これからのディジタル陸上移動無線伝送技術


笹岡 秀一

  

はじめに
 近年、陸上移動通信の需要が急増しているが、今 後、情報社会の発展に伴いディジタル伝送の要請が 強まり、将来、ディジタル陸上移動通信方式の導入 が予想される。しかし、陸上移動通信におけるディ ジタル通信方式は、現在、警察無線などのシステム でしか実用化されていない。この原因としては、 ディジタル方式が必須となる利用分野が未成熟なこ と、陸上移動無線用のディジタル通信技術の開発が 不十分なことが考えられる。従って、ディジタル通 信方式の今後の進展は、前者に関して陸上移動通信 の高度化の要請に、後者に関してディジタル移動通 信技術の進歩に負うところが多い。なお、陸上移動 通信の高度化の要請としては、画像などの高速デー タ伝送、各種高機能端末の多重化、ISDNとの接続 などが考えられる。
 ここでは、ディジタル通信方式の技術的課題とそ の対策技術を示し、その中から高能率ディジタル変 復調技術を取り上げ、現状と将来への期待について 述べ、あわせて当所での研究についても紹介する。
  

ディジタル通信方式導入の技術的課題
 陸上移動通信における問題点、技術的課題及び対 策技術を表1に示す。移動通信に利用可能な周波数 は、UHF帯以下に限定されるため、通信需要の急増 とともに周波数がひっ迫している。これに対処する には、準マイクロ波帯等の新周波数の開発ととも に、既利用周波数の有効利用が課題である。周波数 有効利用技術には、所要伝送速度を低減する高能率 音声符号化技術、スペクトルを狭帯域化する高能率 変復調技術、周波数を空間的に最利用するゾーン構 成技術及びマルチチャネルアクセスのような周波数 共同利用技術などがある。このうち、高能率変復調 技術は汎用的な技術であり、重要であるとともに期 待も大きい。

表1 陸上移動通信の問題点、
   技術的課題及び対策技術


 また、陸上移動通信では、マルチパスフェージン グによる信号劣化が厳しいので、良好な信号品質の 確保(フェージング対策)が課題である。フェージ ング対策技術としては、振幅・位相変動補償技術、 複数の信号を受信して信号品質を向上させるダイバ ーシチ技術、発生した誤りを訂正する誤り制御技術 などがある。また、広帯域伝送では、周波数選択性 フェージングが顕著となり、符号間干渉による誤り が発生するため、この対策として適応等化技術、耐 多重波変調技術、アダプティブアレー技術などがさ らに必要となる。なお、選択性フェージング対策技 術は、現在、研究開発段階にあり、実用化には解決 すべき課題が多い。
 また、陸上移動通信においては、無線機の小型・ 軽量化、低消費電力化及び経済的なシステムの実現 等も課題であるが、これらの課題解決は、通信機メ ーカ及び通信事業者の努力に負うところが大きい。
 以上はディジタル通信方式導入の一般的課題であ るが、ディジタル化の利点が発揮できるサービスの 高度化(例えば、画像伝送)に当っては、ディジタ ル伝送の高速化と高品質化が課題となる。伝送速度 を高速化すると、一般に所要周波数帯域が広くなる ため、周波数のひっ迫を助長する。また、選択性フェ ージング対策技術が必要となる。しかし、図1の漫 画に示すように、発想を転換させると高能率変復調 方式による対処も有望と思われる。即ち、1シンボ ル当り数ビットを伝送する多値変調方式(図1の4 階建てバスによる輸送は、1シンボル当たり4ビッ トに相当する)を採用すると、64kbit/s程度の伝 送なら、選択性フェージングの影響を無視できる狭 い帯域(例えば、50kHz以下)を使用して可能とな る。また、一様フェージング対策(図1の凹凸道の 舗装に相当する)のみで、高品質化が可能となる。


図1 高能率ディジタル変調による伝送速度の高速化とその効果

  

高能率ディジタル変復調技術の現状
 陸上移動通信では、電力効率の優れた飽和増幅器 が使用でき、包絡線変動の影響を受けにくい定包絡 線変調方式が、一般に有力と言われている。定包絡 線変調方式については、狭帯域化の研究が進められ た結果、チャネル間隔25kHzにおいて16kbit/s の伝送方式が開発された。さらに伝送効率を高める ためには、帯域制限又は多値化をさらに進める必要 があるが、誤り率特性の劣化を伴うことが問題であ り、チャネル間隔25kHzで32kbit/sの伝送はか なり困難な状況と思われる。
 一方、線形変調方式は、増幅器の非線形性対策が 必要となる欠点があるが、伝送効率をさらに高める 可能性がある。例えば、QPSKなどの1シンボル当 り4値(2ビット)の変調方式を用いて、帯域制限 等を理想的に行えば、チャネル間隔が25kHzで32 kbit/sの伝送も可能である。現在、米国及び日本 等で研究開発が行われている。
 さらに伝送効率を向上させるには、8相PSK等 の多値PSK方式や16QAM等の直交振幅変調方式 が有望であるが、まだ基礎研究の段階である。
  

16QAM方式実現への課題と期待
 16QAM方式は、固定マイクロ波通信等で実用化さ れているが陸上移動通信への適用に当っては、解決 すべき技術的課題が多い。しかし、16QAM方式が実 用化されれば、1Hz当たり4bit/s程度の伝送が可 能となり、周波数利用効率が格段に(約4倍)増加 する。
 陸上移動通信用16QAM方式の実用化の鍵は、フェ ージングによる振幅・位相変動の効果的な補償方式 の開発である。固定マイクロ波通信で使用されてい る方式は、フェージング変動が遅い場合(例えば、 変動速度が0.数Hz程度)に有効であるが、陸上 移動通信のように変動が速い場合(変動速度が数十 Hz程度)ヘの適用が難しい。そこで、当所では、 速い変動に追随可能な振幅・位相変動補償方式の研 究を行っている。現在、送信側で情報シンボル系列 にパイロットシンボルを周期的に挿入し、それを振 幅・位相基準として受信側の複素べースバンドで補 償する方式を検討している。この方式の誤り率特性 を計算機シミュレーションおよび装置試作により求 めた。その結果、振幅・位相変動に起因する誤り(い わゆる軽減困難誤り)はほとんど発生せず、良好な誤 り率特性が得られた。
 このように、振幅・位相変動補償については、解 決の目途が得られたが、16QAM方式では、この他に 多値化に伴う誤り率特性の劣化、増帽器の非線形性 による劣化なども問題である。しかし、これらにつ いては、既存の技術の適用で解決が可能と思われる。 例えば、誤り率特性の劣化対策としては、周波数帯 域を増加させないダイバーシチ技術(空間、指向 性)やアダプティブアレー技術などが有効である。 また、高品質伝送において、誤り率特性の改善が十 分でない場合には、誤り訂正符号化技術の適用が重 要となる。その場合にも、周波数帯域をあまり増加 させずに、フェージング環境下で大きな符号化利得 を得る工夫が重要となる。
 将来、16QAM方式が開発された場合の利用分野と しては、ディジタル陸上移動通信の狭帯域化、高速 ディジタルコードレス端末及び狭帯域動画像伝送な どが予想される。
  

おわりに
 これからのディジタル陸上移動無線伝送技術とし て、周波数利用効率を格段に向上できる16QAM等 の高能率変復調方式が期待されることを述べた。高 度情報社会の実現に向け、陸上移動通信の高度化を 図るため、この分野で当所が有益な貢献ができるこ とを希望している。

(通信技術部 通信方式研究室長)




オーロラを電波と光で見る


小川 忠彦

  

はじめに
 情報化社会とは縁遠く、孤立した南極での越冬生 活を慰めてくれるものは、極彩色の衣をまとって怪 しく乱舞するオーロラであろう。筆者は昭和基地に 滞在した時、見事なオーロラを見るたびに、大変な 興奮を覚えたことを想い出す。オーロラはなぜ音も なく、あのように激しく動き廻るのであろうか?、 レーダーでオーロラを観測するとどのように見える のであろうか?、今、みずほ基地(昭和基地から南 へ270qにある大陸氷床の基地)のフォトメータ (光オーロラ強度の測定装置)はこのオーロラを順 調に捕えていてくれるだろうか?。
  

光オーロラと電波オーロラ
 人間の目で見えるオーロラ(光オーロラ)の研究 は古く、数百年の歴史がある。第2次大戦後にレー ダ技術が発達して、オーロラをレーダで見ることが 可能になり、電波オーロラあるいはレーダオーロラ という研究分野が生れた。当所は、昭和41年に昭和 基地にオーロラレーダを設置し、電波オーロラの観 測を始めた。光オーロラは天候に左右されるが、レ ーダ観測は全天候型で、昼間でもオーロラがみえる 強みを持っている。では、光と電波で同じオーロラ を観測すると、どのような違いが出てくるのであろ うか?、これが本文のテーマーである。
 光オーロラは、磁気圏からやってくる高速の電子 が100qから200q高度の原子や分子と衝突する ために出現することは以前から分っていたが、電波 オーロラの発生メカニズムがはっきりしたのはここ 10年の間である。その原因は、強い電離層の電場に よってE層付近に発生する電子密度の不規則構造に ある。従って、両オーロラの発生原因は全く違って いることになるが、オーロラの物理を理解する上 で両方を観測することは非常に大切である。 通常、光オーロラは電場を伴っているので、 電波オーロラと密接な関係にあることは当然 予想されるが、果たして実際はそうであろう か?、オーロラレーダが活躍し始めた30年も 前から、両オーロラは空間的に一致する、一 致しない、部分的に一致しているなど、いろ いろな観測結果が出されていた。第19次越冬 隊の当所の五十嵐、黒葛原隊員により、1978 年に昭和基地のレーダとみずほ基地のフォト メータを使って同様の観測が行われた。しか し、いずれの観測も空間分解能が不十分で、 結果の解釈にあいまいさが残っていた。
  

観測結果と解釈
 第26次南極観測隊に参加した筆者は、国立 極地研究所のオーロラ研究グループの協力を 得て、1985年にみずほ基地上空の光オーロラ と電波オーロラを高空間分解能で同時測定す ることを試みた。実験の様子を図1に示す。昭和基 地には、1982年に更新された最新鋭の50MHzオーロ ラドップラーレーダが設置されており、レーダビー ムはちょうどみずほ基地の方向を向いている。水平 面内のビーム幅(約4°)とレーダのパルス幅(100 μs)およびレーダエコーが100〜110q高度から のみ返ってくることを考慮すると、みずほ基地真上 の100q高度付近における小さな空間域(20×15 ×10q)の電波オーロラが測定できる。一方、みず ほ基地では天頂フォトメータを用いて100q高度 の窒素分子イオンが発する4278Åの光の強度が12 qの水平空間分解能で測定された。したがって、 図1の方法により、ほぼ同じ空間域の光オーロラと 電波オーロラが同時に測定できることになる。観測 は冬期の3か月間行った。


図1 実験の概念図

 結果の一例として、1985年10月5日の真夜中前に 得られデータを図2に示す(横軸は世界時UTで、 3時間をたすと昭和基地時間になる)。実線が光オ ーロラの強度、破線が26秒毎の電波オーロラ強度で ある。光オーロラは1940UTに突然明るくなった 後、1951UTまでの間に4回強度を増している。こ れは、写真などで見かけるように、4枚のカーテン 状オーロラ(多重オーロラアークと呼ぶ。)がフォ トメータの視野内を北方向に約1.2q/秒で次々と 通過していったものである。大変興味あるのは電波 オーロラの強度変化で、光オーロラと完全に逆相関 になっていることである。つまり、光オーロラの谷間 (暗い所)のみに電波オーロラが見えることである。
 前にも述べたように、電波オーロラは電離層の電 場が強い所に発生する。したがって、図2の結果は オーロラアーク内では電場が弱くなっていることを 示唆している。アークの中には絶えず高速の電子が 上空から飛び込んでくるので、電子密度は非常に大 きくなっている。そこに電離圏の十分強い一様な電 場が加わっても、アーク内に反対方向の偏極電場が 発生するため、元の電場が弱められてしまう。した がって、プラズマ不安定が押えられて電子密度不規 則構造が発生しないため。電波オーロラは出現しな い、というストーリーが書ける。アーク内の電場 が周囲に比べて弱くなっていることは、非干渉性散 乱レーダで確かめられていたが、オーロラレーダで これほど見事に立証されたのは初めてであろう。さ らに、レーダエコーのドップラースペクトルを詳細 に解析した結果、アークの谷間の電子密度不規則構 造はクロス・フィールド不安定と呼ばれる特殊なブ ラズマ不安定機構で発生していることが発見され た。


図2 光オーロラと電波オーロラの強度変化

 以上の結果は必ずしもすべてのオーロラに適用で きるわけではない。夜空全体がボヤッと光ったり、 明るさが点滅するような、つまり、はっきりした空 間構造を持たない光オーロラではむしろ電波オーロ ラと相関が良い。つまり、電離層電場が光オーロラ 内で強められている可能性がある。このように、光 オーロラと電波オーロラの振舞いを詳しく比較する ことにより、オーロラ周辺の物理的様相が次第に明 らかになってくるのである。

(電波部 電磁圏伝搬研究室長)




≪随筆≫

高飛して母に背きし時


畚野 信義



 今年5月、私は吼山流詩吟道奥伝の免許を受けた。多 分私を知っている多くの人はアッケにとられると思 われる。詩吟や浪花節など年寄りのやることと日頃 あからさまにけいべつしていた私自身にとって、こ の人達よりなおさらこの成り行きは信じ難い。

 話は約5年前、私が前回の企画での徒刑から解放さ れた頃に始まる。その頃私は喉の炎症から始まって、 だんだん奥の気管支へと進み発熱するカゼを繰り返 し毎月のようにひいていた。たまたまヒョンな事で 知り合った近くの若い(当時20代後半か)女性に「喉 を鍛えるのによいですよ。私もやっているから一緒 にやりましょう」と強く勧められた。女ばかりの中 にひとつまみの男しかいない学校で中学、高校時代 を過した私は女の子に目を付けられたり、げきりん にふれたりしないようにと小さくなっていた少年時 代の習性から逃れられず、とうとう断わり切れなく なりトボトボと彼女についてゆく羽目となった。

 行ってみると師匠なる人は本職は不動産業だそう だが、何とかの入道といった感じの堂々たる頭を持 つ偉丈夫で声も確かに立派である。ところが驚いた ことに、くだんの女性はそこではこの師匠に次ぐエ ライ先生であるということがわかり、アッケにとら れると共に、やはり はコワイと改めて実感し、30 年前の恐怖の日々の記憶が甦えった。

 こんないきさつで始めたものの、何しろ私はティー ンエージャーの頃、西洋音楽で身を立てるつもりで あったり、映画、小説その他あらゆるものにバタ臭 い好み(もっともこの頃、年齢のせいで食いものだ けは大分変って来たが)であるのでどうもシックリ せず、ケイコも身が入らない。もっとも漢詩そのも のは高校時代に習ったとき、ウナギかドジョウのよ うに掴みどころのない古文よりは好きであった。と ころが詩吟では初めの頃は主に和製漢詩を教える。 大体これが作られた時代は幕末から明治が多い。そ のテーマ、内容は私の趣味、性向に合わず、中には神 経を逆なでするようなものもある。登校拒否児童の 気持ちがわかるなあと思いながらそれでもその頃は 大分時間的に余裕があったので、週に一回のレッスン を時々サボル程度で通っているうちに、不思議なこと に喉が痛くなってもノドアメをなめるとよくなるよ うになり、従ってカゼもひかなくなった。

 となると、やめる口実が自分に対してなくなって しまった。一方師匠は70歳を越して急に喉が衰え始 めたので私を最後の弟子にしたい、ついては早く奥 伝までとれと矢の催促。ところが私はまた企画へ舞 い戻ることになり、せいぜい1か月1回位しか行け なくなってしまった。そこで毎年1回昇段試験に出 る15曲の課題吟(奥伝ともなると1曲がかなり長い) の模範吟を師匠にやってもらい録音し覚えることに した。詩吟というのは、いわば単純な音楽(本当に 味わい深い詩吟はそんなものではないと叱られるだ ろうが、とにかく試験にパスする程度ならば)であ る。従って、かって音楽でメシを食おうと志した私 にとってはさほど難しくなく、試験は割合簡単に次々 と通過し、約5年後とうとう奥伝まで来てしまっ た。始めに免許を得たと言わず、受けたといった所 以である。

 最後の試験をパスした後しばらくサボッていた が、年末には支部を閉じるという話を聞き、9月のあ る日に恐らくはこれが最後になるのではないかと思 いつつレッスンに出かけたとき、師匠が持ち出してき たのが冒頭に揚げた詩である。

 一対のつばめが4匹の子を生み、一生懸命えさを 運び、教育した或日、子供達が突然飛び立って行き呼ん でも帰らず、欺き悲しむというストーリーである。偶 然私は4人兄弟の一番上、また4人の子供の親であ る。父母は戦後の食糧難の時代食べ盛りの4人の子 を育てるのは、私よりもずっと大変だったろうなと師 匠の模範吟を聞きながら考えていた。

 そして最後の数行……なんじがひなたりし日、高 飛して母に背しき時、当時の父母の念……にさしか かったとき、私が就職のため奈良の家を出発した20 数年前の3月末日の夕方のことが突然まぶたに浮ん だ。まだ新幹線のなかった頃で、翌日4月1日早朝 東京に着く夜行に乗るべく玄関を出ようとしたと き、それまで普通に振舞っていた母が突然「みんな こうして出てゆくのやなあ」と悲鳴と聞こえるよう な短かい叫び声をあげた。私もハッと胸をつかれて 立ち止ったことをまざまざと思い出した。小さい時 から何でも一番、文章も達者、弁も立ち、才気と覇 気に富み、半世紀遅く生れれば政治家としてでも成 功したのではないかと思われる気丈な母がたった一 度取り乱したのを見た。80歳になった母は、今も幸い その山の上の家で大分耳の遠くなった父と二人で、ボ ケの気配もなく相変らず気丈に生きている。私は今 丁度あの時の母の年齢になり、子供が一人、二人と 飛び立とうとしている。あの時の母の想いと、この 詩のこころが身にしみてよくわかる。

 そしてまた、この師匠も数十年にわたるであろう 彼の詩吟の人生の、最後の弟子のおそらくは最後の レッスンになるであろう時に、一人で飛べそうもな いこの不肖の弟子のために想いを込めてこの詩を選 んでくれたのではないかと感じた。

 これからの私と詩吟の付き合いは、ノドアメとの相 補的薬効を期待して細々と続くであろう。師匠が引 退した後その支部は、くだんの女性が引き継ぐとい う話をきいた。真面目に練習に来なさいという熱心 な誘いを、いろんな口実を設けてかわしてゆかねばな らない。これは対大蔵省よりずっと大変なことにな りそうである。

(企画調査部長)


≪職場めぐり≫

21世紀の新宇宙技術をめざして

宇宙通信部 宇宙技術研究室

 宇宙通信部は4研究室で構成されているが、他の 3研究室が衛星の開発/実験のための本部関連の研 究を主体としているのに対して、宇宙技術研究室 は、将来必要な要素技術を開発することを目標とし ている。従って、より基礎的な研究を目指している ことが特徴である。

 昭和63年度、新規に衛星間通信研究室が認められ たため、同年4月から旧宇宙技術研究室のメンバー が2つに分かれ、ETS-Y本部関連の研究を衛星間 通信研究室で、残りの研究(大型アンテナ組立て技 術等)を当研究室で、各々行うことになった。さら に、電波応用部光計測研究室から室長が移り、“宇 宙に光を”を唱えて将来の宇宙通信や計測に有望な 光学技術を積極的に取り入れた研究を行っていくこ とになった。名称は旧研究室名であるが、実質的に は新しい研究室としてスタートしたと言える。

 4月から開始した新しいプロジェクト名は“宇宙 通信の要素技術に関する研究”で、新しい周波数帯 (ミリ波・光)の開拓や新しい通信装置を含む宇宙 通信技術の基礎的、先行的研究を行うことになって いる。要素技術としては当面、ミリ波では固体電力 増幅器技術等、光では光行差補正/精追尾技術等を 開発し、ETS-Y衛星で実証する計画である。また 通信やリモートセンシング用の10m級大型アンテ ナ組立て技術の研究はスペースステーション搭載を 目標として進めている。

 さらに9月からは科学技術庁の予算に基づく国際 流動基礎研究(省際研究)として“極限分解光イメ ージング技術に関する研究”が新たに始まった。国 の内外から約15名の研究者が参加し、「宇宙光通信 地上センター」の1.5m望遠鏡システム等を用い て、赤外での高分解イメージングに挑戦する。

 研究室員(5人)を紹介しよう。鈴木主任研は大 型アンテナ組立技術、ミリ波共同研究の主担当者と して、さらにETS-Y本部の副主幹として活躍して いる。メーカーやNASDAとの打合せで外出する仕 事が多く、好きなテニス(所内ではトップクラスの 腕前)も御無沙汰がち。パソコンを使わせたら有本 主任研の右にでる人はいないであろう。専用のコン ピュータをあたかも自分の脳の一部のように扱い、 困難なシミュレーションをいとも簡単に行ってしま う。最近は、光学追尾による静止衛星の高精度位置 決定の研究もスタートさせた。高橋研究官は、組合 の支部長としての活動と研究(特に大型アンテナ組 立技術)を見事に両立させている。多忙のため、体 が資本との自覚から、最近は節煙に努めている。最 近企画課から移った吉門主任研はプラズマ工学の専 門家であるが、“光関連の研究を零から出発してや りたい”と意欲を燃やしており、その意思に敬服し ている。最後に有賀(著者)は、特に上記省際研究 のリーダとしての雑用が多く、趣味のゴルフも練習 不足気味でスコアもいまいち。皆各々忙しい毎日を 過ごしているが、新しい宇宙技術の研究に取組み、 将来を夢見ており、表情は明るい。

(有賀 規)


左から 高橋、有賀、鈴木、吉門、有本



短 信



渡辺成昭主任研究官、「田中館賞」受賞


 10月13日、電波部電磁圏伝搬研究室の渡辺成昭主任研 究官は、金沢大学で開催された地球電磁気・地球惑星圏 学会総会において第117号田中館賞を受賞した。
 本賞は、我が国の地球電気磁気学の創始者である田中 館愛橘博士の功績を記念し、地球電磁気並びに地球惑星 圏科学において顕著な学術業績があった者に対して贈ら れる学会賞である。
 受賞の対象となった研究は、「上部電離圏における重 水素イオン・ホイスラの研究」である。
 当所では、1971年から国際電離層観測衛星(ISIS)を 用いて電離層上部の電磁波動を観測してきた。データ解 析中、それまでは聞いたことのない太鼓を叩くような 「ポン、ポン…」という奇妙なスピーカ音に気づいた。 これが重水素ホイスラの発見である。雷放電で発生する 電波は、電離層以高では、電子が関係する右回り偏波の 電子ホイスラ、イオンが関係する左回り偏波のELF帯 イオンホイスラとして伝搬するが、同主任研究官は太鼓 音を詳しく解析し、プロトンとへリウムそれに極微量の 重水素のイオンが存在すれば観測事実を説明できること を発見した。更に、この重水素ホイスラは磁気緯度で± 20度以内のみ存在し地球の磁力線に沿って伝搬するこ と、および太陽活動が活発になると出現しにくくなるこ とも伴せて示した。



超小型VLBI局による移動実験


 鹿島支所第三宇宙通信研究室では小型で移動実験に適 した、超小型VLBI局の開発を行ってきた。
 昨年度までにシステムはほぼ完成し、鹿島支所構内で 短基線実験を行い、基本的性能が確認されている。今年 度は、本所、稚内観測所、沖縄観測所及び南大東島に移 動して鹿島26mアンテナとの間でVLBI実験を行う計 画で、既に本所及び稚内の実験は終了している。本所実 験については、既に解析が終わり、3号館西に設置した 3mアンテナの位置が誤差2p以下という高精度で求 まった。
 これらの実験で得られる結果は、GPS(Global Positioning System)の軌道決定や測位実験において有効に 活用される予定である。また、南大東島実験は今後数年 間にわたり毎年1回実施し、フィリピン海プレートの運 動を測定する予定である。この測定結果は東海地震など を予知する上で重要な基礎資料となるであろう。




電気通信フロンティア研究分科会開催される


 電気通信フロンティア研究推進委員会(CRLニュース No.149参照)のもとに設置された3つの研究分科会が、 それぞれ以下の日程で初会合を開催した。
・超高速通信研究分科会      10月3日
  主査:灘波  進  大阪大学教授
  幹事:山下  努  長岡技術科学大学教授
・バイオ・知的通信研究分科会   10月7日
  主査:甘利 俊一  東京大学教授
  幹事:安西祐一郎  慶應義塾大学教授
・高機能ネットワーク研究分科会  9月13日
  主査:相磯 秀夫  慶應義塾大学教授
  幹事:浅野正一郎  学術情報センター教授
 これらの研究分科会は、電気通信フロンティアの研究 計画についての専門的な検討を行うことを目的として設 置され、それぞれの分野における、大学、企業及び当所 の研究者から構成されている。これらの第1回会合で は、昭和63年度の研究計画について率直な意見交換を 行った外、研究推進に有益な情報交換がなされた。また、 今後の研究分科会の進め方及びスケジュールについても 審議された。



五研会開催される


 電子技術総合研究所、NTT研究開発技術本部、NHK放 送技術研究所、KDD研究所、通信総合研究所の5研究機 関から構成される五研会が10月12日に今回の幹事機関で ある当所において開催された。五研会は昭和44年から、 原則として毎年二回開催されており、毎回各研究機関が 当面している諸問題に関して議論を行っている。今回は 第39回目にあたり、各研究機関の所長をはじめ、幹部が 参加した。
 今回の会議では、「研究部門と事業(行政)部門との 関係について」を議題とし、研究部門と事業部門との間 の人事交流、研究協力、研究成果の還元方法、予算・定 員等、各機関が抱えている問題の現状や将来方向につい て活発な意見交換がなされた。



電波研親ぼく会開催される


 第17回電波研親ぼく会は、去る10月15日(土)、今年の 異常気象の続いている中では好天に恵まれてOB・現職 員150余名の参加で盛大に開催された。
 総会に続いて、今回は62年度の補正予算で施設整備さ れた「宇宙光通信地上センター」と「超伝導研究施設」 を見学した。特に日本で第2位の口径を誇る大望遠鏡 は、これからの宇宙通信の主役ともなる光通信の研究開 発に大きな力を発揮するもので見学者の関心を集めてい た。
 見学終了後講堂での懇親会に移り、料理とお酒を味わ いながら昔を偲び、今を語り、明日の話で時間の経つの も忘れ、にぎやかな歓談が続いた。
 なお、今年4月に「通信総合研究所」と名称が変更さ れたことに伴いこの親睦会の名称をどうするかという件 は、アンケートの結果は「電波研親ぼく会」と「通信総 研親ぼく会」が相半ばしており、結論は次の幹事会に付 託された。