宇宙通信:2000−2050


飯田 尚志

 宇宙と通信という両先端技術の結合した宇宙通信 の半世紀以上先の未来形態を論ずることは,至難の 技である。しかし,未来の宇宙通信の活躍する場は 見当がつくかもしれない。本文は,標題に対してこ の観点に立って考えた一つのアプローチである。以 下では,まず未来における通信エリアの拡大と通信 手段について,一つの予想を述べた後,人類が活躍 する場での通信需要の予測,それに対処するための 新しい技術の必要性を考察す る。また,開発途上国の通信 問題についても簡単に言及す る。
  

通信工リアの拡大と通信 手段
 通信は人類の活動と対に なっており,未来の通信の場 が拡大するということは,人 類の活動する場が拡大するこ とを意味している。2000〜2050 年のタイムスパンでの通信 活動の場としては,図1に示 すように,4エリアに分類し て考えることができよう。そ の理由は,以下のとおりである。まず,最近発表さ れた米国国家宇宙委員会報告書(Paine Commission Report) においては,2017年までに有人月基 地,2027年までに有人火星基地を建設するというプ ログラムが盛り込まれている(図2)。このことか ら,人類の活動の場は第1エリアは地球上,第2エ リアは月,火星圏程度までを考えるのが妥当であろ う。第3のエリアは,通信としての最長距離を考え る。この場合, Voyager-2の2050 年に到達する距離 を考えるのが適当 であろう。その距 離は,およそ1兆 q(36光日,地球 −静止衛星間距離 の2600万倍)とな ろう。第4のエリ アは,これより外 側の領域で,将来 においても電波天 文またはCETI/ SETI(地球圏外 高等生命体との通 信及び探査)の領 域となろう。


図1 未来通信エリアの拡大


図2 米国国家宇宙委員会報告書による将来計画

 このような通信 の場におげる通信 手段としては,@ 電波,A光,B ニュートリノ(中性微子),C重力波,DESP (超能力),が挙げられる。B〜Dについては,郵 政省において未来通信メディアとして研究会も開催 されている。しかし,宇宙通信においては,将来も 主流は,電波及び光であると考えるのが妥当であろ う。
  

通信需要の増大・多様化と新技術の必要性
 現在,2000年程度までの衛星通信需要の調査が盛 んに行われている。一例として,世界の衛星通信需 要は増加率19.2%で増加し,2000年の時点で36MHz 帯域帽トランスポンダ約1万個(約600Gb/s)と する調査結果もある。将来の宇宙通信の需要がこの ままの増加率で増加することは予測できないし,地 上においては光ファイバ通信の割合がかなり増すこ とも考慮する必要があるかもしれない。しかし,仮 に年5%の増加率としても,図3に示すように2050 年に,約7000Gb/s(36MHz帯域幅トランスポン ダ約10万個)の需要となり.現在規模の静止衛星が 5000個程度必要となると考えられる。


図3 2050年までの衛星通信需要予測

 ローマクラブによる予測によると,2000年に安定 化政策が導入された場合の世界モデルにおいても, 2050年までは,GNPは増加するとされている。GNP と通信需要とは相関があるので,将来の通信需要 は,かなり増大するとみるのが妥当であろう。
 静止軌道は有限であるので,将来は大型の静止プ ラットフォームが利用されるとしても,2050年に は,これが数十〜数百個必要となってしまう。この ように考えたとき,21世紀の第2四半期には,超大 型の静止プラットフォーム又は何らかの新しい衛星 通信技術が必要になってくるものと想像される。
  

開発途上国の通信の問題
 通信システムを支える社会基盤(インフラストラ クチャー)が現在十分に整備されていない開発途上 国においては,先進国が歩んだ道をたどるのではな く,一足飛びに先端技術である宇宙通信技術を導入 することが有効な場合もある。特に,アジア,オセ アニア,アフリカ等の広大な地域での通信・放送へ の衛星技術の導入は極めて有効である。
 衛星による放送が国の統一に偉力を発揮すること はもちろん,教育や広範囲な情報の伝達を通じて文 化的基盤の向上に大きな役割を果たす。途上国におけ る国の統一,安定,文化的基盤の向上が人口問題や 食糧問題の解決をより容易にするものと思われる。
 途上国に対する宇宙通信の導入は,現在の技術で 十分可能である。ただし,途上国においては最初か ら大容量の通信システムを導入するよりも,むしろ 簡易な,かつ安価なシステムから導入していくこと がより有効と考えられる。構想を練り,資金援助及 び途上国の理解を得る地道な努力の積み重ねによ り,2000年までには,実現を期待したい。もし,2000 年までに,途上国の通信インフラストラクチャー が整備されれば,21世紀には成長期に入ることが期 待できる。
  

未来技術への視点
 技術の開花には需要が必要である。今から2000年 前のヘレニズム文化において,既に産業革命寸前の 時期に匹敵する技術的蓄積,その上,富の蓄積さ えもがあったにもかかわらず,当時の奴隷制社会で はその“動機”に欠けたため,開花しなかったとい うことである。ここでの“動機”を“需要”と解釈 してもよいであろう。これは,時代精神とか文化的 文脈にも左右される問題でもあるが,このように需 要が技術の推進役であることは今後も変わりがない であろう。
 一方,技術革新が新しい需要を喚起することはあ ろうが,その技術が本当に開花するのは大きな需要 が生じてからではないであろうか。
 このような需要は人間の活動によって生ずる。ま た,将来の高度情報社会は決してユートピアでは なく,激動する活動がなければ新しい情報は発生し てこないことにも注意する必要があろう。この場合 大切なことは,通信需要の増大及び多様化により, 衛星通信か光ファイバかというような議論よりも, 使い得るものはすべて使わなければ,需要が賄えな い時代が来るであろうということである。
 最後に,技術者/研究者にとっては,誰にとって も同様かもしれないが,新しい技術(プロジェク ト)の発端から関係して仕事ができるときが一番幸 せだと思うが,将来このようなチャンスがどれ位あ るか興味あるところである。
 なお,本文について詳しく知りたい方は,末尾に 本文に関する文献を載せたので参照して頂きたい。
  

本文の背景
 米国航空宇宙学会(AIAA)は,本年ワシントン で非公式,非行政的なワークショップを開き,2015 〜2035年の間に可能な宇宙利用と探査の概念を討議 することを計画している。この動きに対応して,国 内の議論を活発にするため,各種シンポジウムが開 催されていくことになると思われるが,その一環と して,本年3月宇宙科学研究所で第6回システム計 画研究会が開催された。本文は,同研究所の長友教 授の依頼でその研究会で発表した論文を基にまとめ たものである。

(宇宙通信部 宇宙技術研究室長)

◎ 飯田:“静止プラットフォーム”,ITU研究,No.168,昭 和61年2月28日.
◎ ミードウ:“成長の限界”,大来武郎訳,ダイヤモンド社,  昭和54年6月.
◎ “昭和59年度通信に関する現状報告”,郵政省,昭和59年.
◎ バナール:“歴史における科学”,鎮目恭夫訳,みすず書房, 昭和44年3月.
◎ 今井賢一:“情報ネットワーク”,岩波新書,昭和60年1月.




日中共同VLBI実験


川口 則幸

  

はじめに
 昭和58年10月の第2回日中科学技術委員会で,日 中共同VLBI実験の実施が合意されて以来,昭和61 年度からの実験開始に向けてさまざまな準備がなさ れてきた。昭和60年9月には準備の最終段階として 24時間のVLBI観測が鹿島26mアンテナと中国科学院 上海天文台の6mアンテナとの間で実施された。昭和 61年6月には第1回の本実験が同一基線上で行われ ている。昭和62年3月には上海市郊外の余山局に開 口径25mの大アンテナが完成する予定で,更に高精 度な実験結果が得られるものと期待されている。こ こでは日中共同VLBI実験の目的と,既に実施され た予備実験結果についての報告を行う。
  

日中共同VLBI実験の目的
 図1に日本列島周辺の地殻プレート構造を示す。 プレートテクトニクス理論によると,地球表面は十数 枚に分かれた冷く固いプレートで覆われており,それ らのプレートはマントル対流や自重によるマントル 内への沈み込みなどで絶えず動き続けている。特に 日本付近では四つの巨大なプレート(北米プレート, ユーラシアプレート,太平洋プレート,フィリピン海 プレート)が接合しており,それらのプレートの相対 運動によって巨大地震や活発な火山活動が頻発して いる。また,日本列島の東北部(図中斜線部)が北米プ レートの一部なのか,それともユーラシアプレート に属するものなのかいまだ結論が出されていない。 この未知の部分に属する鹿島局の対北米プレートの 動きは,日米共同VLBI実験によって測定されつつあ るので,日中共同VLBT実験で鹿島局の中国大陸に対 する動き(年1.3pと予測されている。)が測定されれ ば,この問題を解決する重要な資料となるであろう。


図1 日本列島周辺の地殻構造図と日中共同
   VLBI実験基線(破線の基線は将来計画)

 また,長期的地震予知にとって重要な太平洋プレ ートとフィリピン海プレートの運動のうち,前者に ついては日米共同実験によって測定されつつある が,後者についてはいまだ直接測定した例はない。 当所では現在超小型のVLBI局を開発中であり,これ が完成してフィリピン海プレート上の南大東島等に 配備されると,上海−南大東島間の基線変化(図1 の破線,年5pの変化が予測されている。)から直接 プレートの動きが測定できる。フィリピン海プレー トの運動は伊豆・東海沖地震の発生と密接なかかわ りがあるところなので,将来の日中共同実験の重要 な課題になるであろう。
 日中間の高精度時刻比較も重要な実験目的の一つ になっている。局内遅延時間差を正しく補正すれば VLBIにより1ナノ秒以下の誤差で時刻比較が可能 である。当所では静止衛星やGPS衛星を用いた国際 時刻比較の研究を精力的に進めているが,更にVLB Iという手法を加えることで総合的な時刻比較技術 の確立に大きく貢献するであろう。
  

実験結果の概要
 昭和61年からの本実験に先立ち,昭和60年9月に 予備実験として2回の24時間観測が鹿島−上海間で 実施された(JC1,JC2)。昭和61年6月には鹿島,上海 の外,米国の観測局も加わった日米中実験(JUSC1) が日本の主導の下で行われた。日中予備実験では上 海天文台の6mアンテナを使用したが,測地目的のV LBI観測に不可欠な8GHz帯の広帯域受信系,VLBI 観測装置はすべて日本から輸送して実験を行った。特 にデータの記録器にはSONYの全面的協力を得て,同 社の開発した高密度データレコーダVDR-2000を用い た。日米中実験では,上海天文台に新たに導入された マークVVLBI観測装置が初めて使用されたが,この 時にも受信系は日本から輸送し,6mアンテナに取付 けて実験を行った。写真は6mアンテナの一次焦点部 にこの受信機を取付けているところである。この受 信機は鹿島支所構内での短基線干渉計用に試作した ものなので,超小型ではあるが感度はあまり良くな い。このため6mアンテナの総合特性は,低雑音の受 信機をもった2〜3mアンテナに相当する低いもの となってしまったが,それでも全観測の60%〜90% の中から高品質の相関を検出することに成功した。 相関処理の結果得られた高精度の遅延時間,遅延時 間変化率を使って鹿島−上海間の基線長を推定した ところ,図2のように誤差4p〜6pで求められた。


図2 日中共同VLBI予備実験(JC1,JC",JUSC1)
   で得られた鹿島−上海間基線長


写真1 上海天文台6mアンテナ

 日米中実験では,日米間や米中間の長距離基線を 考慮して拡がりの少ない点電波源の観測を多くし たため受信強度が弱くなり,日中基線長の推定誤差 は前回の予備実験よりも若干大きくなっているが,3 回の独立した実験の結果は非常に良く一致している。
 年間1p前後でないかといわれている基線長変化 を正確に求めるためには,測定期間も測定精度もま だ不十分であるが,上海天文台には直径25mの大型 アンテナが間もなく完成するので,更に高精度の測 定を引き続き進めていきたい。
  

おわりに
 国際的な共同実験を進めるためには,人的交流や データ交換などに総務部門の協力を不可欠としてお り,特に日中共同VLBI実験では,実験機材を中国へ輸 送するのにあたり対共産圏輸出ということでひとか たならぬ援助を頂くことになった。総務部及び鹿 島支所管理課の関係各位に深く感謝いたします。ま た,電離層の伝搬遅延を補正するために,小金井,山 川の電離層データを使用させて頂いた。担当者の皆 様に深く感謝するとともに,データの取りまとめをして 頂いた電磁波利用研究室皆越室長に感謝いたします。
 今回の予備実,験は,VLBI本部・センター全員の協 力によって実現されたものであり,今後の実験の継 続によって日本列島周辺の地殻構造が明らかにな り,長期的地震の予知に役立つ貴重なデータが得ら れることを願って終わりとします。

(鹿島支所 第三宇宙通信研究室長)




≫随筆≪

科学技術と人間


松浦 延夫

 近世の約500年における世界の流れの中で,重要 な節目には科学技術が何らかの形で関与している。

 人類は地球上の各地で独自の文明をつくりなが ら,長い間互いに弧立して存在していた。これらを ほぼ一つの世界に結びつけたのは約500年前に敢行 されたコロンブス,ヴァスコ・ダ・ガマ及びマゼ ランの大航海である。この主目的はポルトガルやス ペインの貿易拡大にあったが,その背景には地球は 球形であるという科学的確信と造船・航海技術の進 歩があったのである。大航海の成功によって,ポル トガルやスペインはぼう大な植民地を得て,世界の 貿易大国となった。その後約250年にわたり西欧諸 国の間で繰り広げられた幾度かの植民地争奪戦によ り,覇権はポルトガル,スペインからオランダヘ, 更にイギリスへと移っていったのである。

 18世紀後半のジェームス・ワットの蒸気機関の発 明は,動力機械による大量生産を可能にし,植民地 インドの原綿を原科とするイギリスの繊維産業は飛 躍的な急成長を遂げた。この産業革命によりイギリ スは諸外国の産業を圧倒して,経済大国となった。 イギリスの産業革命が進行した18世紀後半には,フ ランスは政治上のフランス革命を,米国はイギリス からの独立革命を行っており,産業革命の波が西欧 諸国や米国に広がるのに約1世紀を要した。我が国 は明治維新を経てそれに続いた。

 原子爆弾の出現によって終止符をうった第二次世 界大戦の後,植民地の独立運動が台頭し,その大半 が独立国となって植民地時代が、終った。世界の大国 はイギリスから米・ソの二大強国に移った。戦後,先 進国における重化学工業は安価な石油資源に支えら れて急激な成長を遂げ,自動車,電気製品,機械類等 物資に恵まれた時代を迎えるようになった。我が国 においては,昭和30年代の家庭電化ブーム「三種の 神器」(白黒テレビ,冷蔵庫,洗濯機),昭和40年代 の「3Cブーム」(カラーテレビ,クーラー,カー) が高度成長を支えた。しかしその反面,大量の資源 消費と大量の工業廃棄物によって,地球規模の資源 枯渇と環境汚染が深刻化し,重化学工業は成長の限 界に達した。同時に,先進国間の経済摩擦,開発途 上国との経済格差による南北問題が表面化してきた。

 重化学工業に代わって,資源消費や工業廃棄物の 少ない,いわゆる軽薄短小を目指す電子産業や生命 産業が発展しつつある。今世紀の中ごろ,米国でト ランスジスタが発明されたことにより,半導体技術 が進歩して,電子工業とりわけコンピュータを中心 とする情報産業が急成長を遂げつつある。コンピュ ータは更に人工知能へと進む気配をみせている。

 上に述べたように,歴史の節目に科学技術が関与 しているわけであるが,歴史の流れの主導権は良き につけ悪しきにつけ人間に握られてきた。元来,発 見や発明は人間の自由な活動や自由な思索から生ま れるものである。社会的な諸条件に根ざす人間の欲 望や価値判断なり意図が,発明・発見の成果と結び ついたとき,歴史の流れが大きく変わることがある。

 人間は,動力機械の利用により重労働から開放さ れ,交通機関の発達により迅速な交流が可能となり, コンピュータ等の導入により煩雑な事務作業から開 放されつつある。しかし,人間のように判断,推論 する能力をもつ人工知能や人工的に遺伝子を操作す る能力をもつ生命工学の技術は,原子力の場合と同 様に,誤った意図により利用されるときには,人類 を破滅に導くことが十分に考えられる。

(電波部長)




外 国 出 張


第26回コスパー総会出席及び仏,西独の研究所訪問


 科学技術庁中期在外研究員として,昭和61年6月28日 から7月27日までの間,「磁気圏の電磁波現象の研究調 査」のために仏,西独へ出張した。6月30日から7月11 日の間,南仏の宇宙航空産業都市ツールーズで開かれた 第26回コスパー総会に出席した。日本からは37名が参加 した。筆者は“磁気圏のプラズマ粒子軌跡”に関する論 文の発表と,“磁気雲”に関する論文の代読をしたが, いずれも好評だった。西独ケラー博士のハレー彗星探査 衛星GIOTTOのマルチカラーカメラによるハレー彗星の大 接近映像の発表は超満員だった。彗星核の大きさは14q ×7qで数千qの尾を持ち,7個のジェットのうち,全表 面の約10%の太陽直下部から活発なジェット噴出がある ことが分かった。コロンブスの新大陸上陸から500周年 の1992年を国際宇宙空間年(ISY)と名付けて,国際 宇宙科学協同観測を進めることが決議された。
 この外,国際ウルシグラム世界日警報(IUWDS),電 離層観測網勧告委員会(INAG)会議に当所代表として 出席した。その後,パリ郊外の環境物理研究所(CNET/ CRPE)とムードン予報センター及び西独のマックスプ ランク地球圏外物理研究所とマックスプランク超高層物 理研究所を訪問した。

(第一特別研究室長 恩藤 忠典)



豪州関係機関訪問報告


 科学技術庁の二国間協力により,昭和61年7月12日か ら19日の約1週間,豪州の連邦科学産業研究機構(CSI RO)応用物理部及び電波物理部,TIDBINBILLA宇宙追 跡局(NASA所属),AUSSAT地球局,国立地図局オーロ ラ観測所を訪問した。訪問地はシドニー及びキャンベラ (首都)である。訪問の主な目的は,現在実験を行って いる気象衛星GMSによる日豪時刻比較に関する打ち合わ せ,日豪VLBI共同実験協力再開の提案と打ち合わせであ る。時刻比較については,今後も継続して実験を行い, 確度・精度の解明や改善を協力して進めること,近い将 来に中国や韓国を含めたアジア・オセアニア地域の時刻 比較網を確立していくことなどを確認した。VLBIにつ いては,豪州側が入植200年記念行事の一つとして1988 年に完成する22mVLBI局,日本側が1988年以降に南極 昭和基地に完成する11mのVLBI局などを考慮し,共同 実験の実現に向かって協力していくことに同意がなされ た。豪州は,人口わずか1500万人の非常に美しい静かな 国である。

(標準測定部 周波数・時刻比較研究室長 吉村 和幸)





研修を終えての感想


A. Hussain,A. Ghaffar

  

電波研究所での研修
 国際協力事業団が「時間と周波数」の分野での研 修に関連して,アジアで最も美しくて発展した国に 私達を招待してくれたことを深く感謝しています。 また電波研究所にお世話になったことも大変ありが たく思っています。私達は電波研究所の有能な職員 の方々に懇切な協力をいただく機会に恵まれまし た。彼らは私達のこの分野での知識不足を補うよう に骨折ってくれました。
 電波研究所(名崎標準電波施設,鹿島支所などを 含む)は,立派な設備に恵まれていて,私達が見聞 した範囲では最も進んだ研究機関です。この点から もこの分野の重要さと広大さについて認識を新たに しました。私達の実際の研修期間は新年休暇を入れ て3か月ほどでした。これは,電波研究所の一つの 研究室,課での適切な技術の習得にも不十分なもの でありますが,私達は上述の期間内での十分な技術 の習得を望みました。とにかく,私達は電波研究所 の(特に所長と彼の部下の協力的姿勢により)職員 の方々の親切な御支援をいただいて,この橋を渡り 終えました。私達は様々な研究室,課において,研 修の際の実地の仕事や討論から多くのことを学びと りました。これらのことに加えて,この分野で使わ れている最新の技術についても知ることができまし た。
  

日本での生活
 日本人についての一般的印象では,私達は彼らが 外国人に大変親切で協力的であるということがわか りました。柔らかい話し方,よいマナー,良くしつ けられた態度は私達にとって忘れることができませ ん。彼らは働くことにとても熱心であり,国を良く するために働いています。彼らは工業化社会に住ん でいますが,その一方で東洋の伝統,習慣を常に継 承しています。私達は日本人の寛大な処遇を決して 忘れることはできません。また,日本人の“自然を 愛し,(他国を憎まず)日本を愛せよ”という心に 感動しました。平和目的のための科学技術分野で第 3世界を助けようという彼らの精神は高く評価され ます。
 私達は,日本が,世界の平和と繁栄を促進し続け ることを願います。
 日本と日本国民の御多幸を祈ります。

(パキスタン科学工業研究院国立物理標準研究所)
 中桐 紘治(標準測定部 原子標準研究室長)訳



短 信



唐沢俊二郎郵政大臣当所を初視察


 唐沢郵政大臣は昭和61年8月4日,就任早々の公務多 忙中のところ,当所を初めて視察された。
 大臣は塚本所長の案内で移動体衛星通信システムとマ ルチビームアンテナの施設を熱心に見て回られた。
 移動体衛星通信システムの視察では,技術試験衛星X 型(ETS-X:昭和62年8月打ち上げ予定)を用いた航空 機及び小型船舶との通信実験により,近い将来航空機 等の移動体との通信が直接できるようになることに関心 を示され,また,当所が開発したマルチビームアンテナ の視察では,本アンテナがETS-Y(昭和67年打ち上げ 予定)に搭載される予定であり,これにより,衛星間及 び地上の広範囲な地域を互いに干渉することなく通信が 行えるようになることに強い関心をしめされた。
 短い視察時間であったが,屋上のマルチビームアンテ ナ設置台に登ってアンテナに触れられたり,それぞれで 専門的な質問をだされた。




栗原IFRB委員講演会


 昭和61年9月4日に,栗原芳高IFRB(国際周波数登 録委員会)委員の講演会が,「最近のITUの動向」と題 して,本所大会議室で行われた。栗原氏は,昭和57年電 波研究所長退官後IFRB委員に選出され,スイスのジュ ネーブで活躍中である。講演では,過密な国際会議の舞 台裏での調整役としての苦労話なども混じえながら,国 際電気通信連合(ITU)を,事務局サイドから見た動き について紹介された。



宇宙基地,極軌道プラットフォーム計画講演会


 昭和61年9月17日,NASA本部地球観測システム計画主 任バトラー博士による「地球観測システム計画について」 の講演会が開催された。同博士は宇宙基地計画のうち, 地球環境の観測を目的とした極軌道プラットフォーム計 画の取りまとめを行っており,今回の来日(9/13〜9 /19)は,科学技術庁,宇宙開発事業団を初め,宇宙基 地計画の日本側関係者に,同プラットフォームについて 詳細を説明し, その参加を促すための意見交換を行うこ とを主目的とした。講演では,現在NASAがESAと共同 で開発を進める予定の3基の高度824qの極軌道プラッ トフォームの概要,ミッションである地球環境(大気, 海洋,陸域)のリモートセンシングの必要性,現在NAS Aが搭載を計画している各種センサの紹介等が行われ た。同博士の講演中,日本側からの提案を希望している センサとして,当所が深くかかわっている,多周波マイ クロ波放射計,降雨レーダ,レーザレーダがあることの 指摘がなされたことが印象的であった。



準マイクロ推進検討会の発足


 高度情報社会の進展に伴い,陸上移動通信の需要は急 増の一途をたどっている。このことは本年3月末の全無 線局数380万の7割が陸上移動通信用であり,ここ数年 約30万局/年の数字にあらわれており,この傾向は今後 ますます強まると推定されている。これに対処するには 現用の60,150,400,800MHz帯のみでは困難であり,新 たに利用可能な周波数資源である1〜3GHzの準マイク ロ波帯を対象に開拓することが必要であり,急務である。
 この研究開発に積極的に取り組み,解決するため,本 年6月24日に総合通信部長を主査とする準マイクロ推進 検討会が所内に発足した。構成は通信系,通信方式,通 信装置,大気圏伝搬の4研究室,通信技術調査室,企画 課担当主任研究官であり,当所の総合力を結集して当た ることとなった。本省の強力な支援もあり,民間等の技 術開発力を活用して本検討会を推進していく計画である。



ETS-Y計画推進本部発足


 ETS-Y(技術試験衛星Y型)は,静止軌道上で約2 トンの重量をもつ大型三軸安定の試験衛星で,昭和67年 に宇宙開発事業団によって打ち上げられる予定である。 電波研究所においては,この衛星を利用して衛星間通信 の実験を行う準備を進めてきた。このほど,研究開発を 本格的に実施するため所内にETS-Y計画推進本部会議 を発足(昭和61年8月4日)させ,8月29日に第1回本 部会議を開催した。
 当所はETS-Y計画において,2GHz帯のアレー型マル チビームアンテナを用いた低軌道の衛星や宇宙基地との データ中継及びこれらの衛星の軌道測定を行うシステム の開発,宇宙通信における新周波数帯の開拓を目的とす る50/40GHz帯(ミリ波帯)での衛星間通信実験機器及 び光通信の基礎実験機器の開発を行う。当本部は,宇宙 開発事業団等との調整を図りながら,これらの研究開発 及びETS-Yによる実験を効率よく進める上で活躍が期 待されている。



61年度宇宙開発計画の見直し結果
−郵政省関係−


 郵政省は昭和61年3月に決定された宇宙開発計画につ いて,以下の4点の見直し要望を6月に宇宙開発委員会 に提出した。
(1) ETS-Y(技術試験衛星Y型)及びそれによる衛 星通信のための技術開発
(2) 1990年代を目標とした多用なミッションを複合し た衛星システムについての研究
(3) 放送衛星技術に関する研究について,将来の高度 化を目的とする技術研究に対し,それらの実証の機 会を提出することについての配慮
(4) 自主技術による宇宙開発,実用衛星について信頼 性と継続した利用の確保及び利用機関の経費負担の 軽減についての配慮
 宇宙開発委員会における審議の結果,上記(1)につい て,要望通り衛星間通信を含む高度の衛星通信のための 技術開発及び実験を行うことを目的としてETS-Yを昭 和67年度に打ち上げるための開発を始めることが認めら れたのをはじめ,(2),(4)の要望についても妥当とされ た。なお,(3)については,新技術の実証の機会を確保 するよう配慮することが望ましいとの審議がなされた。