ミリ波帯散乱実験計画


岡本 謙一

  

1.はじめに
 ミリ波帯における近年の素子・回路技術の発展、 大気圏伝搬特性の解明と共に、約100GHz程度まで の周波数帯の電波は近い将来、通信、近距離の計測 等の様々な分野において利用が進展するものと予測 される。特にミリ波帯の近距離センシングシステム は、各種の自動化機器や工業計測の分野においてミ リ波固体素子の性能の向上(高出力、低雑音化)及 び価格の低下と共に今後その利用が飛躍的に増加す るものと期待される。ミリ波帯では、小型・軽量で 信頼性・可搬性のよいセンシングシステムを作るこ とができるのみならず、小開口径アンテナで鋭い指 向性を得ることができ水平方向の高い分解能が達成 できること、帯域幅を広くとることができ高い距離 分解能が達成できること等の長所を有し、近距離セ ンシングシステムに適していると考えられる。ま た、例えば酸素分子の吸収により長距離の通信には 不適当な60GHz周辺の電波は、電波の到達距離が 短い反面、空間的なシステムの分離が容易になると いう特徴を有し、多数の車輌による使用が想定され 相互干渉を避ける必要がある自動車用近距離センシ ングシステムには有用となろう。更に降雪時の車間 距離の計測や光を妨げる浮遊ダストの充満した熔鉱 炉のプロファイル計測のような可視・赤外センサが 役にたたずかつ高分解能計測が要求される環境下に おけるミリ波センシングシステムの有用性は論を待 たない。現実に、自動車衝突防止用の50GHz帯FM -CWレーダ、自動車用50〜60GHz帯対地ドップラ レーダ(スリップ防止用レーダ)、55GHz帯高炉 プロファイルメータ等のミリ波近距離センシングシ ステムが既に実験的に用いられている。また、車輌、 ロボット等の無人位置認識システムの研究開発も開 始されようとしている。今後ミリ波センシングシス テムが空間的に高密度で使用される環境下における 各種地物、人工構造物等の散乱に起因するセンサ間 の干渉・混信等の問題を解決しておく必要がある。 即ち、散乱に起因する不要波レベルの評価法、その 抑圧技術等の研究開発を行いミリ波センシングシス テムの簡易無線化の推進のための技術基準を明確に することは、常に新しい周波数資源を開発し、その 有効な利用法を確立することを当所が率先して実施 すべき研究開発事項となる。しかしながらマイクロ 波帯の各種地物による散乱実験データが内外の多く の研究機関において精力的に実施されているのに比 べて、ミリ波帯の散乱実験データは世界的にみても 極めて稀れでこれからの研究課題といえよう。
  

2.計画の概要
 当面の実験計画は、100GHz以下のミリ波帯の 様々な条件下における各種地物の散乱実験を実施 し、理論モデルとの対応を計りながら散乱特性 を解明して信頼に値する散乱データのデータベース を構築することである。実験用周波数の選定におい ては、センサシステムへの電波の割当てが予想され る無線標定用のバンドのうち、40〜100GHzに位置 する、54.25〜58.20GHz、59〜64GHz、76〜81GHz、 及び92〜100GHzの4つのバンドから年次を追って 周波数を上げながら代表的な周波数を選び実験を実 施する。ミリ波散乱計の設備に当っては、従来の振 幅(散乱係数)のみの測定に加えて、散乱波の位相 情報をも測定し、複素散乱行列のすべての行列要素 を測定できるポーラリメトリックな散乱計の開発を 計画している。任意の偏波は直交する直線偏波の線 型変換で表現されるので、もし水平、垂直偏波の組 に対する行列が測定により求められるならば、任意 の入射・散乱偏波の組に対する散乱係数は同行列を 用いて計算することができ、ポーラリメトリックな 散乱計は散乱の偏波特性に関して完全な情報を得る ことのできる散乱計といえる。また、同散乱計は、 送受アンテナが異なり、任意の入射角・散乱角に対 するバイスタティックな散乱データを取得する機能 をも有する。散乱特性の測定に当っては、同時に対 象物の散乱媒質としての待徴的なパラメータ(例え ば、土壌の場合であれば、表面の粗さ、含水率、誘 電率など)を測定し、散乱データに客観性と一般性 を持たせることが重要になる。実験にあたっては、 媒質パラメータを制御しやすい室内でのモデル実験 より出発し、散乱機構の理解を深めるとともに実際 にセンサが使用される可能性のある環境下での屋外 実験を併せて行うようにしたい。さらに、散乱対象 物の粗さを図るためのレーザ表面粗さ計、含水率を 測るための水分計、誘電率測定のため の定在波測定装置等の補助測定装置、 システム全体の較正を行うための標準 散乱体、不要散乱波の影響を除去する ための電波吸収体衝立て等の整備を現 在実施している。
 散乱実験においては、データの解釈 等を行うために不規則表面散乱理論と の対応づけが大切であるが電波の波長 (λ)と表面の粗さ(Γ)の大小関係に応 じて準鏡面散乱理論(F≫λ)、摂動理 論(Γ≪λ)等の使いわけをしなければ ならない。また、ミリ波帯の散乱実験で は電波の波長と表面の粗さが同程度に なる場合も生ずるが、この場合現状で は適用できる理論はない。さらに、現実 の散乱体では散乱媒質の複素誘電率等 の定数が空間的に一様でないことも多 く、上記理論は適用できない。このた め、実験的研究と相まって基礎的散乱 理論の研究にも力を注ぐ必要がある。
 昭和62年度より媒質パラメータを比 較的制御しやすい土壌(関東ローム) を対象とした50GHz帯の散乱予備実 験を開始した。そのシステム概念図を 図1に示す。実験システムの主要諸元 を表1に示す。散乱計架台は、散乱計 の入射角を0〜90°の範囲で可変にす ると共に、高さを0.8〜4mの範囲で 可変にする機能を有する。試料回転台 は、測定試科を載せて一定速度で回転 する機能を有し、散乱計と測定対象物 の相対的な方位角を可変するために用 いられる。不規則表面からの散乱波は 多数の散乱点からの合成ベクトルと考えられ、統計 的性質を有する。即ち、同一の対象物を同一の入射 角で観測しても方位角が変わると散乱波のレベルは 不規則に大きく変動する。従って、対象物の散乱特 性を明らかにするには、多数の統計的に独立なサン プルを測定し、平均する必要があり、試料回転台は このような独立サンプル数を多数得るために有効で ある。散乱計の絶対較正は、散乱断面積が既知の直 系35mnの金属球を用いて1.11mの距離より実施 したが、計算値と実験値とは約1dBの範囲で一致 していることが確認された。


図1 50GHz帯散乱予備実験概念図


表1 50GHz帯散乱予備実験システム主要諸元

 予備的に行った土壌の減衰特性の測定結果につい て紹介する。実験は水平に置かれた1.1×1.1mのア ルミ板の真上1mの所に50GHz帯散乱計を設置し、 送受信ビームが鏡面反射の条件を満足するように調 整を行った。この状態での反射波レベルを基準とし てアルミ板上に厚さを変えながら層状に土を盛り、 これによる受信電力の低下を測定し、この測定結果 から土の減衰定数を求めることにした。反射係数の 測定値を土の厚さに対してプロットした結果(丸印) を図2に示す。丸印に付した横棒は、土の厚さの測 定に見込まれた不確定度を示す。実験に用いた土の 重量含水率は、46.5%、密度は0.71g/cm又、表面の 粗さは0.5mm以下であった。図2によれば反射係 数は、最初土の厚さの増加と共に低下して行くが、 厚さ3mm前後では反射係数の値が振動的に大きく 変動している。これは土の表面からの反射波と土を 透過したアルミ板からの反射波が強く干渉し合って いるためである。厚さ10mm程度になると反射係数 が一定値-13dBに収束して行く様子もわかる。こ の段階では、土中伝搬による減衰によりアルミ板か らの反射波は殆んど減衰し、土の表面からの反射波 が支配的になるためである。これらのデータからこ の場合の土の減衰定数は、2.1dB/mmと求められた。


図2 反射係数と土の厚さとの関係
   (50GHz対散乱予備実験)

  

3.おわりに
 ミリ波帯散乱実験計画は、ポーラリメトリックな 散乱計の整備が完了する本年度後半より本格的な実 験を開始する。今後の計画の遂行を通じて、通信と 並ぶもう一つの重要な電波利用分野である計測への ミリ波利用の促進に、各種地物の散乱特性の解明と いう基礎的な立場から貢献して行きたい。

(電波部 大気圏伝搬研究室長)




SUNDIAL電離圏国際共同観測


菊池 崇

  

1. はじめに
 SUNDIAL(日時計)計画はシャトル映像レーダに 及ぼす電離圏の影響を調べるために、1984年10月に 開始された電離圏国際共同観測である。まず最初 に、この時の観測で得られた成果を紹介する。
 1984年10月7日1時UT、低緯度に位置するペル ーのヒカマルカレーダ観測所でこれまで観測された 最大級の電離圏スプレッドFが観測された。このと き電離圏内には東向きに0.25mV/mの電場とF層高 度の上昇が観測され、極域電離圏では75kVの極冠 電場と強いジェット電流そして大量のオーロラ粒子 の降り込みが観測された。これより数時間前には衛 星により惑星間磁場が南を向いたことが観測され、 更に太陽ではこの数日前に太陽面上の極から赤道を 横切るコロナホールが、地球方向の子午面を横切っ たことが観測された。これら太陽から電離圏の一連 の観測結果は、太陽のコロナホールから出た高速プ ラズマ流が地球磁気圏の擾乱を起こし、この時強め られた磁気圏電場が高緯度電離圏を経て、低緯度電 離圏へ到達し、ヒカマルカで最大規模の電離圏擾乱 を起こしたことを示す。
 この時の国際協同観測では極域から赤道までの世 界70数箇所でイオノゾンデ、ISレーダ、オーロラ レーダの同時観測が行われ、観測された電離圏諸現 象の原因を更に明らかにするためにNOAA/SESC やNASAが観測した太陽面現象、惑星間空間、磁 気圏の諸現象との因果関係が調べられた。このよう に第1回目の観測で大きな成果を得たが、その後ス ペースシャトルの事故が発生し、映像レーダへの電 離圏効果を調べるという目的は中断してしまった。 しかし、この時始められた協力関係を継続し、地球 に最も近い宇宙空間である電離圏を総合的に研究 し、電離圏の諸現象に最も大きい影響を持つ太陽面 及び惑星間空間現象との因果関係を究明しようとい う目的で、高、中、低緯度そして赤道地域の電離圏 の総合観測と理論グループによる磁気圏、電離圏、 熱圏のモデリングが現在も引き続いて行われてい る。
 世界の各地に分布する各種レーダ観測網による同 時観測は9か月毎に約10日間行われ、これまで1984 年10月、1986年9月、1987年6月、1988年3月に行 われた。当所はこの計画の最初から参加し、稚内か ら沖縄までの5観測所のイオノゾンデ観測はアジア 地区の中緯度から低緯度地域での貴重なデータを提 供している。特に沖縄は電離圏の赤道異常地域に位 置し、ブラジル、インドと共に重要な観測点となっ ている。更に、1988年3月の観測には京都大学の大 型レーダであるMUレーダによる電離圏観測を行 い、電子密度の高度分布や電離圏電場のデータを取 得した。この計画への参加者は平磯支所、電波部、 電波観測管理室、企画調査部、そして各電波観測所 にわたる外、京都大学超高層電波研究センタの協 力を得ている。次にMUレーダとイオノゾンデの同 時観測を行った1988年3月の観測結果を紹介する。
  

2.1938年3月特別観測
 図1は1988年3月のSUNDIAL電離圏特別観測 期間中に京都大学信楽MUレーダを用いて観測した 電子密度の高度分布の時間変化を示す。この期間中 は15、16日に小規模の地磁気擾乱が発生した後、極 めて静穏な日が続いた。図1の電子密度分布は16日 の地磁気擾乱時に観測された正午付近の高度250q のF層電子密度の減少を示す。この減少は図2で示 す国分寺のイオノグラム自動処理結果にも現れてい る。図2上段には15分毎に観測されたF層からの全 反射波の周波数が、下段にはE〜F層見掛け反射高 度が示されている。F層高度の増加が電子密度の減 少に対応していることがわかる。同じ傾向は稚内、 秋田のイオノゾンデでも観測され、山川、沖縄では 見られない。この観測結果は極域電離圏から中緯度 へ侵入した電場による効果か、極域から低緯度へ吹 く熱圏風によるF層プラズマの上昇が原因と考えら れる。


図1 地磁気擾乱時に京都大学MUレーダで観測された電離圏電子密度のコンターマップ


図2 MUレーダと同時に観測された
   国分寺イオノグラムの自動処理結果

  

3.今後の計画
 SUNDIAL計画は1991年12月まで9か月毎の観測 を予定している(図3)。この期間は太陽活動が極 小から極大へ移行する期間に一致しているために電 離圏をはじめとする宇宙空間の擾乱の発達過程を見 ることが出来る。また、観測を9か月毎に行うこと により季節を一つずつずらせて、電離圏変動の季節 依存性を調べる。各種レーダを始めとする地上観測 網及び衛星観測データを総合的に解析するとともに 理論グループによるモデリングも精力的に行われ る。電離圏、磁気圏モデルの確立は時間的空間的に 限られたデータを用いて電離圏の任意の領域と時刻 の変動を推定したり予測するために重要であり、 SUNDIAL計画の大きな目的となっている。


図3 SUNDIAL電離層特別観測は1991年12月までの間にか9月毎の実施が計画されている

 当所ではイオノゾンデと京都大学MUレーダを用 いた観測を行うが、今後は全電子数、シンチレー ション、HFドップラなどのデータ、更に南極の イオノゾンデ、オーロラレーダなどのデータも含め た解析を目指している。
  

4.終わりに
 電離圏は、かつては遠距離通信手段である短波の 伝搬にとって重要な存在であったが、衛星通信の時 代となってその重要性は薄れてきた。しかし、21世 紀になり宇宙空間での人間活動が活発になると、周 回軌道上の衛星にとって電離圏は最も身近な環境と なる。太陽活動に源を発する諸現象が宇宙空間での 人間活動に及ぼす影響を予測したり、人間活動によ る宇宙環境変化を評価する際に、SUNDIAL計画のよ うな観測とモデリングを総合した研究の成果が役立 つことは疑いない。当所は長年にわたりイオノゾン デや伝搬波を用いた電離圏観測を行っているが、そ のデータを国際的な観測、解析計画に活用し、かつ 21世紀にも生きるデータとするためにはコンピュー タ処理可能な形でのデータ取得、データベースの構 築が必要となる。現在、イオノグラム自動処理、HF ドップラ観測、オーロラレーダ観測などにおいて 既にデジタルデータベースが構築されており、観測 においてはデジゾンデの導入やFM/CWイオノゾン デの開発などが行われている。今後も観測のコン ピュータ化とデジタルデータベース構築が計画され ており、国際協同観測事業への寄与が期待されてい る。

(平磯支所 通信障害予報研究室長)




≪外国出張≫

ヘルシンキのCOSPAR総会


佐川 永一

 第29回のコスパー(COSPAR:Committe on Space Research)総会は昭和63年7月18日から29 日までフィンランドの首都ヘルシンキで開催され た。コスパーは人工衛星やバルーンなどの宇宙技術 を用いた学術研究の国際的な調整をはかるための委 員会で、隔年に総会を開催している。コスパー総会 は参加者の数が1000人を超える大きな国際会議なの で全体を見渡すことはなかなか難しいが、地球を半 周して参加した極東の島国の人間のコスパー総会と ヘルシンキの街の簡単な印象を報告する。

 30時間を超える飛行機の旅の後に到着したヘルシ ンキ空港での第一声は「暑い」だった。長梅雨の東 京は肌寒いぐらいの陽気だったが、ここの気温は30 度に近く、聞けば前日はさらに高かったとのこと で、フィンランドも異常気象のようだった。ヘルシ ンキの街は古い石造りの建物が並び、公園には銀柳 が風にゆれて人通りも少なく静かな印象を与える。 夏休みの季節のせいか街を歩く人は気楽なスタイル が多く、ビジネススーツを着ているような人はほと んど見かけない。

 コスパー総会はヘルシンキからバスで約10分の距 離の郊外都市エスポー市にあるヘルシンキ工科大学 (HUT)のキャンパスで開かれた。大学は海に半島 状に突き出した緑の豊かな広い敷地の中にあって、 モデンな建築が散在し、ヘルシンキ市民の誇りでも ある。今回のコスパー総会では国際的な研究プロ ジェクトの調整のための多数のビジネスセッション と大きな規模のシンポジウムが16、中程度の規模の ワークショップが23、それに最近の話題に的を絞っ た23のトピカルミーティングが21日間(日曜は休み) の期間中に並行して開かれた。このために参加者は いつも広い会場を移動していて、立ち話をしている 人を含めると会議場内にいる人の数より外にいる人 の方が多いのではないかと思われるほどだった。

 私の参加したシンポジウムは最近の人工衛星の観 測結果をもとに電離圏と磁気圏の境界領域(プラズ マポーズ)の特性を議論することを目的とし、DE 衛星の低エネルギープラズマの観測データから新し い成果を出して注目されているアラバマ大のJ.L. Horwitzを中心に運営された。私は来年打ち上げる EXOS-D衛星による低エネルギーイオンの観測計 画を主に報告したが、この分野ではスェーデンの Viking衛星が観測を終了しているためにEXOS-D 衛星には大きな期待が寄せられているとの印象を受 けた。他に印象的だった点は、磁気圏内での複数の 人工衛星による同時観測をテーマにしたシンポジウ ムで報告された1990年代に予定されているESAの Cluster衛星計画で、多数のヨーロッパの科学者た ちがこの計画の目的やデータ解析手法について活発 な発表を行い、宇宙科学分野でのヨーロッパの実力 の高さを改めて認識した。

(電波応用部 宇宙環境計測研究室 主任研究官)

ヘルシンキの街と石畳


≪職場めぐり≫

新たな電磁波の利用を目指して

電波応用部 電磁波利用研究室

 ヘルツの電磁波の発見、マルコニーによる無線通 信の実験から約100年、電波技術は通信への利用を 中心として発達し、今日の高度情報社会を支える重 要な基礎技術となっています。また、今世紀の中頃 よりレーダ技術が発展し、非通信分野で電波の利用 が進展してきました。現在では、ご承知の通り各種 レーダが医学、工学など社会の様々な分野で使われ ています。さらに最近では、生体と電磁波の相互作 用に関心が向けられ始めています。背景には、豊か な国民生活の実現のため、生命現象を解明し、その 知見を応用する科学技術の重要性が認識されてきた ことにあります。そして、これに電磁波技術が利用 できるのでは、と考えられているわけです。

 当研究室は昭和60年4月の当所機構改革に伴い、 電磁波の応用技術に関する研究を行う為に発足した 新しい研究室です。この時の研究テーマは、当時の 構成員が従来行ってきた課題をそのまま継続した、 「衛星電波による電磁圏の計測」及び「VLBI技術 の利用に関する研究」でした。そして2年後の62年 4月に室員が大幅に入れ替わり、研究テーマも変わ りました。

 現在、当研究室では、室名の通りの低周波から X線、ガンマ線にいたる広い周波数領域での「電磁波 の利用に関する研究調査」を行うとともに、「電磁 波の生体作用に関する研究」を推進しています。利 用に関する調査では、主としてセンシングシステム におけるミリ波帯電波の利用について調査を行って います。一方、電磁波の生体に対する作用の研究で は、細胞レベルではシャジク藻を使った生体膜機能 への影響について、組織レベルでは人体への電磁作 用について研究をおこなっています。これらの研究 成果は、最近注目され始めた生物の持っている優れ た感知能力の解明、微弱電磁波が生体高分子や生体 膜に及ぼす影響の研究などに資するとともに、電磁 波による生体の非破壊計測技術の開発を通して、医 療分野への応用、食品生産の自動化・省力化、農業の 工業化への応用など広く用いられることでしょう。

 生体と電磁波の関わりは殆ど未知の領域です。将 来、電磁波を用いて生体の成長、分化等の機能を制 御出来る日が来るかも知れません。

 このような新しい分野への電磁波利用技術の開拓 を目指している室員は、現在のところ2人です。電 磁環境研究室から移ってきた上村研究官は大学時代 にMRI(磁気共鳴イメージング)で人間の深部体温 を測ることをやっていたおかげで、この研究室に来 ることになったようです。バトミントン部と美術部 に入っていますが、忙しさにかまけてついさぼりが ち。上瀧は入所以来、1か所に落ち着かず、電波技 術の支流、末流をあちらこちらヘ。そして今、生物 のなんとも巧妙な仕組みに驚いています。

(上瀧 實)


左から 上村、上瀧




短 信



ETS-X/EMSS船舶実験


 ETS-X/EMSS船舶衛星通信実験を行うため、北海道 大学水産学部の漁業練習船おしょろ丸(総トン教:1383 トン)に2名(井家上・丸山)が乗船し、73日間(昭和 63年6月6日〜8月17日)の北洋航海に参加した。
 本実験は、昨年秋の南方航海に次いでの実験であり、 各種変調方式による回線品質測定、電界強度測定、デー タ通信基礎実験、フェージング対策装置の動作確認等多 数の実験データを取得した。
 おしょろ丸は、函館から太平洋を横断して米国アラス カ州ダッチハーバー、ケチカンの2か所に寄港した。航 海中には海洋観測、流し綱による鮭・鱒の生体調査等が 行われていた。また、アラスカ州立大学ケチカン分校に おいてセミナーがあり、井家上研究官がETS-X/EMSS 実験の概要について講演を行った。
 なお、この秋のおしょろ丸南方航海においても通信実 験を行う予定である。



宇宙通信政策懇談会の開催


 郵政省通信政策局長の私的懇談会である宇宙通信政策 懇談会は、各界有識者により構成され昭和59年に設置さ れて以来、長期的・総合的な宇宙通信政策の確立に資す る目的で、毎年宇宙通信に関する提言を行ってきた。同 懇談会は、昭和63年度には、
(1)今後の我が国における宇宙通信のあり方に関する 調査研究
(2)アジア・太平洋地域における宇宙通信分野の国際 協力のあり方に関する調査研究
を行うこととしている。調査研究にあたっては、懇談会 のもとに、第1部会、第2部会が設けられ、それぞれ上 記課題について専門的な検討を深めることになってい る。第1回の懇談会は9月7日、また第1回の第1部 会、第2部会はそれぞれ、9月12日、13日に開催され、 当所からは、懇談会に次長、両部会に宇宙通信部長が郵 政省側委員として、調査研究に参加した。



事務のOA化検討開始


 このほど、総務部長を委員長とする「事務OA化検討 委員会」が設置され、総務事務、業務係事務、PBX改 式の3作業班で、研究開発支援におけるOA化の推進に ついて具体的な検討が開始された。
 これまで事務部門のOA化については、昭和40年度に 給与システムのEDP化を手はじめに、実行予算経理、 共通物品(文具、部品等の消耗品)管理等の分野で具体 化され、さらにファクシミリ、ワープロ等OA機器の導入 も積極的に行われてきた。
 今回の検討の背景としては、政府の定員削減政策が続 行される中で、研究支援部門の減量化が余儀なくされ、 必然的に業務の在り方についても爼上にのぼってきたこ とが挙げられる。
 作業班では、備品、什器を含めた物品管理のEDP及 びデータベース化、所内電子メールシステム、所内文書 の互換性、音声情報、ファクシミリに対処するディジタル PBXへの要求条件等について、基礎資料の調査分析を 行い、年内には中間報告にまとめられる予定である。



図書のOCR化


 図書管理業務の省力化及びユーザヘのサービス向上を 目的として、貸出・返却処理(閲覧処理)のOCR(光 学文字読取装置)化を行っている。
 書籍のOCRラベルの貼付け作業及びIDカードの作 成を11月頃までに終わらせ、その後、システムの試験運 用を行い、昭和64年4月から実施する予定である。
 主な処理内容は、貸出・返却・予約・貸出明細・統計 などである。システムが稼働すると、今までのような代 本板や貸出しカードへの書き込みは必要なく、自分のI Dカードと借りたい書籍のOCRラベルをOCRハンド スキャナで走査するだけで借りることができる。また、 従来は手作業で行っていた統計処理も、自動的にできる ようになり、省力化が図られる。