航空機搭載型炭酸ガスレーザレーダ


板部 敏和

  

はじめに
 レーザが発明されてから四半世紀たった。レーザ の基礎に関するSchawlowとTownesの論文は昭和 33年に発表され,その2年後にMaimanによってルビ ーレーザが発明された。レーザレーダも,レーザの発 明からすぐに,レーザの計測への応用の一つとして 研究が開始され,マサチュセッツ工科大学のFiocco とGramsは,昭和39年にルビーレーザを用いて成層 圏エアロゾル層のレーザレーダ観測に世界で初めて 成功した。
 レーザレーダはライダ(Lidar:Light Detection and Ranging)とも呼ばれ,レーザ光を光源として 用いるレーダの意味で,レーザ等の光学装置を使う 点で,通常のレーダとは大きく異なるが,基本的な 原理はレーダと同じである。当所でも,Fioccoと Gramsによる観測の1年後に,同じ成層圏エアロゾ ル層のレーザレーダ観測に成功している。
 成層圏エアロゾル層は,高度約20q付近にある硫 酸を主成分とする0.1μm程度の径の微粒子からなる 層で,火山噴火によって急激に増加する。最近では 昭和57年のエル・チチョン火山(メキシコ)の噴火 による成層圏エアロゾルの増加がレーザレーダで観 測され,そのときの増加は今世紀最大であったとい われている。
  

レーザレーダ
 当所でのレーザレーダの研究は,差分吸収と呼ば れるレーザレーダ(DIAL:Differential Absorption Lidar)の測定方式の提案とともに大気汚染測定へ の応用に向かい,その研究開発が現在まで続けられ てきている。
 通常のレーダは能動的リモートセンサ(Active Remote Sensor)である。レーザレーダも装置内にレ ーザを光源として持ち,そのレーザ光を照射するこ とで能動的に対象物を測定できる能動的リモートセ ンサの一種である。レーザは通常の電波と比較して 波長が極めて短いため,レーザレーダで測定される 空間分解能は通常のレーダより非常に良くなる(レ ーザ測距,レーザビーコンへの応用)。また,レーザ の波長は,原子・分子によって吸収される領域があ り,次に述べるDIAL方式のような方法によって 特定の原子・分子の測定に利用されている。
  

DIAL方式による大気汚染の観測
 大気汚染で問題となるのは,石炭・石油など化石 燃料の消費によって生じるSOx,NOx工等の一次汚染 物質,さらに,それらの光化学反応によって生じる オゾンを始めとする有機化合物等の二次汚染物質で ある。当所では,これらの汚染物質(主に分子)を DIALでリモートセンシングするための研究を, 環境庁と協力して行っている。
 DIAL方式は,汚染物質によるレーザ光の吸収 を利用しており,ある汚染物質測定のためにレーザ 光を大気中に照射して,汚染物質による吸収を測定 しようとするとき,測定対象物質以外のものによる 吸収や減光も同時に受けてしまう。しかし,DIAL 方式は測定光と参照光の2波長のレーザを使い,測 定対象物質以外のものによるこれらの影響を除去し ている。この2波長のレーザ光による減衰の差(差 分吸収)を求めることにより,結果的に測定対象物 質だけによる吸収が測定でき,汚染物質の濃度を求 めることができる。物質による光の吸収は,主に紫 外,赤外域にあり,DIAL方式も,紫外レーザを 利用するものと,赤外レーザを利用するものとがあ る。これらのDIAL方式は,大気中の分子測定用 として高感度であり,かなり実用的なものになって いる。
  

航空機搭載型炭酸ガスレーザレーダ
 現在,当所ではオゾン測定用の航空機搭載型赤外 の炭酸ガスレーザレーダを開発している。炭酸ガス レーザの波長9.5μmの発振線のところにオゾンの吸 収があり,開発中の炭酸ガスレーザレーダは,この 吸収を利用してオゾンを 測定する赤外域のDIAL である。図1に航空機搭 載型炭酸ガスレーザレー ダの概念図を,図2にそ の構成ブロック図を示し ている。


図1 航空機搭載型レーザレーダの概念図


図2 航空機搭載型レーザレーダの構成図

 航空機搭載型のレーザ レーダの研究は,諸外国 で盛んに行われている。 特に米国では,数十人乗 りの中型航空機に実験室 の装置をそのまま搭載す るような実験が多く行わ れている。従って中型の 航空機を使用すれば,実 際の測定を早い時期から行うことができる。一方, 小型の航空機を使用する場合は,装置の小型軽量化 等,搭載用装置の開発に時間がかかるが,開発後は 航空機の運航経費等はかなり安上がりになり,実用 的なシステムとなる。
 当所が実験に使用しているエアロコマンダー(10 人乗り双発プロペラ機)は,航空写真撮影用のもの で,床にカメラ用の約50p径の開口部がある。炭酸 ガスレーザレーダの送信及び受信望遠鏡がこの開口 部を通して地上を見ることができるように設計され ている。光学系は,軽量化のため厚さ60oのアルミ ニウムのハネカム板を光学定盤として使用し,その 上に炭酸ガスレーザを,下に送受信望遠鏡を取付け, ハネカム板自身はアルミニウムのラックの上に固定 されている。搭載型炭酸ガスレーザレーダは,航空 機上よりレーザ光を発射し,レーザ光をターゲット となるもので反射(散乱)させ,もどってきた光を 再び航空機上で受信し,その間のオゾンによる吸収 を検出しようとするものである。開発中の搭載型炭 酸ガスレーザレーダは2代目であり,最初のものは 地表面をターゲットとしたが,DIAL方式の2波 長間での地表面の反射率の差に関して未知の部分が 多く,オゾン測定の際に問題になった。そのため, 開発中のものは地上と航空機間に浮遊する対流圏の エアロゾル(大気のチリやゴミなどの微粒子,以後 単にエアロゾルという)をターゲットとする方式に 改良した。また,オゾン測定に利用する炭酸ガスレ ーザ2波長間のエアロゾルによる散乱の差は数%以 下であるが,地表面に比べてエアロゾルからの散乱 は極めて弱いことから,レーザとして尖頭出力の大 きなパルス型の炭酸ガスレーザを使用している。エ アロゾルによって散乱されたレーザ光は再び航空機 の床の開口部を通って口径30pの受信望遠鏡に入り, 赤外検出器に集光される。赤外検出器で光信号は電 気信号に変換されコンピュータで処理されるが,詳 しい解析は飛行後行っている。
  

飛行実験
 DIAL方式では2波長のレーザを必要とするが, 最初は,レーザレーダのターゲットとなるエアロゾ ルの空間分布及び散乱に関するデータ取得を目的と して,炭酸ガスレーザを1台搭載し,昭和60年2月 に飛行実験を行った。飛行実験は,東京の調布飛行 場から離陸後一旦相模湾に出て,鎌倉→横浜→新宿, そして再び相模湾にもどる航路で,飛行高度は1.5q であった。飛行機の床の開口部は赤外用になってお らず開放状態で行うため,機内は氷点下まで下がる。 このため,実験担当者は登山用の防寒具をまとって 実験を行った。
 飛行実験で得られたエアロゾルの消散係数(レー ザ光が1qでどのくらい減衰するかを示す量)の例 を図3に示した。図は波長10μmで発振する炭酸ガ スレーザレーダによって得られたもので,赤外10μm で見たエアロゾルの分布を示している。なお,エア ロゾルの屈折率と粒径分布については空間的に変化 しないと仮定して解析した。航空機搭載レーザレー ダによる広域のエアロゾル消散係数の測定は,日本 での例はなく,世界的にも,Nd:YAGレーザの近赤 外の1.06μm及び可視域のデータが得られているだけ で,炭酸ガスレーザのような赤外の波長でのエアロ ゾル消散係数分布の測定は初めてである。波長によ ってエアロゾルの見え方が違うので,炭酸ガスレー ザの波長でのエアロゾルの測定は,今までの可視近 赤外で得られている知見に新しいも のを加えることになる。


図3 エアロゾルの消散係数(q^-1)分布例

 飛行実験の結果,DIAL方式で オゾン測定する際に,レーザレーダ のターゲットとなるエアロゾルから の散乱を十分な強度で受信でき,こ れらの結果を基に装置をオゾン測定 用に改造した。昭和61年3月にこの オゾン測定用装置の動作試験のため の飛行実験を行った。本格的なオゾ ン測定実験は光化学スモッグが発生 しやすい夏期に行う予定である。

(電波応用部 光計測研究室 主任研究官)




EMCの動向


徳重 寛吾

  

はじめに
 私達の周囲には,雷放電等自然現象に起因するい わゆる自然雑音のほか,無線局から発射される電波 (電磁波)をはじめ,各種電気・電子機器及び自動車 などのシステム(以下,人工システムという)から放 射される電波雑音などの電磁エネルギーが存在する。 このように電磁エネルギーが存在する環境を電磁環 境といっている。
 電磁妨害の事例は古くからあった。例えば,自動 車から放射される電波雑音が無線通信に妨害を与え ることは,1923年にすでにマルコー二が発表してい ろ。しかし,人工システムはそれほど多くなかった ので電磁妨害の問題はあまり取り上げられなかった。 その後,人工システムが増加し密集して使用される ようになり,電磁妨害(EMI:Electromagnetic Interference)として取扱われ,主として発生源側 (例えば,蛍光灯,モータ,自動車のエンジン等)で 防止対策がとられるようになった。さらに最近では, 無線局等の飛躍的な増加に伴い,電磁妨害による機 器の誤動作や,構成素子の損傷が発生することもあり, 場合によっては人体への影響を考慮に入れる必要が でてきた。このため,電磁妨害を発生源側で極力抑 制するとともに,被害側にも耐妨害性(イミュニテ ィ)をもたせて電磁環境との調和を図ることが必要 になった。このようにして,それぞれのシステムが 他に妨害を与えることなく,また,他から影響され ることもなく,本来の機能が十分に発揮できるよう 共存させようとする概念が生まれた。これが電磁環 境下における両立性(EMC:Electromagnetic Compatibility)である。以下,EMCの現状や当面 の問題点,さらに将来の研究課題などを,これまで 当所が担当してきた分野について以下に述べる。
  

EMCの動向
 EMCの研究はいまだ完全な体系化がなされてい ないが,ここでは,次の三つの分野に分けた。
 (1) 電磁妨害の解析
 自然現象や人工システムから生じる電磁エネルギ ーの発生機構とその特性の解明,さらに伝搬経路や 被害を受ける原因を解明する。
 (2) 電磁環境の制御
 不要な電磁エネルギーを抑制する方策及び人工シ ステムが電磁エネルギーから受ける影響を軽減させ る方法とがある。具体的には,システムのEMI設 計,フィルタ,シールド等の妨害防止技術の確立, さらに,電磁環境を規制するための法律,規則,規 格,基準値の設定などがあげられる。
 (3) EMC測定技術
 電磁環境の測定法及び評価法,機器のイミュニテ ィ及び生体効果の測定法,あるいは,電磁遮へい材 料,吸収材料の特性の測定法及び評価法などの測定 技術を確立するもので,例えば,国際無線障害特別 委員会(CISPR)の国際規格に基づく測定法がある。
 以上の分野のうち,電気通信行政の二ーズに対応 した(2)の規準,(3)の電磁環境及びイミュニティの 測定技術の研究は,国立研究機関に適した課題であ るので,当所もこの分野を重点に行ってきた。
  

EMCの現状
 国際的な工業化標準規格を制定する国際電気標準 会議(IEC)の下部組織であるCISPRは,各種電 気・電子・情報機器から発生する電磁妨害の許容値, 測定法などの規格を制定し,これによって国際貿易 の促進を図ることを目的としている。ここでの最近 の話題としては,コンピュータなどからの電磁妨害 を担当するG小委員会が新しく設置されたこと,さ らにコンピュータなどの情報機器の許容値及び測定 法が決定され,公報22として刊行された。また,工 業,科学及び医療用機器の許容値の見直し,並びに 一般放送受信機のイミュニティの規格なども検討中 である。
 無線局を含めた個々の人工システムは,電波法や 上記の規格などに基づき,発生する電磁波のレベル が規制されているが,大都市のように不特定の多く の発生源から放射される電磁波エネルギーの総量に ついては現在特に規制されていない。図1はカナダ の大都市における無線局による電磁環境を代表的な 無線局の諸元から推定したものであり,当所でも同 様な測定結果を得ている。我が国でも,今糸さらに 無線局が増加した場合,実測データに基づく妨害発 生源の軽減策を含め、無線局の新設や運用に支障の ないよう行政面の適切な指導並びに措置をとること が必要になるであろう。


図1 無線局の電波による電磁環境(カナダ)

 生体効果については,主要各国で安全基準が設け られている。例えば,米国ANSI(American National Standard Institute)の基準値は図2に示 すようになっている。しかし,我が国では,電子レ ンジからの電磁波の漏れなどを除いて基準値はまだ できていない。


図2 人体に対する電磁波の安全基準(米国ANSI)

 妨害波の測定法に関して2,3の話題をあげる。 従来から妨害波のレベルは,一般にその振幅の準尖 頭値で評価してきた。しかし,被害側の妨害に対す る影響を評価する場合,これに適した評価量を用い ることが望ましい。このような例として,振幅確率 分布などが用いられることもある。従って,これら の測定値と準尖頭値とを関連づけることが重要にな る。
 野外における測定よりも,天候に左右されず一定 条件のもとで測定できる屋内,特に電波暗室で測定 する事例が多くなってきていろ。このため,野外測 定結果と比較して,室内の測定結果の違いを調べて おく必要がある。また最近は,コンピュータ制御の 妨害波測定器に広帯域アンテナを組合せて妨害波測 定を行うことも多くなってきた。これに伴い,広帯 域アンテナのアンテナ係数の較正法を確立すること なども必要となってきた。
  

おわりに
 今後,早急に進めなければならない研究課題とし て,電磁環境測定法,評価法及び予測法の確立,イ ミュニティの基準値及び測定法の検討,近傍電磁界 の測定法などがある。
 EMCにおける成果は,例えば,無線局の過密化 に対するシステム化に生かされて電波法に導入され るなどのように,行政に反映されて意味をもつ側面 が強い。関係各位の一層のご理解とご支援をお願い する次第である。

(総合通信部 電磁環境研究室 研究官)




》外国出張《

西ドイツ・マックスプランク研究所滞在記


五十嵐 喜良

 昭和60年1月から1年間,西ドイツのマックスプ ランク超高層大気物理学研究所に客員研究員として 滞在したので,その概要について報告する。

 西ドイツには,マックスプランク研究所と呼ばれ る研究所は60もあり,これらを統括しているのがマ ックスプランク協会である。公共の利益のために科 学研究をすることを目的とし,日本の理化学研究所 に似た組織形態をとる公立研究機関であり,物理, 化学,医学・生物学,人間科学分野の基礎研究を行 っている。その前身は,1911年に設立された王立の カイザーウイルヘルム協会で,戦後1948年にマック スプランク協会と改組された。相対性理論で有名 なアインシュタインを始め多数のノーベル賞受賞者 を輩出し,ドイツの基礎科学の発展に重要な役割を 果たしてきた。年間予算は約840億円,8,500名の職 員に加えて大学院生や客員研究員が2,700名もいる。 この内1,300名は外国からゲストとして来ている研 究者で,研究者の国際交流の面からみると大変うら やましい限りである。

 筆者が滞在した研究所は,フランクフルトから200 q程北にある大学町ゲッチンゲンの近くで,田舎町 のリンダウという所にある。近くには保養地で,魔 女がほうきに乗って空を飛ぶ伝説で有名なハルツ山 地が広がっている。職員数204名,客員研究員20名, 大学院生15名,年間予算約20億円程度でマックスプ ランク研究所としては平均的な規模の研究所である。 研究分野は,大気圏,電離圏,磁気圏,宇宙空間物 理,彗星の物理と幅広くエアロノミーと呼ばれる分 野を全てカバーしている。筆者は,極域の電離圏を 探査するEISCATと呼ばれる大型レーダのプロジェ クトに所属し,極域の電離層E領域の電子温度の異 常増加現象に関する研究を行ってきた。昨年7月に ESAのハレー彗星探査用の衛星GIOTTOが打ち上 げられた。研究所では,この衛星の観測ミッション の内5つを担当していた。10月には,この中でも特 に重視していたカラーカメラで地球の写真を撮るテ ストに成功し,皆大喜びであった。帰国後の3月14 日,ハレーの核に最接近したGIOTTOからの生中継 は実に感動的であった。

 研究所の半分近くは,各種の観測装置を製作する ワークショップが占めており,機械工や電気工など のマイスター(親方)がいて,職業学校の研修生の 受け入れも行っている。大型プロジェクトには専任 のプログラマーがいるし,論文の図面のトレースを してくれる図面室もあり,論文のタイプは秘書の仕 事である。このような研究活動をバックアップする 部門がきちんとしていると研究の効率も高まるだろ う。あるドイツ人に,先端技術の進んでいる日本か ら来て,ドイツからまだ学ぶ事はあるかというよう な意味の事を質問されたことがあるが,まだありそ うだというのが,率直な感想である。

 最後に,マックスプランク協会及び郵政省の関係 各位に深謝します。

(電波部 電波媒質研究室 主任研究官)


「赤ずきん」の舞台・アルスフェルドの祭りで



外国出張


米国光学会'85講演会に出席して


 昭和60年10月15日から18日まで,米国ワシントン市で 開かれた米国光学会(OSA)1985年講演会に出席するた め米国へ出張した。出席者は米国を主に世界各国から約 2,000人,講演数はポスターセッションを含めて約650件あ り,8会場に分かれて行われた。当所からは宇宙光学2 件,リモートセンシング1件,計3件の講演を行った。
 筆者は主として光計測関連のセッションに出席したが, 宇宙や地球の光計測ではやはりNASAからの講演が多く, 研究成果,将来計画ともに世界をリードしており,宇宙 観測では10m以上の大型望遠鏡が計画され,リモートセ ンシングでは200chを超える多波長観測が進められてい る。本学会の開催中,ワシントン郊外にあるNASAゴダ ード宇宙飛行センターの光学部門をいくつか訪問した。 従来の宇宙や地球の観測関連の研究の外に,最近半導体 レーザによる宇宙光通信の研究をMITとの共同研究と して始めており,今後衛星間光通信が世界的に大きなテ ーマとなることを改めて感じた。

(電波応用部 光計測研究室長 有賀 規)



第17回PTTIに出席して


 昭和60年12月3日から5日まで,第17回PTTI集会 (精密時間及び時間間隔の応用と計画集会)が米国ワシン トンD.C.で開催された。PTTI集会は,周波数制御シ ンポジウムと並び周波数1時間標準の分野で重要な国際 会議の一つである。本集会には,米国を中心に9か国か ら約230名の周波数標準関係の研究者が参加し,合計31 件の発表が行われた。今回の日本からの参加は筆者1人 であり,GPS(世界測位システム)衛星による国際時刻 比較結果及びGPS利用時刻比較に与える電離圏の影響 の評価に関する発表を行った。時刻比較関係では,GP S衛星利用が各国の標準機関で主力になってきており, それに関する発表がほとんどであった。GPS衛星によ る時刻比較に携わる筆者にとって,今回の参加は非常に 有意義なものであった。

(標準測定部 周波数・時刻比較研究室 主任研究官 今江 理人)



VLBIデータの高密度記録及び
日米時刻比較実験に関する調査・打合せ


 標記の調査・打合せを行うため,昭和61年2月26日か ら3月6日まで米国に出張した。
 昨年からCDP(地殻力学計画)本部では,VLBI生デ ータの磁気記録装置への記録密度を1桁上げた装置の試 験運用を行っている。このデータを相関処理する鹿島も, 早期に高密度化に対応しなければならない。その技術的 調査のため,NASAゴダード宇宙飛行センター及びヘイ スタック観測所を訪問した。その際鹿島への高密度シス テムの導人に対する協力を要請した。
 また,現在鹿島とUSNO(米国海軍天文台)とで行われ ている日米時刻比較VLBI実験では,精度において0.2ns を達成していろが,局内遅延が未補正なため確度は数ns にとどまっている。そこで当所で開発した遅延基準用標 準受信機を用いたゼロ基線干渉計による絶対時刻比較実 験をUSNOに提案し,相手局候補の一つであるメリーラ ンド局も訪問し,実験の調査のための打合せを行った。 順調にいけば今秋にも実験を行う予定である。

(鹿島支所 第三宇宙通信研究室 浜真 一)



Dynamics Explorer Science Team会議出席


 ホワイトハウスから北東へ約40qの所にあるNASA ゴダード宇宙飛行センターで昭和61年3月5,6日に開 催されたDE衛星科学チーム会議へ出席するため,3月 4日から9日の間米国へ出張した。この会議は年間3回定 期的に行われているが,当所からは今回初めて出席した。 昨年9月以降鹿島で行ったDE-1のテレメトリ受信結果 とプラズマ波の観測例の報告をした。これはNASA以外 の機関による初めての受信成功であり,多くの質問が寄 せられ好評であった。会議はDE関係者約70人が参加し て,43の研究,経過報告が行われ,チャレンジャー空中 爆発によるデータ中継衛星打上げの遅れと,NASA地上 追跡局の閉鎖延期の報告もあった。この外,高緯度磁気圏 における電子降下,対流電場,沿磁力線電流,電子温度 増加,プラズマ波等の新事実の解析結果,サンマルコと バイキング衛星等の紹介があった。6日夜は主催者のホ フマン博士宅の夕食会に招待され,旧交を温めた。

(第一特別研究室長 恩藤 忠典)





短 信



「電波じょう乱予報」テレホンサービス


 4月1日に「電波じょう乱予報」テレホンサービスを 開始して早や2か月近くになるが,これまでのところ関 係者の予想を超える利用状況となっている。4月の利用 件数は全国合計で1,947件(1日平均65件)であった。
 このテレホンサービスは,本所,平磯支所及び各電波 観測所(大吠を除く)の全国6か所に設置した自動応答電 話により,太陽活動,地磁気活動など短波通信に必要な 最新の予報情報を提供することを目的としている。サー ビス開始以来,太陽は概して静穏な状態が続いたが,4 月24日ごろ急に成長した黒点群から大小数回のフレアが 発生し,これに伴ってデリンジャー現象が発生した。こ れらの異常現象をテレホンサービスにより速報した。利 用者からは,さらに多くの情報がほしい,関西・中国・ 四国地域にもサービス電話を設置してもらいたい,パソ コン通信等の情報伝達手段も検討してもらいたいなどの 声が寄せられている。これらの要望についてはさらに検 討し,利用者の期待に応えられるよう努力していきたい。



TV放送波の位相変動測定


 総合通信部放送技術研究室では,東京タワーから送信 された放送波が,伝搬経路や伝搬路長によってどのよう な位相変動を受けるかを調査するため,@千葉県館山市 (76q:海上伝搬が主),A千葉県君津市(49q:海上伝 搬が主),B茨城県岩瀬中継放送所(86q:山岳伝搬が主), C群馬県沼田中継放送所(140q:山岳伝搬が主)の地点 で2月と5月に実験を行った。なお,( )内の数字は東 京タワーからの伝搬距離である。
 実験は,ルビジウム(Rb)原子発振器を参照信号とし て受信した映像搬送波周波数の位相変動を測定するもの で,同一チャンネルの日変化と,チャンネルを順次切り 換えてのチャンネル比較のデータを取得した。
 また岩瀬及び沼田中継放送所では,放送所の送受信ア ンテナの風による揺れの周期を光学的に測定した。測定 データは現在整理中である。



構内データ伝送システム実験


 総合通信部通信系研究室では,研究協力依頼に基づき, (財)電波システム開発センター(RCR)が開発を進めてい る構内データ伝送システムに関し,協力して実験を行っ ている。構内データ伝送システムとは,構内の比較的狭 いエリア内で,微小電力の1.2GHz帯の電波を用いて, やや高速の32kbps程度のデータを伝送するシステムであ り,コンピュータやOA機器のデータ伝送等を対象とし た新しい無線通信システムである。当研究室では,主に 1.2GHz帯の構内(室内及び屋外)におけろ電波伝搬特性 の測定を担当するとともに,当所構内で実施されるシス テム動作試験についての実験協力を行う。搬入された試 作装置による電波伝搬特性の測定は5月下旬〜6月に実 施され,この結果に基づいて,符号誤り特性等の総合的 なシステム動作試験が行われ,当所内での試験は7月中 に終了する予定である。この結果は,9月までにRCR の構内データ伝送システム開発部会でとりまとめられる。