生物の情報機構を探る

上 瀧  實

  

生物と情報

 地球上に存在する全ての生物は、変化する外界の 環境を敏感に感知し、その状況を判断し、適切な行 動をとることで、自己の存続と子孫の繁栄を図って いる。つまり、生物は情報受容・処理、エネルギー 変換、運動など極めて多様な機能をもつ機械であ り、どの部分においても情報の伝達・変換・処理が 停滞しては、もはやその生物の滅亡は免れない。こ のような複雑なシステムを巧みに制御して、全体と して統一調和のとれた働きをもたせるために、中心 的役割を担っているのが情報である。即ち、生物は 超精密な分子情報機械といえる。しかもこの生物機 械は、従来の機械と異なり、その構成要素(高分 子、細胞など)が常に代謝を受けて更新され、かつ 自分の役割を把握し、自分自身を造りかえる特徴を もっている。

 この状況を粘菌の生活環を用いて観察してみる。 図1に示すように、粘菌は餌が充分あるときは、そ れぞれ独立して捕食、増殖を行っている。しかし、 飢餓状態になると個々のアメーバは相互に情報を交 換しながら集まりはじめ、ついに集合体(移動体) を形成する。移動体を構成している細胞は、元々の アメーバの出所に係わらず、自身の置かれている場 所によって、それぞれ頭、胴体、尻尾などの役割を 演じる。つまり移動体の中で情報をやり取りし、全 体の中における自分の役割を適切に演じるのであ る。さらに、移動体は子実体を形成し、ある時点か ら、不可逆的に胞子の形成過程に突入する。ある細 胞は胞子となり、また別の細胞は茎や根となるよ う、細胞の分化が行われる。ここにも細胞間での情 報交換が重要な役割をしている。このように、生物 の生存にとって情報通信は中心的役割をもつことが 理解できる。

図1 粘菌の生活環

  

生物はハイテクの宝庫

 生物を分子情報機械と見なし、機能の集積度の観 点から従来の機器と比較すると、図2のように現在 の最先端技術であるVLSIよりも、更に6〜8桁も 機能密度が高いことが分かる。また、体内には多数 の酵素による反応系、種々の物質と選択的に反応す る分子認識機能などがあり、生体は高感度な機器と みなすことができる。さらに、人間は100W程度の エネルギー消費量で多彩な活動を行っていることか らも、エネルギー変換効率が極めて高いことが理解 される。これらに加え、システムとして生物を見た とき、壊れたところを自分で修理する「自己修復機 能」、全体が最も望ましい状態になるように自分自 身を作って行く「自己組織化機能」など、従来の機 械に無い極めて優れた特徴がある。

図2 機能集積度比べ

 生体素子のなかにはバイオエレクトロニクス素子 として利用が可能と考えられるものが多数ある。例 えば、光合成系や光感受性のタンパク質によるプロ トンの能動的な輸送機能をスイッチ素子として利用 するもの、酸化と還元状態で電気抵抗106Opも異 なるタンパク質や酵素を用いた記憶素子、光応答分 子やレセプタを利用した入出力素子など多くの生体 高分子などがある。また、持定のDNA配列を読み 出すDNAプロープの開発に伴って、外部記憶媒体 としてDNAの利用も考えられよう。

 このように、生物はハイテクの宝庫であり、生物 の優れた機能に学んだり真似ることによって、従来 の機器と全く質の異なった、情報通信技術の開発が 期待されている。

 更に、電子通信技術は装置の微小化、高集積度化 に向けて発展してきたが、最近こうした微細加工技 術や集積技術に物理的限界が見られるようになり、 単に高集積化や高速化を追い求めるだけでなく、機 能の面や概念そのものの新規性の追求が期待されて いる。

  

生物機能の計測

 生物に学び、新たな情報素子、情報システムの開 発を行うためには、まず生物の巧妙な情報機構をあ りのままの状態で計測することが必要である。この ためには生体に優しい計測手法の開発が必須であ る。ここでは、最近注目されている二つの計測技術 を紹介する。

 (1) 3次元光学計測

 観測するために試料を真空中に置かなければなら ない電子顕微鏡や電子線やX線を利用した計測技術 は試料にダメージを与える破壊計測法である。それ に比ベ、光学顕微鏡は非破壊的観察浅で生体の計測 に欠かせないものである。光学顕微鏡は基本的に2 次元空間分布の計測機器で、薄くスライスされた切 片や表面の微細構造を、できるかぎり高画質に写し 出すように設計されている。しかし、厚みのある生 物試料のように、薄い切片にスライスすることな く、非破壊でその内部を観察したい場合、3次元計 測技術が必要となる。これには図3に示すように、 二つの有力な方法がある。第1は、深さ方向の分解 能を高めて、通常の2次元像を作り、順次焦点面を 深さ方向にずらしながら多数の2次元像を得て、そ れらを重ねて3次元像を合成する方法である。第2 は医療分野で確立されたX線CTと同様の原理で、 見る方向を変えた多数の像から、3次元像を合成す る方法である。

図3 三次元光学計測の原理図

 従来の顕微鏡が肉眼やカメラによって、直接像を 観察していたのに対して、これら3次元情報を取得 するために、レーザ技術とコンピュータ画像処理技 術の導入が必須となっている。コンピュータを用い た映像形成技術は走査方式の導入に特徴がある。目 で見るように1度に像を観察するのでなく、試料ス テージを走査するか、ビームを振って、各画素から の情報を順に検出・記録し、目的とする画像の合成 を行っている。

 (2) 近接場走査型顕微鏡

 生体物性の計測に大きな可能性をもっているもの に近接場走査型顕微鏡がある。この動作原理を近年 注目されている、走査型トンネル顕微鏡(STM)で 紹介する。探針の先端を試料の表面から1nm程度 へ近づけ、探針の先端と試料の間に電圧をかける と、トンネル電流が流れる。電流量は探針の先端と 試料の間隔に依存し、対数的に低下する。探針を試 科の表面に沿って動かし、同一の電流が流れるよう に探針を走査し、探針の位置を求めることにより、 分解能が1〜2オングストロームの精度で試料の表 面の原子構造が得られる。探針としてマイクロピペ ットを利用すれば生体膜表面でのイオンの移動を測 定できる可能性がある。探針を工夫することによ り、有機溶液中での分子の挙動の観察、高分子や生 体膜などの構造や機能の原子・分子レベルでの解明 など生体関連の極めて魅力的な計測技術の開発が期 待される。さらに、この技術は計測だけでなく、高 分子ひとつひとつを自在に並べる道具として、バイ オ素子・分子素子の合成に大きな威力を発揮するで あろう。

  

おわりに

 生命体の特徴は、階層性(分子−細胞−組織−器 官−個体−社会)、恒常性、多重フィードバック制 御、非線形性など従来の物理法則で扱える物性と全 く質的に異なっている。ある階層の機能は、それよ り下位の機能に還元できるといった、近代科学を支 えてきた要素還元論は、生命体では成り立たない。

 我々は、このような特徴をもつ生命体に情報とい う切口で肉薄していきたい。具体的には、情報変 換、認識機能などをもつ生体高分子の特性を解明 し、バイオ素子の開発を目指すこと、および高分子 −細胞−組織レベルでの情報の流れと役割を明らか にし、生命体の柔軟で巧妙な情報機構に学んだ、シ ステムの創造につなげていきたい。そのために、生 体の機能を非破壊的に計測する技術の確立が急務で ある。我々の得意とする、光(レーザ)、コンピュー タを基礎技術として、ミクロの世界で織りなす生命 現象を机上に再現して見せることを目指している。

(電波応用部 電磁波利用研究室長)


5年半のCCIR勤務とジュネーブの生活(1)

高杉 敏男

  

はじめに

 昭和60年2月から平成2年8月末まで5年半の長 期にわたり、スイス・ジュネーブにある国際電気通 信連合、国際無線通信諮問委員会(以後ITU、CCIR) に専門事務局参事官として勤務する機会を得 た。CCIRにおける仕事の内容とジュネーブの生活 を通じて感じた色々の事柄を2回に分けて述べてみ たい。

 筆者が勤務した昭和60年から5年間は、世界に とって激動の年であった。昭和60年11月、ITUビル の隣にあるジュネーブ国際会議場で開催されたレー ガン、ゴルバチョフ会談はその序幕であり、東欧諸 国の体制崩壊、ベルリンの壁の崩壊からドイツ統一 へとつながり、国内にあっても、昭和から平成へ、 新しい時代の幕開けとも重なった。この時期、ITU ではバトラー事務総局長によるITU各部局の組織 の見直しのもとに、CCIRとCCITT(国際電信電話 諮問委員会)とを合併させ、各国の要請に適合し た、より迅速な対応ができるよう、改革が求められ ていた。これは、昭和61年ドウブロブニックで開催 された第16回CCIR総会において、勧告促進手続 及びハイビジョン関係の勧告を承認できなかった CCIRの旧態依然の体制に総局長が危機感を持った 以上に、彼自身がカービー委員長とウマが合わず、 CCIRの運用権を自分に戻そうと言う意図に起因し ていると言われている。

 さて、これら2つの委員会、CCIRとCCITTの 合併は平成2年のCCIR総会では認められなかった ものの、ITU全権委員会会議では、平成6年までに 通常予算の15%まで予算を減らし、同時により効率 的運用を心がけるよう決議した。この決議に従って CCIRでは、組織、作業方法の見直しを行い、電気 通信の世界標準に関し、地域標準機関との調和を求 めながら、より指導的立場を明確にした所掌を採録 した。

  

CCIRの組織

 一方、CCIR内部でも組織改正が進められてい る。に、現在CCIRが推し進めようとしている 内部の組織構成を示す。技術部Aではすでにポスト aが凍結されており、平成3年もそのままである。 技術部Cの私のポストcは、平成2年の管理理事会 で廃止が決まっている。技術部Bの現在ソ連が占め ているポストbも、彼の契約が切れる平成4年末 で、凍結、または、廃止を予定している。また、編 集部門を担当している技術部Dも、徐々に事務総局 に吸収させようとしている。この人員削減とポスト の廃止は、予算削減の一環として実施 されつつあり、CCIRの内部組織の変 更も、CCIRが行いつつあるSG(研究 グループ)の再編成と一致している。 このように近い将来、各技術部は1部 長、1参事官及び数人の秘書の構成に 縮少させる事を進めており、また、委 員長直属のCCIR事務局をより充実さ せるために、技術部Bの部長を長にし た事務局を作り上げ、同時に、技術部 を2部にする考え方も示されている。 これらの点に関してCCIR内でかなりの論議を呼ん だが、我々の意見は無視され進行中である。

図 CCIRの組織

  

職 務

 さて、筆者の職名はカンセラーという呼び名で、 日本語では参事官と訳され、CCIR委員長に代わっ て、いくつかのSGに関して全責任を負う重要なポ ストである。ITU職員のポストは大別すると、事務 職のGクラス、専門職のPクラス、及び、部長職の Dクラスから成り立っている。Gクラスは更に七つ の等級、Pは五つの等級、DはITUでは一つの等 級のみで細分化されている。各等級はステップと呼 ばれる10段階ほどの号俸からなり、毎年1号俸上が る。IFRB委員のような九つの選挙ポストは最高の 職員ポストより更に高い地位に位置付けされてい る。筆者のポストはP5で、部長Dに次いで、職員 として上位2番目であった。このP5以上の職員に 対しては、外交官と同様の身分の保証と特権が与え られ、自動車のプレートと番号も一般と異なってい た。研究所からは、室長経験者からの派遣が仕事の 内容からして適当と思える。また、Dポストは部長 経験者に相当する。

 筆者の責務を要約すると次のように大別できる。
(1) SG3(平成2年のCCIR総会で終結)とSG9に  関するすべての項目、及び、SG4/9への貢献。
(2) それらの会議への出席と議長への協力。
(3) SG3、9及び4/9テキストの作成。
(4) CCIRとCCITT間の技術連絡。
(5) ITU機関紙への投稿論文の査読。

 このうち、(1)及び(2)が最も神経を使う責務で、こ のために、事務局で仕事をしていると考えてよい。 会議前は寄与文書の査読、登録、会議中は会議に出 席、議長への支援、会議後は文書の整理、発行が待 ちかまえている。特に、会議中は、毎夜9時、10時 まで文書の整理、翌日への準備に追われる(詳細な 仕事の内容は、季報Vol.34、No173を参照)。

  

CCIRの印象

 CCIRで働いてみて、仕事をする上で最も不備な 点と思われた事は、個室主義、個人主義から生じる 情報の閉鎖である。IWPへ出席した職員の会議報告 は、上には伝わるが、下、横には伝わらない。この 情報の閉鎖は、CCIRばかりでなく、ITU全体に言 える事ではあるが、この仕事がCCIRが今、直面し ている問題の中で、どう位置づけられるか、いちば ん先に何をすべきか、判断をする背景を持たない事 になり、効率的、能率的仕事を処理する事を不可能 にしている。ITUの総予算、各部局への割当、内部 で最高の議決ができる調整委員会での決定など、背 景として職員に周知させるべき情報は幾らでもある ように思われる。誰も知ろうとしないし、教えよう ともしない。これが習慣のようである。

 また、各自が責務を越えて仕事を発展させる事は ないように見える。仕事の方法について、改善を提 言する訳でもない。命ぜられた仕事で可能性のある 解が3通り得られたとしても、自分から最も適切な 解を示すわけではなく、上に判断を任せてしまう。 仕事の改善や判断は、9人の執行者、及び、主管庁 の役割と割り切っている。この9人も下からの意見 を、聞く耳持たぬというふうにも思える。

 この様に、各自は、各責務を通じてITUの運営 に参加し、ITUを更に、発展させようとする意欲が 欠如しているように見える。これは、ITU方式が徐 々に職員の仕事への意欲を無くす方向に作用してい る結果と思える。職員は他より高収入、故に多少面 白くなくても現在の仕事にしがみつき、定時まで職 場におり、帰宅後の趣味やバカンスの計画に人生を 見いだしている職員を多く見る。各部局長は彼らを 働かすために、契約更新停止を武器に彼らの尻をた たき、職員は職員で、一度永久契約を手にいれた時 点で、適当に働き始める状態である。東欧諸国が一 人の独裁者に全ての決定を委ねた結果の崩壊であ り、ITUと同様に広く米国、西欧諸国で採用されて いる数人の執行者による決定方式も組織が大きくな るに従って、そろそろ、無理が生じてきたように思 える。仕事の環境を別にすれば、組織として仕事に 取り組み、決定する日本で行っている方式が、対象 が大きくなればなるほど必要になってくるように思 えるのである。

(企画調査部 国際協力調査室長)


≪外国出張≫

シドニーにて

若菜 弘充

 平成元年6月から1年間、オーストラリアはシド ニーのオーサット社に滞在した。同社は政府が75 %、テレコムオーストラリアが25%を出資して設立 された会社で国内の衛星通信サービスを提供してい る。最近ではオーストラリアでも国営企業の民営化 が取りざたされ、このオーサットも近いうち私企業 になる。オーストラリアでは1992年から移動体衛星 通信が実用段階にはいる。このため当所とオーサッ ト間では日豪科学技術協力協定に基づいてETS-X を用いた移動体衛星通信の共同実験を行っている。 筆者はこの共同実験に参加すると共に通信装置を評 価するためのフェージングシミュレータの製作と実 験に従事した。オーサットでは、将来のユーザを開 拓するために、セミナーやデモンストレーションが 頻繁に開かれた。ユーザは遠距離トラック等の陸上 輸送事業者のほか、フライングドクターと呼ばれる 遠隔地医療機関、水位監視などのデータ収集と遠隔 制御、緊急災害通信の機関がある。

 オーストラリアは日本人観光客に最も人気のある 国で、シドニー市内どこへ行っても日本人に出合 う。ワーキングホリデイで渡豪し働いている日本人 の若者達にも数多く出合った。日本の若者もがん ばっているなあという思いと若いうちに海外で貴重 な経験ができることをうらやましく思った。息子に は是非とも経験させたいものだと今から熱望してい るのだが…。オーサットビルはシドニーのビジネス 街の中心に位置し、世界の三大美港の一つであるシ ドニー湾をのぞむ。昼間は観光客とビジネスマンと 狭い道路とで雑然とした感じだが、しばらく歩くと 湾に向かって開けた風景に出会いほっと息がつけ る。このシドニー湾の夕暮れは格別美しい。住まい は南太平洋最大の歓楽街であるキングクロスの近く にあった。客引きのおにいさんや街角に立つおねえ さん、薬で千鳥足の危なげな人、楽器を奏でる人、 そんな風景にもすっかり慣れ、そんな人達を眺めて 歩くだけでも楽しい。ただシドニーは一般的に治安 がよいと言われているのだが、この町は別である。 昼間は無害な観光客が大勢歩いているので安全な町 だが、地元の人は夜には近寄らない方がよいと言っ ている。筆者はビデオカメラやパスポートの盗難に あったり、車のキーホールが壊されるなどの事件に 巻き込まれたが、以来何が起こってもあまり驚かな くなり精神的にはずいぶん鍛えられた。今ではそれ も思い出の中の重要な1コマとなっている。

 日本と比べると産業をはじめすべてがオープ ンである。店には諸外国の製品があふれ、オー ストラリア製を見つけるのが難しい。様々な人 種の人たちが住み、100以上の言語が話され、 マルチカルチャを形成している。そのため、町 には数多くのエスニックなレストランがあり、 それらを食べ歩くのがわが家の最大の楽しみで あった。最後に貴重な経験の機会を与えて下 さった関係各位に感謝致します。

(関東支所 鹿島宇宙通信センター 第二宇宙通信研究室 主任研究官)

シドニーの夜景


≪外国出張≫

ドイツでの1年間

國 武  学

 科学技術庁長期在外研究員として、平成元年9月か ら1年間、ドイツ連邦共和国のマックスプランク研 究所にて、「ISレーダによる極域電離圏の研究」を 行う機会にめぐまれた。

 最近、地球周囲の大気環境に、強い関心が寄せら れている。宇宙利用が進むにしたがい、より高い高 度までの深い理解が、必要となってくる。

 私が研究対象とした電離圏は、下方で中間圏、上 方で磁気圏と接する領域である。各圏の間には、エ ネルギーの流入・流出などがあるため、大気のふる まいを考える場合、各圏間のカップリング(相互作 用)も取り入れるのが最近の研究の傾向である。極 域電離圏には、磁気圏からは、オーロラ現象をはじ めとするエネルギーや物質の流入があり、下方から は、大気潮汐波や内部重力波が伝わってくる。その ため、カップリングが重要になってくる。私は、こ の領域における中性風の基本成分(半日、又は一日 周期変動、平均風)、及びそこからの変移を、カッ プリングを考慮に入れて、研究を行った。

 ISレーダは、電離圏の大気の動きを常時観測す る事にも威力を発揮する。EISCAT(European Incoherent Scatter:ISレーダ)は、独、英、仏、 ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの6か国 協力のもとに運営されている(写真参照)。幸い、 1984〜90年にわたる大量のデータを解析することが できたため、中性風の季節変動特性や磁気圏の影響 の現われかた等、数多くの成果を得ることができ た。

 指導して下さったシュレーゲル博士の公私にわた る助言や配慮が、私の滞在を実り多きものとした大 きな要因となっている。かぜで寝込んだ時に、博士 みずから食料を届けて下さった事など、私の心に感 謝の思いとともに深く刻まれている。

 私が滞在したマックスプランク超高層物理学研究 所は、大学都市ゲッティンゲンの郊外にある。周囲 は牧草地、街道にはリンゴの樹々、遠くまで続く丘 陵という自然環境抜群の地である。多くの国(欧州 諸国のみならず、インド、中国、チリ、ニュージー ランド、米国等)から、研究者が訪れ、滞在してい た。昼食時やコーヒーブレーク等に実に様々な人と 話をしたものである。

 一年の間に、国際学会で発表する機会や、大学・ 研究所を訪問する機会に恵まれた。それらの経験を 通して、コミュニケーションの重要性を実感した。 論文や口頭による発表はもちろんのこととし て、手紙、電子メール、ファクシミリを活用し て(機会があれば、直接会って)、知るのみな らず、知らせることを心掛けるようになった。 今後も、滞在中に培ったものを大切にし、さら に発展させたいと思っている。

 最後になりましたが、貴重な機会を与えて下 さった科学技術庁及び郵政省の関係者の方々 に、深く感謝いたします。

(電波部 電磁圏伝搬研究室 主任研究官)

EISCATレーダ


短 信

ジャーナル衣替え

 Journal of the Communications Research Laboratory (研究所英文機関誌)が7月・11月合併号から衣 替えをする。その目的は、当研究所の研究活動を広く海 外に紹介する紙面に充実することにある。

 ジャーナルは英文論文誌としてこれまで編集・発行し てきたが、これからは、これまでの研究論文掲載に加え 新たに研究活動紹介欄を設け、研究所が目指している方 向や研究の進捗状況等を紹介していく他、研究成果も ジャーナル以外に発表した内容やリストを掲載し紹介し ていくことにしている。また、巻頭言を新設し、所長等 からの世界に向けたメッセージを掲載することにした。

 ジャーナルは現在56か国、411の研究所・大学等に送 付されており、この度の紙面刷新で研究活動の国際交流 と人類の科学技術発展に少しでも寄与できることを願っ ている。今後ともジャーナルへのご支援をよろしくお願 いする。