航空機搭載マイクロ波映像レーダによる
雲仙普賢岳観測実験報告


岡本 謙一

1. はじめに
 通信総合研究所では、この度、当所が開発した航 空機搭載マイクロ波映像レーダ(環境庁国立機関公 害防止等試験研究費による)を用いて、7月5、6 日の両日、雲、噴煙に覆われて肉眼では見えない雲 仙普賢岳山項ならびに熔岩ドーム周辺の電波による 映像を取得することに成功した。これにより、悪天 候下の災害監視における同レーダの有効性を我国で 初めて実験的に検証した。
 雲仙普賢岳山頂並びに熔岩ドーム周辺の映像取得 は、その上空を通過する地球観測衛星LANDSAT、 SPOT、MOS並びに気象衛星NOAA搭載の可視・赤 外センサで試みられてきたが、噴火活動の活発化し た梅雨期間中は、雨や山頂付近を覆う雨雲、噴煙に 遮られ、その映像の取得は成功しなかった。
 マイクロ波映像レーダは、レーダ技術を応用した 電波センサで、航空機に搭載したスロットアレイア ンテナから航空機の進行方向に対して側方(本シス テムでは左側)の地表面に向かってパルス状にマイ クロ波帯の電波を発射し、地表面によって反射され て戻ってくる電波を受信し、航空機の進行に伴って 時々刻々得られる受信電力の強度を映像の形で表現 する。周波数は9.53GHzである。本ページ右上に 航空機の胴体下に取り付けられた同レーダのアンテ ナレドームを示す。レドーム内に収納されたアンテ ナの大きさは機軸方向の長さ3.5m、幅0.4mで、 航空機進行方向に幅が狭く、それと直交する方向に 幅の広い扇型のビームが形成される。マイクロ波映 像レーダは、雲、噴煙や雨があっても 電波がその中を貫通し、地表面の映像 を透視することができる。また、同レ ーダは太陽光の反射を利用する光のセ ンサと異なり、夜でも観測できるとい う大きな特徴を有する。
 現有のレーダシステムでのマイクロ 波映像は、航空機上の磁気テープに記 録されたデータを地上のコンピュータ で処理して作成されるが、航空機上で リアルタイムに映像を作成することも 原理的に可能である。

2. 実験結果の概要
 実験は7月5、6日の両日にかけて 実施した。観測時の天候は両日とも曇 りで島原半島全体がほぼ雲に覆われた 状態にあった。噴煙は白いものが常時 観測されたが、7月5日には火砕流に 伴う黄色い噴煙も観測された。航空機 から撮影した実験時の山頂周辺の雲の 様子を写真1に示す。実験は大阪府の 八尾空港にある昭和航空林式会社の所 有する航空機マーリンWに通信総合研 究所のマイクロ波映像レーダを搭載し て実施した。実験では普賢岳周辺を周 回し、13の異なったフライトコースか ら普賢岳周辺の13のマイクロ波映像を 取得した。航空機の高度は7月5日は2500〜4000m (11フライトコース)、7月6日は1700m〜2000m(2 フライトコース)であった。


写真1 実験時の雲・噴煙の様子

 今回の観測実験は、
(1) 雨雲等のある悪天候下、噴煙のある悪条件下に おいて、電波センサが噴火、洪水等の災害監視に どの程度有効であるかを検証すること
(2) 山岳地形のマイクロ波映像の特徴を抽出し、今 後の山岳地方の災害監視等の実利用のために最も ふさわしいマイクロ波レーダの観測法を確立する こと
(3) マイロク波映像レーダの観測パラメータ(例え ば入射角)を変化させて、災害監視のために最も ふさわしい将来の高分解能映像レーダを設計する 基礎技術資料を収集すること
などを目的として実施したものである。
 図1、2は第一報として速報的に出力したマイク ロ波画像であるため、山岳地帯の映像に特有の画像 の歪みの補正を施していないものであるが、これら の図から、雲や噴煙を通しても電波を用いることに よって、普賢岳周辺の映像を収集できることが明らか になった。


図1 雲仙普賢岳周辺のマイクロ波映像レーダ映像例1
  (7月5日、航空機高度:3000m、山頂付近の解像度:
  約40q、東西方向の距離:11q、南北方向の距離8q)

 図1は7月5日に、航空機が普賢岳の西側をほぼ 北から南に向け、普賢岳を東側に見てフライトした ときのマイクロ波映像である。航空機の高度3000 m、普賢岳の西側約2700mから山頂付近の水平面に 対する入射角が約60°の条件で撮影した。山頂付近 での分解能は40m程度である。普賢岳、九十九火 口ならびに熔岩ドームと思われる映像が観測されて いる。また水無川に沿った火砕流や土石流の跡と思 われるもの、上大野木場方面へ向かう新しい火砕流 の跡と思われるものも見られる。国見岳、妙見岳、 赤松谷、眉山の形状も確認できる。黒く見えるの は、前方の山岳に遮られてできる電波の陰影(電波 が到達しない領域に対応する)である。


図2 雲仙普賢岳周辺のマイクロ波映像レーダ映像例2
(7月6日、航空機高度:1900m、山頂付近の解像度:約30m、横方向の距離:7.5q、縦方向の距離:5q)

 図2は7月6日に、普賢岳のほぼ南東から北西に 向けて普賢岳を南西側に見てフライトしたときのマ イクロ波映像である。航空機の高度1900m、普賢岳 の北東約2300mから山頂付近の水平面に対する入 射角が約75°の条件で撮影した。山頂付近での分解 能は30m程度である。普賢岳の東側斜面ならびに 極めて電波の散乱強度の強い(映像上では白く現れ る)熔岩ドームと思われる映像が得られている。ま た水無川に沿って流れた火砕流ならびに上大野木場 方面へ向かう新しい火砕流の流れと思われる跡が見 られる。赤松谷の形状も観測される。

3.おわりに
 当所では、今回取得したデータをもとに、山岳地 帯の映像に特有の画像の歪みを除去したさらに精密 な映像を作成すると共に、他機関の専門家の協力も 得て、同レーダの火山災害時における緊急利用の有 効性を確認する予定である。また、現在のレーダよ りも小型・軽量で、災害時の機動性に優れると共 に、分解能が遥かに優れ(3m程度)、画像歪も小さ いという長所を有する航空機搭載の合成開口方式の マイクロ波映像レーダの開発を検討している。
 本実験に当たっては、航空機の運行について、昭 和航空鰍ノ多大の御協力を頂いた。また映像レーダ の点検・調整には鞄月ナに多大の御支援を頂いた。 記して謝意を表する次第である。

(電波応用部 電波計測研究室 室長)




平成3年度組織改革


菊池 崇

 当研究所は電波研究所から通信総合研究所へと名 称変更を行って以来、組崩織の再編拡充をはかってき たが、平成3年度には、関西支所に2研究室、関東支 所に1課1研究室の増設を行った。以下に、これまで の経緯と平成3年度の組織改革の概要を紹介する。
  

関西支所の拡充
 21世紀は現在のディジタル通信網ISDNが更に飛 躍的に発展し、大容量高速でかつ知的な機能を持つ 総合知的通信網UICNの実現が望まれている。この 目的を実現するためには新しい光源の開発や知的機 能の研究など従来の研究の枠に入らない基礎的な研 究が必要になり、産学官が連携して進める電気通信 フロンティア研究が昭和63年に開始された。平成元 年5月にはプロジェクト推進のための官の研究拠点 として神戸市岩岡に当研究所の関西支所が設立され た。岩岡には近畿電気通信監理局の電波監視施設が あり、この施設を当研究所が譲り受けると共に、新 庁舎建設に向けての計画作りに着手した。
 関西支所は当初、知覚機構研究室、知識処理研究 室、超伝導研究室及びコヒーレンス技術研究室の4 研究室20名でスタートした。平成2年には知的機能 研究室と電磁波分光研究室の増設が認められて6研 究室30名体制となったが、電気通信監理局の建物に 充分なスペースがないため、情報系の3研究室のみ が関西支所で研究を行うという形になった。
 平成3年度には、研究の領域を生物系へ拡張する ために、生物情報研究室と生体物性研究室の増設を 行い、8研究室42名体制となった。生物情報研究室 では、生物を生きたままで精密観測し、従来の顕微 鏡では観測が不可能であったDNA、筋肉、鞭毛など の運動機構や機能を計測する技術を開発し、生体内 における情報の伝搬、受容、処理機構の解明を目指 している。また、生体物性研究室では、生体超分子 の情報デバイスとしての特性を解明することを目的 として、アクトミオシン系(筋収縮を司どるタンパ ク質複合体)、微小管系などの超分子の化学−力学 エネルギー変換特性を調ベ、その動作原理を明らか にすると共に、超分子の情報システム構築技術の開 発を進める。
 平成2年4月に建設を開始した新庁舎は平成3年 8月に完成し、それまで小金井本所で研究を行ってい た物性系3研究室と新設の生物系2研究室が移転を 行った。この移転によって、関西支所の電気通信フロン ティア研究は本格的な体制を整えた。関西支所は今 後も拡充を計画しており、平成5年度以降に10研究 室55名体制を実現し、電気通信フロンティア研究の 拠点にふさわしい陣容となることを予定している。

関西支所組織図

  

関東支所の再編拡充
 関東支所は宇宙通信分野の研究を行う鹿島宇宙通 信センターと宇宙環境分野の研究を行う平磯宇宙環 境センターで構成されている。両センターは平成元 年までは、それぞれ鹿島支所、平磯支所であったが 関西支所の設立と同時に統合され関東支所となっ た。この統合の際に、それまで鹿島支所にあった衛 星管制課が廃止された。
 21世紀は宇宙での有人活動が活発になることが予 想されているが、1990年代には、宇宙ステーション が打ち上げられ、日本の居住区も予定されている。 宇宙空間は太陽から吹き出す各種放射線が縦横に飛 び交う空間でもあり、このような過酷な宇宙環境の 中で、人間、通信機器などの安全のために、地上の 天気予報に相当する宇宙天気予報が必要であるとの 認識が高まった。関東支所平磯宇宙環境センターで は昭和63年から21世紀の完成を目指した宇宙天気予 報システムの研究開発を開始した。
 一方、稚内から沖縄まで5か所の電波観測所では 40年以上にわたり電波擾乱予報業務の一環として電 離層観測を継続してきたが、近年の通信技術の急激 な変化に対応するために見直しが検討されていた。 電波擾乱予報が宇宙天気予報へと脱皮するのに合わ せて、太陽フレア、電離層冬季異常などの貴重なデ ータを取得してきた秋田電波観測所の機能を平磯宇 宙環境センターに統合することにより、秋田電波観 測所を閉鎖した。これにともない、平磯宇宙環境セ ンターに宇宙天気予報課を新設し、同時に、他の研 究室の名称を変更して、太陽研究室、宇宙環境研究 室を設けた。
 平磯宇宙環境センターの組織改革と同時に、鹿島 宇宙通信センターにも将来必要になる新しい宇宙技 術開発を目指して、宇宙制御技術研究室を新設した。 宇宙制御技術研究室では、平成元年に廃止された衛 星管制課が長年にわたって蓄積した管制技術を発展 させ、分散衛星などを対象とする高度な管制技術の 開発、スペースデブリ(宇宙のゴミ)の監視、宇宙 の電波監視技術の開発を目指している。また、他の 研究室に関しては、これまでの第一、第二、第三宇 宙通信研究室という名称を、研究室の性格をはっき り示すために、地球環境計測研究室、宇宙通信技術 研究室、宇宙電波応用研究室と改めた。
 関東支所は今後も、有人宇宙時代に備えた先進的 な研究を推進する拠点として、組織やプロジェクト の充実化をはかっていく。

(企画調査部 企画課 課長)

関西支所組織図



短 信




南鳥島VLBI実験 一週間の連続観測に成功


 今年で3年目を迎えた南鳥島VLBI実験は、6月から 7月にかけて今年度の観測を実施した。昨年と同様に中 国の上海局を含む実験の他に、今回は特別に鹿島−南鳥 島基線で、一週間の連続観測を実施した。この連続観測 は、@南鳥島の高層気象データ使用による局位置鉛直成 分推定精度の改善に関する研究、AGPS利用全電子数 測定装置を単周波VLBIに応用するための基礎データ収 集、B種々の観測スケジュールの相互比較を通してのス ケジュール最適化に関する研究を目的としている。むろ んのことながら観測データ数が増えることによる測地精 度の改善も期待される。当初、南鳥島局の運用に使用し ている発動発電機の連続運転に不安があったが注意深い 運用により一週間の連続運転に成功した。なお今回の連 続観測は南鳥島では僅か2名のオペレータで実施された が、長時間記録が可能であり、テープ交換が容易である K4レコーダーがなければ不可能であった。現在、相関 処理が精力的に進められている。