地上ディジタル音声放送の研究


石川 嘉彦

  

1. はじめに
 郵政省では、地上テレビジョン放送の受信格差を 是正するため、辺地難視聴地域の解消と受信チャネ ル数の増加を図っている。その結果、辺地難視聴世 帯数はNHKが約10万、民間放送が約40万(日本全 国の総世帯数は約4,000万)に減少している。また 受信チャネル数についても、民間放送を4局(NHK と合わせると6局)以上割当てられている地域は、 28都道府県(全世帯数の83%)にまで達している。 FM放送に関しては、NHKは全都道府県で、民間放 送は予備免許中も含めると31都道府県(東京と大阪 では2局)で放送されている。
 最近、衛星放送の実用化、多チャネルCATVの新 設、ビデオディスク・CD・DATといったパッケイジ メディアの登場によって、地上放送を取り巻く環境 は大きく変動している。地上放送自身も高品質化・ 多様化の努力を続けてきたが(図1)、地上放送メ ディアの全国普及が最終段階に入ってきた現在、将 来に向けての耕しい放送メディアの技術的検討に取 り組む時期にきている。放送技術研究室では、地上 ディジタル音声放送の研究を開始したので、その概 要を以下に紹介する。


図 放送の高品質化・多様化

  

2. 地上ディジタル音声放送の目的
 クリアビジョン放送は今秋から、ハイビジョン放 送もBS-3を使って実用化の予定であり、映像の高 品質化が進んでいる。しかし音声放送に関しては、 高品質化の検討はあまり進んでいない(図1参照)。
 音声放送では、FM放送が高品質なメディアとし て利用されてきた。しかし、最近はCDに代表され るディジタル音響機器の普及が進んだほか、映像に 付随したものではあるが衛星放送の音声はディジタ ル化されており、FM放送より音質の良いメディア が増えてきた。FM放送では、高層建築物等からの 反射波(マルチパス)が時間的に遅れて希望波に重 畳されるため、音の歪みを生じる。また、自動車等 から発生するインパルスノイズによっても音質が劣 化する。これらは、受信世帯が密集している大都市 で多く発生し、問題となっている。その対策として は、指向性の鋭い受信アンテナを使用する以外に今 のところ有効な方法がない。
 地上ディジタル音声放送でも、伝搬路で生じるマ ルチパスやノイズによってピット誤りが発生する が、送信側で誤り制定符号を付加することによって、 受信信号中のピット誤りを検出または訂正すること が可能であり、この場合原音を忠実に再生できる。 ディジタル化のもう一つの利点としては、番組識別 信号や番組関連情報等も一緒に伝送し、使い勝手の 良いシステムを構成できることがある。例えば、歌 詞を画面上に出したり、好みの歌手や楽団の曲だけ を留守録音できる等、これまでのアナログ放送では 実現できなかった新しいサービスが可能となる。
 ディジタル音声放送は衛星系でも検討されている が、カーステレオやヘッドホーンステレオの普及が 進んだ現在、移動体での受信も可能な地上系への期 待は大きい。しかし、地上ディジタル音声放送に利 用できる周波数帯が用意されているわけではない。 そこで、テレビジョン放送(VHF・UHF帯)で使用 しているチャネルの隙間(空きチャネル)の利用を 考えている。
  

3. 地上ディジタル昔声放送の研究課題

3.1 地上テレビジョン放送との両立性
 地上テレビジョン放送に割当てられている62チャ ネルを利用して、全国で約13,000局が放送を行なっ ている。例えば、東京タワーからは7 都県を対象に7局が放送している。更 に受信条件の悪い地域を対象に、東京 タワーからの放送波を受信して別の チャネルで再送信している中継地点が 87箇所あり、各地点からは2〜8局が 放送している。地上ディジタル音声放送を東京タワー から放送するとした場合、これらの放送局及び各 サービスエリアに妨害を与えない空きチャネルを探 さなければならない。従って、テレビジョン放送と の同一チャネル混信妨害の可能性を、充分に調べて おく必要がある。
 地上ディジタル音声放送のサービスエリアを広く するには、送信電力を大きくしたい。しかし、サー ビスエリア周辺で同じチャネルを使用しているテレ ビジョン放送に、混信妨害を与えないことが必須の 条件となる。他方、その周辺テレビジョン放送局か ら、地上ディジタル音声放送が混信妨害を受ける可 能性もある。そこで、伝送容量をできるだけ多くと りながら、テレビジョン放送との両立性も図れる変 復調方式の開発が研究課題となる。

3.2 高能率符号化
 実用化されているディジタル音源の量子化ビット 数と標本化周波数を

表1に示す。人間が知覚できる 最高周波数は20kHz程度といわれており、業務用 機器等で使用されている48kHzが標本化周波数の 候補となる。量子化ビット数としては、現在の業務 用機器では16ビットが使われており、これは音の最 大・最小の強度比で96dBに相当する。しかし自然 界の音では120dB程度あるといわれており、この 場合は20ビットが必要になる。更に、音像の定位に は左右のスピーカー(ステレオ2チャネル)だけで なく、中央にもスピーカーを置くと効果があると か、音場の再生には積あるいは後方にも音源が必要 といった議論もある。こうした要求を満たそうとす ると、例えば48kHz・20ピット・4チャネルでは、 4Mbpsもの伝送容量となってしまう。ユーザの要求 品質・条件を考慮しながら、伝送容量をできるだけ 減らす高能率符号化技術が研究課題となる。


表1 標本化周波数と量子化ビット数

3.3 マルチバス補償・誤り訂正符号
 マルチパス妨害に対しては、信号処理による波形 等化と、アンテナのダイバーシティ受信が研究課題 となる。マルチパス妨害は、テレビジョン放送の場 合ゴーストとなって現われるので、その対策技術は 地上放送に共通する基礎技術となる。地上ディジタ ル音声放送への期待として、移動体での受信があ る。この場合マルチパスの状態が時間と共に変化す るため、技術開発要素は大きい。また伝搬路の特性 を基に、地上ディジタル音声放送に適した誤り訂正 符号の開発も研究課題となる。

3.4 これまでの研究成果
 テレビジョン放送との同一チャネル混信妨害の程 度を机上で把握できるようにするため、放送局から 送出される放送波の受信電界強度を、国土地理院で 作成した精密な地形データを基にして計算し、受信 エリアを推定するプログラムを開発している。まず 送受信点の緯度・経度を与え、送受信点を結ぶ地形 の断面図を作成する。次に送受信点が見通し内であ れば、直接波と地面からの反射波を考慮して受信電 界強度を計算する。もし途中に山岳または高地があ れば、そこでの回折波も考慮して計算する。この作 業を、送信点を中心として360度計算すれば、現実 の地形を考慮に入れたきめ細かな受信エリアを推定 することができる。
 移動体受信技術を開発するため、アンテナ高3m の標準ダイポールを実験車の屋上に設置し、東京タ ワーから送出される4チャネルの放送波を、当所近 くの一般道路を走行しながら受信実験した(図2 上)。テレビジョン信号の中に挿入された参照信号 (チャープ信号)を利用し、伝搬路のディレープロ ファイルを求めたものが図2下である。実験車が建 物の蔭に入ると直接波の受信電界強度が減少し、代 わって周囲の建物からの反射波が時間的に少し遅れ て受信される様子がよく分かる。このようにして伝 搬路のマルチパス特性が把握できれば、マルチパス 妨害を受けた受信信号から、信号処理によって送信 信号を求めることができる。送信信号としてテレビ ジョン文字多重信号(5.72Mbps)を利用し、基礎的 な研究を進めている。


図2 実験場所(上)とディレープロファイル(下)

  

4. おわりに
 地上ディジタル音声放送の研究は、ユーレカ(欧 州先端技術共同開発計画)の一つとしてヨーロッパ でも行われており、研究の背景・目的は日本とほぼ 同じである。今後CCIRの場で議論されることにな るが、解決すべき研究課題は通信分野と共通すると ころが多い。所内関連研究室との連携も深めながら 推進したいと考えている。暖かいご支援をお願いす る次第である。

(総合通信部 放送技術研究室長)




降雨観測用2偏波レーダ
−高精度な降雨観測をめざして−

佐 竹  誠

  

はじめに
 レーダによる雨の観測といえば、天気予報で登場 する富士山レーダがおなじみであり、すでにわれわ れの社会生活の中で実用されている。それではな ぜ、通信総研でこの研究を続けているかというと、 現在の降雨レーダには依然として解決すべき問題点 が多いからである。なかでも重大なものとして、
  “従来の降雨レーダは測定の誤差が大きい” ことがあげられる。レーダを使って、雨が降ってい ることは間違いなくわかるのだが、どのくらい降っ ているか?、となるとあまり正確にはわかっていな いのである。
 2偏波レーダは、この問題点に対する解決策の一 つであり、より高精度の降雨観測のためのレーダで ある。従来のレーダが1種類の電波を用いて単一の観 測値を得るのに対して、2偏波レーダは異なる性質 (水平偏波と垂直偏波)を持つ2種類の電波を用い て同時に2つの観測値を得る。観測値が増えると、 当然、観測対象である雨に関する情報も多く得られ るので、降雨観測の精度向上が期待できる。
 気象観測用2偏波レーダの研究は、10年ほど前か ら米国・英国を中心に進められている。わが国では 最近、当所と建設省土木研究所が装置を開発し、実 験・研究を進めている。
  

降雨観測の誤差 −雨滴粒径分布−
 レーダによる降雨観測の精度を考える時、いちば んの問題は雨滴粒径分布の取り扱いである。雨滴粒 径分布とは、単位体積中にどのくらいの大きさの雨 滴が何個ずつあるかを表すもので、雨滴の直径Dの 関数である。
 雨の強さを表すのに一般に使われる降雨強度(o /h)は、雨滴の体積と落下速度の積で決まり、およ そΣD^3.5に比例する。(狽ヘ観測範囲内の全雨滴に ついて総和をとることを意味する。)一方、レーダ の受信電力は雨滴にぶつかった電波がどのくらい 戻ってくるか(レーダ断面積)で決まるが、これは 概ねΣD^6に比例する。したがって、同じ降雨強度の 場合でも雨滴粒径分布によってレーダ受信電力は異 なり、一般に大きな雨滴を多く含む面ほど受信電力 が大きめに出る。
 これは、レーダ受信電力だけから降雨強度を決め ることは厳密には不可能であり、両者の仲介役とし て雨滴粒径分布が必要となることを意味する。従来 のレーダでは、実際の雨滴粒径分布を直接測ること はできないので、予め経験的に求めた平均的な雨滴 粒径分布を用意して、これを使って測定された受信 電力から降雨強度を求めているわけである。ところ が、例えば雷雨と梅雨との比較から想像できるよう に、雨滴粒径分布は個々の降雨によってかなり違う ものなので、従来のレーダによる降雨観測では大き な誤差が生じやすいことになる。
  

2偏波レーダによる降雨観測の原理
 2偏波レーダは、この雨滴粒径分布をレーダ観測 から直接決めることができるのが最大の特徴であ る。ここで言う2偏波レーダとは、送信及び受信に おいて電波の偏波を水平と垂直方向とに高速で切り 替えて、各々に対する受信電力を測定できるもので ある。図1に2偏波レーダによる降雨観測の概念図 を示す。偏波を高速で切り替えることによって等価 的に2偏波同時観測を実現している。雨滴粒径分布 を求めるにあたっては、決定できる未知量の数が限 られているので、やはりある仮定が必要となる。
 (仮定1)雨滴粒径分布は2つのパラメータで決 まる指数関数型(p・exp(-qD))で表せるものとす る。すなわち、小さい雨滴は多く、大きくなるとそ の個数が指数関数的に減少する、という形である。
 ところで、落下中の雨滴は、小さいものはほぼ球 形であるが、大きくなればなるほど空気抵抗の影響 のため底部がつぶれた変形雨摘(図1参照)となる ことが知られている。


図1 2偏波レーダによる降雨観測の概念図

 (仮定2)雨滴の大きさDと雨滴の形(つぶれ加 減)の関係は既知とする。
 このような変形雨滴では、水平偏波の場合と垂直 偏波の場合とでレーダ断面積が異なるが、仮定2よ り両者をDに応じて計算することができる。雨滴が 小さい時は球形に近いので偏波間の差は小さく、大 きくなるほど横につぶれて水平偏波の方が大きくな る。したがって、レーダ受信電力の偏波間の差は雨 滴の大きさに依存する。このことを利用して、測定 によって得られる水平、垂直偏波に対する2つの観 測値から、雨滴粒径分布を(仮定1で決めた近似形 式として)決定することができる。雨滴粒径分布が 決まれば、降雨強度のみならず、降雨減衰や含水量 といった降雨に関する物理量を高精度で求めること ができる。
  

2偏波レーダ・システム
 2偏波レーダを新規につくるには莫大な費用がか かるが、当所の2偏波レーダ・システムは鹿島支所 に既存の後方散乱実験装置を利用し、これに2偏波 観測に必要な機能を付加することによって、低いコ ストで実現した。偏波切り替えのための高速スイッ チング機能を持つ送信及び受信用アンテナ装置を新 規に開発し、パソコンを使用するデータ収集とシス テム制御系を新しく整備して、2偏波レーダの基本 システムが完成した。本システムの特徴的な点を、 通常の気象レーダと対比させて示すと次のようにな る。

       通常の気象レーダ  本システム
使用周波数帯  C帯(5-6GHz)   Ku帯(14GHz)
アンテナ構成  送受一体     送受分離
レーダ方式   パルス方式     FM-CW方式

これら本システムの特徴は実は改造前の装置に由来 するものであり、その結果、欧米等の既存のものと は異なるユニークな2偏波レーダ・システムとなっ た。鹿島支所にはこの2偏波レーダの他に、Cバン ド・ドップラ・レーダ、雨量計、雨滴粒径分布測定 装置などの降雨観測設備がそろっているので、同時 観測による総合的な研究を行える利点がある。
  

むすび
 以上2偏波レーダによる降雨観測の特長等を述べ たが、実際には短所もあり、高精度の観測は大きな 困難も伴う。まず、現実の雨は一瞬ごとに絶えず変 化しているから、高速(最高20ミリ秒)の偏波切替 といっても厳密には2偏波同時観測ではない。さら に、仮定しているモデル通りに変形雨滴が行儀よく 並んでいるわけではなく、雨滴が傾いている場合も あり、理論通りにいかない点も多い。また、偏波間 の受信電力の差はよほど強い雨でない限り,わずか 10分の数dB程度と小さいので、これを正確に測定 することは容易ではない。
 以上のように難しい点も多いが、昨年中に行った 予備実験で、ある程度の見通しも得られているので、 今年は本格的な降雨観測を行い、2偏波レーダによ る高精度な降雨観測を実証したい。

(鹿島支所第一宇宙通信研究室 技官)




≪外国出張≫

スウェーデンでの一年間


水野 光彦

 科学技術庁長期在外研究員として1988年2月から 1年間スウェーデン電気通信省とルンド大学に滞在 し、陸上移動通信に関する研究を行う機会に恵まれ た。この2か所での研究は共にRACE (Research and development in Advanced Communication technologies for Europe) 計画など欧州の共同研究プロジェ クトと深く関わっている。RACE計画は1995年まで に欧州全域に広帯域統合通信網を構築することを目 的としている。移動通信系も直接この統合網に接続 する計画である。
 スウェーデン電気通信省は、電気通信行政、電気 通信サービス、さらに放送サービスの技術部門を担 当する事業体で、Televerketと呼ばれている。職 員は5万人で、本部はストックホルムの南10qの 住宅地Farstaにある。このあたりには湖が多く、 針葉樹や白樺の林が広がっている。その一事業部門 であるTeleverket Radioは、移動通信、地上マイ クロ波回線、衛星通信、放送サービス等の無線部門 を担当している。ここで、陸上移動電波伝搬特性の 研究を行った。ストックホルム市中心部の17階建て のビルにあるNMT(Nordic Mobile Telephone)シ ステムの基地局を利用し、900MHzと1.7GHzの周 波数の電波を送信して、その遅延特性を測定した。 この測定は6月までに終了し、3種類の伝搬モデル を得ることができた。この結果はRACE会議にス ウェーデンからのレポートとして提出された。
 ルンドはスウェーデン南部のスコーネ地方にある 人口8万人の大学の町である。デンマーク領であっ た12世紀には大聖堂が建設され、一時はスカンジナ ビアの文化、経済の中心であった。現在でも市の中 心部には中世の町並みが残されている。ルンド大学 は1668年に設立され、学生数2万3千人、8学部を 有する北欧最大の大学である。ここでの研究テーマ はマイクロセル電波伝搬特性である。室内を含めど こにいても使える携帯電話には半径数十mのマイク ロセル構成が有効と考えられており、この屋内電波 伝搬特性を測定した。この測定の結果、従来の屋外 の移動通信と様々な点で異なることが明らかになっ た。中間レポートは1989年1月のRACE会議に提出 された。
 製紙業、鉄鋼業、重工業などが1970年代までス ウェーデンの高福祉を支えてきた。しかし、今後は より成長性の高い通信情報産業等が経済の担い手と して求められている。その中でも移動通信は既にか なりの国際競争力を有し、次の世代の重要な産業の 一つになるであろう。また、その研究のために産・ 官・学極めて密接な協力関係にある。
 スウェーデンの冬は、暗く長い。研究者はその間 に精力的に研究を行なう。短い夏をできるだけ楽し むためである。北欧では、日本のように暑くて仕事 にならないから夏休みをとるという発想とは基本的 に異なり、一年中で最も快適な季節が夏休みであ る。同じ視点にたてば、日本ではむしろ春か秋に休 暇をとる方が自然かも知れない。

(企画調査部 企画課 主任研究官)


ストックホルムでの測定風景



短 信




第34回前島賞受賞



 高橋寛子情報管理部長は、平成元年3月7日東京郵便 貯金会館において(財)逓信協会から第34回前島賞を受賞し た。本賞は逓信事業の創始者・前島密氏の功績を記念 し、逓信事業等の進歩発展に著しく貢献する業績等が あった者に贈られるもので、当所の受賞者としては14人 目に当たる。
 受賞の理由は、衛星回線のアクセス方式として予約領 域とデータ領域の境界を可動とする予約方式を提案し、 データ伝送を行う衛星回線の設計や、衛星回線を利用し たコンピュータネットワーク構築に尽力し、分散型ネッ トワークシステムへと大きく発展させた業績による。ま た、衛星利用パイロット計画においてコンピュータネッ トワーク作業班主任として実験の指導と取りまとめに手 腕をふるわれ、実験を成功に導き、我が国衛星通信の発 展に多大の貢献をしたことによる。



電子情報通信学会篠原記念学術奨励賞受賞


 第4回電子情報通信学会篠原記念学術奨励賞の贈呈式 が3月30日に春季全国大会の中で行われた。今回は、当 所から電波応用部電磁波利用研究室の上村研究官と鹿島 支所第三宇宙通信研究室の浜研究官が受賞した。
 今回の受賞対象になった発表論文の題目及び概要は、 以下のとおりである。
 上村佳嗣 「高周波ウェルダー近傍の電磁界分布」
 浜 真一 「VLBIにおける超高密度記録」
 「高周波ウェルダー近傍の電磁界分布」では高周波ウェ ルダーの近傍電磁界分布を実測し、波源のモデル化を 行った。これにより、高周波ウェルダーの電極・リード線 の形状から電磁界分布の推定を可能にしたものである。
 「VLBIにおける超高密度記録」ではVLBI用データレ コーダに高密度ヘッドを利用するとともに、GPIBイン ターフェイスを改良することにより約一桁の高密度化を 達成したものである。



国立天文台とのVLBI共同研究の調印式


 精密測地学や電波天文学の分野でめざましい成果をあ げているVLBI実験研究に関して、当所と国立天文台は 共同して研究を進めていくことになり、4月3日当所に おいて共同研究計画の調印式が行われた。VLBI技術に よる地球自転の精密観測とミリ波VLBI実験が主たる共 同研究課題である。
 調印式には、当所から鈴木所長、森次長、畚野企画調 査部長、林標準測定部長が、国立天文台から古在台長、 野辺山宇宙電波観測所の森本所長、水沢観測センターの 横山、笹尾両教授が出席した。調印は、鈴木所長と古在 台長が署名を終えた後、自ら公印を押すかたちで行われ た。調印の後、両代表は本共同研究の大いなる発展への 期待を込めて握手を交わした。




クレバス探査のための実験用レーダ開発


 南極大陸におけるクレバスの存在は、観測隊の雪上車 の運行上大きな障害になっている。このため各国におい て電波や音波を用いた探査機器の開発を試みているが、 実用になる装置は今のところ無いようである。その主な 理由は、電波は波長の長い方が雪氷中への浸透性の点で 良いが、雪上車に搭載するには装置が大きくなり過ぎる こと、また高分解能を要求されるため、超短パルス技 術、広帯域部品が必要となること。音波の場合には、氷 の表面での反射が大きいため氷の中に音波が効率良く 入っていかないことなどがあげられる。
 当所では、国立極地研究所と共同でクレバス探査のた めに昭和61年より検討を始め、高分解能レーダの試作を 行った。このレーダは4.3GHzでパルス幅は約1ナノ 秒、空気中において15pの分解能を得ることができ る。昭和63年度末には、秋田県田沢湖高原での耐寒試験 及び雪の電波諸特性の測定を行った。今後出来るだけ早 い時期に南極の実際のクレバスについての実験を行い、 実用化へ向かって努力する予定である。実験にあたり、 田沢湖高原国民休暇村乳頭山荘の皆様には、場所や電源 提供、除雪、等々、多大のご協力を頂いた。



CS-2a、2bの2衛星を用いた
干渉実験と相対追跡実験


 静止通信衛星CS-2a及びCS-2bは、昭和63年5月と 12月にそれぞれミッションを全うして実運用から外され た。
 当所では、これらの通信衛星を用いて平成元年2月に 相対追跡実験を、3月に衛星通信の干渉実験を行った。
 干渉実験には、直径1m及び2mの二つの小型アンテ ナ地球局と直径13mの大型アンテナ地球局を用いて、 静止軌道上のCS-2aと2bの軌道間隔をパラメータと して小型アンテナを用いた衛星回線の干渉特性を測定し た。最近、世界的に直径2m以下の小口径のアンテナ地 球局を用いる衛星通信が発達している。地球局アンテナ の小口径化することは放射ビームが拡がり、衛星回線相 互の干渉発生の可能性が高くなる。軌道間隔を変えなが ら干渉実験を実施できる機会は希であり、干渉に関する 技術基準の策定等に反映できるものとして成果が期待さ れている。
 相対追跡実験は、二つの衛星の相対的な位置関係を正 確に把握する手段を開発することを目的として行った。
 CS-2a及び2b両衛星が非常に接近して配置された期 間を利用して、13m径のアンテナにより衛星の角度測定 を行った。通常の測角とは違って、2衛星の差動測角、 つまりCS-2aと2bの間の方位角・仰角の差の値を測 定するというものである。測角には、アンテナ周辺環境 (日射、大気の状態)に依存した種々の誤差が含まれる が、差動化によってそのかなりの部分が除去されるた め、相対位置を良い精度で得ることが期待できる。この ような追跡手段の開発は、今後の静止軌道の混雑化への 対策として意味を持つものである。
 これらの実験は宇宙開発事業団との共同研究の一環と して実施したものである。



大深度地下空間利用に関する調査研究会


 大都市を中心にした地上の過密化により、これまでほ とんど利用されていなかった大深度地下(地下敷10mか ら100m程度の領域)利用が脚光を集めている。このた め、郵政省を含む多くの省庁において、この領域の利用 を促進するための法律案を準備するとともに、技術的検 討が進められている。
 科学技術庁では、大深度地下利用に関する科学技術の 体系化を図るため、共通的基盤技術に関する緊急調査を 63年度科学技術振興調整費で実施することになった。こ の調査に当所から「緊急時通信システムに関する調査」 を提案し、調査項目として採用された。
 このような経緯で、東北大学安達教授を委員長に、当 所電波部岡本室長が幹事となり、ミリ波やトンネル内伝 搬などの研究者が集まり、さる2月と3月に、当所で2 度の研究会を開催した。研究会ではアカデミックな雰囲 気の下で、閉空間におけるミリ波の伝搬特性や地下空間 における無線通信システム等に関し知識を交換すること ができ、有意義であった。



関西支所設置準備室オープン


 当所では、本ニュース第155号でもお知らせしたとお り平成元年度予算政府原案で関西支所の設置が認めら れ、支所設置に値え4月1日に関西支所設置準備室が発 足した。
 関西支所は、平成元年度本予算の成立に伴って設置さ れ、新組織及び研究室等の人事発令が行われる予定と なっている。本年度は暫定予算が50日間と異常に長期で あり、この間も含め支所の円滑な発足のために準備室が 設置されたものである。
 支所の新研究庁舎はクリーンルーム等の特殊実験棟も 含め4775uの規模で、約14億円の費用をかけ、平成3 年の3月に完成する予定であるが、新庁舎の完成以前 に、支所設置と同時に先発隊が現地に着任し、また、この秋 から既設庁舎(元近畿電気通信監理局岩岡監視所)を利用 し情報系の研究室が現地で研究を開始する予定である。