年頭に当たって


所長 畚野信義

 新年明けましておめでとうございます。

 昨年は私達の研究所が長い歴史を持ち、その年月 の間に積み重ねられた多くの先輩たちの努力と実績 のうえに今日があることを改めて感じさせられた年 でした。

 まず、1月30日は標準電波の50周年記念日でし た。この日に行われた講演会では標準電波の開始に 尽力された網島さん、研究の発展に貢献された宮 島、佐分利両先輩などからお話をうかがいました。 標準電波は今日益々重要性を増し、標準周波数ばか りでなく、我が国の標準時刻も定め、放送していま す。周波数の精度を向上させるための努力の中か ら、今日の電気通信フロンティアにいたる様々な研 究のシーズや成果が生まれて来ました。

 次いで、3月には鹿島支所発足25周年記念の催し が二日間にわたって行われました。史上初めて静止 衛星を使って東京オリンピックの実況を世界中に送 ることで華々しく出発した鹿島は、以後も我が国の 衛星通信・放送技術の開発に先導的な役割を果して 来ました。またVLBIの成果は鹿島の名を世界に高 めました。初日の記念式典では当時の所長の上田さ んの挨拶を初代支所長の尾上さんが代読され、栗原 さんのお話をききました。鹿島設立の際のいろいろ なエピソードが紹介され、最近の関西支所のことも あり、30年経ても新しく感じられました。翌日は鹿 島町の小学生、中学生を対象に、宇宙飛行士の毛利 さんの講演、子供宇宙質問教室、宇宙食のくじ引き などで盛り上がりました。この催しは、企画から当 日の進行まで、すべて鹿島の所員だけで行ったもの でした。出来栄えは素晴らしく、次の世代を担う子 供達に宇宙への夢と興味をという思いは、鹿島の子 供達に届いたと思います。

 今年は、平磯に電波観測所が設置されてから75年 になります。また、私達の研究所の最大のルーツで ある、逓信省電気試験所の創立から100年となり、 電子技術総合研究所で記念行事が行われます。電気 試験所に無線電信研究部が設置されたのが1896年 (マルコーニが初めて電波で通信に成功した翌年)。 1996年には我が国の電波研究100年を当所で祝いた いと、計画を練りつつあります。

 鹿島、平磯両支所は平成元年の関西支所発足と共 に、関東支所鹿島宇宙通信センター、平磯宇宙環境 センターとなりましたが、そのときからの懸案で あった、21世紀へ向かっての関東支所の研究体制の 整備を、平成3年度に行うことが出来ることになり ました。

 鹿島センターは地球環境計測研究室、宇宙通信技 術研究室、宇宙電波応用研究室、宇宙制御技術研究 室の4研究室からなります。このうち宇宙制御技術 研究室は、もとの衛星管制課の研究部分を再編する もので、これからの宇宙の有人時代に重要な、大型 構造物の制御、飛翔体の相互関係、宇宙デブリ等に ついての先行的な研究を行うことを期待されており ます。他の3研究室は従来からの研究を継続、発展 させてゆくものですが、4分の1世紀の歴史を踏ま え、これをひとつのTurning Pointとして、新た な展望を持って気分を一新し、今後の研究を進める ことを期待しております。

 平磯センターは、宇宙天気予報と関連の研究の中 心的役割を担うため、太陽研究室、宇宙環境研究 室、宇宙天気予報課から構成され、秋田電波観測所 を吸収統合し、観測施設、庁舎などの整備も行うこ ととなりました。これは、電離層観測、電波予警報 に関する検討結果(通称新野/松浦報告書)実施の ひとつのステップであります。この際明確にしてお きたいことは、今回の秋田電波観測所の廃止は、上 記報告書に沿い、技術の進歩、通信における短波の 役割の変化、これらに関する世界的趨勢、各種の実 験のための立地条件、当所の要員事情などを多角 的、総合的に慎重に検討、考慮した結果、今回秋田 と平磯についてこの結論に達したものであり、安易 にスクラップアンドビルドをしようとするものでは ないと言うことであります。電離層定常観測のデー タは、地球環境の重要な資料であり、この記録を残 すことは国立研究機関としての当所の重要な役目の ひとつであります。

 関西支所(関西先端研究センター)には、生体物 性研究室、生物情報研究室の設置が認められまし た。特に、電気通信フロンティアプロジェクトに4 名の増員と生体物性・情報関係の研究の開始が認め られたのは、大きな朗報でした。今年夏の新庁舎完 成と共に8研究室が勢揃いすることとなり、8〜10 研究室、約60人の態勢を目指す第1期計画達成は目 前となりました。交通、宿舎、生活環境などの懸案 の改善に努力すると共に、研究環境の充実に今後も 力を注ぎたいと考えております。

 電気通信フロンティアプロジェクトは3年目に入 り、最近世界的にも誇れる成果が出始めました。一 方その予算規模も来年度は全体(本省分を含め)で 5億円の大台に乗り、とかく掛声だけと批判されが ちな我が国の基礎研究の中で、郵政省が電気通信分 野において先端研究に力を入れつつある証拠とし て、広く認知、評価を受けられるものに成長して来 ました。関係の方々のご理解、ご尽力に感謝すると 共に、郵政省の電気通信分野における基礎研究推進 の意欲を示す代表プロジェクトとして今後とも発 展、充実して行くことを期するものです。関西支所 についても、規模100名の第2期、さらに将来の第 2研究所という目標に向かって努力を続けて行きた いと考えております。

 当所が新しい研究所として生まれ変わるために不 可欠な、インフラストラクチャーの重要な要素の一 つとして管理部門の見直しを行って来ました。総 務、支援、企画部門の所員の努力の結果、昨年度末 報告書が提出され、これに沿って実施して来まし た。この目的は大きく分けて、事務手続きの簡素・ 効率化、OA化、サービスの向上、などであります。 サービスの向上、OA化では経費的な制約はありま すが、着実に実施され、多くの成果があったこと は、所員全員が実感していることと思います。今後 も資金の許す限りこの方向に進めたいと思っていま す。一方、事務手続き、文書などの簡素化について は、所内だけで解決出来ない部分もあり、期待ほど には効果が上がっていない様に思われます。しかし ながら、今後の要員事情などを考えれば、この省力 化は最も重要であります。今年はこの点について更 に努力を行いたいと考えております。所員全員の積 極的な協力、参加を期待します。

 昨年当所にとってのもうひとつの大きな出来事 は、型式検定任意検定機種の試験業務の民間(無線 検査検定協会)への移管とGMDSS(新しい捜索救難 システム)関連機種の検定導入開始でした。前者に ついては、何年か前から本省をはじめ各方面と検 討、調整を進めていましたが、様々な事情でなかな か進まず、昨年やっと実施に漕ぎつけたもので、後 者と時期が一緒になり、担当の部署には大変な負担 をかけましたが、この移管がなければGMDSS導入 はお手上げになっていたと思われます。今後、研究 所は新しい機種の試験基準の確立、既存の機種の基 準の改良、関連の研究に力を注ぐことにしたいと考 えております。今年は、幾つかの問題、困難があり ますが、義務検定機種についても試験業務の移管を 実現するべく努力する考えであります。

 昨年のはじめ、私は各研究室・課を半日程度ずつ 訪れることを約束しました。それぞれの課・室の希 望と可能なスケジュールに従って午前あるいは午後 に2−3時間、不満や意見を聞いたり、反論した り、私の考えを述べたり、どの部屋でも気楽に、 ざっくばらんに話し合うことができたと思っていま す(私だけが勝手にそう思っているだけだという声 があるかも分かりませんが)。なかには、午後4時 頃から始めて、5時過ぎると一杯飲みながら夜遅く までがんばったところもあります。勿論、こんな程 度のことで若い人達に、私の考えが理解してもらえ たとか、ましてや影響を与えることができたなどと 自惚れていません。ただ、私は研究所は所長と所員 が対等に議論し合うことができるところであること が必要だと考えています。このような努力を続ける ことでそのような習慣がだんだんとできて来ること を願っています。次は、一人ひとりと15−20分話し 合うのはどうかと思っています。私が研究の中長期 計画の討論を敢えてサバイバルゲームだとかタタキ合 いだとか言うのは同じような趣旨からです。単に研 究所の将来計画の決定に多くの所員が参加するばか りでなく、そのような過程を通して、国際的にも通 用する逞しい研究者が育つことになればと願うもの です。

 年末に内示された来年度の予算案は満点とさえ思 えるものとなっています。その中でひとつ私が問題 視していることがあります。現在研究者の学会出張 旅費は単価(名古屋へ行ける程度)に係数(1/2、 一部2/3)が掛かったものとなっています。自分の 研究成果を他の研究者に披瀝し、批判を受け、切磋 琢磨することは、研究へのインセンティブを与える ために最も大事なものであります。このための学会 出席が2年に一回で良いとするに等しい現在の基準 は時代遅れで不適当と言わざるを得ません。直研連 (各省直轄研究所長連絡協議会)では昨年このこ とを取り上げ、科学技術庁の賛同を得、各省庁足 並みを揃えて、係数を1として予算要求を行いま したが、認められるに至りませんでした。直研連 の力の弱さを痛感すると共に、「科学技術研究振 興、基礎研究重視と賑やかな掛声ばかりで、実態 が伴わない」と批判の多い我が国の現状を改めて 痛感致しました。これは単に金額ではなく、研究 に対する国の認識、姿勢という重大な問題であると 深刻に受け止めております。今後とも理解を得るべ く各方面に働きかけるなど努力を続けて行くつもり であります。我が国の科学技術研究の現状はまだま だお寒いものと言わざるを得ません。例えば研究費 についても、国の負担割合が20%に満たない、とい う、先進国のなかでも格段に劣る状況が、改善され るどころか最近ますます悪くなりつつあります。研 究とは「人」と「金」と「時間」を基本パラメータ とする関数であると私は考えております。

 「人」についても、アメリカなどの国立の研究機 関は日本のそれより一桁も規模の大きいのが普通で あります。そのうえに我が国では公務員の計画削減 が研究職にもかけられ、どんどん減っているのが現 状であります。定員削減の第7次5ヶ年計画は平成 3年度に終了し、おそらくは第8次が計画されるこ とと思われます。

 私は来年度「直研連」の代表幹事に就任すること を求められ、受けることに致しました。事務局の機 能などかなりな負担が予想されますが、この機会に 我が国の国立研究機関の現状とあるべき姿について 強く関係機関や国民の皆さんに訴え、理解を得るよ う努力したいと考えております。




レ ク テ ナ


伊藤 猛男

  

レクテナとは
 耳慣れない言葉かも知れないが、レクテナ (Rectenna)は、Rectifying Antenna(整流アンテナ) の下線部を組み合わせたものであり、マイクロ波送 電における受電用アンテナのことである。レクテナ は、アンテナと整流用ダイオードで構成されてお り、マイクロ波から直接に直流電力を取り出すこと が出来る。通常は、ダイポールやマイクロストリッ プ等を用いたレクテナ素子を複数個組み合わせたレ クテナアレーとして動作させる。レクテナアレーの 出力合成は直流で行われるため、その指向性は素子 アンテナの指向性と同じになる。
 レクテナの歴史は比較的古く、1950年代後半か ら、アメリカにおいて半波長ダイポールアンテナを 用いたレクテナの研究が盛んに行われるようになっ た。1963年には28素子の半波長ダイポールを用いた レクテナが作られ、この出力電力は、7Wで40%の 変換効率が得られている。このレクテナが、世界で 最初のもののようである(図1)。


図1 初期のレクテナ
 縦の針状の物が、それぞれ半波長ダイポールアンテナで、
その根元のところにそれぞれ整流出力ダイオードが付いて
いる。また、横の4本の線は、直流出力ラインである。
(W. C. Brown “The History of Power Transmission
by Radio Waves” IEEE Tras. VOL.
MTT-32, No. 9, 1984)

 1968年にアメリカのグレーザーが、SPS(宇宙太 陽発電所)システムについての提案を行い、これに 関連したレクテナの研究が盛んに行われた。1980年 に発表されたSPS計画の概念設計によれば、SPS に用いられるレクテナの特性として出力電力5GW 以上、変換効率88%が要求されている。しかし、 この計画は1980年代初頭のエネルギー需要の好転か ら棚上げにされ、このためレクテナ開発の気運も下 火となった。
 1980年代半ばからのレクテナの研究の目的は、飛 翔体を長時間にわたって空中に滞留させるための工 ネルギー供給に移った。カナダのCRCにおいては、 広域放送等を目的とするSHARP計画(Stationary High Altitude Relay Platform)、アメリカの NASAにおいては大気中の炭酸ガス等の観測を目的 とするCO-OPS計画(CO2 Observation Platform System)が立案され、これに必要なレクテナの検討 が行われた。1987年に至り、カナダCRCがマイク ロ波で伝送された電力を用いて模型飛行機を飛行さ せたことは記憶に新しい。我が国においては、当所 が中心となり1989年から10年計画で、市街地を中心 とした移動無線通信、放送、監視等を目的とする成 層圏無線中継システムの研究開発を開始し、その一 環としてレクテナの研究に着手した。
 なお、東北大学、北海道大学、早稲田大学におい ても、SPSを想定したレクテナの研究が行われてお り、特に東北大学においては飛翔体への送電を意識 した検討がなされている。
 これら三つの計画は、いずれも高度約20qの成 層圏内にマイクロ波で伝送される電力によって駆動 される無人飛行機を滞留させようとするものであ り、いずれの場合にもレクテナに要求される条件は 基本的に同じものである。すなわち、レクテナの条 件として(1)マイクロ波−直流変換効率が高いこと、 (2)軽く、小さく、薄いとこ、(3)高調波の再放射電 力が小さいこと、(4)成層圏の環境に耐えることな どが要求される。
  

CRLにおけるレクテナ開発の現状
 

(A) 特性について
 当所においては、現在前記四つの条件を満足する レクテナの開発を進めている。アンテナ素子とし て、比較的安易に円偏波が得られる円型マイクロス トリップアンテナを使用し、薄型化についての要求 に応えている。以下に、それぞれの要求条件に対す る開発状況について述べる。
 (1)レクテナのマイクロ波−直流変換効率は、原 理的には100%が可能である。しかし、(ア)ダイオ ードの内部抵抗による損矢、(イ)回路インピーダン スの不整合による損失、(ウ)フィルタ回路における 損失、(エ)アンテナにおける損失等のために実際の レクテナの変換効率は低下する。当所で開発したレ クテナの整流部の変換効率は、現在のところ約67 %である。しかしこの値は整流回路の最適化や部品 の選択により、70%以上に改善できる見通しがあ る。なお、効率の低下は、ダイオードの特性による ところが大きい。(2)現在はレクテナの基礎開発の 段階であるため、実験には通常のテフロン基板を用 いたマイクロストリップアンテナを使用している。 基本的な方式が固まった時点で誘電体フィルムの使 用等、軽量化のための検討が必要である。
(3)ダイオードは、非線形の特性を持っているた め、レクテナにおいては受信されたマイクロ波の高 調波が発生する。レクテナに到来するマイクロ波の レベルは高いため、高調波もかなり大きくなるもの と予想される。このような高調波がレクテナから再 放射されると、他の通信等に悪影響を及ぼす恐れが ある。そこでレクテナには、図2に示すような入出 力フィルタを設け、高調波の再放射を抑制してい る。入力フィルタは、レクテナの整流用ダイオード で発生した高調波がアンテナから空間へ再放射され るのを防ぐための高調波遮断用フィルタである。一 方、出力フィルタは、ダイオードで発生した高調波 を負荷側に出力させないためのものである。試作し たレクテナ整流回路における第2高調波のレベル は、入力基本波に対して-48dBであり、より高次 の高調波のレベルはこの値より十分小さい。第2高 調波のレベルは回路の最適設計や部品の選択により 更に低下させることが可能である。(4)温度(-60 度以下になる)、オゾン、放射線等がレクテナの構 造体やダイオードに影響を及ぼすことが考えられ る。これらについて検討を継続する必要がある。


図2 レクテナの一般的なブロック図

(B) 具体的構造
 現在開発を進めているレクテナの構造を図3に示 す。アンテナ素子として円型マイクロストリップ アンテナを採用し、給電回路に平行ラインを用いて ダイオード、フィルタを同一面内に構成できる方式 をとっている。アンテナと回路の結合方式として導 線を用いて結合させるピン結合タイプと導線を使用 しない電磁結合タイプがあるが、それぞれに長所、 短所を持っているので両者の比較を行っている段階 である。


図3 当所で開発中のレクテナの構造例

 以上、レクテナについて簡単に紹介した。レクテ ナの開発は、緒についたばかりであり、今後解決す べき課題は、山積みしている。これらのうち、最も 重要なものがレクテナの軽量化および高効率化であ る。更に、高調波レベルの抑圧と成層圏環境への適 応の課題が重要である。これらの課題を着実に解決 し、良好な特性を持つレクテナの開発を行うことに よって成層圏無線中継システムの実現に貢献したい と考えている。
 所内外のご支援をお願いする次第である。

(通信技術部 通信装置研究室 研究官)




「連想」するコンピュータをめざして
〜高度な自然言語理解システム構築へのアプローチ〜


滝澤 修

  

なぜ「連想」する機械が必要なのか
 高度情報社会の実現に向けて、人間の知的な活動 を支援する技術の開発が急がれている。その中でも 機械に人間の言葉を理解させる「自然言語理解技 術」は、機械を使って大量の英語文献を日本語に翻 訳したり、あるいは会議の録音テープから議事録を 自動的に作成したり、といった応用が考えられ、実 現した場合に社会に与えるインパクトは極めて大き なものである。このような技術は最近になって注目 されるようになったわけではなく、例えば音声を認 識して文字に変換する「音声タイプライター」など は、もう間もなく実現できそうということが何十年 も昔から言われ続けてきた。それは、音を正確に識 別できる機械を作りさえすれば、誤りのない音声認 識ができると考えられてきたからである。しかし多 くの研究者の努力にもかかわらず満足できる音声認 識装置の実現は難航しており、そもそも「極めて優 れた音声認識装置」であるはずの人間の聴覚でさ え、音の識別能力に関して完全ではないことがわ かってきた。例えば「大雪のため列車のダイヤが一 日中懇談した」という無意味な文音声を聞かせる と、約50%の被験者が「懇談」を「混乱」に聞き 誤るという実験結果がある(藤崎他、音講論3-5‐ 7、1987.3)。それなのになぜ、人間は極めて少 ない認識誤りで会話を行えるのだろうか。それは、 文脈や状況を把握して意味理解をしているためと考 えられている。ではどうやって把握しているのであ ろうか。色々な手がかりを使っていると考えられて いるが、その一つとして単語間の「連想関係」が挙 げられる。前述の例の場合、下線部の音に対する単 語候補として考えられる「懇談」「根幹」「混乱」な どの中で、「大雪」「列車」「ダイヤ」から連想され るのは「混乱」だったために、音の識別結果よりも 連想関係を優先させたことによって、聞き誤りを生 じたと考えられる。このことからもわかるように、 人間と同等な意味理解を機械によって実現するため には、人間の連想機能を機械上で模擬する「連想機 構」を実現する必要がある。自然言語理解技術の飛 躍的な進歩のためには、文脈理解や状況理解を可能 にする高度な知識処理技術が不可欠なのである。
  

連想機構の実現に向けて
 現在、知的機能研究室では、音声認識システムへ 組み込むことを想定した達想機構の研究を進めてい る。音声認識システムはまず、入力した音声を音声 波形の分析によって音韻記号の列に変換する。音声 波形は同じ音韻でも前後の音の影響などによって異 なった波形になり、識別結果を特定の音韻記号とし て確定することが難しいため、複数の音韻記号を識 別結果の候補として出力する。この音韻記号列を、 電子化辞書内に登録された単語と照合する。この方 法によると一般に、同じ音の部分に多数の単語候補 が浮かび上がってくる。従来のシステムではこの多 数の候補を少数に絞り込むのに、文法情報が主とし て利用されていた。筆者らのシステムでは、この候 補の絞り込みに連想機構を併用し、すでに処理を終 了した単語から連想しやすい単語を求め、その単語 を基準にして単語候補をさらに少数に絞り込む。こ の方法によって、辞書検索の効率を上げ、認識率の 向上を図ることができる。
 現在は、音韻記号列と辞書との照合によって単語 候補の列挙を行う機構と、単語の接続を規定する構 文知識によって単語候補を絞り込む機構とについて 重点的に構築を進めている。実際のシステムは、知 識推論マシン「PSIU」上において、人工知能向き の論理型コンピュータ言語Prologを使用して構築 を進めている。に、構文知識を用いて単語候補を 絞り込む過程における画面表示の例を示す。


図 単語候補を絞り込む過程における画面表示の例

  

連想は十人十色・ファジーであいまい表現
 連想関係の検索は、連想しやすい関係からしにく い関係へという順番で進めることになるが、そのた めには、連想機構が、連想のしやすさ(連想強度) を定量的に表現する機能を持っている必要がある。 しかし連想強度は、同じ単語間であっても連想する 人によって異なる(連想主体間のあいまい性)の みならず、文脈、気分、社会的背景等によって同 じ人でも状況によって異なる(連想主体内のあいま い性)。そのため、連想強度は固定した数値ではな く、あいまいな数値で表現する必要がある。筆者ら は、あいまい性の表現法として近年注目されている 「ファジー」を用いることによって、連想強度を的 確に表現する方法の研究を進めている。
  

連想機構は自然科学と人文科学の融合技術
 連想機構を応用すると、例えば意識的に音を変歪 させて別の意味を持たせる、いわゆる「駄洒落」の 検出が機械にも可能となり、人間の情念の一つであ る「おかしみ」を工学的に扱うことができる。この ように連想機構の研究は、情報工学、言語学、心理 学等と密接に関わりあった学際的な研究で、高度な 自然言語理解システム構築のための重要な研究とし て位置づけられる。

(関西先端研究センター 知的機能研究室技官)



新年の抱負




還暦の抱負


平石 正美

 かって賀状に不惑の年を迎えたと挨拶した記憶が ある。それから20年の年輪を重ねたかと思うと、い ささかピックリする時の流れである。定年退職の時 期を覚えていても、昔風に言うなら還暦の年になっ たことを兎角忘れ勝ちの年男に、新年の抱負をと聞 かれても、適当な言葉がとんと思い浮かばない。た だ心に思うことは、在職時の思い出は追わない、残 る人生に過大な夢は追わない、焦らず一日をシッカ リ地道に使う、を信条にこれからの生活を歩んで行 こう。それこそ毎日が日曜日の身分は目前、従来の 休日ペースにプラスαの道を歩いて行こうと考え る、退職を控えた者の戯言である。



今年の期待と抱負


森 弘隆

 昨年は東欧に民主化が一気に進む一方、中東では 大きな緊張が生まれた。今年も世界は揺れ動くであ ろうが、ひつじ年にふさわしく平和な1年になるこ とを祈りたい。さて、私事になるが、私の家は国道 16号線に近く、車の騒音と排気ガスにはいつも悩ま されている。去年世界的に盛り上がった地球環境保 全への関心が、今年は身近な生活環境の改善にも向 けられることを期待したい。わが家の2人姉弟のう ち、姉の方は今年高校受験を控えて、彼女なりに緊 張の日々を送っている。私としても、彼女等の将来 に住みよい地球が残せるように、何か私にできる 「貢献策」を考えたいと思っている。



ヘソ曲がりの「新年の抱負」


相田 政則

 私は36歳の年男だそうである。余計なお世話であ る。そもそも、「抱負」とは心の中に描く計画や決 意であって、人に教えたりするものではない。した がって、正月だからといって、本音を書いたりはし ない。
 以下は、表向きの「新年の抱負」である。
・ 寛容な心で人格を高め、人間の幅を広げる。
・ 幅広い見識、豊かな教養を身につける。
・ 偏見や独善を戒め、過ちは率直に正す。
・ 責任を持って仕事に励み、社会に奉仕する。
・ 信頼できる人間関係を築き、愛情をもって育む。
・ 家庭・趣味を大切にし、心身の健康を保つ。
貴方もおひとついかがかな。



何かを見つけたい


金木 改己

 12月生まれの私は羊年の年男といわれても何かピ ンとこないものがあります(満24歳でいられるのが 9日間しかないので)。
 それにしても早いもので入所してこの4月で5年 になりますが、毎日ポワワ〜ンとただ時間だけを消 化して過ごしていただけのようでこんな生活してい るのがもったいないとよく思います。
 元々飽きっぽい性格のためかなかなか長続きする 様な趣味もなく、また、特にここ何年か熱中してやっ たこともなかったと思う。できることなら次の年男 になった時にあのころはじめたんだなあって思える 夢中になって打ち込める何かを今年は見つけたい。




短 信




ETS-Xを用いた汎太平洋情報ネットワーク実験


 太平洋域の島しょ国では衛星を用いた情報通信システ ムが要望されており、ハワイ大学のPEACESATが中心 的な活動を行っている。当所では、NASDAにより1987 年打上げられたETS-Xが太平洋域をカバーできること を利用し、日本とハワイ間での伝送実験の実施、通信シ ステムに関する基本的な検討等を目的としてハワイ大学 との間で共同研究を開始した。
 これまでに、3mのアンテナを有し、64kbpsの信号伝 送が可能な簡易地球局を、独自に2局開発し、国外の局 として1局をPEACESATに設置した。1990年11月28〜29 日、兵庫県神戸市で開催された“汎太平洋情報ネットワ ーク構想シンポジウム”においては、1局を会場に設 置、64kbpsのTV会議システムを接統して、神戸市会 場とハワイPEACESATとを結んだTV会議デモンスト レーションを行い、好評を博した。今後は1年間、当所 とPEACESATとの間で基本的なデータ伝送実験等を実施 する予定である。



技術試験衛星U型(ETS-U)「きく2号」、
惜しまれながら大往生!


 1977年2月23日に打上げられた我が国最初の静止衛星 ETS-Uは、14年近くにわたって国内外に多くの成果をも たらし、1990年12月14日に全運用が終了した。
 ETS-Uは、宇宙開発事業団により静止衛星に関する基 礎技術の習得のために打上げられたが、通信総合研究所 (当時は電波研究所)は同事業団の協力のもとに、コヒ ーレント電波(1.7GHz、11.5GHz、34.5GHz)伝搬実験や 136MHz電波伝搬特性の研究を実施してきた。コヒーレ ント電波伝搬実験は1984年8月に終了したが、その後も 136MHz電波伝搬実験は、電離圏効果の長期特性を得る ために継続されてきた。
 ここにきて、燃料の枯渇とWARC(世界無線通信主管 庁会議)79に基づく宇宙業務用周波数の制限により、 1991年1月1日以降は運用できなくなることから、残燃 料確認試験を最後に、全運用が終了された。136MHz電 波は、電離圏観測のための貴重な電波源として役立って きており、近隣諸国からも惜しまれながらの停波であっ た。