準マイクロ波帯移動通信について


横 山 光 雄

 『いつでも』,『どこでも』,『誰とでも』話す ことができたらという願いは,遠い昔から人類の願 望の一つである。この願いを実現させる手段はのろ しや鐘,太鼓に始まり,最近では超能力や重力波な どが検討されている。しかし,移動しながら通信す ることを考えると,やはり無線通信に頼らざるを得 ない。無線局数は,図1に示すように,ここ数年約 50〜60万局/年の増加を示し,昭和60年度には381 万局に達している。この内約95%が移動通信で占め られている。移動に利用される周波数は,これまで 900MHz帯まで利用が進んでいるが,今後の需要増 加を予想すると早晩周波数の不足する事態が発生す ることが考えられる。


図1 最近10年間における無線局数の推移

 電波を発射して通信を行う場合,『周波数』, 『空間』及び『時間』という三つの資源を占有し, 他のユーザの使用を制限する。そのため,資源の占 有をできるだけ小さくすることが電波資源の有効利 用につながる。これまで,スペクトルの狭帯域化 (周波数)[例:昭和61年7月電技審答申(800MHz 帯でチャネル間隔を25kHzから12.5kHzに変更)], 小ゾーン化による同一周波数の繰り返し利用(空 間),同一周波数を多数のユーザで共用し周波数未 利用の空き時間をなくす(時間)[例:MCAシステム, パーソナル無線]など,資源の有効利用が図られて きた。しかし,手持ちの利用可能な周波数には限界 があり,更に利用可能な周波数帯を広げる必要か ら,準マイクロ波帯(1〜3GHz)の開発が焦眉の 急となっている。

 新周波数帯を開発し,そこで新しい通信システム を稼働させるには,伝搬特性の解明が必要となる。 陸上移動通信で利用できる伝搬特性のデータとして は,有名な奥村カーブがある。このカーブは,450, 900,1400,1900MHz帯の四つの周波数を利用して取 得された電界強度推定曲線で,およそ2GHz以下 の周波数帯の特性を教えてくれる。それ以上の周 波数帯の特性は,利用可能な状態に整理されてい ないことを考えると今のところ皆無であるといって よい。アナログ通信システムを対象とする場合は, 持続波(CW)で取得した伝搬データがあれば,シス テム設計にはほぼ十分であった。一方,ディジタル 通信を対象とする場合は,電界強度のみでは不十分 である。変復調方式とともに,誤り率,誤り間隔, 同期特性などを明らかにしないとシステム設計に利 用できるデータが完備したことにはならない,すな わち,ディジタル通信システムの確立を目指して伝 搬データを取得するには,あらかじめシステムを念 頭に置き,そのシステム実現に何と何が必要となる かを十分吟味した上で,電界強度変動特性と一緒に 必要なデータ取得を行わなければ意味がない。図2 に伝搬特性とシステム設計との関係を示したが, ディジタル通信の場合,相互に関連をもたせてある のは以上のような理由による。すなわち,アナログ 通信を対象とした従来の伝搬実験とディジタル通信 を指向した今後の伝搬実験とでは実験に対する姿勢 が厳然として異なるのである。


図2 伝搬特性の解明とシステム設計のかかわり

 さてディジタル通信を前提として伝搬データの取 得を論じたが,それでは,ディジタル通信が今後の 通信の主流になるであろうか?

 ニューメディア時代と言われてから久しい。その 中心話題の一つは,日本電信電話株式会社(NTT) の提唱するINSであった。当初,『(I)一体(N)何 (S)するの』と,世の中の人から疑問視されたが, 最近では,『(I)いつでも(N)何でも(S)サービ スする』ことを実現するGAN(LANではないことに 注意。Global Area Networkのこと。)という位置 付けで定着してきた。また『情報化社会』と『情報 社会』の『化』のあるなしも,『通産』,『郵政』戦 争として面白かったが,こちらは,進行中は『化』 が必要で成熟したら『化』を取ることで納まってい る。これは,将来のコンピュータ社会(コンピユー タと通信の結ぴ付いた社会)に対し,関係省庁 がコンピュータは通産で,通信が郵政と別れていた ためであった。その他,C&Cの標語を掲げている 社もあり,こちらの方は1社が全部を担当している ので問題は起きていない。具体的なディジタル通信 のメリットは述ぺなかったが,これらの減少が端的 に示しているのは,将来は『情報社会』となり,至 る所に張り巡らされた『ディジタルネットワーク』 資源を共有しあって豊かな社会が実現することであ る。このディジタルネットワークに移動通信もディ ジタル形態で参加することが時代の要請である。こ のような要請の具体的討論は,Nordicセミナー* などの文献を参照されるとよい。

 現在は,業務用通信網は公衆網と接続できない。 しかし,『周波数資源の有効利用』という錦の御旗を 掲げれば,無線区間をできるだけ制限し,同一周波数 の繰り返し利用により多くの人に無線の恩恵を享受 させることが必要である。すなわち,業務用通信網 であっても公衆網と相互接続できるようにし電波の 使用区間を小さくさせることが周波数資源の有効利 用に効果があることを言いたいのである。

 新周波数帯には,どのようなシステムを想定した らよいであろうか?

 この疑問に応えるため,昭和60年度に電波システ ム開発センターにおいて産・学・官からの有識者に よる研究会が組織され5年以内のシステム実現を目 指して検討が行われた。結論として得られたシステ ムは,現状技術で対応でき,しかも技術革新の進む 将来への発展にも柔軟に対応できるものである。こ のシステムはあくまでも1案であるが,一言で言え ば『蓄積交換機能を備えたマルチゾーン方式による FDMA(周波数分割多元接続)システム』といえる。 特徴の幾つかを列記すると次のようになる:(1)半 径約50qのサービスエリアで,400対無線チャネル を使用し,約35万の加入者を収容できる。(2)音声, ファクシミリ,データなどの信号をそれぞれに適す る変復調方式で伝送できる[例えば,アナログ音声 信号ならFM変復調方式,データやディジタル音声信 号ならディジタル変復調方式を採用できる],(3)音 声伝送の場合はチャネルを一定時間連続して占有す ることができるのに対し,データ伝送の場合はパ ケット形式での伝送が用いられる。(4)音声回線及 びデータ回線とも,1チャネルの伝送帯域幅は16kHz, チャネル間隔は25kHzで,トラヒックの需要により 音声回線とデータ回線の相互交換が可能である。(5) 交換はすべて蓄積交換方式が用いられる(アナログ 信号は交換機に入る前にディジタル信号に変換され パケット化される)。(6)ゾーン半径を小さくしてあ るので,周波数の繰り返し利用による周波数の有効 利用が図れるが,経済的な負担は大きくなる。(7) 平均保留時間を短く設定した設計であるため,大量 データの伝送には不向きである。

 伝搬データを取得するときどのような項目に注意 しなければならないかは,業務用通信を対象にした システムについては,一つの目標が設定された。通 信システムとしては,この外に公衆通信がある。こ れに対するシステム検討は,NTTが独自に行うであ ろう。しかし,伝搬実験は,両者のグループが独立 して行うよりは,協力しあい,あるいは,可能なら 外国グループとも協力しあって取得整理を行ってい くのが最も良いことと思われる。伝搬データは,統 計量であり,データ量が多ければ多いほど信頼性が 向上するからである。実験を行う周波数帯である が,当面1.5GHz帯が目標である。しかし,今後電 波資源の確保を図るには,電波の到達距離が短けれ ば短いほどよい。そのためには,1.5〜3GHz帯もカ バーする全領域の伝搬特性が必要である。さらに, 業務用システムの検討では,1チャネルの必要帯域 幅が16kHzでチャネル間隔が25kHzの狭帯域通信方式 をターゲットにおいたが,これは,5年以内に実現 を図るという前提条件で現在利用できる技術に限っ た結論であった。現在の5年は,過去の20〜30年に 相当する。そのことを考慮すると基本はFDMAに設 定してあっても,広帯域のTDMA(時分割多元接続) 方式の設計にも,十分利用可能な形態のデータ取得 を行う必要がある。Nordicセミナーでは,帯域幅 が4MHzのTDMAシステムの発表が行われた。この ような動向もふまえながら当所は,産・学・官,並 びに世界のグループと協力しあって,新周波数帯で 稼働する狭帯域から広帯域までのシステム検討に十 分対処できる伝搬データの取得・解析・整理を行 い,更に社会が必要とするシステム設計に必要とな る技術開発に積極的に寄与することが国立研究機関 の使命であろうと思われる。

(通信技術部 通信方式研究室長)

* 1985年2月にフィンランドで開催されたディジ タル陸上移動通信に関するセミナー





新しい光源(信号源)
シンクロトロン軌道放射光について


林 理三雄

  

シンクロトロン軌道放射光とは
 真空中や物質中を自由に動く電子を自由電子と呼 ぶが,この電子はいろいろと面白い性質を持ってい る。シンクロトロン軌道放射(SOR)又はシンクロ トロン放射も,その中の一つである,光速に近い電 子ビームを電場・磁場等によって急に曲げてやると 強力なエネルギー(電磁波)を放射するという性質 を利用したものである。この性質は,1933年に理論 的に予測され,1948年には実験的に確認されてい る。しかし,その利用は最近になって盛んになって きたといえる。
 電子ビーム加速器の一つに,電子を回転させなが ら加速するシンクロトロン加速器があるが,電子を 回転させるために,外部磁場を加え電子ビームを曲 げる必要がある。そのとき電子ビームを曲げるごと に電磁波を放射するので,電子を加速するだけの当 初目的からすれば,加速効率を低下させるやっかい な寄生的な問題であった。しかし,これがSORであ り,現在では積極的に新光源としてSORを利用しよう として,専用の電子ビーム加速器も作られている。
  

SOR光の性質
 SOR光が注目される理由は次のような特徴のため である。@ミリ波からX線まで連続した電磁波が 発生できる。A発生した電磁波は非常に指向性が 良い。B強力(高輝度)な電磁波が得られ,従来 のX線管等に比べると10^3〜10^4倍強力である。C理 論と実験の特性が非常によく一致する。この特徴 は,原子や分子(大きさは100万分の1p〜1億分 の1p:1Å〜100Å)の性質を調べる研究者達に とっては理想に近い光源であったわけである。
  

SOR光の発生法
(1)蓄積リング(Strage Ring:SR)による方式
 SOR専用の装置は普通,電子シンクロトロン加速 器や直線電子ビーム加速器で電子を加速し,それを 円型の軌道に閉じ込め,回転させておくSRに入射し 蓄積させておく方式がとられる。図1に示すよう に,SR内で電子ビームが偏向させられるごとにSOR が得られる。ぐるぐる回るかさから水滴が飛び散る のに似ている。日本最大のSOR用SRは高エネルギ ー物理学研究所の直線加速器400m,SRの直径〜60 mのものである。素粒子の研究分野では,できるだ け短波長で高エネルギーの放射光が要求され,装置 は大型化し,国家又は国際プロジェクトとせざるを 得ない状況のようである。しかし,通信・センシン グ等の信号源としての利用分野からはW〜kWオー ダーの出力で十分であり,現に半径1.5m程度のSR でSORを発生し利用研究を進めているところ(Univ. Wisconsin)もある。


図1 蓄積リングより得られるSOR
   磁場によりビームが偏向されるごとに
   接線方向にSOR出力が得られる。

(2)波打ちビームを利用する方式
 図2に示すように高速電子の直線通路上の一部に 周期磁場(Undulator:UND)をかけ電子ビームを 波打たせると,ビームが曲がるごとに効率よく電磁 波を放射する。この方式では(1)の方式より更に10^4 倍の強度と単色性・指向性の良い放射光が得られる。 SRの直線部分を利用する場合や直線加速器出力端に UNDを用いる場合など考えられている。


図2 アンジュレータによるSOR 〜〜→はSOR出力を示す。
   ビーム進行方向にSOR出力が得られる。

(3)共振器に放射電磁波を閉じ込める方式
 (1),(2)によるSORは沢山の高周波を含んで、いる が,図3のように,UNDの両端に反射器を置き共振 器を形成する方式を,1976年スタンフォードのエリ アス等が研究し,近赤外光(波長3.51μm)の発振 に成功した。前記(1)(2)の放射光は自然放出光と見 なせば,これは誘導放出光とも考えられ,従来のレ ーザに匹敵するため,自由電子レーザ(Free Electron Laser:FEL)と呼んでいる。研究が緒 についたとこで,各国でまだ盛んに研究されている ところである。もともとFELは高周波を多く含んだ 放射波から,何らかの方法で単一波を得る方式であ り,同調可能な超広帯域信号源となり得るものであ る。


図3 ヘリカルアンジュレータを用いた
   自由電子レーザ原理図
ヘリカルな導体に電流を流し、ヘリカルな磁
場を作りその中に電子ビームを通過させる。

  

SORの利用
 SORの特徴を生かし様々な利用が考えられている が,その幾つかを挙げてみる。@既に述べたよう に素粒子等物性研究に。A紫外・X線等波長が短く 強力な平行光線を利用し,分解能の良いサブミクロ ン以下の半導体集積回路製作用の光源となる。B理 論及び実際とが良く一致し,きれいなため標準光源と なり明るさの基準になる。Cミリ波からX線域まで 連続した超広帯域の信号源となる。
 従来の利用分野は,高エネルギー又は標準光源と しての見方が強かったが,超広帯域な信号源として も小型化を進めることにより有力なものとなり得 る。我々の検討では,1.5〜3mの電子ビーム直線 加速器(10MeV級)でもWオーダ以上のミリ波〜遠 赤外光の発生が可能で,小型化が可能であると考え ている。強力な広帯域発振器がなく,最も研究開発 の遅れているミリ波〜遠赤外域の開拓のためにも, SOR,FEL等の原理に基づく新しい超広帯域信号源 の研究開発は,重要なことであり,波及効果も大き いと考えている。

(鹿島支所長)




≪随筆≫

上手に口頭発表しましょう
−Crossの法則を知っていますか−

富田 二三彦

 研究発表は,私たちの大切な仕事の一つです。早 く,多くの人に,最新の成果をアピールしたいと き,まだ研究に疑問の点があって,他の人とのディ スカッションが必要なとき,このような場合,優れ た研究者の集まる場所での口頭発表は特に有益です。

 発表に成功すれば,研究に対する正しい評価が直 ちに得られるだけでなく,それが刺激となって新し い問題に立ち向かう勇気を手に入れることができま す。また,アピールが成功すれば,発表者が情報の 流れの交点に立つこともできるのです。

 口頭発表がこれほど有益なのに,一般にその準備 や練習にあまり時間がかけられているとはいえませ ん。確かに,口頭発表の場合,聴衆は内容の一部に 対してコメントや質問をすることはあっても,その 他の内容は聞き流してしまっているし,発表の仕方 にコメントする聴衆はまずいません。発表者と聴衆 のコミュニケーションの手段は限られています。そ の手段の使い方が下手でも誰も文句は言いません。 しかしながら,そのために内容に対してまでそっぽ を向かれてしまうという事態は大いにあり得ます。


 口頭発表の結果,失敗して失うものは少ないかも しれませんが,一回一回失っていったものは長年の うちに積もり積もって,とりかえしのつかない量に なっています。一方,成功すれば非常に多くのもの を得られるのです。

 さて,ここにCrossの法則があります。第1法 則は「横型のスライドには7行以上の文字や数式を 入れてはならない。」第2法則は「2枚以上前のス ライドを映写してほしいと要求してはならない。」 です。この類の注意事項は100近くもあるでしょう か。これらを身をもって知るには,他人の発表がよ い勉強になります。「おもしろそうな研究なのに, 数式ばかりで何を言っているのかよくわからない。」 「ちょっと聞きのがしたら,縦軸が何だかわからな くなってしまった。」などなど。

 ところで,電波研究所には談話会があります。こ のすばらしいシステムを,皆さんが大いに利用しな いのはなぜでしょうか。発表する人は発表するだ け。聴く人も,自分に関係のない話になると退席 し,発表の合間はまるで潮の千満のように人が動き ます。忙しい方は結構です。しかし,発表者も聴衆 も同じ研究所内の人間です。それほど突拍子もなく 離れた分野の仕事であるはずはありません。自分が 共著者の発表を聴くより,むしろ他人の研究を知るこ とも大切です。しかも,サンプルが沢山あって,聞 き上手になるための絶好の場ではないでしょうか。

 研究所には,毎年若い人が入ってきますが,その 中には発表の仕方の練習や,訓練をしてこなかった 人もいるかもしれないのです。

 研究は,基本的に,そして最終的には「人」がや るものです。人造りをせずによい研究を続けること はできません。談話会の会場へ足をはこぶ,これは 誰にでもできる人造りの第一歩ではないかと思いま す。

(平磯支所 太陽電波研究室 研究官)


≪外国出張≫

西独ボン大学測地学研究所滞在記

吉 野 泰 造

 現在,西独は欧州VLBIの拠点となっており,測 地・天文分野で活躍している。筆者は,日独間の東 西長基線を生かした測地・地球回転の特別実験の企 画遂行のため昭和60年10月1日から10か月間,西独 ボン大学測地学研究所に科学技術庁の長期在外研究 員として滞在した。

 ボンはライン川に接した中部ドイツの人口30万の 大学町である。そして近くには大聖堂で有名なケル ンの町がある。大学は約6万の学生,職員をかか え,これは西独でも有数の規模である。筆者の滞在 したボン測地学研究所(GIUB)は歴史的経緯から 農学部に属し,周囲には農場が広がっている。GI UBの規模は小さく職員数は当所の鹿島支所(約60 名)並みであるが,欧州VLBIのパイオニアである Campbell教授,そしてGIUBの所長であり政治家 タイプのSeeger教授がおり,地球回転及び測地 の研究を進めている。西独のVLBIにおいて,GIUB ではおもに測地の理論解析が行われている。ここに は,若手の研究者でDr. H. Schuhがおり,筆者の 滞在中VLBIによる地球回転の研究で学位を取得し た。さらに,彼の講演と祝賀パーティにも参加する ことができた。またボンには,世界最大の口径を誇 る100mのアンテナを持つマックスプランク電波研究 所(MPI)があり,VLBIに積極的である。そこには 欧州で唯一のVLBI相関器があり,欧州各地からVL BIデータが送られてくる。GlUBとMPIの結び付き は強く,筆者もしばしば討論の機会をMPI内で持っ た。なおここでは電波研のジャーナル誌がVLBI関 係者の必読書となっていた。

 西独はおおむね日本人に暮らしやすい国だといわ れる。ボンの緯度は51°で夏は夜10時まで明るく, 冬は零下10〜20℃にもなるが,慣れてしまえばなん ら問題ではない。ドイツ語も生活用語を少し覚えれ ば,日常困ることは少ない。大学,研究所では中途 半端なドイツ語だと先方が英語で話し始めるので, 結局は英語になる。また気どった言い方は通じにく いので,基礎英語による簡潔で明快な意志伝達の訓 練になった。

 西独は本当に治安がよく,物価も驚くほど安い。 緑の多さも手伝って,外国から入ってくるとほっと する国である。しかし,日本に比べると不便な点も 少なくない。日曜日に限らず買い物ができない時間 が多く,二度足を運ぶなど,ざらである。それぞれ の人が生活を大切にしているのであろう。最近ドイツ 人の休暇が増えてきたことが報道されている。しか し,研究者はすこし違うようだ。残業は少ないが, 日本と比べ物にならぬ程立派な家で,夜も,更に仕 事をしているようにみうけられた。人口が日本の半 分,国土の面積が70%という国で日本と同様の経済 発展をしている。MPIの誰かの室のドアに貼って あった「無知を恥じよ,パニックに陥るな,集中し て事にあたれ」といった標語が思い出される。最後 に,このように貴重な機会を与えてくださった科学 技術庁,郵政省,電波研究所の関係各位に深く感謝 いたします。

(鹿島支所 第三字宙通信研究室 主任研究官)


典型的な木骨組の家屋(ハイデンベルグ郊外)




外 国 出 張


第12回国際音響学会議及び音声認識に関する
モントリオールシンポジウム


 昭和61年7月19日から27日まで標記会議等に出席のた めカナダに出張した。21日から2日間McGill大学で 開催されたシンポジウムは「音声認識における単位とそ の表現方法」という副題のついたもので,日,米,欧の 主要な研究者のほとんどが参加した。音声認識が一定の 制約のもとで実用化されているが,その制約(限界)を 突破するためには,計算機等の性能向上に依存した力ず くの方法を反省し,音声分析技術の見直しや聴覚・知覚 過程の理解など,基礎的研究への回帰と,知識処理の導 入など総合化の必要性が強調された。出発前に依頼して おいたINRS-Telecom.(ベルノーザン研究所モントリオー ル支所を含む)の音声部門の見学会が催され,約30名が 参加した。筆者が以前に2年間滞在した所であり,研究 の規模は約3倍となっていた。
 国際音響学会議は7月24日から8月1日までトロント で開催されたが,旅程の都合でテクニカル・セッション 初日の発表を終えて帰途についた。

(企画調査部 企画課長 中津井 護)



国際電波科学連合(URSI)F分科会
公開シンポジウムに出席して


 昭和61年7月28日から8月1日まで,標記の研究集会 が米国ニューハンプシャー大学において開催された。U RSIのF分科会は非電離媒質中の電波伝搬とリモートセ ンシングを対象とする分科会であり,URSIの3年ごと の総会の前年に公開シンポジウムを開催する慣例になっ ている。今回はセッション数で10,約70件の研究報告が 行われた。全体の傾向としてはリモートセンシング関係 の報告が増加し,衛星通信など通信関係の報告が減少ぎ みであった。研究内容のバラエティーは広くなってお り,論文の質も非常に高かった。リモートセンシングに おける偏波面効果,対象物のモデル化の努力,衛星−地 上移動物体間通信の研究などが目を引いた。当所から は,ミリ波帯での降雨減衰測定と雨滴粒径分布に関し古 濱洋治氏より(元大気圏伝搬研究室長,現在ATR光電波 通信研究所),ミリ波・光波の伝搬に対する降水粒子の 多重散乱効果に関し筆者より報告を行った。

(第三特別研究室長 小口 知宏)



電磁波理論に関するURSI
国際シンポジウムに出席して


 URSI(国際電波科学連合)B分科会の主催する標記 シンポジウムが8月25日から29日までハンガリーの首都 ブダペストで開催された。本シンポジウムは,3年ごと に開催され,通信を始め広範な電磁波応用の基礎となる 未解決の問題を解き,電磁波工学の一層の進展に寄与す ることを目的としている。今回の登録参加者は33か国か ら約500名に及び約290件の参加論文があった。その中 で,東欧圏で開かれたこともあって,本研究分野に多大 の貢献をしてきたソ連からの出席者が22名と多かったの は特筆に値しよう。筆者は,ランダムに分布する粒子を 含む媒質内を伝搬する円偏光の散乱強度をベクトル輸送 方程式から解析的に求める近似解法とその有効性につい て発表した。なお,質問者の1人を含むグループによる 関連した研究発表が米国光学会で行われる予定であるこ とを後で知り,早くpaperとしてまとめることと, 更にビーム波等に対する解析を急ぐ必要性を強く感じ た。

(第三特別研究室 主任研究官 伊藤繁夫)



1936地球科学及びリモートセンシング
国際シンポジウム(IGARSS,86)に出席して


 昭和61年9月7日から13日まで,IGARSS,86に出席 し,研究発表をするためスイスのチューリッヒに出張し た。IGARSSは,米国電気電子学会(IEEE)の主催で 毎年開かれている地球科学とリモートセンシングに関す る学会で,今年の会合には世界各国から500余名が参加 した。筆者は「マイクロ波による海洋の能動的リモート センシング」のセッションで,当所の鹿島支所のCバン ドドップラーレーダを用いた海面からの後方散乱実験の 結果について報告した。筆者の発表に直接関連するよう な理論や実験の発表は少なく,どんな反応が得られるか 発表を終えるまで心配であったが,発表後多くの人に興 味をもってもらえたことを知り嬉しく思った。最初は, 知っている人のほとんどいない会合で,話相手を見つけ るのに苦労したが,発表をしたことで帰るときには何人 もの知り合いができたのは,今回の出張の大きな収種で あった。

(鹿島支所 第一宇宙通信研究室 研究官 井口 俊夫)





短 信



小澤 潔 郵政政務次官,白川勝彦自民党通信部会
部会長代理(衆議院議員)一行当所を視察


 9月24日に小澤郵政政務次官,翌25日に白川自民党通信 部会部会長代理をはじめ7名の衆議院議員(自民党通信 部会)が当所を視察された。
 小澤郵政政務次官はスペクトル拡散通信システム,電 離層観測,マルチビームアンテナほか5か所,また,白 川自民党通信部会部会長代理一行は,移動体衛星通信シ ステム,マルチビームアンテナ,標準時計など6か所を 視察された。
 ニューメディア発展の中で,最近の電波利用が注目さ れている折,当所の視察においても,マルチビームアン テナ,移動体衛星通信システム,スペクトル拡散通信シ ステムなど電波利用の先端技術のものに特に強い関心を 示され,予定時間をオーバするほどであった。



特許講習会の開催


 10月7日午後,新技術開発事業団顧問弁理士長谷川文 廣先生を迎え,特許の意義及び明細書の作成法などにつ いて会得する目的で特許講習会を開催した。
 講習会には50余名が参加し,企画課長のあいさつで始 まり,先生から特許の概要及び明細書の作成法について 説明があり,その後,質疑応答が行われた。明細書の作 成法では,最も重要で難しい部分でもある特許請求の範 囲とその裏付けとなる実施例を主眼に説明が行われた。 説明は大変分かりやすく,また,タイミングのよいジョ ークがあって参加者はリラッグスし,時折り笑声さえで ることもあった。さらに,先生は前日出願したばかりの 当所の発明を実例に,ユーモアを混ぜながら不備な個所 を指摘し,特許請求範囲の裏付けとなる実施例の重要性 について説明された。それについても活発な質疑応答が 行われ成功りに終了した。
 なお,特許出願数は研究成果の新規性,独創性を見る 有力なバロメータであるので,これを機会に特許出願の 増加を期待したい。



電波研究所親睦会開催


 第15回電波研究所親睦会は好天気に恵まれ10月25日午 後2時から当所でOB・現職員155名(うち女性11名)の参 加を得て盛大に開催された。
 総会は島田幹事の司会で始まり,冒頭会長及び副会長 の選出(所長,次長の交代に伴い)があり,塚本所長が 新会長となった。若井前会長の退任の挨拶の後,塚本新 会長から財政,要員事情の厳しい中で郵政省唯一の研究 機関として積極的に役割を果たしていること及びこの1 年間の動向などについて話された。続いて,会員でもあ る藤木東京電波友の会会長から御挨拶を頂き,今井幹事 から会員の異動等経過報告があって総会を終わった。
 次に,15回目の特別行事として,菅宮夫氏(日本アマ チュア無線連盟JAS-1プロジェクトマネージャー)より 日本最初のアマチュア衛星の打ち上げの成功について, 菅氏特有の語術で手作り衛星の苦労話,裏話を交えなが ら講演をして頂いた。また,このほど完成した検査検定 協会の国際規格の新テストサイトを全員で見学した。
 懇親会は山田幹事の司会,上田元所長の乾杯で始まっ た。タイムトンネルを通って昔にもどり,久しぶりの人, 初めての人が融け合って一気に懐かしい話に花が咲き, あっという間の2時間であったが再会を約して散会した。