通信総合研究所平成3年度研究調査計画


 当所は、情報通信に関する唯一の国立研究所とし て情報、通信、電波にわたり、基礎から応用まで幅 広く研究を進めている。
 特に、21世紀を目指した基礎的先端的研究開発の 強化を重視し、昭和63年以来電気通信フロンティア 研究開発計画を推進し、研究内容の拡大・充実をは かるとともに、その中核として平成元年度に関西支 所を設立し、関連の組織整備を進めてきた。
 本年度の研究調査実施計画においては、5つの重 要研究分野における既定の各研究課題を引き続き推 進するとともに、電気通信フロンティア研究開発計 画、高度宇宙通信技術開発、地球環境計測技術開発 において計5課題の新規研究を開始する。
 これらの研究のため、関西支所に2室を新設して 8研究室体制に充実強化する。また、宇宙通信、宇 宙環境、および地球環境等に関する研究開発を実施 している関東支所に1課1室を新設し、2課6室体 制に再編充実する。
 さらに、国内外の関係機関との人材交流を含む研 究交流を引き続き推進するとともに、フェローシッ プ等を含み多様な形態で優秀な研究者の確保につと め、研究活動の活性化を促進する。
 また、科学技術振興調整費、地球環境研究総合推 進費等による研究計画も積極的に推進する。
 5つの研究分野における研究調査計画の特徴は以 下の通りである。また、当所の研究調査計画の全容 を一覧表に示す。

○ 高機能知的通信の研究
 電気通信フロンティア研究計画の一環として、高 機能ネットワーク技術の研究(2課題)を実施する。 また、移動通信技術の研究、成層圏無線中継システ ムの研究等も継続する。

○ 人間・生体情報の研究
 電気通信フロンティア研究計画の一環として、バ イオ・知的通信技術の既定研究課題(2課題)を実 施するとともに、新たな課題として、生体機能に関 する研究開発を開始する。また、ファジイシステム とその人間・自然系への適用に関する研究等も継続 する。

○ 有人宇宙時代通信の研究
 移動体衛星通信、衛星間通信、宇宙ステーション における大型アンテナ組立技術、光宇宙通信、等の 既定課題の研究を継続するとともに、新規課題とし て、高度衛星通信放送技術の研究開発を平成8年度 の衛星打上げを目指して開始する。さらに、小型衛 星通信技術の研究も新規に開始する。

○ 地球惑星系環境の研究
 宇宙天気予報の研究をはじめ、超高層大気から地 殻プレート、地球回転に至るまで広く地球惑星系環 境に関する既定の研究を継続する。また、新規2課 題として、光領域アクティブセンサーによる地球環 境計測技術の研究開発、及び地球環境計測・情報 ネットワーク技術に関する研究を開始する。

○ 電磁波物性・材料の研究
 電気通信フロンティア研究計画の一環として、超 高速通信技術の研究(2課題)を実施する。また、 光領域周波数資源の開発、超高分解レーザ分光技術 に関する研究等も継続する。

(企画調査部)

平成3年度研究計画一覧表





平成3年度通信総合研究所予算の概要


 平成3年度予算編成作業は、平成2年12月24日に 大蔵省原案が内示され、その後復活要求を経て12月 29日の閣議で政府原案が決走、国会に提出された。
 第120回(常会)国会での予算審議は、湾岸戦争 に対する90億ドル支援問題をめぐって遅れたため、 年度内に成立できず12日間の暫定予算を編成、4月 11日に成立した。
 成立した当所の予算概要を以下に述べる。
 当所の平成3年度予算は総額50億7,249万2千円 で前年度予算額に対して6億485万3千円(13.5%) の増となっており、これを物件費と人件費に分けて みると、人件費は24億9,655万5千円で前年度比1 億9,217万6千円(8.3%)の増、物件費は25億3,075 万5千円で前年度比4億1,253万2千円(19.4%)の 増となっている。
 事項別内訳を別表に示したが、その概要は以下の とおりである。

1 新規事項として以下の4項目が認められた。
 @ 高度衛星通信放送技術の研究開発
   通信放送技術衛星は平成8年度に打ち上げる 予定であり、同衛星に搭載する中継器を開発す る初年度経費3億668万5千円が新規に認めら れた。
 A 小型衛星通信技術の研究
   経費負担が大きくなく、短期間でできる等の 利点を有している小型衛星に搭載可能な蓄積転 送技術及び衛星間データ交換技術等を開発する 初年度経費459万円が新規に認められた。
 B 電気通信フロンティア技術の研究開発
   これまでに認められた7課題に加え、生体機 能に関する研究開発を行う経費3,097万7千円 が新規に認められた。
 C 地球環境計測技術の研究開発
   平成2年度に認められた短波長ミリ波帯電磁 波による地球環境計測技術の研究に加え、光領 域アクティブセンサーによる地球環境計測技術 の研究開発、地球環境計測・情報ネットワーク に関する研究開発を行う経費として1,038万8 千円が新規に認められた。

2 組織・要員
 @ 関東支所に宇宙環境研究室の新設と地球環境 計測、宇宙通信技術、宇宙電波応用、宇宙制御 技術、太陽研究室、宇宙天気予報課の1課5研 究室の振替新設が認められ、また、関西支所に 生物情報研究室の新設と生体物性研究室の振替 新設が認められた。
 A 秋田電波観測所が振替廃止となった。
 B 研究員4人の増員が認められた。

3 継続のプロジェクト
 @ 航空・海上衛星技術の研究開発では小型携帯 地球局の開発、宇宙電波による高精度時空計測 技術の研究開発では、光パルス時刻供給部、衛 星間通信技術の研究開発では、光地上装置の光 信号受信装置、宇宙ステーション関連の高出力 半導体レーザ、広視野検出器、地上実験施設の 主局RF系、管制ハードウェア、宇宙からの降 雨観測のための二周波ドップラレーダの研究で は、送信部、TRMM搭載降雨レーダの設計・試 作試験の整備費用等が認められた。
 A 平成2年度に新規に認められた短波長ミリ波 帯電磁波による地球環境計測技術の研究では、 地上装置用200GHz帯ラジオメータフロント/ エンドの製作費用が認められた。
 B 成立予算の中には、衛星間通信技術の研究開 発、放送及び通信の複合型衛星のための研究、 高度衛星通信放送技術の研究開発にかかわる国 庫債務負担行為の歳出化分として5億694万円 が含まれている。

3 特定国有財産整備特別会計(関東支所平磯宇宙 環境センター分)として平成3年度初年度分1億 2,874万4千円(総額3億8,580万2千円)が認め られた。
 以上、平成3年度予算の概要を述べたが、本年度 も平成2年度に引き続き関西支所の整備等が必要で あることを考慮すると、執行段階でさらに厳しい状 態にあることに変わりはない。
 当所の研究等業務を円滑に推進するためには、今 後も経費の効率的使用を計ることが必要で、定常業 務の簡素合理化をはじめ、あらゆる努力をはらって いくこととしている。

(総務部 会計課)

平成3年度予算額総括表




高温超電導シールド


西方 敦博

  

はじめに
 1986年、IBMチューリッヒ研究所のベドノルツと ミューラーによって酸化物超電導体が発見され、い わゆる超電導フィーバーが引き起こされたことは記 憶に新しい。その間、より高い超電導臨界温度Tc をもつ材料の探索が集中的に行われた結果、実用化 のうえで大きなハードルであった液体窒索温度(77 K)を上回るTcをもつ高温超電導材料が数々発見 され、超電導体の工学的応用への可能性を一挙に拡 大した。そして現在、高温超電導体の研究は実用化 の段階に入りつつある。
 超電導体の応用分野の一つとして、電磁シールド (特に磁気シールド)があげられる。電磁シールド は電子機器にとって障害となる電磁妨害等の対策と してのみならず、精密化を続ける半導体産業や、医 療用生体磁気計測、基礎科学の分野などでより重要 になっていくものと考えられる。
  

超電導シールドの特徴
 導体壁で囲まれた空間は、外部静電界から完全に 遮蔽される。なぜなら、仮に導体内部に電界が存在 すれば、それを打ち消すように電荷が移動するため である。従って、低周波電界のシールドは導体に よって容易に高い効果が得られ、問題となることは 少ない。これに対し、静磁界を遮蔽する場合、通常行 われる高透磁率材による遮蔽は、図1のように磁束 の通りやすい材料に磁力線を引き込んで迂回させる 方法であり、透磁率は大きくとも有限値であるため 外部の磁界を完全には遮蔽できない。一方、超電導 体を静磁界遮蔽に用いる場合、外部磁界は超電導体 内部で指数関数的に減少する。磁界が1/eに減衰 する距離(磁場侵入長)は通常10〜10mオーダー と非常に短いため、実質的には完全な遮蔽が行え る。この磁場侵入長は周波数によらず一定であり、静 磁界に対する遮蔽効果は高周波磁界においても保証 される。従って、超電導材料は、電界に対してはも ちろんのこと、あらゆる周波数の磁界に対して優れ たシールド効果を発揮することが期待される。


図1 高透磁率材による磁気遮断

  

微小ダイポールに対するシールド効果
 電磁シールドの最も基本的なモデルとして、平板 に入射する平面電磁波の遮蔽問題があり、その解は 良く知られているシェルクノフの式から求められ る。これは、図2に示すように、媒質境界での透過 ・反射と、媒質内部での伝搬損失とを考慮する多重 反射モデルの解と同じものであり、遠方界のシール ド効果を正確に求めることができる。一般に、この 式を近接界領域にまで近似的に適用することが行わ れるが、正確さに欠ける面がある。そこで、近接界 も含めたシールド効果を正しく評価するために、微 小ダイポール波源の遮蔽問題を解いた。図3は厚さ わずか1μmの欠陥の無いYBaCuO超電導体板(後 述する磁束のクリープは生じないものとする)を仮 定し、それが微小電気・磁気ダイポールの電界・磁 界を遮るときのシールド効果を、周波数を横軸に とって示したものであり、波源と観測点との距離 (1p、1m、および∞)をパラメータとしている。図 中、実線はダイポールがシールド板に垂直の場合、 破線は平行の場合であるが、両者の差は比較的小さ い。また、磁気ダイポールに対する磁気シールドの 効果は周波数によらずほぼ一定となるのが特徴であ る。


図2 平板シールドの多重反射モデル


図3 長電導体のシールド効果

 このように、非常に薄い超電導体によってさえ、 全体に渡って100dB以上という優れたシールド効 果が理論上得られることになる。これに対し、図4 は厚さ1oのアルミニウム板および鉄板に対する 計算結果であり、低周波磁界に関しては厚さがわず か1/1000のYBaCuO膜よりも劣ることが分かる。


図4 金属板のシールド効果

  

むすび
 以上述べたように、高温超電導体は電磁シールド 材料として極めて優れた特長をもっており、既に数 社から製品化の動きもあるが、高温超電導材料は開 発されてから間もないこともあり、実用に関しては 未解決の問題も多い。例えば、超電導体の内部とい えども徐々に磁束が侵入するクリープ現象が起こ る。また、特に大型のシールド装置については、接 合部からの磁界の侵入を防ぐ工夫が必要であるこ と、大きな体積の効率的な冷却などの問題を克服し なければならない。また、超電導シールドの評価に は、従来より格段に感度の高い測定法を用いなけれ ばその長所を十分に引き出すことはできず、新たな 試験法の開発が必要となる。しかしながら、今後、 室温超電導材料が開発される可能性もあり、超低雑 音が要求されける様々な用途に幅広い応用が期待で きる技術である。

(総合通信部 電磁環境研究室 研究官)



短 信



畚野所長 直研連代表幹事に就任


 各省直轄研究所長連絡協議会(直研連)は、3月12日 に東京・竹橋会館で開催された総会で、平成3年度の代 表幹事に当所の畚野所長を選出した。
 直研連は、各省庁が直轄する93の国立試験研究機関長 で構成されているが、これまで処遇改善や試験研究予算 の増額、国際交流の促進についての要望書を各省庁に提 出する活動を行ってきている。
 4月10日に開催された第1回幹事会では、3年度の事 業計画、予算案等が審議されたが、従来の活動分野に加 え、来年度から開始される予定の第8次定員削減に対し て、研究職を除外するような働きかけを開始していくこ と等が議論された。



篠原記念学術奨励賞


 3月27日徳島大学で行われた電子情報通信学会で、平 成2年度第6回篠原記念学術奨励賞の贈呈式が挙行され た。
 当所関係では、総合通信部通信系研究室の岩間 司 研究官が「1.5GHz帯におけるマイクロセル電波伝搬特 性の評価」、関西支所知的機能研究室の滝澤 修 技官 が「フレームシステムを用いた連想機構へのファジィ概 念の導入」の各論文で受賞した。



鹿島25周年回想録“パラボラと共に”を出版


 鹿島宇宙通信センターは平成元年5月に鹿島支所開設 以来25周年を迎え、記念事業の一環として記念誌出版に 向けて編集作業を進めてきたが、この度「鹿島25周年回 想録“パラボラと共に”」を発刊する運びとなった。
 この回想録は、「電波研究所20年史」及び「その後の 十年間の歩み」の研究の歴史に現れなかった事柄や歴史 について、80余名に上る関係者の仕事や生活に係る思い 出、苦労話、面白い話、失敗談等織り混ぜた体験談の執 筆を依頼し取りまとめたもので、30mアンテナ建設等の 「創世記」、衛星管制及び電波天文の初期の「揺籃期」、 CS・BS等衛星開発期の「大量動員時代」及び現在の「成 熟期」の四編と年表等の資料編からなっている。
 先輩の方々には鹿島時代の足跡を改めて心に止められ るもの、また、現役の方々には先人の経験を教訓に今後 の研究への励みになるものとして出版したものである。
 なお、本回想録はまだ若干の余部があり希望者には実 費にて頒布しますので下記あて連絡願います。
   鹿島宇宙通信センター管理課管理係
   TEL:0299-84-4113 FAX 0299-83-5728



SIR-BグループNASAから表彰


 畚野信義所長をリーダーとするシャトル映像レーダ (SIR-B)実験グループは、米国NASAとの国際共同実験 に多大な貢献をしたことにより、NASAから表彰された。 SIRは電波リモートセンシングに使用されるマイクロ波 帯合成開口レーダである。NASAの実験募集に応募した 所長は、センサ較正実験、稲作観測、海洋油汚染観測等 の実験を提案し、全世界から提案された多くのテーマの 中から厳しい選考をパスしてその実験実施が決定され た。1984年10月に打上げられたスペースシャトル・チャ レンジャーによって実験が行われ、シャトルが日本上空を 通過する毎に7回にわたりレーダ観測データが取得され た。実験は北海道から九州までの各地及び海上を観測場 所として行った。取得したデータを当所において画像処 理することにより地表の様子がはっきり捉えられ、SIR の有効性が実証された。この実績がNASAに評価され、 このたびの授賞につながったものである。



一般公開のお知らせ


 夏の恒例行事である研究施設、並びに研究内容の 一般公開を8月1日(木)午前10時から午後4時に かけて本所、並びに各センター、観測所において実 施いたします。皆様ご多忙中のこととは存じますが 多数の御来場を心よりお待ちしています。



交通機関


(通信総合研究所本所)     Tel 0423-27-7465
中央線武蔵小金井駅北口下車−バス<小平団地ゆき>
中英線国分寺駅北口下車−立川バス<昭和病院ゆき>
            共に通信総合研究所前下車

(関束支所鹿島宇宙通信センター)Tel 0299-82-1211
JR鹿島神宮駅−バス<電波研ゆき>
               終点宇宙電波研下車

(関東支所平磯宇宙環境センター)Tel 0292-65-7121
常磐線水戸駅下車−茨城交通バス<阿字ヶ浦ゆき>
            無線下バス停下車 徒歩3分

(稚内電波観測所)       Tel 0162-23-3386
        JR宗谷本線南稚内駅下車 徒歩15分

(犬吠電波観測所)       Tel 0479-22-0871
JR銚子駅下車−千葉交通バス
           渡海神社前下車 徒歩約10分

(山川電波観測所)       Tel 09933-4-0077
JR指宿枕崎線山川駅−JRバス<山川港行き以外>
             大成校前下車 徒歩約7分