高周波熱プラズマの流速を測る


巖本  巖

  

なぜ熱プラズマか
 当所になじみの方は熱プラズマの言葉から電離層 の低エネルギープラズマを思い浮かべるかも知れな いが、ここでは材料のプロセス用のもののことで、 直流アークまたは高周波誘導放電プラズマのような 熱容量が大きくかつ電子とイオン・中性ガスなどが ほぼ同じ温度、すなわち、局所熱平衡状態と考えて よいプラズマのことである。これに対するものとし て、低温プラズマがある。低温プラズマでは電子と イオンなどが非平衡状態にあり、その高い反応性を 利用して、例えば、半導体デバイスの製造などに今 や無くてはならない手段になっている。
 熱プラズマは低温プラズマに比べて熱容量が大き く、活性な化学種の存在によりさらに高い反応性を 有する。例えば、ダイヤモンド膜の気相合成では従 来の100倍も大きい堆積速度が報告されているよう に、これまでにない非平衡物質の創製や、工業的大 量生産にも適しているので、これからの有力なプロ セシング手段の一つと考えられる。
 熱プラズマの中でも、高周波熱プラズマはプラズ マ火炎部の面積が大きくとれ、電極のスパッタによ る不純物の混入もなくかつ任意の雰囲気ガスが使用 できることが特徴である。その反面、高周波プラズ マは不安定で制御が難しく、装置の価格も高いので 開発がそれほど進んでいなかった。
 この現状を打開し、日本の将来のハイテクの一翼 を担うために、昭和60年度より科学技術振興調整費 により高周波熱プラズマの総合開発プロジェクトが 始められ、私たちも計測の分野でこれに参加するこ とになった。
  

レーザドップラで流速を測る
 私たちの担当はプラズマの流速の計測である。こ のほか計測の分野では、船舶技術研究所が密度・温 度を、化学技術研究所が化学種の計測を担当した。
 プラズマは数千度〜数万度になるので従来の速度 センサは使えないので、ガラス窓の外側から光を 当てるだけで測定できるレーザドップラ法を用いる ことにした。
 原理は図1に示すように流れに乗った微粒子から のレーザ散乱光が流速に比例したトップラシフトを 受けることを利用する。ただし、救急車が接近して きて遠ざかる場合に、サイレンは高い音から低い音 に変化するという経験から分かるように、トップラ シフトには方向依存性があるので、トップラシフト から速度を求めるにはあらかじめ角度情報が必要と なる。そこで考えられたのが図2のデュアルビーム 差分ドップラ法である。2本のビーム交点を通る粒 子からのそれぞれのドップラシフトの差をとると方 向依存性はキャンセルされて、2本のビームの中心 線に直交する速度成分が検出できるようになる。


図1 レーザドップラ流速計の原理


図2 デュアルビーム差分ドップラ法

 見方を変えると、実は図2右側に示すように、2 本のレーザビームの交点には干渉縞が形成されてい ることになっている。この中を粒子が通過すると、 干渉縞に応じて散乱信号が変調される。この変調周 波数が上の差分ドップラ周波数と全く等価であるこ とが示される。レーザの強度がガウス分布をしてい るため、干渉縞はラグビーボールのような領域に形 成されている。このラグビーボール状領域が測定体 積というわけである。
 写真1に実際に私たちが製作したレーザ流速計で 高周波プラズマ装置を測定している様子を示す。左 側の黒い筒が流速計プローブである。光の伝送はす べて光ファイバで行っているので、光学ベンチを被 測定装置の近くに置く必要がなく非常に便利であ る。また、ファイバの使用は電気的ノイズを減らす のにも有効である。このプローブの主なパラメータ は表1に示す通りである。


写真1 高周波プラズマ装置と流速計


表1 流速計プローブの主なパラメータ

 レーザ流速計の分野では信号処理法も非常に重要 なものとされている。ここでは、散乱信号を波形メ モリに記憶し、ディジタル・シグナル・プロセッサ (DSP)でFFT処理を行ってドップラー周波数を 求める方式を用いた。この方法は最近のディジタル技 術を大いに活用したもので、パラメータや測定シー ケンスの変更などが容易である特徴があり、散乱信 号波形がきれいでないとき、またはノイズの多いと き従来の周波数カウンタより高い精度が得られる。
 図3には写真1で発生させたプラズマの流速の径 方向分布の測定例を示す。


図3 プラズマ流速計測例

  

粒子の大きさもおまけに測る
 熱プラズマの重要な応用のひとつにセラミックス などのプラズマ溶射がある。溶射膜の善し悪しは粒 子の速度だけでなく粒径及び粘性、つまり、レイノル ズ数で決まると言われている。そこで前に述べた ドップラ流速計を利用して粒径も同時に測定するこ とにした。いくつかの方法があるが、図4に示す PHASE DOPPLER法を採用した。球形の粒子を仮定 し、ドップラバーストを 図のように2つの検出器 で測定すると、両者の受 けるバーストの位相差は 粒径dに直接比例して いるという原理を用い る。位相差という相対値 だけの測定でよいので、 誤差要因が少ないこと、 またダイナミックレンジ も数μm〜数100μmと広 いのが特徴である。


図4 PHASE DOPPLER法   による粒径測定の原理

 粘性の方は温度で決まるので粒子温度の計測も必 要である。温度の方は、溶射粒子はプラズマ背景光 の中で赤く輝いて見えるので、流速プローブに取り 込まれた粒子の発光を分光して、黒体放射2色比較 法で求めることが出来る。この場合、データはドッ プラバーストでトリガし粒子のあるときだけ取得す る。
 この様にして幾つかの測定原理を組み合わせて、 粒子の速度、大きさ、及び温度を図5のようにひと つのプローブで計測することが可能である。
 このプローブは、現在製作中で結果については機 会を改めて報告したい。

(電波応用部 主任研究官)


図5 多パラメータ同時測定プローブ




1989年10月オーロラ予報


菊池  崇

 1989年10月21日午後8時40分、北海道の北の空に 真っ赤なオーロラが現れた。IGYから数えて31年 ぶりの出来事である。10月19日12時29分UT(日本 時間、同日午後9時29分)に米国NOAA宇宙環境 サービスセンターで大規模太陽フレアが観測されて から、日本でオーロラ観測に成功するまでの経緯を 以下にまとめる。
 

大規模太陽フレア発生と地磁気嵐警報
 太陽フレア発生の情報は米国コロラド州ボールダ ーにあるNOAA宇宙環境サービスセンターからウ ルシグラム網(太陽地球環境速報データ交換網、図 1参照)を経由してもたらされた。20日朝の外電 ニュースは、NOAA宇宙環境サービスセンターが太 陽フレアを原因とする電力、通信系の障害発生の可 能性に対して警告を発していることを伝えた。太陽 フレアの詳細な情報は、その後もウルシグラム網で 続々と入電した。X線強度が13(13×10^-4watt/u) という値はGOES衛星のX線計測器の測定限界12を こえている。さらに、太陽フレアの面積を示す指数 4及び明るさを示すB(Bright)は最大クラスのフ レアであることを示している。しかも、このフレア は太陽面上で地球を向いた子午線よりわずか10度ば かり東に寄った位置で発生した。この位置付近でフ レアが発生すると地磁気嵐が発生しやすいことが知 られている。平磯宇宙環境センターでもこの太陽フ レアを発生させた黒点領域(領域番号5747)に注目 し、太陽フレアを発生させる可能性が大きいとの判 断に立って、連日、太陽フレア警報を発令してい た。このような状況下で10月19日に太陽フレアが発 生したが、この発生は日本の夜であった。このため に、平磯宇宙環境センターの白色光及びHα光によ る太陽面テレビ観測で直接、フレアを確認すること は出来なかった。しかし、平磯宇宙環境センターで 受信している国外短波電波強度と当所犬吠電波観測 所で受信している超長波の位相には大規模な電離層 擾乱が観測され、太陽フレアが最大クラスのX線を 放出したことを示していた。また、気象衛星ひまわ りの衛星環境モニター(SEM)データは大規模なプ ロトンフレアであることを示していた。平磯宇宙環 境センターではこれらの情報を基に、太陽フレア発 生から1ないし2日後に大規模地磁気嵐が発生する との判断をし、地磁気嵐警報を発令した。この警報 は通信、衛星運用、電力、研究機関へただちにファ ックスで送付された。特に、当所稚内電波観測所へ はオーロラ発生への注意を促した。


図1 世界警報センター及びウルシグラム網(破線)

 

オーロラ発生
 太陽フレアから放出されたプラズマが地球に到達 すると、地磁気嵐が発生し、南極や北極で美しいオ ーロラが現れる。地磁気嵐の規模が巨大である時に は、オーロラを発生させる領域(オーロラ帯)が低 緯度へ下がってくるために、通常では見られない米 国南部や日本などの中低緯度でオーロラが出現する 可能性がある。
 オーロラ発生の第一報は21日午後9時半頃、当所 稚内電波観測所の丸山隆所長からもたらされた。同 所長及び石橋弘光技官は平磯宇宙環境センターから 発した地磁気嵐警報を入手した後、オーロラ発生に 備えて夜間の目視観測を行った。この結果、21日午 後8時45分から8時55分の間、同所の真北方向に 真っ赤なオーロラを観測した。この時のオーロラは アマチュア天文家の津田、副島(十勝支庁陸別町役 場勤務)両氏が撮影に成功した、両氏及び稚内電波 観測所長の表現を借りると、山火事の時のように北 の空が赤くなったということであった。これらオー ロラ観測者の表現は、筆者が1981年4月13日にコロ ラド州ボールダーで見た中緯度特有の真っ赤なオー ロラの特徴と極めて類似していた。北海道北方に中 緯度オーロラが発生したことは間違いないとの確信 を得た。発生した時刻は目視で午後8時40分から9 時過ぎまで、写真では午後10時まで確認されている。
 

オーロラ情報サービス
 稚内電波観測所からオーロラ発生の報告を受けた 後、オーロラ発生の可能性について20日朝から問い 合わせを受けていた報道機関に連絡するとともに、 現象を正確に把握し、今後の予測を行うために、気 象庁地磁気観測所と連絡をとりオーロラ発生と地磁 気嵐の関係についての検討を行った。各報道機関は 北海道、東北の支局を動員してオーロラ撮影と情報 収集に動いた。新聞各社の情報収集活動により、オ ーロラの発生確認が北海道全域でなされたことが分 かった。また、新聞各社がオーロラ発生の時刻やア マチュア天文家が写真撮影をしたといった情報を平 磯宇宙環境センターへ逐一連絡してくれたために、 複雑な地磁気変動のどの部分でオーロラが発生する かについて極めて有益なデータを得た。
 平磯宇宙環境センターで記録している地磁気デー タによると、午後8時40分にオーロラが発生した 時、地磁気水平成分が急激な増加をし、その大きさ は150nTに達した(図2参照)。筆者の南極での経 験ではオーロラが発生するのは地磁気水平成分が急 激に減少するサブストーム(磁気圏嵐)開始時であ る。一方、中低緯度でのサブストーム効果は地磁気 の増加となって現れることが知られている。中低緯 度でのオーロラが地磁気嵐が充分発達した段階で発生 したサブストームの開始時に発生することが確認さ れたことになる。この後、午後11時15分にも地磁気 水平成分が急激に増加し、その増加分は100nTに 達した。その直後の新聞社の問い合わせに、ひょっ として、11時15分頃にオーロラが観測されているか もしれないと告げたところ、その直後、稚内電波観 測所の丸山所長から丁度この時刻に、再び赤いオー ロラが観測され写真撮影を行ったという報告があっ た。この写真には、淡いがはっきりとした白い筋構 造が写し出されていた。中低緯度でも極域と同様に オーロラ電子が磁力線沿いに加速されている可能性 を示唆する重要な写真である。中緯度オーロラの特 性は事例の少なさもあってはっきり解明されておら ず、今後の研究課題である。


図2 気象庁地磁気観潮所(柿岡)で記録した地磁気3成分

 

今後のオーロラ活動
 今回の日本でのオーロラ発生は、約30年ぶりだ が、地磁気嵐の規模としては3月の大規模地磁気嵐 の半分であった。この結果は、地磁気嵐が発達して ピーク付近になったときにサブストームが発生する という条件を満たせば、案外、時々、オーロラが日 本上空に現れるかもしれないことを示唆している。 これを裏付けるかのように、11月18日午前1時43分 に再び北海道で赤いオーロラが観測された(気象庁 地磁気観測所女満別出張所で観測)。この時の地磁 気変動は更に小さく、3月の地磁気嵐の3分の1程 度であった。現在の太陽活動は30年前と同程度に活 発であると予想されている。そして、予想どおりに 日本で真っ赤なオーロラが出現したわけだが、来年 の始め頃に予想されている太陽活動度のピークを迎 えてますます太陽活動が活発になり、再び日本でオ ーロラが現れる可能性は大きい。しかも、大規模な 地磁気嵐は太陽活動度が下降する途中でも発生する という統計的な事実があり、ここ数年間はオーロラ 発生が話題になりそうである。
  

オーロラ予報から宇宙天気予報へ
 今回のオーロラ出現に際して、平磯宇宙環境セン ターでは地磁気嵐の的確な予報と地磁気嵐が発生し てからの迅速な情報提供を行うことが出来た。ま た、事後の情報収集に関してもオーロラを撮影した 計3グループの人達と翌22日には直接接触し、ネガ フィルムを入手することが出来た。的確な予報を可 能にしたのは、世界に6箇所ある警報センター(平 磯宇宙環境センターは西太平洋地域の警報センタ ー、図1参照)間を結ぶデータ通信網による迅速な 情報交換と当所の短波、超長波受信観測網、及び 気象衛星センターから提供されているGMSのSEM データであった。特に、GMS/SEMはフレア発生後 2時間で大規模なプロトン束を観測し、19日の太陽 フレアが大規模地磁気嵐を発生させるものであると の判断の決め手になった。そして、地磁気嵐警報を ファックスなどを用いて関係の機関に迅速に配布す る体制が出来ていたことが、稚内電波観測所でのオ ーロラ観測の成功をもたらした。この稚内でのオー ロラ観測の第一報が平磯宇宙環境センターより報道 機関に流されて、それ以後の現地報道機関の観測活 動と情報収集活動を促した。今回のオーロラ出現に 際して、平磯宇宙環境センターが宇宙環境擾乱予報 及び宇宙環境情報のセンタ-として、充分な機能を 持っていることが実証された。現在、平磯宇宙環境 センターを中心として当所が推進している宇宙天気 予報計画(図3参照)は、この機能を更に飛躍的に 強化して、21世紀の宇宙時代における太陽フレア及 び宇宙環境擾乱の予報及び迅速、的確な情報収集、 提供を行う体制の構築を目指している。

(関東支所 平磯宇宙環境センター 通信障害予報研究室長)


図3 宇宙天気予報センター概念図




≪外国出張≫

テキサス大学に滞在して


長谷 良裕

 昭和63年10月から1年間、科学技術庁長期在外研 究員として、米国テキサス州オースチン市にあるテ キサス大学オースチン校電気技術研究所 (Electrical Engineering Research Laboratory)に滞在 した。ここは、約25年前に高橋耕三氏(二特室長) や船川謙司氏(現NASDA副理事長)も滞在された ことのある研究所で、かつてはミリ波の伝搬や電波 天文の研究を中心に、所員も数十人の規模だったの が、その後だんだん縮小され、更には私の滞在中に 付属のミリ波観測所の閉鎖と共に所員もわずか2名 にまで減り、存在自体が風前の灯といった感じの研 究所である。しかし、研究所の実質的な所長兼雑用 係のDr.Vogelは、伝搬の研究(特に最近の陸上移 動衛星通信関係の伝搬)の世界では非常に有名で、 年に何度も学会や実験で世界中を飛び回っている人 である。私は、彼がオーストラリアに測定車を持ち 込み、ETS‐Xからの電波を受信して得た伝搬データ を共同で解析するためにこの弱小研究所を選んだ訳 であるが、さすがに、あまりに小さな研究所である のに驚いた。

 大学自体は、研究所の小ささとは対照的に、全米 でも最大級のマンモス大学で、学生5万人が狭い キャンパスにひしめいている。建物がひしめいてい る様子やビラや看板であふれた構内は、日本の大学 によく似ている。ただ、構内の芝生で多数のビキニ 姿の女子学生が日光浴をしているのが、日本の大学 との最大の違いかもしれない。

 オースチンという地名は日本ではほとんど知られ ていないが、テキサス州の州都であり、人口45万の 結構大きな地方都市である。サボテンにカウボーイ といった古い時代のイメージとは対照的に、IBM、 モトローラ、3Mといったハイテク企業が集まった 緑も豊かな都市である。夏の気温は連日40℃近く になるが、思った程は暑く感じなく(乾燥している のと、どの家も1日中エアコンを入れているため) むしろ、冬の寒さが予想以上に厳しく、以外だった。


研究所の全員。35年勤務の女性秘書も

最近退職したので、現在は2人

 アメリカ生活で一番日本との違いを感じるのは、 “衣食住”の基本のうち“住”についてだろう。こ の2、3年、テキサスでは家が値下りしたせいもあ るが、映画にでも出てきそうなしょう洒な邸宅でも 日本のサラリーマン(公務員は無理?)にも十分手 の届く範囲である。それに、環境整備(例えば、道 路や空地の草刈り)もはるかに小マメにやる。アメ リカは“衣食”に関しては、日本よりもどちらかと 言うと悪いくらいかも知れないが、“住”に関して は、広さだけでなく、設備や環境も含めて雲泥の差 がある。ペンキの塗り替え一つしない狭くて汚ない 公務員の官舎や、駐車スペースもろくに作らないた め道路脇に車があふれている日本の実情を見ると、 今や平均の所得水準は大差ないのに、どうしてこん なにも生活に差があるのだろうかと考え込んでしま う。未来の通信の研究よりも、現在の生活をまとも にする方が、今の私には大切な気がしている。

(関東支所鹿島宇宙通信センター 第二宇宙通信研究室 主任研究官)



短 信




「秋の叙勲」糟谷 績・尾方義春の両氏晴れの受章


 菊花薫る11月3日「文化の日」にあたり、糟谷 績元 電波研究所所長は勲三等旭日中綬章を、尾方義春元特別 研究官は勲四等旭日小綬章受章の栄に浴された。11月10 日郵政省講堂において勲章伝達式が行われ、大石郵政大 臣から勲章が手渡された。
 顧みるに、糟谷 績氏は、昭和20年11月文部省電波物 理研究所勤務から昭和53年6月退官されるまで30有余年 の間、深浦・秋田・平磯電波観測所長、企画課長、第一 電波課長、電波部長を歴任の後、昭和51年7月電波研究 所第7代所長として就任され、電波研究の発展と指導に 当たられた。
 在職中は、電離層観測システムの整備、電離層物理、 電波伝搬特性の解明及び電波予報技術の改善研究等に尽 力し、更に世界に先駆けて衛星通信実験を企画、強力に 実験を推進し衛星通信におけるミリ波帯電波の有用性の 実証に多大な貢献をするとともに、退官後も東京都立大 学工学部教授、電波技術審議会専門委員等を務めるなど 電気通信行政の発展に寄与し、極めて顕著な業績を挙げ られた。
 尾方義春氏は、昭和25年1月電波庁電波部勤務から昭 和52年10月退官されるまで28年の間、秋田電波観測所 長、測定装置研究室長、情報処理研究室長、情報処理部 長、特別研究官の要職を歴任された。その間、電離層観 測の研究並びに情報処理の研究に携わり、我が国の電波 技術、情報処理技術の発展に大きく貢献するとともに、 我が国の宇宙開発の黎明期において電離層観測衛星の計 画推進及び開発に指導的役割を果たされた。退官後は、 東京芝浦電気株式会社、日本エレクトロニックシステム ズ株式会社において、宇宙開発に関する大型プロジェク トに指導的立場で参画するとともに、宇宙開発に関する 各種委員会において活躍し、我が国の宇宙開発技術の発 展に大きく寄与するなど極めて顕著な業績を挙げられ た。
 今後とも両氏の御健康と末長く御活躍されますことを 期待します。



電気通信フロンティア研究国際フォーラム開催


 11月9日、10日の2日間、郵政省と財団法人テレコム 先端技術研究支援センター主催の「電気通信フロンティ ア研究国際フォーラム」が、御茶の水スクウェア・ヴォ ーリズホールに内外から約200名の参加者を得て開催さ れた。
 郵政省では昭和63年度から21世紀をめざす基礎的・先 端的研究開発としての「電気通信フロンティア研究開 発」を最重要研究開発課題として通信総合研究所を中核 に推進している。
 フォーラムでは、大石郵政大臣、月原政務次官、熊谷 阪大学長の挨拶、中村通信政策局長の基調講演、AT&T Bell 研究所長谷川晃氏の特別講演の他、12件の一般 講演があった。
 初日の一般講演は、「各国の電気通信研究開発プロジェ クト」のテーマで、EC、加、英、仏、日の研究開発政 策担当者、研究所長等から、それぞれの国の研究開発の 現状と将来が紹介された。日本については畚野通信総合 研究所長が講演した。
 2日目は「知的コミュニケーション」、「超電導デバイ ス」、「量子光通信技術」の各課題について内外の著名な 研究者の講演があった。
 来年度からは、毎年、電気通信フロンティア研究の中 の特定テーマに絞って開催していく計画である。



第31次南極地域観潮織出発


 11月14日午前11時、第31次南極地域観測隊55名を乗 せ、物資を満載した南極観測船「しらせ」は東京晴海埠 頭を出港した。「しらせ」はオーストラリア西海岸のフ リーマントル港に寄港した後、一路南極に向かう。
 当所から越冬隊員として、電離層定常観測に大高一 弘、宙空系研究観測に佐藤正樹、あすか観測拠点宙空系 研究観測に川原昌利の3名が参加している。
 電離層定常観測では、電離層垂直観測、電波によるオ ーロラ観測等に加えてNNSS衛星による電離層全電子 数の観測を再開する。宙空系研究観測では、オーロラ観 測衛星(EXOS-D)受信、大陸に無人観測拠点の設置、 ソ連マラジョージナヤ基地での観測機器保守等に加え 1月には、電波星の同時観測をオーストラリアと共同で実 施する。あすか観測拠点宙空系研究観測では、地磁気、 リオメータ観測、オーロラ光学観測及び昭和基地と同型 のNNSS電離層全電子数観測装置を設置し、同時観測 を実施する。


JARE31越冬隊員
佐藤君、大高君、川原君、がんばれ