今なぜ降雨観測衛星なのか


中村 健治

 熱帯降雨観測衛星TRMM(Tropical Rain Measuriug Mission)が日米共同の計画として進めら れている。TRMMは、文字どおり熱帯域の降雨活 動を観測する衛星である。これまでの気象、地球観 測衛星はGMS、GOES、METEOSAT等の静止気象 衛星を別にすると地球全体をカバーするためにすべ て極軌道をとっているのに対し、TRMMは図1の ように赤道を中心にして±約35度以内を観測する。 また、衛星としては世界で初めて降雨レーダを積 み、降雨を定量的に詳しく観測できるようになって いる。では今なぜ熱帯降雨観測が注目されているの であろうか。それは昨今問題となっている異常高 温、異常低温、干ばつ等の様々な異常気象が熱帯域 の降雨活動と大きなつながりがあると考えられるよ うになってきたからである。

図1 TRMMの軌道

 地球に入射する太陽エネルギーのうち雲や地表面 で約30%が反射され約50%が地表面に吸収され る。吸収されたエネルギーはいくつかの過程により 放出され、地球はほぼ一定の温度を保っている。地 表面から大気への熱の放出の半分近くは地球表面か ら水分が蒸発し、その水蒸気が凝結し、雨となると きの潜熱放出によっている。熱帯域では表面温度の 高い海域を中心にして強い積雲活動(上昇気流)が あり、大気の広い範囲にわたって熱を放出してい る。図2は凝結熱に伴う加熱率の緯度分布を示して いるが、熱帯域では10q以上の高度にまでわたっ て大きな潜熱放出の行われていることがわかる。こ の大きな熱放出が大気の大循環の主な駆動源となっ ている。熱帯域の降雨の観測は大気の大循環を定量 的に把握するために重要であることは以前から認め られていたが、特に最近、降雨の、よりダイナミック な活動がわかってきた。その一つがエルニーニョで ある。図3は1972年から1984年までのペルーの漁獲 高を示しているが、1973、1977年と1983年に漁獲高 が激減している。参考のために日本の漁獲高も示し てあるがこちらの方には顕著な変化はみられない。 このペルーの漁獲高の減少は現在良く知られるよう になったエルニーニョ現象によっている。エルニー ニョとはもともとはペルー沖の海水面温度が平年よ りも数度上昇し、その結果、魚が激減する現象をさ した言葉である。ペルー沖の海では通常は下から冷 たい海水が上昇しており他の太平洋海面温度よりも 低くなっている。この冷たい海水は栄養分に富んで おり、そこに強い太陽光が入射すると海洋プランク トンが繁殖し、それを求めて魚が集まってきて絶好 の漁場となっている。ここで海水面温度が上昇す る、いいかえると下からの冷たい栄養分に富んだ海 水が無くなると、プランクトンの発生は抑えられそ の結果漁場は消滅する。

図2 6月〜8月の凝結熱の放出による大気の加熱率

   (℃/日)の緯度−高度分布(Newell等による)

図3 ペルーと日本の漁獲高

 エルニーニョは最初は局地的な現 象としてとらえられたが観測が進む につれて熱帯太平洋全体に及ぶ大き な現象であることがわかってきた。 これには1970年代から実用化された 衛星観測に負うところか大きい。静 止軌道上、あるいは極軌道上の気象 衛星には可視・赤外あるいはマイク ロ波の放射計が積まれ、雲の活動状 況や海面温度が観測された。特に 1982〜1983年に発生した非常に大き なエルニーニョについては衛星デー タを用いて数多くの解析がなされ、 現象の理解が大きく進んだ。これら によると熱帯太平洋域の構造は以下 のようになっている(図4)。

 通常期では、西太平洋に暖水塊が あり、この上空では積雲、降雨活動 が盛んで水蒸気の凝結による潜熱の 放出により気温が上がり、大気の上 昇域ができている。この大気の上昇によって太平洋 の赤道上では上層で西風、下層で東風が引き起こさ れ、この下層の東風によって海洋には東から西に向 かう赤道海流が生じている。東太平洋から赤道海流 に乗った海水は長期間太陽に暖められたのち西太平 洋に達し、そこに暖水域を形成する。このような フィードバックシステムが太平洋ではできている。 ところがエルニーニョ期にはこのフィードバックが 崩れ、暖水塊とその上の活発な積雲、降雨活動域が 東よりの中部太平洋に移動する。この結果、東太平 洋ペルー沖の海水温度が異常に上昇する。このよう に、熱帯太平洋域の積雲、降雨活動は海との相互作 用を通じて大規模な気象海象変動に大きな役割を果 たしている。1982〜1983年のエルニーニョでは南米 各地での洪水等多くの異常気象が観測されている。 また、エルニーニョの年には太平洋の高気圧が東へ 移動することによって日本では暖冬になるのではな いかともいわれている。ちなみに今年は暖冬であっ たが実際エルニーニョが昨年から起こっていた。

図4 熱帯太平洋域の大気と海洋との相互作用

 エルニーニョ現象は数年規模の時間スケールを 持っており、この現象の解明は長期の気象予 報の実現への鍵となる可能性がある。信頼で きる長期予報は社会的、経済的にも重要であ る。従来統計的手法等いろいろ試みられてき たが満足できる状態にはほど遠い。ところ が、エルニーニョというものが年規模でかつ 地球規模の現象であることが知られ、それが 全地球の気象に影響を与えているらしいこと がわかってきた。しかもそれが大気と海洋と の相互作用によって物理的に説明できそうで ある。このことは、大気・海洋の長期変動問 題への突破口が開いたということで意味が大 きい。

 以前から熱帯域の降雨観測の重要性は良く 知られてきているが、観測点、データは非常に少な い。これは熱帯域では海が広がっており、また陸上 でも開発途上国が多いという事情からであり、この 解決には衛星観測しかないといってよい。衛星によ る積雲降雨活動の観測は、可視・赤外放射計やマイ クロ波放射計によって過去10年以上の歴史を持って いる。しかし、可視・赤外放射計は雲域、雲頂高度 を観測するが雲の下の降雨そのものは見えない。マ イクロ波放射計は水蒸気や降雨等からの熱放射を測 定することによって降雨を推定するが、海面、地表 面等からの放射を含めた積分値を得るものであり、 特に陸上では、地表面からの熱放射が強く、降雨か らの熱放射をおおいかくすので測定精度に問題があ る。また、降雨域の高度分布等の情報が得られな い。これに対し、現在計画中のTRMMでは、レーダ は陸上/海上、日夜を問わず降雨を直接に観測でき るだけでなく、距離分解能があるので降雨の鉛直構 造も観測できること等の大きな利点を持っている。 降雨の鉛直構造からは降雨による凝結熱放出の鉛直 プロファイルを推定できる。凝結熱放出の鉛直プロ ファイルは降雨活動により駆動される大気の流れを 知る上で非常に重要である。例えば、台風の数値シ ミュレーションでは凝結熱の放出の鉛直プロファイ ルを少し変えることによって台風が発達したりしな かったりと大きく異なってくる。また、大気と海洋 との相互作用のシミュレーションでも鉛直プロファ イルの与え方によって気象擾乱の移動する速さが大 きく異なっている。

 熱帯降雨の観測は陸上でもまた重要である。熱帯 域の陸地はジャングルにおおわれた地域が広がって おり、ここでは降雨の一部は土壌に蓄えられ植物の 蒸散作用によって再び大気に戻り、残りの部分が川 となって海に流れ出る。広がったジャングルはまさ に緑の海の役目を担っている。現在進められている 大規模な熱帯降雨林の伐採や開発はこの水循環を変 え、ひいては砂漠化を引き起こし、全地球的な問題 に発展することが恐れられている。このような観測 は大きくみれば人類を含む生物の生存のための環境 にとって最も重要な水の地球規模の循環の観測の一 環であるといえる。地球は水の惑星とも呼ばれ、水 は他の不毛の惑星と異なる宇宙のオアシスともいえ る青い地球を作り上げている。人間生活の発展に伴 う空気中の炭酸ガスの持続的で急激な増加に端的に 現われているように、人間活動が地球環境に与える 影響が無視できなくなってきた現在、熱帯降雨観測 は地球環境を大気、海洋、陸地、氷域、植生などの 地球環境を総合して理解しようという世界的な共同 計画(Tropical Ocean and Global Atmosphere, Earth System Science Program,International Geosphere Biosphere Program等)の一つの重要 な要素となっている。

(電波応用部 電波計測研究室 主任研究官)




イオンストレージ周波数標準器


小宮山 牧兒

  

はじめに
 VLBI(超長基線電波干渉計)の精度は、水素メ ーザ原子(周波数)標準器があって初めて実現でき たように、原子標準器はいくつかの新しい技術を可 能にしてきた。
 一方、セシウム、水素メーザに代表される従来型 原子標準器の精度は近年その原理的限界に近づいて おり、新たなブレークスルーが待たれている。
 ここで述べるイオンストレージ標準器は、原理的 に従来型より優れており、次世代の周波数標準とし て大きな脚光を浴びている。ここではその概要と当 所の研究計画を含む研究の現状を紹介する。
  

原子標準器の基本技術と問題点
 原子標準器は、原子と電磁波を相互作用させて得 られる共鳴線の共鳴周波数υ0を基準にしている。 周波数の絶対値の正確さ、再現性を得るためυ0は 自由空間で静止している原子の遷移周波数で定義さ れている。実際の原子標準器では原子は動いてお り、更に原子のいる空間は磁場等により摂動を受け るので、基準となる周波数はυ0からシフトする。
 周波数標準に必要な条件は二つあり、第一の条件 はυ0からのシフト量をいかに正確に補正できるか で、標準器の正確さ(確度)を決定する。第二の条 件はυ0をいかに精度よく検出できるかで、標準器 の安定さ(安定度)を決定する。安定さは共鳴線の Q(υ0を線幅で割った値)と共鳴線のS/Nに比例 して改善される。
 ドップラー効果は、原子標準器の周波数シフト及 び線幅を広げる最も重要な要因である。周波数シフ トは原子の速度の電磁波進行成分に比例し、一次 ドップラーシフトと呼ばれている。また、線幅の広 がりは原子の速度が分布を持つために起こる。
 ドップラー効果を打ち消す方法はいくつかある が、水素メーザやイオンストレージ標準器では、原 子をλ/2πより小さい空間(λはυ0に相当する波 長)に閉じこめる方式(Dickeの基準と呼ばれて いる)を用いている。
 ドップラー幅が打ち消されると、次に線幅を制限 する要因は原子と電磁波の相互作用時間冲で、こ の時の線幅は不確定性原理により〜i/冲となる。
 ドップラー効果を打ち消しかつ冲を長くするた め、セシウム標準器ではラムゼイ共鴫法を用い、水 素メーザでは図1に示すようにストレージバルブで 原子を閉じ込めている。これらの方式でドップラー 効果はほぼ除去できるが、セシウム標準器では残留 一次ドップラーシフトが、水素メーザでは原子とバ ルブ内壁とめ衝突による周波数シフトが避けられな い。また、水素メーザのQは原子標準器の中では最 も高いが、原子同士あるいは原子と壁との衝突によ り冲が制限され〜10^9である。さらに、原子の速 度の二乗に比例する二次ドップラーシフトは、速度 を小さくしない限り原理的には除去できない。


図1 ストレージバルブ内の水素原子の運動。
   テフロンコーティングされたバルブ内壁
   と蓄積時間中に10^5回程度衝突する。

  

イオンストレージ標準器の概要と研究の現状
 この標準器は、電荷をもったイオンの遷移周波数 を基準にしているため、閉じ込め方に大きな特徴が ある。すなわちイオンを電磁界でトラップするので 水素メーザのようにストレージバルブを用いる必要 がなく、閉じ込めに伴う周波数シフトや冲の低下 なしに長時間トラップできる。このため、冲によ る線幅の広がりを非常に小さくでき、更に壁との衝 突による周波数シフトをほとんど除去できるという 利点を持っている。
 図2に静電磁場でイオンをトラップするPenning トラップ電極を示す。電極はリング電極と一体のエ ンドキャップからなり回転双曲面を作っている。イ オンは、図3に示すように三つの運動からなる複雑 な運動をしてトラップされる。


図2 トラップ電極


図3 Penningトラップ内のイオンの運動

 イオンストレージ標準器のアイデアは1956年ごろ すでに出されていたが、トラップ内に蓄積されるイ オンの個数が少ないため共鳴線のS/Nが悪いこと、 イオンの温度(速度は温度の平方根に比例)が高い ため非常に大きな二次ドップラーシフトを持つこと などの理由により、長い間周波数標準器としての実 現は困難であると考えられていた。
 しかし、1970年代に入って波長可変狭スペクトル 幅レーザが利用可能になるにつれて、レーザ冷却と いう技術を用いることによりイオンの温度を11K以 下まで冷却し二次ドップラーシフトを除去すること が可能になったこと、更に共鳴線のS/Nもレーザ を用い大幅に改善できる可能性がでてきたこと等に より最近になって活発に研究されるようになった。
 これまでの原子標準器に比較して原理的に有利な 点があるため、現在最も高確度を有するセシウム標 準器より約二桁優れた1×10^-15の確度が実現でき ると期待されている。
 すでに西独Mainz大学ではYb+イオンによりQ 〜2×10^11を観測しており、また米国NBSではBe+ イオンを用いて周波数標準器として動作させ確度 1×10^-13を得ている。しかし、イオンストレージ標 準器の研究はまだ揺らん期にあり、実用的な標準器 として完成するまでには相当の時間が必要であろ う。
 当所では、63年度からBe+イオンによる標準器の 研究に着手する。Penningトラップ、レーザ冷却等 の実験を順次行い、標準器としての基礎データを得 たいと考えている。トラップしたイオンのレーザ冷 却は世界でもまだ限られた研究所でしか成功してい ないが、この技術は周波数標準、光周波数標準等の超 高分解能分光に今後大きな役割を果たすであろう。
  

おわりに
 今回、波長可変狭スペクトル幅レーザ等の実験主 要部を整備でき、本格的なイオンストレージ標準器 の研究に着手できるようになった。実験施設整備に 関しご努力いただいた関係各位に深く感謝する。

(通信技術部 物性応用研究室長)



短 信



逓信記念日表彰について


 4月20日第55回逓信記念日に際して、当所関係では大 臣表彰として事業優績団体1、事業優績者1名、永 年勤続功労者14名が表彰され、また、所長表彰として 事業優績団体2、事業優績者1名が表彰された。

1 大臣表彰
 「CS-2パイロット計画実験グループ」
 一致協力して多くの困難を克服し、実用通信衛星「さく ら2号」を用いたパイロット計画において多種多様な実験 の技術指導を行うなど、衛星通信技術の発展に多大の貢 献をした。

 「総合通信部放送技術研究室長 石川嘉彦」
 旺盛な研究心をもって周波数の有効利用のためテレビ ジョン同期放送方式の研究開発を推進し、その実用化の 技術基準を確立するなど放送行政の発展に多大の貢献を した。

2 所長表彰
 「アンテナ近傍界測定システム開発グループ」
 一致協力して多くの困難を克服し、アンテナ精密測定 法の基礎となるアンテナ近傍界測定システムの研究開発 を行い電波技術の発展に多大の貢献をした。

 「平磯支所通信障害予報研究室」
 一致協力して多くの困難を克服し、短波通信有効利用 のための自動応答電話導入による電波擾乱予報業務の能 率的運用に多大の貢献をした。

 「電波部大気圏伝搬研究室研究官 増田悦久」
 旺盛な研究心をもって創意工夫をこらし、風向風速及 び気温の高度分布を測定するための電波音波共用風向風 速遠隔測定装置の研究開発を行い、大気遠隔測定技術の 発展に多大の貢献をした。

3 永年勤続功労者
 乾 定男  糸岡雄三  菊池誠紀  鈴木 勉
 山下則文  竹内鉄雄  藤代ミエ子 杉内友子
 宮崎 茂  潰田一輝  安藤利周  大内三千子
 岩渕厚子  西牟田一三



湯原仁夫氏、長竹孟氏 叙勲


 元電波研究所長湯原仁夫氏には、4月29日の「天皇 誕生日」にあたり、電離層観測装置の近代化への寄与、 アンモニアメーザ型周波数標準器の開発、電離層観測衛 星の開発を始めとする宇宙開発等に多大の貢献をされ、 多年にわたる功績により、勲二等瑞宝章の栄誉に浴さ れ、5月10日に皇居において勲章伝達式が行われた。
 同氏は、昭和16年東京帝国大学電気工学科卒業、陸軍 技術研究所勤務の後、昭和22年に電波物理研究所入所以 来昭和51年7月に退官されるまで、一貫して電波技術の 研究並びに電波行政との連携に関する業務に従事され、 我が国の電波技術の研究発展に指導的役割を果たし、多 大な功績をあげられた。退官後も、日本アビオニクス、 日本電気、ユニデン各社の顧問として、民生用機器の開 発に尽カし、電子工業の発展に大きく寄与した。
 また、元企画部長長竹孟氏には、周波数標準用の水 晶発振器の改良、原子周波数標準の研究、レーザレー ダの開発等に多大の貢献をされ、多年にわたる功績によ り、勲四等瑞宝章の栄誉に浴され、5月11日郵政省講堂 において勲章伝達式が行われた。
 同氏は、昭和10年第二東京市立中学校卒業、東京中央 郵便局等を経て昭和19年電波局電波課に勤務となり、昭 和20年10月標準課に移られて以来昭和43年3月に退官さ れるまで一貫して、周波数標準の維持・運用・研究に携 わり、我が国の国家標準としての周波教標準の基礎を確 立するなど極めて大きな功績をあげられた。退官後も、 中京テレビ放送取締役として、UHF帯テレビ放送の確 立と普及に尽力された。
 この度のお2人の叙勲は御本人や御家族の栄誉である ばかりでなく、当研究所にとっても非常に喜ばしい限り であり、心からお祝い申し上げると共に益々の御発展を お祈り申しあげる次第である。



電子情報通信学会業績賞受賞


 5月21日、総合通信部石川嘉彦放送技術研究室長 は、日本放送協会長妻忠雄氏及び鞄本テレビ放送 綱高山享氏と連名で、昭和62年度電子情報通信学会 「業績賞」を受賞した。
 「業績賞」は、電子工学及び情報通信に関する新しい 機器または、方式の開発、改良でその効果が顕著であり 3年以内に業績の明確になった研究に対して贈られる。
 受賞テーマ及び業績概要は次のとおりである。
 「テレビジョン同期放送方式の開発・実用化」
 放送波の送信周波数を精密・高安定に制御することに より、同一チャネル混信妨害の軽減を図る「テレビジョ ン同期放送方式」を開発し、近隣地域でも同一チャネル の繰り返し使用が可能となった。そこで、これまで置局 困難であった地域にも置局できるようになり、昨年7月 末千葉県で実用化が開始され、その有効性が実証された。



21世紀の宇宙通信をめざして
衛星間通信研究室の新設


 当所は63年度より名称を変えて、通信総合研究所とし て生まれ変わった。研究の分野も21世紀を展望して、斬 新な方向性を出している。衛星間通信研究室は、その研 究課題に一早く取り組むべく、この4月に設置された。
 その背景には、21世紀における人類の活動の場が宇宙 へと広がり、宇宙ステーションなどによる地球周辺での 有人活動や、さらには月や惑星の広大無辺の宇宙空間に おける活動へと発展して行く状況がある。
 このような宇宙活動を支える情報通信の手段として、 衛星間通信が不可欠である。衛星間通信研究室は、その ような通信技術を含む新しい宇宙通信システムに関する 研究開発を行うことを目標にしている。
 当面は、昭和67年に打上げが予定されている技術試験 衛星Y型(ETS-Y)に2GHz帯、ミリ波帯(43/38GHz)及 び光による衛星間通信装置を搭載して実験を行う計画や 宇宙ステーションにおける通信実験に関する研究の中心 的な研究室として活躍することになっている。



宇宙光通信地上センターが完成


 かねてより建設中であった宇宙光通信地上センターが 完成し、4月22日中山郵政大臣をはじめとする来賓を迎 え開所式が挙行された。開所式では、当所職員をはじ め、多数の関係者の見守る中、テープカットの後、大臣 により施設の主電源のスイッチボタンが押され火入れ式 がなされた。
 現在は、各種測定装置の調整中で、近々試験運用が行 われる予定である。
 この施設は主鏡の口径が1.5mの望遠鏡により衛星間 光通信のための基礎実験をはじめ、衛星位置の高精度測 定、天体観測、レーザレ−ダによる大気の観測、ラジオ メータによる惑星大気の観測等の実験研究に用いられ る。概要はRRLニュース3月号に詳しく紹介してある。
 当日は、科学技術週間の一環として講演会が行われ、 講演会参加者にも当施設を披露した。




超伝導研究施設(クリーンルーム)


 昭和62年度の補正予算による超伝導研究施設が完成し た。この施設は昭和63年度から開始した電気通信フロン ティア研究の中の「超伝導電気通信技術の研究開発」を 目的として作られたもので、いま話題の酸化物超伝導体 等を用いた種々の超伝導薄膜デバイスを開発する上で大 きな役割を果たすものとして期待されている。
 同施設は、約70uの清浄度グラス10,000/ft^3のクリ ーンルーム内に、直径7インチの基板ホルダーを6個取 り付け可能なプロセスチャンバーを持つスパッター装 置、電子線走査領域0.5o角及び最小図形幅0.1μmの 性能を持つ電子ビーム描画装置、それにビーム径6イン チのエッチング用イオン源とビーム径3インチのデポ ジッション用イオン源を有するイオンビームエッチング 装置等を整備したものである。
 当所ではこれまで、デバイス開発に関する研究はそれほ ど活発ではなかったが、当施設の完成により、超伝導の応 用、特に電気通信分野において飛躍的発展が期待できる。



研究施設一般公開の御葉内


 当所では創立記念日の8月1日に施設の一般公開を実 施しております。本年も下記により実施いたします。一 般の方々にもわかり易い内容になるよう準備しておりま すので、多数御来所いただきたく御案内申し上げます。
 公開日時 昭和63年8月1日(月) 10時〜16時
 公開場所 本所、支所(鹿島、平磯)及び電波観測所
      (稚内、秋田、犬吠、山川、沖縄)