超小型地球局の開発
−準ミリ波衛星通信の普及に向けて−


吉本 繁壽

  

はじめに
 1957年10月4日、人類史上初の人工衛星、スプー トニク1号が打ち上げられた。今年は、それから30 年目に当たる。いまや国際間の通信は衛星抜きでは 考えられないし、日本国内でも衛星通信が実用化さ れ、さらに放送衛星として各家庭に直接“衛星”が 入り込んできている。日本では、通信の自由化を契 機に、衛星通信の利用は新たな段階を迎えている。
 衛星の利用を一層促進するためには、衛星利用の コストを低減させるとか、衛星を利用して初めて可 能になる新しいサービスを開拓する必要がある。超 小型地球局の開発はその可能性を秘めている。
 衛星通信研究室では、1988年打ち上げ予定の通信 衛星3号(CS-3)用準ミリ波帯(Kaバンド、20 GHz帯)超小型地球局システムを開発中である。本 システムのうち、直径30pのオフセットパラボラ アンテナ、アンテナと一体になった受信器及び復調 器は既に製作済みで、現在、符号化復号器、データ 処理部を開発中である。ここでは、衛星通信の一般 的な特長の解説から始め、開発の着想、利用形態、 システムの概要について簡単に触れる。
  

衛星通信の特長
 従来から衛星通信の特長として、
(1)遠近格差のない(遠距離では今より割安にな る)サービスが可能
(2)衛星の広域性を利用して、(地上網が未発達の 地域への)通信サービスの導入が短期間で経済 的
(3)回線網の変更、追加が(地球局を移動、追加 で)容易
(4)広帯域(高速)で、高品質の伝送が可能
と言われているが、光ファイバーを含む充実した地 上網を持つ日本のような国では、(1)〜(4)の衛星の優 位性は必ずしもあてはまらない。国内の基幹回線と しての衛星の利用の分野では、衛星は地上の補完的 (非常災害時の予備回線、離島との通信及び臨時回 線としての利用)な役割となる。
 衛星通信の利点は、本質的には1回の中継(1個 の衛星)で広い地域にサービスができることから生 じる。したがって、
(5)広い地域を自由に動き回る移動体を相手にする 移動体通信
(6)広い地域の多数の受信者に同時に同じ内容の情 報を届ける同報通信
などは衛星通信の利点を最大限利用する応用例であ る。ここでは、可搬型の地球局で行う衛星の同報通 信的な利用について述べる。
  

システムの基本概念
 個人あるいは事業所で利用する通信では、前提と して使いやすく、経済的なことを考える必要があ る。簡単な情報交換なら電話、ファクシミリで可能 で、ごく一般的な情報なら待つ時間さえ我慢すれば テレビ、ラジオ、新聞で事足りる。しかし、ある程 度特定の情報を頻繁に利用したい場合には、データ 通信(パソコン通信も含む)が必要になってくる。 この場合、長時間になると結構高価になる。
 衛星の同報性を利用することが、解決策の一つと なる。一つのチャネルで伝送される同一内容の情報 を多人数で利用すれば、高価な衛星の使用料あるい は送信主局の設備費が頭数で割られるので安くな る。問題は各利用者が備える地球局のコストであ る。そこで、例えば、地球局を小型化することで、 コストダウン、設置の容易さを実現させれば利用が 増え、量産効果で更に安価になる。したがって、受 信地球局の小型簡易化が必須となる。
 では、小型とはどの程度なのか。室内に置いて使 用することも考えれば、一般的な窓枠の大きさから アンテナの直径は60p程度以下であろう。更に、扱 いやすく、移動も簡単にということで、我々は、ア ンテナの直径を30pと決めた。これなら机の上に 置いても使えるし、携帯性も良い。次に我々は、例 として、地上回線で現在通信社が行っている、同報 ファクシミリサービスの代替を想定してシステムを 検討した。
  

システムの概要
 現在、通信社では企業や官庁向けにファクシミリ でニュースや経済情報を配信しているが、これを衛 星通信の特長である広域性、同報性を利用し、アン テナ5mφ規模の送信局を親局として通信衛星を経 由し超小型受信局にデータを配信することを想定す る。図1に全体システムを示す。変調方式はCPF SK(位相連続のFSK)、情報伝送速度は4.8kbps (衛星回線上は誤り訂正符号を付加して9.6kbps) である。受信端末にはパーソナルコンピュータを用 いるため、情報の分類、検索等の処理が可能である。


図1 超小型衛星通信システムの概念図

 アンテナは準ミリ波帯の衛星下り回線20GHz帯 を使用する小型、簡易でビルの屋上や事務所の窓際 などに簡単に設置できる大きさとして直径30pと した。アンテナは市販の三脚に取り付けることがで きる(写真1)。形式は、広角特性が優れているこ と、一次放射器のブロッキングによる利得の低下を 防ぐことができること、また、構造が簡単であるこ となどの特長を有するオフセットパラボラアンテナ とした。フィードホーンは受信専用でしかも狭帯域 単一周波数であるため、構造の簡単なコニカルホー ンとした。試作したアンテナの利得は給電部の損失 を含めて33.6dB半値幅は3.8度でサイドローブ特 性も良好であった(1991年以降のCCIR基準を満 足)。低雑音増幅器は雑音温度200K以下で利得は46 dB。CS-3の中継器1台の1/20の帯域を使用して、 9.6kbps(誤り訂正後の誤り率10^-8)で例えば、年稼 動率99.8%程度(下り回線マージン4.4dB程度) が得られる。


写真1 超小型地球局の外観

 通信社より得た資科を基に伝送内容と情報量を推 定した結果を表1に示す。ここに表されているニュ ース量は、現在、通信社が全国の新聞社に1日2回 の割合で配信しているニュース量をほぼ表してい る。商業情報は株式の銘柄数等から得た量である。 また、気象情報についても文字又はデータのコード 伝送とし、画面そのものの情報は送らない。画面構 成、表示の情報は主局から別に郵送される収集処理 プログラムの中に含まれる。この点がキャプテンシ ステムと異なるところで、所要伝送量を少なくでき る利点がある。伝送時間については、表1に示す所要 伝送速度の和1.22kbps以上の伝送速度があれば更 新時間内に伝送は完了する。4.8kbpsで伝送すれ ば、3回程度再送が可能。また、データ量の合計は 6806kbit(すなわち851Kバイト)であるから、処 理計算機のデータベースは少なくとも2Mバイト程 度必要である。


表1 伝送内容と伝送速度

  

おわりに
 超小型地球局は、いわゆるVSAT(Very Small Aperture Terminal)と総称され、通常、Kuバンド (14/11、12GHz帯)で直径1.2〜1.8m、Cバンド (6/4GHz帯)で0.6〜3.3m程度のアンテナで、米国 ではテレビ(中継)番組の受信専用局あるいは、 チェーン店のデータ伝送用に実用化が始まっている。 日本では、Kaバンド(30/20GHz帯)が実用化され ており、これを利用すれば、更に小型化が図れ、日 本の住宅(事務所)事情にも合う。なお、利用のコ ストは、衛星を年8億円、主局を年3億円、超小型局を 500万円程度に見積もって、200局で利用して、1局当 たり、1か月10数万円程度である。
 ここに述べた超小型地球局を用いた通信システム は、今後、CS-3での実験を予定している。現在 は受信専用システムとして検討しており送信は考え ていないが、更に超低速の送信機能を加えた双方向 のシステムやもう少し伝送速度の大きいシステムに ついても併せて検討したい。

(宇宙通信部 衛星通信研究室 主任研究官)




インマルサット衛星を用いた航空衛星通信実験計画


大森 慎吾

  

はじめに
 郵政省電波研究所、国際電信電話株式会社(KD D)及び日本航空は、インマルサット太平洋衛星を 用いた国際線旅客機に対する電話サービスの実用化 実験及びデモンストレーションを10月から開始し た。また、実験と並行して乗客からも意見を聞き、 実用化の参考とする。
 今回のインマルサット衛星を用いた実用化実験 は、世界的に高まっている航空衛星通信の早期導入 への期待に、日本のETS-X/EMSSの研究開発の 成果を反映させることにより、こたえようとするも のである。
  

航空衛星通信導入の背最
 現在の国際線の航空機は、短波以外に通信の手段 がなく、かつ通信自体が航空交通管制通信(AT C)に限られているため乗客は外界と完全に隔離さ れている。しかも、短波を用いているため通信品質 は十分とは言い難く、航空機運航の安全対策面から も抜本的な改善が強く求められている。これに対 し、衛星技術の進歩に伴い、通信の広域性と通信品 質の安定性を備えた航空衛星通信の実用化に期待が 寄せられてきた。
 世界的にも、インマルサットが昭和60年10月に条 約の改正を採択し、昭和64年頃を目標に航空衛星通 信の導入の準備を進めている。一方、現在世界的な 対航空機業務通信網(ACARS)を有するARI NC(米国)もインマルサットに対抗してAVSA T計画を推進するなど航空衛星通信をめぐる情勢は 積極的導入へ向け大きく動いている。
  

実験の目的
 本実験の目的は、航空衛星通信の有効性を実証す るために行うもので、基礎技術の研究開発を目指す ETS-X/EMSSの航空通信実験とは当然異な る。本実験の目的を以下に示す。
1. 世界的な航空衛星通信の早期導入の要望にいち 早くこたえる。
2. ETS-X/EMSSの研究開発の成果を航空衛 星通信の実用化へ反映させる。
3. 航空機搭載機器の国際標準化に寄与する。
  

実験体制
 本実験遂行のため、昭和61年12月に「航空衛星通 信実験連絡会」が設置された。本連絡会は郵政省通 信政策局宇宙通信開発課長を会長として、郵政省、 電波研究所、KDD、日本航空、全日空及び日本電 子機械工業会の各代表から構成されている。
 本実験計画は第一期、第二期と二段階に分かれて いて以下に示すような内容となっている。今回の実 験は第一期に相当する。第二期については、第一期 の成果と国際情勢を見極め、その時点で再検討する ことになっている。
第一期 (電波研究所、KDD、日本航空)
 1. 昭和62年度に実験を開始
 2. 音声通信のデモンストレーション
 3. 航空機アンテナはETS-X/EMSS用アン テナを改良開発
第二期 (電波研究所、KDD、日本航空、全日空)
 1. 昭和64年度に実験を開始
 2. 地上系との接続及びアクセス制御
 3. 運用上及び技術上の評価
 4. 航空機アンテナは実用型(ARINC規格)
   とする
  

実験計画
 第一期実験計画は、以下のとおりである。
1. 実験期間     昭和62年10月から約3か月
2. 使用航空機    日本航空ジャンボ旅客機
3. 実験航路及び頻度 日本と北米西海岸の太平洋
           路線で週一往復程度
4. 実験内容     伝搬特性の取得及び電話、
           ファクシミリの通信品質評
           価
5. 搭載アンテナの  EMSS用航空機アンテナ
  形状及び設置   の改良型で設置方法はEM
           SS航空機局と同様
実験概念図を図1に、電波研究所の研究開発実績を 基に改良開発された航空機搭載アンテナを写真1に 示す。このアンテナは日本航空のジャンボ旅客機の 上部に設置され、フェアリングと呼ばれる特別な風 防で覆われる。通信方式にはKDDが研究開発を 行っている変調方式及び音声符号化方式を用いた ディジタル技術を用いる。衛星はインマルサット太 平洋衛星、航空地球局は、KDD茨城衛星通信所を 用いる。


図1 国際航空機電話の実験システム


写真1 航空機搭載アンテナ

 航空機地球局は既に開発を終了し、インマルサッ ト衛星経由での実通試験を行い十分な実験成功の見 通しを得、10月初旬に航空機への搭載を終了した。
  

おわりに
 EMSS実験にしろインマルサット実験にしろ、 衛星を利用して、民間旅客定期便に電話サービスを 提供する実験は世界で初めてのものである。成功す れば航空衛星通信分野での日本の実力を示すだけで なく、将来の実用システム構築の一助として意義深 いものとなろう。

(宇宙通信部 移動体通信研究室 主任研究官)




長波及び地電流の観測による地震予知


高橋 耕三

 地震予知とは、地震の場所、規模、時期を数値的 に予知することである。単独の方法でこれに成功し た例が報告されているのは、今のところ、地震前兆 の地電流や長波の観測だけである。しかし、現時点 では地震予知の研究といっても地震予知関連の研究 を指すことが多く、定性的であったり、場所・規模・ 時期のうちの一部の予知の研究であったりする場合 が多い。例えば、当所関連では、測距・測位装置の 開発が地震予知もその目的の一つとして行われてい るが、測距・測位だけでの数値的予知は、現時点で は不可能で、地震の原因となる活断層の位置・特性 が既知の場合のみ、時期の定性的予知が可能となる にすぎない。

 地磁気や地電流が地震前に変化することは、18世 紀には既に知られていたが、予知の成功は最近のこ とで、ギリシャでは昭和61年から地電流の観測によ る定常的な予報が行われている(約1週間前に、震 央を誤差50q以下、マグニチュードを誤差0.5以 下で予報)。

 地震前兆の長波は、地電流よりも約200年遅れて 1972年頃から知られるようになり、我が国でも、長 野県東部の電気通信大学菅平宇宙電波観測所や宇治 の京都大学防災研究所等で81〜82kHz、163kHz等 の受信に成功している。

 地電流も長波も、検出している物理量は同じ電界 変動であるが、地中の電極間の電圧に起因するもの を地電流といい、アンテナで受信する電界変動のう ち300kHz以下の電波を長波といっている。地殻は 主にイオン結晶の岩石で構成され、磁性を持つ岩石 も多い。これらの岩石は歪力・圧力で圧電気やピエゾ 磁気を発生するため、地 震前兆の歪力・圧力の変 化に伴い電磁界が変化し、 地電流の変化・電波の放 射が起こる。これらは地下 爆破や岩石破壊実験で検 証されている。また、地 震前兆の岩石の歪、亀裂 の発生及び亀裂への水の 流入による地電流の変化 も数値的に研究されてい る。

 地電流・長波の観測 は、単独では唯一の数値 的予知の手法といわれて いる反面、鯰の観察程度 の評価しかしない人も多い。

 鯰等一部の動物が地震 前に特異な動きをするこ とは、昔から知られている。鯰にとっては、地震前 に穴から出て圧死を避ける必要があり、進化の結果 そのような性質を持つようになったとしても、何を どのように感知しての動きなのかは分からないし、 穴から出るのは地震前に限ったことではない。地電 流・長波の場合も、地震前兆現象のあることは事実 としても、地表近くを除けば地殻の特性は明らかで ないから、観測結果を数値的に説明することは困難 であるし、同様な電磁現象は空電や人工雑音でも発 生し、当然それは地震前に限ったことではない。

 測距・測位による地震予知も問題点がある。地震 の際の地殻の大きな動きはもちろん、その前後の小 さな動きも測距・測位で検出され、多くの前兆現象 が報告されているが、類似の現象があっても地震が 起きないこともあるし、前兆現象が測距・測位では 観測されないこともある。一つの活断層は、我が国 の場合、百年ないし数千年に一度しか大地震を起こ さないから、各活断層に固有な前兆の検出には百年 以上の年月を必要とする。このため、測距・測位は 長期間の観測データの蓄積が必要であり、近い将来 の予知ならば鯰等動物の観察の方が遥かに実用的と いっている地震学者もいる。

 地電流・長波による予知が、まだ十分に評価され ない他の理由は、30万円もあれば容易に連続観測を 始めることができるため、多くの人が予知の困難な ことを体験しているからでもあろう。地震前兆の地 電流は、通常は、電車の運行に伴う地電流や降雨に よる変動にうずもれてしまう。

 ギリシャでの地電流の測定は、100q程度離れた 多数のステーションで行われている。その多くは陸 軍の演習場等人工雑音の少ないところにあり、降雨 の有無は人間が常時監視している。各ステーション は東西・南北、長短の組合せの4基線を構成してい る。局地的な雑音は4基線上に異なった現れ方をす ることから、また汎地球的な磁気嵐等に伴う現象は 多くのステーションに同時に現れることから、地震 前兆現象と区別している。我が国では、兵庫県の山 崎断層での予知が著名である。中国高速道路下の活 断層内の観測用トンネルの中に電極があり、雑音や 降雨の影響が少なく、前兆信号の観測レベルが高い ので、何度か予知に成功している。

 これまでの地表での地電流・長波の観測では、人 工雑音の強い地域や、浅海以外の海底下での地震の 予知が困難である。我が国の場合、雑音の多い人工 密集地帯や海底下での地震が大災害をもたらすこと が多いため、これらの地震にも適用できる予知法が 必要である。そのため、下記のような方法が提案さ れている。

 図1左側のように、鋼管深井戸をモノポールアン テナの直線素子として、前兆の長波を地中で受信 し、地上の雑音は地表に設置した反射器で除去する。

 科学技術庁防災科学技術センターが東京・府中の 3q観測井と同市の水道管網を用いて受信した長波 のスペクトルを図2に示す(商用電源周波数50Hz の高調波が強く現れている。17.44kHzのピークは、 知多半島の米海軍依佐美局の潜水艦向け200kW送 信波)。比較のため地表に設置したループアンテナ では、空電による衝撃性雑音が強いのに対し、鋼管 井ではこれがほとんど認められなかった。

図1 地中の波長の受信方法

図2 3km鋼管井の出力スペクトル(周波数対電圧)

 上記の方法は、大気中の雑音の除去には有効であ るが、雑音は送配電、電気溶接、長波送信等で発生 し、これらは電線、電極、アンテナ等の一端を接地 しているため地中にも雑音が放射され、図2の様に 受信されてしまう。このため、深海底にアンテナを 図1右側のように設置して、地中の長波を受信する ことが提案されている。海水の比抵抗は地殻のそれ よりも格段に小さいため空電や人工雑音は深海底ま ではほとんど到達しない。一方、海底の地殻の比抵 抗は陸地のそれと大差ないことが知られている。

 現在の地電流や長波による予知の欠点は、長中期 的予知が不可能で、多くの場合、約1週間前にしか 予知できないことであるが、深海の雑音の無い状態 で観測すれば、この欠点が改善される可能性があ る。

 他方、地電流や長波による予知の利点は、観測装 置(アンテナ、受信機等)の価格が測距・測位等の それの1割以下であることで、上記の海底での長波 受信システムの有用性の検証も、浮上式ブイを用い れば、1億円もあれば可能となる。

 地震による死亡と火災の多くは、予知により防げ ることは明らかになっている。我が国の過去100年 間の地震による死亡・行方不明者の年平均は約2000 人、焼失家屋の年平均は約5000戸にのぼる。

 今後も確実に起こる大地震に伴う被害を、可能な 限り小さく押えるために、種々の予知手法の中でも 確実性の高い地電流、長波による予知の研究を着実 に推し進めていく必要がある。

(第二特別研究室長)




外国出張


第19回IUGG総会に出席して


 国際測地学地球物理学連合(IUGG)の第19回総会 が昭和62年8月9日から22日までの約2週間、カナダの バンクーバー市で開催された。筆者は科学技術庁国際研 究集会派遣研究員として同総会に出席し、論文発表及び 関連会議に出席する機会を得た。
 IUGGは七つの国際学会協会で構成されており、測 地、地震、火山、海洋、地磁気、大気、水圏と地球物理 学関連分野全体を網羅している。今回の参加者総数は約 3,500名に及び、日本からは300名弱が参加した。
 筆者は国際地磁気超高層物理学連合(IAGA)の主 催するシンポジウムの中で、磁気圏のイオン物理、太陽 風と彗星及び惑星との相互作用、地磁気活動の予報に関 するものを中心に参加した。これらの分野は研究が最も 活発に進展している分野であり、世界的な動向を知り個 個の研究者とも面識をもつ機会に恵まれたこと、また旧 知の友人と再会できたことは非常に有益であった。

(平磯支所長 丸橋克英)



国際電波科学連合(URSI)第22回総会に出席して


 URSI第22回総会が昭和62年8月24日から9月2日 までイスラエルのテル・アビヴにおいて42か国から約 1,000名が参加して開催された。日本からは38名が、当 所がらは松浦電波部長、猿渡通信系研究室長、阿波加主 任研究官(英国留学中)の3名が参加した。開会式で加 藤進京大教授がアップルトン賞を受賞、URSI9分科 のうち3分科の議長に日本人(D分科:大越孝敬東大 教授、E分科:菊地弘日大教授、H分科:松本紘京大教 授)が選出された。また、我が国の研究成果も国際的に ますます重要視されつつある感を強くした。
 当所からの発表は、F分科において降水散乱に関する 講演(阿波加)及び陸上移動伝搬に関する講演(猿渡ほ か)の2件、G分科においてISS-b電離圏マッピング に関する講演(松浦ほか)及び昭和基地ロケット観測 (佐川ほか)、全電子数長期観測(皆越)、イオン組成 ISS-b・IRIモデル比較(巖本ほか)に関する概要講 演とポスター展示の計4件であった。

(電波部長 松浦延夫 総合通信部 通信系研究室長 猿渡岱爾)






≪職場めぐり≫

「宇宙の天気予報」をめざして


平磯支所 通信障害予報研究室

 研究室の朝は、世界各地から太陽、地磁気、電離 層などの最新の観測情報を伝えるテレックスの軽快 な響きと共に始まります。電波研究所は太陽・地球 環境に関する国際的な警報組織の西太平洋地域警報 センターに指定されており、その実際の業務を私達 の研究室で行っているのです。毎朝午前10時になる と、室員は皆警報指令室に集まり、支所内、外から 収集された観測情報を分析して、太陽活動、地磁気 活動及び短波通信状態の予報を発令します。

 これらの予報が一般の人にも容易に入手できるよ うに、昨年の4月からテレホンサービスを始めまし た。これは、当支所をはじめ全国6か所に設置され た自動応答式サービス電話により、各種の予報のほ か、太陽フレアや地磁気嵐などの現象の速報及び黒 点数の情報を、150秒以内の合成音声でサービスす るものです。全国で月平均約2,000件の利用があり、 今年度は大阪にもサービス電話を増設する予定で す。

 現在、太陽活動は極小期なので、黒点の数は余り 多くはありませんが、時折り活発な黒点群が現われ、 フレアと呼ばれる爆発現象を起します。大きなフレ アが発生すると、これに伴って強力なX線や高エネ ルギーの粒子が放射されたり、プラズマの津波が地 球におし寄せて周辺の宇宙環境に嵐が引き起こされ たりしますが、こんな時には、人工衛星が高圧に帯 電したり、搭載電子機器が誤動作したりすることが あります。また、X線や高エネルギー粒子は、宇宙 活動をする人間にとって大変危険なものです。国際 協力により宇宙ステーションを建設する計画などが 現実の話題となっていますが、そのためには、有人 宇宙活動の安全をおびやかす宇宙の気象現象を正確 に予測し、的確に対処する技術を確立する必要があ ります。私達は21世紀の初めに予想される人類の本 格的な宇宙活動に備えて、現在の業務をさらに発展 させた、「宇宙の天気予報」とも言うべき、新しい 予報システムの開発を目指しています。

 研究室の顔ぶれを紹介しましょう。室員は、男性 4人、女性3入の合計7人です。まず、最年長の安 藤の趣味は囲碁ですが、支所の囲碁人口がめっきり 減ったので、手持ちぶさたの様子です。三宅は、今 年宿舎の庭を耕して沢山の野菜の種を蒔き、収穫を 楽しんでいます。徳丸は8月に鹿島支所から移って きたばかり。鹿島では草野球の正選手でしたが、平 磯でのチーム作りは当分望めそうもないので、目下 当支所の代表的スポーツ、パンポンの特訓中です。 私(森)はそのパンポンのレギュラーで、昼休みの 空模様が気になるこのごろです。さて、女性トリオ のプロフィールです。礒崎は3人の姉貴分、陽気で 面倒見が良く、皆から「奥さん」の愛称で親しまれ ています。大山は明るくておしとやか、大内は快活 なスポーツウーマンです。この名トリオが、研究室 の日常業務をしっかりと支えてくれています。

(森 弘隆)


後列左から 三宅、森、徳丸、安藤
前列左から 大内、大山、磯崎



短 信



科学技術振興調整費による国際共同研究の実施


 科学技術の国際交流を積極的に推進するために、科学 技術振興調整費の中に、国際共同研究制度が昭和62年度 から新設された。この制度は、次の条件を満たす研究課 題に対し、外国旅費、外国人招へい旅費及び滞在費等が 認められるものである。
・単一省庁の研究機関と、単一相手国の研究機関の間で 実施される共同研究であること。
・国として、積極的かつ緊急に対応すべきもの(科学技 術協力協定等の国際約束に基づくもの)
・基礎的・先導的研究あるいは国家的、社会的ニーズの 強いもの
 今年度は、当所から次の3件の実施が認められた(かっ こ内は共同研究相手国)。
・衛星による精密周波数と時刻の比較研究(豪州)
・南北基線電波干渉計による極運動及び地殻プレート運 動の測定(豪州)
・22GHz帯における日米共同VLBI実験(米国)



多周波マイクロ波散乱計による植生識別実験


 電波応用部では、X-バンドFM-CWレーダによる稲 のマイクロ波散乱係数測定を行ってきた。今年9月に は、かねてより懸案であった本レーダの多周波化(X、 L、C-バンド)が科学技術振興調整費重点基礎の配分 を受け実現した。9月16日から19日にかけて行った実験で は、この多周波マイクロ波散乱計を用い、農林水産省農 業環境技術研究所の協力を得て、稲のマイクロ波散乱デ ータを多周波にわたり測定したのをはじめ、葉型の異な るゴボウ、大豆、キビの散乱データを取得することがで きた。
 今回の実験では、これまで行ってきた散乱係数を求め る手法の外に、散乱強度の場所的、時間的不均一性、つ まりフェージング特性データを得る手法を取り入れた。 データは現在解析中であるが、この散乱パワーの確率密 度分布、パワースペクトル及び自己相関関数から稲株間 のサイズ、葉の大小に関係する量が求められたことから 今後の実験が期待される。更に引き続き10月6日から9 日まで、筑波の前記研究所で実験を行った。



沖縄で29年ぶりに金環食


 秋分の日の9月23日全国的に日食がみられ、沖縄では 11時23分から11時27分まで金環食となった。日食観測に 全国から天文マニアが集まり、日食の中心が通過した万 座ビーチでは数百人がカメラの砲列を敷いた。沖縄地方 は前日まで雨模様で当日も降水確率50%という予報で あったが、よほど強力な晴れ男(女?)が来沖したのか 朝から晴れわたり、折から開会中の国体会場では競技を 中断して壮大な天体ショーを楽しむ風景が見られた。沖 縄電波観測所でも、家族が集まり感光したフィルムの切 れ端をフィルタ代わりに屋上で日食を観測したり、ドー ナツ型になった木漏れ日を楽しんだ。日食の終了ととも に沖縄上空は再び厚い雲に覆われ、沖縄気象台は面目を 保つとともに恨みをかわずにすんだ。
 日食に伴い、各観測所では電離層の強化観測が行われ、 特に沖縄では金環食の時刻を中心にイオノゾンデの連続 観測と短波ドップラーの早送り記録が行われた。日射量 の急激な変化に対応して電離層の電子密度プロファイル が変わり、中間圏と下部電離圏の貴重なデータが得られ た。


沖縄電波観測所で撮影した金環食



大型施設建設着工


 本年度の補正予算で、整備が予定されていた大型研究 施設のうち、西太平洋超大型電波干渉計アンテナシステ ムについては蒲搆oが、宇宙光通信地上センターについ ては伊藤忠アビエーション鰍ェそれぞれ落札し、このほ ど契約が締結され、来年3月の完成をめざし工事が開始 された。
 VHF帯からミリ波帯までの広い受信バンドをもつ 30m級をはじめ、3基のパラボラで構成されるアンテナ システムについては、当面鹿島支所に設置され、将来は 西太平洋VLBI実験に使用される予定である。
 宇宙光通信地上センターについては、可視から赤外に わたる広い領域の波長帯での、衛星−地球間をはじめと する宇宙光通信の実験研究のための地上施設として使用 されるもので、本所北側敷地に設置される。


アンテナシステムの鍬入れを行う塚本所長