昭和61年度電波研究所研究計画


 今年度当所が重点的に進める研究分野として
 1 総合電気通信の研究
 2 宇宙通信の研究
 3 宇宙科学・大気科学の研究
 4 電波計測の研究
 5 電波に関する標準の研究
の5つを取り上げ,推進することとした。
 研究計画の主要な事項について以下に簡単に述ベ る。

 テレビジョン同期方式については,引き続き電波 伝搬実験等を行う。周波数資源については,ディジ タル移動通信の研究,40GHz以上の電波伝搬の研究 及び光領域の研究開発を継続するとともに,準マイ クロ波帯における陸上移動通信の伝搬に関する研究 を開始する。また,電磁環境(EMC)の研究を進める。 スペクトル拡散放送方式の調査研究を開始する。ア ンテナの近傍界測定システムの研究開発を引き続き 行う。

 CS-2によるパイロット実験計画の一環として, コンピュータネットワーク実験,新聞紙面等及びC ATV伝送実験を継続するとともに,中継器有効利 用実験等を行う。航空・海上衛星技術の研究開発に ついては,ETS-X/EMSS計画による地上シ ステムの開発及び通信システムの研究を進める。衛 星用マルチビームアンテナについては,これまでの 多くの成果を基に更に研究開発を進める。また,ミ リ波帯衛星通信技術,光通信の基礎技術等の衛星通 信に関する研究開発を開始する。

 中層大気国際協同観測計画(MAP)については, 流星レーダによるEs層の観測,標準電波ドップラ ー法による大気波動の観測等を引き続き行う。また, 国際電離層研究衛星(ISIS)及び電磁圏観測衛星 (DE)からの観測データを取得し,その解析を引き 続き行う。ミリ波太陽電波及びHα線の観測を行う。

 VLBIについては,日米及び日中の共同実験を 継続するとともに,国土地理院,緯度観測所との研 究協力を引き続き進める。雨域散乱計/放射計,F M-CWレーダの研究を進め,宇宙からの降雨観測 の可能性に関するNASAとの共同研究を引き続き 行う。また,環境庁国立機関公害防止等試験研究費 により,航空機搭載映像レーダ(SLAR)による海 洋油汚染等の観測実験及び成層圏の酸性大気汚染質 の測定を引き続き進める。科学技術庁振興調整費に より,レーザドップラー方式によるプラズマ流速の 計測法の開発等を行う。

 光励起型セシウムビーム周波数標準器の研究開発 及び衛星とVLBI利用による時刻の国際精密比較 実験を引き続き行う。また,SHF帯以上の電界強 度,電力標準の基礎研究を行うとともに,標準電波 の施設整備及び無線機器の型式検定等のための施設 整備を引き続き行う。

 本省からの研究調査協力依頼事項として継続11件, 新規3件を実施する。なお,宇宙開発事業団,文部 省の極地研究所及び宇宙科学研究所,大学,他省庁 等との共同研究や研究協力を行う。

 本年度は当所と民間との直接の共同研究が本格的 に実施される。厳しい研究予算下ではあるが,民間 の高い技術開発力と当所の研究能力を結集するなど により全体として大きな成果を挙げるよう一層の工 夫と努力を重ねていきたい。

 なお,次に今年度の研究調査計画一覧表を示す。

(企画調査部 企画課)






昭和61年度電波研究所予算概要


 昭和61年度予算は,昭和60年12月23日大蔵省原案 内示,12月28日閣議決定の上,第104国会で審議さ れ,昭和61年4月4日可決成立した。
 電波研究所の予算額は,41億2,608万7千円で前 年度予算額に対し8,333万1千円(2.0%)の減となっ ており,物件費に限っては1億2,767万9千円(6.5 %)の減となっている。事項別内訳は別表のとおり であるが,その特徴として
 1 新規事項として,「衛星通信技術の研究開発」, 周波数資源の開発の項目での「準マイクロ波帯 における陸上移動通信の伝ぱんに関する研究開 発」及び「太陽電波観測施設整備」が認められ たこと。また従来の計画を変更し延長したとい う意味では,実質的に新規の「40GHz以上の電 波伝ぱんの研究」も認められたこと。
 2 予算額に占める物件費(物件費率)が,前年 度に引き続き50%を割ったこと。
 3 予算には,昭和61年から62年度の国庫債務負 担行為限度額として,航空・海上衛星技術の研 究開発3億8,510万円,標準電波施設整備6,400 万円が含まれていること。
などである。
 また,増員要求で1名の増員が認められたものの, 複合システム研究室の増設は認められなかった。
 最後に,昭和62年度以降の予算であるが,衛星通 信技術の研究開発等の新規事項が認められたことや 国債の62年度歳出化等のため,後年度負担額が急増 する中で,58年度から連続するマイナスの概算要求 基準(以前は「シーリング」と呼んでいた。)を設定 する考えが伝えられているため,さらに厳しい予算 になるものと思われる。

(総務部会計課)





標準電波のはなし


小林 三郎

 標準電波は周波数と時刻の標準を供給するための 電波です。標準電波を英語ではどう言うのでしょう か。Standard radio waveとする人が多いと思い ますが,これは今あまり使われないようです。国際 無線通信諮問委員会(CCIR)の用語では, standard-frequency and time-signal emissionsとい う言葉を使っています。わが国の郵政省設置法でも “標準電波を発射し,標準時を通報する”と同じよ うな表現をしています。ついでにもう一つ,周波数 標準(frequency standard)と標準周波数( standard frequency)とはどう違うでしょうか?。これ もCCIR用語では,前者はその出力が精密な周波 の基準として用いられる発生器,後者は周波数標準 と既知の関係にある周波数,と区別しています。で すから標準周波数(標準電波)局の中にはオタワC HU局の7.335MHzや,モスクワRBU局の66×2/3k Hzのような端切れの悪い周波数もあります。

 昭和22年,アトランティックシティの国際無線主 管庁会議で,初めて標準電波専用に2.5と,5の整 数倍のいわゆる5MHzシリーズの周波数が割り当 てられ,続いて翌昭和23年,第5回CCIR総会 (ストックホルム)で,標準電波の運用に関する勧告 案が採用されました。その主な内容は5MHzシリ ーズ周波数発射の推進,周波数確度(正確さ)2× 10^-8の達成,報時信号の形式等についてでした。当 時,標準電波はWWV(米)とJJY(日)のみで, WWVH(ハワイ),MSF(英)とIBF(伊)が 試験電波を出し始めた頃であり,JJYは4及び8 MHz,確度は1×10^-7で,まだ報時信号も連続で はありませんでした。それが現在では5MHzシリ ーズの局が約20局,その他の周波数(17kHz〜150 MHz)の局が約25局にも達し,いづれも原子時計 を使用して周波数の確度は1×10^-11以上にも達して います。この中にはヨーロッパで,長波,中波帯の 放送波の一部が,標準電波としても利用出来るよう に運用されているものも含まれ,この外に電子航法 のロランC(100kHz)電波は,特にグローバルな 精密国際比較にも利用できるようになっています。

 日本の標準電波JJYは昭和15年,当時の逓信省 工務局が埼玉県岩槻に標準器を置き,千葉県検見川 から1×10^-6の確度で送信を開始したのが始まりで す。その後昭和24年に,東京小金井に標準器及び送 信所も移り,連続報時も開始しました。その小金井 も急速に都市化したため,送信所を昭和52年12月, 茨城県三和町のNTT名崎無線送信所に移し,小金 井市の電波研究所本所からの遠隔制御に変わって現 在に至っています。周波数は昭和32年には2.5,5, 10,15MHzの5MHzシリーズへの移行が完了し, 昭和49年には,それまで一時実験局であった8MHz が再びJJYに返り咲きました。

 短波標準電波の歴史の中で,周波数標準器の確度 が急速な向上を遂げましたが,短波の電離層伝搬に よる受信周波数の変動が供給精度の限界の支配的な 要因となって,1×10^-8以上の精度を期待するのは 無理でした。これを解決するため,また短波局の混 雑を避けるため,昼間は遠距離まで安定な地表波が 利用できる長波の活用が,CCIRの研究問題とし て取り上げられ,米国は昭和38年に60kHz,WWV B局の運用を始めました。電波研究所も昭和41年か ら40kHzによる標準周波数供給の実験局JG2AS を開設し,これによって原子時計も比較可能な10^-11 の受信比較精度が得られるようになったのです。

 さて,日本の周囲の外国標準電波にはどんなもの があるでしょうか。まずJJYより約10年前にスタ ートしている米国NBSのWWV(コロラド州フォ トコリンズ)と共に,我々に馴染みの深い局はWW VH(ハワイ,カウアイ島)です。この局は戦後の 昭和23年に開局し,中部並びに西部太平洋海域では JJYと共に最もよく利用されてきました。アジア では,中国の標準電波がBPVの局名で知られ,昭 和40年代の初めから上海で発射されていましたが, 昭和56年に古都西安の近くに移り,局名もBPMと 変わっています。この局は山西天文台が運用し,世 界時も報時している数少ない局で,協定世界時もJ JYなどと干渉を避けるため,20ms進めて送信し ています。しかし日本ではこの局の10MHzが全国 各地で良く受かるため,特にうるう秒調整のある前 後には,JJYの秒信号(協定世界時)と同局の世 界時が0.5秒交互にダブって聞こえ,利用者に混乱 を与えています。この外インド(ATA)が昭和34 年,台湾(BSF)が昭和44年に開局していますが, ATAは送信アンテナの指向性の関係で,日本では ほとんど受信出来ません。今一番新しい局は韓国の HLA局で,昭和59年11月に開局したばかりです。 周波数は5MHz 1波,週日昼間だけの発射なので, 西日本以外ではよく受からないようです。この局の 特徴は,秒信号の変調音が1800Hzと標準電波の中 で一番高いこと,及び毎分の韓国語の時刻アナウン スがあることです。

 オセアニア地域では,ニュージランドZLFS局 が2.5MHz,オーストラリアVNG局が4.5,7.5, 12MHzを出しています。シベリアからはRID局 (イルクーツク)が5,10,15MHzを4kHz高くオフ セットして発射しています。これは標準電波に割り 当てられた周波数帯域を有効に利用し,相互干渉を 避けようとする理由によるものですが,むしろ,他 局と4kHzのビート干渉を起こしています。

 表1に,昭和52年12月移転の際に改訂された現在 のJJY及びJG2ASの諸元を示しておきますが, よくJJYを受信しようとしても,8MHz以外で は前記の外国各局が同時に入ってくることがありま す。しかしいずれの局も周波数確度は10^-10以上であ り,ドップラーシフトも加わるので,10^-7精度の周波 数較正には問題はないのですが,精密な時刻較正に 利用する場合は注意が必要です。標準電波の報時信 号はCCIRの勧告に従って,各局1ms(実際に は0.1ms)以内に精密に同期した協定世界時(UT C;うるう秒調整を行う原子時)を送信しています が,報時信号の伝搬遅延時間を考慮しなければなら ないということです。耳で聞いたのではよく分かり ませんが,国内では,6千q離れたハワイからは約 21ms遅れ,2千7百qの西安からは20ms進めた 信号が9ms遅れ,結局11ms前に到着します。こ れらと,電離層で反射して1〜3ms遅れてくるJ JYの信号が重なって受かるからです。しかしこれ らの秒信号は,BPMが1kHz,WWVHが1.2k Hz,JJYが1.6kHzで変調されているので区別する ことができます。

表1 標準周波数局および標準周波数実験局の諸元

 短波標準電波は,現在報時信号が主に利用され, 1×10^-8より高精度の周波数比較は,これによる時 計の長期比較か,長波標準電波での位相比較によら なくてはなりません。アジア・オセアニア地域で長 波標準電波を発射しているのは,今のところ我が国 とソ連(イルクーツクRTZ,50kHz)だけです。

 もっと高精度で安定に利用できる新しい標準電波, 例えば衛星技術の利用など各国で研究をしています が,まだまだ解決すべき問題が多いようです。

(標準測定部周波数標準課長)




》滞在記《

CCIRに滞在して1年


高杉 敏男

 皆様お元気ですか。早いもので日本を発って1年 にもなり,私のオフィスからの眺めもまた1年前と 同じになりました。スイスは総面積約4万qで日本 の約1/10,四国を一回り大きくした様な形をして おり,その中で630万人の人々が生活しています。 どこから眺めても雪を抱く美しい山々と静まりかえ る湖,のどかな山村から構成されるスイスは,風景 画の国と称した人もいる程美しく,誰でも一度は訪 れてみたくなる国の一つです。


スイス レマン湖

 言葉に関しては大きく3つの地域に分けられ,フ ランス語はレマン湖及びフランス国境付近の地域で 全人口の19%に当たる人々によって話され,イタリ ア語はイタリア国境周辺の約10%の入々によって, ドイツ語は残りの地域で約70%の人々によって話さ れています。また,ラテン言語に近いロマンシュ語 を話す人々もいます。このため,スイスの中学高校 ではナショナル言語としてこれら3言語が必須であ り,大学入学資格検定試験マチュリテではこのうち 2科目以上の言語の試験を受けることになります。

 さて,私の住むジュネーブは過去に宗教改革で有 名なカルヴァン,思想家のジャン・ジャック・ルソ ーを輩出した町としても有名ですが,現在は1920年 に国際連盟本部(現ヨーロッパ国連本部)が設置され て以来,ITUを始めとする各種国連機関とともに 平和を象徴する国際都市としてその地位を不動のも のにしています。また,観光都市としても有名で, 春から夏にかけ,その時期に咲く花を町中にある花 壇に植込み訪れる観光客の目を楽しませ,145mに も昇る湖水の噴水もこの時は照明を灯し,美しいシ ルエットを投げかけるなどして観光事業にも大きな 力を注いでいます。

 ITUはジュネーブの中心コルナバン駅から東に 約2qの所に位置し,5角柱のタワーとバロンベと 呼ばれる直方体の二つの建物から成っています。C CIRの私のオフィスはそのバロンベ東側3階にあ り,北側の窓からは正面に総ガラス張りのWIPO (特許関係の国際機関)の建物,右手に重厚な国連ヨ ーロッパ本部ビル,パレ・デ・ナシオン,二つの建 物の間にはILOや国際赤十字の旗も整備された道 路と木立の間から見ることができます。また,遠く ジュラの山脈やジュネーブ空港から飛び立つ飛行機 も見え,申し分のない環境です。

 私の勤務するCCIRはカービィ委員長以下,技 術職14名と秘書等の一般職16名の計30名から構成さ れています。ITUの全職員が700余名ですから, いかに能率良く数多くの国際会議をこなしているか がおわかりでしょう。仕事の内容はまたの機会とし ますが,100%言葉の世界です。心安く仕事が出来 る様になるのはいつのことでしょうか。生活費は全 体的に約2倍かかりますが,日本と違ったスタイル で生活を楽しめるのも皆様のお陰と感謝しつつ,私 にとって記念すべきこの1年を振り返っています。

(企画調査部 企画課 主任研究官 在スイスCCIR)



短 信



第31回前島賞受賞



 3月11日,鈴木誠史総合通信部長は,(財)逓信協会か ら第31回前島賞を受賞した。
 本賞は,逓信事業の創始者前島密の功績を記念し昭和 30年度に創設され,逓信事業の進歩発展に著しく貢献す る業績等があった者に対し贈られるもので,今回は12人 が受賞し,当所からの受賞者としては12人目である。
 受賞の対称となった研究は,へリウム音声の了解性の 改善及び新雑音減少方式SPACによる音声品質の改善 に関するものである。前者は海洋開発の高圧下における ヘリウム海中居住において生ずる非常に歪んだ音声を大 きく補正し改善することにより了解性を大幅に向上させ る世界で初めての系統的研究であり,その成果が高く評 価された。また,後者は世界で提案されている種々の方 式の中で唯一の実用的方式として開発され,音声と雑音 の性質の違いを自己相関関数に変換するとこれらの分離 が非常によくなることに着目した新方式であり,雑音に 埋もれた音声信号の検出や雑音の減少にも著しい効果を もつことを実証した。
 これら2つの音声品質改善に関する研究成果は音声通 信や音声情報処理の分野だけでなく,言語学,民俗学な どの文化的研究分野にも多大に貢献した。



昭和61年度科学技術庁長官賞受賞


 4月14日,昭和61年度研究功績者として,中津井護音 声研究室長及び有賀規光計測研究室長は,科学技術庁長 官賞を受賞した。
 本賞は,昭和50年に創設され,科学技術に関する優れ た研究であって,しかも実用に供される可能性のある研 究に対し贈られ,毎年約40名が受賞している。研究功績 者の受賞者は当所において今回で10名となり,同時に2 名が受賞したことは,昨年度に続いて2回目である。両 氏の受賞テーマ及び業績概要は,次のとおりである。
 中津井室長 複合適応デルタ変調音声符号化方式の研 究
 業績概要 移動通信のディジタル化において適応デル タ変調方式に瞬時圧伸法とシラピック圧伸法の長所を新 しく生かした複合適応法を考案・導入することにより情 報ネットワーク及び移動通信への応用の道を開いた。
 有賀室長 レーザを利用した衛星姿勢の高精度検出 法の研究
 業績概要 飛翔体の姿勢の三成分を高精度に決定する ことを原理的に解明し,姿勢検出システム,高精度衛星 追尾,長距離レーザ光伝送技術等,衛星追尾の高精度化 の研究を総合的に行い,本検出法の有効性を実証した。



第10回電子通信学会学奨励賞受賞


 3月25日,通信技術部通信方式研究室三瓶政一技官及 び鹿島支所第二宇宙通信研究室若菜弘充研究官は,昭和 60年度電子通信学会学術奨励賞を受賞した。本賞の贈呈 式は,新潟大学で開催された昭和61年度電子通信学会総 合全国大会会場で挙行された。
 今回の表彰の対象となった研究発表題目は,三瓶技官 の,「二相PSKにおける隣接干渉波除去方式とその特 性」,若菜研究官の,「地球局アンテナ広角放射特性の統 計処理方法についての検討」である。
 本賞は,昭和51年に制定され,電子工学及び電気通信 に関連する学問,技術の奨励のため有為と認められる新 進の科学者または技術者に贈られる賞であって,受賞者 は全国大会において優秀な論文を発表した者で,大学の 学部卒業後10年未満,またはこれと同等と認められる者 の中から選定されることになっている。



逓信記念日表彰について


 4月20日第53回逓信記念日に際し,当所関係では大臣 表彰として事業優績団体1,事業優績者1名,永年勤続 功労者3名が表彰され,また,所長表彰として事業優績 団体1,事業優績者2名,が表彰された。
1 大臣表彰
 「陸上移動用スペクトル拡散通信方式研究グループ」
新しい陸上移動通信方式の開発の緊急性を深く認識し, 一致協力して多くの困難を克服し世界初のスペクトル拡 散新通信方式による実験システムを研究開発し,さらに その実用化の基礎を早期に確立するなど電気通信技術の 発展に多大の貢献をした。
 「総合通信部主任研究官 高橋寛子」
 旺盛な研究心をもって創意工夫をこらし,将来のコン ピュータネットワークの基礎となる衛星を利用したデー タ通信システムの研究開発を行い,情報通信技術の発展 に多大の貢献をした。
2 所長表彰
 「犬吠電波観測所」
 一致協力して多くの困難を克服し超長波電波の伝搬特 性測定処理システムを開発して電波警報並びに電波航法 の改善に多大の貢献をした。
 「情報管理部主任研究官 小泉徳次」
 「山川電波観測所長 大山治男」
 電離層観測技術の研究に長年従事した経験を生かし, 旺盛な研究心をもって観測記録の読取り技術を確立し電 離層研究の進展に多大の貢献をした。
3 永年勤続功労者
 塚本賢一 高橋耕三 小口知宏



航空機搭載マイクロ波映像レーダ,試験飛行を実施


 電波計測研究室では昭和59年度から3か年計画で,海 洋の油汚染監視を第1の目的とする航空機搭載マイクロ 波映像レーダ(SLAR)の開発を行ってきたが,このほ どシステムの主要部が完成し,去る3月24日瀬戸内海上 空から四国にかけて試験飛行を行った。この飛行ではS LARを取付けたことによる飛行性能への影響,送信電 力,パルス幅等レーダ特性とその安定性など,基本的性 能を確認した外,陸域,海域の映像データを取得した。 当日は雲が多く,また上空では15〜25m/secの強風が吹 く悪条件であったが,飛行状態,レーダ動作ともに十分 安定であった。また,雲を通して鮮明なマイクロ波映像 が得られ,SLARの性能が満足できるものであること が確認できた。
 今年の初夏と秋の2回,本SLARによる油汚染観測 実験を予定している。その他,船舶の捜索・救難,陸上 では植生分布調査等,多くの分野へSLARを応用する ための基礎研究に用いる計画である。



航空機搭載型DIAL(差分吸収)方式
レーザレーダの飛行試験


 本年3月,光化学スモッグ発生時のオゾンを測定する 航空機搭載型レーザレーダの飛行試験を行った。これは, 昨年度1波長で飛行試験を行った航空機搭載レーザレー ダを,今年度はオゾン測定用のDIAL方式とするため, 2波長のレーザレーダに改良して,その飛行試験を行っ たものである。DIAL方式とするための改良にあたっ ては,使用しているTEA(大気圧横放電励起型)CO2レ ーザの共振器を折り曲げ型とし,コンパクトでかつ高出 力を得ることのできるレーザとした。オゾン測定用DI AL方式レーザレーダとするには,CO2レーザの発振線 をオゾンの吸収線に同調する必要があり,このため共振 器の一方の鏡として回折格子を使用して同調を行っている。 飛行試験は,東京から相模湾上空の高度約1qで実施さ れ,2波長に改良したDIAL方式レーザレーダが,航空機 搭載用として十分な性能を有することを確認した。本年 夏のオゾン測定に向けて,現在さらに調整を行っている。



科学技術週間 所内一般公開


 例年,4月中旬の科学技術週間にちなんだ国立研究機 関の施設一般公開が全国的に催され,当所では4月16日 (水)10時から16時まで,主な研究施設の一般公開を実施し た。前日の雨もすっかりあがって絶好の日和となり,470 名近い方々が見学に訪れた。
 また,この日,本年から民間との共同研究を実施する ようになったことに伴い,共同研究に関する説明会を当 所大会議室で開催した。説明会には多くの会社からの参 加があり,当所に対する期待の大きさを深く感じさせら れた。