電気通信の目標は「いつでも,どこでも,誰とで も,任意の形態で」情報の交換を行うことであり, この総合通信網の整備によって目標の大半が実現さ れるが,残る課題は「どこにいても」情報交換が可 能なパーソナル統合移動通信システムの開発である。
LARN(Local Area Radio Network,別名WA LKLAN)は腕時計型などの超小型の無線端末を 使用して,オフィスなどに張り巡らされる上記の有 線網と数m程度の最短伝送スパンで交信を行うこと により,どこにいても通信ができる機能を実現する 「微小エリア統合移動通信システム」である。これ は,今後の電気通信網の動向に適した移動通信形態 として提案されているものである。
現在の公衆系移動通信システム(自動車電話等)で
は主として半径数km〜数十km程度の中ゾーン方式が
とられており,電話局等に設置されている基地局を
介して交信が行われている。一方,日常の情報活動
における情報交換要求の6割以上は「同一オフィス内
など近距離のものと言われている。従って図1のL
AN1のエリア近傍にいる移動端末M1はLAN1
に属する固定端末F1等との交信頻度が高いことに
なる。この場合,現在の中ゾーン方式による通信ル
ートはM1-a-CAN1-b-LAN1-d-F1となる
が,LARNシステムによってM1とLAN1間の
直接交信を可能にすれば,通信ルートはM1-c-L
ANI-d-F1となり,有線網の迂回ルートbのト
ラフィックが大幅に軽減される(ユーザから見れば
無課金で通信ができる)。
図1 情報通信ネットワークの階層化
このようにLARNシステムは,交信頻度の高い ローカル情報をリンクロスなく伝送でき,総合的な 網の利用効率が高い外,(a)無線伝送距離が高々数十 m程度のため小地域ごとに同一周波数の繰返し使用 が可能であり,将来枯渇が予想される周波数資源を 有効に利用できる,(b)送信出力が微小なため端末機 の超小型化が可能である,(c)有線系広域網を介して 世界中の誰とでも通信が可能であるなどの特徴を持 っている。
これまでにもコードレス電話や,医療・スポーツ 分野における生体情報テレメトリ,家電機器のリモ ートコントロール,OA用可動端末など,微弱な電 波や光波,超音波などを使用する単用途のシステム が実用化されているが,既に異機種間の相互干渉に よる機器の誤動作が多数報告されている。これらは 将来のシステムの普及に伴って重大な社会問題とな る恐れがあり,異種端末間の相互通信の保証の課題 と併せて,早急な技術基準の策定が要請されている。
図2は郵政省による家庭における無線利用二ーズ
の調査結果の概要を示すもので,ドアの開閉のよう
に数ビットの情報伝送ですむものから,動画通信な
どかなり広帯域が必要なものまで多様な情報伝送の
要求がある。これらを統合した効率的な多目的システ
ムの構築のためには,@準マイクロ,ミリ波帯電波
等の新伝送媒体の屋内伝搬特性の解明,A端末の移
動,ボディエフェクト(人体遮へい)などによるフ
ェーディングの除去,B端末間の相互干渉を防止し,
かつ異種端末間の相互通信を保証するネットワーク
制御,C有線網との交信のためのゲートウエイ制御,
D無線使用に伴う情報の盗聴や網への不法侵入を防
止する秘匿通信および利用者の認証,E腕時計型な
どの超小型端末の開発などの検討課題がある。
図2 家庭におけるLARNシステムの応用
@ホームターミナル A侵入感知機 Bホームコンピュータ Cコードの無い電話機 Dホームオートメーション集中制御盤 E移動しながらのデータ通信 |
F呼び出し、緊急の連絡 Gエアコン、テレビなどのリモコン Hコードのいらないテレビカメラ Iドアのリモコン J証明のリモコン Kガレージドアのリモコン Lリモートエンジンスターター |
近年の技術進歩には著しいものがあり,数年前に
は夢の通信と考えられていたLARNシステムも,
単用途の低速情報伝送に限れば既に実用化が始まっ
ている。今後は動画などの高速情報の伝送や膨大な
数の端末の収容を可能にする新周波数資源の開発が
主要な検討課題となる。中でも新幹線の列車通信に
使用されている開放型通信線路は,線路の近傍にお
いて安定した無線伝送品質が得られることから,微
小エリア内通信を目的とするLARNにとって極め
て魅力的な素材である。図3,4は代表的な開放型
線路であるLCX(漏れ同軸ケープル)の構造と放
射電波の電界特性を示すもので,電波の減衰が線路
からの距離の平方根に比例することが安定した伝送
品質を与える理由である。この開放線路をオフィス
内等に張り巡らすことによって新しい形態のLAR
Nを構築できる可能性があるが,その実現のために
は広帯域の双方向伝送特性を持つ低価格の線路素材
の開発が鍵となる。
(通信技術部 信号処理研究室長)
図3 ジグザクスロット型LCX
図4 離隔距離rと電界強度E
第9回NASA地殻力学
プロジェクト会議に出席して
(鹿島支所 第三宇宙通信研究室 研究官 近藤哲朗)
SIR-B実験SUNDIALワークショップ
出席及びNASAとの打合せ(9月20日から30日)
(電波応用部長 畚野 信義)
若井 登(郵政省電波研究所長)
座長としての会の進行に関する発言に続き,人や
社会と最も関係の深い情報通信の分野についてパネ
ラーとして問題提起を行った。コンピュータや光フ
ァイバなどの基盤技術に支えられて,最近の電気通
信の発展は目ざましいものがあるが,その影の部分
にも光をあてて見ることが必要である。例えば,現
在放送は,地上放送(音声(中波・FM),TV)に
衛星放送が加わり,多数の局が長時間情報を流し続
けている。その上いわゆるニューメディアの今後の
登場の具合いかんによっては,多種多様な情報が各
家庭に流れこんでくる。確かに体の不自由な人や僻
地にとっては不可欠な情報もあろうが,情報の氾濫
は,売り手側の過当競争による歪みや社会の画一化
(同じ情報,時には同じ判断さえも,極めて多数の
人にいきわたる)を起こしかねない。コンピュータ
による高速・大量の情報処理技術の発達及び知能ロ
ボットの登場は,雇用の不安を生じさせる。またソ
フトウェアを操作する犯罪とかデータバンクを悪用
するプライバシー侵害とか新しい問題も生じてくる。
もちろんこれらの影の面のいくつかは人の意志,つ
まり悪意に基づくものであり,人の道徳感,倫理感
の確立なしには防げるものではないが,来るべき高
度情報時代は決してバラ色・色ではないことを知る
べきである。国立試験研究機関としては,科学技術
の光と影の両面をみつめながら,人類の幸福につな
がる研究を進めなければならない。
野元菊雄(文部省国立国語研究所長)
科学技術と,宗教,哲学,国語等との関係につい
て触れ,自然科学者とは全く異った観点から,いく
つかの興味ある指摘をした。例えば「日本人は日本
語で物を考える,つまり日本語独特の論理性の中で
物を考えるのであって,西欧語を使う人達とは当然
発想が違う。日本語は,主語を言わない,単複の区
別をしないから非論理的ときめつけてはいけない。
自然科学は他人の到達点から出発するので真の独創
性はない。これに反し哲学は常に原点から出発する
ので,独創性そのものである。独創というのは,在
来型の合理主義からは生れない。自然科学が人文諸
学と無縁であると考えるのは誤りである。」などであ
った。
高臣武史(原生省国立精神衛生研究所長)
主として精神医学的立場から,(1)自然科学の進歩
と,人間・社会の変容,(2)日本の社会構造と創造的
科学技術との関連,(3)科学技術革新と心の健康,に
ついて論議を展開した。(1)に関連しては,最近の科
学技術の進歩は多様で急速である。一方人間はそう
簡単には変らないものであって,この両者の変化の
ずれが,人にストレスを与えている。心臓移植等医
療技術の進歩と人間社会(従来の社会的通念)との
新しい調和をもたらす「科学倫理」の確立が急務で
ある。(2)に関連しては,我が国の縦社会,家族制度
に起因する“人並み”重視の考え方,具体的には,
かつて独創性豊かな人達を奇人・変人扱いして排斥
した社会全体の狭量性を改めなければ,日本に創造
的科学は育たない。国立研究機関の指導者に求めら
れるのは,この意味での寛容さである。(3)に関して
は,近年精神分裂病の病像が変化してきた。この病
気は人格の深奥に発生する障害と見られることから,
人間の環境に本質的変化が生じたと考えられる。例
えば人間関係の変化から,言葉を使う機会の減少,
内的思索の不足,語らいの貧困,情緒的成熟の遅れ
などが,人間性そのものに影響を与えている。以上
をまとめて先端的技術革新ばかりでなく,人間関係
まで考慮した,学際的研究を行うことが,精神衛生
学上の課題であると結んでいる。
木下幸孝(農林水産省草地試験場長)
農林水産,主として農業科学的見地から意見を述
べた。主な論点は,人類の生存にとって不可欠な食
糧を確保するために,またそれと同時に,好ましい
環境を維持(有害・物質の除去,失われゆく緑の回復,
大気圏・水圏の汚染防止など)するために,科学技
術の開発は行われるべきであること,バイオテクノ
ロジーは,魅力ある研究領域ではあるが,自然界の
バランスを考慮しながら,また新技術の開発にあた
っては,好ましい面と好ましからざる面とを考慮し
ながら進めるべきであることなどであった。
高橋教司(通商産業省製品科学研究所長)
産業,食糧,資源,エネルギー,医療,福祉を含
む広い観点から,科学技術と人間・社会との関連を
説き,研究者の自戒を喚起して締めくくった。その
要旨は,国立試験研究機関の技術は,今後はむしろ
国際的に,特に発展途上国への移転をも考慮しつつ
社会に貢献してゆくべきこと,エネルギ一問題に関
しては,将来に備えて太陽・水素のクリーンエネル
ギーや核融合技術の開発が急務であること,近年医
療分野にハイテク診断装置や治療装置が登場し,ま
た新材料開発により福祉の改善が行われつつあるが,
これら公共性の高いものは,産業界でなく国として
開発を行うべきこと,科学技術は使い方によっては
人類を滅亡させる道具にもなるので,それを使う人
の倫理・道徳の問題を最重点にすべきこと,最後に
科学技術の信頼性を確立して,それに対する不信感
を払拭することが,科学技術に携わる者の使命であ
ることなどであった。
以上の各パネラーによる発表の後,時間は短かか ったが,質疑応答が行われた。その中の一つを紹介 すると,江上信雄環境庁国立公害研究所長が,「環境 問題は自然科学だけでは解決できない。騒音問題を 例にとると,定性的には異論がないとしても,定量 的にどこからが騒音であるかを規定することは難し い。つまり人間が幸福をどうとらえるかが問題であ る。」と指摘した言葉が耳に残った。
最後は副座長の高橋博科学技術庁防災科学技術セ ンター所長によるまとめで幕を閉じた。
従来の経験によると,この種の討論会は,得てし
て担当業務の紹介に終り勝ちであるが,今回は立脚
点を各専門分野に置きながら,パネラーそれぞれの
研究課題が人間や社会に与えるインパクトを中心に
論点をまとめてもらえたので,出席者にとっては非
常に収穫の多い会合であったと思うし,私自身も今
まで気づかなかった沢山の事を勉強させて項いた。
(所長)
はじめに
愛称“さくら”で親しまれてきたCS(実験用中
容量静止通信衛星)は,30/20GHz帯の国内通信衛
星システムの確立と言う使命を全うし,昭和60年11
月25日約8年にわたる実験を終了した。
CSは衛星としては,優等生で扱いやすかったが
その裏には一喜一憂したことがたくさんある。それ
らを中心にCSの運用を中継器と管制の面からレビ
ューしてみよう。衛星に関する詳しい記述は省略す
るが,衛星重量350kg,電話4000チャネル相当の通
信容量を持つスピン衛星とだけ記しておく。
CSの誕生
昭和30年代末から行われた米国の衛星を用いた各
種の通信実験の成果及び諸外国の動向から,我が国
においても独自の実験用衛星を打ち上げようという
機運が急速に盛り上がり,郵政省は昭和41年,日本
独自のECSを計画したが,この計画はその頃の各
国の国内通信衛星計画の進展,静止軌道及び周波数
に対する国際権益の確保の緊急性などから修正をよ
ぎなくされ,47年9月に51年打上げを目指すCS,
BS計画が宇宙開発委員会に要望された。これがC
S誕生のきっかけである。以後NTT,NASDA
(宇宙開発事業団)により開発が進められ,52年12月
打上げられた。
中継器の運用状況
CSの中継器は初期トラブル(F2,F6の故障
等)以外主だったものはなく,53年5月定常実験に
移り数々の通信,管制,伝搬実験を実施できた。
この衛星もは我が国初めての通信衛星であり,しか
も30/20GHz帯の中継器を積んでいたので,当所と
NTTは中継器の特性の経年変化を半年毎に取得し
た(7月と1月)。延べ15回位になろうか,後半にC
バンド中継器に利得低下らしいのが見られただけで,
特性にほとんど変化はなかった。7月のチェックア
ウトは梅雨の終りの時期で天気が安定せず,雨に左
右されやすい上りの回線(30GHz)の衛星入力レベ
ルの設定に苦労した。鹿島の二研では通信実験も含
めこのような定常業務的なことも大変であった。
途中の中継器の不具合としては,F3中継器のT
WT(進行波管)のへリックス電流が、55年11月に急
に増加したことである。いろいろ調査されたが,ど
うやらその電流を取出す所の回路的なものであるら
しいとのことで,注意して使ったが問題はなかった。
その外,終りまで中継器にトラブルらしきものはな
く,CSはその点実に優等生だった。
前述のECSは最初のミリ波通信衛星として期待
され昭和54,55年に打上げられたが,2同とも静止
化に至らず,失敗した。またBSも100Wの進行波
管のトラブルもあり短命であった。CSは上記の2
衛星の実験を一部吸収しながら通信衛星としての使
命を全うできた。この意味でもCSは優等生であり
当所の衛星通信実験の大きな柱であった。
管制運用
衛星の管制は衛星本体の運用と実験運用に分けら
れる。本体の運用は事業団の手で行われ,実験のた
めに衛星は最適の環境状態及び目標の軌道,姿勢位
置(静止軌道東経135°±0.1°,南北±0.1°,姿勢±
0.1°,アンテナポインティング精度±0.3°)内に保
たれた。当所とNTTもそれぞれ管制施設を持って
おり,主として実験運用,管制技術開発を担当し,
さらに事業団のバックアップも行った。
南北軌道制御
南北及び姿勢の制御はアキシャルスラスタ(衛星
の図,A)で行う。南北制御は+0.1°から−0.1°へ
戻す作業で1回に推進薬1kg強消費する。二次推進
薬の消費でこれが最も大きい。そのまま南北制御を
続けると燃料が無くなりそうになったので,57年1
月以降その制御は中止した。その時の残燃料から62
年度まで実験が続けられる見通しになった(東西制
御には年間600g位消費する)。南北制御を行わないと
衛星位置の南北方向の日変化が大きくなる。変動幅
は毎年約0.8°ずつ増加するので,口径は大きいが追
尾のできないアンテナでは実験を続けるのが大変で
あった。そのため58年度以降の管制実験として南北
位置変化が大きいときの衛星アンテナの最適ポイン
ティング制御を目指し,将来衛星を長くもたせる場
合の技術的手法を開発した。
食運用
正式には蝕と書いて春分,秋分時に衛星が夜半地
球の影になり衛星の発電を止めてしまうもので(長
くて1時間位),静止衛星にはつきものである。その
ため衛星は通常バッテリィを積みその間運用するこ
とになるが,CSの場合55年春の食中3台の中継器
を使用していたとき,UVC(Under Voltage
Control)が働き衛星全体の電源が切れ慌てたが,
それ以後はバッテリィの最低電圧をよく監視し,ほ
ぼ食中2台の中継器運用を58〜59年度まで続けたが,
最近(60年)では燃料系統の温度低下によるヒータ
使用のため,1台運用からついには中継器は全部オ
フとなった。通信する側としては,食中全中継器オ
ンできることが望まれているがそれはどうやらCS
-3からとのことである。
姿勢及びアンテナ系
アンテナを日本の方向に向けるには地球センサを
用いている。運用上の問題としては0.1°〜0.4°アン
テナの指向方向が時々ずれることが発生した。これ
はセンサの回路系に何らかの雑音が発生したために
方向を見誤ったためである。また,デスパンアンテ
ナがロックオフする現象が7,8回起きているが,
これは太陽,月の地球センサへの同時干渉で起るも
のであり,予測できることも分かったので,自動を
手動にするなどの対策をたてその混乱を避けた。
その外,最近では熱制御系のアキシャルスラスタ
バルブの温度が上がりすぎたり,別の所が下がりすぎ
たり,終りの頃事業団はその熱制御が大変であった。
管制実験
主な目玉は一局の測距,測角方式による高精度な
軌道決定を開発したこと,また将来の大型アンテナ
の制御を考え土0.02°〜0.03°内に軌道,姿勢を制御
する技術を確立したことなどである。また,CS-
2bの打上げに伴なって135°から150°へ移したとき
Cバンドの衛星間干渉実験も実施した。これらは,
CS-2の管制に大いに反映されている。
デオービットと運用中止
デオービット,すなわち静止軌道からはずすこと
を言うが,これは最近衛星打上げが盛んになるにつ
れ,静止軌道が混んできたことからESAやインテ
ルサット等で衛星の軌道外投棄が行われ始めており,
事業団も上記のような周囲の情勢に鑑み静止軌道上
でなるべく衝突する確率を減らすためデオービット
を提案してきたわけである。我々も実験のほとんど
が終わっていることから,燃料消費の予測確認試験
ということで,60年11月19日から何度かにわたって
ある限りの燃料を噴射した。その結果,燃料が2.8
kg位残っていたことになり最終的には静止軌道から
385km上昇させることができたそうである。燃料予
測法の中で,マヌーバ評価法(制御後の姿勢,軌道
の変化から消費量を積算する方法)が一番近いこと
がわかった。今後,このような方法が残燃科予測の
決め手になるであろう。
上記のデオービット後,予定通り11月25日,Sバ
ンド送信機のオフを最後にCSは静止軌道から少し
外れた軌道を飛ぶ一つの衛星になった。
おわりに
CS-2では実用通信衛星として各種の公衆サー
ビス,公共利用,将来の利用拡大のためのパイロッ
ト計画など,地道に衛星利用が拡大しつつある。こ
れに続くCS-3またはKuバンドの衛星に対しても,
このCSでの実験は通信,管制,伝搬などを含め大
きな足跡を残したと思われる。
(宇宙通信部 主任研究官)
*CS実験総合報告書 昭和58年3月 大蔵省印刷局
RPLには現在20数名の職員が働いており,電離
圏・磁気圏,ディジタル移動伝搬,SHF・EHF
帯の伝搬などの研究を行っている。筆者はDirector
のK.S.McCormick博士のもと,RPLのプロジ
ェクトと関連しかつ筆者が興味を持っている降雨伝
搬特性のモデル化,推定法に関する研究を行った。
カナダは北米に位置しながらEuropean Space Agency(ESA)の加盟国でもある。ESAは1988 年を目途に実験用大型静止衛星Olympusの打上 げを予定している。CRCは,Olympusを用い た10/20/30GHz帯の伝搬実験への参加に意欲を示 している。筆者は,Olympus伝搬実験計画の策定 に関して,伝搬特性の事前評価を行った。また,こ れに関連して,森田・樋口の降雨減衰分布推定法の 修正に関する検討を行った。これらの検討を行って いる間に,RPLの研究者が,13GHz帯ラジオメー タを用いた長期間の測定に基づく降雨減衰変化速度 分布を得た。筆者は,滞在期間の後半,この実験結 果を対象として,カナダにおける降雨減衰変化速度 分布推定を試みた。この際,既存の推定法のカナダヘ の適用性,及び,新たに考案した推定法の性能を検 討したが,いずれの方法も速い減衰変化速度分布の 推定に成功せず,一層の検討の必要性が感じられた。
CRCは国防省の研究機関と敷地を共用している ため,構内立入りの際のチェックは厳しい。各人そ の身分を表す何らかのバッジの着用を義務づけられ ている。Visitor用のバッジでは,種類によっては 構内の移動に常時付き添いが必要となる。筆者は赤 白のチェッカーバッジで,自由に構内を移動するこ とができた。勤務時間はフレキシブルであり,また, 日常的超過勤務は見られない。居室はCRCの研究 者と2人で1室を与えられた。居室には計算機の端 末が設置されており,非常に便利であった。研究所 生活は,昼食時間の外,10時と3時のコーヒーブレ イグを挟みゆったりしたものである。しかし,書く べき人がそれなりに論文を発表している状況から推 察して,研究時間の密度が濃いものと考えられる。 一般の研究者は,雑務に忙殺されることはほとんど 無く,研究そのものに専念できるからであろう。
カナダ人の研究ぶり,暮らしぶりについて直接触
れる貴重な機会を与えられた科学技術庁,郵政省の
関係各位に深謝します。
(電波部 大気圏伝搬研究室 主任研究官)
太陽の素顔(Hアルファ線で見た太陽)