GPSを用いた位置測定


塩 見  正

  

GPSとは
 GPSは米国のGlobal Positioning System(全世 界測位システム)の略である。図1に示すように6 つの異なる円軌道(周期12時間,高度約20000q)に 合計18個の航行衛星が打ち上げられる。これらの航 行衛星から送信される航法電波を受信することによ り,地表の位置が算出できる。米国は1980年代の終 りごろの実用化を目指し,現在いくつかの航行衛星 を打上げて実験的運用を行っており,受信方式に応 じて,100mから数m,さらには数pの精度で位置が 算出されることが確かめられている。人工衛星を用 いた測位システムとしては既にNNSS(米海軍の 航行衛星システム)が実用化されているが,これに 比べてGPSは地球上のどこでも,いつでも測位が できるという大きな特徴をもっている。


図1 GPS航行衛星の軌道と配置

 NNSSの航行衛星は高度約1000qの極軌道で, ユーザはこの衛星の発射する電波のドップラー周波 数偏移を測定して自分の位置を算出する。一つの衛 星が見える時間は10分間程度で,次の衛星が見える までに平均して1時間以上かかる。GPSの場合, 常に数個の衛星が見えており,測定時間も短時間で すむ。GPSは,1.6GHz帯(L1バンド)と1.2GHz帯 (L2バンド)で航法信号を発射している。一部の航 法情報は広く一般の利用者が解読できる。これによ り小型の受信機で簡単に100mから十数mの精度で位 置を知ることができる。自動車や船,飛行機などの 位置を知ることを始めとして,地図もない砂漠や山 岳などの測量にも有効である。航法情報を解読する ことなく衛星電波の処理を工夫して,数pの精度で 測位を行う手法・装置もいろいろ研究開発されてい る。このような高精度が得られると,精密測量や地 殻変動の観測などにも用いることができる。応用と して,人工衛星等の位置の決定や, 2地点間の時刻 比較にも用いることができる。
  

GPSによる直接測位
 GPS衛星から航法情報を解読することにより, 受信機の絶対位置を直接算出することができる。図 2はその原理を示したものである。すべてのGPS 衛星は複数個の高安定な原子時計(ルビジウム及び セシウム時計)を搭載しており,時刻信号を符号化 して送信している。したがって受信機の時刻と,航 法情報を解読して得られる衛星の時刻との差を計測 すると,衛星から受信機までの電波の伝搬時間に相 当する遅延時間が得られる。これは衛星までの距離 を測定することに等価である。衛星の位置は,航法 情報に含まれている最新の軌道要素から計算できる。 したがって3個以上の異なる衛星に対して上記の測 定を行えば,一意的に受信機の位置が求められる。 実際には,受信機の時計自体がずれている可能性が あるが,このオフセット量は,4個の衛星の観測デ ータを用いれば,受信機の3個の位置座標とともに 算出できる。なお,航法情報には電離層や対流圏内 での伝搬遅延の補正を行うためのモデル係数も含ま れている。


図2 GPSによる直接測位

 GPSの各々の航行衛星が発射しているL1,L2バ ンドの航法信号は50b/s(ビット/秒)の航法情報を 含んでおり,ともにクロックレート10.23Mb/sの擬似 雑音符号(Pコード:Precision Code)により周 波数拡散変調がかけられている。L1バンドの電波の み,さらに1.023Mb/sの凝似雑音符号(C/Aコ-ド: Clear Acquisition)により周波数拡散変調をかけ た信号も含んでいる。航法信号がこのような変調方 式によって周波数帯域にわたって拡散されているこ とも,GPSの特徴である。そのため電波妨害に強 い。また,各衛星ごとに異なる凝似雑音符号が割り 当てられているので,無指向性のアンテナで同時に 複数の衛星の電波を受信しても容易に衛星の識別が できる。
 一般に公開されているのはC/Aコードで,これを用 いて上記の方法により,100m〜30mの精度で受信機 の位置を算出することができる。クロックレートの 高いPコ-ドを用いると15mより高い精度に達する ことができる。しかし,このコードは現在のところ 米国の一部でのみ利用できる見通しである。
  

干渉法による精密相対測位
 2地点に置いたGPS受信機で航行衛星の電波を 受信し,その到来時間の差を精密に測定することに より,相対測位を行うことができる(図3参照)。 すなわち,ちょうどVLBI(超長基線電波干渉計) で天体電波源を観測して,基線の長さと方向を高い 精度で算出できるのと同じ原理で,2地点間の距離や, 一方に対する他方の位置を算出することができる。 この方法を広い意味で干渉法と呼ぶ。


図3 干渉法による精密相対測位

 直接法に比べて干渉法では,二つの受信機での測 定において共通の誤差(例えば伝搬遅延の大部分, 衛星の時刻誤差)などを相殺することができるとい う利点がある。また,受信方式を工夫して,航法情 報を解読することなしに,すなわちC/AコードやP コードを知ることなしに,二つの周波数の衛星電波 を有効に利用することも可能である。VIBIでは. 数十億光年の彼方の天体電波源を観測するために, 大口径のアンテナが必要であるが, GPSによる干 渉法では,天体電波源に比べはるかに強力な電波を 受信するので,小型で簡易な観測装置ですむ。ただ し,航行衛星の位置は,天体電波源の位置ほど正確 には求められないので,干渉法でVLBIに匹敵す る測位精度が出せる基線(2地点間を結ぶ直線)の 長さは数百q程度以内と考えられている。
 衛星電波の到来時間差を測定する方法はいろいろ 研究されている。主要なものは,拡散符号のクロッ クを再生する方法及び二つの周波数帯の航法信号の 搬送波を再生する方法である。いずれも,二つの受 信局で特定の時刻にこれらの信号の位相を計測し, それらの差をとるものである。ただし,このように して得られる位相差には360度の整数倍の不確定性 が含まれているので,その除去をデータ処理の過程 で行う必要がある。
 なお,C/AコードやPコードを用いない場合,受信 アンテナの指向性や,衛星ごとに異なるドップラー 周波数偏移などを利用して衛星を識別する必要があ る。観測時間は方式によって異なるが,数十分間か ら数時間程度である。
  

当所における技術開発と応用
 当所では,マイクロストリップアレイアンテナを 用い,C/Aコード及びPコードのクロックと再生搬 送波に対して位相計測を行う,いわば総合干渉型の 測位システムを開発中である。また,GPS衛星の 高精度軌道決定も含めて高精度パラメータ推定を行 う解析ソフトウェアの開発も進めている。
 直接法及び干渉法とも,要求精度に応じて広く利 用分野がある。特に,地上の測位に限らず,宇宙に おける測位,すなわち,各種の人工衛星等の軌道測 定への応用も進むであろう。図4はその例として, 低高度の人工衛星の精密軌道決定への応用を示して いる。低高度の衛星の軌道を高精度で決定するため には,多数の地上局からの追跡が必要であるが,全 天に分布するGPS衛星を利用した干渉法による精 密測位で大幅な精度向上が期待できる。


図4 GPSによる低高度人工衛星の精密軌道決定

 我が国においては,精密測量や地殻変動の測定等 の目的にGPS測位装置を用いることへの期待も大 きい。上述のように長基線では衛星の位置精度が問 題になる。したがって,当所では関係機関の協力も 得ながら,日本独自に衛星の軌道を正確に決めるた めの追跡ネットワークを整備し,高精度軌道情報を 算出するシステムに関する研究も進めたいと考えて いる。

(企画調査部 企画課 主任研究官)




第4回SSLGに出席して


宮 崎  茂

  

1. はじめに
 標記会議が昭和61年6月26,27日にワシントンの 米国航空宇宙局(NASA)本部で開催され,筆者 が日本代表団の一員として出席した。ここでは会議 の模様,合意に達した事項,特に当所の参加協力プ ロジェクト,そして当該プロジェクトに関する打合 せのためジェット推進研究所(JPL)及びゴダー ド宇宙飛行センター(GSFC)に立ち寄ったので その模様について述べる。
 宇宙分野における日米常設幹部連絡会議(SSLG :Standing Senior Liaison Group)の目的は宇 宙分野における日米間の協力を推進することであり, 両国の宇宙開発の現状及び将来計画についての意見 交換並びに既存協力プロジェクトのレビュー,さら に新規協力プロジェクトの提案,審議を行うことで ある。
  

2. 会議の模様
 日本側の出席者は斉藤宇宙開発委員会委員を始め とする15人であり,米国NASA側はフレッチャー 長官を始めとする幹部とプロジェクト担当者及び関 係者の計21名である。
 会議第1日目はフレッチャー長官による歓迎の挨 拶と米国側メンバーの自己紹介に始まり,続いて斉 藤委員の挨拶と日本側メンバーの自己紹介で会議の 幕をあげた。
 フレッチャー長官の挨拶のあらましは次のとおり である。最初に日本のH-T計画が順調に進展して いることに讃辞を述ベ,次にスペースシャトル計画 の継続を強力に行い,宇宙基地計画を従前どおり進め たいので,日本の役割を大いに期待し,一層の前進 をさせたいと述べた。
 最後に前日3人の日本人PS(シャトル搭乗科学 技術者)に会ったが,非常に精神的な高みを感じた。 3人で協力して任務を完遂しようとする意気込みを まのあたりにみて感銘を受けた。
 続いて,斉藤委員から次の趣旨の挨拶があった。 チャレンジャー事故の徹底的調査には敬意を表する。 そしてメモリアルサービスに出席したが,そのとき の決意表明に,チャレンジ精神をもって,再び米国 は壮大な宇宙開発に取り組むことを示したことに大 きな感銘を受けた。日本も欧州宇宙機関(ESA) と同じく1990年代完成の宇宙基地計画に参加し貢献 する。シャトル計画にも第一次材料実験(FMPT), 粒子加速機による宇宙科学実験(SEPAC)そし て地球磁気圏尾部探査衛星(GEOTAIL)の各 プロジェクトで参加する。
 以上の挨拶のあと,斉藤委員とエデルソン宇宙科 学応用局長が議長を務め議事に入った。最初にエデ ルソン局長から米国の宇宙開発政策及び宇宙科学応 用局の開発プログラムについて報告がなされた。次 にモーザー宇宙飛行局次長からシャトル飛行計画に ついて報告がなされた。その中で事故に関連してロ ケットのシール部の部分模型を使って改良方法の説 明があった。また,飛行再会初年は6〜7機,2年 目は9〜11機,3年目は12〜15機との説明があった。
 午後は日本側の説明から始まった。まず内田科学 技術庁研究調整局長から日本の宇宙開発政策,小田 所長から宇宙科学研究所の主要プロジェクト,大澤 理事長から宇宙開発事業団の主要プロジェクトの報 告がなされた。
 次に18項目の既存協力プロジェクトのレビューが 行われ,進捗状況を確認した。この中で三つのプロ ジェクトについて終了の提案がなされた。
 また,新規協力プロジェクトに関して米国から4 項目,日本側から7項目について提案された。審議 の結果6項目にまとめ採択した。なお日本側の残り の1項目は既存プロジェクトの内容の発展で,改名 である。表に協力プロジェクトの一覧を示す。


表 宇宙分野の日米協力プロジェクト課題名

 翌6月27日の会議は最初に米側から協力プロジェ クト計画会議設置の提案があった。審議の結果,宇 宙分野での協力をより活性化するため,これをSS LGの枠組の中に設けることで合意し,議長として 米側エデルソン局長,日本側内田局長を指名した。 また,サブグループとして次の五つの分野を決めた。 (1)天体物理学,(2)太陽系科学,(3)ライフサイエンス, (4)地球観測,(5)微小重力科学。
 会合は毎年1回開くことにし,第1回目は今年末 に東京で開く予定である。
 次にホッジ宇宙基地局長から宇宙基地計画の報告 がなされ,日本及びカナダは既に参加が決定してい るがESAはまもなく参加決定の見込みであるとの 言及があった。続いて21世紀初頭に実現を目指す, 意欲的な計画ニューオリエントエクスプレスの概要 が紹介され,また,国際宇宙年(1992年)の提案がな された。これはアメリカ大陸発見500年記念及び国 際地球観測年(IGY)35年記念にあたる年でもある。
 引き続いて開会の辞が双方から述べられ,1日半 にわたる会議が終了した。
  

3. 当所関連協カプロジェクト
 (1)地殻プレート運動の研究
 昭和59年度から本格的な共同実験段階に入り,V LBIによって史上初めて,太平洋プレート上のハ ワイ等の島が日本列島に接近していることを実証し た。今回1989〜1993年の5か年延長が同意された。
 (2)実験用通信衛星データの交換
 従来どおりデータ交換を継続することを確認し,さ らに今後内容を検討することが提案された。
 (3)熱帯降雨観測衛星計画
 当所で開発したマイクロ波2周波散乱計をこの衛 星計画に反映させ,宇宙から地球全域の降雨を直接 観測することを目指す。
 (4)宇宙空間VLBI
 VLBIシステムの一つを人工衛星に搭載するこ とによって,革命的に角度分解能を向上させ,電波 天文,深宇宙機の軌道決定等に役立たせる。1990年 代にはソ連,ESA及び日本がVLBI衛星をそれ ぞれ2,1,1個づつ打ち上げて100万qのベース ライン上で観測する素晴らしい計画をたてている。
  

4. JPL及びGSFC訪問
 宇宙空間VLBI及び深宇宙ネットワーク局(D SN)と鹿島局による共同実験打合せのためJPL を訪れた。また,GPS測位装置の開発に関して意 見を交換した。その合間に時刻標準研究グループの 実験室も見学した。相関処理研究のためJPLに滞 在中の杉本裕二主任研究官には1日中付き合っても らい,すべて首尾よくことが運んだ。会った人の多 くが日本と是非協力して研究を進めたいと真剣に考 えていることが良くわかった。
 次にグリーンベルトにあるGSFCを訪ねた。こ こでは現在鹿島とVLBI共同観測を行っているグ ループと高密度記録ヘッド,他の懸案事項について 話し合い,良い結果を得た。さらに熱帯降雨観測衛 星計画の推進者にも会い,熱心な説明を受け協力を 求められた。ここでも降雨レーダの研究及び観測の ために滞在している中村健治主任研究官に会合の 設定をしてもらい,すべて順調にいった。
 最後に多くの方々から御援助頂いたことに感謝し ます。

(電波応用部長)




外 国 出 張


中国上海天文台及びVLBI関連機関を訪問して


 1986年5月26日から6月20日まで日中米VLBI共同 実験の支援と中国の将来のVLBI関連施設調査のため 中国に出張した。上海天文台では昨年9月のK-3装置 による初の日中VLBI実験の成功を踏まえて,本年米 国MarkV装置を新たに導入し実験に臨んだ。実験は最初 機器の異常動作が続出し調整に苦労したが,最終的には 有効な24時間分のデータを取得することができた。これ らのデータによりユーラシアプレートの動きと電波源の 構造に関する新たな知見が得られるものと期待している。
 また,上海天文台余山地区では中国VLBIネットワ ークの基地局となる25mのアンテナの建設現場を見学、雲 南天文台(昆明)でもネットワークの南端を占める10m鏡 及び関連施設を見学した。さらに,南京の紫金山天文台 では,ミリ波アンテナ用の受信機開発状況を見学し,中 国が今やVLBIを含めた宇宙新技術において世界的レ ベルへ到達する飛躍期にあることを強く感じた。

(現 通信政策局 技術開発企画課 国森 裕生)



衛星ビーコン応用研究葉会に出席して


 昭和61年6月9日から14日までの間,フィンランドの オウルで衛星ビーコン応用研究集会が開かれた。これは 国際電波科学連合(URSI)に属する衛星ビーコンを用 いた電離圏研究グループ(Beacon Satellite Group)に よって,1970年以来ほぼ2年ごとに開催されている研究 集会である。講演は伝統的に電離圏物理に関するものが おおく,今回は特に中緯度電離圏に関するものが多かっ た。また今回は,地球−宇宙間の電波伝搬,特に計測分 野へも研究対象を広げていこうという主催者の意向も あって,測地学や電波天文学に関するセッションが設け られていた。参加者は18か国から51名であった。筆者は ETS-Uの136MHz電波を利用して得られた中緯度電離 圏の全電子数とシンチレーションについての研究成果2 件(後者は代読)を発表した。大きな国際会議と違って, 参加者のほとんどが顔なじみで,会場はもとより,ホテ ルや乗物の中でも,にぎやかな討論や歓談が絶えず,打 ち解けた雰囲気の集会であった。

(電波応用部 電磁波利用研究室長 皆越 尚紀)



国際通信会議(ICC'86)出席及び
CRC研究所訪問記


 昭和61年6月22日から25日まで,カナダ・オンタリオ 州の州都トロントで開催されたICC'86に出席した。翌26 日には約500q離れた首都オタワにあるCRCを訪問し た。ICC'86は,市内のシェラトンセンターホテルで開か れ,60のセッションに別れて発表・討論が行われた。今 回のテーマは、“通信による世界統合”と“世界的通信情報 網”ということでISDN,光ファイバー通信に関する セッションが多かった。興味あるセッションとして「衛 星通信と光ファイバー通信のトレードオフ」があった。 光ファイバーでは決して対抗できない領域は移動体衛星 通信であるとの発表には,私のみならず多くの人が同感 の拍手を送ったに違いない。筆者は「移動体衛星サービ ス」のセッションでEMSS用航空機地球局について発 表した。最終日にかかわらず300名程の参加があり,発 表後に,共同研究の申し入れをされるなど,EMSSに 寄せる関心の高さを実感した。CRCでは,カナダのM SAT計画とEMSSの情報交換をした。

(宇宙通信部 移動体通信研究室 主任研究官 大森 慎吾)



EMC'86シンポジウムに参加して


 標記シンポジウムが昭和61年6月24日から26日まで、 ポーランドのブロッラウ市で催された。本シンポジウム の内容は,我々を取巻く自然雑音から各種人工雑音の特 性の研究及びそれらの社会や生体への影響,更に雑音と 周波数管理の関係にまで及ぶ広範なものである。参加者 は,5人の日本人を含む215名であり,開催地のためか、 東欧やソ連からの参加者が目立った。
 筆者はISS-bによる電離層上側の短波雑音の特性 について発表した。ソ連でもほぼ同時期に衛星を上げ, 同様のデータの解析を行っており,我々の結果は大いに 注目された。
 電磁環境の研究の重要性が近年急速に高まってきた が,例えば生体との関連などのように,いまだに学問と して十分整理,体系化されていない部分も多いように見 うけられた。

(沖縄電波観測所長 上瀧  實)





短 信



VLBI実験グループがNASA長官賞を受賞


 国際的に注目すべき成果を挙げている当所のVLBI 実験グループは,1985年12月11日付けで,NASAのベッ グス長官(当時)からグループ表彰の栄誉を受けた。
 表彰状の文面(和訳)は,以下のとおりである。
 米国航空宇宙局(NASA)は,6か国のメンバーか らなるGAPE(Great Alaska and Pacific VLBI Experiment)チームが1984年夏期に行った,アラスカ,カ ナダ,太平洋,欧州そして日本の遠隔地域間の先駆的V LBI実験の顕著な業績を称え表彰するものである。
 1985年12月11日,ワシントンD.C.において署名
      NASA長官 ジェームス ベッグス
 表彰状は,当所においてVLBI研究に先頭に立って 活躍してきた高橋冨士信(電波応用部),川口則幸(鹿 島支所)の両氏と川尻矗大現宇宙開発事業団調査国際部 次長と河野宣之現九州東海大学助教授に贈られた。



EGS(測地衛星:あじさい)の光学観測に成功


 測地衛星EGSが8月13日午前5時45分H-Tロケット で打上げられた。当所では宇宙開発事業団(NASDA) より本衛星の光学的な追跡を依頼され,過去数回の予備 実験を行い万全の体制で本番に臨んだ。打上げ後8周目 からは夜間になるので光学観測/追跡が可能になる。第 1回目は,南西の方向仰角約40°の位置に衛星追尾光学 装置の望遠鏡をセットし,午後8時37分30秒同衛星の通 過を待った。口径10pの屈折望遠鏡と50pの反射望遠鏡 に各々超高感度テレビカメラを組合せた光学システムで同 時に観測できる仕組みである。8時36分20秒(NASD A発表の予報より約1分10秒早く)広視野の10pの望遠 鏡の端を通過するのが確認された。次の軌道の9周目は 補正をし,同衛星を光学システムの視野の中心に捕捉し て完全な追跡を行い,角度データの取得と同時にパルス 状に光る同衛星の像をVTRに連続録画することに成功 した(写真)。14日未明まで4パス追跡を行い,追跡デ ータを基に軌道予報値が改良され同衛星の軌道がほぼ確 定された。これによって当初の目的は予想以上の成績で 達成された。




SLARによる油汚染観測実


 海上の油汚染監視を主目的に,電波計測研究室で昭和 59年度から開発をすすめている航空機搭載映像レーダ (SLAR)は,昭和60年度末にその主要部が完成したが, 本年8月9,10日の両日,本SLARによる初めての 油汚染観測実験を,和歌山県串本沖南々西約100qの海 上で実施した。両日とも天候は「晴れたり曇ったり」, 海上の風速4〜6m/sというまずまずのコンディション であった。今回の実験では海上にオレイルアルコール 180l,72l,18lによる3種類の擬似油汚染域を作成し, それらを含む海域の映像データを取得するとともに,汚 染海面及び清浄海面の散乱特性について種々の入射角, 方位角で測定した。また,八尾空港近辺の空地に,コー ナリフレクタを設置し,SLARのアンテナパターン測 定を行った。詳細なデータ処理・解析は現在行っている が,油汚染観測については,機上のAスコープでも3種 の油汚染域すべてが極めて明瞭に識別され,本SLAR の油汚染検出能力が満足できるものであることを確認し た。



“秋田博”大成功で終わる


 秋田博'86は『明日の秋田が見えてくる』をメイン テーマに開催され,8月24日に38日間の幕を閉じた。 秋田電波観測所では郵政館に50GHz帯簡易無線局を使用 したテレビ会議と郵政省推薦方式によるパソコン通信の 例として電子掲示板と電子メールを出展した。
 パソコン通信ではいろいろな質問が寄せられ関心の高 いことが伺われた。テレビ会議では子供から高齢夫婦ま で多くの方々の興味を引き,テレビに映る母親に向かっ て歌をうたう女の子のほほえましい光景や,耳の不自由 な方が手話で楽しそうに話している姿などが見られた。 更には,中国の女子ソフトボールチームや東南アジアか らの研修生一行等のさまざまな国の言葉も行き交い,入 場者37万人を超える盛況のもとに終わった。
 この秋田博への出展にご協力をいただいた富士通,ロ ジック・システムズ・インターナショナルの関係の方々 に感謝いたします。