ここで、科学技術会議の13号答申にもあります が、期待される国立研究機関の役割、使命を整理し て下記に示します。
A 国民の安全や国の政策にかかわる行政ニーズの 研究
B 高リスク、高負担の研究
C 標準、科学技術の基礎資料
D 技術シーズの創出をめざす基礎的、先導的研究
E 研究協力など国際社会に貢献する研究
一般に、ある研究を上記のどれかに分類すること は困難で、一つの研究がいくつもの項目にわたる場 合があります。当所の研究を一応分類してみましょ う。
Aには、準マイクロ波帯における陸上移動通信の 伝搬に関する研究、放送技術に関する研究、型式検 定のための試験法に関する研究、電磁環境に関する 研究などがあります。Bでは、衛星関係のプロジェ クトが代表的で、技術試験衛星X型ETS-Xによる 移動体通信実験、ETS-Yによる衛星間通信技術の 研究、宇宙ステーションに関する技術開発などがあ げられます。
当所で歴史の長い周波数標準の研究、電離層観測 などはCに入ります。Dには、光領域周波数帯の研 究、40GHz以上の電波伝搬の研究があり、電気通信 フロンティア関係の研究も殆どこの分野に入りま す。VLBIや宇宙天気予報システムの研究は、Eと して進めていますが、Dに属するものといえます。
以上の様に見ていくと、当所の研究は多様である とともに、国立研究所としての役割を万遍なく果た していると言えます。しかし、限られた人員と予算 のなかで、これらのすべてを十分に実施していくこ とは困難です。今後は、基礎研究部門を強化し、将 来の科学技術発展の核となる、リスクの大きい研究 に力を入れることが重要と考えています。関西支所 の新設はその一つのステップであります。
例年、新年度予算案は年末に内示されます。従 来、CRLニュースの1月号ではその結果を評価 し、新年度の計画を述べています。しかし、今年は 内示がかなり遅れています。そこで初夢ではありま せんが、X年後の通信総合研究所の様子を想像して 見ます。
“オハヨウゴザイマス”、“ボンジュール”、“グー テンモルゲン”、“サーサハ”などの声がして、十人 余りが所内に消えて行く。近くの研究交流センタに 滞在している外国人研究者である。このような人の 流れで、通信総研の1日が始まる。フレックスタイ ムのため、日本人に出勤の遅い人が目立つ。
玄関に入ると、2台の大型のディスプレイが目に 付く。今日の催しとして、講演会とシンポジウムの 案内が出てくる。“明日!”と声を掛けると翌日の ものに変わる。もう一台には、電波擾乱予報が表示 されているが、宇宙天気予報、Es層予報、大気環 境情報などを呼出すことができる。気象衛星からの 写真、天気図、天気予報なども選択できる。
研究室の入口では、パッドに指をあてロックを外 す。同時に出勤が登録される。デスクの横の端末で メイルボックスを呼ぶと、鹿島とNASAからのメモ がある。鹿島とはTV電話で打合わせ、NASAには 電子メイルで返事を出す。スケジュールを呼び出す と新しい会議の案内があるので、電子手帳に転送す る。
各移動観測点からの測定データは、小型地球局と 衛星回線を介して集められている。最近の観測結果 をグラフ化して観察する。特に問題はないので、継 続していたシミュレーションをワークステーション で続ける。今日はA博士のモデルを一部に導入する ことにして、そのソフトをU研究所の計算機から転 送し、編集してスタートさせる。結果が出るまでの 間、図書の光ディスクから論文を端末に呼出して読 む。来週の関西支所への出張上申と、次の実験に使 うケーブルの購入要求を打込んで食堂にでかける。
先端の科学技術を研究する場所に相応しい、研究 管理、事務処理、支援体制、研究環境が整ったとこ ろである。
宇宙通信、宇宙開発関係では、ETS-Y、Zの研 究成果に基づき、ミリ波マルチビームによる通信シ ステム、衛星間通信の実験が宇宙ステーションや ETS-[によって進められている。深宇宙衛星との 衛星間通信が新たな課題である。宇宙実験・観測フ リーフライヤーや宇宙ステーションには通信総研発 案のイオン、プラズマなどのセンサを搭載する準備 を進めている。TRMMによる降雨観測の分析ととも にこ降雪、海流、氷、植生の観測プロジェクトが進 行中である。また、EXOS-Dによる観測に引続き、 GEOTAILによる磁気圏の観測、解析が進んでい る。
VLBIは小型化が成功し、測地、地震予知に活用 されている。一方、昭和基地のほか南極、南半球に 局が整備され、全地球のネットワーク観測により、 プレート運動、地球の形状等についての研究が進展 している。宇宙ステーションを利用したスペース VLBI観測が定期的に実施されている。
鹿島には、NASA、ESAを始めとする世界の宇宙 開発、人工衛星の情報、大地、海洋、大気などの観 測データが集められている。また、ネットワークを 通じての入手も容易である。
一方、ウルシグラム情報を始め、電離圏、磁気 圏、太陽に関する情報は各種のネットワークを通じ て平磯に集められ、電波予警報・宇宙天気予報業務 や関連する研究分野に利用される。場所による情報 格差は今や存在しない。
移動通信では、パーソナル通信、衛星とセルラー とを複合するシステムの研究が進んでいる。一方、 科学技術庁によって成層圏飛行体があげられた。 当所は電力伝送と無線中継の基礎実験を分担してい るが、近く移動体通信実験に移る。
イオンストレージ型周波数標準の研究では、10^-15 を達成し、国際度量衡局の評価も高い。さらに高水 準の方式を開発中である。
電気通信フロンティア関係では、パーソナル無線 電話と公衆電話回線、ISDNとの接続に寄与すると ともに、ユーザフレンドリな端末、回線サービスの 研究が進んでいる。ニューロン素子による情報処理 システムでは、遠心性の回路を導入し、新しい展開 をしている。
ミリ波と光の間の技術としては、超伝導薄膜素子 の研究が進み、通信、センサーで一部実用化してい る。この研究では、XX賞受賞の声も聞こえる。
高温超伝導体による高能率アンテナ、電波暗室が 作られ、性能評価が行われている。また、電磁界が 植物に及ぼす作用がかなり明らかになっている。
宇宙光通信地上センターは、衛星光通信、衛星追 跡、測距、天文に、またライダーとして内外の研究 者に利用されている。さらに干渉計として、機能を アップするため、2番目の施設を建設中である。
技術移転、技術指導は、CRLエンジニアリングサ ービス(CRLE)を通じて行う。CRLEが仲介した主 要な技術とサービスを下記に示す。
オゾン、酸性汚染物質、海洋油汚染検出法
HF-CWレーダによる波浪、海流測定技術
GPSによる精密測位技術
自動車位置測定システム
超長基線電波干渉計(VLBI)技術
小型水素メーザ技術
小型地球局(VSAT)、自動車用地球局
航空機用フェーズドアレイアンテナ技術
準マイクロ波帯移動通信技術
干渉波除去技術、干渉波合成技術
TVゴースト除去技術
高周波電界、電力の測定
高電力電磁波、微弱電波の測定
高周波電圧、電力の校正
周波数の校正、標準周波数・時刻の供給
また、発展途上国や企業からの研修員に対する教 育や技術援助もCRLEが行う。
この夢は、通信総合研究所の全分野を尽くしてい る訳では有りません。また、X年は3年かもしれな いし、20年かもわかりません。絵に描いた餅のこと も、ピント外れもあるでしょう。一方、予想外の研 究が立上がっていることもあると思います。ともか く、所員が当所で働くことを誇りとするようにしな ければ、と考えています。
その頃は現状のように、“日本は基礎研究に力を 入れなければならない”が、単にお題目として唱え られているのではなく、これが社会に認められ定着 しているものと期待します。地について研究が各所 で行われ、研究費や支援態勢も充実し、多様化して いることでしょう。一方、創造的な発想を促し、育 てる仕組みも動いていると思います。また、国内、 国外の多くの研究機関との間の共同研究、研究協力 が一段と活発になり、人的交流も盛んでしょう。
このような未来の体制は、座して与えられるもの ではないでしょう。科学技術庁、郵政省を始めと し、科学技術の行政にかかわるトップのフィロソ フィの確立とその実行が必要です。その前に、研究 所や研究者が確固とした見通しを持ち、研究のアク ティビティを高めること、またそれらを世の中に 知って貰う努力が必要と考えます。これらも所員だ けで達成できるものではありません。本年も最大限 の努力を尽くす所存ですが、関係各位の一層のご支 援を賜りますようお願い申し上げます。
新しい総合環境試験棟
筑波宇宙センター(TKSC)は、筑波研究学園
都市の一角にあり、「将来宇宙機システム」から
搭載電子機器、宇宙用部品に至るまで、様々な規模
の、様々なレベルでの研究開発が多様に繰り広げら
れており、それらに伴う開発試験も行っています。ま
た、人工衛星を追跡管制する拠点にもなっています。
各種試験設備も次々と整備され、つい最近には、大型
宇宙機用の新しい総合環境試験棟が完成しました。
筆者は、技術試験衛星Y型(ETS-Y)に搭載する
衛星間通信実験機器の研究開発に従事しています
が、CRLとの共同研究ともなっています。
ところで、広い面積の研究学園都市には、文化・
体育施設が充実しています。当センターのすぐ近く
には、洞峰公園があり、太陽熱を利用した温水プー
ルを始め、各種体育施設が揃っています。冬季はプ
ールの夜間公開がないので、週末にのんびり泳ぐよ
うにしています。
当センターだけでも、各種見学コースが用意され
ており、さらに時間が許せば、近隣の研究所や名所
にも足をのばすことができます。高速バス特急「つ
くば号」も便利になりましたので、是非一度、当セ
ンターへおいで下さい。
(宇宙開発事業団筑波宇宙センター 機器・部品開発部共通機器開発室 主任開発部員)
筑波宇宙センター 平面略図
(斜線が総合環境試験棟)
(標準測定部 周波数・時刻比較研究室 主任研究官)
BIPM本館(Pavillon de Breteuil)と
GPS衛星受信用アンテナ
(野崎 憲朗)
左から 登川、井口、大野、梅原、野崎
新年の抱負
石井 隆広雄
VLF帯の電波観測を始めてから、満30年を迎えよ うとしている。この間、上司諸先輩の築かれた業績 を糧として、より多くの分野の方々が容易にデータ 利用できる体制を作り、現在ではオメガ電波8局3周 波数23チャネルの30分位相値をフロッピーディス クで提供できることになった。
新年の抱負
藤間 克典
1. くる年の 望みいかにと 問われども 答うすべなし 巳のとしおとこ |
2. 若き日は さわがしかりし メモ帳の まばらとなりて ととせを経たり |
3. ひとすじの ひかり見んとて 年の瀬の くらき夜空に 星を見あぐる |
4. かくあらん かくあるべしと 若き日の 猛きこころを いまぞ戻さん |
心にゆとりを
斉藤 政満
統計的な立場から見ると、人生の半分を費消して しまったことになる。結婚と同時に10年前に取得し た愛車も、海沿いを転々とするうちに、あちこち すっかり穴が空いてしまった。
一つの夢
杉山 功
今年は、別にいつもの年とかわりはないが、年男 だそうである。せっかくの年男なんだから、何か一 つ目標を立ててみよう。
「おしょろ丸」ヘ衛星ファクシミリ往復書簡
金属大地面におけるアンテナの較正共同実験
近年、各種電子機器から放射される不要電波が問題と
なり、その測定は国際的な規格に基づき金属又は大地の
サイト(試験場)で、アンテナ地上高1mから4mまで変化
させて行うことになっている。標準測定部較正検定課で
は、現在、電界強度測定器の較正を、大地サイトで実施
しているが、金属と大地のサイトの違いを調査するた
め、測定サイトの技術的検討を進めている(財)無線設備検
査検定協会と共同して実験を行った。実験は11月28日か
ら5日間、周囲電磁環境の良好な長野県佐久市のTDK
オープンサイトを借用し、当所で、先に開発した電界強
度測定器較正システムを、電界強度標準器により受信ア
ンテナ高1〜4m、周波数30〜1,000MHzで較正を行っ
た。一般にアンテナの大地から受ける影響(アンテナと
大地間の相互インピーダンスの変化)は、サイトの反射
係数の違いによって異なり、周波数が低いほど、また、
アンテナ地上高が低いほど差が生ずる。今回のデータと
富土山麓朝霧高原での大地サイトの結果とを比較解析中
であるが、実験値と理論値が良い対応をしており満足す
べき結果が得られている。