超小型VLBI局の開発


雨谷  純

  

はじめに
 VLBIは、遠くはなれた二つのアンテナで十億 光年の彼方にある電波星からの雑音電波を受信し、 その到達時間差を百億分の1秒の精度で測定する技 術で、高精度測地(3p以下)や高精度時刻比較 (0.1nsec以下)に大きな力を発揮している。しか しながら今のところ大口径のアンテナや、高安定な 発振器を必要とするため、非常に高価で大がかりな システムとなっており、各地に配置し測地や時刻同 期といったサービスを全国規模で行うのは容易では ない。米国ではJPLがMVシリーズとして可搬型 VLBI局を実用化しているが、大きすぎて日本の 道路では法規上輸送が困難である。
 そこで当所では現在、より小型、低価格で移動設 置が短時間に簡単に行える超小型VLBI局の開発 を進めている。我々の開発しているシステムは、日 中共同VLBI実験等の小口径アンテナとのVLBI 実験での経験を基に、現在使用しているK-3型 VLBIシステムの冗長な部分を切り捨て、また、 まったく新しい方式を採用することにより、遅延時 問の決定精度を維持しながら、コンパクト化と大幅 なコストダウンを目指している。現在システムの一 部が完成し、鹿島支所構内で短基線干渉計実験を行 い地上測量で得られた結果との比較を行っている。
  

装置の概要
@ アンテナ受信系
 アンテナには、VLBI用としては世界最小の直 径3mの物を使用する。3mクラスのアンテナの場 合移設も4t程度の小型クレーン付トラックで十分 なため、気軽に移動し運用ができる。従来VLBI においては、電波星からの電波の強さ及び積分時間 の制限から、使用しうるアンテナのペアとして、そ の開口径の積が100を越えることが一つの目安に なってきた。実際これまでに鹿島支所の26mアンテ ナとVLBI実験を行った最小のアンテナは、国土 地理院の5mアンテナである。3mアンテナでは、 26mとの開口径の積は100を大きく下回る。
 むろん、ただ単にアンテナ開口径を小さくしたの では遅延時間の決定精度を維持することはできない ので、いくつかの新しいアイデアを盛り込む予定で ある。その一つとして、FSS(Frequency Selective Surface)を用いた高効率副反射鏡の利用があ げられる。VLBIでは電離層の遅延効果を補正す るためにXバンド(8GHz帯)とSバンド(2GHz 帯)の2周波を受信するが、小型のアンテナの場 合、パラボラアンテナの一つの焦点で二つの周波数 を給電するのは非常に困難になってくる。FSS は、誘電体の基盤の上に特殊な形状をした金属片を 張りつけることによって、ある周波数の電波は透過 させ、その他の周波数の電波は反射させるようにし たものである。これをカセグレンアンテナの副反射 鏡に採用することで、Xバンドはカセグレンの二次 焦点に、Sバンドは一次焦点に最適配置することが可 能となり、高い効率で2周波を給電することができ る(図1)。現在、FSS平面板の特性試験を行い、 理論どおりの反射・透過特性が得られている。


図1 FSS副反射鏡による
   S,Xバンド共用アンテナ

 また、Xバンドの受信帯域を7860〜8600MHzと従 来の約2倍に広帯域化することで遅延時間の決定精 度を向上させることも考えている。
 昨年10月には、一次給電方式を用いたXバンド受 信系が完成し、26mアンテナとの間で短基線干渉計 実験を行った。
Aバックエンド
 IF信号分配器、16台のビデオコンバータを一つ のきょう体にまとめ、小型軽量化を図っている。周 波数構成も遅延時間の決定に大きな役割を果たすX バンドに、全14チャネル中10チャネル(K-3では 8チャネル)を割り当てるように変更する。ビデオ 帯局部発振器は、K-3では各ビデオコンバータに 一つづつ内蔵されていたが、一つのパルス列発生器 の出力を選択して各ビデオ変換器に送る方式を採用 することで、小型化、並びに大幅なコストダウンを 目指している。
B 自動運用
 現在K-3では機器の制御にミニコンを使用して いるが、大型で移動には不向きなので、パソコン上 で動作可能な自動運用ソフトウェアを開発してい る。これは、昭和60年に実施された日中共同VLB I実験の際に上海で一部を使用し実績を得ているも ので、現在プログラム追尾系を追加して改良中であ る。
C周波数標準
 最近、5×10^-13以下の短期安定度を持つ水晶発 振器が開発されている。これを長期安定度の良いセ シウム原子標準と組み合わせることにより、測地目 的のVLBIにも使用できる可能性がでてきた。現 在、この水晶発振器を用いて、セシウム原子標準に 位相同期をかける実験を行っている。この試みが成 功すれば、水素メーザ発振器に比べ、測地精度は多 少犠牲になるが、極めて安価で取扱いも簡単な周波 数標準によるシステムが誕生することになる。
 また、周波数標準の発振周波数を積極的に変化さ せ、あたかも観測局が地球の中心にあるかのごとく に時系を制御する方式(Wave Front Clock方式) の採用を検討しており、26m−3m間の短基線干渉 計で基礎実験を行っている。この方式を採用するこ とにより、地球回転によるドップラーシフトの効果 を相関処理時に補正する必要がなくなり、相関処理 を非常に単純化することができる(多基線処理時に 特に有効)。
 このほか、データレコーダにはカセット方式を検 討中である。当面はデータレコーダ、フォーマッタは 既存のものを用い、周波数標準も実績のある水素メ ーザ発振器を使って実験を行っていく予定である。
  

短基線干渉計実験
 性能確認のため、超小型VLBI局3mアンテナ を使い26mアンテナとの間で24時間 短基線干渉計実験を行った(

写真)。 共通ローカル源であること及び、高 密度磁気記録テープにデータを記録 しないこと以外は、通常のVLBI 実験と同じ観測システム構成で実験 を行った。基線が短いため2周波受 信による電離層遅延の補正が必要なく、Xバンドの みの観測を行った。観測はパソコン上で動作する自 動運用ソフトウェアを用いてすべて無人で行われた。


写真 短基線干渉計実験中の3mアンテナ
      (後方は26mアンテナ)

 観測で得られたデータは、通常のVLBI実験と 同様の手法で解析された。解析の結果をに示す。 表中のX、Y、Z成分はそれぞれグリニッジ方向、極 方向とそれに直交する方向成分である。地上測量 (建設省国土地理院の協力による)で得られた値との 差は、3p以内に収まっていることが分かる。

表 基線解析結果

  

今後の実験計画
 今後システムの完成度に応じ、逐次VLBI実験 を実施して行く予定である。今年度は本所(小金井 市)に移動して鹿島との間でVLBI実験を行う予 定である。本所には水素メーザもあり、また十分に 基線も短いため、電離層の影響も無視できるのでX バンドのみの実験で十分である。カセグレン化、受 信機の低雑音化、受信帯域の広帯域化を行い、また、 新しいビデオコンバータを用いて観測する予定であ る。さらに、当所で現在開発中のGPSシステムと の測位比較実験も行う。
 システムの完成後は、外国や離島を含む各地に移 動してVLBI実験を行う予定であるが、これによ り日本周辺では唯一測定されていないフィリピン海 プレート運動の測定(図2)、VERA(VLBI for the Earth Rotation Study and Astrometry)計画の 大型アンテナとリンクした全国規模の電波干渉計 ネットワークによる電波源の構造観測、SLR (Satellite LASER Ranging、海上保安庁水路部で開発) との比較実験による、SLR座標系とVLBI座標 系の結合等の成果が期待できる。このように、超小 型VLBI局の開発によってVLBI技術の適用範 囲は格段に広がるものと思われる。

(鹿島支所 第三宇宙通信研究室 技官)


図2 日本付近のプレート構造




電波を用いた太陽集光炉の鏡面精度測定


有本 好徳

 宇宙ステーションの上で太陽集光炉を組み立て、 材料実験を行う計画が検討されているが、太陽集光 炉反射鏡を無重力下で使用するために、組み立てた とき、又は鏡面の再活性化を行ったときには、その 場で鏡面精度を測定する必要がある。当所では、昭 和60、61年度科学技術振興調整費による「太陽集光 炉加熱に関する研究」のうち「鏡面精度の測定に関 する研究」を担当した。
 その際、無重力下でマニピュレータ等を用いるこ とを想定し、電波を用いた近傍界測定により鏡面精 度を測定する技術の開発を行うための地上実験を 行った。この過程において、鏡面精度を求めるアル ゴリズムを検証するため、必要なソフトウエアを開 発し、可能な限り既存の実験装置を活用して検証実 験を行った。
  

1. 測定方法
 実験システムの構成を図1に示した。口径60p、 外形が六角形の太陽集光炉反射鏡(球面鏡)の焦点 に一次放射器を置き反射鏡アンテナを構成する。こ のとき、一次放射器のブロッキングを避けるため、 鏡面を下方に約7°傾けて設置した。一次放射器か ら発射された26.25GHzの電波は鏡面で反射し、位 相の良くそろった波面を形成しながら伝搬してい く。この電波の振幅と位相を鏡面から一定距離だけ 離したプローブ走査平面上で測定する。この際の走 査間隔は、測定に用いる電波の波長の1/2以下であ れば必要な情報が得られる。また、走査する範囲に ついては、被測定アンテナの指向性の範囲が、走査 面とアンテナがつくるコーンの内側にくるように決 めれば良いとされている。


図1 実験装置の構成

 得られた走査面上の振幅・位相データからフーリ エ変換を用いて平面波の空間周波数成分を求め、室 内の反射等の不要な成分を取り除いたあと、フーリ エ逆変換によってアンテナ開口面上の振幅・位相に 変換する。この位相パターンと、一次放射器の位置 設定誤差、球面鏡による収差等を考慮して計算した 理想的なパターンとを比較すること によって、鏡面の誤差を測定した。
  

2. データ処理結果
 走査面上での振幅・位相分布を図 2に示した。走査面上では、鏡面の いろいろな場所からの散乱波が干渉 して複雑な振幅分布が現れるが、位 相分布は比較的平坦になる。このこ とを利用して一次放射器の位置を、 縦方向、横方向のテストスキャンを 繰り返すことにより比較的簡単に調 整することができた。


図2 走査線上での振幅・位相分布

h  データ処理を行った結果の開口面 上の位相分布を10°(160μm)おきの 等高線表示で図3に示す。実際の鏡 面は、図の等高線がまばらになって いる中心付近に対応している。鏡面の端 部で等高線が密になっているが、これは エッジ散乱の影響である。この測定で は、測定精度の限界を明確にするため、 鏡面精度が機械的な方法によって十分に 高い精度(7μm rms)で測定されてい る鏡面を用いた。電波による測定では中 心から半径20pの円内で5°rms(80 μm)程度の鏡面誤差が検出された。こ の誤差の要因としては、表面の反射特性 等の電波を用いた場合の測定条件の相 違、鏡面の設置条件による鏡面のたわみ 等が考えられる。


図3 鏡面精度(160μmおきに表示)

 以上のような実験の結果、電波を用い た鏡面精度の測定においては、現状では 測定精度80μm以内が達成できることが 分かった。
 この実験で明らかになった反射鏡の鏡 面精度測定における近傍界測定法の特徴 として、次の項目があげられる。
(1)鏡面(アンテナ)口径の2乗に比例し て測定時間が増加する。ただし、測 定精度は口径によらず一定になる。
(2)ケーブル、受信機等、測定系の位相 安定度、プローブ走査面の平面度が 精度向上には不可欠である。
(3)鏡面の端部からのエッジ散乱の影響が大きく、 端部から5〜10波長の範囲では鏡面誤差が精度 よく求められない。
(4)室内の散乱があっても、鏡面からの反射波と明 確に分離できれば問題にならない。
(5)一次放射器のアライメントは、走査面での位相 パターンを見ることによって簡単に調整するこ とができる。
(6)データ処理に関しては、小型の計算機を用いて も128×128個のデータ処理に要する時間は2〜 5分程度であり、十分実用になる。
 最後に、鏡面をお貸しいただいた運輸省航空宇宙 技術研究所の中村主任研究官に感謝します。

(宇宙通信部 宇宙技術研究室 主任研究官)




≪随 筆≫

参 題 話  研究・金・人間


宮崎  茂

 浮世ばなれした研究、金があってもなくてもしな ければならない研究、実用研究ばかり言う人間…、 これらの“研究”とは、一体どういう研究なのだろ うか。

 今話題の超電導の研究も昔は浮世ばなれしたもの の一つであったであろう。実生活を全く超越した、 絶対零度近くで起る現象であったから。逆に昔最先 端の研究であったものが、今は浮世ばなれした研究 になっているものが無きにしもあらず。

 ある社会学者は次のようなことを言っている。世 の中は概して毎年10%程度変化していく、そして10 年たてばほとんど変わってしまう。まさに十年一昔 である。昔は学校で原理を習っておけば、その知識 はほぼ一生通用したが、今日では学校で原理すら習 わなかった新しい技術が次々と実用化され、実生活 に登場してきている。研究でも同様である。昔は一 つの研究を100年、200年と続けられているものが あったが、今や10年はおろか2〜3年で研究に片を 付けなければならない場合すらある。まさに研究も スピードアップが強いられている。

 さて、今日研究と金は切り離せない。だから、研 究費をとることばかり考えている人間が多くなって くる。研究ブローカーや研究ゴロも台頭してくる。 金が湧いてくる研究があるかないか。もちろん、金 があるだけではできない研究もある。逆に金をも らっては困る研究も無きにしもあらず。地獄の沙汰 も金次第というが、しょせん悪銭身につかずだ。さ りとて金の無い方ができる研究を探していると研究 でくたびれた人間になってしまう。

 閑話休題、研究を職業とする人間の話に転じよ う。一昔前に文部省が発表した“我が国における学 術研究活動の状況調査”の中で5か年間の発表論文 数が0の研究者が25%、1〜10件が56%と報じたこ とがあった。研究者のOutputの一つは論文である からこれは恐ろしい数字と言わざるを得ない。もち ろん発表を多く行えば良いというのではなく、発表 物の質によることは言うまでもない。この観点から 研究者を次のように大まかに分類できるかもしれな い。(1)多量高質の多産型、(2)多量低質の大量生産 型、(3)少量高質の完全主義型、(4)少量低質の沈黙 型。研究者として望ましいのは(1)と(3)の分類であろ う。

 論文の話が出たが、論文がいったん発表された後 の寿命と運命はどうであろうか。著者の願望とは無 関係に一人旅をするようなものであろう。あるもの は華やかに脚光を浴びるであろう。その他大多数は 密かに文献の遺跡の山にわびしく埋もれていくので あろう。

 さて、社会の第一線で活躍する人間は“先”を的 確に読む必要がある。将来の見通し、対応の仕方を 調査検討し、決定する必要がある。また、次の指導 すべき世代をねらう若手中堅は“先の先”を読む必 要がある。将来自分が第一線にたった時どのように 対応するかについて学習することが大切である。研 究者については“先の先の先”を考える必要があ る。先の先の先となると、確かに予想することは難 しい。考える場合の前提なり、仮定が多過ぎる。逆 に創造性、独創性が大いに発揮できる。すなわち、 研究者には創造的、独創的能力が必要とされるゆえ んである。さらには世界観、人生観等も研究に影響 を及ぼす。そして志の高さ、理想をもつことも必要 であり、研究の成果を人類の遺産として位置づける よう努力することが研究者として必須である。最後 に科学誌「サイエンス」の編集長であったエーベル ソン博士の言葉を紹介しよう。“研究者にとって最 も重要なのは自己修練をしながら一生懸命仕事をす ることだ”、蓋し名言である。

(電波応用部長)




外 国 出 張


宇宙からの降雨観測に関する打合せ


 当所が約10年前から開始した宇宙からの降雨観測の研 究は、ゴダード宇宙飛行センターとの航空機共同実験、 更にTRMM(Tropical Rainfall Measuring Mission) 衛星計画の日米協力へと発展している(RRLニュース 第120及び135号参照)が、昭和62年4月NASAの宇宙 科学応用担当副長官が交代したことに伴う新副長官への Briefingの一環として、TRMMとそれに関する日米協 力の状況を説明するためNASAから招かれ、5月10日 から17日の間NASA本部、ゴダード宇宙飛行センタ等 に出張し、新副長官Dr. Fisk、ゴダード所長Dr. Hinner をはじめ多くの部門のDirectorから設計の責任者、T RMM計画の中心的な研究者達等多くの人々と打合わせ た。Dr. FiskはTRMMについて国際協力は基本的に望 ましいし、これはEqual Partnershipといえるバラン スのとれた分担である上、打上げの機会が提供されてい るのがよい。秋のSSLGで更に協力を進めたいという 意向を示した。

(企画調査部長 畚野信義)



VTC'87に出席して


 昭和62年5月31日から6月6日までの間、IEEEの 第37回VTC(移動体技術会議)出席のため、米国フロ リダ州タンパへ出張した。VTCは移動通信及び輸送技 術に関する国際規模の研究集会であり、毎年開催されて いる。会議は昭和62年6月1日から3日まで、ホリディ イン・タンパエアポートにおいて15のセッションに分か れて行われた。論文件数106件、参加16か国266名と小さ な会議であったが、それだけに昼食、コーヒーブレイク 等での研究者間の交流は盛んであった。筆者は移動体衛 星通信のセッションでETS-Xを用いた陸上移動衛星 通信実験計画の講演を行い、JPLやCRCのグループ からいろいろと質問を受け、ETS-Xに対する彼らの 関心の深さを改めて感じた。また、ヨーロッパのディジ タル陸上移動通信システムに関するセッションや、夕食 後深夜まで続いた将来の自動車電話システムに関するパ ネルディスカッションなどを興味深く聴講でき、有意義 であった。

(宇宙通信部 移動体通信研究室 研究官 井家上哲史)



CISPRカリアリ会議に出席して


 自動車(AT車)の暴走事故やロボット旋盤の誤動作 による事故など、最近、不要電磁波による様々な障害が マスコミなどで話題になっている。このような不要電磁 波、特に我々の身近な機器から発生する不要電磁波につ いて、その許容値や測定法などの国際規格を検討するC ISPR(国際無線障害特別委員会)会議が、昭和62年 6月にイタリアのサルジニア島カリアリにおいて開催さ れた。この国際会議はほぼ毎年開かれているが、今回は 日本から関係工業会の代表を含め13名が参加した。主な テーマは、(1)一般的な妨害波測定法に関する改定作業、 (2)高周波ウエルダーなどの高周波利用設備に対する許 容値の見直し、(3)コンピュータなどのディジタル機器 に関する妨害波測定法の検討、などであった。また、高 周波利用設備を担当するB小委員会の幹事国を、我が国 が引き受けることになった。なお、当所からは、主に屋 外測定法について文書を提出し、積極的に審議に加わっ た。

(総合通信部 電磁環境研究室長 杉浦 行)



大型アンテナによる電波利用システムの調査


 米国における大型アンテナの利用状況及び最新のアン テナ製造技術を調査するために、昭和62年6月28日から 7月8日まで米国に出張した。JPLゴールドストーン 局では、64mアンテナの主反射鏡を70mに改修している ところであった。この改修によって、より高度の深宇宙 衛星追尾が行えるようになるであろう。また、昭和59年 に完成した最新の34mアンテナが稼働状態になってお り、 8GHz帯でのVLBI観測が行えるようになってい た。受信機にはJPLで設計した進行波型メーザ増幅器 が用いられており、雑音温度5Kという超低雑音特性を 達成している。
 米国のVLBI基地局であるモハービ局で、高密度デ ータ記録の現状を調査した。現在40μmのトラック幅で、 12倍の記録密度を達成している。アンテナ製造メーカで は、周波数選択型副反射鏡によるカセグレイン給電とフ ロントフィード給電の共用や、副反射鏡を5軸制御して 行う多周波給電技術などの最新技術を調査した。

(鹿島支所 第三宇宙通信研究室長 川口則幸)



IEC移動無線関係会議に出席して


 今年のIEC/SC12F(国際電気標準会議、移動無 線分科委員会)は昭和62年7月9日から15日まで、プラ ハにおいて、第51回IEC大会の一環として開催され た。大会には日本から39名、全体で36か国約1,000名が 参加し、SC12Fには日本から3名を含む17か国33名が 出席した。今回の新顔はソ連、ブルガリア、北朝鮮、そ れに韓国である。古株は英国、米国、仏国、日本、西 独、デンマーク、カナダあたりで、中国も熱心に参加す るようになった。
 議論はほとんど古株だけで行う結果になったが、日本 が永年主張してきたSSB送信機の試験変調信号が改訂 されたこと、隣接チャネル電力測定法の議論が進んだこ とは成果である。また、新設WGの活動開始、IEC標 準測定法の所掌範囲の見直しなどの動きがある。CCI R、CCITT、CEPT等で行われている将来の公衆 陸上移動方式の標準化動向も踏まえ、転換期を迎えてい るIECへの積極的な寄与を行ってゆく必要があろう。

(総合通信部 統合通信網研究室 主任研究官 久保田文人)



IUGG(国際測地学・地球物理学連合)
第19回総会に出席及びJPLを訪問して


 IUGG総会は昭和62年8月9日から2週間にわた り、緑多く美しい街カナダ・バンクーバのブリティッ シュ・コロンビア大学で開催され、筆者は前半1週間参 加した。今総会は9会場で同時に研究発表がなされる大 きな会議であった。連合主催の「地球物理学における全 世界測位システム(GPS)の衝撃」というシンポジウ ムでは、GPS利用測位実験の精度向上、軌道推定精 度、VLBI結果との比較、地球物理学への応用など41 件の興味深い発表があった。休憩時間には、内外のGP S研究者と接し情報交換、熱心な討論をした。また筆者 が、GPS受信システム開発と国内VLBI実験結果の 2件を発表したIAG(国際地学学会)のセッションで は、VLBI実験報告やGPS装置等の論文が発表され た。IUGGの後、ロスアンジェルス近郊のJPLを訪 問し、GPS受信装置や軌道推定実験について情報交換 を行った。今後の測位システム開発に有意義な出張で あった。

(鹿島支所 衛星管制課 主任研究官 杉本裕二)



IUGG総会及びNBSを訪問して


 昭和62年8月10日から15日まで、カナダ・バンクーバ ーで開催されたIUGG総会に出席した。IUGGには 七つの国際学会が所属しており、各学会がそれぞれブリ ティッシュ・コロンビア大学のキャンパス内の校舎を使 用して講演会を行った。宇宙技術・測地利用のセッショ ンはIAGに所属していたが、別にIUGG学際シンポ ジウムの中でも、“Impact of Global Positioning System on Geophysics”のセッションがあった。その中で 報告を行うとともに、最近の研究成果を知ることができ た。
 またIUGG出席後、米国コロラド州のNBSを訪問 する機会を得た。NBSではHowe博士と双方向SS方 式の国際共同時刻比較実験について打合わせを行った。 NBSでは初めて訪問したところとは思えないほど、う ちとけた雰囲気の中で打合わせることができ、有意義で あった。これは当所のこれまでの実績と人的交流の積み 重ねによるものであろうと実感した次第である。

(標準測定部 周波数・時刻比較研究室長 高橋冨士信)



太平洋ISY(国際宇宙年)会議出席


 1992〜3年に国連の行事として行われる国際地球年へ 向けて、日米を中心とする太平洋地域の協力を盛り上げ るため、ハワイ選出のMatsunaga米上院議員と近藤鉄 雄経済企画庁長官により計画されたもので、ハワイ島コ ナ市に近いホテルで8月19日から21日の間開かれた。会 議はICSU、COSPAR、IAF等の国際機関も出 席した総会の外Earth Observation、Facility for Space、 Space Industrialzation、Space Communications、 Planetary Expioration、Astrophysics等の分科会に分 かれ、ISYに際し、あるいはISYを利用して何をや るかを討議した。当所からはEarth Observation分科 会でTRMM(宇宙からの熱帯降雨観測計画)における 日米協力に関し、また、Space Communications分科会 で太平洋地域衛星通信計画における実験構想としてCS パイロット実験を中心とする発表を行った。各分科会の 討議の結果は会議の報告として国際機関等へ提出され る。また、筆者の1人はこの機会を利用し、8月18日午 後第3回TRMM Expert Panel Meetingを開催した。

(企画調査部長 畚野信義 宇宙通信部 衛星通信研究室長 森河 悠)





短 信



ETS-X打ち上げに成功


 技術試験衛星5型(ETS-X)は、昭和62年8月27 日18時20分、宇宙開発事業団種子島宇宙センターからH-T ロケートにより打ち上げられた。
 衛星は、ロケット発射後27分34秒、高度約220qで 分離されて打上げに成功、「きく5号」と命名された。 「きく5号」は同30日14時50分、初めて国産化されたア ポジモータの点火にも成功した。約1か月をかけ、東経 150度、高度36,000qの静止軌道に投入される。
 「きく5号」には、郵政省電波研究所と運輸省電子航 法研究所が共同開発した移動体通信用の中継器が搭載さ れており、国際線の航空機、大洋を航行する小型船舶、 自動車更には人が簡単に持ち運びできる携帯型通信機と の通信実験に使用される。実験の地上基地局としては電 波研究所の鹿島支所が使われる。衛星搭載中継器の管制 も同支所で行われる。
 電波研究所は、11月下旬に予定されている衛星初期 チェック終了後の実験開始へ向け、すべての準備を終了 している。



昭和62年度補正予算の概要


 政府の緊急経済対策の一環として、当所では、1.対外 経済対策としての「輸入の拡大」、2.内需拡大のための 経済対策としての「国立試験研究機関の研究施設等の老 朽化対策」といった項目について大蔵省に予算要求をし てきた。
 この対策を実施するための補正予算は、7月6日開会 された第106回臨時国会に上程、審議され7月24日に成 立した。
 成立した補正予算の当所関係は、総額約63億円という CS,BS当時以来の大型予算となり、ここ数年続いて いる厳しいシーリングにより、なかなか実現することが できなかった大型研究施設の整備が一部ではあるが実現 できることになったことは喜ばしいことである。
 しかし、予算執行面では昭和63年3月31日までに執行 しなければならないという厳しい内容のものである。
 補正された予算の内容は、1.輸入の拡大で@大地震予 知のための西太平洋大型電波干渉計システムの整備、A 超電導電磁波技術の研究施設整備、B宇宙光通信地上セ ンター施設整備、C周波数標準のための高性能分光シス テムの研究開発施設整備、2.内需拡大で@本所屋根防水 補修、A本所外装塗装、B鹿島支所外壁補修、C鹿島支 所空調設備更新といった建設省委任関係、電離層観測、 太陽電波、一次原子標準、無線機器の型式検定、標準電 波発射施設の整備といった継続事項の前倒し、その他老 朽化した施設の整備等となっている。



施設一般公開に多数の見学者


 当所恒例の施設一般公開が7月31日午前10時から、本 所、2支所、5観測所で一斉に行われた。同日、本所で は、雷を伴った集中豪雨に見舞われるなどのハプニング があったにもかかわらず、全所で2500名を超える見学者 でにぎわった。
 当所では研究内容及びその成果を広く一般の方々に理 解していただくため、日ごろから広報活動に力を入れて いるが、その一環として毎年当所の創立記念日である8 月1日(ただし、1日が土、日曜日の際は変更)に施設 一般公開を行っている。今年は前々日に報道記者の見学 会を行い、多くの方々に知ってもらうことができた。ま た、当日には、澤田郵政事務次官も視察にお見えにな り、 1日中活気にあふれた一般公開であった。
 各所の見学者数は次のとおりである。
本所   :1549名  観測所 稚内:  68名
支所 鹿島: 461名      秋田: 205名
   平磯: 66名      犬吠:  57名
               山川: 107名
               沖縄:  75名
    見学者総数   2588名