新生“通信総合研究所”の船出 新春所長インタビュー






塚本賢一所長

福地 明けましておめでとうございます。塚本所長 はどんなお正月でしたか。

塚本 おめでとうございます。今年はおだやかな天 候に恵まれ、私自身も暮れの30日にはゴルフに行っ てきましたが、いつになく好成績で気持ちよく新年 を迎えることができました。

 昨年は、日米貿易摩擦や株価の乱高下と大きな 波乱がありましたね。

 昨年日本は大きな経済変動に遭遇しましたが、 経済基盤がしっかりしていることが、再確認される 結果となりました。また、昨年は卯年で、飛躍を期 した訳ですが、電波研究所では約63億もの大型補正 予算を獲得しましたし、期待どおりの良い年でし た。この補正予算では、執行に大変な努力をしても らいましたが、近代的設備を整えることができ、電 波研究所にとって研究のアイディアにはずみのつく 明るい転換が感じられます。また、ETS-Xも静 止化に成功してEMSS実験が定常段階に入ったこ とも嬉しいニュースでした。

 実は、私は辰年なんですが、今年は1900年代最 後の辰年で、いよいよ21世紀に向かっていくという 感がありますが。

 今年の干支にあやかって言えば、辰というのは 十二支の中で唯一想像上の動物ですが、imaginary の想像ではな く、creation の創造の年に したいと思っ ています。

 年末に来 年度予算の政 府原案が決ま り、その結果 は100点満点 で120点とい う評価も聞かれますが。

 そのとおりだと思います。近年にない好成績と なりましたが、総額で41億6924万9千円、対前年度 比3.3%の増、物件費だけをみると8.85%の増で す。これも、高度情報社会に向けて当所の研究の重 要性が認識された結果と受けとめています。

 語呂あわせをすると、「良い方に向く、研究に 欲」といったところでしょうか。項目でみるとどう なっていますか。

 重要事項では継続の6項目(通信衛星、航空海 上衛星、VLBI、衛星間通信技術、テレビジョン 同期放送、周波数資源の開発)はもちろん、新規の @宇宙天気予報、A宇宙からの降雨観測二周波レー ダ、B放送及び通信の複合型衛星(BCTS)、C 電気通信フロンティア研究開発の推進が認められた のは、大きな成果だと言えます。


 来年度予算で注目すべき点は何でしょうか。

 組織がらみで、研究所の名称の変更と所掌の追 加が一番意味があると思います。名称については、 「通信総合研究所」ということになりました。
 所掌についても昭和27年の電波研究所の設立以来 手付かずでした。科学技術がめまぐるしく発展して いる中で、所掌は全く変わらないままでやってきた訳 で相当無理があったのです。というのは、郵政省組 織令の92条には、電波研究所は定常業務以外では電 波の伝わり方の研究及び調査を行う程度のことしか 書かれていないのです。これまでも何回かの機構改 革の度に、既に実績のある宇宙通信やリモートセン シングが堂々と研究できるような所掌を追加しよう と試みたのですが、なかなか実現しなかったので す。今回、「電気通信に関する研究及び調査を行うこ と。電波の利用に関する研究及び調査を行うこと。」 の2項目を所掌に追加することができました。

 長年なじんだ「電波研究所」の名称がなくなる ということについては、淋しいという感じもありま すが。

 電波研究所は国立試験研究機関ですから、国 民、社会のニーズに沿うよう、その研究内容は時代 の要請に沿って変わる方が当たりまえだと思いま す。名称についても同じことが言えると思います。 また、今回、このような歴史に残る改革が一挙に行 えたのは、高度情報社会に向けての急速 な時代の変化もさることながら、本省サ イドからの強力な支援があったからだと 言えます。

 名称から受けるイメージでは、「通 信」の研究所となると非通信分野である 電波科学やリモートセンシング等の分野 については手薄になるのではないかとの 懸念もありますが。

 これからの情報社会の健全な進展を 研究面で支えていくには広い意味での通 信関係の研究を強化する必要がありま す。非通信分野の研究については、過去 の成果について謙虚に見直し、態勢の整備を図って いく必要はありますが、これは決して非通信分野か ら撤退するということではありません。そこが「総 合」研究所のゆえんでありまして、これまでも研究 を行ってきた地球科学、宇宙科学の分野やリモート センシングの分野などはもっと拡充していく必要が あると考えています。
 特に、21世紀に向けて人類の生存にかかわる地球 環境がどうなっていくのか、また、有人宇宙活動に 備えて宇宙環境がどうなっているのかを知るには、 これらの分野の研究に負うところが非常に大きいと 言えます。また、これまでも一部超電導通信用デバ イス関連の研究も行ってきましたが、ともすれば手 薄の感がありました。これら物性材料、デバイスの研 究も今後の情報社会を支えるインフラストラクチャ として研究を強化していきたいですね。

 バイオからディープスペースまで、そしてそれ ぞれ基礎から応用までカバーする「総合研究所」に 脱皮する訳ですから、電波研究所設立以来35年ぶり の画期的な出来事ですね。
 ところで、昭和63年度要求で認められた新しい研 究テーマ「電気通信フロンティア研究開発」は、名 前のごとく私たちにとって新しい分野ですね。

 今回の予算項目でも@高温超電導体による超 高速通信技術、A脳機能モデルによる超高能率符 号化技術、B超多元接続・可塑的ネットワーク基 礎技術、これらは私たちにとって、いわば未踏の分 野な訳です。 従来の自然科 学だけでな く、人間の脳 に学ぶなど、 摩訶不思議な 神の摂理に属 するような高 次元の世界の 探索にもかか わろうとするものです。ですから、心理学、医学、 社会学、そのほか広範囲でしかも学際的なところま で立ち入っていかなくてはなりません。


福地主任研究官

 言うに易く、の感もありますが。

 確かにこれ程難しい課題はないかも知れません が、情報通信分野をまかせられている唯一の国立試 験研究機関として、我々はまさにフロンティアとし て勇敢にこれらの研究分野にも挑戦していく責務を 負っていると思います。そのためには、従来の研究 の手法だけではなく、いろいろな分野の研究者と協 力し、産学官の連携や国際交流と言ったことも積極 的に取り入れて研究を遂行する必要があると思いま す。

 なんとなく胸がワクワクしてくるような話です が、新生の通信総合研究所では要員の面での充実も 考えていますか。

 組織をどうしていくかというのは、非常に難し いんですね。現在の定員削減のもとでは、黙ってい れば縮小されてしまいます。研究所として、どんな に立派な研究テーマを掲げていても研究する要員が いないのでは話になりません。やはり、研究は人な のですよ。そのためには、例えば、フロンティア研 究のような先を見越した国際的にも貢献が期待でき る新しい研究テーマをどんどん積極的にアピールし て、それに伴う組織要員面での充実を図っていく必 要があります。

 ビルドをどう打ち出していくかですね。

 そうです。これからは、間違いなく、社会にお ける情報通信の役割が加速度的に増大してきます。 それに伴って研究が必要ですから、堂々とビルドを アピールする必要があると思います。予算の内示の 後に、省内のお世話になった所へ挨拶に回った時に も、郵政省の研究所に対する期待の強さを痛切に感 じました。

 ところで、昭和63年度のビルドの成果は?

 来年度「衛星間通信研究室」の新設が認められ ました。実はこのように、要求した最初の年に組織 増設が認められたのは、非常に画期的なことです。 また、増員も要求どおり、3名認められました。

 過去を振り返ってみますと、電波研究所にとっ ては、昭和60年度の機構改革に始まり、今年度は 「統合通信網研究室」の新設、来年度は所掌追加、 名称変更、組織拡大と大きな変化ですね。

 昭和60年に電気通信事業の電電公社による独占 から、原則自由・民間活力の活用への大転換が行わ れ、行政は一斉に対応していきました。研究所につ いてのここ数年の変化も、このような社会の変化に 伴う一連の流れととらえる必要があります。今後も 常に組織の見直しをしていく必要がありますが、組 織を見直せば当然ある部分では痛みが伴います。し かし、それをのりこえて、時代の変化を的確にとら えて、常に社会の要求にこたえていく研究所の組織 を作りあげていかなければなりません。

 これらの課題をやり遂げるためには、職員のコ ミュニケーションも大事ですね。

 直接研究に携わる人や、定常業務部門の人た ち、支援部門である企画や庶務、会計の人たち相互 間の信頼が大事ですので、そういう環境整備も図っ ていこうと思います。

 今年も大忙しですね。

 私は、旧制の高校時代はサッカーをやってまし たし、体力には自信がありますから、バリバリやり たいと思っております。御協力をお願いします。

 今日は新年早々長い時間ありがとうございまし た。

今号では、RRLニュース編集委員会から福地
主任研究官が、所長にインタビューしました。




西太平洋電波干渉計建設計画


川 □  則 幸

 

はじめに
 当所では、昭和59年から日米共同VLBI実験を 実施し、日本と米本土間や、ハワイやクワジェリン 島などとの距離をVLBI(超長基線電波干渉計) の手法で測定してきた。この実験の結果、ハワイな どの太平洋の島々が、太平洋プレートの運動によっ て年間約8pの速度で動いていることなどが明ら かにされた。
 太平洋プレートの運動は、日本海溝に沿って頻発 する巨大地震の原因になっており、その動きを監視 することは非常に重要である。しかし、太平洋プレ ートは地球を覆う10数枚のプレートのうちのたった 一つにしか過ぎない。生きている地球の現実の姿を 理解するためには、世界中のプレートのすべての動 きを知ることが重要である。このため、国際協力を なお一層強力に進めていくことが重要であることは 言うまでもないが、日本の周辺は日本で測るという 独自の使命を果たしていくことも必要であろう。
 東アジア、特に日本列島周辺は複雑な地殻構造を していて、世界のプレートの四つまでがここで合い 接している。つまり、日本列島周辺の地殻プレート 運動を測定するだけで、地球全体の約1/4のプレー ト運動を解明できるわけである。そこで、当所で は、日本周辺の離島にVLBI局を開設し、西太平洋 地域に大型の電波干渉計網を完成させるべく、必要 なアンテナ・受信系の開発を開始した。に、日本周 辺のプレート構造と電波干渉計網の局配置を示す。
 本土局は、この我が国の干渉計網を、米国や欧州 及び豪州の電波干渉計と結ぶ接点となるもので、直 径が34mの大型アンテナが備えられる。このアン テナは、現在北米プレート上に位置すると信じられ ている当所鹿島支所(茨城県鹿島郡)に建設されて いる。このアンテナは、後でも述べるように、単に VLBIの観測だけでなく、幅広い電波研究にも役 立てられるように設計されている。


図 日本周辺のプレート構造と西太平洋電波干渉計網

 離島局としては、わが国領土内でただひとつ太平 洋プレート上に位置する南鳥島に直径10mのアン テナを、また、フィリピン海プレート上の南大東島 には11mの中型アンテナをそれぞれ設置すること を計画している。離島局用のアンテナはすべて一旦 鹿島支所で完成させ、十分な調整と試験観測をすま せたのち、離島に移設される。南大東島には、11m アンテナの移設に先立って、現在開発中の超 小型VLBI局(3mアンテナ)を移設して、 離島局運用の基本技術を習得することが計画 されている。
  

本土局用34mアンテナ
 本土局用34mアンテナは、老朽化の激し い現26mアンテナ代替えとして鹿島支所に 現在建設中である。26mアンテナは建設後20 年を経過しようとしているが、この間、AT S-1を用いた通信実験や、VLBIをはじ めとする様々な電波天文応用実験に供されて きた。しかし、このアンテナは2GHz/8GHz帯 のみの、しかも受信専用のアンテナになって おり、近年の多様な電波利用・応用に関する技術開 発の切実な要求にこたえることができない。
 新しい34mアンテナは、に示すように、300MHz から49GHzという幅広い周波数帯域の受信が可能 で、かつアンテナの焦点面がユーザに開放されてい るため、研究の目的によっては、に示す以外の周波 数帯での利用や、送信も可能になっている。このよう に広帯域の受信機能を活用すれば、天体電波源のス ペクトルを簡単にかつ迅速に測定できるほか、電波 源の特性にしたがった多様な観測プログラムを能率 よくこなすこともできる。特にアンテナ利得の基準 に使用されている標準天体の放射スペクトルとその 時間変動の測定結果などは、CCIR(国際無線通信 諮問委員会)などにも大きく寄与することになろう。

表 新34mアンテナ受信周波数帯

 に掲げたすべての周波数の給電部及び43GHz 帯と49GHz帯を除くすべての受信系は、はじめから システムに組み込まれている。300MHz帯と600MHz 帯は主反射鏡の焦点で給電され、それより高い周波 数はカセグレン焦点で給電される。カセグレン焦点 には四つの受信機きょう体が独立に取り付け可能に なっている。受信機きょう体の交換は、リフトアップ 機構により遠隔制御によって行える。受信機きょう 体の外形さえ合わせれば、ユーザの用意する任意の 受信機をカセグレン焦点に置くことも容易にでき る。受信機の代わりに送信機をこのきょう体内に格 納すれば、送信アンテナとしての使用も可能である。
 カセグレン焦点は、その正規位置周辺の任意の位 置に移動させることができる。この移動は、副反射 鏡を5軸制御することによってなされる。この機能 は、受信機きょう体に取り付けた給電ホーンに正し く焦点を合わせるために有効であるだけでなく、受 信機きょう体内に格納された複数の受信機を切り替 えることにも用いられる。このような制御によって 受信機を切り替えるのは、世界でも初めての試みで あり、成功すれば1台のアンテナを多周波で共用す る新しい技術を確立することができる。現在、四つの 受信機きょう体の中には、にグループ分けされた 周波数帯の受信機が搭載される予定になっている。
  

離島用中型アンテナ
 直径が10111と11mの二つのアンテナが離島のV LBI局用に製作されている。この二つのアンテナ の架台及び駆動系はまったく同じで、最大11deg/ secという高速駆動が可能になっている。この高速 駆動特性は、天体の電波源を高速で切り替えて受信 するVLBI観測に威力を発揮するであろう。
 10mアンテナには、測地目的VLBI観測の周波 数である2GHz/8GHz帯の受信機が組み込まれてお り、南鳥島での使用を想定して、観測装置を格納す るシェルタや自家発電装置も備えている。2周波の 給電には、周波数選択型副反射鏡という新技術を採 用している。
 11mアンテナ(表紙写真)は、南大東島での使用を 想定して設計されているが、当面は鹿島支所で人工 衛星の管制研究用に用いられる。
  

おわりに
 今回、西太平洋大型電波干渉計用のアンテナとし て、新大型アンテナの製作が多くの関係者のご努力 とご協力によって実現できる運びとなった。特に、 VLBI本部や企画調査部、総務部のご努力なしに は計画すら立て得なかったであろう。建設が始まっ てからは、鹿島支所長をはじめとする支所全員の温 かいご理解とご援助を得ている。ここに深く感謝の 意を述べると共に、これに報いるべくいっそうの研 究開発努力を傾け、新アンテナの有効活用を図って いきたいと思っている。

(鹿島支所 第三宇宙通信研究室長)




スプートニク30周年記念宇宙将来フォーラム


畚 野  信 義

 丸顔で大柄の典型的なロシア美人がニコヤカに近 づいてきた。8月のハワイ島、1泊385ドルの豪華 ホテルで開かれたISY(国際宇宙年)のための国 際会議にロケット協会の依頼で出席していたときで ある。彼女は貴方をソ連に招待したいので是非受け てほしいといい、1枚の紙を渡してよこした。それ はISY国際会議にも出席中のソ連宇宙研究所長サ グデーエフ科学アカデミー会員の署名のある、「ス プートニク打上げ30周年記念宇宙将来フォーラム」 への招待状であった。私はしばらくぼんやりとその 場に立ったまま30年前のことを想い出していた。
 そのとき私は大学3年であった。ある友人の家を 訪れる途中、奈良市の繁華街から少しはずれたうす 暗い通りを歩いているとき、道に面した民家の1軒 から人類最初の人工衛星打上げ成功を知らせる大き なラジオ放送の音が聞こえてきて、しばらくの間ぼ う然と立ちつくしていた。
 あれから30年も過ぎてしまったのかという思い と、自分が4分の1世紀以上にわたって働いてきた いくつかの宇宙の研究開発の分野のどこかで、何か を認めてもらえたのかという満足感とがあった。
 フォーラムはモスクワの国際貿易センターの中で 行われた。参加者は約500名、そのうちソ連が約300 名、米国は宇宙飛行士を含み約120名、ESAから も多数、その他全世界をカバーしていた。我が国か らは研究者9名(宇宙研:平尾、小田、西田、小 山、大林(欠席)、天文台:森本、平林、東大(理): 松井の各氏と筆者)と日電、三菱電の社長代理(平 井、木下の両氏)であった。このうち、当所関係者 は4名であり、この30年間、我が国における当所の 宇宙分野での貢献の大きさを示すひとつのバロメー タであると受けとめている。
 フォーラムは10月2日午前と4日午後に全体会 議、2日と3日の午後及び4日午前に分科会、3日 午前に見学会、5日以降は各人が希望により研究機 関等訪問できることになっており、私はInstitute of Radioengineering and Electronicsを訪れた。 分科会は9つあり(表1)、私は主にSpace and Ecologyに出たが、合い間にできるだけ他ものぞい て見た。もともとはお祭であり、大ざっぱな話が多 かったがそれだけに最先端のニュースもまじってい た。注意を引いたのは、米ソ共通の最大の宇宙計画 は火星有人探査であり、そのため長時間の無重力が 人間に与える影響をソ連はミールステーションで知 りつつあり、米国が焦っていること、ソ連は分解能 5mのリモートセンシング映像を世界に売ることに 躍起であり(Space and Economy分科会の主テーマ がこれであった)、その値段はエラク高いことなど であった。


表1 宇宙将来フォーラムの分科会

 今回のフォーラムの最大のトピックスは、ソ連が 参加者全員を宇宙飛行士訓練センターヘ招待したこ とであろう。ミールステーションと同じモデルを 使った訓練等すべて写真撮影が自由であった。圧巻 だったのは、直径3〜4m、長さ約30mの巨大な チェンバーを振り回す加速度プラス各種環境模擬訓 練装置で、米国でも見たことがないものであった。 宇宙飛行士を呼べば教十名が現われ、ミールの船内 が直ちにスクリーンに写るのに、我が国とのレベル 格差の大きさを見た。

(企画調査部長)




≪外国出張≫

オハイオ州立大学に滞在して


鈴 木  良 昭

 妻と、あと1か月で1歳になる娘をつれて、コロ ンバス空港に到着した。コロンバスは、北アメリカ 大陸五大湖の一つエリー湖の南に位置するオハイオ 州の州都である。空港からのタクシーの車窓から見 る風景はまさに異国の地。家は大きく、芝生の庭も 広い。さすがはアメリカと感心。しかし、後になっ て、このとき通った道はさびれた低級住宅街と知る のだが……。

 コロンバスは秋田とほぼ同じ緯度に位置し、気温 は最高33℃、最低-28℃(1985年のデータ)と寒 い。しかし、私の滞在期間中は記録的な暖冬で大変 快適であった。人口は、約60万人、オハイオ州3大 都市の中では唯一発展中の町であり、ダウンタウン ではビルの建築が相次いでいる。南のシンシナチは 人口が横ばい、エリー湖岸のクリーブランドは鉄鋼 産業の衰退とともに人口は減少し、ダウンタウンは 荒廃化の一途をたどっているようである。

 私が昭和61年10月1日から10か月の間滞在したの は、フットボールの強いことも有名なオハイオ州立 大学(OSU)にあるエレクトロサイエンス研究所 (ESL)である。ESLは所員約50名、学生約80 名の研究所であり、OSUの電気工学部に所属して いる(ちなみに、OSUは、学生数約5万3千人、 教官数約3千人で全米でもNO.1のマンモス大学で ある)。ここでは、主に、アンテナ理論及び測定、 散乱理論及び測定、飛行機、船舶などの自動識別シ ステム、衛星通信、ミリ波電波伝搬に関する研究が 行われている。特に、アンテナ測定及び散乱波の測 定については、電波無反射室内に設置された大型の 測定装置(コンパクトレンジと呼ばれる測定方法を 用いる)による研究が有名である。私の研究課題 は、衛星通信、特に衛星搭載用アンテナに関するも のであった。

 ここの研究者はどんなに偉い人でも研究に関する 討論には気軽に応じてくれる。一方、驚いたのは、 外国人留学生が非常に多いことであった。この研究 所に限らず、技術系の大学院学生には米国人が少な く、多くの学生はもっと金の儲かる経済や弁護士の ほうに進むのだそうで、米国人の中には技術力の低 下につながると嘆く人もいた。特に中国系の学生が 多く、居室の中を中国語が飛び交うことが多い。

 帰国間際に、NAPEX(NASAの伝搬関係者 の会合)で知り合った研究者を尋ね、ロスアンゼル スにあるJPL(ジェット推進研究所)を見学する 機会を得た。まさにそのころ、ロスアンゼルスでは 高速道路での発砲事件が相次ぎ、社会問題と化して いた。レンタカーを借り、移動していた私は高速道 路上で他人を怒らせないようにおどおどと運転する ことになったが、まだアメリカでの快適な生活に未 練を残す妻と私は図らずも帰国直前に、安全な日本 に戻れるありがたみを感じることになった。

 最後に、このような素晴らしい経験の機会を与え て頂いた、科学技術庁をはじめとする関係各位に深 く感謝いたします。

(宇宙通信部 宇宙技術研究室 主任研究官)

年に1回行われるアートフェステバル

−ビル建築の続くコロンバスダウンタウン−


≪外国出張≫

NTIA/ITSに滞在して

真 鍋  武 嗣

 昭和61年10月1日から1年間、科学技術庁長期在 外研究員として、米国コロラド州ボウルダーにある 国立電気通信情報局電気通信研究所(NTIAI/ ITS)に滞在して、大気中でのミリ波の伝搬に関す る研究を行う機会を得たのでその概要を報告する。

 ITSは、第二次大戦後、国立標準局(NBS) の電波研究部門を母体とする中央電波伝搬研究所 (CRPL)に端を発し、その後、環境科学業務局 (ESSA)、電気通信局(OT)への変遷を経た 後、1978年、NTIAの設立とともに、その研究部 門として現在の組織が設立された。現在、NBS、 NOAA(国立海洋大気局)の研究所とともに商務 省のボウルダー研究所を構成しており、電波、電気 通信に関する、科学、技術、標準化等の研究を行っ ている。常勤職員数は約120名で、そのうち、約100 名が研究技術者である。年間の予算は約860万ドル (1986会計年度)であるが、商務省からの直接の予 算はそのうちの約1/3に過ぎず、残りの2/3は国防 省、軍を始めとする他の連邦政府機関等からの契約 によるものである。研究的な業務としては一般的な 基礎研究の外に、これら外部政府機関や民間に対す る電気通信にかかわるコンサルティングやアセスメ ントを行っており、さらに、CCIRやCCITT における米国を代表する研究機関の一つとしての役 割を担っている。

 筆者は、スペクトラム部門のミリ波伝搬グループ において、水蒸気や酸素によるミリ波の減衰の実験 的研究で有名なHans Liebe博士のもとで、「湿潤 大気による96GHzの減衰の気温依存性」及び「ミ リ波・サブミリ波帯における水の誘電率のモデル」 の二つの研究課題に取り組んだ。ITSでは、可搬 型のミリ波実験システムを用いて米国内各地で伝搬 実験を行っており、筆者は、アラバマ州ハンツヴィ ルでの21q伝搬路での96GHzのデータの解析を 行った。

 ボウルダーは、ロッキー山脈の東麓の標高約1600 mの高原に位置し、上記の商務省3研究所の外、国 立大気圏研究センター(NCAR)等の国立研究機 関とコロラド大学を中心とする研究学園都市であ り、これらの研究機関や大学の間の人的交流やソフ トウェア、ハードウェアの相互利用は非常に活発で ある。特に、電波科学や大気科学の分野では、ボウ ルダーは米国の研究の一大センターの役割を果たし ており、全米はもとより世界各国から訪れる研究者 が跡を絶たず、学会や研究会も頻繁に開催されてお り、研究者にとっては理想的な環境であるといえる。

 ボウルダーは、この様な町の性格を反映して、米 国の都市としては例外的といえるほど治安が良く、 コロラド音楽祭やバッハフェスティバル、シェーク スピアフェスティバル等が例年開催されるなど、文 化的にも水準の高い町である。また、登山、自転 車、スキー等、アウトドアスポーツも四季を通して 非常に盛んである。

 最後に、本出張の実現に当たっていろいろお世話 いただいた関係者各位に深く感謝いたします。

(電波部 大気圏伝搬研究室 主任研究官)

  H.Liebe博士と筆者

商務省ボウルダー研究所の前で




外国出張


タイ国KMITL拡充計画長期調査団に参加して


 昭和62年9月1日から26日までタイ国のKMITL (モンクット王工科大学ラカバン)拡充計画に関する日 本の技術協力のための長期調査団に参加し、タイ国へ出 張した。この調査団は、昭和62年3月に派遣された事前 調査団に続くもので、協力予定の電気通信、放送、デー タ通信、機械工学の各分野における技術協力の計画、内 容、人的交流などについて協議するとともに、KMIT Lからの協力要請の背景や周辺事情として、他の大学、 通信事業体、関連企業などの実情を調査した。
 KMITL側と12日間にわたって話し合いを行ったほ か、チェンマイ大学、カセサート大学、マヒドン大学、 タマサート大学、タイ電話公社、タイ通信公社、CLコ ンピュータ社(日本企業の代理店)、バンコク銀行で調 査を行った。大学のコンピュータ・ネットワークの実情等 を考えると早期の技術協力が必要であると考えられる。 帰国の9月26日は日タイ修好100周年の日であった。

(通信技術部 信号処理研究室長 奥田 哲也)



第5回世界電気通信フォーラムに出席して


 スイス、ジュネーブにおいて開催された上記フォーラ ムの技術シンポジウム(昭和62年10月22から27日)に出 席し、「テレピジョン同期放送方式」について発表を 行った。
 このフォーラムは、ITUの主催によって4年ごとに 開催されており、電気通信に関する政策・技術・経済・ ネットワ-クについて、五つのシンポジウムに分かれて 講演・討論が行われた。技術シンポジウムでは、29か国 から113件(アメリカ17,日本16,イギリス12,)の講演 が、19のセッションに分かれて行われた。放送セッショ ンでは、筆者のほかNHKからHDTVの講演があり、 合計6件の発表があった。
 別の会場では、世界80か国・803社(日本からは26 社)が最新のエレクトロニクス技術を出展しており、大 変なにぎわいであった。特に日本のコーナの人気が高 かったのは、その技術力とともに演出に工夫を凝らして いたためと考えられ、他国の展示と比較した場合非常に 印象的であった。

(総合通信部 放送技術研究室長 石川 嘉彦)



中国科学院上海天文台訪問及び第4回IAU(国際 天文学連合)アジア・太平洋地区会議に参加して


 昭和62年10月4日から9日まで、IAUアジア・太平 洋地区会議が中国・北京で開催された。本シンポジウム はアジア・太平洋地区から19か国200名以上の研究者が 集まり、光学天文及び電波天文に関する研究発表が行わ れた。VLBI関連の発表は4件と少なく、アジア・太 平洋地区のVLBIの普及率の低さが感じられた。
 また今回、日中共同VLBI実験支援のため10月9日 から11月1日まで中国科学院上海天文台を訪問した。62 年の春に余山地区(上海市街の南西約30q)に25mφア ンテナが完成したので、この新アンテナの調査も行っ た。余山地区には、光学望遠鏡、衛星レーザレンジング の局があり、25mφアンテナはこの近くに配置されてい る。この25mφアンテナを使用して10月23日に日中共同V LBI実験を実施した。記録されたテープは現在鹿島支 所で相関処理中である。余山局は将来、VLBIネット ワークの重要な役割を果たすと思われる。

(鹿島支所 衛星管制課 技官 金子 明弘)



日加協同科学衛星観測装置の環境試験の実施


 昭和62年10月16日から11月14日までの30日間、科学技 術庁の二国間協力に伴う専門家派遣により、第12号科学 衛星EXOS-D搭載用に日加協同で開発しているイオ ン組成観測装置(SMS)の環境試験を行うために、カ ナダ国立研究会議(NRC)所属ヘルツベルグ天体物理 学研究所(HIA)ヘ出張した。SMSは広いエネルギ ー及び密度範囲のイオンの観測を目的としているが、今 回は特に低エネルギー高密度領域のイオンの測定性能を 試験するためのプラズマ源を製作し、カナダへ携行し た。HIAでは環境試験装置内にこのプラズマ源とSM Sの機械的モデルを入れ、種々のプラズマ条件下でSM Sの測定モード及びSMSとプラズマ源との相対位置を 変えながらSMSの諸機能の実験データを取得した。
 短期間ながら、カナダの共同研究者と彼らの実験装置 を使用してともに仕事をすることにより、互いの理解を 一層深めることができ、大変有意義であった。

(平磯支所 通信障害予報研究室長 森 弘隆)





新年の抱負



上を向いて


越前谷 喜松

 辰年生れの私、天空に漂う電子の雲(電離層)に 魅せられ、毎日休みなくラブ・コールの電波を通わ せ続けてウン10年になりました。
 太陽活動の周期でほぼ4周期、この間には秋田で 見た赤いオーロラ、遥か遠い国の核実験で吹き飛ば されてしまった電離層等々いろいろございました。
 今年は、コンピュータのファイルに入れてもら えなかった古いデータをあとで使いやすいように仕 別けしておかなければと思っています。
“竜足(だそく)”太陽活動早盛期(IGY)と最少期(IQ SY)に娘を造りましたが、上の 娘は活発で、下の娘は淑やかです。
ホントです!



考える原子


吉谷 清澄

 小さな電子が、核のまわりをクルクル回っている。 それを原子という。物はみな原子から成り、人もそ の例外ではない。高校生のころ、そんなことを原子 物理学−鳴呼感涙郷愁的音響−の通俗書で知り、感 動した。と同時に、なぜ原子が原子のことを考えら れるのか、という疑問にとりつかれて頭がぽお〜っ となったことを思い出す。
 そして、いま、「脳」が“熱い”という。この脳 の研究に、なんと統計物理学者が大きく貢献してい ることを聞くに及んで、隠れ物理学ファンの胸は思 わずときめいた。そういう訳で、 今年は脳のことをヒソカニ勉強し てみたい、と思っている。




新年の抱負が        
思い浮かばない−公務員の場合


浜本 直和

 干支にちなんだ物語りを一つ。
むかし、むかし、二匹の竜が桃の実を取り合い、大暴 れの末、天に大きな穴をあけてしまいました。天の穴 からは、雨やあられが降りそそぎ、人々は困り果て てしまいました。そこヘ、1人の若者がやってきて、 2匹の竜からキバとツノを抜き取り、羊の毛を糸に して天の穴を縫合わせ、人々を助けたのでした。その 後、若者は公務員となり、一生人々のために働きま した。めでたし、めでたし。(一部絵本より盗作)  と、いうわけで、私も社会のために一生懸命働く 公務員なりたい……? というと ころで、今年もはたと考え込んで しまいました。



日記をつける


渡辺 美幸

 イジョウなほどの記録愛好癖の持ち主。友人たち に言わせると私はそうなるんだって。
 例えば読書。本を購入した日・書店名・読み終え た日・時間・簡単な感想や読み終えた場所の様子 (電車の中とか歯医者さんの待合室だとか)などを本 の後ろの方に書きこむ。何年か経ってもそれを見れ ば当時のことが思い出せるというふうにしておくの が大好き。
 そう言えば10年続いた日記、いつの間にやら2年 近く書いていない。気がついたら、いてもたっても いられなくなった。コトシノホウ フ。ニッキヲツケル。





短 信



テレサイエンスに関する基礎研究


 宇宙ステーションの科学技術分野への応用の可能性を 検討するNASAの諮問機関が、1984年8月に提出した サマーレポートで、宇宙ステーションにおける科学的生 産性を向上させる概念として「テレサイエンス」が提案 された。その定義はまだ確定されたものではないが、一 般的には「遠隔地における科学研究を、高度に発達した 通信、情報技術を利用して、柔軟かつ対話的に実行する こと」と言われている。このテレサイエンスは、(1)遠隔 地の研究者間で、研究計画、実験装置に関する検討を行 うテレデザイン、(2)遠隔地にある実験装置などを制御す るテレオペレーション、(3)情報ネットワーク等を利用し て遠隔地から実験データの解析を行うテレアナリシスを 要素として構成される。テレサイエンスは、宇宙だけで なく地球上においても海底や火山などの研究に応用可能 で、その共通基礎技術として画像伝送を中心とした通信 がある。当所衛星通信研究室では、昭和63年度より画像 伝送技術等のテレサイエンス基礎研究に着手する。



21世紀を目指して「宇宙開発
改策大綱」の見直し作案開始


 我が国の宇宙開発は、宇宙開発委員会が策定した「宇 宙開発政策大綱」を指針として進められている。この大 綱は昭和53年3月に策定された後、その後の我が国の宇宙 開発を取り巻く諸情勢の変化を踏まえ、昭和59年2月に 改訂がなされている。その後、我が国の宇宙開発も、実 用分野及び科学分野で着実に成果を挙げ、国際的にも高 い評価を受けるに至っている。また、今日では、日米欧 加の国際協力による宇宙ステーション計画が進展しつつ あり、21世紀に向けた新たな宇宙開発の1ページが開か れようとしている。このような我が国の宇宙開発をめぐ る諸情勢の変化に的確に対応すべく、宇宙開発委員会 は、昭和62年5月、長期政策懇談会報告を取りまとめ た。引き続き昭和62年12月、宇宙開発委員会はこの報告 の趣旨を踏まえ、今後の我が国宇宙開発の基本的方向、 長期的推進方策等を明らかにするため「宇宙開発政策大 綱」の見通しを行うことを決定した。本決定によれば見 直しに必要な事項の調査審議は宇宙開発委員会に設置さ れる「長期政策部会」が当たり、昭和63年度内をめどに 新大綱原案を作成することとされている。



電波研究所親睦会開催される


 第16回電波研究所親睦会は、11月28日(土)当所の大 会議室において、OB・現職員160名の参加で盛大に開 催された。
 総会に続いて、今回は最近の話題になっている超電導 に関し、「高温超電導と電気通信」と題して、当所の猪 股英行物性応用研究室長による講演と高温超電導物質の 磁気浮上の実演が行われ関心を集めた。
 また、講演会終了後には講堂に移り、にぎやかに懇親 会がもたれた。