文の島, 北に宗谷海峡を隔て遠くカラフトの島影が望めます。 市の広さは約770q^2で東京都の1/3強あります。郊 外には熊の住む山もあり,北狐は観測所の近くでも 見かけることがあるくらい自然が豊富です。ここに 約52,000の人が住んでいますが,市街をはずれると 隣の市の名寄までの約150q(東京〜清水間とほぼ 同じ)の間ほとんど無人の牧草地が続いています。 稲作も稚内までは北土できず名寄の少し北からは田 園は見られなくなり,リンゴやサクランボ等の果物 も夏が涼しすぎるためか(25℃を超える日は何日も ない)できません。

 稚内の平均気温は年間で6.3℃,8月は18.9℃, 冬の1月は-5.7℃で最低気温は-20℃ぐらいです。 しかし冬は10m以上の風の吹く日が3日に1度はあ り,日中も気温はほとんど上がらず,かえって下が る日もあります。油断して酔って凍死する人や寒い 日には犬でさえ凍死することがあります。また,山 も日本各地の険しいV字谷のある山と違ってなだら かな丘陵が続き,所々に見えるサイロや白樺林と相 まってどこか日本離れした風景を作っています。

 昔稚内は,うっそうとした森林地帯だったそうで すが開発と数度の火災で消えてしまい,今では荒涼 とした笹原がどこまでも広がり音の姿は想像するこ とさえできません。音は林業も盛んであったそうで すが,今では漁業と酪農が主になっています。特に 漁業は釧路に次いで北海道第2位の水揚げがありま す。獲れる魚は,鮭,鱈,ニシン,ホタテ貝等東京 地方でも馴染みのものからカジカ,ソイ,ウニ,毛 ガニ,タラバガニ,甘エビ,北寄(ホッキ)貝等々数 えきれないほど多く,すぐ前の海で獲れた新鮮なも のが手(口)に入ります。

 酪農も盛んで,稚内で約15,000頭,稚内を除く宗 谷管内では人口と同じくらいの約5万頭の乳牛が飼 われています。最近は肉牛の飼育も盛んで天北牛と して知られています。
  

冬の準備
 秋が深まってくると秋あじ(鮭)が獲れだし,そろ そろ各家庭では越冬の準備が始まります。今でも一 冬分の食糧や燃料等を買い込む習慣があるようです。 10月半ばになるとまず漬け物が作られます。身欠き ニシン,干し鱈,ホッケ,昆布等様々な海の幸とコ ウジで大根や白菜などの野菜を大きなタルにいくつ も漬けます。寒い土地ならではのそれは味のあるう まい漬物ができます。11月も半ばになると正月用の 飯鮨を仕込みます。外は根雪になりどんどん雪が積 っていきます。正月近くになると積雪は数十pにも なり道路の端では除雪の影響で1m以上の雪の山が できてきます。スキー場開きや小学校の校庭がスケ ート場になるのもこの頃で照明の設備もあり夜の9 時頃まで滑れます。

 12月も末になると観測所の近くの街でもあちこち に歳の市の露店ができ,雪の上に何軒かずつ建ち足 踏みをしながら正月飾りの材料を売っています。こ れが市の中央では数十軒のきを並ベ,お祭りのよう です。売っている物は東京地方とあまり変わらず, なぜかまゆ玉飾りもあります。また,門松用の松は 北海道産のトド松(?)で,一見したところモミの木 に似ていて北海道らしさと時節がらクリスマスを感 じてしまいます。
  

正月と行事
 大晦日の夜は観測所の近くにはお寺が無いので除 夜の鐘は聞けずヒューヒュー鳴く風の音で年越そ ばを食べます。最近は大晦日の夕方から2日の昼ま で市内のバスは全部休み,タクシーも元日には走り ませんので初詣も神社の近くの人しか行かないよう です。

 元日の朝は男が一番に起きて近頃は水道から若水 を汲み雑煮を作りますが,ほぼ東京の雑煮と同じで す。そして内地のようなお屠蘇の習慣はなく,神棚 に上げたお神酒を家族で一口ずつ飲み雑煮とお節料 理をいただきます。お節料理も重箱にきれいに詰め るようなことはせず,来客の度に皿に盛って出しま す。北海道産の豆や鮭,ウニ,昆布などの海の幸を 使った料理は良い材料が手に入るので種類も多くお いしいものがたくさんあります。変わったものでは 紅白のお刺身(鮭のルイベと真鱈の昆布じめが正式 でバリエーションは様々)とか飯鮨があります。

 100歳余の稚内には古くから伝わる行事はありませ んが,今人気の行事は,南極ゆかりのタロやジロが 引く犬ぞりの年賀郵便の配達です。なかなかの人気 でこれから永く続けてほしいと思います。1月3日 には,各商店の初売りが行われます。いろいろな物 が格安で売られるのでお年玉をたっぷりもらった子 供達や暮に買わずにがまんしていた人達で商店街は たいへんにぎわいます。また,正月に盛んに行われ るものに小倉百人一首の下の句だけを使ったカルタ があります。これは,大きさ7.5×5p厚さ5o らいのホオの木の板で作った取り札を敵味方に別れ て取り合うもので木の札が3〜4mも飛び交いカル タというより格闘技といった感があります。観測所 の近くにもカルタ道場があり正月が近くなると盛ん に練習をしています。カルタやテレビに飽きるとス ケートに出かけたり,スキーに行ったりして正月を 楽しみます。


犬ぞりによる年賀郵便の配達
 写真提供:稚内郵便局

  


 七草や15日のドンド焼きが済むと子供達の冬休み もそろそろ終り,宗谷海峡を流氷が埋めつくします。 その頃から氷雪祭り,犬ぞりレース等の行事が続き, タラバガニが獲れだします。そして3月半ば流氷が 北の海へ去って行きます。この海明けの時が稚内の 本当の初春と言えるのではないかと思います。

(観測所長 内藤 秀之)



新年の抱負




明るく自由な生活


新野 賢爾

 表題の小文の依頼があった時,よくあるような, 新年号の記事か……。そういえば来年は寅年で年男 という趣向か……,と独りつぶやいたまではよかっ た。“なにっ,還暦じゃないのか!”ポッカリと目の 前が白くなった様な気持でしばらくは呆然自失。
 思えば,自由で明るい幼少年期,戦時下のひずん だ青春の10代,恐れを知らぬ20代,充実した研究生 活の30代,安定の40代そしていつしか身についたマ ンネリ生活と自己の限界を感じる50代のこの頃です。
 最後に,私のささやかな望みは,公私共に御迷惑 を掛けない範囲で明るく自由な生 活です。この幼少年時代の印象と の奇妙な一致は偶然であろうか?



フィリピンの友


塚田 藤夫

 新年早々,あれこれうつつを書いて,上司からお 小言をいただくよりは,私事の方が無難と考えた。
 なんでも我が家は今年××年の××式とかである が,フルムーン旅行にはちと月足らずだし,今年こ そはかねての夢であった海外旅行の実現をと思って いる。しかし,ことお金がからむと,くら〜くなる のは役所も我が家も同じ。一計を案じ古き糸を手繰 れば,幸いにも海の彼方から、“おいで,おいで”と 招く友あり。でもこの人,腰にぶっそうなものをぶ ら下げて、“私の息子はアキノ氏の生まれ変り”とお っしやる反体制派の士。こんな御 仁のお出迎えじゃ,なんとも行き 先が悪すぎる。


雑学の計


阿波加 純

 正月三が日の計は元旦に有り。どうせ三日坊主だ から。
 一年の計は研究室の計画書に有り。何も迷う必要 はない。
 残るは超長期の計。研究成果とは氷山の一角のよ うなもので,水面下がしっかりしていなくてはいけ ない。一見無関係なようなものでも,意識下にため ておく必要がある。これすなわち雑学の計。さらに 重要なのは発想を豊かにすること。常識を超越した 空想の世界に耽ることも肝要。
 そこで持続性まちがいなしの今 年の目標。漫画,SF,パズル, それとゲームへの挑戦。



水泳に桃戦、


永野 葉子

 普段あまり意識しませんが,ちょっとでも体の調 子が悪いと「何をするにも健康第一」と改めて健康 の大切さを感じます。そこでこの一年,自分の目標 に向かって前向きに事に挑んでいくためにも,運動 を通して資本である体の鍛練に心がけていきたいと 思います。もともと体を動かすのは好きなので,こ れまでにもバレーボールやテニスなどに親しんでき ましたが,今年はぜひ水泳をやりたいです。水泳と いうとどうも息苦しいというイメージなのですが、 「水中を自由に楽しく泳ぐことができればなあー」と いうのが秘かな念願なので,昭和 61年一発奮起です。





祝成人



 今年成人式を迎えられる原嶋利 征君(庶務),山口隆司君(会計), 市川和男君(会計),細野繁男君 (情報管理),山本勝彦君(鹿島), 坂本克巳君(鹿島),川原昌利君 (犬吠)の7名の方々に,心からお祝いを申し上げます。
 昔の男子は11歳から16歳位で元服したと言われてい ますが,現在では満20歳に達した男女を成人としてお、 り,選挙権等の権利が与えられる反面,法的義務も課 せられることとなっています。
 しかし,当所では入所された時 点から成人として処遇しているの で,職場の中では特別な感激も湧 かないかと思いますが,成人式は 人生の大きな節目であります。心を新たにして大きく 逞しく成長され,将来の電波研究所を背負っていかれ る職員になられることを心から念願する次第でありま す。

総務部長 池上 吉太郎



社会的責任を


山口 隆司

 20歳になったからといっても自分自身が特に変わ ったわけではないが,選挙権が与えられるなど社会 的にも責任を求められる年齢である。従って立派と まではいかずとも,人並の成人として成人の日を迎 えようと考えている。



自覚と責任を


原嶋 利征

 20歳になるということは一般的に祝い事とされて いますが,私はそうではなく,自覚と責任を持って 行動せよ,という戒めの年齢である,と思います。
 私の夢は,部品を集めて自分のバイクを作り,そ れで1年ぐらいかけてツーリングをすることです。



Going My Way


細野 繁男

 成人式それは私にとって新たなる 旅立ちであり,今までの多少優柔不 断だった部分を取り払うのに絶好の チャンスだと思っている。
 20代になったからといっても,10 代の頃の柔軟さを生かして,“Going My Way”で頑張っていきたいと思 う。



人生の節目


市川 和男

 成人式は一本の太くそびえたつ竹 となるまでの人生の節目である。ま っすぐに育つのも育たないのも自分 しだいなので,誠実かつ努力を惜し まず生きて行こうと思う。
 将来は,可愛い人と結婚し,たく さん子供をつくってメチャメチャ楽 しい家庭を築きたいなあー。



今の若者は・・・


坂本 克己

 今までただ何となく過ごしてきた ような気がする。20歳を一つの区切 りとし,成人式を人生の単なる通過 点としないためにも,今後少しでも 自分の芽を伸ばすように努力し,い つまでも夢を追い続け,「今の若者は ダメだ!」と言われないよう頑張っ て行きたいと思います。



夢は南極へ


川原 昌利

 成人式を迎えるといっても特に抱負はないが,や りたいと思うことは,南極へ行くこと,無線技術士 の資格を取ることなど山ほどあります。当面の目標 としては南極へ行くことです。今は,これに向って 精一杯努力しています。



人生はマラソン


山本 勝彦

 人生とはマラソンのようなものといいますが,私 はいまそのスタートを切るようなわけで,大事な立 場にあることを自覚しています。これからはしっか りした自覚のもとに勉強して,名実ともに一人前の 社会人となる日のために備えたいと思っています。





短 信


左藤恵郵政大臣鹿島支所を初視察


 左藤郵政大臣は60年11月20日公務多忙中のところ,非 公式に当所鹿島支所を初めて視察された。
 大臣は若井所長の案内でVLBI(長基線干渉計),衛 星通信,衛星管制センター等の施設を見て回られた。 VLBIでは,59年に行われた日米共同VLBI実験で日 本(鹿島)とアメリカ(モハービ)との基線長約8,000qを 3pという高精度で決定したこと,また,60年5月から 7月に行われた実験では,この約1年間で太平洋上の島 々が4〜8p日本に近づいているという実験結果に特に 強い関心を示された。
 短い視察時間ではあったが,パラボラアンテナに登ら れたり,それぞれの施設でかなり詳しく専門的な質問を され,熱心にメモをとられるなど当所の研究に対する期 待の大きさを感じさせられた。



宇宙基地ミッション要求データシート提出


 このほど科学技術庁は宇宙基地利用計画のミッション 要求データシートの募集を行ったが,当所からは15件 (新規10件,変更5件)のデータシートを提出した。提案 ミッションは科学観測,地球観測,通信,理工学実験の 多分野にわたるものである。
 我が国は米国の宇宙基地計画に対しては日本モジュー ル(略称JEM)をもって参加することにしており,今年 度から開始されている予備設計段階(フェーズB)から参 加している。
 データシートは宇宙基地計画のミッションを提案する もので官公庁、大学,国立研究機関,特殊法入,民間企 業を対象として行われた。集計・分類されたミッション 要求は米国航空宇宙局(NASA)のデータベース(ラン グレー研究センター)に登録されるとともに,現在宇宙 開発事業団が認めている予備設計作業に宇宙基地の機能 要求として反映されていく。



日独共同VLBI実験の実施
−ユーラシア大陸をまたぐ基線で地球の自転を測る−


 昭和60年11月24日から12月7日まで,初の日独共同 VLBI実験を実施した。相手側は西独ボン大学のキャン ベル教授の研究チームである。また,当所からボン大学 へ留学中の吉野泰造主任研究官が西独における実験の指 導と日本側との連絡を担当した。スウェーデンのオンサ ラ局が不参加となったので,参加局は西独ウェッツェル 20m局と鹿島26m局の2局となった。
 実験の目的は,連続した約2週間の観測で地球自転運 動の精密測定,特に自転角速度の短周期成分の検出を行 うことである。また,日独間の基線測定の再現性も確認 される。自転軸の変動は極運動と呼ばれ,12及び14.3か 月周期の成分がよく知られており,いずれも重要な地球 物理学的観測量である。これらの現象は地球内部の構造 や大気等の気象条件を反映しているとみられる。今回の 実験の成果及び地殻力学計画や5日毎に観測が行われて いるIRIS(国際電波干渉サーベィ)の成果により,地 球の自転運動を解明することができる。



テレビジョン同期放送画質評価実験


 総合通信部放送技術研究室では,昨年度に引き続きテ レビジョン同期放送で生ずる干渉妨害の評価実験(「テレ ビ同期放送技術調査研究会」共同実験)を,9月下旬から 11月中旬に行った。妨害の形態としてゴーストの位相が, @静止している場合,A周波数差によって回転している 場合,B正弦波状又は1/f雑音状に変動している場合の 3種類である。昨年度は妨害の許容限を主として求めた が,今年度は妨害の検知限を得ることを目的とした。実 験はテレビ画面上に提示されるゴーストの強さを,減衰 器を使って評価者自身が可変させ,ゴーストが認められ る限界を探す調整法によって行った。実験には,放送局 :17名,電子機械工業会:9名,当所:14名の外,大学 生:24名も参加した。
 現在データを解析中であるが,位相変動の変動幅が小 さい時には,位相が静止している正ゴーストより逆に検 知限が低くなるなどの興味ある結果が得られた。



衛星利用パイロット計画実験成果
中間報告会盛大に開かれる


 12月5ひ牛前10時から午後5前まで,上記パイロット 計画実験成果中間報告会が,電波研究所大会議室におい て盛大に行われた。発表は午前が新聞紙面等伝送実験6 件,午後がコンピュータネットワーク実験16件で,それ ぞれのグループの責任機関によって成果報告が行われた。
 外部からの参加者は,パイロット計画への参加機関関 連の方が167人,その他の方が81人,合わせて248人と 多数にのぼり,立錐の余地がないほど盛況であった。
 参加機関以外の方の中には衛星通信に関係のある研究 所,これから衛星の利用,もしくはサービスを提供しよ うと考えている企業の方々も多く含まれている。この報 告会は,パイロット計画の具体的な成果発表としては初 めての試みであったが,このように多数の参加者のもと に行えたのは,近年,活発化した衛星通信の利用に対す る関心の高さを物語っているものと思われる。



URSI-F分科国内委員会300回記念講演会開催


 URSI-F分科国内委員会は,前身の「電波気象談話会」 の第1回会合(1954年)から数えて昨年12月で300回目の 会合を迎えた。これを記念して12月19日当所において標 記会合が開かれた。URSI(国際電波科学連合)は電波科 学の研究に関する世界的な組織で9つの分科会から成立 っており,その一つであるF分科会は非電離圏電波伝搬 とリモートセンシングを研究対象とする分科会である。 F分科国内委員会はURSI関係の連絡だけでなく研究発 表をも行っている点でユニークである。自由な討論を通 じて研究を完成させる上の重要な示唆を得ることも多々 あり,また,この場を通じて多くの若手研究者が成長し た。標記講演会ではまずURSI-Fの現状について当所 小口知宏(現F国内委員長),ついで伝搬研究の動向につ いて細矢良雄氏(NTT),山田松一氏(KDD),当所古 濱洋治の3名のF国内委員会幹事による講演,最後に池 上京大教授による「伝搬研究の始まりと終り」と題する記 念講演があつた。100名を超える先輩,若手研究者が一 堂に会する有意義な講演会であった。祝賀会も70名を超 え大変な盛会であった。



五研会鹿島支所で開催


 当所及び通産省電子技術総合研究所,日本電信電話株 式会社研究開発本部,日本放送協会放送技術研究所,国 際電信電話株式会社研究所の,元をただせば源流を同じ くする五研究機関は,相互に研究業務の向上に役立てる ことを主旨に,昭和44年以来,毎年春・秋の2回定例と して,共通する問題を取り上げ,意見の交換等を行う会 議を開催している。
 今回は,当所が幹事機関となり,11月29,30日の2日 間,鹿島支所等で行われた。
 当日は,五研究機関の所長,本部長等十数名が出席し, 支所のVLBIを始めとする諸施設を見学した。その後, 会議場を鹿島セントラルホテルに移し,若井所長の座長 のもとに「図書・研究資料の利用と管理」を議題として, 研究活動を側面から支えている図書・資科の有効利用等 について,それぞれの機関における実情が話され,意見 の交換が行われた。
 2日目は,住友金属鹿島製鉄所を見学した。