鹿島宇宙通信センターの宇宙研究25年


手代木  扶

 鹿島宇宙通信センター(旧電波研究所鹿島支所) は昭和39年5月の創立から平成元年度で25周年を迎 えた。東京オリンピック宇宙中継の華々しいデビュ ーからATS-1など外国の衛星を用いた技術習得期 を経て、ETS-U、ISSなど我が国の自前の衛星を 用いての伝搬実験や運用管制、CS、BSによる固定 通信、放送からETS‐Xを用いた移動体衛星通信に 至る通信分野の研究、さらには電波天文観測や VLBIシステムの開発と日米共同実験によるプレート 運動の検証など、鹿島センターは宇宙通信・宇宙研 究の分野で幾多の優れた成果を産み出す一方で多く の優れた人材を輩出し、我が国の宇宙開発に貢献し てきた。
 ここでは25年を振り返って研究の流れを整理する と共に今後の展望にも触れてみたい。
  

設立から東京オリンピック、ATS-1まで
鹿島支所の正式発足の4年前の昭和35年にアンテ ナ建設の予算が認められたが、用地決定までには大 変難行した。「税金を払わない所に来てもらっては 困る」と主張する当時の町長さんに、当時の上田所 長や初代支所長となる尾上課長は随分苦労されたよ うである。
 用地も決まり、我が国初の宇宙通信用大型アンテ ナの建設が開始されたが、予算事情から多くの時間 を費やし、ようやく完成したのはオリンピックの2 か月前であった。
 衛星は米国のシンコムV号であったが、受信周波 数が7GHz帯と高く、30mφアンテナの使用範囲を 越えていたので、急遽面精度の良い10mφ送信アン テナ(人力による追尾であったので「奴隷船」と呼 ばれた)を新設することになり、夜を日についての 突貫工事が行われた。関係者の総力結集によって、 オリンピック史上初の宇宙中継は奇跡的とも言える 大成功を収め、我が国の宇宙通信の歴史に輝かしい 1頁を飾ると共に当所の宇宙通信への華々しいデ ビューともなった。


写真1 30mφアンテナと実験庁舎(昭和39年)

 その後しばらくは米国の応用技術衛星(ATS-1) を利用した実験によってTDMAやSSRA、カラー TV伝送などの通信実験、軌道決定などの管制実験 を実施して宇宙通信の基礎技術を習得していった。 特に静止衛星の衛星管制について当所は当時経験が 浅く何とか力をつけたい所であった。そこでATS‐1 の運用を一部肩代わりすることの引換えにNASAか らR&RR(Range and Range Rate)装置や軌道決定 ソフトの提供を受け、技術を大いに吸収した。それ によって我が国のこの分野の技術水準は急速に向上 することとなった。
 昭和43年には本格的宇宙通信研究の展開に備える ため、面精度やサイドローブ特性を改善した26mφ アンテナを整備した。ATS‐1実験の中で特筆すべき ものにSSCC(Spin Scan Cloud Camera)によって 初めて静止衛星からの雲写真データを受信・再生す ることに成功したことがある。毎日茶の間で見れる 気象衛星「ひまわり」の雲写真の技術も元をたどれ ばATS-1の実験成果に行き着くのである。
  

我が国初期の衛星時代
 昭和50年代に入ると我が国の宇宙開発体制も整備 され、次々と国産衛星が打上げられるようになった が、鹿島支所はこれら多くの衛星実験で中心的役割 を果たした。
 昭和52年3月に打上げられた技術試験衛星2号 (ETS-U:きく2号)は我が国初の静止衛星で、UHF からミリ波までの3波のビーコン発振器を搭載して いた。これを用いた伝搬実験でミリ波衛星電波の降 雨減衰累積確率などを初めて得ることができた。衛 星電波伝搬と降雨の相互作用を解明するため に、ECS計画ではCバンド多機能降雨レーダを 開発した。このレーダのおかげで当所ならでは の密度の濃い伝搬研究を展開できたが、これは 同時に鹿島におけるリモートセンシング研究の 端緒ともなった。
 しかし、実験用静止通信衛星(ECS)の二度 にわたる打上げ失敗で世界に先駆けたミリ波衛 星通信実験は幻と消えた。この出来事は当所は もとより、日本国中に大きな衝撃を与え宇宙開 発のリスクの大きさを改めて思い知らせること になったのであった。
 昭和53年2月に電離層観測衛星(ISS-b)が 打上げられ4月から本格的運用を開始した。担当で あった衛星管制課ではパス運用中は日夜交代で衛星 の運用やデータ取得に当り、縁の下の力持ちとして ISS計画の成功を支えた。さらに51年から54年にか けては我が国の衛星計画が最も華やかな時代で、衛 星管制課はISS、ISIS-1,-2、CS、BS、ECS等の衛 星管制業務を抱えて繁忙を極めた。
  

CS、BSからETS‐Xへ
 世界的に衛星通信が目覚しい発展を遂げて行く 中、我が国も早期に衛星通信システムを実用化する 必要が叫ばれるようになり、その技術を確立するた め、実験用中容量静止通信衛星(CS)が、また難視 聴地域解消等の技術を確立する目的で実験用中型放 送衛星(BS)の計画が郵政省を中心に進められた。 これらの実験に備え、創立以来のシンボルであった 30mφアンテナを撤去し、その敷地に昭和51年3月 CS・BS実験庁舎を完成させ、以後鹿島局が通信・ 放送実験及び運用管制の主局として実験の中心的役 割を果たすことになった。5月から本格的実験が開 始され、世界ではじめての準ミリ波帯衛星通信実用 化の可能性を確認した。昭和55年からは種々の利用 形態に対する適用性を調べる目的で応用実験が、つ いでCS-2を利用して新規参入を希望する機関に衛 星通信の普及を図る目的のパイロット計画が実施さ れた。


写真2 K-3型VLBIシステム


写真3 オーストラリアとのETS-X/EMSS共同実験
  AUSSATの実験車に車載アンテナ及び
  アナログ方式(ACSSB)端局をのせて走行実験


写真4 降雨観測用2偏波レーダ


図1 VLBIによる5年関のプレート運動観測結果
 (鹿島、フェアバンクス:北米プレート
  カウアイ      :太平洋プレート)

 BSは個別受信衛星放送を実用化するための実験 衛星で、53年4月に打上げられ、7月からNASDA やNHKの協力の下3年余りに及ぶ実験を開始した。 この計画でも鹿島支所がBS主局を運用して実験の 中枢的役割を果たし放送衛星の早期実用化に見通し をつけることできた。
 昭和62年8月ETS‐Xが打上げられ、移動体衛星 通信実験システム(EMSS)を用いて船舶、航空機、 陸上移動体を対象とした1.5GHz帯総合移動体通信 実験を実施している。これまでに北海道大学練習船 「おしょろ丸」を利用した4回の船舶実験、日本航 空の協力で行った24回の航空機実験等により、伝搬 や通信の基礎データを取得すると共にフェージング 除去技術の実証実験等を行った。今後は陸上移動体 との通信や測位に実験の重点を移していく予定であ る。
  

VLBI
 鹿島支所では宇宙通信の実験研究と並行して昭和 41年から電波星の観測を開始した。この電波天文に 関する宇宙電波技術と宇宙通信技術に本所で行って きた超高精度原子時計等の先端技術を統合して VLBI(超長基線電波干渉計)の開発が始められた。昭 和52年2月K-1システムによる国内初の実験を行 い、次いでECS計画の中でK-2システムを開発し た。更に54年から第4次地震予知計画に関連して K-3システムの開発がスタートした。翌年からこの 計画内容は日米科学技術協力協定に基づく国際観測 に対応できるように拡大され、58年にはシステムの 完成と共に初の日米予備実験を行い、引続き59年7 月から5年間の日米共同観測を開始した。そして翌 年11月VLBI実験により初めてプレート運動を検出 するという科学史上極めて重要な貢献をすることと なった。これまでの観測で例えば鹿島とハワイのカ ウアイ島間基線は年約6.5pの割で短縮している ことが明らかになった。このようにして従来仮説で しかなかったプレートテクトニクス理論が科学的真 実であることを実証でき、この功績に対しVLBIグ ループは平成元年4月新技術開発財団の「市村賞」 の栄誉に治すことができた。
 昭和62年度の補正予算で「西太平洋電波干渉計シ ステム」の開発が認められ、北米プレート上の鹿島 に34mφアンテナ、太平洋プレート上日本最東端の 南烏島に10mφアンテナを新設でき、平成元年8月、 初のVLBI観測に成功した。今後フィリピン海プレ ート上の南大東島局、ユーラシアプレート上の上海 局も合わせ西太平洋地域のVLBI網を構成し大地震 予知を目指して詳細に日本付近の4つのプレート運 動の観測を進める計画である。


図2 組織(平成2年3月現在)

  

今後の展望
 通信の分野ではETS‐Xの実験を継承し、CS-3や 平成5年打上げ予定のETS‐Yを利用し準ミリ波や ミリ波による移動体通信など多様性に富む衛星通信 システム開拓に向けての研究を進める計画である。 さらにETS‐YはSバンド衛星間通信によるデータ 中継や管制実験、光通信基礎実験等も予定してい る。21世紀には宇宙ステーション や月面基地計画が本格化し、さら に惑星間空間へと人類の活動領域 は拡大していくであろうが、その とき文字通り宇宙通信が人類の宇 宙活動を支える基盤となることは 確実である。ETS-Yによる実験は その第一歩となるものと期待され ている。
 一方、静止軌道はこれからます ます混雑化が進むので衛星の精密な軌道制御は一層 重要になる。また将来は宇宙光通信におけるビーム 制御や宇宙機のランデブー・ドッキングなど宇宙利 用における高度な制御技術が不可欠となるため、系 統立った研究を進めていくことにしている。
 リモートセンシングの分野では、最近世界的に関 心を集めている地球環境問題に関連して、その計測 技術に対する研究ニーズが増大してきている。その 一つとして、世界的規模で気象に大きな影響を与え ると考えられる熱帯地域の降雨を観測する国際共同 プロジェクト(TRMM計画)構想が打ち出された。 これに対して当所はこれまでのレーダ研究の実績を 生かしてTRMM衛星に搭載するフェーズドアレー型 降雨レーダ開発を分担すべく要素技術の開発を進め ている所である。
 VLBIでは南極を含む地球的規模での測地学的研 究の他、当所の所掌に関連する日本標準時の高精度 維持のための地球回転事業に主体的に参加していく 計画である。その他、新34mφアンテナを用いて地 球上のいかなる時計よりも長期安定度が優れている と言われているミリ秒パルサーの観測など、新しい 研究とその応用についても積極的に挑戦している。
 これまで多くの先輩方が築いてきた鹿島宇宙通信 センターの25年の輝かしい歴史を思いながら、21世 紀に向けてさらなる飛躍を期したい。一層のご理解 とご支援をお願いする次第である。

(関東支所長)




エジプトの電気通信の現状と研究・人材


柿沼 淑彦

  

悠久の国エジプト
 エジプトは4大文明発祥の地の一つであり、紀元 前3,000年頃に文明が発生した。ピラミッド、スフィ ンクスに象徴されるナイル古代文明の地であり、最 近はテレビなどで多く放送され国情については知る 人も多い、地中海をはさんでヨーロッパに面し、そ の長い歴史の中で多数の文化が入り組み人種的にも 多くの血が混じっている。国土は日本の約2.7倍、 100万2千q^2で、ほぼ正方形である。その96%が砂 漠であり、南北にこの国唯一の河であるナイルが流 れている。人々は主としてこの河沿いの、幅20q ほどの流域及びカイロから扇状に広がるデルタ地帯 に住んでいる。ナイルのデルタとこの河の流域は、 定期的な洪水のおかげで肥沃な耕地が広がってい る。これが古代からエジプトの穀倉地帯となり、富 を集め文明の開けるところとなった。しかし、今は アスワンハイダムが造られ、かっての洪水にも見舞 われなくなったが、その副作用として塩害が出始め ているとのことである。
 エジプトはナイルの賜と言われているが、その発 展は電気通信の分野に端的にあらわれている。

図1、 図2で示すように長距離伝送路網はナイルとデルタ 地帯、スエズ地方が中心である。


図1 エジプト地理


図2 長距離伝送路網

  

電気通信の歴史
 エジプトの通信制度は今から約60年前の1930年代 に始まった。この時代はエジプトが実質的に英国の 保護領化していたため、施設は英国人によって計 画、設計、建設され運営・保守も行われて、小規模 な設備であったが機能はそれなりに持っていた。し かし、1952年からの数次の中東紛争に遭遇し、エジ プトの国家財政は軍事費に莫大に使われた。そのた め電気通信の保守・拡充の整備計画には手がつけら れず施設の老朽化が進み、サービスの低下の一途を たどった。また、人口増加と都市化による新規の電 話需要にも応えられず故障の放置で施設拡充などの 余裕もなかった。しかし、近代的通信サービスを絶 対的に必要とする政府諸機関は、通信網の再建を待 てずに各自が専用の通信網を構築し利用する方向に 走った。すなわち、現在でも専用網を持っているの は、政府、大統領府、国防軍、警察、放送局、石油 公団、スエズ運河庁、気象庁などである。政治力の ある集団が独力で通信問題を解決した一方で、公衆 通信網を利用する社会集団はその改善を求める圧力 は表面から消えた。
 公衆網の貧弱が明らかになったのは、開放経済政 策の推進と、ベイルート内戦によって中東での多く の国際企業が新しい活動の場としてカイロに移った 時と言われて、その頃のカイロの昼間の人口は800万 人以上あっても電話帳もなく、苦労して番号を探し ダイヤルしてもほとんどが応答がなかったと言う。 その解決として、メッセンジャーボーイと1日中ダ イヤルを回す電話番の職業があった。一般に、発展 途上国や中進国における通信事情の悪さは、交通渋 滞や経済活動に大きく影響を与えると言われている が、エジプトの場合もそう感じられる。近代的通信 サービスが一国の社会経済発展に不可欠で、特に公 衆網の抜本的近代化は急務である。しかし、発展途 上国において網の拡充整備の資金の手当は困難なの が一般的である。プロジェクトの発注にあたり、技 術の統一性や人材の確保よりもファイナンスの条件 が優先されやすい。エジプトの場合もスウェーデン、 フランス、西ドイツ、米国、イタリア、日本等の設備 が混在する結果になった。この多種設備の混在によ り製品ごとに異なる保守・運用技術を修得せねばな らず、保守体制の複雑化、インタフェース等の技術上 の問題と技術者の育成の不十分さが発生している。
  

電気通信の近代化へ向けて
 エジプト政府は、国全体の電気通信設備、サービ スの抜本的改善、当該分野における技術レベルの向 上と人材育成を図る政策を出した。
 1985年において電話普及率は人口100人当たり2.1 台であった。しかし、普及の促進を図り電子交換機の 導入、国内、国際伝送路の拡充・整備が進み、主要 都市間のダイヤル通話が可能となった。1988年には 人口100人当たり約3台と言われている。政府は2000年 までに100人当たり約6台にする計画を立ててい る。ちなみに日本では人口100人当たり約40台の普 及率である。
 エジプトの国際電話については約150か国と通話 が可能であり、通信公社は現在、新サービスの提供 と導入に努めている。すなわち、自動車電話サービ スの拡充、パケット交換サービス、ファクシミリ電 報、海事衛星通信サービス等段階的に提供すること を予定している。1982年から2002年までの長期計画 を国策として推進しつつある。それには技術者の絶 対的不足があり、電気通信研究研修所の拡充を計画 した。この制度は、大学卒業の資格を持つ電気通信 分野の専門家の育成、科学技術水準の向上を図る調 査研究、実戦的問題解決と最新技術の獲得の実施で ある。その概略の内容は次のようになっている。
 @ 上級エンジニアを対象に関連分野の技術訓練。
 A 通信分野の者に対する業務推進、技術進歩へ の実務的、科学的な訓練。
 B 調査研究活動を推進し、具体的問題解決の支 援と助言。
 C 通信分野の科学技術情報センタ化。
 D アラブ、近隣諸国との人的、技術的交流を推 進し中東、アフリカ地域のポテンシャルの高い 中核的機関。
 近代的通信サービスが国内の社会経済発展に不可 欠であり、かつ国際関係の発展維持、増強する上で も重要な課題である。
 エジプトは10世紀末に世界最古の大学アル・ハズ ル・モスクが作られ文化の発展に寄与してきてい る。識字率も50%ぐらいあり中東における中核的 な文化圏である。また伝統的にアラビアの科学が広 くヨーロッパに影響を与え、定冠詞「アル」のつい た、アルコール、アルカリなどがある。また、アラ ビア商人を通して、食料品をはじめとする名前、 シュガー、コーヒー、キャンディ、コットン等もア ラビア語に由来する。
 しかし、長い歴史を経て、民族間の紛争に会い近 代化への遅れがあった。現在、電気通信の近代化の ために、カイロ大学、アレキサンドリア大学をバッ クに、中東における通信分野の技術力の向上と産業 発展のために、ディジタル技術、ソフトウェア技術 を中心に技術者を再訓練し、設計、建設、保全、運 用の各分野で指導的役割を果たすエンジニアを育て る政策に期待したい。
(ODAのエジプト国立電気通信研究研修所拡充計 画調査に参加し、現地調査を行った。)

(企画調査部 通信技術調査室長)




≪職場めぐり≫

最  北  に  て


稚内電波観測所

 実験室の中で生起する現象に対しては人間の自由意 志でパラメータを変化させることが可能である。そ うすることで、現象の理解を深めることができる。 ところが、地球物理と称される現象の多くは人間の 自由意志が及ばないところで起こる。うまくしたも ので、自然がパラメータを変化させてくれる。後 は、その変化をどう捉えて観測を行うかが問題であ る。地上から数10〜数1000qの高さの大気−電離 圏・磁気圏あるいは熱圏と呼ばれている。ここで は、地球の緯度、経度、時刻、季節、太陽の活動度 が変化するパラメータである。我が国の最北、稚内 で電離層観測を営々40年以上も続けているのはその ためである。
 いま、稚内で電離層データに異常変動が観測され たとする。この変動はしばらくして秋田で観測さ れ、やがて東京、山川(鹿児島)、そして沖縄へと 移って行く。この異常変動は移動性××と称される ことになる。移動速度を算出し、高緯度側へ外挿す る。ある時刻にオーロラゾーンに達する。その時オ ーロラに関連した何等かの現象が発生している。そ れでは、南半球はどうであったか?、地球の反対側 のアメリカセクターは?、このような筋道で稚内の 観測データから全世界の観測データへと解析の対象 を拡大して行く。そこで初めて現象の理解が深まる。
 稚内観測所の業務を紹介する。

電離層定常観測
 最も基礎的かつ標準的な15分毎の垂直電波打上げ 観測である。稚内で発射された観測電波は同時に東 京でも記録される。

静止衛星電波によるシンチレーション観測
 電離圏のF層不規則構造(スプレッドF)あるい はスポラディックEによる電界強度の揺らぎを観測 し、逆に不規則構造の生成・消滅の機構を研究する。

航行衛星電波による電離圏構造の観測
 低高度を周回する米国海軍のNNSS衛星は電離 圏電子密度の緯度変化を観測するのに適している。 東京と稚内の二点同時観測によって、さらに観測範 囲が拡大される。電離圏、熱圏中の波動現象を捉え ることもできる。

短波電界強度観測
 東京近郊から発射されている標準電波JJYの電 界強度変化から伝搬途中の電波の吸収、異常散乱伝 搬等を知る。今年はこれに加えオーロラ観測?。
 これらの仕事をしているのは……岡本主任研は稚 内の主で30年前のオーロラ騒動の生き証人でもあ る。石橋技官は何の因果か南国九州から最北稚内へ、 専ら雪道ドライブを楽しんでいる。土屋技官は初め ての稚内の冬、除雪に情熱を燃やす。高田事務官は 焼鳥が大好きな日本野烏の会々員。筆者丸山は得体 の知れない北の魚を賞味、体重の増加が気にかかる。
 今は冬の真最中、観測所構内の雪のうえにはキタ キツネの足跡、やがて流氷が来るとオオワシ、アザ ラシのお客さんが来る。この文が印刷されるころに はシベリヤへ戻る白鳥の群れ、春になれば観測所の 中も山菜の狩場、と北海道には自然がいっぱいであ る。人口が疎であることの良い点である。悪い点は 書かないことにしよう。

(丸山 隆)


左から土屋、石橋、丸山、岡本、高田



短 信




「あじさい」、LAGEOS、ETALONに対して
レーザ光の送受信に成功


 当所では、1989年1月以来、宇宙光通信地上センター の直径1.5m望遠鏡に設置した衛星レーザ測距 (Satellite Laser Ranging:SLR)装置の調整を行ってきた。 本年1月29日に、逆反射プリズムを搭載した測地衛星 「あじさい」(高度1500q)からのレーザパルスのリタ ーンを得た。これは、大型望遠鏡のポインティング、送 受信ビームのアライメント等の高度な技術を確立して実 現したものである。その後、同様の測地衛星LAGEOS (高度6000q)からのリターン、更に、高度20000q のETALONからのリターン検出にも日本で初めて成功し た。
 今後、誤差数pでの地上局・衛星の位置決定をはじ め、地球回転運動の微小変動の測定、それらのVLBI (超長基線電波干渉計)による測定結果との比較等を実 施していく予定である。更に、月レーザ測距、光時刻比 較実験への同装置の利用も検討されている。



科学技術週間講演会の開催


 平成2年度の科学技術週間にちなみ講演会を開催いた します。多くの方々の御来所をお待ちしています。
 日 時 平成2年4月19日(木)14時から16時
 場 所 通信総合研究所大会議室
 講演題目
   1. 標準周波数・時刻の現状と将来
     (講演者:吉村標準測定部長)
   2. 宇宙通信の歩みと将来
     (講演者:手代木鹿島宇宙通信センター長)
 聴講無料、申込み不要