電離層観測データ自動処理システム


猪木 誠二

  

はじめに
 地球を取り巻く大気のうち地上数十qから約 1,000qにかけて、大気の分子や原子が電離し、層 状に分布した電離層と呼ばれる領域がある。短波帯 の電波は、地表と電離層の間を何回かの反射を繰り 返しながら地球の裏側へも到達するので、電離層は 遠距離通信や海外放送などに重要な役割を果たして いる。しかし、電離層の状態は太陽の活動度、緯 度、経度及び季節によって大きく変化するので、短 波帯の電波を遠距離通信などに有効に使うため、ま た太陽地球間物理の研究のためには、電離層の変 化を世界的な規模で知る必要がある。

 そのため、世界各国約130か所でイオノゾンデ(電 離層観測機)による観測が行われている。イオノゾ ンデは周波数を連続的に掃引したパルス電波を上空 に発射し、電離層で反射された電波を地上で再び受 信し、その遅れ時間から電離層の見掛けの高さを測 定する(その観測記録をイオノグラムと呼ぶ)。我 が国では、当所の5つの観測所(稚内、秋田、国分 寺、山川、沖縄)においてイオノゾンデによる観測 が行われている。

 我が国でのイオノゾンデの開発の歴史はその自動 化への歴史でもあった。この過程において、ハード ウェアは高度に自動化されて来たが、ソウトウェア のみが取り残されて来た。つまり、あらかじめ決め られたスケジュールに沿った観測とフィルムへの記 録は完全に自動化されているが、フィルムの現像と イオノグラムからの電離層の諸特性を表す各種パラ メータの読み取りは人手によらざるを得なかった。 もし、各観測所からイオノグラムを自動収集し、電 子計算機によって自動読取りすることができれば、 観測から読み取り及びデータ処理にわたる一連の作 業を、人手を介することなくすべて自動的に行うこ とができる。このような試みが昭和57年に計画され、 開発が進められて来たが、ようやく電離層観測デー タ自動処理システムとして完成し、本年6月より運 用を開始したのでその概要を報告する。

  

システムとデータの流れ
 自動処理システムは、各観測所に配置されている データ前処理端末装置(以下前処理端末)、本所に 設置されているデータ収集端末装置(以下収集端 末)、集められたイオノグラムを自動読取りする共 通利用の主電子計算機(以下主計算機)で構成さ れ、図1に示すように構築されている。

図1 電離層観測データ自動処理システムの配置

 このシステムによるデータの流れを図2に示す。 各観測所で15分毎に得られるイオノゾンデの出力信 号は光ケーブルを介して前処理端末に入力され、不 要情報の除去、符号化等の前処理が行われディスク に記録される。午前0時になると、各所に蓄積され た前日観測の全イオノグラムは、本所に設置されて いる収集端末の指令によりパソコン通信(JUST- PC方式)で東京へ伝送され、収集端末のディスク に集められる。収集された全観測所のイオノグラム は、主計算機が稼働してから自動的に転送され、パ ターン認識手法によって必要パラメータが自動的に 読み取られデータベース化される。月がかわると主 計算機が各観測所別に蓄積したファイルを、当所が 毎月出版している電離層月報の形式にして原稿を自 動的に出力する。

図2 イオノグラムデータの流れ

  

電離層パラメータの自動読取り
 自動処理システムのポイントのひとつは電離層パ ラメータの自動読取りである。国際的には14項目の パラメータがその信頼度を表す記号と共に人手に よって読み取られてきたが、イオノグラムは電離層 の多様な変化に応じて種々のパターンを示すため、 すべてのパラメータの完全な自動読取りは困難と考 えられる。そのため重要なパラメータ、すなわち、 F層で反射される最も高い周波数(f0F2)とその 高さ(h'F)、Es層で反射される最も高い周波数(f Es)とその高さ(h'Es)、電波の吸収量を示す値 (fmin)の自動読取りに限ることにした。

 開発した自動読取ソフトウェアのテストのため、 1986年4月から1987年2月まで、約1年間にわたっ て国分寺で取得されたイオノグラムの自動読取りを 行い、人が読み取ったものと比較した。その結果、 f0F2に関しては±1MHzの誤差を許した場合、F 層がEs層による遮蔽を受けた時(特に夏期に多い) には自動読取りがやや難しくなり80%近く、Es層 があまり卓越しない季節には95%程度め読取率が 得られた。同様の比較をfminとfEsについて行 うと、fminは1年間にわたって99%前後、fEsは 90から95%の読取率で自動読取りができる。

 以上の比較結果から、f0F2、fmin及びfEsに ついては自動読取り数値と月中央値を、h'Es及び h'Fについては月中央値のみを月報に掲載する。

  

サマリープロット
 イオノグラムを直接、画像処理することにより電 離層日変化を表示する新しい方法を開発し、以下サ マリープロットと呼ぶことにした。

 図3にEs層が20MHz以上まで発達したサマリ エコーが観測される周波数範囲を、下段は電離層の エコートレースが水平になる見掛けの高度を表して いる。図中に示されている二つの円弧状の曲線はE 層で反射される最も高い周波数:f0EとfxEの予測 値で、Es層の識別のため重ねて表示した。

図3 サマリープロットの一例

 サマリープロットは生のイオノグラムを示してい るので、人が読み取るパラメータを示しているばか りでなく、更に多くの情報を包含している。サマリ ープロットは月報に掲載されるので、他の太陽地球 間物理に関する観測データと共に用い、研究者が種 種の電離層現象を捜すのに使えると考えている。更 に、サマリープロットは観測終了後すぐ作成できる ので、通信媒体としての電離層の情報を準速報的に 眺めるのに利用できる。

  

データの利用
 従来、利用可能な主な情報は、電離層月報及びイ オノグラムであり、いづれも相当な日数の経過後で なければ提供できないものであった。しかし自動処 理システムが完成したことにより、利用までに要す る時間は格段に短縮されることになる。

 部内利用者は、5観測所のイオノグラムとサマリ ープロットについては観測日の翌日の午後に、パラ メータの読取結果については観測日の翌々日には利 用可能となる。将来は、公衆回線を介して上記の各 データを部外者が直接利用できる構想についても検 討している。また、観測後すぐイオノグラムをモニ タしたい人のため、直接各観測所にアクセスするこ とによるパソコン通信での提供は特定の利用者に 限って既に行っている。

  

おわりに
 電離層データの自動処理は、まだどこの国でもル ーチンベースのシステムとして完成させておらず、 日本が世界に先駆けてこれを作りあげたことになる (研究目的では米国で進められている)。

 国際学術連合会議(ICSU)は1990年から太陽地 球エネルギー国際研究計画(STEP)を発足させよ うとしており、当所は電離層世界資料センタC2と して電離層情報の国際交換を迅速に行えるよう準備 を進めなければならない。このような時に自動処理 システムの完成をみたことは時宜をえたものであ り、国際的な業務分担の、責任を果たす効果的な手段 となるものと考えている。

(情報管理部 電波観測管理室 主任研究官)


音声の「隠された意味の理解」に向けて

−−駄洒落を機械に理解させるには?!−−


滝澤 修

  

はじめに
 来たるべき高度情報社会では、マンマシンコミュニ ケーションの機会が増え、機械が人間と同じような 対話能力・状況把握能力を持つことが要求される。 特に音声によるマンマシンインターフェースは、現 在、よく使われているキーボードやディスプレイ等 によるものよりも親和性、高速性に優れていること から、その実用化が急務とされている。また自動翻 訳電話の実現においても、音声を理解し翻訳処理を 行う機械の開発が必須である。

 このように機械による音声理解は、21世紀の高度 情報社会のニーズに応える極めて重要な要素技術で ある。

  

機械による音声理解の難しさ
 人間は音声を音響信号処理のレベルで完全に識別 しているわけではない。連続音声から切り出した 母音の識別率は人間でも50〜60%程度しかないこ とが、受聴実験によって確かめられている。にもか かわらず人間が通常の会話において音声を個々の音 まで完全に認識できるのは、音響信号処理のレベル で識別不完全な個所があっても、それを意味処理に よって補っているためである。言い換えれば、音声 の聴き取りにはその言語に関する高度な理解能力を 必要とし、意味処理を伴わない信号処理だけによる 完全な音声の聴き取りは不可能なのである。このこ とは、不得意な外国語の場合、はっきり発音しても らわなければ聴き取れないという形で我々が日常経 験している。

 このように意味処理は、音声理解に重要な役割を 果しているが、これには文法的知識、辞書的知識に 加えて、一般常識、更には状況の把握などを必要と する。これらの処理を人間は無意識のうちに行って いるが、同じことを機械で実現するためには、信号 処理から言語学・生理学・心理学・社会学にわたる 広い分野の知見を集積・統合しなければならない。 ここに機械による音声理解の難しさがある。

  

駄洒落理解に向けて
 当研究室では、機械による音声理解へのフロン ティア的アプローチとして、視点をより高く据えた 研究を目指し、隠喩・掛け言葉・皮肉・洒落などの 「隠された意味」を検出・理解する方法の検討を行っ ている。隠された意味の中で「洒落」は、概念レベ ルでの把握、つまり話者が持っている概念や文化的 背景を深く認識する必要がある。このことは、文化 的背景の異なる外国の洒落を聞いても面白さが理解 できない場合があることからもわかる。それに対し て「駄洒落」は、同音異義語を利用したり、音韻 (音素、音節)やアクセントを変えたりすることで 成り立っており、その語句そのもの、もしくは前後 の会話の内容を吟味することによって検出および理 解が可能である。そこで、我々は容易に検出方法の 見通しが得られるという理由で、駄洒落に着目して 研究を進めている。

  

駄洒落処理の概要
 駄洒落は一般に、「駄洒落の土台となる語句」と、 「駄洒落としての意味を持つ語句」の2つの語旬が 共存することによって構成されている。我々は、前 者を「もじられる語句」、後者を「もじる語句」と 呼んでいる。また音韻系列上で、もじる語句を含み、 もじられる語句と音韻上の類似性を持っている音韻 の部分列を「駄洒落範囲」と呼ぶ。例えば「勘ピュ ーター」という駄洒落の場合、「コンピューター」 がもじられる語句、「勘」がもじる語句、「カンピュ ーター」が駄洒落範囲である。駄洒落を理解するに は「もじられる語句」と「もじる語句」の両方の同 定が必要である。我々のシステムでは、駄洒落範囲 の音韻と、もじられる語旬の音韻との 間に若干の違いがあるものに処理対象 を限定して、もじられる語句ともじる 語句を以下の方法で検出している。

 入力音声を音韻識別部において音韻 記号列に変換し、その結果を基にして 辞書(後述)を検索する。そして辞書 中の語句の中で、音韻が識別結果と大 まかに一致し、かつ文脈的に整合する 語句(後述)が見つかった場合、それ をもじられる語句の候補とする。

 次に、もじられる語句の候補の音韻 記号列よりも識別結果の音韻記号列と 更に良く一致する語旬の組合せを検索 し、見つかった組合せの中で、もじら れる語旬の候補と意味的なつながりが あるもの(後述)を、もじる語句の候 補として記憶しておく。

 そして、ある閾値以上の得点の適当 なもじる語句が得られた時点で、入力 音声が駄洒落であったと判定する。

 以上の処理の流れを図1に示す。

図1 駄洒落処理の流れ

  

システムについて
 本システムはミニコン上にPrologで実装されて いるが、現段階では搭載している辞書の規模が小さ いため、理解できる駄洒落はごく限られている。ま た音韻識別部が未完成のため、入力音声は、キーボ ードから仮想的に入力した音韻記号によって代用し ている。

 辞書としては「フレームシステム」と呼ばれるも のを用いている。フレームシステムは、関連するさ まざまな知識を体系づげて入れておくデータ構造の 一種で、見出しに相当する「フレーム名」の下に、 各種の知識に関するラベル付きの格納場所としての 役目を果たす「スロット」を設け、その中に知識内 容である「スロット値」を入れることによって構成 される。我々は、MITにおいてLISPで構築され たフレーム表現言語“FRL”を大阪大学産業科学研 究所がProlog上に移植したものを用いている。フ レームシステムを用いると、上で述べた「文脈的に 整合する語句」は、キーとなる語句(動詞など)に 関する作業領域上の空きスロットを適当に埋めるこ とのできる語句(フレーム名)として定義でき、ま た「意味的なつながりがある語句」は、共通のス ロット値を持っているフレーム名同士のこととして 定義できる。

  

おわりに
 現在は、駄洒落の検出機構について机上シミュレ ーションを進める一方、ミニコン上のフレームシス テムを用いてその動作を確認している段階である。 駄洒落を理解する実用的なシステムの構築までには 多くの問題が残っており、また本研究は、あくまで も「音声の深い理解」を指向した研究の第1ステッ プに過ぎない。この研究を通じて、今後、音声理解 に関する新たな知見や方法論が生まれることが期待 される。

(通信技術部 音声研究室 技官)


中高年者の情報処理


横山 光雄

  

はじめに
 40歳前後から、自分の専門だけで飯を食える人は 幸せで、大抵は所属している組織の盛衰に関与する 仕事や、外部からの依頼作業が頻発し、仕事の量が 激増する。また、人間相手の厄介な問題にも関わる ため、ストレスの蓄積は測り知れない。一方、身体 は老化現象が始まり、迅速な処理は不可能になって くる。いい加減に対処すると、幾らでも楽ができる。 しかし、爲人謀而不忠乎。與朋友交而不信乎。傳不 習乎。の精神に則り真面目に対処すると、如何に時 間があっても足りない。そこで中高年者を、40歳以 上で能力の衰えと体力の限界を身にしみて感じてい る人、と定義し、その人達が多数の仕事を処理する のに役立つ情報処理技術について述べてみたい。

  

時間の発見
 人並みでは、時間で生み出せない。次の法則を活 用し、積分効果で、驚くほどの時間が生み出せる。

(1) パレトの法則

 パレトは、19〜20世紀初頭のイタリアの社会経済 学者である。彼の法則は、「80/20の法則」とも言わ れ、「貢献度の高い20%の人が、全体の80%の寄 与をしている」という法則である。具体例を掲げる と、「会議では、出席者の20%の発言が、全体発言 の80%を占める」、「組織の業績は、その組織の中 のできる人20%が、全体の80%の寄与をしてい る」ということになる。そこで、消化すべき仕事を 100とすると、そのうちの20%を消化すれば80% を消化したことになる。日常生活への適用には、そ の日のうちにやりたい事を箇条書きにし、上位2割に 相当する部分を必ず実行することである。

(2)こま切れ時間の活用

 隠れた時間は、通勤電車、待ち時間、会議中、ト イレ、ベットの中に転がっている。これらのこま切 れ時間をうまく活用し、積分すると、沢山の時間が 生み出せる。ただし、テクニックがいる。本は、読 みたい所をバラしたり、コピーして持ち歩く。原稿 は、簡略速記(中根式は簡単に覚えられるので勧め たい)で、メモ帳は何時も携帯するなど。

  

知的生産(頭脳を使った生産という意味で)
 欧陽修は中国宋時代の詩人で、妙案の浮かぶ場所 として馬上、枕上、廁上を上げている。現代では、 電車、ベット、トイレの中に相当する。妙案を、こ れらの場所のこま切れ時間の活用とメモ帳の組み合 わせで記録に残す。その後、メモ帳のキーワード を、KJ法(川喜多氏のあみだした発想法)を使っ て整理する。これだけで、立派な文章を書くことが できる。又、体系化に不足な事項の発見や、アイデ アを膨らませるのにも役立つ。ボトムアップ手法 で、考えをまとめるには、素晴らしい方法である。

  

時間・生産物の管理
 「パレトの法則」実践用のスケジュール管理、ア イデアやキーワードの記録、本・論文の要約作り、 原稿作成などに、手帳・メモ帳は必要不可欠の小道 具である。知的生産物の保存には、ワープロやパソ コンが良いことは論を待たない。リレーショナルデ ータベースの利用は、時間節約に威力を発揮する。

  

まとめ
 以上述べたことは、健康な状態(精神的、肉体 的、社会的に)であれば、面白いようにうまく機能 する。そのためには、中高年者は、健康状態を維持 することが課題である。若い人は、幾らでも時間が あると思って、若さを無駄使いすると、あっという 間に年をとる。今からでも時間管理はうまくなって いた方がよい。しかし、若い者にはまだまだ負けら れませんな、ご同輩!

(総合通信部長)


科学技術庁での日常


吉門  信

 去る(昭和63年)9月1日、1年間にわたる総理 府技官との併任を解除され、科学技術庁(研究開発 局総合研究課)での専門職としての勤務を無事終了 し、本所に戻りました。

 「無事終了」などと考えているのは本人だけで、 他の科学技術庁の関係者の皆さんは、「やれやれ! やっと居なくなった」と、胸をなで下ろしておられ るかも知れません。なぜなら、中央行政官庁の果た している役割の大きさと、一般的な事務処理等にお ける私の知識や能力のレベルとの隔たりが、おそら く最後まで縮小できなかったと思われるからです。

 それはさておき、表題に即したことがらを若干書 き並べることにしましょう。

 国立の研究機関の一つに勤務する者として、科学 技術庁には何かとお世話になることが多いわけです が、当所の中にも、まだ科学技術庁を訪れたことが ない人が少しはおられると思います。そこで、まず 庁舎から説明しますと、農林水産省の庁舎と向かい 合って、外務省と外見上一体となった建物の、外務 省に向かって左側の一翼をなす部分に科学技術庁は あります。庁舎のこの部分は潮見坂という急な坂道 に沿っており、科学技術庁の玄関はこの潮見坂を上 りきって、外務省正門の反対側に回り込んだところ にあります。日中は坂の途中にある通用門から出入 りが可能で、郵政省・通産省等、他の多くの省庁と の行き来にはこの門の利用が便利ですが、ここから 入ると2階、上記の玄関から入ると4階というよう に複雑で、特にエレベータに乗る時には、目的の局 が上にあるのか下にあるのかをはっきり認識したう えで乗る必要があります。

 私が1年間お世話になった研究開発局は、6階の かなり大きな部分を占めています。この中に局内を とりまとめる企画課、情報・電子系科学技術分野等 を担当する総合研究課、他にライフサイエンス課、 宇宙企画課、宇宙国際課、宇宙開発課及び海洋開発 課があります。ライフサイエンス課以外は潮見坂に 面した大部屋にまとまって入っていて、耳には絶え ず、実に様々な音声情報がとび込んで来ますので、 必要な情報だけを取り込むフィルターの機能を耳が 自然に獲得するまでは、特にまじめな性格の人は、 落ち付いて仕事をすることができません。この点で は、私は比較的早く環境に適応できたようですが、 中には健康を損なってしまう人も少からずいると聞 いています。

 当所から総理府技官への併任により科学技術庁に 勤務したのは、私が4人目です。(先輩諸氏からい ただいた懇切な御指導に対し、改めて深く感謝致し ます。)この人事の本来の目的は、日頃お世話になっ ている科学技術庁の、特に科学技術振興調整費に関 連する膨大な量の事務の一部をお手伝いすることで あると、私は推察しています。科学技術庁側の要員 事情により、郵政省との関連が薄い仕事を分担する こともありますが、専門職の職務の趣旨から考えて も、専門分野の知識を生かした、出身省庁と科学技 術庁との間の橋渡し役として、存分に働きたいもの です。

 付け加えますと、勤務時間は朝の9時30分から17 時45分までとなっています。もちろん、夕方この時 刻に退庁する人は少ないわけですが、特に指示がな い時には専門職は早く退庁すべきであると考えま す。特に、つくば市からの通勤を続けながら頑張っ ておられる、有能な研究者である専門職の方々に、 声援を送ります。

(宇宙通信部 宇宙技術研究室 主任研究官)


短 信

CS-3を用いた衛星通信高度利用パイロット計画

 郵政省は衛星通信の特長である同報性、多元接続性等 を高度に活用し、利便性と経済性に富む衛星通信システ ムを実現させることを目指して「衛星通信高度利用パイ ロット計画」を推進することとし、昭和63年9月21日、 これに関する調査研究会を設置した。同計画は「CS-2 を用いた衛星利用パイロット計画」(昭和58年〜62年) の成果及び衛星通信高度利用システム研究会の報告(昭 和62年4月)を踏まえて推進されるものである。同計画 に基づく実験は、公募による参加機関によって、CS-2 パイロット計画とほぼ同様の形態で実施される予定であ る。本実験に用いる通信衛星CS-3aは昭和63年2月19 日に打ち上げられ、既に実運用に供されており、また、 CS-3bも9月16日に打ち上げに成功し、12月頃には運用 に入る予定である。

 当所では本計画の一環として、同報通信と多種多用な 多元接続回線が混在する中小容量回線を対象とする高度 多重化衛星通信システムや小型及び超小型地球局の研究 開発を進める予定である。

直研連幹事会の開催

 去る9月27日、昭和63年度第3回直研連幹事会が工業 技術院公害資源研究所において開催された。

 直研連とは、各省庁直轄研究所長連絡協議会の略称 で、全国92の国立研究機関の機関長及び補佐官で組織さ れている。

 幹事会は、これら研究機関から省庁ブロック毎に一機 関を選出して構成したものであり、代表幹事はこの中か ら決められ、本年は公害資源研究所が務めている。当所 は、郵政省唯一の参加機関であるため、最初から本幹事 会のメンバーであり、昭和54年度には代表幹事の重責も 果たしている。

 直研連の目的は、研究所及び研究所職員が抱えている 共通の問題を取り上げて関係省庁や諸機関に働きかけ、 これらの活動を通じて我が国の研究行政の質的向上を図 ることとされ、その活動は各研究機関から大きな期待を 寄せられている。

 今回の会議では、既に各関係方面に提出された64年度 試験研究予算、本年度歳出予算の節約、国際研究交流促 進に関する改善要望及び処遇改善委員会(本幹事会中の 専門部会)の活動報告がなされた。また、例年開催され る共通問題研究会に関する実施内容と、次期代表幹事の 選出について審議を行った。次期代表幹事は運輸省から 選出されることとなった。

重点基礎研究による若手研究者紹介:秋葉誠博士

 電波応用部光計測研究室で研究を進めている科学技術 庁科学技術振興調整費重点基礎研究課題“圧縮型Ge: Ga検出器技術に関する基礎研究”に、今年8月から若 手研究者のポストで、秋葉誠さん(32歳)が参加してい る。

 秋葉さんは、京都大学を卒業後、名古屋大学の大学院 に進み、今年3月には“近赤外散光成分のロケット観 測”という宇宙の歴史の空白を埋める画期的な論文(第 395回研究談話会参照)によって理学博士を授与され、 将来を期待されている研究者である。

 当所では、宇宙光通信地上センターのクーデ室に備え 付けた天体・衛星観測用フーリエ分光器の立ち上げに現 在取り組み、級密な実験によってこの分光器を良い性能 に達成させつつある。

 秋葉さんは、付き合いの良い人で、酒を進められて断 わったところをまだ見たことがないぐらいである。これ は単に酒が好きなだけと言うことかも知れない。欠点と 言えば、中日ドラゴンズファンであることぐらいである。

標準電波発射制御システムの更新

 当所は、我が国の周波数と時間の標準及び標準時を設 定し、標準電波による業務を供給している。

 去る9月26日から10月1日にかけて、短波標準電波(J JY)及び長波標準電波(JG2AS)の発射制御シス テムの入替工事を行った。昭和52年に送信所を小金 井市緑町から、現在の茨城県三和町に移転以来、連続稼 働してきた旧システムの老朽化に対処するため、昭和59 年度から7か年計画で施設整備を進めてきたが、今回の 工事で標準電波の発射に直接関係する装置はすべて更新 された。

 新システムでは、モニター機能の強化の外に、認識信 号の発生に音声合成ROMの採用や、“うるう秒”調整の 自動化など最新のエレクトロニクス技術が取り入れら れ、信頼性の向上とメンテナンスの軽減がはかられてい る。

 また、利用者から要望のあったタイムコードの重畳に ついては、長波標準電波制御装置にこの機能を備え、関 係方面の了解が得られ次第、実用化試験に入る予定であ る。