宇宙基地利用ミッション


鹿谷 元一

 昭和59年1月にレーガン米大統領が年頭一般教書 で宇宙基地計画の推進を発表して以来,宇宙基地計 画はその実現に向けて動いている。この計画には我 が国を初めカナダ,ESAも参加しており,かつて 例のない巨大な国際プロジェクトである。我が国は 『日本独自の宇宙実験室』を米国の宇宙基地本体に 取り付ける形で参加する。科学技術庁では日本実験 室の形態を決定するために,それに対する要望を過 去2回にわたって募集した。これにこたえて当所で も宇宙基地計画小委員会(主査:塚本企画調査部長) を中心に研究者から出された提案を審議し応募した。 これまでに当所から出された応募件数は16件である。 以下に当所から応募したミッションの概要を記す。
  

大型アンテナ組み立て・測定・応用予備実験
 曝露作業台で,分割された反射鏡セグメントから 直径2mクラスの反射鏡型アンテナをマニュピュレ ータを用いて組み立て,アンテナの機械的,電気的 特性を測定する。また,その応用実験として,衛星 間データ伝送実験,降雨レーダ等の実験を行う。
  

大型アンテナ組み立て・測定・応用実験
 上記の『大型アンテナ組み立て・測定・応用予備 実験』を経て本格的な直径10mクラスの大型アンテ ナを組み立て,機械的および電気的各種特性を測定 する。さらに,降雨レーダ,マイクロ波放射計,V LBI(長基線干渉計)等の実験を行う。
  

ミリ波帯衛星間高速データ伝送実験
 ETS-VI(技術試験衛星VI型)による衛星間デ ータ中継技術の研究開発について昭和61年度予算が 認められた。現在このミッションとして,@Sバン ドマルチアクセス系ミッション,Aミリ波/準ミリ 波帯シングルアクセス系ミッション,B光通信基礎 実験系ミッションが提案されている(図1)。ここで の提案は,ミッションAの実験の一つとして宇宙基 地からETS-VIヘミリ波帯で高速データ伝送実験 を行うもの。


図1 衛星間データ中継国際共同実験概念図

  

データ中継衛星を用いたSバンド通信・管制シ ステム
 ミッション@の実験相手として宇宙基地を想定す るもの。ETS-VIにはフェーズドアレー型のマル チビームアンテナを搭載する。宇宙基地には直径2.5m の方向可変型アンテナを搭載する。宇宙基地から 低,中速度のデータを送るとともにETS-VI経由 で地上から伝送されるコマンド信号を受信,解読す る。更に測距信号をETS-VI経由で折り返し中継 して宇宙基地の軌道決定を行う。
  

静止プラットフォーム用大型展開マルチビーム アンテナ製作・診断・測定試験
 衛星側のアンテナが大型になればユーザシステム が簡易化される。そこで宇宙基地において大型展開 マルチビームアンテナの展開,折りたたみ試験を行 い機能確認を行ったのち軌道間輸機(OTV)に より静止プラットフォームへ輸送し総合移動体通信 の実証実験を行う。
  

宇宙機間光通信技術開発
 レーザを利用した空間伝送システム実験を宇宙基 地と別の宇宙機(例えばESAでは1993年に光通信 ミッションをもつ静止衛星を打ち上げる予定。)との 間でおこない,宇宙機間大容量光データ中継システ ムの技術開発を行う。
  

実用型降雨レーダ  二周波(10GHz,35.55GHz)降雨レーダを開発し, ENVIROSAT-2000に搭載し宇宙から降雨観測を行 う。
 ENVIROSAT-2000は高度700から900kmの太陽同 期軌道を周回しながら地球の大気,海洋,宇宙環境 等をモニタする衛星。
  

降雨レーダ開発実験
 宇宙基地搭載用降雨レーダシステムを開発し,将 来の実用システムにつながる基礎的実験を行う。  宇宙からの降雨観測により年間を通した全地球的 規模(特に熱帯地域)での降雨強度の空間分布的な 観測,異常気候に及ぼす降雨の影響の評価,水資源 管理のためのデータ収集等が可能になる。
  

高精度姿勢・歪み測定用レーザ検出装置
 宇宙基地等の大型飛翔体にとって太陽放射,地球 大気,材料変形等による姿勢変動や歪みは重要な問 題である。姿勢変動や歪みによってアンテナの方向 が変化するので通信や観測には特に重要になってく る。地上の光学局又はフリーフライヤー等からレー ザ光を送信し,これを宇宙基地に搭載された装置で 検出することにより姿勢,歪みの高精度な測定を行 う。
  

逆レーザ測距及び時刻比較システム
 レーザ測距装置を宇宙基地に搭載し,宇宙基地か ら地上に置いた反射器までの距離を精密に測る。ま た,超精密原子時計を搭載し逆レーザ測距システム と組み合わせて時刻比較を行う。本方式によれば, 簡単な地上系で全世界的な規模の測地及び時刻供給 を定常的に行うことができる(図2)。


図2 逆レーザ測距及び時刻比較システム概念図

  

宇宙空間VLBI
 宇宙基地やその孫衛星にVLBI装置を搭載し地 上VLBI施設と同時観測を行う。これにより,宇 宙及び地球の電波による観測が三次元的に行える (図3)。


図3 宇宙空間VLBIシステムの概念図

  

通信環境観測装置
 通信障害の発生を予知し通信利用者に的確な警報 サービスを行うため宇宙基地がら太陽活動及び地球 電磁気圏の擾乱観測を行う。
  

人工電磁波スペクトルの観測
 宇宙基地において,VHF帯からSHF帯の広い 帯域にわたる電波を受信し,電波発射源の位置決定, 各種無線局の干渉妨害を軽減するデータを得る。
  

雲頂高度決定用BUV検出装置
 地球全体の熱収支は気象・大気科学の分野で重要 なテーマである。中でも雲の分布や高度は直接太陽 放射の反射を左右しており重要である。宇宙基地か ら太陽紫外線散乱(BUV)光を測定し従来の赤外 画像より高い精度で雲項高度を決定する。
  

大型静止衛星組み立て・打ち上げ・保守技術開 発実験
 宇宙基地で大型アンテナ,太陽電池アレー,大型 構体等の組み立てを行い,OTVにより静止軌道に 打ち上げ,その後,修理,保守,ミッション取り替 えを行って経済化を図る技術開発を行う。
  

膨張型密閉ハンガー構築技術
 アンテナ,衛星等の組み立て,修理,ペイロード 取り替え等のサービスを宇宙基地で行う場合,精密 作業を搭乗員が素手で行えるように膨張型で与圧可 能な大容積のハンガー(格納庫)構築技術を開発す る。
  

おわりに
 当所の提案ミッションは広い範囲にわたるもので ある。また,当所だけでは実現が困難なものも少な くない。したがって,その取り組みにあたっては所 内外関係機関,関係者と知恵を出しあって進めてい くことが必要である。そのため現在幾つかのミッシ ョンについては所外関係者との研究会を聞くなど, 精力的な検討が行われている。
 NASAの宇宙予算の縮少,スペースシャトルの 事故等で宇宙基地計画は当初計画よりは遅れそうで ある。しかし,人類の宇宙への歩みはそんなことで は鈍るものではない。当所の宇宙研究にかける夢も また,その実現に向けて日々歩んでいるのである。

(企画調査部 企画課 主任研究官)




電波予警報業務の改善について


  

まえがき
 当所では,短波通信回線の効率的運用に資するた めほぼ40年におよぶ長期にわたり,電波予報及び警 報業務を実施しています。
 このうち,電波予報業務は,我が国に関連する主 な短波回線について最高使用可能周波数(MUF) 及び最低有効周波数(LUF)を3か月先の太陽黒 点相対数(以下,黒点数という)予測値を用いて計 算・作図しこれを毎月利用者に提供しているもので す。また,電波警報(電波擾乱とも言う)業務につ いては,太陽活動,地磁気活動及び電離層変動等の 地球電磁環境の時々刻々のうつり変わりに基づいて 短波通信状態を予測し,これを標準電波(JJY)に よって放送する一方,週間電波擾乱予報として郵便 で利用者に提供しているものです。つまり,電波予 報は短波回線の月平均特性を予測し,電波警報は平 均値からの短期的な通信状態を予測する,互いに相 補的な役割をもつもので,これらの予測によって初 めて短波回線の最適な運用ができます。
 これらの業務は,いずれも戦後間もなく開始され, 今日までの間に多少の手直しはあったものの基本的 には踏襲されてきました。昭和59年に電波研究所の 機構改革が検討された際,当所における今後の主な 検討課題の一つとして電離層観測及び電波予警報業 務が指摘され,「電離層観測・電波予警報検討委員会」 が同年10月に発足し,所内の当課題関係者を委員と して鋭意検討の結果,昭和60年3月に今後の改善す べき事項を含む報告書が所長に答申されました。
 この報告書には,現行の電離層観測・電波予警報 業務のあり方について,ここ数年内に実施すべきい くつかの改善策が示され,このうち後述の電波予報 及び電波警報業務に関する2件の改善が昭和61年度 から実施の運びとなりました。これらは基本的には 現行業務と変わるものではありませんが,より速や かに有用な情報を利用者に提供することを意図した もので,これによって短波回線のより効率的運用が 促進されることを関係者一同望んでいるところです。
  

日本中心の短波伝搬曲線集の発刊
 当所の定期刊行物として毎月発行していた「電波 予報」は昭和61年3月号(No.467)をもって廃止され, 新たに「日本中心の短波伝搬曲線集(短波を上手に使 う法)」と題して,今までの「電波予報」を集大成し て発行することになりました。
 我が国での短波通信の伝搬予報は昭和18年に特定 の地点間で実施されたのが最初で,戦後一時期中断 されたが昭和22年に再開されてから今日までの38年 間毎月発行してきました。この間行政組織の変遷に よって発行機関名こそ変わりましたが,多くの先輩 諸氏の研究と改良によって当所の代表的定期刊行物 となりました。
 今回の曲線集は,短波電界強度計算の基礎になっ ている国際無線通信諮問委員会(CCIR)報告340 「電離層特性地図」に基づき,黒点数(12か月移動 平均値)が0,50,100,150の場合の無線通信回線 上のF2層のMUFを算出し掲載しています。また, CCIRの「周波数範囲2〜30MHzにおける空間波電 界強度及び伝送損失の推定法」に基づき,黒点数が 0,150の場合のLUFも併せて掲載しました。こ の伝搬曲線集は日本周辺の48回線,東京を端局とす る28の諸外国との回線について12か月にわたって編 集し,併せて短波伝搬の基礎知識(電離圏の構造と 変化,電波の伝わり方等)についても解説したB5 版約250ページの冊子で電気通信振興会から近く発 売される予定です。さらに,スポラディックE層のMUF, 黒点数が任意の場合のLUFの計算法,黒点数の逐 年変化なども付録として掲載します。実際に曲線集 を使用する場合は,後述のテレフォンサービスによ って月平均予想黒点数を知ることが必要です。曲線 集を作成するに当っては,電波予報等に関するアン ケート調査を行い,多くの意見を参考にさせて項き ました。
 将来は,短波伝搬に関する予報だけでなく,時々 刻々変動する電離圏の特性をニューメディアを通し て現況周知することも考えられます。短波通信の比 重が軽くなっているといわれる昨今ですが,予警報 の確実性と信頼性を一層向上させるために国立研究 機関として,この分野における研究課題がまだまだ 残されています。
  

電波擾乱予報のテレフォンサービス
 本年4月から電波擾乱予報のテレフォンサービス を実施するためシステムの整備を進めています。
 このシステムは,本所,平磯支所及び椎内,秋田, 山川,沖縄の各電波観測所にサービス用電話を設置 し,これらの電話に平磯支所で作成するメッセージ を記憶させ全国規模で同一内容の情報を提供するも のです。この内容は,概況,週間電波擾乱予報,異 常現象速報及び黒点数予報(前述の短波伝搬曲線集 用)からなり,これらの情報を約2分半音声で知ら せるものです。次に各項目の概要を紹介します。
 

概況:予報発令時における太陽活動,デリンジ ャー現象,地磁気活動及び短波通信状態の現況と24 時間以内の短期的予報を知らせるものです。このう ち,短波通信状態の予報は現在標準電波(JJY)で 毎正時から10分毎にモールス符号で放送している短 期擾乱予報(N,U,W)と同じ内容のもので,予報 内容は毎日更新されます。
 

週間電波擾乱予報:1週間先までの太陽活動, デリンジャー現象及び短波通信状態を予報するもの で,この予報は従来葉書により利用者に通知してい たものですがテレフォンサービスの開始により,葉 書による通知は廃止することになりました。予報内 容は,毎週火曜日と金曜日の2回更新されます。
 

異常現象速報:過去数日の間に発生した主な太 陽フレア,プロトン現象,デリンジャー現象及び地 磁気嵐の発生日時並びに規模を速報的に知らせるも のです。
 

太陽黒点数予報:前日の黒点数及び前月の月平 均黒点数並びに当月から2か月先までの予想黒点数 をお知らせします。これらの予報値は「日本中心の 短波伝搬曲線集(短波を上手に使う法)」を用いて希 望する回線のMUF及びLUFを求めるために利用 するものです。
 以上がテレフォンサービスの概要で,サービス用 電話の番号及びその内容を表に示しました。利用者 は最寄りの電話からいつでも最新の電波擾乱予報を 聞くことができます。テレフォンサービスのメッセ ージ作成の仕組みや電波擾乱予報を解説した小冊子 「テレフォンサービス利用の手引」を近く作成しま すので,希望される方は平磯支所に申し込んで下さ い。

(総合研究官 新野 賢爾)
(情報管理部 電波観測管理室 主任研究官 小泉 徳次)
(平磯支所 通信障害予報研究室長 森 弘隆)

表 テレホンサービス用電話番号及び内容例(一部)
設置場所テレフォンサービス電話番号テレフォンサービスの内容例(一部)
電波研究所本所0423-21-4949
(問合せは、21-1211)
電波研究所4月15日15時発令の電波撹乱予報をお知らせします。
はじめに概況です。
太陽面には活動的な黒点群があり、デリンジャー現象が時々発生しています。地磁気活動はやや活発ですが、短波通信状態は安定です。
次に4月16日から4月22日までの週間電波撹乱予報です。
太陽面には活動的な黒点群があり、発達中です。デリンジャー現象の発生する可能性は----------
平磯支所0292-65-7575
(問合せは、65-7121)
稚内電波観測所0162-22-4949
(問合せは、23-3386)
秋田電波観測所0188-31-1919
(問合せは、32-3767)
山川電波観測所09933-4-1919
(問合せは、4-0077)
沖縄電波観測所09889-5-4949
(問合せは、5-2045)



≫職場めぐり≪

テレマティーク通信


通信技術部信号処理研究室

 テレマティークはtelecommunicationsと informatiqueの合成語で,有名なノラ報告の中で今後の電 気通信の主要な動向である情報処理との融合化を示 す言葉として使われ,狭義には非音声通信などとも 訳されている。機構改革で当室は情報処理部から通 信技術部へ所属が変更になり,研究の比重も視覚情 報処理からその通信への応用と変化している。とり わけ当所における情報処理と通信の橋渡し役として, 今後の通信研究における任務の重要性(あるいは膨 大性に)を痛感(困惑)している所である。

 具体的課題としては,従来の電話を中心とする簡 便な電気通信から,光回線等の大容量網や高機能端 末の出現を背景に,人間にとってより高速で効率の 良い情報伝達が可能な画像・データ通信の充実,そ れらの任意の選択を可能にする統合化,人工知能に よる高度な情報処理機能を持つ通信方式の開発など があるが,当室では将来の個別通信の究極形態であ る腕時計型などの超小型端末による統合移動通信の 実現を中心に,新しいテレマティーク通信システム の開発,画像ニューメディアの推奨通信方式の検討, 電離層観測・合成開ロレーダ画像の自動処理などの 研究を行っている。

 また電気通信の総合化へ向けて有線系課題への取 組みを重視してきた所であるが,郵政省の総合企画 官庁への転換に伴って,当分野の行政支援研究の役 割は一層重要になっている。しかしながら現状の能 力では十分にこたえられないのが残念である。

 明治初年に諸外国の開放要求に抗して電信官営の 方針を決定して以来100年,郵政省は我国の通信主 権の確保・公平の原則維持等に大きな役割を果して きた。いま電気通信の自由化や基礎研究所の設立な どまさに通信戦国とも言える時代を迎えて,行政及 び研究所の役割も大きく変化している。とりわけ各 種委員会体制による政策決定は今後・層重要な行政 形態となるが,当事者に技術力の裏打ちが無いと審 議は形式化しがちになり,行政支援の重要任務を持 つ直轄研究所としては,電気通信の需要・技術動向 の長期展望と総合通信全般に及ぶ広い視野を持ち, 且つ第一級の学術レベルを保持したいわゆるスーパ ーマン的研究者を多数しかも早急に育成する必要が あると考える。

 最後に当室の構成員を紹介すると,最若手ながら 温泉巡り(混浴に限る)を趣味とする町澤,アルバ イト時代に鍛えたプロ級のマイコン技術でメーカー をやり込めるのが生きがいの鳥山,ウインドサーフ ィンという電波研離れした特技を持つ松岡,テニス ・スキーの行事には必ず顔を出す川村,マルチ人間 を自称し度々本業を忘れる吉田の5名から成り,勉 強はみんなで効率良く,但し学問に淫することなく (論語を学び過ぎて生類憐れみの令などを出すこと の無いように),発想と仕事は出来るだけ自由に且つ ユニークにをモットーにしている。

(吉田 實)


後列左から 町澤、川村、吉田
前列 鳥山



《外国出張》

宇宙からの降雨観測計画
−TRMMについて−


畚野 信義

 電波研究所は通信・放送衛星(CS・BS)実験プ ロジェクトが山場を越えた昭和54年7月,それまで の衛星研究部を発展的に解消し,衛星通信部と衛星 計測部を発足させた。後者は電波の新しい利用分野 として注目され始めた宇宙からの地球観測を主要研 究テーマの一つとしようとするものであった。幸先 よくその前年から航空機搭載2周波散乱計/放射計 の開発が認められていた。これは将来宇宙から地球 上の降雨強度分布を観測するための第一歩として計 画したものであった。この装置は本年の降雨観測の ほかに,海面の風向・風速の測定,海洋油汚染の観 測の北陸地方に豪雪をもたらす雲の観測,シャトル 映像レーダ実験への参加等多様な活躍をしたが,降 雨の観測についても,雨雲の上側から下の雨を初め て観測したほか,当所鹿島支所に設置されたCバン ド多機能ドップラーレーダと共同で同じ降雨を上と 下から同時に観測したり,航空機から装置をはずし, 鹿島支所に設置し,地上の他の多くのレーダととも に多周波で降雨観測実験をするなど多彩な研究を行 ってきた。

 この装置は雨による減衰を大きく受ける周波数 (35GHz)とそれほど大きくない周波数(10GHz)の 2周波の電波が,同じ大きさのアンテナビームをも ち,同じ場所の同じ体積の雨を同時に観測するよう に工夫されていることが特徴である。その実験成果 は広く注目を集め,米国航空宇宙局(NASA)から 共同実験の申し入れがあった。検討の結果地上から の観測システムと飛行場のそろったワロップス島周 辺が最適ということになり,現在同装置をNASAの 航空機に搭載し実験を行っている。実験には,海面, 気象レーダ等を搭載したもう一機のNASAの航空機 と,レーダ2台と放射計を搭載した米国海洋・大気 庁(NOAA)の航空機も参加している。

 宇宙からの地球観測は最近様々な分野に利用され, 衛星計画も各国で活発であり,一部は商業化も始ま ろうとしている。そのさきがけである気象衛星は実 用化されて以来地球上で発生した熱帯性暴風雨を一 つ残らず発見し,数多くの人命を救ってきた。しか しながら現在までに衛星に搭載されたいかなるセン サも降雨を直接観測できるものはない。いずれも間 接的データから何らかの仮定の上に立ち雲の下の降 雨量を推定するものである。それゆえ,降雨の三次 元構造を観測できる可能性のある唯一の手段である レーダが注目されるゆえんである。しかしレーダに よっても降雨量を正確に得るにはまだ距離がある。 今回のNASAとの共同実験等を通じ,我々が開発し てきた形の2周波レーダが,宇宙からの降雨の観測 という目的には最も有望であるという合意が広く得 られつつある。

 NASAは宇宙からの降雨観測の第一歩として,TR MM(Tropical Rainfall Measuring Mission)を 計画している。地球上の雨の過半が緯度±30度以内 の熱帯に降り,地球の気象,特に異常気象と密接な 関係を持つとみられている。近年,エルニニョと異 常気象,アフリカの旱魃等深刻な事態も多く,これ らの解明のためにも全地球的な降雨のより正確なデ ータが緊急に必要とされている。この計画を推進す るためNASAは昭和60年11月18〜20日メリーランド 州ベルツピル市でワークショップを開いた。私はこ れに招待され,電波研究所の降雨観測研究について 講演した。会議の結論として,昭和67年打上げを目 標に可視赤外放射計(AVHRR),マイクロ波放射計 (ESMR)及び2周波レーダを搭載した衛星を開発 することが合意された。これらのミッションは更に 宇宙基地による運用へとつながってゆく予定である。 2周波レーダ以外の上記センサは気象衛星NOAAあ るいはニンパスで運用中のものであり実質的にはレ ーダ衛星といえる。閉会のあいさつでNASA本部の 責任者は,「日本はこの分野で7年先行している。ぜ ひ協力を」と述べた。財政難の折ではあるが,積極 的に参加してゆくために努力したいと考えている。

(電波応用部長)




外国出張


CCIR研究委員会最終会議に出席して


 昭和60年9月16日から11月20日まで,ジュネーブ市立 国際会議場及び同市にある国連欧州本部の会議場で,国 際無線通信諮問委員会(CCIR)研究委員会(SG)の 最終会議が開催され,日本代表団総勢64名の一員として この会議に参加した。
 本会議の任務は,各国からの寄与文書を審議し,61年 5月ユーゴスラビアのドブロブニクで開催される第16回 CCIR総会に提出する文書を作成することであった。 ITUの財政ひっ迫による会期の縮少,通訳の数・処理 文書の量における制約にもかかわらず,参加者の努力で 多数の新しいテキストが作成された。上記総会の後,各 種の無線通信主管庁会議が予定されているので,テキス トの勧告化が特に奨励された。また,空席に伴う副委員 長の選挙がSGs,1,10,11において行われた。これら に加えて,サミット会談のあおりで会場が国連へ移った ことも今会議の特徴であった。

(電波部大気圏伝搬研究室長 古濱 洋治)



ヨーロッパの研究所訪問


 昭和60年9月21日から約1か月間,科学技術庁の中期 在外研究員として欧州4か国の7研究所を訪ねた。出張 の目的の一つは欧州の時刻標準の調査で,フランスの国 立原子時計研究所で光励起セシウム原子標準器研究,同 じく国立地球力学と天文研究所でレーザ光を静止衛星に 当てて時計を合わせるLASSO計画の準備状況,スイス のオシロクォーツ社で商用原子時計の研究・開発状況, 西ドイツ国立標準研究所でセシウムー次標準器の研究・ 開発と運用状況等を知ることが出来た。二つには電波研 究所と同じ様なレーザレーダの研究をしている研究所を 訪問し情報の交換をすることで,西ドイツ航空宇宙研究 所,同じくバッテル研究所,スウェーデンのルンド工学 研究所を訪ねた。感想として,いずれの研究所もじっく り着実に研究を進めており,欧州共同体の枠組の中で協 力しあい,競い合っているように思われた。

(通信技術部長 五十嵐 隆)



短 信


CS-2を用いた沖縄医療実験
−宇宙通信と二ューメディア展−


 郵政省,沖縄県,沖縄タイムスの主催で「宇宙通信と ニューメディア展」が2月6日から8日に沖縄本島の那 覇市と400km南の八重山群島の石垣市で開催された。離 島型テレトピアの推進等を目的に企画され,電波研究所 には衛星通信の公開実験の協力が要請された。検討の結 果,CS-2Kバンドの衛星アンテナゲインは沖縄では大き く低下していること,NTTのCバンド車載局は1台のみ 使用可能なこと等の条件から,両島間の通信は,石垣島 NTT車載局←衛星Cバンド→千葉NTT犬石局←地上回線→鹿島局 ←衛星Kバンド→沖縄本島電波研2m局の本土折返しC,Kバン ドによる2ホップで行うことになり,宇宙通信部衛星通 信研究室が実験に参加した。
 この公開実験では,TV会議システム利用の遠隔医療 診断,ビデオテックス等の伝送を行った。2ホップの遅 延やエコーは問題とはならなかったがNTTとの回線接 続では労力を要した。会場はNTTやメーカーのコンパ ニオンにより華やかで盛会であった。



科学技術週間に公開


 当所では,科学技術週間の一環として,所内の主要施 設を公開いたします。
 今回は,専門的な方々を対象としていますが,一般の 方にも分りやすい内容になっていますので,多くの皆様 の来所をお待ちしています。
 なお、,全所的な公開は夏(8月1日予定)に行います。
 日  時 昭和61年4月16日(水)10時から16時
 場  所 本所(小金井市貫井北町)
 公開内容
◎通信衛星CS-2による通信実験
◎ラスレーダによる上空気温,風速,風向の測定
◎マイグロ波映像レーダによるリモートセンシング
◎衛星による国際精密時刻比較
◎50GHz帯簡易無線装置を用いた映像伝送
など15項目です。