軌道工学の研究


川瀬成一郎

  

軌道工学とは?
 まだ耳なれない言葉かもしれないが、軌道工学と は宇宙空間にある衛星の動き方を調べ、それを目的 にあわせて操作するための技術体系である。補給船 が宇宙ステーションにランデヴしたり、惑星の重力 を利用して探査機を加速・方向転換させる等はその 最も華やかな例である。当所でも、衛星通信用の軌 道となっている静止軌道のいろいろな問題をきっか けとして、軌道工学への関与が深まってきている。
  

静止軌道の諸問題
 周知の通り静止軌道は、赤道上特定の高度にあっ て地球を一巡する軌道で、空間的な広がりが限られ た軌道である。ところがそこに配置される衛星の数 は増加の一途をたどっており、軌道の混雑化が進ん でいる(図1)。たとえば日常社会にもすっかりと け込んだ放送衛星では、軌道の割当規則や地理的条 件により同じ軌道位置を多数の衛星で共有する事が 多いため特に混雑がおこりやすく、今後さらに多く の国が衛星放送を開始するとますますそれは加速さ れるであろう。静止軌道の利用はかつては先進国が 優先とされていたが、現在ではこの軌道の利用は全 ての国に機会均等であるべきとの考えが行き渡って おり、有限な軌道をいかに高密度に有効利用して行 くか考える必要が強まってきた。また、軌道上に放 置されたままの使用済み衛星、故障衛星やロケット の残骸破片が軌道上にどんどん蓄積されており、使 用中の衛星に危害を与える恐れが強まっている。静 止軌道は、通信や放送という社会・経済に密接した 利用が行われているだけに、このような問題の影響 は大きい。通信衛星を各個別に運用管制するにあ たってはすぐに大きな問題は見あたらないが、今後 はこのように軌道全域にわたる利用と保全のための 技術開発が求められる。


図1 米国宇宙司令部(USSPACECOM)による
   軌道物体の監視
地球の半径の6倍の大きさのリングが静止衛星で、使用中衛星お
よび用済み衛星が分布する。地上からの観測にかからない大き
さの物体を加えると、これよりかなり多数の物体が軌道上に分布する
であろう。

 軌道上に置かれるミッションの進化もまた軌道利 用の形態に影響を及ぼす。多数の衛星を意図的に近 接領域に配置し、互いに通信回線で結べるように軌 道制御するならば、打ち上げロケットの積載力を大 きく上回る規模の通信ミッションが軌道上で合成で きる。移動体通信等の需要により衛星の大型化が進 み、静止プラットフォームの形をとることになれ ば、サービス衛星によるメインテナンスを定期的に 施し、また補給物資を軌道上に保管しておくことに なる。これらの実現へ向けた誘導・制御、操作方法 の開発は静止軌道工学の大事なテーマであるが、同 時にこれらは再び軌道の高密度化をもたらす要因と しても働く。また衛星の長寿命化のためにイオンエ ンジンが利用され、軌道制御の方式が変化して行く と、軌道の管理にも新たな取り組みを求めることに なろう。
  

研究開発の進め方
 軌道工学の研究を進めるには、言うまでもなく天 体の運動をモデル化したソフトウェアが自在に使え ることが必要である。当所ではこれまでにいろいろ な衛星プロジェクトを実施しており、実験衛星の管 制も行ってきたが、それらに使われたソフトウェア はそれぞれ衛星個別の性格を持ったものであった。 そこで、今後の汎用性ある研究用ソフト ウェアとして、衛星軌道の生成や推定、 誤差解析評価等の機能別に分類整理した プログラムライブラリーの整備を現在進 めている。電波や通信の実験室では色々 な発信器や測定器類が棚に並んでいて、 目的に応じて取り出し組合せて使ってい るのを見るが、これと同じイメージのソ フトウェア体系を作るわけである。これ により今後の衛星計画を柔軟にサポート して行くことが期待できる。特に、平成 5年打ち上げ予定のETS-Yは、衛星間追 跡中継やイオンエンジンの実用など軌道 工学実験の色彩が強い衛星である。ま た、我が国の放送衛星は現用・予備機を 同一の軌道に配置しているが、数年先に は試験衛星を含めその数が増加する予 定である。これを軌道の混雑化の先例と とらえ衛星運用機関と連携して、軌道の 高密度利用技術の開発実証を行おうとし ている。特に、近接した衛星間の相対軌道の推定に 関しては、ソフトウェア開発の基礎段階から精度解 析や追跡シミュレーションを精力的に行い、諸外国 に先んじた成果を得ている。
 ソフトウェアおよび基礎理論をべースとした研究 ならびに衛星による実証実験という方向に加えて、 軌道工学の研究にもう一つの独自の方向を現在試み ている。それは、軌道システムのイメージを実験室 の装置で模擬してみようというものである。
  

軌道工学試験装置
 この装置は、二つの近接した衛星の相対運動の機 械的なシミュレータであり、図2のように模擬衛星 を3次元的に運動させることができる。3軸はそれ ぞれステッピングモータで駆動され、ディジタル信 号処理部を付加したパーソナルコンピュータのソフ トウェアが各モータを制御する。特に、静止軌道上 の近接衛星のケースでは、2衛星の軌道要素の差分 に相当するパラメータを与えることにより、ある衛 星からみた別の衛星の空間運動を軌道モデルに沿っ て模擬することができる。この試験装置を用いて、 たとえば混雑した軌道上で衛星のニアミスの検知と 回避制御をどの様に行うか、その場合衛星上での画 像モニタ追尾がどの様に利用できるか等を実際に模 擬衛星にモデルセンサーを取り付けてテストするこ とを計画している。さらに、隣接する衛星間に通信 リンクを儲ける際の衛星相互間の軌道・姿勢運動の 法則を踏まえた指向追尾制御の方式を検証したり、 さらには将来予想される静止プラットフォームへの 遠隔操作ランデヴドッキングの模擬実験へ発展させ ることも考えている。現在、軌道モデルによる装置 運転用ハード・ソフトの制作を終え、模擬衛星とそ れに取り付ける追尾機構などを作成中である。


図2 軌道工学試験装置の機構部
可動ストロークは X=6m、Y(奥行方向)=4.7m、Z=1.5m。
観測窓の外に装置運転部及び実験解析部を置く。

 この様な試験装置を研究に取入れようとする目的 は、空間的・動的なイメージを実験室に再現するこ とにある。多数の衛星があい近接して飛び交う状況 は、地上に暮らす人間にとって方程式には描けると しても実感を持って体得することは容易ではない。 追尾や制御のシステムのひな型を実際に動作させて みることで、ソフトウェアまたは理論ベースのアプ ローチとは異なる意味で色々なアイデアの検証がで きる。またこのような実験検証の過程で新たな発想 が誘発されるということが最大の狙いである。
  

軌道工学の今後
 本記事では身近な静止軌道を話題としたが、その 次のテーマはどの様な方向へ向かうだろうか?月面 の開発が関心を集め始めているが、その通信システ ムとしての月周回軌道の利用、重力釣合点の利用制 御、あるいは測位方式の研究が求められよう。惑星 間へ進出することになれば、遠距離通信ビームの精 密指向制御と軌道状態の把握は不可分の関係となろ う。一方、低高度軌道は従来では通信への利用は少 なかったが、移動体通信用に価値を見直す動きがあ り、軌道配置の設計が新たなテーマとなろう。ま た、用済み衛星や破片物体による宇宙空間の環境問 題は今後さらに深刻化すると考えられ、限られた追 跡観測からいかにして速く正確にそれらの軌道を把 握し危険回避するかが重大な問題となろう。

 我が国の宇宙利用は先進国の模倣から出発しなが ら実力を蓄えつつあるが、このような研究分野にお いてぜひとも独自の技術開発を成し遂げたいもので ある。

(関東支所 鹿島宇宙通信センター 第一宇宙通信研究室 主任研究官)




スクイーズド光の発生


笠井克幸

  

はじめに
 その昔、分子運動論の確立により物理学の基本的 現象の一つである熱雑音のメカニズムが解明され た。その後ナイキストやジョンソンらによって構築 された理論が物理学と工学の間の橋渡しをして、現 在の通信技術の飛躍的発展につながった。1970年代 になると、新たな雑音現象として量子雑音に関する 研究が注目され始めた。この量子雑音の特性は信号 自信が持つ量子状態に強く依存しており、自然界の 性質として決まる量子状態を人工的に制御すること により量子雑音を制御できることが分かってきた。 この制御された量子状態はスクイーズド状態と呼ば れ、1989年東京で開催された第1回電気通信フロン ティア国際フォーラムで講演を行ったユーエンは19 76年にその物理的方法を含めた一般論を発表してい る。1980年代に入るとスクイーズド状態の光の実験 的検証が始められ、1985年にベル研究所で初めて実 験の成功が報告された。その後、IBM、MIT、テキサ ス大学などでも実験結果が発表された。このスクイ ーズド光は、うまく用いれば理想的なレーザ光より も小さな量子雑音を実現でき、重力波検出などの極 限計測や超高速光通信の分野で量子限界と思われて いた壁を打ち破ることのできる唯一の手段として期 待されている。
  

量子雑音と不確定性原埋
 電磁波は周波数が約10^13Hzを越えてくるとその 量子論的側面が顔を出しはじめ、光領域ではそれが 支配的となってくる。そのため、雑音というものを 考える場合、量子雑音を考慮しなければいけなくな る。一般に、レーザ光は図1(a)のような非常にきれ いな波の光として理解されている。これはレーザ光 の古典的側面しか見ていないためであって、量子力 学的解釈に基づいて見直すと絶対に取り除くことの できない雑音(量子雑音)をもっている。この量子 雑音は、量子力学の基本原理である不確定性原理か ら導かれる揺らぎのことで、言い換えるとレーザ光 の波の形状は図1(b)のように不確定さをもったあ る広がりの範囲内でしか分からないということにな る。不確定性原理が力学的変数である位置と運動量 に対してその分散の積に最小値の存在を要請するこ とはよく知られている。電磁場を考えた場合、電場 は90°位相がずれて振動している二つの調和波 (a1,a2)に分解することができ、それぞれの振幅は その分散が不確定性原理に従う二つの変数に相当す る。この電磁場の状態は位相平面を用いることによ り視覚的に表示できる。単一波長の古典的電磁波は 位相平面において一つのベクトルで表示される(図 1(a')参照)。しかし、量子雑音を考慮すると電場 の揺らぎを可能なかぎり小さくしたとしても、図1 (b')の影の領域で示されるようにベクトルの先が広 がった円で表される。この円形の不確定な領域は理 想的なレーザのコヒーレント状態など、最小不確定 状態の一例を示しているにすぎない。不確定性原理 は実はこの影の領域がどんな形をしているかまでは 要請していない。図1(c')のように不確定な領域の 円形からのずれがスクイーズド状態を導き出す。こ の時、電場の揺らぎは図1(c)のように時間的に脈 動し、a1を測るときには不確定さは小さく、a2を測 るときには不確定さは大きくなる。したがって、a1 成分に着目すれば、より小さな量子雑音が実現でき ることになる。


図1 電磁場の時間軸表示と位相面表示

  

スクイーズド光の発生と検出
 ユーエンは2光子過程と呼ばれる現象を利用すれ ば、スクイーズド状態を実現できることを理論的に 予測した。原子の二つのエネルギー準位の間の遷移 では、通常の場合、そのエネルギー差に相当する周 波数f0を持つ光子が放出される。 2光子過程では強制的にこのエネ ルギー準位間からf0/2の光子2 個を同時に放出させる。この時2 個の光子の間には量子相関が得ら れ、波動関数の位相間に、ある関 係が生じるためにスクイーズド状 態が得られる。この過程を作り出 すには、光と物質の非線形相互作 用を利用しなければならない。そのためにいくつか の方法が提案されているが、最も有望なのは縮退光 パラメトリックダウンコンバージョンと呼ばれる方 法である。図2に示すように非線形光学結晶を光共 振器内に閉じこめ、f0の周波数のレーザ光で励起す ることにより、出力に周波数f0/2のスクイーズド 光が得られる。スクイーズド光を検出するには、量 子効率の極めて高い光ディテクタを用いた平衡型光 ホモダイン検出器が使われる。この検出器により、 量子雑音が抑制されている成分の信号のみを取り出 すことができる。


図2 スクイーズド光の発生と検出

  

通信総研での開発状況
 当所では、スクイーズド光を連続光として発生さ せる縮退光パラメトリックダウンコンバージョン型 の装置の開発を進めている(

写真1参照)。励起光 源用の高出力・高安定なNd:YAGリングレーザの 開発から行い、ほぼ必要な性能が得られている。今 後、この励起用レーザを開発中の光パラメトリック 共振器と平衡型ホモダイン検出器にドッキングさ せ、スクイーズド光発生の実験を行う予定である。


写真1 開発中のスクイーズド光発生装置

  

おわりに
 スクイーズド光の発生に関する報告は、世界でも まだ数少なく、出力および効率の面で十分なものは 一つも得られていない。また、スクイージングのス ペクトル構造などその物理的メカニズムを含め、明 らかにされていない部分が多い。今後、これらの点 を一つひとつ明らかにし、実用上有用な高出力・高 効率のスクイーズド光を発生させることが必要であ る。

(関西支所 コヒーレンス技術研究室 研究官)




≪外国出張≫

ヨーロッパの電波研究機関を訪問して


石嶺 剛

 電波関連研究の動向を調査するため、平成2年8 月26日から9月23日までヨーロッパに出張し、国際 電波科学連合(URSI)第23回総会に出席した後、オ ーストリアの宇宙科学研究所、ドイツのマックスプ ランク超高層物理研究所、フランス国立電気通信研 究所(CNET)、英国のレスター大学、ソ連科学アカ デミーの地磁気・電離層・電波伝播研究所を訪問し た。URSI総会及び各機関の概要、印象等について 簡単に報告する。

 URSI総会は8月28日から9月5日までチェコス ロバキアのプラハで開催され、47か国から1515名 (日本から75名、うち当所からは6名)が出席した。 A〜J各分科会単独の研究集会69、分科会合同シン ポジウム27、全体講演会3、分科会一般講演会9、 合計108の集会が開かれ、1196件の発表(日本人発 表は86件、当所発表9件)があった。筆者は主に G分科会(電離圏伝搬)の研究集会に出席した。この 分科会では単独の研究集会3、他分科会との合同研 究集会9、合計12の集会が開かれた。内容的には極 域電離圏関連研究報告が圧倒的に多く、各種レー ダ、ロケット、人工衛星等による総合観測が可能と なり、電離圏研究が再び活発化している事を改めて 感じた。

 オーストリア宇宙科学研究所はグラーツ市にあ り、欧州宇宙機関(ESA)の衛星ミリ波通信・放送 実験を目的とするオリンパス衛星を利用した電波伝 搬研究、ロケット及び人工衛星による電磁圏の観測 研究を、ソ連、ドイツ等関係諸国と共同で実施して いる。特にソ連との協力関係は緊密で、1991年には オーストリア研究者がミール宇宙船に乗り込む計画 の由である。

 次に訪問したドイツのマックスプランク超高層物 理研究所は、「超高層物理」を冠する世界で唯一の研 究所にふさわしく、この分野で先駆的な研究を行っ てきているが、地球環境問題と関連して大気圏の観 測研究にも手を広げてきており、現在、地球温暖化 で重要な役割を担う微量成分の凍結採取技術の開発 が重要課題の一つであるとW. I. Axford所長は語っ ていた。また、高分解能太陽望遠鏡の開発や中波レ ーダの開発についても説明された。なお、観測実験 機器はすべて試作出来るようワークショップが整備 され、施設、要員とも充実している事に感心した。

 フランス国立電気通信研究所(CNET)は、パリセ ンター及びラニオンセンターを訪問した。CNETの 研究分野は通信技術から地球環境まで、当所の分野 とほとんど同じであるが実用研究にかなりのウェイ トを置いているようで研究経費の約3割は開発した 技術の移転・普及に当てている。電波伝搬関連で は、前述のオリンパス衛星を使った伝搬実験、準マ イクロ波の市街地伝搬実験を実施し、地球環境関達 研究では、衛星搭載用マイクロ波散乱計、赤外ラジ オメータ等の開発を行っている。電離圏関連研究は ラニオンセンターで行われ、SPOT衛星を使った TEC(全電数)の研究、ブルターニュ沖の無人島に完 成したばかりのフェーズドアレイアンテナ方式の大 電力短波レーダを使った電離圏研究が計画されてい る。この短波レーダは周波数の掃引が可能で、Es層 の構造・運動、F層不規則構造等の研究に威カを発 揮するものと期待されている。なお、研究協力につ いて、国際技術協力部長及び地球環境研究部長と話 合い、STAフェローシップ等を利用した研究者交流 について検討する事になった。

 ソ連では電波伝搬研究所を訪ねた他、電子・電波 技術研究所及び国家水文気象委員会の関係者と会っ て、電磁圏研究、地球観測分野における協力について 意見交換を行ったが、ソ連経済の混乱状態が改善さ れない限り、実効ある協力は無理との印象を受けた。

 最後にこの出張の機会を与えて下さった科学技術 庁及び郵政省の関係者に感謝します。

(電波応用部長)




≪随筆≫

インフォメーションとコミュニケーション


柿沼 淑彦

 「情報」は英語の“INFORMATlON”の日本語の訳 として、森鴎外が訳したことばといわれている。こ れはドイツ語の“MACHRICHT”という単語にあたり (昭和58年9月「ドクメンテーション研究」での「情 報という言葉の語源」での長山泰介氏の指摘)、こ のときの情報の意味は「敵と敵国に関する我知識の 総体をいう。是我諸想定及び諸行為の根底なり」で あったという。

 ところで、情報はきわめて人間的な情熱、人情や 情愛をあらわすセマンティック内容と、報告や報道 といった正しい事実の伝送を意味するシンタクティ ックなものの二つのことを包含している。情報を受 け取って人間はその意味を考えて行動するので、人 間が認知するのは意味的情報である。しかし、情報 を伝達するにはその意味的情報が自分の考えとして 相手に正しく伝達できるように、形式的情報すなわ ち記号情報に変換しなければならない。この記号情 報の伝達する手段として、現在はコンピュータや電 話など電子メディアが大きな役割をおっている。

 ベル電話研究所のクロード・シャノンは、あらゆ る情報に適用する法則を示し、情報量に関してわれ われがその情報を受けとった時に除かれる不確かさ (エントロピー)の度合いとして、「不確かな世界を 確かにするものが情報である」と、発表した。応用 数学でこの情報理論を学んだことを思い出すが、数 理統計学の世界ではそのような処理手法により目的 とするものを得ている。通信の世界では、情報の内 容が秩序をもって通信されるためには、むしろラン ダムな無秩序の中を進んだほうがよいといわれてい る。これはランダムな中を進むために、情報の中に 冗長度を加えて送り、情報の抽出を行う手法である。

 情報を相手に伝達する目的は、その情報の意味す る内容を伝えることであり記号情報のみではない。 情報は、それを利用するかあるいは利用しようとす るときに、はじめてその価値が生まれる。情報が価 値を発揮するには、その目的が必要であり、コード 変換によって通信メディアに乗り相手とコミュニケ ーションできる。この記号情報は、また電子メディ アによって加工処理される場合もある。最近では、 ワープロ訛りという新語があり、音声の訛りと異 なっていて、目で見える形の訛りをいうらしい。し かし、言葉と違って一過性でない。たとえば、単 語の変換ミス、漢字とひらがなの不統一性や、句読 点の使用ミスがよくあるそうである。たとえば、 「ここではきものをぬいでください」などは、状況 によっては理解しにくいこともあろう。

 また、感覚的情報(非記号的情報の、味、香り、 以心伝心など)は、心に対する反応であり機械的処 理(コンピュータ処理)では伝えにくいものであ る。

 このように、情報と通信にかかわっている立場か らすると、高度情報社会のソフト化のノウハウの難 しさが分かるような気がする。というのは、電子メ ディアで処理しきれない非記号系の情報は、情報通 信網には乗せきれないが、通信(コミュニケーショ ン)という世界では、その動きは透明であり、あら ゆる情報が往来している。

(情報管理部長)



短 信




国際地球回転事業VLBI技術開発センターの指名


 当所は、昨年10月に米国ヴァージニア州で開催された 国際地球回転事業(IERS)評議会で、米国ヘイスタック 観測所とともに同事業におけるVLBI技術開発センター の指名を受けた。
 IERSはVLBIを始めとする最新の宇宙技術を用いた 高精度な地球回転の国際観測事業である。関連する分野 は広く、地球科学はもとより、宇宙開発における追跡制 御の支援、異常気象に伴う地球回転のふらつきの観測等 に役立つ。また並行して行われる国際的な地上局座標系 の確立は測地において精密基準点を提供するため、衛星 の精密軌道決定や地球温暖化による海水面上昇の測定基 準点など、多くの応用が期待されている。
 これらをささえる観測技術の維持発展のため技術開発 センターが生まれた。今回の指名は宇宙技術を駆使した IERSが、日本の高い技術力への大きな期待を表したも のといえよう。国際的な貢献のため当所の技術力をフル に発揮できるよう所内外の関係者のご協力をお願いした い。



関西先端研究センター新庁舎工事順調に進む


 昨年8月から本格的に建設工事が開始された関西支所 (関西先端研究センター)の新庁舎は、建設業界の好況 を背景にした作業員不足の影響もあったが、その後順調 に工事が進められている。
建設本体については、2月中に3階及び屋上のコンクリ ート打設が完了し、上棟の運びとなる。これと並行し て、1月からは内部仕上げ工事が進められ、8月下句に 竣工を予定している。
 また、新庁舎を中心とした交通アクセスの改善・整備 計画に伴い、新しく神戸市道とそれに接続してセンター と結ぶ進入道路が今年度中に整備されることになった。
 懸案である宿舎の整備については、岩岡の独身寮の新 築を郵政省の要求のトップに位置付け、大蔵省当局との 折衝が続けられており、3月下旬には査定結果が明らか になる。




平成3年度組織改正


 平成3年度予算政府原案において、有人宇宙時代に対 応した研究の発展を目的とした関東支所の再編と、電気 通信フロンティアの課題の一つとして新たに始まる生体 関係の研究を行う関西支所2研究室の設置が以下のとお り認められた。この結果、3年度に関東支所は管理課を 含めて2課6研究室に、関西支所は8研究室体制に整備 拡充される。




外国人研究者の採用


 当所は、21世紀に向けて情報、通信、電波の各分野に わたり、基礎的及び先端的な研究開発を強化している。 この中で、研究人材の一層の充実化を図る措置の一環と して、研究職員として外国人の採用を開始した。
 第1号は、2月1日付け採用のM. N. シラジ氏 (Mehdi Nouri-Shirazi、イラン国籍)である。シラジ氏は、 数理統計やシステム論を専門としており、関西支所知覚 機構研究室において、電気通信フロンティア研究計画の 一環としての、ニューラルネットワークの理論的解析等 の研究での活躍が期待されている。
 研究公務員への外国人の任用は、昭和61年に制定され た研究交流促進法により可能となったものである。それ までは、教育公務員の一部(教授、助教授等)を除き、 国家主権の維持の観点から外国人を任用することができ ないとされていた。
 我が国全体で外国人研究者の任用はまだ10名に満たな い状況であるが、当所では今年中にさらに数名の外国人 研究者の採用を予定しており、研究所の国際化が一層進 むことになる。



4月1日から交換台を廃止


 約40年の長きにわたり「親切な応対」として評判の高 かった交換台は、省力化の一環として本年3月31日を もって廃止されることとなった。
 そこで、外部からの電話に円滑に対応するため、全職 員の内線電話をダイヤルイン化して、本年御用始めから 運用を開始している。従来のダイヤルイン番号に変更 はないが、新たにダイヤルインとした電話番号について は、現在交換台で御案内中である。
 なお、従来の代表番号(1211)は存続させるが、回線 を縮小し案内台として運用する関係上、話中が多くなる など御不便をおかけすることが予想されるので、当所に 御用の向きはダイヤルイン番号の利用をお願いしたい。
 また、業務のOA化の一環として来年度以降ボイスメ ール・システムの導入も計画しており、これが実現する と、外部からの電話に対し、よりきめ細かな対応が可能 となるので御期待願いたい。